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“睡眠健診”で健康的な睡眠が測れる社会に? 東京大学の岸哲史先生に聞く、睡眠科学の最先端

2026年1月15日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

皆さんは毎日しっかり眠れていますか? 心身の健康にとって睡眠は欠かせないものですが、日本人は世界的に見て睡眠時間が足りていない人が多いそうです。“健康な睡眠”を科学的に研究している東京大学の岸哲史先生によると、近年では睡眠研究が急速に進み、ヒトの睡眠の実態がどんどん明らかになってきているのだとか。知っているようで知らない“睡眠”について、詳しく伺いました。

3つのグループでヒトの睡眠メカニズムの解明をめざす

厚生労働省が発表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると「十分な睡眠の確保は重要な健康課題」であり、成人の場合、適正な睡眠時間には個人差があるものの、6時間以上が目安とされています。ですが、ただ時間だけを確保すればいいというものでもなく、「睡眠には、量・質・リズムの3つの要素があります」と岸先生。

 

「横になって寝ている時間を就床時間と言いますが、この時間がすべて睡眠時間というわけではなく、中途覚醒と言って、途中で脳が起きる時間があることがわかっています。就床時間のうち実際に眠っていた時間(量)、就床時間に対して実際に眠れていた時間の割合(質)、就寝時刻と起床時刻がそろっているか(リズム)の3つの要素を満たすことが大切です」

 

リズムをそろえるといっても、必ず毎日同じ時刻に寝て同じ時刻に起きなければならないわけではなく、その真ん中、中央時刻がそろっていることが重要だと言います。

 

「例えば、休日に多く睡眠をとっても、平日よりも早く寝て遅く起きるのであれば、リズムはそれほどずれません。ですが、中央時刻が2時間以上ずれてしまうと、『社会的時差ぼけ』と呼ばれる不調を引き起こします。月曜日に眠気を強く感じたり、集中できなかったりしたことはありませんか?」

 

あります…。休日にたっぷり寝て、睡眠不足を解消したと思っても、かえって不調になってしまうことがあるのですね。

この図の場合、週末は23時に寝て翌日の7時に起きれば、平日と同じく中央時刻は3時になり、長く寝ても中央時刻がずれません(岸先生提供の資料より、以下同)

 

こうしたヒトの睡眠や覚醒といった生体リズムの解明をめざしているのが、東京大学大学院医学系研究科システムズ薬理学教室の上田泰己教授が率いるJST ERATO「上田生体時間プロジェクト」です。2020年に発足し、岸先生は2022年から参画、現在は「ヒト睡眠測定グループ」のグループリーダーを務められています。

 

「プロジェクトは3つのグループに分かれています。まず、私がリーダーを務める『ヒト睡眠測定グループ』では、腕時計型のウェアラブルデバイスなどを使って、ヒトの集団の睡眠パターンを調べています。例えば、Aの睡眠パターンのヒトはaという特徴的な遺伝子を持っているというような相関(互いに関わり合っていること)がわかったとします。

 

相関がわかったら、次に『動物解析グループ』で動物を使って実験して、因果関係を調べます。マウスにaの遺伝子を持たせてAの睡眠パターンに変われば、aの遺伝子が原因でAの睡眠パターンになっている可能性が高いと考えることができます。

 

そして、因果が確認できたら『分子制御グループ』で、分子レベルでの生化学反応を調べます。aの遺伝子を操作して睡眠パターンがどう変わるのかを確かめて、その変化を意図的に制御する、つまり、より良い睡眠パターンをつくりだすことをめざします。それぞれのグループが密に連携しながら研究を進めています」

「集団から相関を抽出し、相関から因果を導出し、因果から制御を創出する」プロジェクトの運営体制図。「リン酸化」というタンパク質の反応に注目しているそうです

 

ヒトの睡眠を簡単な方法で正確に判定できる技術を開発!

