ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

家族での買い物ついでに、大学の学びに触れる!?「はんだいラボ@EXPOCITY Lab」

2019年6月27日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

大学のイベントは数あれど、その会場は大学のキャンパスや近隣の公共施設など、アカデミックで少々おカタめな香りのする場所が定番ではないだろうか。そんな中、家族連れで賑わう土曜日のショッピングモールのど真ん中で、大阪大学がイベントをやっていると聞いて、取材に行ってきた。

 

ターゲットは子どもと親。フードコートの真横にある“大学”

やって来たのは大阪府吹田市にある大型複合施設EXPOCITYの「ららぽーとEXPOCITY」3階にある「EXPOCITY Lab」。周りにはフードコートやキッズ向け店舗が並ぶ。

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(左)万博記念公園の隣にあるEXPOCITYには水族館や映画館、観覧車などもあり、週末は家族連れで賑わう
(右)EXPOCITY Lab外観。フードコートやキッズ向け店舗の多い3階フロアの一角に

 

ここで2019年1月から不定期で開催されている「はんだいラボ@EXPOCITY Lab」は、大学で学ぶことや研究を身近に感じてもらえるように、子育て世帯をメインターゲットとして大阪大学共創機構社学共創本部が実施しているプログラム。

 

月1~2回のペースで、「ねぇねぇはかせ、月のうさぎは何さいなの?」「ノロウイルスはどうしていいお薬がないの?」など、子どもたちの興味を引くテーマについて、大阪大学の先生がわかりやすく話をしてくれる。主な対象は小学生で、親子での参加が基本だが、回によっては誰でも参加できる場合も。

 

第7回の今回は「ねぇねぇはかせ、どうしてホタルは光るの?」がテーマ。講師は神吉輝夫先生(大阪大学産業科学研究所准教授)が担当だった。

 

ホタルの光に隠された“ゆらぎ”や“同期”のチカラ

事前申込で集まった参加者は15組30名。子どもたちの年齢は3歳~12歳とさまざま。会場の前方には裸足で上がれるフロアマットが敷かれ、子どもたちはそこに、保護者は後方の椅子に座って聴くスタイルだ。

質問に手を挙げて答えるなど、楽しい雰囲気で授業が始まる

質問に手を挙げて答えるなど、楽しい雰囲気で授業が始まる

 

スクリーンに映るホタルの動画を見ながら、「これが何かわかる人?」「動画を見て何か気づくことある?」など質問を交えながら、授業がスタート。

「ざーっと光が伝わっていくのはホタルが会話しているんだよ」と神吉先生

「ざーっと光が伝わっていくのはホタルが会話しているんだよ」と神吉先生

 

ゆっくり光ったり、点滅したり、波のように光が伝わっていったりと、私たちの目を飽きさせないホタルの光。ホタルがどういうふうに光るかを物理学で考えると、ホタルの数や時間などが絡み合い非常に難解な式になる。ホタルの数が1万匹ほどに増えれば、その計算はスーパーコンピューターでも1日かかるほど複雑に。ホタルがすごいのは、そんな複雑な式なんて全く考えることなく光っているということ。これを実現しているのはニューロンという神経細胞で、ここに電気が流れたときに、ホタルはパッと光を発するのだ。

 

ニューロンは人間の脳や筋肉にもあり、電気が流れた瞬間に発火することで、頭で考えたり筋肉が動いたりする

ニューロンは人間の脳や筋肉にもあり、電気が流れた瞬間に発火することで、頭で考えたり筋肉が動いたりする

 

ホタルの光はなぜ心地いいのだろう? その秘密は「ゆらぎ」にあるという。クリスマスのイルミネーションなど人工の光の点滅は、1秒間に1回だけ光るなど、規則的でフラット。これに対して自然には必ず幅があり、1秒間に1回だったり、0.9秒のときも1.1秒のときもある。「1/fゆらぎ」と呼ばれる、この規則と不規則の間のリズムを、人間の頭や目や耳は、なんかいいな、心地いいなと感じるのだとか。

ホタルだけでなく、人の脳波も「1/fゆらぎ」で動いているのだそう

ホタルだけでなく、人の脳波も「1/fゆらぎ」で動いているのだそう

 

そして、ホタルからホタルに光が伝わったり、たくさんのホタルが同時に光るのはどうして? 神吉先生が見せてくれたのはある実験動画。1枚の板の上でたくさんのメトロノームを動かすと、初めはバラバラだった動きが、時間が経つにつれ徐々に揃ってきて、ついには全部が同じ向きで動くようになる。これは「同期(シンクロナイゼーション)」といわれる現象で、ホタルが光るタイミングが合うのもこの性質を持っているから。

1枚の板を通して相互作用が働き、メトロノームの動きがだんだん揃っていく

1枚の板を通して相互作用が働き、メトロノームの動きがだんだん揃っていく

 

大阪大学では、このようなホタルの持つ「ゆらぎ」や「同期」などを再現する技術を開発した。ニューロンの仕組みを組み込んでいて、世界でもなかなか実現できなかった画期的なもの。この技術を転用したのが「SHAKE SYNC.(TM)」という光るおもちゃ。

 

手のひらサイズのひし形のブロックを振ると光が灯り、また振ると色が変わっていく。片側の端にセンサーがあり、別のブロックの光を近づけると、色がさーっと移ってシンクロしていく様子はまさにホタルのよう。

緑色に光っている群れのお尻に青色の光を近づけると、同期して青色に変化!

緑色に光っている群れのお尻に青色の光を近づけると、同期して青色に変化!

 

最後は子どもたちもブロックを手に取り、“疑似ホタル”の光を自由に体感! 光をつなげたり、輪にしたり、積み上げたり…初めて見る不思議なおもちゃに子どもの創造力が加わって、思い思いの遊び方が展開されていた。

遊び方によって色や動きが変わるブロックにみんな夢中に!

遊び方によって色や動きが変わるブロックにみんな夢中に!

