全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学発広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、立命館大学が発行する「RADIANT(ラディアント)」です。
立命館大学は京都市内に本部を置き、17学部21研究科を擁する総合大学。2025年5月に創立125周年を迎えました。
冊子名「RADIANT」の意味は「光を放つ」「光輝く」。立命館大学の研究活動報として2015年より発行され、これまで「お金」「観光/ツーリズム」「宇宙」「ゲーム・遊び」などのテーマで、さまざまな分野の研究が紹介されています。

(左)「観光/ツーリズム」特集号より、観光とポピュラーカルチャーとの関わりなどに関する記事 (右)「お金」特集号より「eクチコミが消費者行動に与える影響」

テーマが一目で伝わる誌面デザイン
最新号(2025年3月発行)のテーマは「いのち輝く」。大阪・関西万博(EXPO2025)のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にちなみ、脳科学やロボティクス、社会福祉などの研究が紹介されています。
上の見開きで登場するのはロボットを使った発達科学の研究。ヒトはどのようにして心や認識を発達させていくのか、ロボットを使ってこの問いの答えを見出そうとするものです。たとえば幼児は身近な大人の行動をマネしますが、その動作を行うのがロボットの場合も、同じようにマネするのでしょうか?
発達科学を専門とする板倉昭二教授(OIC総合研究機構)による実験では、人間とロボットの間にアイコンタクトがあったかどうかで幼児の模倣行動に違いがみられたといいます。アイコンタクトがその違いを引き起こしたのだとしたら「人と関わるロボットがヒト型である必要はないかもしれない」との考察が目を引きます。
注目の若手研究者の研究を紹介するコーナーも。下の記事では日本文学研究者が、社会から排除される人の心情と、人を排除する社会の構造を安部公房の作品から読み解きます。

岩本知恵さん(衣笠総合研究機構 専門研究員)の研究紹介
例として挙げられている安部公房の小説『赤い繭』は主人公の身体が絹糸になり、繭へと変形するという変形譚。突飛な設定のようですが「主人公にとって変形は決して比喩ではなく、自らの身体認識の変容」という分析が時代背景や社会とのかかわりから示され、興味をそそられます。
冊子に掲載された記事はすべてウェブサイトでも読むことができます。下はクラシック・コンサートの鑑賞スタイルに関する2022年の記事。

「クラシック・コンサートの「聴き方」の変遷を追う」
https://www.ritsumei.ac.jp/research/radiant/article/?id=137
クラシック音楽のコンサートはおしゃべり厳禁というイメージですが、18世紀までのコンサートでは演奏中に聴衆が立ち歩いたりおしゃべりしたりする光景がごく普通に見られたのだそう。文学部の宮本直美教授はヨーロッパ各国で催されたコンサートのプログラムを精査するとともに「客席の音」にも注目。それまでにぎやかだった客席が19世紀に入ると沈黙し始め、「まじめ芸術音楽」と「ポピュラーなコンサート」が分化していったという経緯と分析が紹介されています。
冊子をウェブサイトで読む際、デジタルブックやPDFで閲覧することが多いですが、RADIANTの場合は専用ウェブサイトがあり、ウェブページとして新たにデザインされている点が特徴的です。冊子は特集テーマでまとめられた一体感があり、ページを開いたときの視覚的なインパクトが強い印象。ウェブサイトでは、より読むことに集中しやすいと感じました。
ウェブサイトから冊子版のテーマで記事を検索したり、冊子からQRコードでバックナンバーの注目記事にアクセスすることも可能。紙とデジタルを連携させつつ、それぞれの持ち味をいかした広報活動が展開されているところからも「新たな社会共生価値と創発性人材を生み出すことを目指す」という同大学の研究にかける熱量が伝わります。