ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

ほとゼロ主催「大学と社会とのつながりを考える勉強会」記念すべき第1回目のイベントレポート!

2019年8月27日 / ほとゼロからのお知らせ, トピック

大学の取り組みや楽しみ方を紹介する「ほとんど0円大学」を運営して約4年。その間に得られた経験や発見を共有しつつ、各大学の広報担当同士のネットワークづくりにも寄与したいと考え、2019年7月17日、『大学と社会とのつながりを考える勉強会』をKANDAI Me RISE(関西大学梅田キャンパス)で開催しました。


第1回目のテーマは「挑戦する大学広報誌」。大学広報担当者による広報誌制作の裏側ほか、ほとんど0円大学編集部が大学ムック本制作に携わるなかで得た発見を紹介しました。

KANDAI Me RISE(関西大学梅田キャンパス)

KANDAI Me RISE(関西大学梅田キャンパス)

 

梅田の繁華街に佇むKANDAI Me RISEは落ち着いた雰囲気の建物。スターバックスも入っています。


当日は15名の来場者にお越しいただき、席もいい感じに埋まってきたところで勉強会がスタートしました。

MOOK本の魅力を大学広報誌に盛り込む

最初にほとんど0円大学(ほとゼロ)の編集長、花岡が発表。ほとゼロが編集したMOOK本『関西の大学を楽しむ本』(京阪神エルマガジン社)、『楽しい大学に出会う本 首都圏版』(ぴあ)、また企画で携わった『アートとデザインを楽しむ京都本by京都造形芸術大学』(京阪神エルマガジン社)を事例に、MOOK本の制作で得たノウハウを、大学広報誌の制作にどう応用することができるかを報告しました。

ほとゼロ編集長の花岡

ほとゼロ編集長の花岡

 

例えば花岡は、大学MOOK本を「価値提案型」と「ブランドコラボ型」の2タイプに分類。その上で誌面の内容・目的によってこの2タイプの手法を使い分けるなど、広報誌の新しい作り方を提案しました。

一口に大学MOOK本といっても目的は1つではない

一口に大学MOOK本といっても目的は1つではない

 

また京阪神エルマガジン社の熊本さんも登壇し、MOOK本について解説。「京都本」MOOKのブランド力は他地域でも浸透しており、実際、『アートとデザインを楽しむ京都本』は、品川の書店でも1店舗で70、80冊の売上があったそう。「今後も各大学とコラボ展開していきたい」と語ってくれました。

エルマガジンの熊本さん。「京都本」ブランドは東海道を中心に広がっている

エルマガジンの熊本さん。「京都本」ブランドは東海道を中心に広がっている

学生が参加する“有料”広報誌の可能性

続いて、京都造形芸術大学企画広報課の曽田さんが登壇。広報誌『瓜生通信』の特徴やねらいなどを語ってくださいました。


『瓜生通信』は年2回発行。最新の73号では話題の映画『嵐電』の監督鈴木卓爾氏(京都造形芸術大学准教授)や出演者の井浦新氏が登場するなど充実した内容の冊子です。

当日配布された『瓜生通信』を都度参照しながら、みなさん熱心に耳を傾けていた

当日配布された『瓜生通信』を都度参照しながら、みなさん熱心に耳を傾けていた

 

『瓜生通信』の最大の特徴は、誌面を学生と一緒に作っている点だといいます。指導教員をつけ、撮影、インタビュー、校正などのポイントを共有しながら学生とともに制作しているそうです。

『瓜生通信』の文章は全て学生が執筆しているというから驚きだ

『瓜生通信』の文章は全て学生が執筆しているというから驚きだ

 

また出版コードを取得してAmazonでも販売しています。「すごく売れているわけではない」そうですが、「バーコードを付けることに意味がある」と曽田さん。もらった人が喜ぶことに加え、学生も出版物を作っているという意識が生まれるといいます。


この『瓜生通信』ですが、「京都造形芸術大学」としてのブランド価値を高め、入学志願者獲得の一助になることが大切だ、と締めくくりました。

大学の研究成果をいかにして世に広めるか?