 

買い物帰りに大学の学びに触れる、新しいライフスタイル

話の内容はかなり高度なもので、子どもには少し難しいかも…?と思うところもあったが、先生のやさしい語り口や、動画やおもちゃを使った授業に子どもたちは釘付け。身近なテーマを扱った話は大人にも興味深く、後ろのお父さん・お母さんたちも真剣に聴いていた。

 

「はんだいラボ」の企画・運営を担当している佐伯康考先生(大阪大学共創機構社学共創本部特任助教)は、プロジェクトのねらいについて「とにかく学びのハードルを下げたい」と語る。「大学に対して敷居が高いと感じている方もいるため、買い物ついでに参加できるようにすれば、これまで大学の公開講座に来ていなかったご家族にも開かれたものになるのではと思いました。子どもたちにも、保護者の方々にも、大学で学ぶということを身近に感じてほしい」

 

めざすのは「家族で買い物をしたついでに、大学の先生の話も聞いて帰る」という新しいライフスタイル。できるだけ気軽に参加できるように、参加費は無料、週末でも駐車場料金が安い土曜日の開催を心がけている。

 

参加した保護者に話を聞くと、「以前も参加しておもしろかったので2回目です」「買い物に来たときにポスターを見て知って、お友達と初めて参加しました」「親が聞いてもおもしろくて、親子の会話のネタになりそう」などの声が。着実にファンがついていて、新しい開催情報が出るとすぐに申込で満席になることも多く、申込不要の展示時間も設けるなどの工夫を行っている。

 

会場の「EXPOCITY Lab」の前はエレベーターからの導線になっていて、ベビーカーを押した家族連れが通りがけに覗いたり、ポスターを眺めたりとまさに「買い物ついでに」が展開されていた。最初こそ、ショッピングモールで大学イベント?と驚いたが、未知の楽しいモノ・おもしろいコトを探している子どもや家族連れが集まるこの場所は、大学と相性がいいのかも、と可能性を感じた。

 

今後も月に1~2回程度のペースで開催されるとのこと。気になる!という方は、大阪大学やららぽーとEXPOCITYのWEBサイトで案内予定なので、ぜひチェックしてみよう。

大学アプリレビューvol.21 デザイナーズチェアの名作を自由にぐるぐる!武蔵野美大「MAU M&L 近代椅子コレクション ムサビのイス3D」

2019年6月20日 / コラム, 大学アプリレビュー

チャールズ・イームズやアルネ・ヤコブセン、アルヴァ・アアルトにル・コルビュジエ…世界的なデザイナーが手掛ける、フォルムの美しさや洗練された機能性が評価される近代椅子の名作たち。実際に本物を自宅に置こうと思うとなかなか手が出ないものも多いですが、これらの名作を一堂に集め、さらに3Dで細部までじっくり眺めることができるアプリをご紹介します。

 

「MAU M&L 近代椅子コレクション ムサビのイス3D」は、武蔵野美術大学 美術館・図書館の公式アプリ。同美術館・図書館はこれまで、このアプリレビューの第1回目でも紹介した「MAU M&L 博物図譜」をはじめ、「やきものの在処」「MAU-PIAZZA」など、所蔵する膨大なコレクションや資料をデジタルアーカイブ化し、iPhone・iPad向けアプリという形で惜しげもなく無料公開してくれています。

 

今回の「近代椅子コレクション ムサビのイス3D」もそのひとつで、2013年からスタートした武蔵野美術大学 造形研究センターの研究プロジェクト「近現代建築空間および生活デザインの高度なデジタルアーカイブ化と生活文化空間の総合的研究」の一環で制作されました。

 

武蔵野美術大学 美術館・図書館が開館以来収集してきた椅子コレクション約350点の3D画像を見ることができます。収録されているのは、ハンス・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンなど北欧の椅子、チャールズ・イームズやジョージ・ネルソンなどのアメリカの椅子、剣持勇や渡辺力といった日本人デザイナーの作品など、地域や時代、種類もさまざま。

 

アプリを起動すると、それぞれ個性的なフォルムの椅子がずらりと並んだ一覧が。好きな椅子をタップすると、詳細画面が表示されます。

形や色もさまざまで、スクロールして眺めるだけでも楽しい

形や色もさまざまで、スクロールして眺めるだけでも楽しい

 

詳細画面の【View】モードでは、3D画像化された椅子を指で自由に動かしながら、ぐるぐる回転させたり、拡大して間近で見ることができます。

ヤコブセンの美しいスワンチェアも自由に好きな位置から眺められる

ヤコブセンの美しいスワンチェアも自由に好きな位置から眺められる

 

椅子の裏のこんな細かい部分まで拡大することも!

椅子の裏のこんな細かい部分まで拡大することも!

 

3D画像ではありますが、裏に貼られたロゴや傷や汚れなども再現されていて、本物に近い雰囲気。美術館では、ここまで実物に近づいてじっくり見ることはなかなかできないのでは…?と考えると、かなり貴重な疑似体験かも。

 

【Light】モードでは、お好みにあわせて背景色を白~黒の間で変更したり、椅子に当たる光源の高さや角度を変化させたりすることが可能です。

背景色や照明の当たり具合なども細かく設定できる

背景色や照明の当たり具合なども細かく設定できる

 

【Camera】モードでは、椅子の3D画像を現実の空間に写して撮影することができます。自分の部屋に置いたらどんな感じ? 本物を手に入れたときのために予習しておきましょう!

