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珍獣図鑑(24):魚に寄生するパイロット!? 一番乗りがオスからメスに性転換する、カワイイ魔性の甲殻類・ウオノエ

2024年5月7日 / この研究がスゴい!


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第24回は「ウオノエ×川西亮太先生(北海道教育大学 教育学部 准教授)」です。それではどうぞ。(編集部)


ダンゴムシやダイオウグソクムシの仲間でもある、寄生性の甲殻類

人の好みは、ダンゴムシをカワイイと思えるか思えないかで二分される気がします。ンなもん、なんでもそうやろ!と言われそうですが、猫のように「カワイイ」派が圧勝するわけじゃなく、「キモイ」派もいる。そして「キモカワイイ」派もいる(この時点で二分崩壊)。かくいう自分は、模したオモチャを枕元に飾っているぐらい「カワイイ」派なんですけど、見た目が似ているダイオウグソクムシまでのサイズ感になると、ちょっとひるんでしまうかも…。

そんな一人キモカワイイ裁判を行っていたところ、ダンゴムシよりカワイイのでは!?という生き物の写真を発見! それが今回の主役、ウオノエです。

 

「ウオノエは、ダンゴムシやフナムシ、ダイオウグソクムシなどと同じ等脚目に含まれる甲殻類です。ウオノエ科は世界中に広く生息して、現在、45属360種以上が知られています。サイズは小さいもので1cmほど、一番多いのは2~3cmあたり、最も大きいもので7cmぐらいです。いずれも魚に寄生して暮らし、漢字で書くと“魚之餌”となります」

 

なんと、陸で暮らすダンゴムシとは違い、海で暮らす寄生生物だったとは! ってか、寄生しているにもかかわらず、漢字だとサカナのエサと書くとはこれイカに!?

 

「魚の口の中から見つかったものを、昔の人が食べていると勘違いしたのかもしれませんね。ウオノエの寄生部位は、口腔=口の中、鰓腔(さいこう)=エラの中、体表=体の表面やヒレ、珍しいタイプでは腹腔=お腹の中と、大きく4つに分けられます。タイの口の中に寄生するタイノエなら、ご存知の方も多いでしょう」

 

聞いたことあります! 画像では見たこともある! そうか、タイノエがウオノエの1種だったんですね…謎が一部解けた!

 

「ウオノエは種類によって、どの魚種のどの部位に寄生するかが決まっていて、それぞれが寄生する場所に特化したような形になっています。たとえばエラに寄生するタイプだと、そのカーブに沿った形になっていて、右側か左側か、どちらのエラについていたか予想できるぐらい体が曲がっているんです」

 

なんと健気な! あなた色に染まるタイプじゃないですか…!

マダイやチダイの口腔に寄生するタイノエ(観察しやすいようにエラ蓋などを除去)。口腔寄生タイプのウオノエ類のほとんどは魚の舌側に寄生するが、タイノエは口蓋にさかさまに寄生する

マダイやチダイの口腔に寄生するタイノエ(観察しやすいようにエラ蓋などを除去)。口腔寄生タイプのウオノエ類のほとんどは魚の舌側に寄生するが、タイノエは口蓋にさかさまに寄生する

いろいろなウオノエ類。左から、ホラアナゴノエ(茶色いのは液浸標本のため)、フグノエ、シマアジノエ、トビウオノエ、ウオノコバン、マンマルウオノエ、トビウオヤドリムシ

いろいろなウオノエ類。左から、ホラアナゴノエ(茶色いのは液浸標本のため)、フグノエ、シマアジノエ、トビウオノエ、ウオノコバン、マンマルウオノエ、トビウオヤドリムシ

 

1着でゴールした幼生がオスからメスに性転換し、オスを待つ

そもそも、ぴったりフィットのために体の形が変わるなんて、一体いつから魚に身を寄せて暮らしているんでしょ。

 

「孵化して幼生になったら海中に泳ぎ出て、幼魚の時点の魚に寄生し、その後ずっと一緒に成長していくのではと考えられています。寄生虫というと、宿主を食い殺す怖いイメージを持たれるかもしれませんが、宿主を殺すほど害を与えちゃうと自分も死ぬことになる。うまくバランスをとりつつ生活しているはずです」

 

それまたキュンとする! 幼なじみが身を寄せ合って大人の階段を登っていくなんて、青春じゃあないですか。一方的に頼っているとはいえ。ちなみに「寄生虫」という言葉が指す生物は昆虫に限らないと、この「珍獣図鑑」シリーズで学びました。ウオノエも宿主である魚の血液などをエサにしているとは考えられますが、全種がそうなのか、毎食そうなのかなど、まだわかっていないんだとか。ともあれ、やがて2人が大人になってしまったらどうなるんでしょう。お別れしちゃうの…?

 

「ウオノエは雌雄同体の生き物なんですが、“雄性先熟”といってまずオスになるんです。そして、その宿主に一番乗りだった場合にだけ、さらにオスからメスに性転換します。そして二番目に寄生してきた個体とペアになって繁殖するんです。つまり同じ魚に2匹さえつければ、必ずペアができる仕組み。だから魚を調べると、大体オスとメスのワンペアが寄生しているパターンが多いんですが、たまに1匹しか到着しなかった“ぼっち”がいたり、3匹以上で同じ魚から見つかったりもします」

 

えええ、すごすぎ! まわりを確認して誰もいないとなると、メスに変身するだなんて…。しかし待てど暮らせど、運命の王子様が現れないケースもあるとは切ないですね。さりとて、お相手が見つかったとて、幼なじみ魚との一緒暮らしは一生続くのかしら?

 

「寄生してからは同じ個体の上で一生過ごすと考えられています。メスはお腹側に卵を抱えて育てる育房という構造を持っているんですよ。寄生したままの状態で卵をつくり、孵化させて幼生になったら海中に放出し、その幼生たちが新しい宿主を探しにいく。寄生する対象の魚が何種類かいるウオノエもいますが、1種類の魚にしか寄生しない種もいるので、2個体が同じ魚に辿り着くのはなかなか大変なことだと思いますよ」

ウオノエ科の基本的な体の構造。写真はソコウオノエのメスとオス

ウオノエ科の基本的な体の構造。写真はソコウオノエのメスとオス

 

サヨリに寄生するサヨリヤドリムシなら、7割ほどの確率で発見できる

ウオノエも苦労しながら子孫を残しているんですね…。しかし魚なら世界に何万種類もおるでしょうに、ウオノエは360種ちょいしかいないって、めちゃくちゃ少ない気がします。完全にイメージですが、もっといてもいいような?

 

「見つかっていないだけで、探せばまだまだいると思います。とはいえウオノエの研究者も、世界に10人ほどなので…。400種弱に対してだと、多いかもしれないですが」

 

いや~10人とは少ない少ない! とはいえ、そこは「珍獣図鑑」あるある! で、世界で数人しか研究していないなんてザラなんですよね。

 

「メジャーな生き物の研究者は多いんですけど、マイナーな生き物だと、研究を始めた段階で世界トップ5に入っちゃうみたいなこともある。それに比べれば多いんですが、世界中のどの魚に寄生されているかなどを解明する上では全然足りません。とくにアフリカや南米など研究者が少ない地域もありますので、調べれば新しい種がどんどん見つかるはずです」

 

それはもう未知中の未知…。しかも日本周辺で確認されているものも、まだ15属43種しかいないんだとか。

 

「難しいのは、ウオノエを探す=寄生された魚を探すことになるところ。ウオノエは種類によって寄生する率が全然違うんですよ。サヨリに寄生するサヨリヤドリムシだと、多いときは7割ぐらいの確率でついているんですが、寄生率が低い種類だと、宿主の魚を100匹集めて1~2匹いるかいないかという世界。日本周辺の海水魚って3000種以上いるので、ウオノエがいるかどうか、すべて明らかにしようとすると、3000種×100匹で30万匹も調べないといけなくなるんです」

 

うおお、そんな困難さが…! そういや釣りをする連れ合いに「ウオノエって知ってる?」と訊ねると、「サヨリのエラについてるヤツやろ?」と当たり前のように言われました。実物を目にするだけなら、割と簡単そうな。一般の私たちが見つけようとしたら、やはり釣りになりますか?

 

「寄生率の高い魚種を狙って釣りに行くのが一番ですね。あとはスーパーの鮮魚コーナーとか鮮魚店とか産直の朝市とかで探すのも一つの手。サヨリやマダイ、マルアジ、カイワリ(シマアジの仲間)、高級魚ノドグロとして知られるアカムツなんかは比較的寄生率が高いです」

 

ほほぅ、ちょっと見てみたいかも…だけど食用魚についていて、うっかり食べちゃったとしても大丈夫なものですか? 大丈夫だとしたら、どんな味なのかしら…。

 

「SNSなんかでも煮付けや姿焼きのような料理から、グソクムシみたいなのが出てきた!という投稿はよくありますね。私は全部標本にしちゃうので食べたことはないんですが、話を聞く限り、甲殻類ですしエビやカニに近い味ではあるそうです。逆に言うと、甲殻類アレルギーのある人は症状が出ちゃうかもしれません。昔は魚と一緒に食べていた地域があったと聞きますし、概ね大丈夫なんでしょうけど、食べるのは完全に自己責任で…」

 

気にはなるものの、決して食欲をソソるビジュアルではないので、やめておきます…。

サヨリのエラに寄生するサヨリヤドリムシ(観察しやすいようにエラ蓋を除去)。片側のエラにメスが、反対側のエラにオスが寄生する。メスは成長するにつれて、エラの外縁に沿うように体が曲がっていく

サヨリのエラに寄生するサヨリヤドリムシ(観察しやすいようにエラ蓋を除去)。片側のエラにメスが、反対側のエラにオスが寄生する。メスは成長するにつれて、エラの外縁に沿うように体が曲がっていく

 

龍が小脇に六分儀を抱えているように見える新種、リュウノロクブンギ

しかし見つかりやすい種はすぐ見つかるとはいえ、いざ研究しようとしたら大変そうです…。

 

「狙っているウオノエを野外へ採りに行っても、だいたい空振りに終わっちゃいます。全国にいる魚の研究者、漁業関係者、釣りをされている方など、魚と接する機会の多い人たちにお力添えいただき、ウオノエが見つかったら送っていただけるネットワークをつくって、ようやく研究が進んでいる状態ですね。北海道大学にいたとき、大学の博物館に所蔵されていた深海サメの標本から見つかったウオノエが、太平洋で初めて見つかったものだったということもありました」

 

太平洋で初!?

 

「世界でも2例目だったんですけどね。標本を整理しているときに、深海に棲むトガリツノザメの口の中からポロッと出てきたらしく。学名はついていたものの、まだ和名がなかったので、『オオウオノエ』と名づけました。その名の通り、6cmぐらいに成長する世界最大級クラスです。上アゴに寄生するんですが、ちょうど成人の上アゴの凹みにポコっと収まるぐらいのサイズ感です」

 

想像したら上アゴがゾワッとしましたが…。何やら川西先生が2023年1月に発表された新種もあるとのこと。

 

「伊豆諸島の最南部、ベヨネース列岩という絶海の岩礁で捕られたヒメダツのエラから見つかったものです。ヒメダツはサヨリみたいに細長く、鋭い牙があって竜のような形をしているんですが、見つかったウオノエは、腹尾節という尾のような部分が六分儀という航海時に使う計測器に似ていたので、『リュウノロクブンギ』という和名にしました。まるで龍が小脇に六分儀を抱えているように見えたんですよね」

 

それはまた、素敵なネーミング! どういった特徴があったんでしょ。

 

「ウオノエには大触角と小触角があるんですが、普通は節状になっている小触角が、全部融合したような1本の塊みたいになっていたんですよ。そんな種類は、これまで1種もいませんでした。最初は「種」の一つ上の階級である「属」も新しく立てた方がいいとなっていたんですけど、DNA解析をすると、サヨリヤドリムシと同じエラヌシ属に含まれることが示されました。最近はDNA解析を組み合わせることで、形の特徴を比較するだけではわからなかったことが明らかになったりします」

 

なるほど。DNA解析ができなかった頃なら、あっさり新属として扱われていたかもしれませんね。

龍のような見た目の宿主(ヒメダツ)のエラに寄生するリュウノロクブンギ(観察しやすいようにエラ蓋を除去)

龍のような見た目の宿主(ヒメダツ)のエラに寄生するリュウノロクブンギ(観察しやすいようにエラ蓋を除去)

リュウノロクブンギ。黒い腹尾節が六分儀のような形が特徴的

黒い腹尾節が六分儀のような形が特徴的なリュウノロクブンギ

リュウノロクブンギの顔。小触角の節がすべて融合しており、まるで白ひげを生やしているように見える

リュウノロクブンギの顔は、小触角の節がすべて融合しており、まるで白ひげを生やしているように見える

 

偶然にしか出会えないウオノエだからこそ、見つけたらぜひご一報を!

「幼い頃から魚が好きだったという川西先生。小学生のときに市街地から山あいの町に転校し、それまでとは違う豊かな自然環境で川の魚とふれあった経験が、今のベースになっているんだそう。

 

「博士号を取るまでは淡水魚の研究一筋でしたが、所属していた研究室に同世代の魚の研究者が2人いて、せっかく若手が3人もいるんだから、何か新しい共同研究を始めてみよう! という話になったのが転機でした。海水魚の研究者だったその2人から、魚の口の中を見ると、たまにパイロットかのように乗り込んでいるヤツがいる、という話を聞いて。調べてみよう! となったのが、ウオノエと出会ったきっかけです」

 

それまで出会ってこられなかったんですね。てこた、淡水魚には寄生していないもの?