3番目の発表は立命館大学研究部研究企画課の矢野さんです。現在10号まで出ている研究広報誌『RADIANT』の創刊から現在までの取り組みを紹介していただきました。

立命館大学研究部研究企画課の矢野さん

立命館大学研究部研究企画課の矢野さん

 

もともと学内の各研究機関が独自に発行する冊子はありました。しかしイベント等で配布すると5冊、6冊となり、もらう方も荷物になります。そこで、研究を端的に紹介する、シンプルな冊子を作ろうということになり『RADIANT』が生まれたそうです。


創刊にあたっては他大学の研究広報誌などの傾向を調査。その上で、冊子のコンセプトや配布方法などを決めていきました。

フロアのみなさんは創刊の経緯や制作のプロセスを興味深そうに聞き入っていた

フロアのみなさんは創刊の経緯や制作のプロセスを興味深そうに聞き入っていた

 

また『RADIANT』制作のプロセスも紹介。写真を大胆に用いる『RADIANT』ですが、研究対象や研究進捗の違いによって、写真や試作品を豊富に所有する研究者もいれば、そうではない研究者もいます。その点も考慮してデザインをいかに工夫しているのか、具体例をまじえて解説してくださいました。


今後は冊子の認知度向上や配布先の拡大が課題とのこと。大学オリジナルグッズとともに渡すなどの取り組みをしているそうです。

立命館大学オリジナルグッズの一つ。地層の深さが測れるユニークな定規

立命館大学オリジナルグッズの一つ。地層の深さが測れるユニークな定規

大学から地域の魅力を発信!

事例紹介の最後は、大阪大学21世紀懐徳堂の肥後さん。21世紀懐徳堂とは、主に年間約130回におよぶ主催(企画制作)イベントの企画や運営、そして他部局主催の社学共創活動をサポートしている部局です。

大阪大学21世紀懐徳堂の肥後さん

大阪大学21世紀懐徳堂の肥後さん

 

そんな21世紀懐徳堂は、大阪大学がキャンパスを構える豊中市から「とよなか魅力アップ助成金」を得て『待兼山PRESS』というフリーペーパーを発行しています。助成金応募時、要項には「イベント等」と書かれていたそう。しかし「イベントは一過性で、参加者が限られる」のに対し、「紙媒体は長期的で、広範囲に発信できる」というメディア的な差に着目。「フリーペーパー」制作を掲げて応募し、見事に助成金を獲得しました。

大学の方針とも共鳴する地域貢献のために助成金獲得へ

大学の方針とも共鳴する地域貢献のために助成金獲得へ

 

よい意味で「大学っぽくない」ことや、地域の文化を伝えることをねらいにした『待兼山PRESS』。大学が位置する待兼山の奥深い魅力をわかりやすく紹介する内容になっています。

軽くて持ち運びもしやすい『待兼山PRESS』

軽くて持ち運びもしやすい『待兼山PRESS』

 

学外でも好評という『待兼山PRESS』ですが、肥後さんは「空き時間や電車での移動中にも読める手軽さ」がよいのではないかといいます。講座申込などの案内はせず、ただシンプルに、まちなかのフリーペーパーの1種として読んでほしい。薄く折りたたんで持ち運べるサイズ感も相まって、気兼ねなく手にとれるのだと語ってくださいました。

質疑応答~大学オリジナルお菓子を食べながらのフリートーク

フロアをまじえての質疑応答では、『瓜生通信』において教員はどの程度の頻度と責任で指導しているのか?『RADIANT』の予算立てはどうしているのか?『待兼山PRESS』の助成金の金額はいくらくらいか?といった質問とそれに対する回答が飛び交い、活発な意見交換がなされました。

複数の質問が出て活発な議論に

複数の質問が出て活発な議論に

 

その後、登壇者、フロアの参加者全員まじえてのフリートークタイムに。さまざまな大学が開発に携わったオリジナルのお菓子を食べながら、質疑応答の続きとなる話題や広報担当者ならではの共通の話題で盛り上がりました。

大学オリジナルのお菓子を食べながらのフリートーク。事前に想定していた以上の盛り上がりだった

大学オリジナルのお菓子を食べながらのフリートーク。事前に想定していた以上の盛り上がりだった

 

