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  • date:2019.11.28
  • author:南 ゆかり

URA が推薦する、注目の研究者

【第1回】時代の「今」を伝える貴重な歴史資料、テレビから戦後日本社会を描き出す

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松山 秀明

関西大学社会学部メディア専攻 准教授

東京大学大学院情報学環・学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。2019年4月より現職。著書に『テレビ越しの東京史――戦後首都の遠視法』(青土社)。論文に「山田孝之とテレビと赤羽と――ドラマでもドキュメンタリーでもないX」(ユリイカ)、「日本のテレビ研究史・再考――これからのアーカイブ研究に向けて」(放送研究と調査)などがある。

この研究者に注目している人

舘 正一

関西大学 大学本部URA 上級リサーチ・コーディネーター

研究者というと白衣でビーカーを持った理系のサイエンティストを想像される方も多いかもしれません。しかし研究の世界は非常に幅広く、想像もつかないような分野で社会にコミットし影響を与える研究もたくさんあります。今回は、そんな意外な分野の研究者として松山秀明先生をご紹介します。先生の研究分野はテレビ。私たちにとって普段の暮らしの延長線上にある身近なテーマです。テレビについて客観的に、俯瞰的に眺めている先生の視線を知ることは、もしかしたら、日々の生活を違った視点で見るきっかけになるかもしれません。また、テレビを通して現代社会を知り、私たちが今どんな場所にいるのかを確認できたら。そんな期待を持って松山先生に注目しています。

Q. テレビが研究対象になるなんて不思議な気がします。どんな研究をするのでしょうか?

日本でテレビ放送がはじまったのは1953年です。実はテレビ放送が開始してすぐ、テレビ研究はスタートしているんです。テレビが子どもたちの学力にどのような影響を及ぼすのかといった「マス・コミュニケーション研究」の枠組みで、テレビの影響論や効果論が議論されました。その後、テレビ研究は産業論、放送制度論、芸術論などへと展開していきます。

 

しかし、「テレビは何を伝えてきたのか」と番組そのものを論じることは意外なほどに置き去りにされてきました。番組を横断的に論じる動きが出てきたのは実はごく最近のことで、2010年代からなんです。これはテレビの衰退が叫ばれはじめ、テレビが相対化されるようになったことの裏返しでもあると思います。つまり、テレビが必ずしもメディアの王者ではなくなったときに、「テレビとは何だったのか」とその歴史を振り返る思考が生まれ、テレビ・アーカイブに関する研究が立ち上がったのだと思います。

 

今ではNHKアーカイブスや放送ライブラリーが番組のアーカイブを公開し、各分野の研究者がこれを使って研究をする動きもはじまっています。テレビの歴史そのものを研究するだけでなく、たとえばジェンダーや音楽、災害などを研究するためにテレビ番組を資料とする、といった利用のされ方も出てきています。

取材風景

「テレビ番組」研究の歴史は意外にも浅いと、松山先生は語る

 

Q. 先生ご自身は、どうしてテレビを研究しようと思ったのですか? テレビのどこに関心を持っていらっしゃるのでしょう。

大学では建築学科だったのですが、建築はどう見せるかも大切なので、講義のなかでしばしば「メディア」についても学びました。そのうちに、メディア論に関心が出てきて、方向転換しました。最初は映画を研究したいと大学院を選んだのですが、入った研究室がテレビの研究室だったんです。そのときはじめて、テレビが研究されていることを知りました(笑)。

 

けれども、調べていくうちに、テレビこそ戦後日本社会を映してきたメディアであると気づいたんです。テレビはリアルな「今」を伝え続けてきました。そうした過去の膨大な「今」を研究をすることで、戦後日本社会が見えてくるのではないかと思ったんです。これは大学院の指導教員から大きく影響を受けたことでもあります。テレビとは、その時代を映す鏡であり、それらを積み重ねると、実は極めて貴重な歴史資料であると大学院に進んで学んだんです。

 