 

「実は淡水に棲んでいるグループも世界に何属かあり、日本にもいるんです。主に琵琶湖にいるタナゴの仲間に、タナゴヤドリムシという、お腹に穴を開ける珍しいタイプのウオノエがいます。海外だとユーラシアやアフリカ、南米などにいろいろいるんですが、やはりアマゾンのようなところだと結構多くいます。私自身は研究を始めるまで見たことなかったんですが、調べていくうちに、その形だとか色だとか宿主となる魚との関係性だとか、多様な魅力に引き込まれていきました」

 

魚の研究者まで魅了するだなんて、おそろしい子…! にしても、もともと魚を研究されていた川西先生だからこそのアドバンテージもありそうな。ウオノエはなるべくして出会った感じがします。

 

「運命の何色の糸かわかんないですけど(笑)、あるでしょうね。もともと魚の研究者で、知り合いに魚類の研究者が多いのは、研究する上でも大きな強みになっています。日常的に魚をよく見ている人たちとつながりがあるのはとてもありがたいんです。そういう意味で、研究者以外の皆さんにも、関心を持っていただいて広くご協力いただければと切に願っています…!」

 

それはぜひお願いしたいところです! 世の中には、肉眼では到底見つからない生き物も多いですが、ウオノエの場合、小さくても1cm程度ならチャンスはありそう。お腹の中に寄生するレアキャラを見つけるのは難しそうですが…。

 

「それも体の側面に穴を開けて入っていくので、ヒレをめくったら裏に穴ボコが開いていて、見つけること自体は割と簡単です。気にしていれば見つかるはず。偶然にしか出会えない生き物なので、まだ誰も知らないウオノエを見つけられる可能性は誰にでもあるんですよ。だから皆さんにも、魚を釣ったり買ったりしたら、口やエラを開けて探してみてほしいです。そして珍しそうなものを発見したら、ぜひ教えてほしいです!!」

 

「寄生虫」と聞くと、気持ち悪いとか怖いとか思いがちですが、そう感じる一番の原因は「相手が何者かわからないから」だと川西先生。ウオノエも、何も知識がなかったら魚の口の中に潜む謎の生き物ですが、人間には悪さもしないといったことがわかっていけば、だんだん関心に変わっていくかもしれません。

 

「まだまだ生態も謎だらけで、日本にウオノエが何種類いるかも判然としないので、全貌を明らかにしたいです。宝探しみたいなもので、いない、いない、いない、いた!みたいな発見が面白く、結構中毒性がありますよ。それを繰り返して、日本中の皆さんがウオノエの魅力に少しでもハマっていただけたらなと願っています!」

北海道大学総合博物館水産科学館にて採集した魚からウオノエを慎重に採りだす川西先生

北海道大学総合博物館水産科学館にて。採集した魚からウオノエを慎重に採りだす川西先生

 

【珍獣図鑑 生態メモ】ウオノエ

図5

 

 

 

 

 

 

 

 

軟甲綱・フクロエビ上目・等脚目・ウオノエ科に属する、魚類に寄生する甲殻類。世界中に広く生息し、現在、45属360種強が知られている。サイズは小さいもので約1cm、多くの種は2~3cm、最大で7cmほど。寄生部位は、口腔、鰓腔、体表、腹腔の4つに大別される。種によって、寄生する魚種や部位が決まっており、その部位に適した形に成長していくのも特徴。雌雄同体で雄性先熟。宿主に最初に寄生した幼生がオスからメスに性転換し、その後に寄生するオスと繁殖する。

珍獣図鑑(23):世界的偉業!ド派手でキュートなカワリギンチャク類の1新科1新属4新種をドドンと発表!

2024年2月27日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第23回は「カワリギンチャク×泉貴人先生(福山大学講師)」です。です。それではどうぞ。(編集部)


変わったイソギンチャク、つまりは希少なカワリギンチャク

生物を分類する系統樹において、ザックリいうと「種」の上が「属」、「属」の上が「科」、「科」の上が「目」ってことになります。この「珍獣図鑑」シリーズでもよく触れているとおり、新種発見ってだけでもスゴいのに、属、さらに科まで関わってくると、結構どえらいことだったりするわけです。

 

にもかかわらず、イソギンチャク類に対し、「1 新科、1 新属、4 新種を報告すると同時に、上科レベルの分類を劇的に整理した」なんつう、情報過多なニュースが2023年に飛び込んできました。しかも首謀者は、学術系YouTuber“Dr.クラゲさん”としても活躍中の「歌う生物学者」「生物界の帝王」こと、福山大学 海洋生物科学科の泉貴人先生。いやもう、多い多い! まずはこちらの頭の中を劇的に整理してほしいんですが…これいったい、ドーユーコッチャネン?

 

「ヤツバカワリギンチャク上科に属するイソギンチャク、いわゆる“カワリギンチャク”を日本全国から集めて、標本と DNA の塩基配列を使って徹底調査したんですよ。で、十数年にわたる研究の結果、分類の枠組みが大きく変わり、4 種の新種を発表したわけです」

 

いや、むちゃくちゃ簡潔にまとめられてしまった!「上科」ってのは、必要があれば立てられる「科」と「目」の間の分類、つまり科の上の大きなグループのこと。なんでもイソギンチャク類において、「上科」全体のレベルで分類を整理した例はほとんどなく、画期的な試みだったようですが…そもそもカワリギンチャクってなんですのん。

 

「体の中の膜の配列が、イソギンチャク類の中でも極めて独特なグループで、一部の種は非常に鮮やかな蛍光色をしていることでも有名です。これまで日本からも複数の種が知られていましたが、深海性の希少な種が多く、まだまだ解明が進んでいない分類群なんですよ」

 

そんな未知なる分類群の仕分けなんて、なんだか途方もない作業のような…。

アバタカワリギンチャク(魚津水族館)

アバタカワリギンチャク(魚津水族館)

オオカワリギンチャク(九十九島水族館)

オオカワリギンチャク(九十九島水族館)

見たまま命名、「イチゴカワリギンチャク」と「リンゴカワリギンチャク」

カワリギンチャクのグループ総決算な整理整頓っぷりの前に、まずは4 種の新種ってどんな子たちだったのかが気になります。

 

「今回発表したうち、2種はその見た目の特徴から、イチゴカワリギンチャクとリンゴカワリギンチャクという和名をつけました。残り2種は、長らく学名が無効になっていたオオカワリギンチャクとアバタカワリギンチャクです。これらには、有効な学名を新たに与えることで新種として記載しました」

日本のカワリギンチャク類大全。角の4種が新種に(写真提供(一部):大森紹仁氏、新井未来仁氏、藤井琢磨氏)

日本のカワリギンチャク類大全。角の4種が新種に(写真提供(一部):大森紹仁氏、新井未来仁氏、藤井琢磨氏)

 

なぬ、“学名が無効”とは!?

 

「命名の規約ってめちゃくちゃ複雑で、守らないと無効になっちゃうんですよ。もともと名づけられた先生と連絡がとれなかったので、過去の研究の誤りを正したという形です」

 

ほへぇ、そーゆーケースの新種発表があったとは! そりゃまぁ正しく学名がついてないと、整理整頓もできないですもんね。では今回がデビュー戦となった、イチゴカワリギンチャクとリンゴカワリギンチャクは、どういうキャラなんでしょ。

 

「イチゴカワリギンチャクは体の表面が赤っぽくて、まさにイチゴみたいに白い粒々の毒針がくっついてるんですよ。新潟大学の大森紹仁先生から佐渡島の浅場にたくさんいるっていう情報を聞いて、標本を送ってもらったのが2018年、潜って捕りに行ったのが2021年だったかな。カワリギンチャクの中で一番浅いところに棲んでいる種類です」

 

いやはや、すげぇピッタリだし、キャッチーで覚えやすい! 最高のネーミングですやん…。

 

「イソギンチャクって、ニンジンイソギンチャクとかダイコンイソギンチャクとかナスビイソギンチャクとか、妙に野菜の名前のやつが多かったんですよね。それが面白いなと思っていて、カワリギンチャクはフルーツでそろえました」

 

イチゴが決まってからのリンゴだったんでしょうか。

 

「名付けの順番的にはそうでしたね。ただ、捕れた時期はリンゴカワリギンチャクのほうが古く、2015年に鹿児島の佐多岬が最初。カワリギンチャクの中でも一番赤くて、丸っこいし下が黄色いし、リンゴっぽいでしょ? 奄美沖でも捕れてて、沖縄美ら海水族館に展示されているんですけど、そこで、この黄色い部分から自分の断片を出して別の個体をつくるっていう、分裂による無性生殖が確認されました」

 

おおお、ビジュアルだけじゃなく増え方までおもろ!

佐渡島潜水調査の様子(撮影・伊勢優史氏)

佐渡島潜水調査の様子(撮影・伊勢優史氏)

レモンとオレンジ?「オオカワリギンチャク」と「アバタカワリギンチャク」

和名って発見者が自由につけられるんですよね。考えるのも楽しそうでうらやましい! 既存のオオカワリギンチャクとアバタカワリギンチャクも、その見た目から名づけられてるっぽいですが…。

 

「オオカワリギンチャクは確かにデカいんですが、カワリギンチャク類の最大種ってわけでもないんですよね。科は違うんですが、セイタカカワリギンチャクとかチュラウミカワリギンチャクの方がデカイです」

 

そういやカワリギンチャク類ってどれぐらいのサイズなのか、イメージついてませんでした。

 

「例えばイチゴカワリギンチャクなら1cmぐらいですし、リンゴカワリギンチャクなら5cmぐらい。オオカワリギンチャクは10cm超えるぐらいなんですが、セイタカカワリギンチャクだと15~16cm、チュラウミカワリギンチャクなら口を広げると30cm近くにまでなります」

セイタカカワリギンチャク(左:竹島水族館)、チュラウミカワリギンチャク(美ら海水族館)

セイタカカワリギンチャク(左:竹島水族館)、チュラウミカワリギンチャク(美ら海水族館)

 

あとから塗り替えられる可能性もありますし、オオなんとかっていうネーミングは結構リスキーかもしれませんね。もう一つのアバタカワリギンチャクは…ブツブツな見た目から…?

 

「和名の由来って論文に書かなくていいんで、わからないんですよ。さっき紹介した自分の断片から分裂するっていうのは、アバタカワリギンチャクで最初に見つかった特徴でもあって。それに由来している可能性もありますが…私が名づけるなら、色合いから“オレンジカワリギンチャク”にしていたでしょう。オオカワリギンチャクも“レモンカワリギンチャク”にしてたはず。学名にはしれっとレモンを表すラテン語を入れちゃいましたけどね」

「ホタルイカモドキ属」オマージュで、「カワリギンチャクモドキ属」を新設

鮮やかなビジュアルがそれぞれに個性的で、なんだか愛着がわいてきたカワリギンチャク類。4つの新種についてわかったところで、いよいよ系統樹を上っていきたいんですが…。

 

「DNAを使った分子解析の結果、もともとあった2つの科、ヤツバカワリギンチャク科とカワリギンチャク科の種がぐちゃぐちゃに入り混じってしまったんですよね。そこで『ヨツバカワリギンチャク科』という新しい科を設立し、一部の種を移動させるとともに、カワリギンチャク科の中にあるカワリギンチャク属を分割し、新属『カワリギンチャクモドキ属』を設立したわけです」

複雑な系統樹を整理(Izumi et al. 2023を改作)

複雑な系統樹を整理(Izumi et al. 2023を改作)

 

いやもう早口言葉ですやん! しかしまぁ、系統樹を見ればなんとなくわかります。にしてもカワリギンチャク“モドキ”属って??

 

「もともとあったカワリギンチャク属が、系統樹から2つに割れることがわかったんです。で、もともと本家だと思われていた“カワリギンチャク”という種をカワリギンチャク属から外すことになってしまったんですが…新しい属名をどうするかって考えたとき、『カワリギンチャクモドキ属のカワリギンチャク』にしたら面白いんじゃないかと。ホタルイカって今、ホタルイカモドキ属に分類されているんで、それにあやかりました。分類学の名づけ方なんて基本的に遊びなんですよ」

 

いや、ややこしいけど面白ぇ。こうして日本のヤツバカワリギンチャク上科は、3科・6属・11種の生息が確認。この成果は、2023年6月に国際学術雑誌『Diversity』誌で公開され、日本近海に棲むカワリギンチャクの多様性を示しました。しかしカテゴリごとの特徴っていうのは、素人が聞いてもわからんレベルなんでしょうね。

 

「まぁ端的に言いますと、同じ科だと、切ったときの断面に見られる膜の枚数と触手の本数が一緒っていう、それだけです。あとはもう、DNAの塩基配列の違いでグルーピングして。とはいえDNA解析って面倒くさいんですよ。時間はかかるし、金もかかるし、かといって成功率も高くないし…。やったものの結果が出ないってオチもザラです。だけど今回、だからめちゃくちゃ上手くいって。11種全てで配列が取れるなんて、そうそうないですよ」

 

今回の論文発表で、大学院生時代からの研究が、ひとつの集大成を迎えた泉先生。イソギンチャク類で新しい科を立てたのは、日本人初の快挙だそうで…。日本大学の藤井琢磨博士、千葉県立中央博物館分館海の博物館の柳研介博士、国立科学博物館の藤田敏彦博士とともに、各地の水族館の協力も得つつ、日本全国から50個体以上のカワリギンチャク類を収集して研究できた賜物だと振り返ります。

新種が記載されると、人類の文明が滅ぶまで自分の名前が残り続ける

泉先生が専門としているのは、イソギンチャクやらクラゲやらが属する刺胞動物。「刺胞」と呼ばれる、毒液を注入する針のある細胞を触手に備えた水生生物たちです。彼らに対し、分類学をメインに、それらがどう進化し、どんな生態なのかといったことを探っているのだとか。年齢不詳なイカつい見た目ですが(失敬)、実はまだアラサーの泉先生。この若さで新科を立てたって、かなり相当な偉業なんじゃ…?

 

「もちろんそうなんですけど(笑)、そもそも分類学の研究者が少ないんですよ…。刺胞動物全体で言えばそこそこいるんですが、イソギンチャクをメインにやっている人は、世界でも30人いるかいないか。日本でイソギンチャクの分類を手がけているのは私の師匠が第一人者で、今でも3人ぐらいです。にもかかわらず日本は種数が多いんで、全然手が回っていないんです」

 

えええ、イソギンチャク自体はめちゃくちゃメジャーなのに、なんか意外…。別の生き物だと、「早くしないとほかの研究者に発表されてしまう!」みたいなお話も結構聞くんですけど。

 

「取り合いになる分野もありますけどね。イソギンチャクの場合、『早くしないと俺が死ぬ』レベルですよ。師匠自身が忙しい人なんで、『こういうイソギンチャクが捕れたからやってみない?』って感じで、仕事の押し付け合い。しかしまぁ、新種を立てた瞬間に未来永劫、自分の名前を残せるのは分類学の面白さです。日本のカワリギンチャク11種のうち6種に私の名前が入っているんですけど、その種がどんな名前に変わろうが、別の種に統合されようが、なんなら絶滅しようが、人類の文明が滅ぶまで残り続けますから」

落研仕込みの流暢なベシャリで面白い、Dr.クラゲさんの学術系YouTube

幼い頃から水族館が大好きで、小学校に入ってからはクラゲの絵を描き続けていたという泉先生。イソギンチャクも含め、刺胞動物に惹かれた一番の要因は、やはりビジュアルだったようで…。

 

「あんな変な見た目なのに、人間と同じ動物だって時点で面白いでしょ。ただ学者に対し、この生き物がなんで好きなのって質問は結構難しいんですよ。突き詰めると、ガキの頃から好きだったとしか言いようがない。中学時代には青春18きっぷを使って日本全国の水族館を回り始め、閉館したところも含めこれまでに150館は行っています。クラゲやイソギンチャクが大好きで、水族館や旅も好きだったガキが、そのまんま大人になって職業に就いたって感じ。親からは『お前ほど人生お気楽な奴いない』ってよく言われますよ」

2023年までに先生が訪問した全国の水族館プロット(左)と、一人旅の巡礼一覧(!!)