憧れのデザイナーズチェアが我が家に…!意外とテンションが上がる

憧れのデザイナーズチェアが我が家に…!意外とテンションが上がる

 

【Info】モードでは、椅子の制作者、メーカー、サイズや解説などを読むことができます。

椅子についての詳細情報が1画面で簡潔にまとめられている

椅子についての詳細情報が1画面で簡潔にまとめられている

 

すべての作品にではありませんが、作品の解説がついているものも。1画面で収まるボリュームながら、作品が作られた背景や素材、構造の特徴のほか、実際に座ったときの座り心地などもわかりやすく書かれていて、読み物としてもおもしろい。

 

そのほか、デザイナーや国、制作年代などいろいろな条件で作品を抽出できる検索機能も。

検索画面(左)。色で検索してみるのも楽しい(右)

検索画面(左)。色で検索してみるのも楽しい(右)

 

デザイナーや椅子の名前などふわっとした知識くらいしかなかった筆者も、気になった作品をタップして眺めては、解説をふむふむと読みふけってしまいました。一見奇抜に見えるフォルムにも、デザイナーが想定した目的や効果を発揮するための意味があることなどを知り、名作と言われる所以にも納得。世界の名作について学び、いつかは本物のデザイナーズチェアを…!なんて夢を抱きながら、眺めてみるのはいかがでしょうか。

 

※本アプリはインターネット経由で高解像度画像を取得するため、Wi-Fi環境での利用がおすすめです。

大学アプリレビューvol.20 今日の空に浮かぶあの雲は?神戸大が企業と共同開発した雲識別アプリ「くもろぐ」

2019年3月5日 / コラム, 大学アプリレビュー

青空に浮かぶふんわりした雲、夕焼けに染まる薄い雲、今にも雨が降りそうなときの黒い雲……毎日の空の表情をさまざまに彩る“雲”。なんとなく見ているこれらの雲は具体的に何という名前なの? そんな素朴な疑問に答えてくれるアプリが「くもろぐ」です。

 

スカパーJSAT株式会社、バニヤン・パートナーズ株式会社、国立大学法人神戸大学大学院システム情報学研究科および海事科学研究科による共同開発で生まれた「くもろぐ」。スマートフォンやタブレットなどのカメラで雲の写真を撮影してアプリに読み込ませると、搭載している雲識別AIのKMOMY(くもみ)が雲の形(10種類)と雲の状態(下層・中層・上層の27分類)を教えてくれます。

 

実際にアプリを試してみました。初回起動時はアプリの利用規約が表示されるので、同意してタップするとメニュー画面が表示されます。

シンプルでわかりやすいメニュー画面

シンプルでわかりやすいメニュー画面

 

雲の識別をしてくれるのは「この雲なあに?」。

「この雲なあに?」の画面

「この雲なあに?」の画面

 

「写真を撮る/選ぶ」をタップして、識別したい雲の写真を選択します。過去に撮影した写真でも、今から撮影してもどちらでもOK。

 

「KMOMY(くもみ)に聞く」をタップすると、解析が始まります。

何の雲か、AIのKMOMY(くもみ)ちゃんが考えてくれる

何の雲か、AIのKMOMY(くもみ)ちゃんが考えてくれる

 

10秒ほど待つと、結果が表示されました!

解析結果が表示される

解析結果が表示される

 

この雲は「積雲」通称「わたぐも」だそう。今までなんとなくのイメージしかなかった雲の名前も、自分が見て撮影した写真で解説してくれると「ほー、なるほどこれが…」と実感がわきます。雲の状態の説明なども表示され、SNSでシェアできるようにもなっています。

 

このようにアプリユーザーがそれぞれ判定した雲情報は共有され、「みんなの雲を見る」で一覧や地図形式で見ることができます。

「みんなの雲を見る」画面。「ならべて見る」(左)、「地図で見る」(右)

「みんなの雲を見る」画面。「ならべて見る」(左)、「地図で見る」(右)

 

撮影期間や、巻雲(すじぐも)や高積雲(ひつじぐも)など雲の名前、CL、CM、CHなどで表される雲の状態での絞り込みも可能。投稿されている雲写真は、のどかな山々の上に広がる空や都会のビルの間から見える雲、海辺の広い空や美しい夕焼けなどさまざまで、全国各地でみんなが空を見上げて雲の写真を撮っているんだなぁと考えるとなんだか楽しくなりますね。

 

そのほか、雲の形や状態などについて詳しい解説が読める「くも識」、気象予報士やくもろぐスタッフが「みんなの雲」の写真からピックアップして気象解説や一言を綴る「みんくも草子」などの読み物コンテンツも。

「くも識」(左)、「みんくも草子」(右)の画面

「くも識」(左)、「みんくも草子」(右)の画面

 

雲の名前がわかるというシンプルなアプリですが、ふだん空を見て「きれいな空だな、おもしろい形の雲だな」と思うだけで終わっていたのが、これがあればプラスαの知識が得られることに。操作も簡単なので、子どもの学習用にもよさそうです。

 

このアプリは、前述の三者による産学官連携でのAI研究開発の過程で誕生したもの。今後も研究を進め、近い将来には船舶気象観測を自動化することを目指しているそうです。ちょっと堅いイメージのある研究も、“雲”という一般の人にも身近で、時間や場所によって形がいろいろ変わるものを切り口にすることによって、写真やSNSでのシェアといったツールと相性がよくなり、一般向けのキャッチーな雰囲気で技術をアプリとして活用しているところが面白いと感じました。


今後の研究によっては、私たちも自分で撮影した雲の写真で気軽に天気予報ができるようになったりするのかも…!? そんな期待をしつつ、面白い形の雲を見かけたときは、ぜひ一度試してみてくださいね。

専門店の本格コーヒーとフードをキャンパスで。福岡女子大学「Cafe Nanの木」

2018年10月11日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

全国でも珍しい公立の女子大学で、1年生は全寮制で同級生や留学生と共同生活を送るといったユニークな学びが特色の福岡女子大学。2010年から2017年まで8年をかけて整備された新キャンパスに、良い感じのカフェがあると聞いてお出かけしてきました。

 

開かれた大学の一環として2014年にオープンした「Cafe Nanの木」。女子大ですが、男性も含め一般の人も利用OK。キャンパス中央にある、図書館の入る建物の一角にあり、館内からも外のテラスからも入ることができます。

カフェが入る図書館棟。周りは緑が多く、くつろげるベンチも

カフェが入る図書館棟。周りは緑が多く、くつろげるベンチも

カフェの近くの通路からの眺め。別の棟につながる大きな階段が目を引く

カフェの近くの通路からの眺め。別の棟につながる大きな階段が目を引く

 

カフェの敷地はそこまで大きくないけれど、天井が高く、外に面した大きな窓から光がさしこむため、明るく広々と感じられます。テーブル席のほか、ソファ席やカウンター席、テラス席があり、用途や気分によって使い分けられそう。