プロジェクトでは、3つの異なるアプローチから研究を進めることで多くの成果を得ており、大規模で正確なヒトの睡眠測定を可能とする、大きな技術的ブレイクスルーを起こせたそうです。

 

「睡眠中の脳の働きを正確に測定するには、脳波を調べる大がかりな装置が必要ですが、被験者に研究室に泊まってもらわなければならないので、一度に大人数のデータを集めるのは不可能です。そのため、従来の大規模な睡眠測定データは、何時に寝て何時に起きたかというアンケートを実施するといった自己申告によるものが中心でした」

 

しかし近年では、技術の進歩により、加速度(腕の動き)によって正確な測定ができるようになったそうです。加速度による測定とは、スマートウォッチで睡眠時間を測るようなものでしょうか。

 

「被験者にしてもらうことという意味では同じです。大がかりな装置がなくても、Apple Watch やFitbitなどの腕時計型ウェアラブルデバイスを装着してもらえば睡眠を測定できるようになりました。しかし、それだけで中途覚醒を正確に測ることはできませんでした。中途覚醒は睡眠の質に関わる重要な要素ですが、脳は覚醒していても体が大きく動くわけではないため、腕の動きだけで判断するのは技術的に限界がありました。そこで上田研究室では大出晃士講師らを中心に、脳波を測定する装置とウェアラブルデバイスでの加速度測定を同時に行い、得られたデータを照らし合わせて解析することで、2022年に加速度のデータだけでも中途覚醒を高精度で判定するアルゴリズム『ACCEL法』の開発に成功。この限界を突破できたのです」

 

腕の動きだけで正確に測定できれば、大規模なデータも集めやすくなりますね!

 

「その通りです。また、もうひとつブレイクスルーとなったのが、『ヒト睡眠ランドスケープ』の描像です。イギリスのUKバイオバンクという研究で10万人規模の加速度データが集められており、このビッグデータをACCEL法によって解析することで、ヒトの成人の睡眠パターンを16に分類できました。最も多く一般的な睡眠パターン、それに比べて入眠時刻が遅い夜型、睡眠時間が短い短時間睡眠などがわかり、ヒトの健康的な睡眠の指標となる像を描けました」

脳波を測定する装置と、加速度を測定するウェアラブルデバイス

16の睡眠パターンの一部。水色で示されている部分が長い睡眠、緑色の部分が短い睡眠

 

ACCEL法の開発を受けて、現在、新たな切り口での睡眠研究が次々と進められています。岸先生は、ヒトの睡眠と生体機能や健康状態の関係を研究しているとのこと。

 

「例えば、脳の認知機能との関係です。UKバイオバンクのデータには、加速度だけではなく、遺伝子情報や疾病の有無などが含まれています。どのような睡眠パターンだと認知機能が低下するのかを調べたところ、量よりも質の影響が大きく、特に高齢者では昼寝が多いと低下しやすいことがわかりました。昼寝が影響しているのは意外でしたし、さらに研究が進めば、認知症が発症しにくい睡眠のとり方など、予防医療にもつながると思います」

いつか睡眠健診が定期的に行われる社会に

冒頭でも触れたように、日本人は睡眠が不足している人が多く、近年では子どもの睡眠不足が問題になっています。しかし、UKバイオバンクの加速度データは成人のみを対象としたもので、国際的にも子どもの睡眠データが不足していました。そこで、岸先生たちは「子ども睡眠健診プロジェクト」を発足。全国の学校から協力を得てACCEL法による睡眠解析を実施したところ、見えてきたのは、やはり日本の子どもは睡眠が足りていないという実態でした。子どもの推奨睡眠時間は成人より長いのですが、なんと約9割もの子どもたちが満たせていなかったのです。

 