2023年までに先生が訪問した全国の水族館プロット(左)と、一人旅の巡礼一覧(!!)

 

分類学って死ぬほど文献に目を通さんとイカンので、ものすごく大変でしょうけど、それを苦労にカウントされていないようで素敵です。泉先生が最初に新種を発表したのは2018年。ムシモドキギンチャク科に属するイソギンチャクに対し、見た目が海老の天ぷらに似ていたことから「テンプライソギンチャク」と命名したのがデビュー作でした。

もうそれにしか見えない!テンプライソギンチャク(撮影:伊勢優史氏)

もうそれにしか見えない!テンプライソギンチャク(撮影:伊勢優史氏)

 

「その近縁にあたるのがカワリギンチャク類だったんですよね。博士論文を書くにあたり、ある程度まとまった成果を出す必要があったため系統樹を書くような研究を始め、泥沼にハマっていったって感じです。なんてったって、ほかのイソギンチャクよりキレイですしね。私の博士論文は333ページもあり、そのなかで新種だと証明したものも31種あるんですけど、今回のように公に発表したのは、まだ3分の1程度。残り3分の2は未発表なんです。今後、発表していくうちに、また新しい属も立つでしょうし、科も立つでしょうし、楽しみにしておいてください」

 

それはワクワクする朗報! ちなみに「Dr.クラゲさん」は、「ガキの頃から名乗っていた名前」らしく、描かれているキャラクターは、小学校の頃にはすでに原型が生まれていたのだそう。ベシャリのたちまくったYouTube動画は、刺胞動物も分類学も楽しく学べて超オススメです。

YouTube のヘッダーやSNSに登場するDr.クラゲさんのキャラクター。先生が小学生の頃に描いていた自由帳にすでに登場していたそう

YouTube のヘッダーやSNSに登場するDr.クラゲさんのキャラクター。先生が小学生の頃に描いていた自由帳にすでに登場していたそう

 

「“生物系No.1インフルエンサー”を自称しているとおり、モチベーションの原動力として自己顕示欲も大きいですよ。大学では落語研究会だったし、漫才もやってましたし…。ここまで好き勝手にできる例は、あんまないでしょうけど、好きなものを持ち続ければ、いずれそこから道が開けるってことは本当にあるんだなと思ってます。ガキがそのまま大人になってますからね。見た目はこんなですけども(笑)」

 

【珍獣図鑑 生態メモ】カワリギンチャク

日本のカワリギンチャク類大全。角の4種が新種に(写真提供(一部):大森紹仁氏、新井未来仁氏、藤井琢磨氏)

刺胞動物門の無脊椎動物。ヤツバカワリギンチャク科・カワリギンチャク科からなる「ヤツバカワリギンチャク上科」に属するイソギンチャクの総称。体の中の膜の配列がイソギンチャク類の中でも極めて独特なグループであるとともに、一部の種は非常に鮮やかな蛍光色をしていることで知られる。2023年、1新科・1新属・4新種(イチゴカワリギンチャク・リンゴカワリギンチャク・オオカワリギンチャク・アバタカワリギンチャク)が報告され、3科・6属・11種の生息が確認された。

珍獣図鑑(21):143年ぶり&日本人初の快挙! 超大型ルーキー「リュウジンオオムカデ」の新種発表

2024年1月11日 / この研究がスゴい!


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第21回は「リュウジンオオムカデ×島野智之先生(法政大学 教授)」です。それではどうぞ。(編集部)


体長約20 cm超、体幅約2 cmと規格外サイズ! 日本最大のオオムカデ

「珍獣図鑑」で何度も取り上げてきた新種の生き物たち。発表するには、ほかの種との決定的な違いを明らかにせねばいかんという苦労話を、これまでにもたくさん伺ってきました。やっぱり新種発見って面白いよな~と思いつつ、ネットサーフィンにいそしんでいたところ、2年前ながら日本で143年ぶりにオオムカデの新種が発見されたという記事にゴッチンコ! 研究チームのお名前を見ると…以前、ゴキブリの美しい新種「ルリゴキブリ」の発見について伺った島野先生がいらっしゃるじゃないですか! ゴキブリの次はオオムカデとは! 島野先生、守備範囲が広すぎます!!

★ルリゴキブリの記事はコチラ

 

「前回も触れましたが、そもそも僕はダニの研究者で、ゴキブリだけでなくムカデも専門外なんですけどね…。『誰かがやらなきゃ!』という事情があったんですよ」

 

何ですか、そのヒーロー戦士的なお話は! めちゃくちゃ興味深いんですけど、まずは発見されたオオムカデがどんな子だったのか、気になります。命名された「リュウジンオオムカデ」っていう名前の印象だけでも、なんだか相当デカそうなんですけど…!? 今年の干支にちなんで「龍」とは縁起のいい新種ですね!!

 

「その通り! 体長約20 cm超(大きなものでは25 cmを超える)、体幅約2 cmと、日本や台湾に生息するムカデ類では最大種で、陸上節足動物としても日本最大級です。陸上節足動物では、ハネを広げた状態のヨナグニサンというガや、手を伸ばした状態のヤンバルテナガコガネというコガネムシ科の甲虫類も大きいんですけど、それでも20 cmには及びませんしね。実際、目にすると、指2本分ぐらいの太さ、手首から肘ぐらいまでの長さに感じますし、歩くとカチカチ爪の音がするんです。かなりの恐怖感を覚えますよ」

 

それは確かに怖い!! 目の前に突然、現れたら悲鳴を上げそうです。いや、逆に怖くて声が出ないか…。

迫力満点のリュウジンオオムカデ 写真提供:外村康一郎氏 奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs https://terminal-legs.com/

迫力満点のリュウジンオオムカデ
写真提供:外村康一郎氏
奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs

 

日本最大の川エビを毒アゴで捕食。半水生ムカデが見つかったのも日本初!

とはいえ最近になって新種として発表されたぐらいだから、街なかでバッタリ出くわすことはなさそうですね。いったい、どこにすんでいるんでしょう。

 

「ヤンバル地方、つまり沖縄本島北部の深い森や、久米島、西表・石垣島、渡嘉敷島、そして台湾にも生息することが確認されています。日本で初めて見つかった半水生。陸生ではあるものの水辺に暮らすムカデです。半水生ムカデは、2016年にラオス、ベトナム、タイから1種、2018年にフィリピンからの1種が報告されているだけなので、世界でも3例目なんですよ」

幾度となく訪れた屋久島での調査にて

幾度となく訪れた屋久島での調査にて

ダニ学と原生生物学がご専門の島野先生。熱帯雨林での調査風景

ダニ学と土壌動物学がご専門の島野先生。熱帯雨林での調査の様子

 

なんと、半水生のムカデ自体、かなり最近に見つかったものなんですね! 水辺に暮らしているということは、食べる物も違ったりするんでしょうか。

 

「一般的なムカデのように陸上の昆虫類ではなく、エビやカニを食べているようです。沖縄では、体長15 cm 前後で日本最大の川エビ、コンジンテナガエビを捕食しているところが目撃されています」

 

そんな大きなものまで! オオムカデ属を含むムカデ綱は、同じ多足類でも、植物を食べるヤスデ綱とは違って、多くの種がエサとなる生き物を捕らえて食べる捕食性です。日本で約150種が知られていて、ゲジゲジもその仲間なんだとか。だけどゲジゲジと違ってムカデは毒アゴを持っているので、咬まれると危険! 日本最大のムカデなら、その毒性もさぞ強いのかしら…!?

 

「本州にいる一般的なオオムカデ、トビズムカデに咬まれると結構腫れますよね。よく家の天井から落ちてきて寝ている間に咬まれたという話を聞きます。さて、リュウジンオオムカデに関しては、平坂寛さんという方がYouTubeに『咬まれてみた』動画を上げていたんですが、『トビズムカデより毒性はちょっと低いかな』とおっしゃっていました。それでもブワ~ッと腫れていましたよ…」

 

うへぇ~、なんたる人体実験! とはいえ、しばらく経ったら腫れが引いておしまい、なんですかね。

 

「多くはそうなんですけど、これまでスズメバチに刺されたことのある人がムカデに咬まれると、アナフィラキシーを起こす危険性があるんです。逆も同じで、ムカデに咬まれた人がスズメバチにもう一回刺されると、アナフィラキシーショックで呼吸困難に陥るなど、命の危険にさらされるおそれがある。だからムカデは馬鹿にできないんですよ」

 

結局危ないんじゃないですか! これはもう、触らぬリュウジンに祟りなし…。

背中のオリーブ色がひと際目立つリュウジンオオムカデ。脚の根本はベージュで、脚の先端が翡翠色だそう 写真提供:外村康一郎氏 奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs

背中のオリーブ色がひと際目立つリュウジンオオムカデ。脚の根本はベージュで、脚の先端が翡翠色だそう
写真提供:外村康一郎氏
奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs

 

保護されないまま高額取引が続き、絶滅の危機が目の前に…

それにしても、沖縄の4地域と台湾で確認されてるのに、新種発表されたのが最近ってのも不思議ですね。誰にも見つかってなかったんでしょうか。

 

「実はヤンバルクイナの新種発見の時のように、地元の人や愛好家には知られていましたが、分類学的に正式な名前(学名)がつけられていなかったんです。オオムカデって形態的な区別点があまりない、すごく難しい分類群で…。

2016年、ヤンバルに生息する体長27 cmの緑色に輝くオオムカデがブログやSNSで紹介され、愛好家の間で一気に有名になっちゃって。ネットで売買されるようになり、国内だけでなく、海外からも10万円を超えるような高値がつくようになってしまったんです」

 

10万円を超える!? それだけ数が少ないってことなんでしょうか…。

 

「身の危険を感じると水中に逃げ込み、じっと身を隠す習性をもっているので、探しにくい点もあります。とはいえ頑張って探すと1~2匹は見つかるんですが、それ以上は出てこない。個体数の密度としてはかなり低いと思います。それに、とにかく飼育が難しいんですよね。普通のムカデなら可能なんですが、もともとが水の中で生きている種類ということもあり、超難関種。当時、飼育方法は今よりももっと分かっていなかったので、沖縄の生物保全に努める琉球大学の佐々木健志先生が尽力されたんですが、だんだんエサを食べなくなり、数カ月もたずに死んでしまうとのことでした」

 

それは守りづらい…! あのビッグサイズにも、どうやら何年もかけて成長するようですが、そこまでも育てられない。飼育するために増やそうとして親を捕ってきても、飼育して殺し、また親を捕ってくることの繰り返しになってしまいます。

 

「ただでさえ個体数密度が低いのに、このままでは絶滅してしまう。誰かがキチンと分類して保護の対象にしなきゃまずいなと、佐々木先生と話し合っていたところ、当時、東京都立大学の大学院生だった塚本将さんが中心になって動いてくれました。僕も沖縄には30年ぐらい通っていますし、愛着もある。やはり日本人は日本の種に責任を持つべきだし、人任せじゃダメだなとチームを結成し、研究を始めました」

 

おおお、そこでヒーロー戦隊が誕生したんですね!!

「そうそう、それぞれが研究の得意技を持つアベンジャーズですね.笑」

川に飛び込む習性をとらえた様子は貴重なショット! 写真提供:外村康一郎氏 奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs

川に飛び込む習性をとらえた様子は貴重なショット!
写真提供:外村康一郎氏
奇虫や生餌の通販サイト - Terminal Legs

 

「種の保存法」の保護対象とするには、学名をつけなくてはならない

地球には総計約870万種の生物が生息すると推定されていますが、現在の絶滅速度から考えると、そのうち100万種もの種が絶滅するかもしれないといいます。一方で、全生物の86%、つまり750万種には、まだ学名がつけられていないのだそうです。

 

「日本には、絶滅のおそれがある生き物を守るためのルールが二つあって、その一つは環境省の『レッドリスト』。ここには明らかにその種類だとわかれば学名がついてなくても載せられ、生息域の開発を止めるなどはできるんですが、個人への明確な罰則はないのです。もう一つは『種の保存法』と呼ばれる法律。個体の捕獲や殺傷、売買を含む譲渡などの行為が一切禁止され、違反すると5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課せられます。ただ、その保護の対象とするには、他の生き物と識別できるようきちんとした学名をつけなきゃいけないんです」

 

なるほど、それが「誰かがやらなきゃ」ってお話につながるんですね!だけどオオムカデには、形態的な区別点があまりないってお話でしたよね…。

 

「実はそこがめちゃくちゃ苦労したところで…。最終的には塚本さんが見つけてくれたんですが、こんなに大きいのに、ほかの種との違いは、20本目の脚の先端にとても小さなトゲがあるかないかだけ。明らかになったときには、みんなで『ヤッター!!!』と絶叫しましたよ(笑)。遺伝子に関しても、ルリゴキブリのときと同じく国立科学博物館(現 昭和大学)の蛭田眞平先生にお願いしたんですが、オオムカデ属は『偽遺伝子』といって、実際には使われていないよく似た塩基配列が多く、正しい遺伝子を選び出すのがすごく難しい。こちらも苦労の末、最終的には完璧な解析結果を出してもらえました。アベンジャーズですから。」

 

やっぱり大変だったんですね。そもそも日本でオオムカデの新種が発見されたのは143年ぶりってことでしたが…。

 

「1878年にアオズムカデとトビズムカデを発表したのが、ドイツ人研究者だったんですよ。だから日本人の手によって、オオムカデ属の種が記載されるのは初めてのこと。結局、論文の発表までに約3年を要しました。最終的に、新種記載に向けて今回、『Zootaxa』(ズータクサ)という学術誌に投稿したんですが、『日本人初なら、そこに至る歴史をすべて書くように』という、とんでもなく負担の大きい宿題が出され(苦笑)、最後まで苦労しました。この研究チームの誰が欠けても最後まで到達できなかったと思います。全員の力が必要でした。」

ロシアツンドラ調査にて。調査には多くの方々の協力を得て行われる

ロシアでのツンドラ調査にて。調査には多くの方々の協力を得て行われる

 

人間の価値観なんて関係なく、動物学者として生き物すべてを守りたい

いやはや、気が遠くなるお話。そういえば「リュウジンオオムカデ」って、とってもカッチョいいネーミングなんですが、この由来はなんだったんしょう。勝手に龍神を連想していましたが、琉球の神で琉神だとか?