ちなみにこの日用意したお菓子は以下の通り。

1:三重大学×モンパクトル「伊賀忍者伝承のお菓子 かたやき小焼き」

2:近畿大学×UHA味覚糖「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」

3:奈良女子大学×ドネー ドゥ ガトー「奈良漬サブレ」

4:大阪大学×UHA味覚糖「頭脳グミ」

5:近畿大学発のベンチャー企業株式会社アーマリン近大の「近大マグロせんべい」

6:近畿大学×UHA味覚糖「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」

(「伊賀忍者伝承のお菓子 かたやき小焼き」、「奈良漬サブレ」、「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」の実食レポートはこちら。また、「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」開発の経緯を取材した記事はこちら

どれもやみつきになるような、おいしいお菓子だった

 

今回の勉強会は、発表者・来場者の方々のおかげで非常に盛況なイベントになりました。ご協力ならびにご来場、ありがとうございました。


参加者へのアンケートも実施したところ、他大学の広報活動の実際を知ることができる貴重な機会だった、といった感想もあり、全体としてもご好評をいただけたのかなと考えております。勉強会は、第2回、第3回と開催を予定しています。今後ともよろしくお願いいたします!

話題の近大×UHA味覚糖コラボ!継続的な産学連携を支えるものとは?【後編】

2019年8月8日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

近畿大学とUHA味覚糖の産学連携が生んだコラボ商品の歴史や開発秘話に迫る今回の取材。後編では、第8弾の商品開発に携わった学生たちの思いや、今後のコラボの展望などを伺った。(コラボのきっかけや経緯を語っていただいた「前編」はこちら

最新作「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」の開発秘話

2019年5月、現時点で最新作の第8弾「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」が登場した。近大の6つのキャンパスの特色を、6つの味や香りで表現するという学生たちのアイディアを、人気の「ぷっちょ」として具現化した商品だ。

「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」。3種類ずつ、2つのパッケージに分けて商品化

 

キャンパスと味を対応させるというユニークなアイディアを出した学生たちは、どんなきっかけでプロジェクトに参加したのだろうか。
経営学部の田中萌々香さんは、第5弾コラボ「マグロのめだまグミ」に衝撃を受けた。「インパクトがありました。ただ、おいしいのかな?と少し疑問もありました」と語る。しかし、「実際に買って食べてみたらおいしかったんです」。もともと「企画」というものに関心のあった田中さんは、自分も参加してみようと考えるようになったそうだ。

農学部の大谷真奈花さんは食品メーカーに関心があることに加え、普段から「つい食べてしまう『お菓子』」が持つ力の秘密に迫りたいと、参加を決めた。「お菓子の開発に関わることができたら、貴重な経験になるだろうなと思いました」。

経済学部の酒井萌衣さんと生物理工学部の久保友乃さんは、同じ高校出身で、ともに食品、お菓子の開発に興味があった。既に二人でアレルギー対応のお菓子プロジェクトを進めてきた経験もあったという。「色々と学びたいことがありましたし、多賀先生にも質問したいことがあったんです」と酒井さん。「企業とコラボできる機会を逃すわけにいかない、これはチャンスだと思いました」と久保さんも語る。

左から田中萌々香さん(経営学部)、大谷真奈花さん(農学部)、酒井萌衣さん(経済学部)、久保友乃さん(生物理工学部)

 

今回インタビューできなかったメンバーも含め、学年も学部もバラバラで、キャンパスも異なるため、集まりたくても集まれないこともあったとか。そんなときは、LINEを使って会議を行ったという。

KISS LABOのロゴがはいったオリジナルウエアもある

KISS LABOのロゴがはいったオリジナルウエアもある

 

またメンバーたちは視点もタイプも違っていたが、むしろその違いをうまく活用した。「例えば絵が上手なメンバーが、企画書にイラストを加えてアイディアを可視化しました。久保さんや酒井さんのように、SDGsや環境の側面からアイディアが出せるメンバーもいて、視野が広がりました」と、田中さんは振り返る。

プレゼンの企画書。イラストが添えられ、視覚的にわかりやすく、ユニークな企画書になっている

プレゼンの企画書。イラストが添えられ、視覚的にわかりやすく、ユニークな企画書になっている

企画書にはSDGsの話題も盛り込んだ。社会的な問題にも気が配られている

企画書にはSDGsの話題も盛り込んだ。社会的な問題にも気が配られている

開発が進んでからもイラストを用いてアイディアを可視化

開発が進んでからもイラストを用いてアイディアを可視化

 