「2025年6月までで、日本全国の延べ175校、1万5000人以上の小中高生が参加してくれているのですが、小1から高3まで、どの学年でもほとんどの子どもが満たせていませんでした。特に平日の睡眠時間が足りておらず、休日には平日よりも多く睡眠をとっていて、学年が上がるほど平日と休日の睡眠時間の差が大きくなっていくのも特徴的です」

睡眠時間の実態データ。「recommended」と書かれた帯の範囲が推奨睡眠時間(小学生9~12時間、中高生8~10時間)で、届いていない子どもが多いことがわかる

 

平日の不足分を休日に補うことをキャッチアップスリープと呼びます。もともと、健康な人であれば睡眠は必要以上にはとれないもので、いわゆる“寝だめ”はできず、休日の睡眠時間が多くなるのは、プラスにしているわけではなく、マイナスをゼロに戻そうとしているのだとか。子どもたちは大人よりもこの傾向が大きく、社会的時差ぼけを起こしてしまっている子どもも多いため、問題となっています。「これらの問題を解決するには、睡眠習慣の“見える化”と“正しい知識”にもとづく自己管理が必要です。正しい知識をもっと発信していきたいです」と岸先生。

 

「プロジェクトの反響は大きく、メディアにも多く取り上げていただけていますし、国会レベルでもさまざまな施策が議論され、社会の問題意識は高いです。にもかかわらず、睡眠の重要性というのがしっかりと伝わっていないと感じます。学校で講演などを行うと、子どもたちからは『睡眠がこんなに大切なんて知らなかった』という反応がかえってきますし、保護者の方からも『もっと早く知りたかった』という声が届きます」

 

より強く社会にアプローチしていくため、プロジェクトはどんどん広がっているそう。個人レベルではなく、家庭で取り組んでもらえるように「親子睡眠健診」も実施されました。子どもに多い「起立性調節障害(※)」と睡眠との関係を調べ、兆候を早期にとらえて対応につなげることをめざした「子ども睡眠検診プロジェクト」も発足しています。
※起立性調節障害…立ち上がったときや長時間立っていたときに、立ちくらみ・めまいなどを起こす疾患。思春期の子どもに多く見られる。

 

「学校レベルにとどまらず、自治体規模での継続的な睡眠健診も始まっています。継続的な睡眠健診を通して、学力や体力、メンタルヘルスが睡眠とどう関わっているのか、明らかにしていきたいです。正確なデータを集め、国の施策の基盤となるしっかりとしたエビデンスを構築することがアカデミアとしての使命だと考えています。そして最終的には、健康診断と同じように、病院、学校、会社などで睡眠健診が定期的に行われる社会をめざしています」

睡眠時間を確保して、24時間をコーディネート

ここで、今すぐできることとして、私たち一人ひとりが“より良い睡眠”をとるにはどうしたらいいですか?と尋ねると、「まずは睡眠の優先順位を上げることです」とのお答え。日本には「不眠不休」「寝る間を惜しんで働く」や「惰眠をむさぼる」といった慣用句があり、寝ないで働くことを美徳とし、睡眠を無駄な時間ととらえるような文化的背景があると感じるとのこと。

 

しかし一方で「寝る子は育つ」という言葉もあります。実際に、子どもの成長に睡眠は欠かせないものであり、大人もしっかり睡眠をとることが全体的なパフォーマンスの向上につながります。例えば、メジャーリーガーの大谷翔平氏や将棋棋士の藤井聡太氏も睡眠を重視していることで知られています。

 

「大谷選手は、『1日が25時間だったとしたら増えた1時間で何をするか?』という質問に『睡眠にあてる』と答えたそうです。そうすると残りの覚醒時間のクオリティが上がるから、と。科学的にもその通りで、本来、ヒトは必要な睡眠時間しかとれないので、眠れるだけ眠ると起きている時間のパフォーマンスが上がるというのは理にかなっています。このことを一般の人々も意識できる社会になるといいと思います」

 