 

「この和名は、沖縄の故事にちなんでつけました。その昔、海にすむ龍神が、陸に上がって耳に入ったムカデに苦しめられていたところ、ニワトリがあっという間に耳からくわえ出して食べちゃったんです。それを見た龍神がムカデとニワトリを恐れたことで、琉球王朝時代から、船には航海の安全を祈ってニワトリの絵とムカデの旗が掲げられるようになったという伝承です。生息地に敬意を表し、漢字は『琉神大百足』としました。『Zootaxa』の審査員が、日本人の手による新種記載だから漢字で明記するよう指示してくれたんですよ」

 

それはなんと粋な計らい!ホントに漢字名があったとは。ちなみに学名は、カワセミに変身したギリシャ神話の女神アルキュオーネの名前をもとにした「Scolopendra alcyona Tsukamoto & Shimano, 2021 」。美しい翡翠色の体で川に飛び込む様がカワセミを連想させたからです。こうしてリュウジンオオムカデは、多足類で初めて「種の保存法」にもとづく緊急指定種に認定されました。

 

「昆虫以外の陸上の節足動物って、研究している人が多くないんですよね。クモは愛好家もいますが、それ以外はあんまり。だけど、リュウジンオオムカデと名前がついたこともあってか、このところ多足類を研究する学生や大学院生が増えてきているんですよ。すごくいいことだと思っています」

 

「僕は本当は昆虫の研究をしたいんですけどね」と笑う島野先生。自称“ひねくれ生物学者”を地でいく研究生活のようですが、その根底には熱い想いがあるのです。

果樹に寄生するミカンハダニ

果樹に寄生するミカンハダニ

落ち葉や微生物を食べるアラメイレコダニ。造形美が美しい!

落ち葉や微生物を食べるアラメイレコダニ。造形美が美しい!

顕微鏡でしか見えないくらいの大きさ(約1mm前後)ヒョウタンイカダニ

顕微鏡でしか見えないくらいの大きさ(約1 mm前後)のヒョウタンイカダニ

 

「人が手がけないものを率先して研究していかなきゃと思っていますし、人がやらない研究対象の方が逆に燃えるっていうか。放ったらかしにしておいて、『生態系を守る』も何もないじゃないですか。見た目が不快という人間の価値観なんて関係なく、動物学者として生き物すべてを守りたい。そのために名前をつけて、生態を明らかにし、その種を守っていくことが僕らの使命だと考えています」

モンゴルのゴビ砂漠ではヒヨケムシの調査も。世界を飛び回る島野先生。今度こそは、ご専門についてもお伺いしたいです!

モンゴルのゴビ砂漠でも調査を。世界を飛びまわる島野先生。今度こそは、ご専門についてもお伺いしたいです!

 

【珍獣図鑑 生態メモ】リュウジンオオムカデ

琉神大百足。2021年、国内で143年ぶりに発見された、オオムカデ属の新種。前種は明治時代にオーストリアの医者が採集し、ドイツ人が記載。沖縄の4地域と台湾で確認されている。体長約20 cm超、体幅約2cm。日本・台湾に生息するムカデ類では最大種で、陸上節足動物としても日本最大級。歩くとカチカチ爪の音がする。世界で3例目の半水生ムカデであり、日本最大の川エビ「コンジンテナガエビ」を捕食しているところが目撃されている。オオムカデ属では、国内から初めて日本人によって記載・命名されたもので、学名は「Scolopendra alcyona Tsukamoto & Shimano, 2021」。

じゃんけんに必勝法はあるのか!? 人間の「つい…」が詰まったグーチョキパーの不思議を、茨城大学・矢内先生が解説!

2023年9月12日 / この研究がスゴい!

勝敗を決するゲームの中でも、オセロだったり囲碁だったり将棋だったりは戦略がモノを言う部分がとても大きいもの。しかし、じゃんけんに関しては、勝率3分の1の運頼り、なはず。なんとなくそう思い込んでいましたが、実はそれだけでもないようで…。「日本じゃんけん協会」特別会員でもある異色の研究者、茨城大学の矢内浩文先生にご指南いただきました!

 

実は必勝法があった○○じゃんけん! ○○にさえ持ち込めれば確実!?

どうにもこうにも、じゃんけんが弱い。ここ一番のときも、必ず負ける。「必ず」ってこたないんだろうけど、負けた記憶しか残っていない。必勝法があるなら教えてほしい…

と思いながらも生まれてこの方、調べたことがありませんでした。しかし! どうやらテレビで評判のじゃんけん研究者がいるらしい! と耳にしてアタックしてみたのが、矢内先生です。矢内先生! じゃんけんに勝ちたいです…!

 

「いえいえ、じゃんけんの研究者ってわけではないんですけどね…。結論から言えば、じゃんけんに必勝法はありません。じゃんけんって結局、そのときの気分で出し方を変えたり、相手の雰囲気によって変えたりしますよね。だから一発勝負で絶対に勝つ、なんてことはあり得ない。しかし! 調査の結果、『連続じゃんけん』なら必勝法はあるんですよ…!」

 

連続じゃんけん!? つまり複数回で勝率を競うなら、確実に勝てるってこと!?

 

「うまく設定すれば可能です。じゃんけんって、テンポ良く続けていくと、ほとんどの人はついグーチョキパーの順番で出してしまうんです。もちろんずっとじゃありませんが、しばらくすると、またグーチョキパーに戻っていく。だからそれに勝つものを瞬時に出していけばいい。そんなパターンで出したら相手に読まれちゃう! と頭では思うんですが、じゃんけんに馴染みのある日本人なら、次々に迫られると無意識にそのループに陥ってしまいます。記録していくと、グーの次にチョキ、チョキの次にパーというのが相当数、発生するんです」

 

ホンマかいなと身内相手に何も言わず試してみたところ、まんまとめちゃくちゃグーチョキパーって出してくる! なのでズラしてグーチョキパーと出していけば、断続的に勝ちを量産できたんですが…この法則を無視して挑戦してみても、ついグーチョキパーと出してしまう自分に気づきました。これって日本のじゃんけんのリズムが「グーチョキパー」だから、ついそうなっちゃうってこと??

 

「だんだん開いていく手の動きに関係していることはわかっています。パーチョキグーだと動かしにくいでしょう。ただ、呼び方の順番との関係は、まだわかっていません。RPSと略すアメリカやカナダでは、ロックペーパーシザー、つまりグーパーチョキなんですよね。それだとパーからチョキが一番動かしにくいんですが、昔から慣れ親しんでいたら、われわれほど違和感がないのかもしれない。連続の必勝法も、日本人よりは通じないかもしれないですね」

 

一撃必殺!? 相手がついウッカリつられてしまう特殊じゃんけん

なるほど、動作のしやすさと長年培ってきた習性で、ついグーチョキパーになっちゃうんですね。いや、しかし! やっぱり一発勝負でも勝ちたいんです…! 必勝ではなくても確率が上がりそうな裏技みたいなものってないんでしょうか!?

 

「ちょっと変なじゃんけんで良ければ…連続じゃんけんほどの勝率はないんですけど、かなり勝てるものもあります。『パー見せじゃんけん』です」

 

「パー見せじゃんけん」!?

 

「“じゃんけん”のタイミングでしゃがんで、顔のあたりで手のひらを見せるんです。すると相手がつられて、“ポン”のタイミングでついパーを出してしまうんですよ。だからチョキで勝ちましょうというワザです」

 

手のひら、つまりパーを目にすることで、ついパーを出してしまうってことですか!? しゃがむのは、なぜなんでしょう。

 

「じゃんけんをするときって、わざわざ人の振る舞いを見ませんよね。じゃんけんを出す腰あたりに視線を向けている。だから、その下向きの視界に入って、瞬時にパーを印象づけるためです。それを、できれば笑顔でやったほうがいい。『なんだ、この人!?』とギョッとさせれば、一瞬戸惑って、ついつられてしまう。じゃんけんのリズムをとる“最初はグー”のところを“最初はチョキ”にすると、より効果的です」

 

これはわかります! 『連続じゃんけん』のときと同じく、パーを出しやすくするためのチョキですね。これまた試しにやってみたところ、まんまと引っかけられました! いや、勝てました! とはいえタネ明かしをしたら、以降は通じなくなってしまいましたが…。

取材時も画面越しに矢内先生とじゃんけん。先生の理論を実践してみた

取材時も画面越しに矢内先生とじゃんけん。先生の理論を実践してみた

 

「負けるが勝ち」と頭でわかっていながら、つい勝ってしまうことも…

「連続じゃんけん」も「パー見せじゃんけん」も、ついやっちゃうっていうのが面白いですね。

 

「相手より後に出して負けていく『後出し負けじゃんけん』もそうです。テンポ良く進めていくと、つい勝っちゃうんです。ちょっとやってみますか。タイミングは、じゃんけんポン・ポンぐらいで…」

 

よし、負けるぞぉ~! じゃんけんポン・ポン! じゃんけんポン・ポン! ぐわぁ、2回目で早速勝ってしまった…!

 

「ね?(笑) ルールはわかっているのに、つい勝とうとしちゃうんですよ。これは、今まで負けようと思ってじゃんけんをしてこなかったせいでしょう。いざ挑むと、体中が勝つモードになってしまっていますからね」

 

強すぎる勝ちへの執着心に操られているのかと思いましたが、自分に限ったことじゃないんですね。なんかちょっと安心しました。

 

「そういえば、道を歩いていて人とすれ違うとき、よけようとしたら相手も同じ側によけちゃう“お見合い”ってあるじゃないですか。しかも、それが何回か続いてしまう。このことと『後出し負けじゃんけん』が関係あることに、数年前に気づいたんです」

 

んんん、どゆこと!?

 

「『後出し負けじゃんけん』も、相手の5秒後に出せるなら確実に負けられますが、今みたいに1秒よりも早いペースで出していくと、つい間違えてしまう。歩いていくときも、相手がどちら側によけるのかという判断の迷いが、わずか1~2秒で生じてしまう。これが『後出し負けじゃんけん』とリンクしているんじゃないかと。何コンマ何秒を境に負けるつもりでもつい勝っちゃうかがわかれば、道をどういうデザインにしたら“お見合い”が起こりにくくなるのかも見えてくるんじゃないかと考えています」

ご専門の錯覚をテーマにしたペーパークラフト工作教室では、両目で見ると錯覚しない(しにくい)けれども、片目で見ると錯覚することを説明する矢内先生

ご専門の錯覚をテーマにしたペーパークラフト工作教室では、両目で見ると錯覚しない(しにくい)けれども、片目で見ると錯覚することを説明する矢内先生

 

じゃんけんが持つ「つい○○してしまう」の要素はそこかしこに

まさかじゃんけんの話が、都市デザイン的なところにまで及ぶとは! そもそも「じゃんけんの研究者ってわけではない」ってことでしたが、矢内先生っていったい何者なんですか? 主宰されている研究室は「人間情報工学」ってことですが…。

 

「人間情報工学は、人間に関する情報を研究して、工学的な応用をめざそうという分野です。人間がいかにその物事を判断しているのか、心理的な過程にも注目しているので、自身の専門を語るときは『メンタルプロセス情報学』と呼んでいます。たとえば、朝、出勤してきたときに、職場のカメラに向かって一言しゃべりかけることで、これまでの1週間に比べて今日は元気がないなどの判断をするシステムの開発に協力したりしています。すでに実用化されているものでは、書店で万引きしそうな人を察知して店員に通知するシステムもあります。元気がないとつい顔の動きがこうなってしまうとか、万引きする前はついこう動いてしまうとか、僕の研究は『なぜ人間はつい○○してしまうのか』を分析することなんです」

頭上から撮影した映像を用いて、頭部の揺れから個人を特定する(個人認証する)実験の様子

頭上から撮影した映像を用いて、頭部の揺れから個人を特定する(個人認証する)実験の様子

 

おおお、そこが今までのじゃんけんのお話につながるわけですね!! 教えていただいたパターンに限らず、じゃんけんって、これを出すつもりがつい違う手を出して負けちゃったとか、意外に勝てちゃったとかいったことがありますもんね。

 

「じゃんけんって、例えば将棋みたいに作戦がうまくいけば確実に勝てるようなものでもなく、人間が感覚的に『ついこんな手を出しちゃった』といったことが頻繁に起こるでしょう。そこを興味深く感じています。『後出し負けじゃんけん』に関しては、研究室の学生たちと計画を立てて、人を募集して、実験に参加してもらうといったことを、細々とやっていて。メトロノームのようなものでテンポを決めて、こういうタイミングだと勝ちやすいとか負けやすいとかいったことを断続的に実験しています」

 

それは面白そう! しかしながら、つながる部分はあれど、もともとじゃんけんに関心を持たれたのって、どういうきっかけだったんでしょう。

 

「確か20年ほど前、京都大学理学部におられた篠本滋先生のご著書をいただいたことがきっかけです。脳の働きを数式で表現するニューラルネットワークという分野の教科書だったんですが、そのなかに『ニューラルネットワークの機能を使って、じゃんけんマシンをつくったら強くなるのでは』といったことが書かれていたんです。僕自身も当時、同じ分野の研究をしていたので興味深く、手がけてみたのがはじまりです」

 

大昔、ゲームセンターにありましたねぇ、じゃんけんマシン! でもあれはランダムに出してくるものでしたが…人間に勝てるようにプログラムするなんて可能なんでしょうか。必勝法はないってお話でしたが…。

 

「今までこういう順番で出してきたから、次はこれだろうという予測を毎回するわけです。何十回か勝負をしている間にコンピュータがその人のクセを読み取って、どんどん予測を繰り返していくんです」

 

なるほど! 特定の相手との対戦中に学習していくわけですね。それってAIと同じなんじゃ…?

