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  • date:2022.3.17
  • author:柳智子

平等院鳳凰堂に響く天上の音楽を聴く――京都市立芸術大学 オンラインセミナーをレポート

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あれは何年前のことでしたか、宇治の地で目にした菩薩さまの印象は忘れがたいものでございました。

優しい表情で、木目の彫りあともみずみずしく、流れる雲に乗って祈り、舞い、楽器を演奏するさまは楽しげですらあり…。

 

極楽浄土で阿弥陀如来をとりかこみ、笛や琵琶などの楽器を演奏する菩薩像。浄土教美術の中でさかんに描かれていますが、平等院鳳凰堂で見た雲中供養菩薩はとりわけ優美で軽やかで、忘れられない印象でした。

そこで奏でられる音楽はどのようなものでしょうか。

 

2月17日、京都市立芸術大学のセミナー『平等院鳳凰堂に響く天上の音楽』で、関連する音源を解説とともに聴くことができると知り、ぜひ聴きたいと思い参加しました。

講師は同センター所長の渡辺信一郎先生です。

プロフィール

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渡辺 信一郎 京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター所長。専門は中国楽制史、中国古代史。著書に『中国の国家体制をどうみるか――伝統と近代』(共編著、汲古書院)『中国古代の国家と楽制――日本雅楽の源流』(文理閣)など。

極楽浄土の管絃楽

平等院は、藤原道長の別荘を子の藤原頼通が1052年(永承7年)寺院に改めたもの。その翌年に建立された鳳凰堂の内部には雲中供養菩薩像が懸けられ、極楽浄土の光景が表現されています。

©平等院 

©平等院

平等院鳳凰堂内部 ©平等院 

平等院鳳凰堂内部 ©平等院

 

菩薩像は全部で52体あり、その多くが手に楽器を持ち、音楽を演奏しています。菩薩はどのような音楽を演奏しているのか、「楽器の編成に注意しながら耳を澄ませて聞いてみましょう」と、お話がはじまりました。

 

まずは数ある菩薩像より、四体の菩薩像の楽器を紹介いただきました。

 

・箏(そう)
雲中供養菩薩像 南16号 ©平等院 

雲中供養菩薩像 南16号 ©平等院

 

お箏(こと)です。

 

・曲頸(きょっけい)琵琶
雲中供養菩薩像 北2号 ©平等院

雲中供養菩薩像 北2号 ©平等院

 

琵琶のネック(首)の部分が折れ曲がっているので、この名がついています。

 

・腰鼓(ようこ) 
雲中供養菩薩像 北4号 ©平等院

雲中供養菩薩像 北4号 ©平等院

 

腰にかけて両手で打ちます。日本ではもう使われていない楽器ですが、中国では現役だそうです。

 

・揩鼓(かいこ、すりつづみ) 
雲中供養菩薩像 南14号 ©平等院

雲中供養菩薩像 南14号 ©平等院

 

皮を擦って音を出します。中国でも日本でも廃れましたが、法隆寺に由来するものが一つだけ残っています(上野学園日本音楽資料室所蔵)。

 

このほか、鳳凰堂の菩薩が演奏している楽器の種類は、全部あわせると20種類。

篳篥(ひちりき)、横笛(おうてき…現在の竜笛 りゅうてき)、答笙(とうしょう…現在の笙 しょう)、太鼓や鞨鼓(かっこ)など、現代の雅楽でおなじみの楽器もあれば、ハープのような楽器や、16枚の鉄片をたたいて、鉄琴のようにさまざまな高さの音を出す金属楽器など、今では使われなくなったものも数多くあります。

これらすべての楽器がそろっての合奏は、まさに極楽浄土にふさわしい華やかなものだったのではないでしょうか。

天上の音楽のふるさと

下の図は、菩薩像とほぼ同じ時期に作られた舞樂圖『信西(しんぜい)古楽図』とよばれるものです。

ここに描かれているのは、唐の時代に中国から伝わった「唐楽」という音楽の楽器で、これらと菩薩像の楽器がほぼ一致していているとのこと。菩薩像の楽器の多くが、唐から伝わったものであることがわかります。

『信西古楽図』(京都市立芸術大学芸術資料館所蔵) 図の右上の楽器は写真で紹介された腰鼓、その下には揩鼓が描かれている。 

『信西古楽図』(京都市立芸術大学芸術資料館所蔵) 図の右上の楽器は写真で紹介された腰鼓、その下には揩鼓が描かれている。

 

唐の音楽と一口でいっても、当時の中国宮廷で演奏された音楽は、西は朝鮮半島、南はカンボジアやインド、西は中央アジアのブハラ、サマルカンド、カシュガルなどから来た音楽、と非常にバリエーション豊か。その多くが当時の中国にとって外国音楽という国際的なものでした。

 

これらの音楽のうち、日本に伝えられて平等院鳳凰堂に響くことになるのは、下の地図の赤丸のあたりにある涼州(りょうしゅう)という所の「西涼楽(せいりょうがく)」、それにさらに西方の音楽が融合した「胡部楽(こぶがく)」とよばれる音楽なのだそうです。

*現在の中国甘粛省武威市

画像2_2

涼州は古くから中国と西アジアを結ぶ交通の要衝でした。涼州を西へ行くと有名な敦煌の遺跡があり、そこにも菩薩が楽器を演奏する様子が描かれた壁画があります。

敦煌第220窟壁画

敦煌第220窟壁画

 

ここに描かれている楽器は鳳凰堂のものと同じで、演奏されている音楽も同じく仏教関係のものだったとのこと。「遠く敦煌まで響き合う音楽であるということがお分かりになると思います」と渡辺先生。

 

西涼楽の起源をさらにさかのぼると、中国系の音楽と、イラン系の人々が暮らしていた砂漠のオアシス都市の音楽がルーツになっているそうで、鳳凰堂に響いているのは大変国際的な音楽だったということになります。セミナーでは、この起源と楽器の変遷についても丁寧に解説いただきました。

大陸に響く音楽

最後にお待ちかねの演奏鑑賞です。平等院鳳凰堂の菩薩像が演奏しているのと同じ「胡部楽」の曲を復元した〈甘州(かんしゅう)〉という舞楽を聴かせていただきました。

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間断なく響きつづける笙の音、高い笛の音、低くやわらかな琵琶や箏の音色。ゆったりとくりかえされるメロディに耳を傾け、雲中供養菩薩のやさしい姿を思い浮かべると、しだいに頭がうっとりぼんやりして、実におだやかな心地で天上界へいざなわれます。

 

砂漠のオアシス都市にもルーツをもつことを思って聴くと、砂漠をラクダがゆく風景にも似合う気がしました。平等院鳳凰堂の音楽に、思いがけずはるかな大陸の広がりを感じられたのが印象的でした。

 


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