全体を統括する近大薬学部の多賀淳教授やUHA味覚糖の辻浩一さん、学生との話し合いを行うUHA味覚糖の髙瀬章吾さんなどと協力し、学生たちがそれぞれの個性を活かしてプロジェクトを進めていったのだ。

左からUHA味覚糖の髙瀬章吾さん、辻浩一さん

それぞれの得意なことを活かして開発を進めていった学生チーム

それぞれの得意なことを活かして開発を進めていった学生チーム

アイディアとファイナルプロダクトの狭間

結果的に商品化された今回のぷっちょは個包装タイプだが、実はプレゼンの段階ではスティックタイプとして考えられていたという。

しかし、「スティックタイプの場合、複数のフレーバーをちゃんと振り分けようとすると、手作業になってしまいます。すると価格も1本千円、2千円になりかねない。だけど、アソートとしてキャンパスを紹介するアイディアはおもしろい。近大とUHAのコラボを象徴する商品の一つになると思いました」と、髙瀬さんは振り返る。

また、近大副学長もこのアイディアを気に入った。2025年に近大創立100周年を迎えるにあたり、各キャンパスのつながりをもっと作っていきたいという考えもあったという。こうして商品化されることは決まり、学生のアイディアを、商品として可能な形に落とし込んでいった。

提案時はスティックタイプだった。ただ、味やキャンパスアソートというアイディアなど、核となる部分の多くは当初の提案が完成品にも反映された

提案時はスティックタイプだった。ただ、味やキャンパスアソートというアイディアなど、核となる部分の多くは当初の提案が完成品にも反映された

 

さらにプレゼンのときは、「もう少しふざけた感じ」を前に出していたと大谷さんは語る。福岡キャンパスなら『明太子味』と書いておいて実は『あまおう苺味』にしたり、『近大まぐろ味』と書いて実はブルーベリー味にしたり、といった案である。だが、結局はストレートにフルーツ味として表記することに。ぷっちょはフルーツ味がおいしいという評価が定まっていたことに加え、突拍子もないものにするとリピートにはつながりにくい、という判断だったようだ。

また、友達に配りやすい形状にして、会話のきっかけにできたり、つなげるとハートの形にできたりといった、遊べるデザインの提案もしたそうだ。この案も実現には至らなかったとはいえ、“誰かと一緒にお菓子を食べること”を、より楽しくしてくれそうなアイディアだ。

商品になるかどうかはともかく、こうした多彩なアイディア、考えを表現できる学生たちがいること、そしてそれを支える環境があることは、とても大切なことだ。

こういう仕掛けがあったら、友達とも一緒に楽しめそうだ

こういう仕掛けがあったら、友達とも一緒に楽しめそうだ

 

このように、もとのアイディアと、完成した商品とでは、違う部分も多々ある。しかし学生たちにとっては、この違いからも学ぶべきことが多かったようだ。
大谷さんは「自分たちの意見が全部通るわけではないことが難しい点」だったという。「予算や工場の設備の問題もあるので、どうにかしてもらえるわけでもない。だから、相談して、一緒に作っていくのが大切なんだなと。大変だったけど、そのぶん最初にサンプルができたときは嬉しくて、自分で食べずに実家に送りました(笑)」。
久保さんにとっても、思い描いていたイメージと現実の差を意識する機会になった。「もともとお菓子を作りたいと思っていたんですが、作り方はあくまで想像することしかできませんでした。開発を実際に体験することができて、勉強になりました」と語る。
また、酒井さんは、「実際にお菓子づくりを目の当たりにして、難しいことなんだな」と実感したという。「私はお菓子を通して誰かを幸せにするのが夢です。ただ、こんなに作るのが難しいということは、今まであまりわかっていなかったなと。これから生きていく上で、貴重な経験になりました」。
そして「おそらくこの機会がなかったら決してできない体験ができました」と田中さん。「自分たちで考えたデザインやアイディアが、試作品になって、目の前に出てくる。かなりの喜びでした。近大だからこそ、このコラボだからこそ味わえたことではないかと思います」。