 

「まさにAIのルーツです。じゃんけんマシンに使ったようなネットワークを、膨大な蓄積を組み合わせていったものが今のAIです。とは言え、オセロとか囲碁とか将棋とかなら、いろんな相手と対戦して学習していけばどんどん強くなっても、じゃんけんは必ず勝てるようにはなりません。じゃんけん必勝マシンなるものもつくられているんですが、それは相手の動きを見て何を出すか察知し、後出しだとわからない早さで出しているだけ。モノとしては面白いですが、本来のじゃんけんではないんですよね」

 

確かに「動きを読む」という形でなら勝てても、それって本来のじゃんけんじゃないですもんね。言われてみて気づいた、パーからチョキは出しにくかったり、お互いが間合いを計ったり…人間的な要素がじゃんけんの醍醐味な気がしてきました!

 

「そうなんですよね。いろいろ手がけていくなかで、コンピュータでボタンを押して戦うようなじゃんけんは、本物のじゃんけんではないと気づきました(笑)。コンピュータだと単に人間がどんなパターンで出してくるかの予測でしかありませんが、じゃんけんって途中で作戦を変える駆け引きも多いし、『つい出してしまう』という弱さもある。単純なゲームのなかに、人間味が詰まっているのが魅力です。この必勝法でいけると思っても通じない人がいるなど、ひと筋縄ではいかないところも面白い。じゃんけんで起こる『つい』を解き明かし、ほかの現象の解明にも役立てられたらと思っています」

最近では、さまざまなメディアに登場する矢内先生。錯覚が生じる原理について説明中

最近では、さまざまなメディアに登場する矢内先生。錯覚が生じる原理について説明中

珍獣図鑑(19):魚のオシリにカジリついた状態で発見! 寄生性甲殻類のニューヒーロー「オシリカジリムシ」

2023年6月6日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第19回は「オシリカジリムシ×上野大輔先生(鹿児島大学大学院理工学研究科 准教授)」です。それではどうぞ。(編集部)


種よりも上の分類である属、さらにその上の科の新設は極めて異例!

字面を見た瞬間、「♪オシリカジリムシ~」とあの声真似で口ずさんでしまう方も多いでしょう。NHK「みんなのうた」で爆発的ヒットとなった、「おしりかじり虫」。架空のキャラクターだとお思いでしょうが、実は「オシリカジリムシ」という生き物が実在したんです!! …とはいえ、2021年5月に見つかった新種。その名づけ親が、鹿児島大学大学院 理工学研究科の上野大輔准教授です。

 

「私の専門は系統分類学で、なかでも甲殻類である寄生性のカイアシ類というグループを扱っているのですが、オシリカジリムシもその仲間です。カイアシ類すべてが寄生生物ではないものの、寄生生活をするカイアシ類はわかっているだけでも何千種類もいまして、その宿主生物もさまざま。オシリカジリムシの最初の1匹は、チワラスボという干潟や泥の中で暮らすハゼ類から見つかりました。別の研究科の大学院生が、『シリビレに何かついていました』と持って来てくれたんです」

 

シリビレに!? まさにオシリカジリムシだ! 発見したのは、農林水産学研究科の是枝伶旺さん。鹿児島県出水市を流れる小次郎川河口の干潟で15cmほどのチワラスボを採集したところ、付着する1.3 mmの「何か」に気づいたんだとか。寄生性の甲殻類といえば、以前、このコーナーでも紹介したフクロムシもそうでしたが…。

★フクロムシの記事はコチラ

 

「フクロムシが寄生するのはエビやカニといった甲殻類なんですが、カイアシ類は魚や貝、イソギンチャクやクラゲなど、種類ごとに利用する宿主生物も違います。寄生の仕方も種類ごとに変わっていて、イソギンチャクに寄生するものでも、表面にくっつくものもいれば、胃の中にコブのようなものをつくって暮らすものもいる。ものすごくいろんなところにいるのがカイアシ類です。探しづらいところに隠れているということもあり、かなりマイナーな生き物。あまり研究されていないので、一回調査に行くと必ず新種が何種類か採れるほどです」

鹿児島県内の干潟で発見された体調1.5 mm以下のオシリカジリムシのメス。メスは卵を体外にぶら下げていることが多いほか、その卵を作る部分(生殖節)が大きく発達しているのが特徴

鹿児島県内の干潟で発見された体調1.5 mm以下のオシリカジリムシのメス。メスは卵を体外にぶら下げていることが多いほか、その卵を作る部分(生殖節)が大きく発達しているのが特徴

 

あれ? ということは、オシリカジリムシの発見も、そんなに驚くべきことでもなかったのかしら…。って、いやいや、オシリカジリムシをくくるグループも存在しなかったから「オシリカジリムシ属」、さらにその上の「オシリカジリムシ科」まで新設されたってニュースに出てましたよ!? これって相当、珍しいことなんじゃ…。

 

「私も10年ほどカイアシ類の研究をしてきましたが、顕微鏡で確認したときに『これはなんだろう?』と思ったんですよね。新種だとはすぐ気づいたものの、顕微鏡の倍率を上げていくうちに、『これはものすごくやばいやつだ』と。心臓がバクバクしはじめ、一人で大興奮していました(笑)。新属かもしれないだけでなく、科もよくわからない。『まさか新科ってことはないだろう、いや、ひょっとすると新科かもしれない…』と、その後は家にも帰らず調べたんですが、今あるおよそ70の科に該当するものがなかったので、数時間後には『これは多分、新科だ!』と判断し、翌日には必要な資料をすべて調べ直してから、発表に向けて急いで論文執筆に取りかかりました」

研究室には20,000点を超える標本が並ぶ(5年前の調べより)。現在も増え続け、大部分が未記載種(新種)!

研究室には20,000点を超える標本が並ぶ(5年前の調べより)。現在も増え続け、大部分が未記載種(新種)!

 

聞けば新種は100近く、新属も10ほどは発見されているという上野先生。それでも新科を発見されたことはなかったといいます。「新科だ!」と思われた夜は興奮で眠れなかった、なんてことも…。

 

「いや、そこまでは(笑)。一度寝て頭を働かせないと、時々とんでもない見落としをすることがありますからね。今までも『これは新属で、しかも新科だ…!』と思い込んで調べ直したら、1800年代などの非常に古い文献に載っていて、がっかりしたこともありますので(笑)。この先、引退するまで何十年か研究をすると思いますが、科のレベルで見つかるのはそうそうないこと。科を見つけたら研究者は誰しも色めき立ちますよ」

 

早く記載しないと! と、急ぎながらも確実に準備を進めたわけですね。発見されたのが2021年5月で、2022年1月には、イギリスの寄生虫学雑誌『Systematic Parasitology』のオンライン版に論文が掲載されたというから、素人ながら、かなりスピーディーな動きだったように感じます。

 

「ちょうどうちの学生が、海岸で採ってきた小さい貝に新種っぽいのがいると乗り気になって研究を進めていたら、先に韓国の研究者が新種だという論文を出してしまったところだったんですよね。新科でそれをされてしまっては、精神状態がどうにかなってしまいそうなので(笑)、ほかの仕事を全部放り投げて大慌てで進めました。おかげで発見から数カ月で発表できてラッキーでした」

鹿児島県下甑島で行われたタカエビ漁(深海底曳き網漁)の選別現場にて。深海魚、カニ、イソギンチャクなどの混獲生物を採集する現場では、1体ずつを調べる気の遠くなる作業!

鹿児島県下甑島で行われたタカエビ漁(深海底曳き網漁)の選別現場にて。深海魚、カニ、イソギンチャクなどの混獲生物を採集する現場では、1体ずつを調べる気の遠くなる作業!

さらに、採集された生物を観察・解剖し、カイアシ類を含む寄生生物を探索する

さらに、採集された生物を観察・解剖し、カイアシ類を含む寄生生物を探索する

 

機会があれば名づけたいと長年、温めてきた「オシリカジリムシ」!

学名は、足の形が踊っているように見えることから、ギリシャ語でダンサーを意味する「コレフトリア」と、発見場所につながる八代海の別称、不知火海を組み合わせて、「コレフトリア・シラヌイ」と命名。「オシリカジリムシ」は、その和名です。「機会があれば名づけたいと、ずっと思っていた」と上野先生は振り返ります。

 

「私が大学院生の頃、『おしりかじり虫』が大流行していたんですよね。言葉的に完成度の高い響きだなぁと感じ、その頃、寄生虫の研究もしていましたので、いつかこの名前をつけられたらいいなと考えていました。とはいえ、何らかの生き物のオシリにカジリついている寄生生物はいっぱいいるので、新種ぐらいでは難しい。だけど今回、科もわからないような珍しいものが見つかり、唯一わかった手がかかりはシリビレにつくということだけ。これはもう、オシリカジリムシにするしかないなと」

 

そんなに長く温められていたとは! 命名するにあたってはもちろん、NHKや作者のうるまでるびさんらに確認を取られたそうですね。

 

「1個体目が採れた鹿児島県出水市の市長さんらが、『オシリカジリムシ』をえらく気に入ってくださって、あれこれ市民向けのイベントをしてくださったんですよ。秋にあった読書週間のイベントでは、うるまでるびさんまでお呼びくださり、対面でお話もできて…。ご本人も、『オシリカジリムシという響きは自信作だ』とおっしゃっていました」

 

確かに! インパクトも大きいし、親しみやすいし、興味がわいてくる名前です。

 

オシリカジリムシは古い形質を保ったまま、ひっそり生き延びてきた!?

オシリカジリムシは、これまでに見つかっているカイアシ類と、どこがどう違うのか。そもそも何千種類もいるって時点で、想像を絶するんですけど…。いったい何が珍しいのか、一般人でもわかるものなんでしょうか。

 

「説明も非常に難しいんですよね…。ちゃんとカイアシ類を知らないと、何がどう違うか説明できないぐらいの…。たとえばカニなら、あのハサミが1対ではなく3対あるようなイメージです。そんなカニが採れたら、カニではなさそうに思うでしょう? そういうレベルで形態も変わっていて、魚に寄生しているカイアシ類はたくさんいますが、それらとは似ても似つかぬ形をしています。魚ではなく貝やゴカイなどに寄生しているカイアシ類に近い。そういったものに寄生していたグループが進化して、宿主を魚に乗り換えたんじゃないかと考えられるほど違います」

体調3 mm程度のホヤノシラミ科の一種。ホヤに寄生するカイアシ類

体調3 mm程度のホヤノシラミ科の一種。ホヤに寄生するカイアシ類

鹿児島県三島村竹島港での野外調査にて。二枚貝に寄生する珍しいカイアシ類(多分新種)を発見したそう

鹿児島県三島村竹島港での野外調査にて。二枚貝に寄生する珍しいカイアシ類(多分新種)を発見したそう

小笠原諸島父島沖では水深25mまで潜り、さまざまな魚類や貝類に寄生するカイアシ類 (新種多数)を採取

小笠原諸島父島沖では水深25mまで潜り、さまざまな魚類や貝類に寄生するカイアシ類 (新種多数)を採取

 

なるほど! よくわからないながらも、今まで見つかっているものと全然違うことはわかりました。研究者からしてみたら、「魚にこんな形のカイアシ類が寄生するなんて!?」ってなビックリ度合いなんですね。そういえば、顎(アゴ)に特徴があるってことだったんですが…なんとなくのイメージででも教えてもらえたら…。

 

「たとえば、昆虫のクワガタムシは大顎が角みたいになっていて、オス同士で闘うための顎は1対あれば充分なので、進化の過程で他の部分は小さくなったり、なくなったりしていくのです。全部、比喩にはなってしまいますが、オシリカジリムシは、ほかの顎で用が足りているはずなのに、同じ役割をしていそうな顎がもう1対あります。専門用語で言うと大顎と顎脚(がっきゃく)が両方とも大きい状態で残っている。第一小顎、第二小顎といったものも、ちゃんと残っているということがかなり特殊です。要らないものは切り捨てられ、要るものを特殊化させて発達させることがトレンドですが、オシリカジリムシはちゃんと全部あるので、古い形質に近いかもしれません」

大顎や顎脚、第一小顎、第二小顎が残っているオシリカジリムシ

大顎や顎脚、第一小顎、第二小顎が残っているオシリカジリムシ

 

古い形質!?

 

「さらに、体の後ろの方に卵をつくる部分=生殖節も、多くの寄生カイアシ類は2節分が合体して大きい卵をつくれるようになっていますが、オシリカジリムシの場合、 卵をつくるところが1節分のままで、ものすごく小さい。

卵は体の前方で作っていて、卵の束に袋を被せて生み出しています。他の種では、次の節と癒合することが多いのですが、この種では癒合していません。そういう意味で原始的である可能性があります。

生き物は進化につれ古い形質に戻っていくこともありますが、あくまでも推測の域ながら、オシリカジリムシは古い形質を保ったまま残っているのではないかと考えています」

 

何それ、めちゃくちゃ興味深い! これまた推測の域にはなるんでしょうけど…なぜ古い形質を保ったまま残っているのか、想像されたりするんでしょうか。

 

「想像はいくらでもしています(笑)。そもそも今までチワラスボから寄生生物が見つかったことはなく、いないものだと思っていたんですよ。泥の中を動いていますから、体がこすられて、寄生しにくそうでもありますし…。そんななかオシリカジリムシは、かなり初期の段階で寄生に成功しちゃって、そのまま体を変える必要がなかったのかなと。全部推測ですけれども…そういった謎の多さが寄生生物に魅了される部分でもあります」

 

次第に増えてきた標本たち。DNA解析などで、謎の生態を明らかに!

オシリカジリムシはそもそも、なぜ魚のオシリ=シリビレをカジっているんでしょうか?

 

「魚の表面にくっつくために、振り落とされにくいヒレを選んでいるんだと思われます。最初の1匹はシリビレでしたが、背ビレについている個体もいまして、厳密にはシリビレか背ビレです。まだ正確に調べられていませんが、口の構造を見る限り、ノコギリのような歯があるので、表面にしがみつき、粘液や皮膚を削り取って食べているのだろうと思われます。チワラスボには虫刺されに似た赤い刺し痕が見つかることもあるんですが、断定はできないものの、オシリカジリムシがカジリついた痕なのではないかと」

 

おお、その後けっこう見つかったんですね!!