白と赤を基調としたおしゃれな店内

白と赤を基調としたおしゃれな店内

4人で囲めるソファ席

4人で囲めるソファ席

一人のときは窓際のカウンター席へ

一人のときは窓際のカウンター席へ

 

キッチンカウンターのレジで注文・会計すると、番号札が渡され、呼ばれたら取りに行くシステム。今回は同行の2人と色々オーダーし、天気も良かったのでテラス席でいただきました。

テラス席ではきれいなキャンパスを眺めながら食事を楽しめる

テラス席ではきれいなキャンパスを眺めながら食事を楽しめる

 

まずは、メインとして注文したインド風ビーフカレー。クセがなく食べやすいながらも、後味はピリッと来る本格派。雑穀米とよく合います。女子大らしく、量は少し控えめでスプーンも小ぶりなのが優しい。

インド風ビーフカレー(600円)+サラダセット(330円)

インド風ビーフカレー(600円)+サラダセット(330円)

 

続いて、たまごとツナの2つがセットになったホットサンド。パンは自家製というだけあって、外はカリッ&中はもっちり。そして、サンドの中身はやわらかジューシーで濃すぎない優しい味付け。きちんと手作りされている…と嬉しくなるおいしさです。

自家製食パンのホットサンド(330円)+ドリンクセット(150円)

自家製食パンのホットサンド(330円)+ドリンクセット(150円)

 

最後は、女子人気も高そうなパンケーキ。たっぷりのクリームにフレッシュなベリーがキラキラたくさん! 見た目のかわいさもさることながら、一口食べて生地のふわふわ具合にびっくり。中にはアイスクリームも隠れていてボリュームがあるのに、甘さ控えめのクリームやベリーが良いアクセントになってペロリでした。
ベリーベリーの他には、チョコバナナやホイップも。今度はこちらも食べてみたい!

ベリーベリーパンケーキ(530円)+ドリンクセット(150円)

ベリーベリーパンケーキ(530円)+ドリンクセット(150円)

 

そして、特筆すべきはコーヒーのおいしさ。実はこの「Nanの木」は、福岡市内にコーヒー豆屋やカフェを数店舗展開しているコーヒー専門店。確かな品質と技術でていねいに淹れられたコーヒーは薫り高く、雑味がなくクリアな味わい。フードとの相性もばっちりで、食後には、単に空腹が満たされただけではない、満足感と充実感が訪れました。

コーヒー豆やお菓子なども販売。コーヒー豆は挽いてもらうこともできる

コーヒー豆やお菓子なども販売。コーヒー豆は挽いてもらうこともできる

 

ドリンクは、ブレンドコーヒー(M250円)のほか、エスプレッソを使用したカフェラテ(M330円)、キャラメルラテ(M380円)、抹茶ラテ(M350円)などアレンジメニューも豊富。また、自家焙煎のコーヒー豆も販売されていて、そのおいしさに感動した私は思わず購入してしまいました。

フードメニューも、自家製黒ゴマパンのサンドイッチ(200円~)や数量限定ランチのハンバーグプレート(520円)など、他にもおいしそうなこだわりのメニューがいろいろ。

 

新しくてキレイなキャンパスで、専門店のおいしいコーヒーやフードをリーズナブルに楽しめる穴場スポット。お近くの方はぜひ一度訪れてみてくださいね。

アプリレビューvol19:人気のコスメ選びに!東大生が手がけるクチコミ検索アプリ「LIPS」

2018年10月4日 / コラム, 大学アプリレビュー

女性にとっては“一生のお付き合い”とも言えるコスメやメイク。トレンドや技術が日々進化していくなか、どの商品がいいの?といった情報収集は欠かせません。そんなときにおすすめなのが、東京大学の大学生らによるスタートアップ企業、株式会社AppBrewが開発したコスメやメイクのクチコミ検索アプリ「LIPS」です。

 

アプリを使うには、まず自分の情報の登録から。

年齢、肌質、好きなブランドを登録します。

好きなコスメブランドは簡単に検索できる

好きなコスメブランドは簡単に検索できる

 

さらにおすすめユーザーの中からお好みでフォロー。学生や社会人などの一般ユーザー、芸能人やモデル、YouTuber、コスメブランドの公式アカウントなどが一堂に会しています。

好みが合いそうな人をフォロー。このあたりの流れはSNSでおなじみ

好みが合いそうな人をフォロー。このあたりの流れはSNSでおなじみ

 

そして、最初の口コミ投稿へ。
人気のコスメがずらりと表示されている中から持っている商品を選んで、☆の数で評価をつけてみます。

あらゆる商品が登録されているので何かしら持っているものを見つけられる

あらゆる商品が登録されているので何かしら持っているものを見つけられる

 

さらに入手方法やクチコミを入力。内容を充実させるなら、撮影した写真をアップしたり長い文章を入力することもできますが、スキップしてとりあえず☆の評価のみでもOK。

 

ここまで完了すると、画面上に自分のタイムラインが現れました! 今投稿したばかりの自分の口コミもタイムラインの一番上に。他に、先ほどフォローしたユーザーの投稿も並んでいます。

コスメ情報でぎっしりのタイムライン!

コスメ情報でぎっしりのタイムライン!

 

他の人の投稿を覗いてみると、皆思い思いにコスメの感想や使い方を語っています。キレイに撮影した写真や自作のイラストとともに紹介したり、ハッシュタグを活用したり。
その他、「いいね」やコメント、後で見返したいものを保存しておける「クリップ」など、メジャーなSNSと同様の機能も搭載されていて、さながら“コスメ専用SNS”。
ちなみに、私の何の色気もない☆評価だけのクチコミ投稿も、数分の間にいいねが2、3個ついてびっくり。リアルタイムでたくさんの人が見ているんですね…!