そして、眠りを整えるためには、朝から始めることが鉄則で、睡眠の仕組みから考えると、夜いきなり早く寝ようとしても難しいそうです。

 

「朝はきちんと起きて日光を浴びて、日中は適度に体を動かす。過度な昼寝を避けて、夜は明るい光を避ける。そうすると、自然と眠くなります。どれも当たり前のことですが、夜しっかり眠るために、1日をコーディネートすると考えてみてください」

 

24時間の中で必要な睡眠時間を確保したうえで、残りの時間のパフォーマンスをどう高めるか、そう考えた方が生活の質が向上するそうです。とはいえ、社会生活の中では充分な睡眠時間をなかなか確保できないことも。筆者は子どもの頃からかなり長時間眠ってしまうタイプで、しかも夜型でなかなか寝つけず、睡眠時間が不足しがちです…。先生はいかがでしょうか。

 

「私も子どもの頃からよく寝るタイプでした。朝型や夜型、短時間睡眠や長時間睡眠といった睡眠パターンは、ある程度遺伝で決まるもので、変えることは難しいです。私自身、論文の締め切り前や学会の発表前など多忙な時期は、重要性を理解していても睡眠時間が確保できないこともあります。柔軟性を持たせることも大切で、もし睡眠時間が短い日があったとしても、その負の影響を理解して自分なりにリカバリーしていく。戦略的なアプローチを心がけています」

 

無理なく、自分にとって最適な睡眠習慣をつけていくことが大事なのですね。自分の睡眠をあらためて見直し、整えていきたいです。睡眠は毎日とるもので、身近なことなのに、岸先生のお話は知らないことばかりで驚きました。

 

「睡眠の研究を始めて20年ほどになりますが、お話ししてきたように、ここ数年で新しい知見が生み出され続けている分野です。特に、ヒトの睡眠についての研究はこれから非常に盛り上がっていくはずです。私も、もっと多くの人に興味をもってもらえるような、おもしろい研究成果を出していきたいと思います」

 

楽しみにしています! 自分の睡眠パターンが16のうちどれに分類されるかなども詳しく知りたいですし、将来、睡眠健診が社会に実装された日には、ぜひとも受けたいと思います。

 

 

(編集者・ライター:あわむら あや)

さまざまな角度から「学ぶ」を考え抜く。京大ブックトーク「学ぶとは 数学と歴史学の対話」をレポート

2025年11月4日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

書籍を通じてさまざまなテーマを考える「KyotoU Publications 京大ブックトーク」が10月7日に吉田キャンパスで開催されました。単なる書籍の紹介にとどまらず、根源的なテーマについて来場者と一緒に考えていこうというイベントで、該当書籍を読んでいない人も参加できます。

イベントチラシ

 

第2弾となる今回、登壇したのは、京都大学数理解析研究所名誉教授で、主に整数論の研究・教育を行ってきた伊原康隆先生と、同大学人文科学研究所教授で現代史、特に食と農の歴史を専門とする藤原辰史先生。

 

伊原先生は、数学者でありながら人文学系の勉強会にも参加されるなど異分野を学ぶことに熱心です。以前から交流のあった伊原先生と「学ぶとは何か」をテーマに対話をしたら楽しいに違いない、という藤原先生の発案で、手紙のやりとりが始まりました。

 

そして2025年に、往復書簡集『学ぶとは 数学と歴史学の対話』(ミシマ社)として出版され、編集者の三島邦弘氏も加えて、ブックトークが開催される運びとなりました。数学、歴史学、文学、音楽、外国語など、さまざまな分野で二十八通にわたって繰り広げられたというお二人の対話に興味を引かれ、参加してきました。

動詞をもっと使いましょう!