 

「とても珍しいものだったとわかってやる気が出たのか、発見者の是枝くんがチワラスボを探す際に見てくれるようになり、実は結構いるということがわかったんですよね。チワラスボ自体、日本の中だと実はそんなに分布域が限定されている珍しい生き物というわけではなく、割と広い範囲にいるのですが、ずっと泥の中にいて出てこない魚なので、見過ごされていたんでしょう。そもそも簡単に採れる魚ではないので、彼の執念がすごすぎます」

 

最初はメスの1個体だけだったのが、現状ではオスも含めて10個体以上、集まっているとのこと。近縁種から採れたものも何個体かいますが、すべてチワラスボの仲間なのだそうです。

 

「オシリカジリムシがどういう暮らしぶりをしているかなど、その生態についてはまだまったくわかっていませんが、これだけ標本が採れたので、DNAの研究も始めようかと思っています。寄生性のカイアシ類はあまり研究されておらず、DNA情報もまだ少ないですし、どういう進化をたどってきたのかを調べるのは時間がかかりそうです。しかしDNA情報を使って系統解析などをしてみれば、追々わかってくるのかなと思います」

体長は1cm程度あり、カイアシ類(コぺ)にしては大きなサメにのみ寄生するサメジラミ

体長は1cm程度あり、カイアシ類(コぺ)にしては大きなサメにのみ寄生するサメジラミ

トラギス類の眼球内に寄生するメダマイカリムシ(体長1 cm程度)。木の根のように発達した把握器を眼球に食い込ませる構造がイカリに似ていることから名付けられた

トラギス類の眼球内に寄生するメダマイカリムシ(体長1 cm程度)。木の根のように発達した把握器を眼球に食い込ませる構造がイカリに似ていることから名付けられた

 

鹿児島県沿岸は、世界的にも多様な生物が暮らす海域で、これまでにも多くの新種が発見されてきました。今回、どの科に分類できなかったオシリカジリムシが発見されたことで、さらに珍しいものが見つかるのでは!? と期待がふくらんでいます。まだまだ謎だらけのオシリカジリムシ。これから解明されることばかりなんて、ワクワクです!

 

「未知の生物を誰よりも早く見つけたり、適切に分類されていないものに気づけたりして、『すごい発見をしたのではないか!?』、『これを知っているのはおそらく私だけ!』と思えるのが、何千種類もいる寄生性カイアシ類を研究する面白さでもあります。干潟に暮らす生き物には、さまざまな共生関係がありますが、人の目にふれない環境でもあり、明らかになっていないのも多い。オシリカジリムシの発見は、そのことを示唆する好例だったんじゃないでしょうか。これから保全も視野に入れつつ、研究を進めていきたいですね」

鹿児島県錦江湾で大量発生したタコクラゲを採集。クラゲから共生・寄生生物を探し出したそう

鹿児島県錦江湾で大量発生したタコクラゲを採集。クラゲから共生・寄生生物を探し出したそう

北海道サロマ湖で行われた完全結氷環境下での寒冷地潜水の練習の様子。この後、南極調査を予定していたが、コロナで中断しているそう

北海道サロマ湖で行われた完全結氷環境下での寒冷地潜水の練習の様子。この後、南極調査を予定していたが、コロナで中断しているそう

 

【珍獣図鑑 生態メモ】オシリカジリムシ

オシリカジリムシのメス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年5月に鹿児島県出水市の小次郎川河口干潟で採集された、ハゼ科魚類のチワラスボのシリビレから発見。カイアシ類の新種で、2022年に新設されたオシリカジリムシ科オシリカジリムシ属に分類される、寄生性の甲殻類。和名のオシリカジリムシは、NHKみんなのうた「おしりかじり虫」のキャラクターに由来。学名はコレフトリア・シラヌイ。体長1.3 mm程度。茶色がかった半透明の殻に覆われていて、ノコギリのような歯がある。大顎、顎脚、第一小顎、第二小顎などが残存。近縁な種が見つかっていないため、詳しい生態については、ほぼ不明。

珍獣図鑑(17):きゃわゆい見た目で残虐な一面も!? ギャップ萌え大、もふもふウォンバットの魅力

2022年11月1日 / この研究がスゴい!


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、誰にも振り返られなかった生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちと生き物との出会いから、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。そしてもちろん基本的な生態や最新の研究成果まで。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第17回目は「ウォンバット×高野光太郎さん(サンシャインコースト大学 健康・行動科学部 博士課程在籍)」です。それではどうぞ。(編集部)


鋼のおケツで敵を撃退!? かわいいダケジャナイ、魅惑の野性味

「ずんぐり」「むっくり」という言葉は、ウォンバットを表すために生まれたものかもしれない。ああ、いつ見ても愛くるしい。なんて癒される生き物なんだ…。

たびたび現実逃避のために訪れる「ウォンバットてれび」(大阪『五月山動物園』のウォンバットをライブ放映するWebページ)を眺めながら悦に入っていたところ、本場オーストラリア在住の“ウォンバットを愛し、ウォンバットに愛されたウォンバット研究者”にお話をうかがえるという僥倖が到来!

ねっ、高野さん、ウォンバットの魅力は、あの辛抱たまらんカワユさですよね!?

 

「かわいいところがフィーチャーされがちで、僕も実際かわいいと思いますが、野生の世界において、かわいいだけでは生きていけません。その気になればウサイン・ボルトくらい速く走れるほど機敏ですし、お尻で敵を殺す能力も持っているんです」

 

なんですってぇぇぇ!? あのきゃわゆいウォンバットのおケツが凶器の殺戮マシーンですと!?

 

「とはいえ、よっぽどしつこく敵に狙われたときだけですよ。天敵はあまりおらず、オーストラリア本土だとディンゴ、タスマニアだとタスマニアデビルが、まれにウォンバットの子どもを襲うぐらい。ウォンバットは大きくなると30~40kgにもなるので、ディンゴであっても簡単には殺せませんからね。もし追いかけられても、ウォンバットはああ見えて短距離であれば時速40kmほどで走れます。近場の巣穴に逃げ込み、玄関で止まって、お尻でフタをするんです」

 

お尻でフタ?! もしやスカンク的な毒ガスに殺傷能力が…。

 

「ウォンバットのお尻は最大で厚さ6cmくらいの組織に覆われていて、お尻をノックするように叩いてみると、コンコンとまさに机を叩いているような音がするくらい、非常に硬いんです。だから肉食獣に噛みつかれても少し毛が抜けるくらいで、歯は貫通しません。しかもそんなに神経が通っていないので、痛みもあまり感じないんですよ。その状態になると、大抵の肉食動物は引き下がります。ただ、たまに往生際の悪い動物が諦めない場合、ウォンバットはわざと姿勢を低くするんです」

 

ぬぬ、必殺技を繰りだす構え!?

 

「そこで肉食動物が首に噛みつこうとした瞬間、ウォンバットはお尻を上げてその頭を巣穴の天井で挟みます。それを何度も繰り返しているうちに、敵は頭蓋骨が粉砕され、息絶えてしまう。たまにウォンバットの巣穴の前で死んでいる肉食動物が見つかるのは、そのためです。だからオーストラリアでは、ウォンバットの巣穴を見つけても絶対に腕を入れてはいけないと言われています。昔、子どもの腕が折られたこともあったようです。見た目にそぐわず、荒々しい技を持っているんですよ」

 

動物園での姿を見ているだけでは思いも寄らない、衝撃の事実! しかしわが身や子どもを守るために俊足と硬ケツを駆使するとは……ワイルドな一面もかっこよく思えてきました。いわゆるギャップ萌えってやつですね。

 

「あんなにずんぐりむっくりでかわいい見た目なのに、野生動物ならではの強さや凶暴さ、荒々しさを兼ね備えているのが逆に魅力でしょう? 動物園やペットの動物もかわいいですが、触るよりも遠くで見て、厳しい環境を生き抜くそのたくましさに惹きつけられるのも野生動物の良さ。ウォンバットは、かわいさとたくましさが共存している動物だと思います」

野性味あふれるウォンバット。かわいいダケジャナイという言葉を裏づける力強い様子がうかがえます

野性味あふれるウォンバット。かわいいダケジャナイという言葉を裏づける力強い様子がうかがえます

 

もふもふに見えて実は…。出会うなら夕刻のタスマニアで!

まだまだ奥が深そうなウォンバット。オーストラリアの固有種で、生息地は本土の南東部とタスマニアです。そのエリアに行けば、普通に出会えたりするんでしょうか?

 

「彼らは割とさまざまな環境にうまく適応して生きています。草原、森林、雪山、稀にビーチにも降りてくることもあり、暑くなく十分な食料さえあれば基本的には大丈夫みたいです。

夜行性ではあるものの、タスマニアのような寒いところでは昼間でも見られます。

タスマニアの面積は、だいたい北海道と同じくらい。個体数で言えばより広い本土のほうが多いのですが、個体間密度で言えばタスマニアの方が高いので、ウォンバットを見たいとなればタスマニアの方がいい。夕方頃に彼らの生息地の国立公園内などをウロウロしていれば、結構出会えるんじゃないでしょうか。とはいえ、農場や道路のために生息地が破壊されたり改変されたりして個体数の減少が懸念される地域もあるのも事実です」

 

まだまだ気軽に豪州へGO、とはいけませんが、ばったり遭遇できるなんて夢があります。日本では現状、大阪の『五月山動物園』と長野の『茶臼山動物園』にいるだけですからね。オーストラリアの動物園でもウォンバットは人気のようですが、オーストラリアに住んでいる人も動物園に見に行ったりするのかしら。

 

「もちろん長年オーストラリアに住んでいる人でも、都市に住んでいたら見られませんし、ウォンバット目当てで動物園に見に行く人たちもいるようで、場所によっては抱っこもできたりもしますね。ただ、日本と違って入園料がとても高く、僕が住んでいるサンシャインコーストの動物園で7千円くらい。抱っこするのに1万円ぐらいかかるところもあります。そのお金を園の運営や野生動物の保全に使ったりしているんですよ」

 

カルチャーショック! 日本だと『茶臼山動物園』も激安だし、『五月山動物園』なんて無料ですもんね。ありがたいけど、ちゃんと動物にお金が使われると聞くと、高くてもいいような気がしてきました。そういや、もふもふのイメージなんですけど、触り心地はどうなんでしょう。

 

「毛はかなり硬いですよ。硬さで言うと、イノシシと同じぐらいです。ちなみにコアラやカンガルーはとても柔らかいです」

 

これまた意外! なんとなくコアラぐらいを想像していました。触ったこともないですが…。イノシシを触ったこともないですが、イメージ的には相当硬そう。体重も重いようだし、抱っこは夢想で留めておくほうが良さそうです。しかし毛も硬いっていうのは、そこにも攻撃的理由が…?

 

「というより、巣穴を掘るときに泥がつくので、硬い方が都合もいいのではないでしょうか」

体重20~35kgにもなるウォンバット。ずっしりとくる重さ

体重20~35kgにもなるウォンバット。ずっしりとくる重さ

 

四角いウンチの秘密は、人間宅でも普通に使っている〇〇代わり!?

そういや巣穴があるんでしたよね。どういう暮らしなんでしょう。

 

「基本的には単独行動。群れは成しません。他のウォンバットと必要以上に近づくのを避けるため、どんな手法を使うかというと、たまに話題になる四角い糞です。研究内容が2019年にイグノーベル賞を受賞したことでも有名になりましたよね」

 

そうだ、肝心な疑問を忘れていました! Twitterだかで流れてきた画像を見て「!?」となったものの、とくに理由も調べず…。やっぱ何かしらの理由があったんですね。他のウォンバットを寄せつけないってことは、スクエア・ウンチに結界的なパワーがあるとか?

表札がわり?!な四角い糞

表札がわり?!な四角い糞

 

「自分の巣穴の前に糞をしておけば、他のウォンバットが来たとき匂いで気づきます。今ここにすんでいるので入ってこないでくださいという、表札のような役割を果たしています」

 

なるほど、表札だから四角いわけですね…って、いやいや、それは人間にとってのスタンダードなだけじゃ?

 

「丸いと風や雨で転がってしまうからです。1日にだいたい80~100個くらい糞をするので、巣穴が使われているかどうかはすぐわかります。ウォンバットは、目はそれほど良くないんですが、鼻は結構利くようです。人付き合いならぬウォンバット付き合いが非常に苦手な彼らが他の個体との接触をなるべく避けるために採用したのが、このフンの匂いを使ったコミュニケーションなんですね。ちなみに、研究のフィールドワークの一環で、野生のウォンバットを捕まえる際に大きな虫網のようなものをかつぎながら遠くからゆっくり近づいていくのですが、風上に僕らが立つと、50mくらい離れていても匂いで逃げてしまいます。つまりそれくらい『匂い』というのは彼らにとって重要な情報源なのです」

 

それはかなり敏感! 音に対してはどうなんでしょう。

 

「おそらく耳も悪くはなく、音を立ててしまうと逃げられる。草を食べている間は大丈夫なのですが、物音に気づくと顔をあげてキョロキョロし、目が合ったらあっという間に逃げてしまいます。気のせいかと思うとまた草を食べ始めるので、その間に抜き足差し足で近づいていく。まさに『だるまさんがころんだ』のように、動いて止まってを繰り返しながら距離を詰めていくんです」

 

うわあ、その様子も見てみたい! それは無理だとしても、四角いウンチは動物園に行けば見られるものなんでしょうか。百発百中で四角くなるのですか?!

 

「野生のウォンバットはあまり水を飲まず、食べ物から水分を摂取し何日もかけて草を消化していくため、糞は非常に乾燥した状態で出てくるので四角くなりやすいんですが、動物園のウォンバットは草以外にも果物や穀物なども与えられているので、柔らかくて四角さを保てない傾向にあります」

 

もし動物園で見られたら、かなりラッキーなわけですね!

コアラと同じ祖先をもつウォンバット。木登りしないため「地上のコアラ」と称されることも

コアラと同じ祖先をもつウォンバット。木登りしないため「地上のコアラ」と称されることも

 

ウォンバットは全部で3種類。うち2種類は想像とは違う“毛鼻”?