 

各投稿には、いいねやクリップ、コメントなどのSNS的機能の他、関連商品などのリンクも

各投稿ページには、いいねやクリップ、コメントなどのSNS機能の他、関連商品などのリンクも

 

さらに、人気のコスメランキングを見ることも出来ます。「アイ」「フェイス」「リップ」などの商品カテゴリ分けはもちろん、「プチプラ(プチプライス)」「デパコス(デパートコスメ)」「すべて」で絞り込めるのが、キャッチーながらさすがコスメ専用アプリ…!と感じました。

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コスメのクチコミサイトは昔からたくさんありますが、個人的に「投稿」のハードルが高いのがネックと感じていました。その点、LIPSはとにかく簡単にクチコミできるように設計されています。☆評価だけでも気軽に投稿できるところや、投稿画面の「自分用のメモ代わりでもOK!」といったガイドライン、わかりやすくてサクサク動く操作性などに、そんな心遣いが表れている気がしました。

 

そして、クチコミ投稿にSNS機能が加わることによって、使い方が多面的になるところもユニーク。単に商品選びの情報収集だけでなく、持っているコスメの記録や管理に使ったり、メイク方法や収納の参考にしたり、同じ好みのユーザー同士で交流したり、投稿のオリジナリティで情報発信に力を注いだり…。
また、メイク初心者や苦手な人から、とことん語りたいコスメフリークまで、さまざまなクラスタがそれぞれコミュニティを形成して楽しめるのもSNS的だと言えるのではないでしょうか。こういうアプリ、今までありそうでなかったな、と感じました。

 

この感覚は、まさにSNSを駆使してあらゆる情報収集を行うミレニアル世代が開発するアプリならでは。現に2017年1月のサービス開始から約1年半で100万ダウンロードを突破し、10代~20代に人気のアプリになっているとか。これからも、東大×コスメ×SNSのアプリがどのように進化していくか楽しみです。

全国でここだけ! ‘みずほのか’を使った京都学園大学の日本酒「霧美命」

2018年8月21日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

京都は亀岡。ここは、豊かな自然に育まれ、京野菜や米などを京の都へ供給する「京の台所」として知られています。この地にキャンパスを構える京都学園大学・バイオ環境学部で、何やら新しい日本酒が誕生したとのこと。どんなお酒なのか、取材に行ってきました!

1年前から始まった「霧美命プロジェクト」

お酒の名は「霧美命(きりびしょう)」。原料の米作りから醸造、商品名やラベルデザインまで、京都学園大学の学生・教員が亀岡市の酒蔵「丹山酒造」の協力で作り上げた一品なのです。

「霧美命」という名前には、冬になると亀岡市を包み込む「霧」、学生や教員が丹精を込めて整えた「美」しい田に育った米=「生命」という意味が込められている

「霧美命」という名前には、冬になると亀岡市を包み込む「霧」、学生や教員が丹精を込めて整えた「美」しい田に育った米=「生命」という意味が込められている

 

プロジェクトを担当されているバイオ環境学部 食農学科教授の河田尚之先生によると、昨年までは、亀岡市の大槻並(おおつくなみ)地区で、地域おこしのフィールドワークとして栽培した米で「大槻並」という日本酒を作っていたそう。この取り組みが一段落し、心機一転、さらなる挑戦をと2017年の春に始まったのが今回のプロジェクトなのです。

大学近くの耕作放棄地が再び田んぼに

「霧美命プロジェクト」での新たな試みの1つが、耕作放棄地の復田。「実はこの辺りも高齢の方が多くなり、水田を作れなくなって荒れてしまった耕地がたくさんあるのです。それをそのままにしておくのはもったいないので、何とかまた田んぼに戻そうと」と河田先生。そこで食農学科の1回生を中心に、大学のすぐそばにある耕作放棄地を100人がかりで整備。刈った草を運び出すだけでも3時間を要すほどの大変な作業だったそうですが、その甲斐あって3枚の水田が復活しました。

水田は大学のすぐ近くなので、学生が授業で出かけるときなど何かと便利(奥に見えるのが大学の建物)

水田は大学のすぐ近くなので、学生が授業で出かけるときなど何かと便利(奥に見えるのが大学の建物)

日本でここだけ! ‘みずほのか’の栽培

さらに、今回もう1つの試みが、‘みずほのか’という品種を使うこと。低グルテリン米と呼ばれる酒米で、タンパク質の含量が少ないのが特長です。

 

そもそも日本酒に使う米はタンパク質の含量が少ないほうが良いとされ、雑味が少なくすきっと淡麗な味になるのだとか。酒米の代表格「山田錦」は粒の周りのタンパク質が多い部分を50%くらい削って使うのに対して、‘みずほのか’は30%くらい削ればよく、効率的に日本酒ができるというわけです。さらに収量も多く育てやすいという触れ込みで、新たな品種への挑戦が始まりました。

 

ちなみにこの‘みずほのか’、10年ほど前に生まれた品種ですが、今では京都学園大学の他はどこも作っていないのだそう。つまり、‘みずほのか’のお酒を楽しめるのは「霧美命」だけなんです!

田植えの様子(左)と‘みずほのか’の稲(右)

田植えの様子(左)と‘みずほのか’の稲(右)

低グルテリン米ならでは!? ‘みずほのか’の味わい

そんな‘みずほのか’ですが、いざ収穫して醸造してみると、タンパク質が少ないという特長が故に、発酵がなかなか進まないことが発覚。麹と酵母が増えにくいことによりアルコール濃度が17%と通常より低めで、糖が残ったことにより甘みのあるお酒になったそうです。「すっきりしているけどちょっと甘く、どちらかというと女性向きかな」と河田先生。
味の細かい調整は丹山酒造の杜氏さんが手がけ、さらに今回は味にコクを出すために、通常は絞った後すぐに瓶詰めするところを、1か月くらい寝かせる工夫を行ったそうです。

 

実際に私も飲ませていただいたところ、まず香りはクセがなくとても爽やか。口に含むと、軽く酸味のあるまろやかな味わいに、後からふわりと甘みがやってきて口の中に広がります。とはいえ甘すぎるというわけではなく、ぐいぐいいけてしまいそう。丹山酒造の杜氏さんによれば食中酒におすすめとのこと。
ちなみに昨年までの「大槻並」も特別に飲ませていただいたのですが、こちらは麹のような独特の香りと酸味の効いた味わいが印象的でした(この味に固定ファンもついていたんだとか)。