イベントは、『学ぶとは 数学と歴史学の対話』の内容に基づき設定した「孤学」「縁学」「数学と歴史学 あまり理解されていない特徴は?」といったテーマについて先生方が改めて対話をされてから、「来場者との対話」(質疑応答)が行われるという流れ。

 

本題に入る前にスライドに示されたのは、学びの場でも普段の会話でも「動詞をもっと使おう」という呼びかけでした。伊原先生によると、数学では、動くものも重要な研究対象。例えば、三角形の合同は、図形を動かして重ねています。しかし、他言語に比べて、日本語は生き生きとした動詞の使用が少ないと感じるのだとか。英語の「Black lives matter !」の「matter」など、名詞としても動詞(問題となる、重要である)としても働く言葉を訳すとき、日本語では心の動きを伝えきれないと言います。

 

藤原先生も、人文学系の論文でも、重要な概念を「~化」や「~性」など名詞化して用いることが多く、文末が「~である」「~だ」で占められてしまい、単調になりやすいと話されました。動詞を意識して使えば、歴史を書いても臨場感が生まれ、わかりやすくなるのではないかと思っているそうです。

 

数学と歴史学の対話が「言葉」から始まったことに驚きましたが、往復書簡でも、藤原先生は伊原先生の言葉の使い方に何度もはっとさせられ、多くの気付きや学びを得たとのこと。有意義な対話をするためには、言葉にこだわり、きちんと定義を共有する必要があるというお話を聞いていると、普段意識していない言葉の使い方を改めて考えさせられました。

「『ここにおられる皆様は、深い学びを体験している方だと心得よ』という天の声が聞こえています」と、笑いを誘う伊原先生(左)の自己紹介で、会場の空気が和らぎました

 

一人で学ぶ「孤学」と他者とつながる「縁学」

ブックトーク最初のテーマは「孤学」と「縁学」。これはどちらも藤原先生がつくった言葉です。「孤学」とは、個人の孤立した学びのこと。藤原先生は「一人で机に向かい、本を読み、自由に思考を巡らせる時間は楽しく、歴史学の研究には欠かせないものですが、数学ではどうでしょうか」と伊原先生に質問を投げかけました。

 

伊原先生は、個人の学び方には、基礎を習得するための「習」と自己の特性(何に対してならもっと知りたいと心が動くか)を探索するための「探」があると考えていると言います。

「習」は受け身になりがちで、脳がすぐに疲れてしまうため、本を読むときは章が終わるごとに本を閉じて、その章の内容を手で書いてみましょう、とアドバイス。伊原先生は身体的な動きも大事にされているそうです。

 

そして、「探」は驚きを伴うものであり、学んでも「ふむふむ」という反応になるのは浅い理解、「おおっ!」と思わず声を上げてしまうものが深い理解であり、「探」につながるとのこと。「編集者は『ふむふむ』ばかりの人が多いけれど、三島さんは違って、今回の書籍は『おおっ!』で作った本」とのお言葉には、ほとんど0円大学の編集部員として少々耳が痛かったです…。

 

そんな「孤学」に対し、「縁学」とは、人とつながる学びのこと。藤原先生は、孤学だけを続けていると独りよがりな学問になってしまうため、聞く学問として研究会などで他者からの意見や批判に耳を傾けることも重要だと言います。

 

お二人とも、信頼できる相手であれば、相手が立てた仮説に対して、友好的に「否定的な立場から反論を試みる」ことが大切だと話されました。伊原先生が例に挙げたのは、DNAの構造を解明し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック。互いに相手が立てた仮説にできるだけの反論を試みて、仮説の根拠を確かめていったことが、偉大な成果を生んだそうです。往復書簡の中でも、藤原先生は伊原先生に反論されることで大いに鍛えられたのだとか。SNSなどの影響で分断が大きな社会問題となっている今、否定的な立場の意見を受け入れ、考えを深めることが大切だと強く感じます。

 

また、伊原先生は、図書館でたまたま読んだ数学者の本をきっかけに数学に興味を持ったことから、偶然を大事にしているとのこと。しかし現代社会では、本を探すときも検索して目的の棚に直行することが多く、こうした偶然の機会が減っています。だからこそ、積極的な縁づくりが必要だと感じているそうです。

食の歴史の研究者である藤原先生は「縁食」という概念(一緒に食卓を囲んでさっと去れるような、食を通じたゆるやかな人間関係)を提唱されており、その学問バージョンが「縁学」とのこと。「縁」は仏教に由来する言葉であり、東アジアの文脈でしか用いられない概念でありながら、海外でも評価されているそうです

 

数学と歴史学はどんな学問?