継続的な活動の秘訣と近大マグロのまんま

ところで、コラボ商品は今回が第8弾。どうして長く継続するのか、また継続できるのだろうか。多賀教授は、産学連携を続ける魅力を語ってくれた。「学生は何かものを作って完成させるとすごく喜ぶんです。だけど、僕たちだけで商品を作ろうと思ったらベンチャーを立ち上げることになる。するとリスクを負わなきゃならないし、学生の自由度も減るし、好きな研究もできなくなる。企業とコラボを続けるからこそ、自由に研究するチャンスも増えていく」。
UHA味覚糖のチームにとって「やはり学生からのアイディアがもらえること」は非常に魅力的だという。「味覚糖は新しいものを常に探しています。ただ、社員は、すでに色々な情報がインプットされてしまっている。いろんな学部の学生が次から次へとおもしろいアイディアを出してくれて、おもしろい研究成果が生まれて。そうやって次へ次へとつながっていけたのかなと思います。何とかできるようにしようと考えることで、私たちにとっても勉強になりますね」。

学生たちが斬新なアイディアを次々に生み出す

学生たちが斬新なアイディアを次々に生み出す

 

ちなみに、商品化はならなかったが、あっと驚くようなアイディアもあった。マグロの内蔵をモチーフにしたお菓子がその一つだという。「マグロの内臓は廃棄されているんですが、とある学生から、近大マグロを有効利用するために『近大マグロのまんま』という素材菓子ができないかと提案があった」と髙瀬さんは言う。「先生と相談したら、『身はないけど、モツならある』と。それで、商品化しようとして、試作まではしました。ただ、衛生面、品質の安全面で担保できずに、断念したんです」。
「近大マグロのまんま」、いつか食べてみたいという気もする。

産学連携が目指すもの、そして次なる企画の展望

多くの斬新な商品を世に送り出してきた近大とUHA味覚糖のコラボ。現時点での目標や、次の展望とはどんなものだろうか。
「全国発売したいです。そしてちゃんと利益になる商品を作りたいですね」と辻さん。多賀教授も「できるだけ多くの学生に、近大じゃなければ味わえない体験をしてもらいたいんですが、長く続けるためにもヒット商品が出て欲しいですね」と語る。今後も活動を継続し、多くの学生が貴重な経験を積める機会を維持するためにも、さらなるヒット商品が求められている。
今後の共同研究の展望も見えている。「ヒントは海。SDGsという側面から、海洋保全にも役立つようなプロジェクトになるでしょう」とUHA味覚糖の松川泰治さん。そして多賀教授は「海藻もキーワードです。今まではゴミだったものが、貴重なものになっていく」と語る。現時点で公表できることは少ないが、どんな研究成果がもたらされるのか、そしてまたどんなコラボ商品が生まれていくのか、楽しみだ。

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ヒントは海、そして海藻と語ってくれたUHA味覚糖の松川泰治さん(左)と近畿大学薬学部教授の多賀淳さん

近畿大学とUHA味覚糖の産学連携ラボ「KISS LABO」

近畿大学とUHA味覚糖の産学連携ラボ「KISS LABO」

話題の近大×UHA味覚糖コラボ!継続的な産学連携を支えるものとは?【前編】

2019年8月6日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

2019年5月18日、近畿大学とUHA味覚糖の産学連携が生んだコラボ商品「ぷっちょ 近大キャンパスアソート」が発売された。近畿大学が擁する6つのキャンパスの地域性や特徴を活かした全6種類の味が楽しめるという、この大学ならではのコンセプトと、人気のソフトキャンディ「ぷっちょ」が合体した商品だ。実はUHA味覚糖と近畿大学の産学連携コラボ商品は、なんと今回で第8弾となる。こんなにもプロジェクトが継続できる理由とは?コラボのそもそものきっかけとは?学生の思いとは?今後の展望は?各コラボ商品の開発秘話も含め、話題の産学連携プロジェクトを取材。前後編にわたってお届けする。
前編では、コラボのきっかけから第7弾商品の開発まで、お話を伺った。

「まじめな」共同研究をベースにした化粧品からスタート

近大とUHA味覚糖は、2016年2月に発売された第1弾コラボ商品を皮切りに、数々の商品を開発・発売してきた。デザインやコンセプトがユーモラスであることでも知られるこのコラボ企画は、そもそもどんなきっかけでスタートしたのだろうか。

「最初はとてもまじめな共同研究として始まりました」と語ってくれたのは近大とのコラボ事業に当初から携わってきたUHA味覚糖の松川泰治さん。また、やはりこのコラボのキーパーソンである近大の多賀淳教授も次のように語る。「近大マグロのあらゆる部位を無駄にしないように、何か出来ないかと。皮に着目し、コラーゲンで化粧品が出来ないだろうかと考えたんです。企業と連携したほうが早く進むだろうと思いました」。