興味や専門を活かして日本酒作りに取り組む

4月半ばの苗作りから始まり、水田の整備、田植えをして10月に収穫。脱穀して調整した米を2月頃に丹山酒造に引き渡し、搗精(精米)して3月末に仕込み、6月にようやく完成――と日本酒作りは1年がかり。

 

プロジェクトはこれらの工程ごとに、手を挙げた学生が参加するという形態で進められます。通常の授業ではないですが、だからこそ本当に興味のある学生が集まり、自分の専門を活かして自由に活動している様子。食農学科 農業生産研究室の東 世人さん(4回生)は、「お酒好きというのもあるし、先生に誘われて」と気軽に参加したそうですが、実家が米農家で自身も稲の研究をしているだけあって、先生と稲の栽培や改善方法についてざっくばらんに話す様子が印象的でした。

 

丹山酒造での仕込み作業に参加した食農学科 発酵醸造学研究室の吉筋有紗さん、吉田健司さん(ともに4回生)は、「自分で持ち運べる量を扱う大学の研究と違って、実際の仕事となると量が多くて力仕事。朝も早くてやるべきことが多いんだなと感じました」(吉筋さん)、「それだけに、作る過程を知ったからこそ、飲むときにも楽しめそう」(吉田さん)と現場での体験を振り返ります。

丹山酒造での仕込み作業の様子。麹を作り、大きなタンクに入れてかき混ぜる

丹山酒造での仕込み作業の様子。麹を作り、大きなタンクに入れてかき混ぜる

 

また、プロジェクトを自身の研究に取り入れる学生も。食農学科 農業生産研究室の濱 彰悟さん(4回生)は、稲を5種類ほど育てて甘酒を作り、加工の評価を研究しています。日本酒も途中まで同じ行程なので、田植えや米作りに参加して、卒論に活かす予定だとか。今育てている米は卒業後にできあがる来年のお酒の原料になるので、「新酒が完成したら味見しに来たいですね」と濱さん。

「霧美命プロジェクト」今後の展望

2年目の目標を河田先生に伺うと、「品種は同じ‘みずほのか’ですが、タンパク質の含量が上がるように肥料をたくさんやって、酵母の発酵でアルコール度が18%くらいまで行くようにしたい。そうすると糖が全部抜けて、さらにスッキリした味わいになるんじゃないかな」とのこと。新たな課題の改善に余念がありません。さらに、‘みずほのか’も含めて色々な酒米の品種の中で、亀岡で栽培するにはどの品種が合うのかを学生が研究中だそう。

 

お話を伺ってみて、学生が自分の興味や専門分野を活かして、耕作放棄地の整備、稲の生産、醸造の現場の体験などさまざまな形で自分の学びへ取り入れていけるのがおもしろいし、それができるのは1年間で色々な過程を経る日本酒プロジェクトだからこそなのかなと感じました。
まだ生まれたばかりの霧美命。これから1年、また1年と、学生や教員、酒蔵のコラボレーションで進化していくのが楽しみです。

お話を伺った皆さん。左から濱 彰悟さん、東 世人さん、河田尚之先生、吉田健司さん、吉筋有紗さん

お話を伺った皆さん。左から濱 彰悟さん、東 世人さん、河田尚之先生、吉田健司さん、吉筋有紗さん

京町家で過ごすアカデミックで雅な時間…同志社女子大学の公開講座に行ってきた。

2018年7月17日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

日本古来の文化や歴史が今も息づく街として、国内・海外を問わず多くの観光客が訪れる京都。最近は京都特有の建物である町家を利用したレストランやゲストハウスなどが人気を集めていますが、町家で受けられる大学の講座があることをご存知ですか? 2004年から15年以上続く同志社女子大学の人気公開講座「町家で学ぶ京都の歴史と文化」に参加してきました。

リアルな町家にお邪魔できる

講座は土曜日の14時からということで、ちょっとお出かけ気分で会場の「京まちや平安宮」に到着。住宅街の中ながら、江戸時代から続く老舗の油店やおしゃれなイタリアンレストランなど、風情ある町家が並ぶ一角にあります。

京まちや平安宮の外観。ここで大学の講義が開かれているとは、知らなければ全くわからない

京まちや平安宮の外観。ここで大学の講義が開かれているとは、知らなければ全くわからない

 

二間ほどの和室に入ると、網代を敷いた畳の上に、前方は座布団、後方は椅子で席が設けられていました。講師の先生の演台やスクリーンも低めの位置に設置され、その向こうの簾戸や簾越しに目に入るお庭の緑が美しい。大学の教室で行われる公開講座とは全く違う、雅な雰囲気です。

 

ここは普段は住居として使われているとのこと。そのためか、床や柱の使い込まれた風合い、家具やしつらえなどもしっくり馴染んで感じられます。これが本物の町家…。また、当日は気温が高く暑い日でしたが、室内はエアコンなしでもひんやりしていたのが驚きでした。

簾をはめ込んだ建具「簾戸」が涼しげ

簾をはめ込んだ建具「簾戸」が涼しげ

魅力的だからこそ、常に開発の手に晒されてきた京都のまちづくり

京都の文化、歴史、芸能、まちづくりなど、毎回、多種多様なテーマのもと、各分野のプロフェッショナルのお話を聞くことができる本講座。今回のテーマは「住み続けられるまちづくり」。講師の弁護士の玉村 匡先生がこれまで携わってこられた京都の景観問題などを事例に、京都のまちづくりに私たちがどう関わっていけるのかについて話していただきました。

 

他の都市に比べると、京都は歴史的な建築物や街並みをきちんと整備して保存し、まちの魅力を発信し続けているイメージがあります。2007年に実施された、建築物に対する高さやデザイン規制を厳しくした「新景観政策」も話題になりました。
しかし、これは昔から確立されていたわけではなく、時代時代でさまざまな開発とそれに対する住民の活動が繰り返され、辿り着いたまちづくりの価値観だったのです。

今の京都にある“残念”な風景

まずは、現在の京都市で見られる光景の解説から。両側をマンションとマンションに挟まれた小さな町家、低い屋根が連なる界隈に突如として建てられた巨大な高層マンションなど、開発によって歴史的な街並みが壊されてしまった痕が残っています。