現在、私が研究しているのは、テレビと東京の関係です。テレビ番組には東京を描いた番組が多く、日々、東京の情報が流されています。テレビは東京にあるキー局を中心にネットワークが組まれ、東京制作の番組を地方に流しています。実は、地方で放送されているテレビ番組の多くは東京で制作されたものです。関西や東海は自社で制作する比率は高めですが、それ以外の地方局では東京依存を抜け切れていない。東京一極集中の背景には、テレビの影響が大きいのではないか。とりわけ高度経済成長以降、テレビを通じて東京の情報が地方に流入しはじめ、戦後日本の空間秩序が形成されていったのではないか。こういった視点で、テレビと東京の関係を考察しています。

『テレビ越しの東京史』a

松山先生の著書『テレビ越しの東京史 戦後首都の遠視法』(青土社)

 

もう一つの研究テーマは、ドキュメンタリー史です。院生時代からドキュメンタリーに興味を持ちはじめ、テレビで初めて一人の人間を追った1960年代のヒューマン・ドキュメンタリー、NHK「ある人生」などを研究してきました。今注目しているのは、テレビ東京が制作する「家、ついて行ってイイですか?」です。終電を逃した人にタクシー代を払う代わりに家までついていくドキュメンタリーで、一億総中流の時代から格差社会へと変化する中で頑張って生きている人びとの姿を、短期密着型で捉えた傑作だと思います。

 

例えばこの番組を未来の視聴者になって見たとすると、間違いなく、2010年代の日本社会が見えてくると思います。それは制作者でさえ意図していなかった「時代の無意識」が反映されているからです。このような時代を捉えた番組群を通して、「テレビから社会を語る」というのは、社会学的にとても有意義なことだと感じています。

Q. インターネットに押されて、テレビの存在価値が揺らいでいます。テレビの良さはどこにあるのでしょうか?

テレビの良さは、みんなの「場」を提供してくれることだと思います。一緒になって何かを見たり、パッと一斉に情報が伝わる、一対多のマス・コミュニケーションとしてのあり方は、やはりまだまだ重要なテレビの存在価値です。例えばラグビーワールドカップ2019でも、あれだけ国内で盛り上がったのはテレビ放映があったからでしょう。日本対スコットランドの瞬間最高視聴率は50%を超えました。国民の2人に1人が同時に見るメディアは、今のところテレビ以外にありません。また、台風や地震といった災害の情報も、インターネット上であいまいな情報の断片を見るより、テレビをつけると全体像が一目で把握できることが多々あります。

 

このようなみんなで見るテレビの良さを体感しようと、学生、教員、放送人、市民が集まって、みんなでテレビを見るイベントを定期的に開いています。番組の名作を見て、テレビ制作者から話を聞いて、みんなで意見を言い合う場です。マス・コミュニケーションとしてのテレビの弱点は、制作者と視聴者の接点がなかなかないことだとよく言われますが、こうして顔の見える状態で番組を語り合うことで、もしかしたら、テレビの新しい価値が見えてくるかもしれないと思っています。

みんなでテレビを見る会

松山先生が主催する、テレビ番組を見て語り合うイベント「みんなでテレビを見る会 in KANSAI」

 

テレビを通して戦後日本社会を考えることは、教育の現場においても有効です。とくに現代社会を伝える際、テレビ番組を使って説明すると教育効果がとても高いと感じています。関西大学では2019年度から「映像から考える現代社会」という授業をはじめました。「『地方の時代』映像祭」※への出品作品、受賞作などを使って複数の教員が担当するオムニバス授業です。例えば私はそのなかで、秋田放送が2011年に制作したNNNドキュメント’11「夢は刈られて~大潟村・モデル農村の40年」を取り上げました。米づくりのために干拓してできた大潟村に入植した農民たちが、減反を強制され、国と闘った40年間の記録です。

 

この番組は、秋田放送で日々ローカルニュースやドキュメンタリーで放送したものをディレクターたちがバトンをつなぎながら制作したもので、農民たちの目から見た農政問題が捉えられています。これは今日まで続く基地問題や原発問題などと構図はまったく同じで、テレビの映像から「戦後日本社会の構造」がありありと見えてきます。こうしてテレビ番組から現代社会を知ることは、自分たちの立ち位置をもう一度、見つめ直すことにもつながります。これはドキュメンタリーに限らず、ドラマやバラエティにもあてはまることだと思います。