次のテーマは「数学と歴史学 あまり理解されていない特徴は?」「二分野の共通点を探る」。理系と文系、全く違う学問という印象がありますが、一体どのような共通点があるのでしょうか。

 

冒頭でも少し触れられていた通り、数学は静的なものだけではなく動的なものも扱います。数と図形をそのまま扱う学問と思われがちですが、数を置き換えたり、図形を回転させたり、研究対象はどんどん広がっていくそうです。ただ、その広がった対象が、数学者以外には理解しにくい抽象的な概念になってしまうから、一般の人には嫌われてしまうのでしょうか、と伊原先生。書籍の中では、数学のさまざまな思考法の一端を日常的な話題と結びつけて紹介されています。

 

歴史学と対比すると、数学は時代の変化には鈍感で、普遍的なものを求めるものだと伊原先生は言います。そのため、矛盾が見つかると路線変更が必要になりますが、歴史学は人間の起こしたことが研究対象であり、矛盾があってもそれに耐えながら進むため、伊原先生にはとてもできない学問だと感じられるそうです。

書籍では数学の解説ページになると、数式などが登場するため、縦書きが横書きに変わります。「この本のユニークなポイントです」と三島さん

 

歴史学には、過去を後から説明するだけの学問だという誤解があると藤原先生。そういった一面があることは否定できないものの、一方で、「人間の鈍感さ、鈍感であろうとする心の動き」を扱う学問だと考えているとのこと。過去に起こったことに対して、その時代を生きていた人たちは100%理解できていません。例えば、ヒトラーが政権をとったとき、それがどれほど危険なことか、今の私たちほどわかっていなかった、そのズレをどれだけ認識できるかということが重要なのだそうです。

 

また、歴史学は事実がひとつ明らかになると、より具体的な事象を扱っていくものですが、一旦引いて共通性をとらえていくという数学の考え方・方法を伊原先生から学ぶことができたと話されていました。

 

二分野の共通点として挙げられたのは、「経費がそれほどかからない」ということ(笑)。基本的に大がかりな設備などを必要とせず、書籍代と旅費があればできる学問だそうです。

 

もうひとつは、「言葉に敏感」ということ。どちらの学問も、わからないもの、まだはっきりしていない関係性などに名前を付けたり、言語化したりして研究していくそうです。確かに本日も、はじめに動詞のお話があったように、お二人の間には言葉についての議論が多く交わされていました。言葉を大切に扱う姿勢は、筆者が学生時代に学んでいた国文学とも通じると感じます。あらゆる学問に共通する一面なのかもしれませんね。

学びたい人へのアドバイス

トークの後半では「環境(大学、地球)」についてもお話がありました。伊原先生と藤原先生は、大学の環境についてもこれまでさまざまな対話をされてきました。お二人によれば、今は、大学の教授会も国会も、議論をするのではなく、決められたことを処理するだけの場になってしまっており、主体的に深く考える余地がどんどん狭まっているそうです。それは、学問をする上でも優れた環境とは言えず、自由に考える時間がないと学問の発展は望めないと警鐘を鳴らします。

 

そして、「後輩へのアドバイス」では、お二人から学生や参加者に向けて次の言葉が贈られました。

 

藤原先生「私の学びは、厳しい目を持つ先輩に囲まれた読書会で形成されました。最も鍛えられたのは、日本語を見直すことにもなった、他言語を皆で訳すという読書会です。独りよがりの『読み』『解釈』にならないために、読書会は最良の道場です」