草食のウォンバットは、葉っぱも食べれば根っこも食べます。必要であれば木の皮も食べるんだとか。

 

「面白いのは、有袋類なのにげっ歯類と同じく一生前歯が伸び続けること。だから固いものを食べて、長くなり過ぎないようにしています。ウォンバットは全部で3種類いて、日本にいるもの、つまりウォバットと聞いて皆さんが思い浮かべるのはヒメウォンバット。一番メジャーな種類で、オーストラリア本土の南東部に広く生息しています。英名はコモンウォンバットなんですが、common=一般的と聞くと、生息地減少や交通事故、または感染症で個体数が減っている地域もあるのに身近で見られるという印象を与えかねない。ということで最近は、ベアノーズドウォンバット(Bare-nosed wombat)、つまり鼻がむき出しのウォンバットと呼ばれつつあります」

 

知らなかった! ふだん思いを馳せているウォンバットだけじゃなかったんですね。ヒメウォンバットの鼻がむきだし、ってことは、あとの2種類は…。

 

「鼻が毛で覆われている、ミナミケバナウォンバットとキタケバナウォンバットです。ミナミケバナウォンバットは南オーストラリア州に小さな個体群が点在しているのみ。3種類のなかで一番小さい種類で、ヒメウォンバット同様、生息地減少、交通事故、感染症、または家畜やウサギなどの外来種との競争により個体数が減少しつつあります。3種の中で一番大きなキタケバナウォンバットは絶滅危惧種。現在はクイーンズランド州の保護区に350頭がいるだけです。18世紀ごろに始まった西洋人入植前はオーストラリア東部に広く分布していましたが、畜産などによる森林伐採や生息地減少、またはヨーロッパから同時期に持ち込まれた野犬などの捕食により、1980年代には35頭くらいにまで減ってしまいました。それを受け、生息地を柵で囲って野犬やキツネなどの肉食獣またはそれらが媒介する感染症からウォンバットたちを守るなど強力な保全努力を続けた結果、奇跡の生還を果たしました。とはいえ、まだ350頭なので、地球上で最も珍しい哺乳類一つです」

母親を交通事故で亡くし、ボランティアさんに保護された孤児のヒメウォンバット。数時間置きの授乳や、家具を破壊する野生のパワーなど、簡単な仕事ではない

母親を交通事故で亡くし、ボランティアさんに保護された孤児のヒメウォンバット。数時間置きの授乳や、家具を破壊する野生のパワーなど、簡単な仕事ではありません

 

研究の成果が新たな治療薬の認可につながった

個体数が減ってきている原因として現在、大きな問題となっているのが、高野さんの研究対象でもある疥癬(かいせん)と呼ばれる皮膚病なのだとか。

 

「疥癬はダニの寄生によって引き起こされる皮膚病で、人間も含めた150種類ほどの哺乳類で報告されています。とくにウォンバットの被害はひどく、疥癬によって絶滅している地域もあるほど。それをなんとかしようという研究プロジェクトに、ここ数年携わっています。

治療薬は家畜やペットにも使われている寄生虫駆除薬。肩甲骨の間に垂らし、皮膚の中に吸収されると血液とともに体中に回っていき、ダニに作用するものです」

 

疥癬は人から人への感染も問題になっている病気ですよね。だけどなぜ、ウォンバットでは絶滅につながるほど、被害が拡大してしまったのでしょう。群れないってお話だったのに…。

 

「一つはウォンバットの巣穴がダニにとって非常にいい環境であること。普通、そのダニは宿主がいないと数時間から数日で死んでしまうところ、ウォンバットの巣穴は、外気の環境に関係なく一定の温度と湿度が保たれていて、ダニが宿主なしでも最高16日間くらい生き延びられてしまうからです。もう一つの理由が、ウォンバットが自分の掘った巣穴だけでなく他のウォンバットが掘った巣穴にも移りすむこと。4~10日毎に移動するんですが、この珍しい習性によって早いスピードで広がってしまうわけです」

 

なるほど。ダニが宿主なしで生き延びている間に、疥癬に感染したウォンバットが使っていた巣穴を健康な個体が使うと伝染(うつ)っちゃうわけですね。にしても巣穴を移動して暮らすのはなぜなんでしょ。ジッとしてりゃあ、感染することもなかろうに…。

 

「疥癬に侵されたウォンバットは健康な個体と比べて長い距離を移動すると考えられています。それはなぜかと言うと、この病気と戦うことは非常に多くの体力を必要とし、そのためにより多くの栄養が必要になります。その結果、ウォンバットは生息地に点在している栄養価の高い種類の植物や水源を求めて彷徨う傾向があるからです。それはまさにダニに操られたゾンビのように。そして移動した先でも同じように巣穴を介して感染は広がっていき、いつの間にかその地域のウォンバットの多くが感染しているという状況に陥ることもあります」

 

疥癬撲滅ってできるのでしょうか。

 

「これまで唯一、オーストラリア政府から認可されていた『サイデクチン』という治療薬は、一度ウォンバットに投薬すると効果が続くのは約1週間。だけどダニは巣穴で16日間も生きてしまうので、2~3回投薬し続けない限り再感染が繰り返されてしまうというわけです」

 

野性のウォンバットに2~3回も投薬するなんて無謀なのでは?!

 

「そのとおりです。野生のウォンバットに運良く複数回遭遇し、確実に投薬することは至難の業。一度の投薬でダニの生存期間をカバーできるような長い効果持続期間を持つ薬があれば…。そしてそれこそが僕がタスマニア大学の修士時代に取り組んでいた、犬や猫では3カ月間効果が続くと言われている治療薬『ブラベクト』のウォンバットでの安全性を確認するプロジェクト。副作用や健康状態への影響、治療効果などを検証しました。その結果を引き継ぎ、現在は他のチームが地域からどのくらい感染個体が減っていくかを調べているところですが、今のところ再感染はほとんどなく、今年5月に『ブラベクト』の使用がオーストラリア政府に認可されました」

 

スゴイ! 研究の成果が、より有効な治療薬の認可につながったわけですね!

フィールドワーク中のひとコマ。野生のウォンバットに近づくのは至難の業!

フィールドワーク中のひとコマ。野生のウォンバットに近づくのは至難の業!

激しいかゆみを伴う疥癬を患ったウォンバット

激しいかゆみを伴う疥癬を患ったウォンバット

疥癬によって引き起こされる皮膚の過角化(鱗のようにひび割れ厚くなる状態)は目の周辺にも起きやすく彼らの視力を奪っていく

疥癬によって引き起こされる皮膚の過角化(鱗のようにひび割れ厚くなる状態)は、目の周辺にも起きやすく彼らの視力を奪っていくほど

 

きっかけは偶然。でも人生を変えるほど魅力的なウォンバット

幼い頃から動物が好きだったという高野さん。海外へ行きたいという思いもあったことから、高校卒業後にタスマニア大学の動物学科へ進学します。その際、たまたま出会ったのがウォンバットの研究だったとのこと。

 

「オーストラリアに来た当時は英語も話せず、授業についていくのも大変。その中でとくに嫌だったのが試験です。分厚い問題用紙と3時間も対峙しなくてはいけないこの試験のシステムが本当にストレスで…。何とかして試験を一つでも減らせないかと調べたところ、1学期間、研究プロジェクトを行い、卒論的なものを書けば単位がもらえる教科を発見。とりあえず一番怖くなさそうな先生の研究室を訪ねると、ウォンバットの巣穴の研究ならあると言われて関わったのがはじまりでした」

 

卒業後は日本の大学に進もうと考えていたところ、その先生に「少しなら奨学金も出せるから」と疥癬の研究プロジェクトに誘われ、今に続くウォンバットまみれの生活を送ることになったのだそうです。若くして現状、日本で一番詳しいウォンバット研究者である高野さん。先月(2022年10月)25日には、初の著書『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか? ――とあるウォンバット研究者の数奇な人生』(晶文社)を発行されました。

ウォンバットのさらなる謎を知りたい方はぜひご購入ください!

ウォンバットのさらなる謎を知りたい方はぜひご購入ください!

 

「やはりまだまだ日本では馴染みの薄いウォンバットという生物のことをどう伝えたら一番イメージがわきやすいかと考えた結果、読んでいる方と一緒に、フィールドへ行っているような書き方にしました。ウォンバットの情報だけではなく、現地はどんな地面で、どんな木が生えていて、どんな気候で、どんな匂いがしているのか。情景を思い浮かべてもらえるような内容にしています。僕が研究している疥癬は、動物だけではなく人獣共通の感染症。人間と動物、相互に伝染することもあるんです。この本をきっかけに、ウォンバットについてはもちろん、ウォンバットを含め動物をそして環境を守ることが人間を守ることにもつながるんだと知っていただけたらうれしいです」

 

まだまだ確立したとは言えない、疥癬の治療法。ウォンバットを治したい気持ちは同じはずなのに、ボランティアの方や獣医師、研究者の間でも意見が割れてしまうことが少なくないのだとか。

 

「ベストなガイドラインをつくり、より効率的に治療していける方法が確立できるのが、現在のめざすところです。それにはさまざまなデータや研究結果、現場の声も必要です。道のりは短くありませんが、ウォンバットにも人間にもストレスの少ない治療を実現させていきたいですね」

今日も高野さんは、日本から離れた実験室でフィールドで、ウォンバットを救うことに徹しています

今日も高野さんは、日本から離れた実験室でフィールドで、ウォンバットを救うことに徹しています

 

【珍獣図鑑 生態メモ】ウォンバット

オーストラリア固有種の有袋類。大人の体長は約1m、重さ30kgほど。穴を掘る最大の動物でもあり、巣穴は長いもので20m近くにもなる。臀部は厚さ6㎝にもなる軟骨のような組織で覆われていて異様に硬い。群れは成さず、基本的には単独行動。四角いフンを使って縄張りをアピールする。

三重大学らによる「忍者・忍術学講座」の会場開催が復活! YouTubeでも配信中の公開講座をレポート。

2022年5月19日 / 体験レポート

忍びの者と書いて忍者。いやもう、この単語だけでも昂奮してきますよね。忍者といえば、甲賀流忍者を擁する(擁する?)滋賀出身の自分でさえも先に思い浮かべるのが、伊賀流忍者の里、三重県伊賀市です(ごめんなさい…)。

 

そんな忍者タウンで2012年度から開かれているのが、「忍者・忍術学講座」なる公開講座。なんとソソる講座名でしょう。主催は、三重大学と上野商工会議所、伊賀市が連携した「伊賀連携フィールド」の忍者文化協議会。伊賀の「忍者文化」に着目した地域活性化の取り組みの一環として始まり、月に1回、市民講座として開催されてきました。しかしコロナ禍により、2020年2月を最後に一時中断。2020年6月からはYouTube配信となっていましたが、この4月に会場開催が復活! YouTubeでの公開も継続され(バンザイ!)、世界中どこからでも無料で受講できます。

 

▼アーカイブも大充実!「忍者・忍術学講座」のページ

https://www.human.mie-u.ac.jp/kenkyu/ken-prj/iga/kouza.html

2022年度前期「忍者・忍術学講座 忍者学研究の展開」

 

今年度前期のテーマは「忍者学研究の展開」。4月から9月にかけて全6回、定員40人の予約制で行われます。4月23日に行われた第1回は、三重大人文学部の山田雄司教授による「米国議会図書館所蔵史料からわかった忍者」。翌週に公開された動画をウキウキで視聴したので、その内容を講座で使われたスライドともに、ちょっぴりご紹介します!

 

米国議会図書館には、日本より日本の忍術書が豊富にある!?

写真はワシントンD.C.にある米国議会図書館。

写真はワシントンD.C.にある米国議会図書館。

 

米国議会図書館は、蔵書数2,200万冊以上、所蔵資料の総点数1億7,000万点以上を誇る世界最大の図書館で、日本語の蔵書もなんと70万冊以上。明治以前の日本古典籍も4,800点余、15,000冊もあるそうです。第二次世界大戦中や戦後、アメリカが旧日本軍からが接収した史料も多く、そのなかには日本に現存しないものも少なくないんだとか。山田教授らはコロナ禍前の2019年8月に訪れ、忍術関係の史料を調査。そこで確認したものの一部を今回、紹介してくださいました。

 

まずフィーチャーしたのは、『武教全書正解』。17世紀後半の兵法家・山鹿素行(やまがそこう)が著した『武教全書』についての注釈書で、19世紀になってからまとめられたものです。将軍の選び方や、武者に必要な素養などなどを解説するなかに、「斥候」や「用間」(今で言うスパイ?)といった、忍びにまつわる項目も……。複数の巻にわたり、そのいくつかは日本の図書館にもありますが、まとまって所蔵されているのは米国議会図書館だけなのだそうです。なんたること!

『武教全書正解』のなかでも、黄色の内容が米国議会図書館に所蔵されているもの。画像は巻九「斥候」の表紙で、真ん中に押されているのは陸軍士官学校図書印。

『武教全書正解』のなかでも、黄色の内容が米国議会図書館に所蔵されているもの。画像は巻九「斥候」の表紙で、真ん中に押されているのは陸軍士官学校図書印。

 

忍びの採用担当者必見! 理想の忍者像とは? お役立ち暗号情報も!

『武教全書正解』の巻十二「用間」では、忍びとは何ぞやから解説がされています。忍びは敵方の内部にまで入り込み、秘められたさまざまな情報を調査する難しい職務なので、どんな人を選ぶか、人選が非常に大事だと説いています。敵国に居住して内情を探るには、町人だの浪人だのに姿形を変える必要があるので、町人に扮するなら、町人の所作や行動など、すべて知ってなきゃいけない。だから知識が豊富で人格的にも優れていることが大切なのです。

 

さらに忍びにふさわしい人物は、「外愚にして内に辨才智恵ある者」だとキッパリ。

忍びにふさわしい人物

 

見るからに立派で優れている人だと敵が警戒しちゃうから、外見からは駄目そうな人だな~と思わせて、だけどその内実は優れていることが重要とのこと。運動神経も体力もいるけど筋骨隆々だと変装しにくいし、華奢で「大丈夫か?」と思われるぐらいの人がいい。なんなら卑しく見えるぐらいの人を選ぼう!と謳われていました。

 

また、密書を敵に取られてもバレないようにするための暗号の作り方も紹介。たとえば7人の仏、七仏を使うパターンなら、イロハニホヘトを毘婆尸仏(びばしぶつ)、チリヌルヲハカを尸葉仏(尸棄仏=しきぶつの漢字を間違えて書いちゃっているのもご愛敬!)に、相当させ、ロなら「毘婆尸仏の二」てな感じでつくりましょうと。イロハ順でなく五十音順でもできますよ、なる親切過剰な補足までも!