 

※「地方の時代」映像祭:1980年にはじまり、全国各地の放送局、自治体、市民から地域を描き時代を語る映像作品が一堂に会するイベント。2007年から関西大学で開催されている。

ゼミ風景

松山先生のゼミ風景。テレビという学生に身近な題材を扱うこともあり人気ゼミとなっている

 

Q. テレビはこれからどうなるとお考えですか? なくなってしまうのでしょうか。

ネットフリックスやフールーなど動画配信サイトがますます普及していくと、テレビという箱そのものが変容するかもしれません。ただ、先ほども言ったように、「マス・コミュニケーション」としてのテレビの役割だけは残り続けると思います。スポーツをみんなで観戦することでもわかるように、テレビには「共通のアリーナ」を作り、今注目すべき「共通の話題」を設定してくれるという重要な機能があります。災害の場合なら、アラートの役割も果たしてくれます。

 

その一方で、インターネット空間では、自分のフォローしたいものしかフォローしないなどますます排他的となり、自分の嫌いな人の意見は聞かない閉じた空間が生まれています。情報のリテラシーは高まっているはずなのに情報に対する免疫がなくなり、ますます自分好みの情報だけを手に入れようとしている。こうした中でマス・コミュニケーションは、自分が想定していなかった情報を与えてくれ、自分の閉じたフィルターを壊してくれる。テレビから想定外の情報が入ってくることで、「セレンディピティ」、つまり偶然の出会いや発見もある。テレビを研究する者の欲目かもしれませんが、テレビのこうした価値は絶対に失われることはないと思います。むしろ、インターネット時代を迎え、ますます大事になってきていると言えます。

SNSイメージ

Q. 先生はテレビ研究を通じて、これから、どのようなことを実現したいとお考えでしょうか?

一つは、先ほど言った、テレビ史を編むということ。そのためには、映像を残す体系的な組織づくりが必要で、ぜひ日本にNHKや民放の垣根を越えたテレビ・アーカイブセンターをつくってみたいというのが野望です。例えば大学や民間企業が共同して運営する組織があれば、テレビの歴史をきちんと残すことができます。昨今、歴史認識をめぐる争いが起こっているように、きちんと歴史を残すことの意味は増しています。私は制作者ではありませんが、その分、こうした歴史を編む作業は、研究者にしかできないと思っています。

 

これまでもちろん戦後史は研究されてきましたが、基本的に文章資料を中心として編まれた歴史です。しかし、映像資料から編む歴史もあってよいはずです。映像のもつ情報の豊饒さ、わかりやすさは、文字情報とはまた違うもので、映像から歴史を読み解くことで、さらに別の歴史観が生まれるかもしれません。 

Q. たくさんテレビ番組をご覧になってきたご経験から、おすすめのテレビの観方があったら教えてください。

先にも言いましたが、私が今一番好きなのは「家、ついて行ってイイですか?」です。間違いなく、2010年代の日本社会を表わした傑作番組だと思っています。その他にも「水曜日のダウンタウン」(TBS)や、「マツコ会議」(日本テレビ)といった人気バラエティもよく見ます。「水曜日のダウンタウン」で放送された、元号の発表日に情報を遮断して、芸人が「令和」と当てるまで帰れないようにした企画は、とても面白かったです。ああいうコンテンツはまだまだテレビからしか生まれないのではないでしょうか。

 

そもそもテレビはテレビジョンの略語で、「テレ」は「遠く」、「ビジョン」は「視る」と書きます。つまり、その名の通り、テレビとは「遠くを視せる」メディアなわけで、その意味ではこうしたバラエティ番組はまさに知らない世界を見せてくれています。このほかにも、「ドキュメント72時間」(NHK総合)や「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)などが現在人気なのも、テレビ本来の作り方をしているからではないでしょうか。テレビがわれわれの知らない世界をどう見せてくれるのか、という観点で番組を選んでみるのもまた別の角度でテレビを楽しめるのではないかと思います。


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