 

伊原先生「若いうちには、ある小枝の先で存在感を示せても、そこで巣をつくるのは早すぎませんか? 枝にたどりついても、巣をつくるのは後にして、一度降りてみて、真横よりも下(幹と根)、上(空)を見ましょう。面倒でも、時々降りてから登り直す勇気が必要です」

 

筆者も、これだ! と思う小枝を見つけたら、すぐに巣をつくってしまっているな…と思いながら聞いていると、藤原先生も「耳が痛い」と仰っていて、少しほっとしました。

 

続く「来場者との対話」(質疑応答)の時間も、次から次へと手が挙がり、活発な対話が交わされました。

 

例えば、学生さんからの「章が終わったら本を閉じて書くというお話がありました。僕も本を読み終わったら内容をまとめているものの、要約ばかりになってしまいます。書き方を教えていただけるでしょうか」という質問。

 

伊原先生は「要約にも個人の感性が反映されているので、まとめる行為そのものに創造性がある」と学生さんを励ましました。藤原先生は「そこに加えるとしたら、気になったところ、納得がいかないところを書きとめておくといいですね。それから、1冊読み終わったら、その本がどういう環境のもとで書かれたのかを考えて、関連する本を読みましょう」と話されました。これには質問した学生さんも、「確かにわかったところだけをメモしがちでした」と納得の様子。筆者にも思い当たるところがあります。皆さんも本を読むときは、このアドバイスを実践してみるといいのではないでしょうか。

 

その後も時間の許す限り質問を受け付け、イベントは大盛況のうちに終了。イベント後に行われたサイン会にも、たくさんの人が並んでいました。

 

言葉の使い方から始まり、学びの姿勢、数学・歴史学の特徴と、興味深いお話をたくさん伺えましたが、これらは書籍のほんの一部だそう。書籍を読んで、改めてじっくりと「学ぶ」を考えてみたいと思います。

 

このブックトークでは、京都大学の研究者の書籍を取り上げており、第1弾は「フツー」というふわふわした普遍的な事象について考えるコミック『フツーの生活プロジェクト―クィアでないクィア生活―』(ミツヨ・ワダ・マルシアーノ、國永 孟 作/早川宏美 画/さいはて社)だったとのこと。初回がコミックなのは意外でした。次はどのような書籍が選ばれるのか、楽しみですね!

『学ぶとは 数学と歴史学の対話』/伊原 康隆、藤原 辰史 著/ミシマ社

 

(編集者:河上由紀子/ライター:あわむらあや)

リニューアルオープンした近畿大学奈良キャンパス「もりもり食堂」で、木のぬくもりに包まれながらのランチタイム!

2025年10月14日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

近畿大学は、西日本一帯に6つのキャンパスとさまざまな研究施設を持つ、西日本最大規模の総合大学。奈良市郊外の奈良キャンパスでは、自然豊かな環境のもと農学部の学生が学んでいます。2025年4月には、「もりもり食堂」がリニューアル。木に包まれたほっとする空間で人気のランチを味わいました!

自然に囲まれたキャンパスで森林浴気分

近鉄奈良線「富雄」駅からバスに10分ほど乗り、「近畿大学」で下車すると、目の前に奈良キャンパスの豊かな緑が広がります。一見しただけでは建物がどこにあるのか迷ってしまうほど。

中央奥、木々の間に建物が見えているのがわかりますか?

 

「もりもり食堂(櫻月館)」があるのは、キャンパスの中でも奥まった場所。入口すぐの「つながる館」を左手にまっすぐ進みます。通路の脇にも木々がたくさん植えられていて、気分はまるで森林浴。

中庭の手前の案内板。研究棟(ならやま館)の方へ

 

中庭を通り抜け、階段を上がると「もりもり食堂」に到着!
テラス席を備えた二階建てのログハウスで、周囲の自然に溶け込むデザインが素敵です。

屋根に配された緑が目を惹く建物です

入口には看板とメニュー表

暖色系の照明もぬくもりを感じさせます

 

ボリューム満点の「もりもりランチ」をいただきます!