高い建物と建物のわずかなスキマに町家がぽつんと取り残されている

高い建物と建物のわずかなスキマに町家がぽつんと取り残されている

巨大マンションが建った界隈の模型。俯瞰で見ると、低層建築が多い周辺での違和感が大きいことがわかる

巨大マンションが建った界隈の模型。俯瞰で見ると、低層建築が多い周辺での違和感が大きいことがわかる

 

印象的だったのは、両側町のマンションの話。京都は元来、通りを挟んだ両側で1つの町(両側町)を形成し、1つのブロックに複数の町が背中合わせで存在していました。ところがその区割りを無視してブロック内を突き抜けるようにして大きなマンションが建ったことで、1つの建物の中に2つの町が存在する状態に。最終的に住所はどちらかの町になったそうですが、開発は景観という見た目の問題だけでなく、町名や区割りといった、まちそのものが持つ歴史や文化まで壊してしまうこともあるのだと知りました。

2つの町を突き抜けて大きなマンションが…

2つの町を突き抜けて大きなマンションが…

住民の努力によって認められた景観利益

日本の法律では、基本的に建築は自由で、建てさせたくないなら条例などで規制をかける、というしくみになっています。しかし、これにより規制の“穴”を狙われ、住民が思ってもみなかったような開発計画が持ち上がる、ということが繰り返されてきました。

 

まちづくりの議論のなかで重要なポイントとなった事例が東京の国立マンション事件でした。近隣住民の努力によって美しく整備された並木通り。条例により景観形成重点地区にも指定されていたが、一部分だけ私有地で高さ規制がなかったため、高層マンションが建てられてしまいました。最終的に住民側が敗訴してしまったものの、地裁の判決で言及された「建築自体は適法だが、以前から住民は景観形成の努力を行っており『景観利益』が存在する」という考え方のインパクトはとても大きく、その後のまちづくりに影響を与えました。

並木通りの景観を無視して建てられたマンション

並木通りの景観を無視して建てられたマンション

 

この考え方を利用して京都で玉村先生が携わったのが、船岡山のマンション問題。
山の斜面に建てられたマンションは、下から見上げるとかなりの高さになり、それまでの地域の景観を壊すものでした。しかし開発側は、斜面の上から見たときの接地面を基準に、それより低い部分を「地下」であると主張したため、高さや容積率の法的規制を逃れることができてしまったそう。
このケースは国立の事例と異なり、地域住民は景観の規制などを意識的に行っていたわけではありませんでした。それでも、街並みがその状態で保たれていることで、景観利益を享受していると認められました。マンション建設自体を取りやめることは叶わなかったものの精神的苦痛などは認められて実質的な勝訴に。また、これを経て京都市には新しく条例ができ、斜面地で同様の建築はできないことになりました。

今日も明日も、街並みが変わらないことが価値――新景観政策

その他にも、世界遺産・銀閣寺の近くにある半鐘山や岩倉の一条山(通称モヒカン山)の開発、柳水町のマンション建設など、さまざまな問題が京都で起こり、そのたびにまちづくりに対するさまざまな議論が交わされました。

 

そして2007年に新景観政策が実施されるに至ったのです。「街並みが今日、明日と変わらないこと、安心して住みつづけられることが価値である」という考え方が世間の共通認識になった。1900年代から住民たちが言い続けてきたことがようやく認められた瞬間でした。

それまでの高さ規制図

新景観政策により、街区の高さ規制が45m→31m、内部地区は31m→15mなど大幅に強化された

新景観政策により、街区の高さ規制が45m→31m、内部地区は31m→15mなど大幅に強化された

まちづくりのお手本にしたいドイツのしくみ

日本では、都市計画の決定に関わるのは行政のみですが、ドイツでは、地域住民の生活との折り合いをつけ、この地域をこう開発するという詳細計画をまとめ、議会で承認を受け、さらにその計画通りでないと建築ができません。「計画なければ建築なし」の精神が貫かれ、自治体や住民が意見を言いやすく、厳しく規制がかけられるしくみが整っているそう。

 

さすがドイツ。でも、そんな先進的な取り組みは日本では無理じゃない…?と内心思いかけますが、玉村先生はそんなことはない、と熱く語ります。

 

たとえば、公聴会の開催、都市計画案の縦覧、都市計画の提案、パブリックコメント、建築協定の策定、地域景観作り協議会の設置などなど…。正直大変ではあるけれど、制度はある。京都の姉小路界隈では住民の人々がまちづくりにとても意欲的で、できることはほぼ全て取り組んでいるそうです。
このような活動がさらに広がっていけば、新景観政策や斜面地条例ができたときのように、日本の都市計画制度そのものをドイツのように変えることもできる。今あるものをうまく使いながら、住み続けられるまちづくりに積極的に関わっていってほしい、という先生のメッセージで講演は幕を閉じました。

お菓子とお茶をいただきながらの質疑応答

約1時間半の講演後は、お茶の時間として京都の和菓子とお茶が振る舞われました。毎回、講演のテーマに合わせてセレクトしているそうで、今回は「和菓子もなかなか存続が難しい」ということで、7月で閉店される「亀屋廣和」のお菓子と冷たい新茶。もっちりとした食感と黒糖の上品な甘みは初めて食べるおいしさで、新茶も乾いた喉を潤してくれました。 ※現在、町家講座では和菓子のふるまいを行っていません。 

京町家で京都のお話を聞きながら京菓子とお茶をいただく…なんと贅沢な時間

京町家で京都のお話を聞きながら京菓子とお茶をいただく…なんと贅沢な時間

 

こちらをいただきながら、質疑応答タイムです。京都と同様、街並みが美しい神戸在住の方や、京都で町家ゲストハウスを運営している方などから質問が寄せられました。ちょうどこの日の前日に施行されたばかりの民泊新法の話も飛び出し、熱心な意見が交わされました。

 