UHA味覚糖の松川泰治さん

UHA味覚糖の松川泰治さん

近畿大学薬学部教授の多賀淳さん

近畿大学薬学部教授の多賀淳さん

 

ともに大阪に拠点を構える組織であり、勢いのあるもの同士の近大とUHA味覚糖。松川さんと多賀教授は、そんな両者が手を組めば、勢いのある研究や商品が生み出せるのではないかと考えたそうだ。

「わからないもの同士」だからこそ生まれた成果

共同研究を進めた近大とUHA味覚糖は、近大マグロからフルレングスコラーゲンという新素材を抽出することに成功する。実はこの新素材抽出の成功には、「偶然」も与っているという。多賀教授たちは最初、よく知られているI型コラーゲンをマグロからとろうとしていた。しかし、そこにこだわらずに色々な条件で試したところ、「あるとき、めちゃくちゃ水に溶けやすいコラーゲンがとれた」と多賀教授。そしてこのコラーゲンの再現にも成功した。
「僕は化粧品の研究をはじめて間もなかった。UHA味覚糖さんは、まだ化粧品の経験が無かった。化粧品の知識が豊富だったら、I型コラーゲンに固執していたかもしれません」と、多賀教授は語る。「化粧品について、わからないもの同士だからできたのかもしれない」(多賀教授)、そんな新素材抽出だったのだ。
そして、このフルレングスコラーゲンを用いて誕生したのが、コラボ第1弾商品「リップスクラブ」と「グミサプリ」だ。文芸学部がデザイン、経営学部が販売戦略に重要なポップやキャッチフレーズを考案、多賀教授のいる薬学部がコラーゲン研究をそれぞれ担当するといったように、文理を越えた連携により、商品として形作られた。

キスラボチャレンジの始動へ

その後も、商品企画が発端となった「ぷっちょUniversity 近大マンゴー」、第1弾のリニューアル商品「リップスクラブ」と「リップエッセンス」といったようにコラボ企画は進められた。

第2弾「ぷっちょUniversity 近大マンゴー」

第2弾「ぷっちょUniversity 近大マンゴー」

第3弾「リップスクラブ」

第3弾「リップスクラブ」

 

 

 

 

 

同じく第3弾「リップエッセンス」

同じく第3弾「リップエッセンス」

 

そんな中、近大とUHA味覚糖の連携をより盤石なものとするための環境が整う。2017年に近大とUHA味覚糖が連携する公園型共創スペース「KISS LABO」が開設され、産学の共同商品開発への参加者を募る「KISS LABO Challenge the Real Production(キスラボチャレンジ ザ リアルプロダクション)」が実施されることになったのだ。このチャレンジは、企画を立て、プレゼンで勝ち残った学生たちのアイディアを商品化していく試みで、商品開発にあたっては学生チーム、教員、UHA味覚糖の社員が集まり、会議を重ねていくという本格的なものだ。
もちろんそれまでのコラボでも、担当教員の研究室レベルでは学生も参加していた。しかし、キスラボチャレンジは、より広い範囲で学生に門戸を開いた。まずは本当にこんな試みが可能なのかを見るためにも、KISS LABOに集っていた学生を中心にメンバーを募り、第4弾コラボ商品「近大発めし」を商品化。コンセプトや味の選定、パッケージデザインなどに学生が携わった。

第4弾コラボ商品「近大発めし」

第4弾コラボ商品「近大発めし」

目玉、グミチョコ、ミルクとハニー…学生たちの刺激的なアイディア

次のキスラボチャレンジでは、全学生に向けて公募をかけた。すると奇抜なアイディアが多く集まるようになった。「突拍子もない意見が出てくるようになりました。でもそれもおもしろかった」と、語るUHA味覚糖の髙瀬章吾さん。「いかに学生の意見を崩さず、商品に落とし込めるか試行錯誤しました」。
第5弾コラボとしてプレゼンを勝ち抜き、商品化にいたったのは、「マグロのめだまグミ」。UHA味覚糖の「コロロ」をベースとして、品名の通り近大マグロのコラーゲンを配合したこのグミは、インパクトのある名前もあって、学生の間でも話題になったようだ。

第5弾「マグロのめだまグミ」

 