注文は、券売機で食券を買ってカウンターで受け取るスタイルですが、先端的なシステムも取り入れられていて、スマホからモバイルオーダーすることも可能なのだとか(初回は登録が必要)。行列に並ばず、座って注文できるのはありがたいですね!

券売機は2台。現金払いの他、各種キャッシュレス決済に対応

 

メニューを見ると、もりもりランチ(\650)、ワンコインプレート(\500)、週替わり丼(\550)、今週のラーメン(\450)などの限定メニューと、唐揚げ定食(\630)、カツ丼(\500)、カレーライス(\450)、かけうどん・そば(\300)などの定番メニューがあります。ミニサラダ(\150)やフライドポテト(Sサイズ・\150)などのサイドメニューも豊富で、目移りしてしまいます。

 

学生がたくさん並んでいた麺類も気になりつつも、やはりここは看板メニュー。日替わりの「もりもりランチ」を選びました。この日のメニューは、小鉢付きの回鍋肉定食。メインの回鍋肉は、しっかりした味付けでごはんが進みます。サラダや春巻き、小鉢も添えられていてボリューム満点で大満足!お腹いっぱいになりました。品数が多く、いろんな味が楽しめるのも魅力的。

日替わりの「もりもりランチ」は650円。+100円でご飯を大盛にも

 

もう一品、「近の鶏卵ふわとろオムライス(\750)」も注文。「近の鶏卵」は近畿大学薬学部の先生が開発に協力し、低コレステロールを実現した卵だそうです。この卵を使ったオムライスは、半熟のとろりとした卵の食感と程よい濃さのデミグラスソースが絶品です。デミグラスソースには角切チーズがトッピングされ、味も食感もよいアクセントに。実は食べる前に「チーズはコレステロール値が高いのでは? せっかくの低コレステロールの卵なのに、台無しにならないのかな…」と思っていたのですが、後から調べたところチーズのコレステロール値はそれほど高くないそうです。よくないですね、思い込みって…。

卵は2個使用しているとのこと

 

2階にもお邪魔してみると、飲食スペースとベーカリーショップの2エリアに分かれていました。訪れた12時半頃には、残っているパンは3つほど。今度、訪問する機会があれば早めに行って、どんなパンがあるのかじっくり見てみたいものです。

 

ベーカリーショップの営業時間は10:00~13:30

2階の飲食スペースは仕切られているので、一人で落ち着いて過ごしたいときによさそう

 

カフェテリアやキッチンカーも人気

奈良キャンパス内には、他にも「カフェテリア 茶寮」があります。カフェテリアが入っている「つながる館」は、Wi-Fi完備の多目的ホールになっており、食事をするだけではなく、ゆったりとくつろぐ学生の姿がうかがえました。

「カフェテリア 茶寮」の営業時間は月~金の10:00~17:00(土日祝は休業)

コーヒーやアイスクリームといったカフェメニューの他、パンやお弁当などの軽食も購入できます

憩いの場「ブックカフェ」

 

中庭に学生の長蛇の列があり、何かと思えばキッチンカーが出店していました。こちらは不定期での出店とのこと。お天気の日にベンチで座って食べるのもピクニック気分が楽しめそう。

この日出店していたのは、牛タンのオーバーライスが食べられるオリンピアダイニング

 

ランチを堪能してさて帰ろう、と思いきや、次のバスの時間が30分後…。「つながる館」に戻って時間をつぶすことになりました。バスが少ない時間帯もあるため、訪れる際は帰りのバスをあらかじめ確認しておくのがおすすめです!

 

(編集者・ライター:あわむら あや)

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