終了後も、玉村先生がお持ちの、京都市の用途地域や高さ制限、デザイン制限などが示された地図を見ながら、話に花が咲いていました。

五山の送り火の「大文字」や「妙」「法」などが見える範囲は、その眺望が守られるよう絶対高度規制がかけられている

五山の送り火の「大文字」や「妙」「法」などが見える範囲は、その眺望が守られるよう絶対高度規制がかけられている

終了後

 

まさに住宅街の中にある町家で聞くからこそ、実感がわく講演でした。会場を出て町家が並ぶ通りを歩きながらも、ちょっと感慨に浸ってしまったり…。

 

ちょっと変わった町家体験をしたい方、ディープな京都について学びたい方にぜひおすすめしたい町家講座。大学が休みでない時期は毎月開催されているそうなので、気になるテーマがあれば参加してみてはいかがでしょうか。

大学アプリレビューvol.17 今日のごはん、何作る?学生スタートアップ発のAI献立アプリ「レキピオ」

2018年6月12日 / コラム, 大学アプリレビュー

自炊をする人なら誰しも抱える悩みといえば、日々の献立ではないでしょうか。家にある食材や家族の好みなどを考慮しながら毎日違うメニューを考える作業は、意外と大変。そんなときにおすすめなのが、同志社大学、京都大学、大阪大学など関西の学生のみで構成されたスタートアップ企業「株式会社TADAGENIC」が開発したアプリ「レキピオ」です。

 

簡単に言えば、AIとチャットで話していくと、ぴったりの献立を提案してくれるというもの。同社の調査によると、主婦の7割が「今日の食事で何を作るか」に苦労しているとのこと。この悩みはさまざまな要因が絡む「複雑性」を持っていて、AIと非常に相性が良いのだそうです。

 

初回起動時は、家にある食材の登録からスタート。

1.野菜、2.肉・その他、3.固形調味料、4.液体調味料の順に家にある食材を登録

1.野菜、2.肉・その他、3.固形調味料、4.液体調味料の順に家にある食材を登録

 

野菜や肉などのカテゴリごとに、食材リストを見ながら家にあるものをタップしていきます。
登録が終わったら、右下に表示される「聞く」ボタンをタップ。

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すると、AIシェフこと「レキピオくん」とのチャット画面に切り替わります。レキピオくんからの質問に、画面下の選択肢ボタンで答えていきます。

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LINEなどのメッセージアプリでおなじみのUIなので戸惑うことなく進められる

LINEなどのメッセージアプリでおなじみのUIなので戸惑うことなく進められる

 

順番に、料理のジャンル(和食/洋食/中華/なんでも)、一緒に食べる人(家族/一人/友達/その他)とその人数、こだわり(時短/低カロリー/特になし)を回答。
今回は「家族2人で食べる和食の時短メニュー」をお願いしました。

 

優先的に使いたい食材を選択。食材の写真も表示されるのでわかりやすい

優先的に使いたい食材を選択。食材の写真も表示されるのでわかりやすい

 

最後に、優先的に使いたい食材を聞かれます。先ほど登録した食材が表示されるので、タップで選択。今回は、賞味期限切れが気になっている「豆腐」と「もやし」を選んでみました。

 

スライド表示で4品のメニューが提示される

スライド表示で4品のメニューが提示される

 

回答を元に、レキピオくんが献立を提案してくれました。写真を見て気に入らなければ、変更することもできます。

 

おすすめ献立が完成。ここでも別のメニューに変更可能

おすすめ献立が完成。ここでも別のメニューに変更可能

 

「決定」をタップすると、本日のおすすめ献立が表示されました! メイン・サイド・スープ・ご飯ものが4品組み合わせられています。
各メニューの写真をタップすると、くわしいレシピを見ることができます。

 

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レシピ画面。代用食材は黄色、不足食材は赤、食材登録リスト外はグレーで表示される

レシピ画面。代用食材は黄色、不足食材は赤、食材登録リスト外はグレーで表示される

 

確かに、質問への回答に合った、家にある「鶏肉」「豚肉」「豆腐」などで作れる「和食」メニューです。どれも15分で作れて「時短」もクリア。人数分の分量や、家にあるもので代用できる食材なども表示されています。

 

ただ、よくよく見ると足りない材料もありました。食材登録リストにあるものは赤字、ないものはグレーで表示されるので、「ごぼうはなくてもいいかな…」「帰りに買って帰ろう」など、判断するヒントになりそうです。

 


さらに何回か試していると、レキピオくんからこんな質問が。

いつものように献立を相談しようとしていたら…

いつものように献立を相談しようとしていたら…

 

「あなたのことについていろいろ知りたいです」と突然の告白。「いいよ」と答えると、呼び方(名前)、性別、生年月日、何人で暮らしているか、誰と住んでいるかを聞かれました。これでよりぴったりの料理を提案できるようです。
WEBサイトやアプリで自分の情報を登録することはよくありますが、こんな風に会話形式で話しかけられるとハードルが低くなり、素直に答えてしまいました。AIにしてやられている気がします…。

 

「女性」と回答すると「ちゃん付けで呼びますね!」と…レキピオくん、意外とチャラくないか!?

「女性」と回答すると「ちゃん付けで呼びますね!」と…レキピオくん、意外とチャラくないか!?

 

 

一通り使ってみて、食材登録から献立提案まで導線がとてもスムーズで、使いやすい! 直感的な操作性は、デジタルデバイスやスマホアプリを幼い頃から使いこなす現役大学生が開発したからこそではないでしょうか。AIとチャット形式で進めていくのも、普通の検索サイトとは違ってちょっと楽しい。

 

メインとなる献立提案については、場合によっては不足食材が多くなってしまうこともあり、一発でズバッと決定!というのは現時点では難しいかもしれません。しかし、献立を考えるうえでいちばん大変なのは、候補になり得るメニューをたくさん挙げること。自分の代わりに未知のレシピを提案してくれる「レキピオくん」は、相談相手ができたようで心強いです。アプリは随時アップデートされているので、今後の精度向上にぜひ期待したいところ。

 

また、TADAGENIC社は「レキピオ」を通じてパーソナルデータの取得を行うことで、外食市場や食品小売市場などへの展開も考えているそう。食の領域から世界トップを狙う学生スタートアップのこれからにも注目です。

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