第6弾は、近大マンゴー味のグミにチョコをつけて食べる「Dip Stick」。学生の好きなお菓子は、グミかチョコレートかで人気が二分する。「じゃあどっちも一緒に食べられたらお得なのでは」という着眼点のおもしろさが商品化を勝ちとった決め手だという。
ところが、商品化にあたっては関門をくぐらなければならなかったと、UHA味覚糖の辻浩一さんは言う。辻さんは、「Dip Stick」から近大とのコラボ事業に携わるようになった。「実はライン製造が不可能なアイディアでした。携わるようになったと思ったら、商品化できないアイディアが選ばれていた…」。結局どうしたか。なんと「手作りで作業した」のだという。UHA味覚糖本社1階に店を構え、同社が運営するショコラショップ「キャギ・ド・レーブ」にて100個限定、1,080円で販売された。「高級な手作りチョコレートを並べても不自然ではないショコラショップがあったおかげで実現できました」。

左からUHA味覚糖の髙瀬章吾さん、辻浩一さん

 

一方、第7弾「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」の商品化は比較的スムーズだったようだ。近畿大学工学部が養蜂からハチミツ製品の開発まで実践している「近大ハニープロジェクト」と、UHA味覚糖の人気商品「特濃ミルク8.2」を組み合わせたキャンディである。「近大ならではのハチミツという素材と、私たちの特濃ミルクを組み合わせたら間違いないだろうと。将来性もあり、これならいけると思ってすぐに商品化しました」と髙瀬さん。学生の間でも好評だという。

第7弾コラボ商品「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」

第7弾コラボ商品「特濃ミルク8.2(近大ハニー)」

 

共同研究結果の応用からスタートし、斬新なアイディアを取り込む環境も整ってきた近大とUHA味覚糖の産学連携商品。後編ではいよいよ最新作第8弾商品について、開発に関わってきた学生たちへのインタビューも交えて紹介する。

どんどん悩んで「モヤモヤ」しよう。ナレッジキャピタル超学校 対話で創るこれからの「大学」『「わからないこと」を楽しむ』レポート

2019年7月18日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

「わからないこと」、と聞いてどんな印象を持つでしょうか?「わからない」話を聞くと頭がこんがらがった感じがするし、何かが「わからない」と恥ずかしいこともある。皆が「わからない」話題は敬遠されるし、わかりやすく説明しなければならないとも言われる…。「わからないこと」はあまり良いイメージでは語られません。

大阪大学COデザインセンターナレッジキャピタルが主催する『対話で創るこれからの「大学」』第1回として開催されたイベント『「わからないこと」を楽しむ』は、「わからないこと」にまとわりついたそんなネガティブなイメージを覆すような試みでした。

超弦理論の研究で知られる大阪大学の橋本幸士教授、そして科学番組はじめとする数々のテレビ番組を手がけてきたNHKエデュケーショナルの竹内慎一さんが登壇したこのイベントへの参加レポートを、お届けします。

「わからないこと」に向き合う日々―理論物理学者の日常―

黒板を愛する理論物理学者としても有名な橋本教授(橋本教授の黒板への愛が感じられる過去のイベント・レポートはこちら)。今回のイベントのオープニングでも、橋本教授が黒板に向かって計算する姿を映した映像が流れました。

巨大な黒板に向き合う橋本教授の映像が投影された

巨大な黒板に向き合う橋本教授の映像が投影された

映像のあとは、橋本教授のプレゼンへ。「理論物理学者として日々わからないことに向き合っている自信がある」という橋本教授は、そもそも理論物学者とはどんな人たちなのかを紹介。テレビドラマや映画での理論物理学者は白衣を着て教壇に立っていることもありますが、実は「白衣はまず着ません」と橋本教授。基本的にはTシャツにハーフパンツで活動しているそうです。そういえばオープニングの映像でもまさにそんな格好でした。国際学会に行っても、多くの理論物理学者がだいたい同じような格好をしているらしく、いわゆる「科学者」のイメージとはちょっと違って意外ですね。