暗号

 

さらには、文字と文字の間に関係ない文字を入れて文書をつくる方法やら、漢字を「へん」や「つくり」だけで書いちゃう方法やらも紹介。後者は、たとえば「敵」なら「商」だけ、「討」なら「寸」だけとかになるわけですが……山田先生もおっしゃっていたとおり、もらった人が果たして解読できるのかどうか、もはや脳トレの世界です。

 

ほかにも敵がたくさんやってくるときは「山」、あまり大勢じゃないときは「川」みたく、あらかじめ決めておいて送るノウハウも伝授。

火や水を使って紙の文字を浮き上がらせるあぶり出しや水出し、運ぶ際の文書の隠し方なんかも書かれていました。密書の伝達は大変だ!

 

日本にはない忍術書が、まだまだ海外に眠っている!?

それから『武教全書正解』以外にも、中国古代の兵法書の内容を抜粋してまとめた『智謀抜萃』(ちぼうばっすい)などを紹介。たとえば、鉄蒺蔾(てつしつり)=鉄のマキビシのくだりは、中国の『武備志』にも同じ絵や文が出てきていて、ここからそのまま写したかどうかは不明だけど、中国のものから引用しているのは確かだとわかります。

マキビシ

左が『智謀抜萃』。右の『武備志』と同じ内容が記されている。

写真上が『智謀抜萃』。写真下の『武備志』と同じ内容が記されている。

 

しかし! マキビシを撒く姿の部分が謎。下の画像を見てのとおり、イラストが明らかに日本人……。こちらの典拠は、まだわかっていないんだそう。まだまだ研究途中だということにもワクワクしますね。

右手に竹筒を持ち、左手でマキビシを撒いてる人物が、どう見ても日本人。

右手に竹筒を持ち、左手でマキビシを撒いてる人物が、どう見ても日本人。

 

忍術関係の史料は、アメリカだけでなくドイツなど各国に点在しているそうで。今回紹介してくださったもののように、これまで確認された日本の忍術書にはない記載もまだまだあるので、さらに研究を進めたいと山田先生はおっしゃっていました。

 

今回の分を含め、過去に配信された動画もYouTubeのチャンネルに残されているので、ぜひご覧ください。翌日、人に言いふらしたくなること間違いなしです。会場受講の予約は、原則、月初めから開催日の8日前まで。上野商工会議所で受付されているので、チャンスがあれば忍び込んでみませんか(要予約で!)。

大学はこう使え! 特別編 iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長の中村先生に聞くコロナで変わる、大学の未来

2021年10月14日 / コラム, 大学はこう使え!

これまで当たり前だった大学での学び方を一変させた、新型コロナウイルス。それが果たして、大学業界にどんなインパクトを与え、今後の大学にどんな影響を与えていくのか。変わった大学の変わった学長に話をうかがえば、想像もできないような大学の未来の話が聴けるかもしれないと思いたち、コロナ禍の2020年4月に開学し、「就職率0%・起業率100%」をテーマに「学生全員起業」をめざすiU(情報経営イノベーション専門職大学)に突撃! 世界的ガールズバンド「少年ナイフ」のディレクターから旧郵政省官僚に転身するなど、超異色な経歴をもつ中村伊知哉学長を取材しました。 

コロナ禍により、リアルの場所だからできる取り組みの価値は、より高まっていく

 ――新型コロナが大学業界に与えたインパクトって相当なものだったと思うんですが、中村学長からご覧になっていかがですか?

 

「まず今回のコロナ禍で、オンラインでの授業対応が順調だった大学もあれば、難しかった大学もあり、デジタルへの備えや対応力が問われました。リアルでいうと、キャンパスという場の考え方も問われたように思います」

 

――オンライン授業もある程度、成立してしまったなかで、キャンパスの意味って、どういう部分にあるんでしょう。

 

「情報を伝達する従来型の授業なら、ほとんどオンラインでできますし、逆にそのほうがいいと思っていました。この傾向は、もう戻らないと考えています。だからこそ逆に、リアルの場所だからできる取り組みの価値が高まり、その設計力が問われることになるでしょう。たとえば一緒にものをつくる、何かを試してみる、対面で討論するといった、生身の人と人とがコミュニケーションすることによってできる、その場の意味がコロナ前よりも出てくると思います」

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――iUの場合は、どうなんですか?

 

「ICTとビジネスの学校なので、もともと多くの授業はオンラインでできる準備をしていたんです。そのため開学のタイミングがコロナ禍にぶつかったものの、あまり混乱せず授業を開始できました。とはいえ、投資家などを招いてピッチを行うなど、リアルで集まって一緒にやる授業も最初から考えていたんですが、一度、緊急事態宣言が明けたとき、授業はそのままオンラインでやってくれという学生からの声が結構あったんですよね。キャンパスには来ながらも、授業は自分のパソコンで受け、終わったら集まって何かをやる、といった形に合わせて学校側もコミュニティづくりをするべきなのではと」

 

――教室がいっぱいある設計自体も要らなくなってくる?

 

「うちの授業は全て40人以下で行うため、普通の大学にある大教室は全く要らないんですよ。僕自身の授業もありますが、いわゆる講義でしゃべることは動画で撮り、すでに200本ぐらいYouTubeに上げています。それを見た前提で、リアルで何かをするという設計をしています」

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――コロナ前の時点で、そういう組み立てをされていたのはすごいですね…。

 

「日本の学校が遅れていただけのことだと思いますよ。世界的な大学の発信の仕方を見ていると、相当早いペースでデジタル化の波は来るぞと思っていました。MITにしろ、スタンフォード大学にしろ、オンライン授業だけで学位を取れるプログラムがあります。それに自動翻訳の精度もすごく上がってきていますよね。だから日本の学生に対する日本語の優位性だってもうすぐなくなるのではと、コロナでみんなが一気に気づいたように感じます」

 

――そういう意味では、日本の大学だけじゃなく、世界の大学に対しての優位性が見えなければいけないと。

 

「研究中心のハイエンドな大学は、それなりの競争力を維持していくと思います。そうじゃない一般の、人材育成機関としての大学は、かなり変化せざるを得ない。オンラインとオフラインのハイブリッドな環境を整えているのは当然のこと。産業界など社会との結びつきが強いことも、大きなポイントになるでしょう。さらには、新しい需要を取り込んでいくこと。子どもの数が減っている今、社会人、シニア、海外の方々が学ぶためのサービスを提供できるかが重要です。今までの大学像とかなり変わらなければ、難しくなっていくでしょうね」

 

――産学連携が一つのポイントになるというのは、学費以外の収入を確保しなければいけないという理由でしょうか?

 

「根本的には日本の産業が弱ってきているからですね。僕の世代が典型ですが、大学時代、バンドばかりやって授業を受けていなかったんですよ(笑)。だけど社会人1年目に受けた教育で、大学…5年間でしたが(笑)、その期間よりはるかにたくさんのことを勉強させられました。つまり昔は会社に育てられる仕組みでやってきたのが、今は会社側にそんな余裕がないので、即戦力をとらなきゃいけない。つまりは産業界が求める教養や知識、能力を大学で身につけさせる必要がある。」

 

――即戦力として使えるスキルが必要だと。

 

「たとえば、経団連に所属する企業の人事担当が新人に求める能力は、毎年いつも一番がコミュニケーション能力です。そういった企業側からの大学への期待を取り入れることが、強みを発揮することにつながると考えます。iUが客員教授の層を厚くしていることも、産業界の声を聴こうしているからこそ。そもそも専任教員の8割程度が産業界出身です。それでも足りないので、現在400人以上いる客員教授を1,000人ぐらいには増やそうとしています。加えて現在300ほどの連携企業も、1,000社ぐらいには増えるはず。教授や連携企業のほうが学生より多い状態が続くことになるでしょう」

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――学生より教員が多いって、なかなか衝撃的なフレーズですね…。

 

「そのうえで、企業で学ぶ環境をつくり、学生と産業界が求めることのマッチングができればなと。最初はこういった考えが企業に受け入れられるかどうか案じていましたが、お声がけしたところ、一緒にやりたいという企業が予想外に多く集まってきてくださって。客員教授もそうで、何人かに声をかけたら、数珠つなぎでどんどん集まってきてくださいました」

 

――産業界の考え方にフィットし、賛同者が増えていったわけですね。

 

「新型コロナでリモートでのコミュニケーションが日常になり、企業の所在地や客員教授のお住まいに関係なく、よりお声がけしやすくなった面もあります。地球の裏側から授業をしてもらうことも、簡単にできるようになりましたからね」

 

――どちらかというと追い風として、今の状況が利用できていると。

 

「そういう面はありますね。もちろん、簡単に全員を集めてイベントができない苦しさはありますが、できるだけメリットを生かすようにもっていきたいので」

 

――もう一つポイントとして挙げられていた、社会人、シニア、海外の人たちをどう取り込むかというのは?

 

「そこは、これからの課題です。まだ1・2期生しかいませんが、シニアの方もいらっしゃるので、意見を聞きながら、何をしていけばもっと喜んでもらえるのかを考えていきたい。実は我々も予想していなかったんですが、親子入学が複数組いるんですよ」

 

――えええ、それはすごい!

 

「親御さんのほうが生き生きとしておられたり。だから家族割をつくらないとなという話も出てきています(笑)」

 

――めちゃくちゃ珍しい印象ですが、どういう動機で?

 

「聞いたところでは、子どものために説明会へ来たら、自分が入りたいと思ったと。ほかにも、よその大学を辞めてきました、という学生も結構います。一生懸命、勉強して国立大学や有名私大に入ったものの、こちらのほうが合っていそうだと発見してきましたと」

 

――いわゆるブランド大学から敢えてiUに…という方々は、どういう点に惹かれたのかは見えていますか?

 

「企業と一緒に学んで全員が起業する方針や、三本柱としてICT、ビジネス、グローバルコミュニケーションを掲げているわかりやすさはあるかなと思います。学校の説明会って、今はほとんど学生がやっているんですが、彼らが『iUはこういう学校で、こんなダメなところがあるけど、こんなふうに面白いよ』と、ストレートに発信しているのも、効き目があるようです」

 

――言わされているんじゃなく、良いところも悪いところも全部言ってしまうスタイルなんですね(笑)。

 

世界中が大きく変化する今の時代は、新たな要望に応えるチャンスでもある

――まだ渦中ではありますが、今回のコロナはiUにとって痛手だったのかチャンスだったのか、どうお考えですか?

 

「僕自身はチャンスだったと思っています。当初からオンライン中心でいこうと設計してきたので、いざコロナになったとき強みが発揮できましたし。ここから先は、感染対策をきっちりして、キャンパスをオープンに開こうとしているので、コロナ後、あるいはwithコロナのハイブリッドな環境を、比較的早く実装できるはずですし。何より、うちの学生たちに、コロナはピンチかチャンスか訊くと、多くがチャンスだと答えますからね」

 

――なぜチャンスだと?

 

「iUは全員起業を掲げているので、起業マインドの子たちが集まっている。つまり、世界中が揺れ動き、ピンチにある状況こそ、世の中が大きく変わるタイミングだから、自分にとってはチャンスだと考える子が多いんです。コロナで世界中が大きく変化するはずだ、その変化こそ楽しんで何かをしよう、と目を輝かせる学生たちが集まってくれたことは、我々にとっての一番のチャンスなんじゃないかと感じています」

 

――学生さんたちが前向きに捉えてくれるのは頼もしいですね。

 

「その期待に応えるためにも、キャンパスに集まってつくるコミュニティの大切さなど、『だからここで学ぶ意味がある』という価値をもっておかなければと。そう遠くない未来、世界中の授業をバラバラに選んで認定された、自分の学習履歴が、卒業証書よりも意味が出てくるようになるのではないかと思っています。そうなればいっそう、それぞれの大学がもつ価値が問われるようになり、淘汰が始まるでしょうしね」

 

――そのあたりって、先ほどお話にあった、社会人を取り込むことにもつながっていきそうですね。

 

「その通りです。社会人はすでに積み重ねたものがあり、問題意識をもって学び直そうとすることが多い。大学側が用意する定食を食べたいわけじゃなく、アラカルトを自分で選びたいわけですよ。いかにそれを提供できるかどうか。社会が求めていることに、大学がどう寄り添っていくか。試されているのは、そういう設計かなと思っています」

 

――かなりの変革が必要とされると。では、これからの大学は、こういう視点で見たほうがいい、こういう点に気をつけたほうがいいといったアドバイスがあれば教えてください。

 

「すごく危険なことを言うと、違うなと思ったら移ったっていいんだと念頭に置いておくことですね。昔は就職すれば定年まで勤め上げるのが当たり前でしたが、今はやってみて違うなと思えば転職するのが当たり前。学校もそうなっていくだろうと。高校のときはまだよくわからないから、偏差値を大きな基準として選びがちですが、どんどんそうじゃなくなっていくはず。いろんな価値観をもって、いろんなものを提供する学校が増えていて、iUみたいに新しくて変な学校も(笑)出てきています。だから『こうあるべきだ』と言ってくる大人をあまり信用しないことが大切なんじゃないでしょうか(笑)」

 

――(笑)あまり固執しなくていいのかなというのは、みんなも実感していく気がしますね。

 

「入ってきた学生を見ると、我々だって考え方を変えなければと日々感じていますよ。たとえばうちは、 1年次2年次でICT、ビジネス、英語をガッと勉強して、3年次で全員がインターンに行き、ボコボコにされて帰ってきて(笑)、4年次で起業して卒業、というカリキュラムなんですが、入ってくる学生が、そんなの待っていられないと、1年次からボコボコ起業し始めて (笑)。どんどんやり方をアジャイルで変えていかなきゃ、学生についていけないぞと思うことが多いです」

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――学生さんが牽引するというか、学生の声を出しやすくして、学校自体が変化を楽しまれているのは素晴らしいですね。

 

「そのうえで、全員起業=就職率0をめざす、という看板は下ろさないでおこうと思っています。さらに先日、世界中の大学・研究所や地域、人材をつなぎ、得意技や知見を融合させて新しいことを起こすためのハブになる『iU B Lab』を立ち上げたんですよ。目標は研究員100万人。そういう大きなコミュニティづくりに進んでいくことが、次の野望です。コロナはありましたが、なんとか船出をしたので、次々に面白いことを仕掛けていきたいと思っています」

 

――どんどんつながって、学生や先生という枠がぼやけていくというか。

 

「もともとフラットファーストを標榜していて、『先生って呼ぶの禁止!』って言っているんですよ。だから学生はほぼ全員、僕のことを伊知哉さんって呼んでいます(笑)」

 

――素敵な関係で楽しそうです(笑)。コロナによる変化にも希望が見えてきました。本日は面白いお話をありがとうございました!

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