超弦理論の研究者が集う国際学会の様子を紹介。参加者は服装には特に気を使っていないらしい

超弦理論の研究者が集う国際学会の様子を紹介。参加者は服装には特に気を使っていないらしい

では理論物理学者は、Tシャツとハーフパンツ姿で、何をしているのでしょうか。橋本教授は、一日のうち十数時間は計算と議論を行っているとのこと。まさに、この世界の「わからないこと」と一日中向き合っているんですね。世界を規定しているさまざまな運動の法則を見つけたり、新しい現象を予測したりする理論物理学者。わからない現象があふれる中で、科学的に信頼できる方程式を探すのが仕事なのだと、橋本教授は語ります。

科学への入口を作る―アニメに、舞台に、小説に―

しかし橋本教授の活動はそれに留まりません。「数々の方程式の中でも、おそらく一番よく知られている」という、アインシュタインによるE=mc^2(エネルギーと質量は交換可能)。橋本教授は、アニメ映画『GODZILLA』の黒板シーン制作のために、アインシュタインがこの公式を導き出したプロセスを板書で再現しました。その他にも、テレビ番組に出演したり、科学小説を執筆したり、演劇に出演したり、狭義の科学者の枠に収まらない幅広い領域で活動を展開中の橋本教授。科学者のやっていることに興味はあるけど、難しいので近寄らないという人に、科学を身近に感じてほしいから、とのことです。TwitterやFacebookでも積極的に情報発信やコミュニティづくりを行っています。「これまで接することのできなかった人々に科学者の生活を伝えることができている」。そう語る橋本教授の発表は、理論物理学者って何だかおもしろそうだなあ!と思わせてくれるものでした。

アインシュタインの思考の軌跡を再現。アニメ映画に用いられた

アインシュタインの思考の軌跡を再現。アニメ映画に用いられた

自分で考える番組を―わかりやすい説明の「失礼さ」―

続いて、科学番組の制作を多く手がけてこられたNHKエデュケーショナルの竹内慎一さんが壇上へ。科学の世界にもっと興味を持ってもらいたいと、番組にはさまざまな工夫を凝らしてきたという竹内さん。例えば慣性の法則を学ぶ実験として、10メートル四方のテーブルクロス引きをやってみるなど、当たり前だと思っている理論をインパクトのあるかたちで実際に試してみる番組などを制作してきました。

数多の科学番組を手がけてきた竹内さん

数多の科学番組を手がけてきた竹内さん

しかし竹内さんは、小学生向けの理科の番組などを担当する中で、テレビ番組はどうしても「すでにある知識を伝えることになってしまいがち」と感じたのだとか。そこで、「偉い人の学説を伝えるのではなく、自分で問いを見つけてもらえるような番組を作りたい」と、考えるようになったそうです。

そんなときに竹内さんが意識したのは「わかりやすく説明しすぎるのは、視聴者に『失礼』なのではないか」という点でした。見る人に余白を与えないような、わかりやすい、懇切丁寧な説明は視聴者を信用していない証だ…。そう考えた竹内さんは「あえて不親切な番組を作ってみたい。知識偏重にならず、考える技術を身につけられる企画にしたい」と、これまでに無かった新たな番組作りに挑戦しました。

モヤモヤを楽しんで!―『考えるカラス』という試み―

そうして出来た番組が、2013年の『考えるカラス』です。この番組の画期的な点は解説がわかりやすいこと、ではなく、解説が無い(!)こと。例えば「火のついた長いろうそくと短いろうそく。ビーカーをかぶせて密閉させると、どちらの火が先に消える?」といった問いを示します。実験を行って結果が出るところまでは見せるのですが、「ここから先は自分で考えよう」というナレーションとともに番組は終了。解説はウェブサイトにも載っていないし、次回の放送でも流れないので、何故そうなるのかは、自分たちで考えなければなりません。

竹内さんは、「苦情も多少ありましたが、おおむね皆さん面白がってくれました。家族の会話が増えたという人もいました」とのこと。確かに、気になって誰かと話をしたり、あれこれ考えたり調べてみたりしたくなってしまいますね。

『考えるカラス』はある意味で視聴者参加型とも言えるだろう。ただしリアルタイムではなく、ゆっくり時間をかけての参加だ

『考えるカラス』はある意味で視聴者参加型とも言えるだろう。ただしリアルタイムではなく、ゆっくり時間をかけての参加だ

視聴者からは「モヤモヤする」という意見もたくさんあったそう。竹内さんはその意見に対し、「モヤモヤして!」と応答します。「モヤモヤすることをポジティブに捉えることもできるはず。情報を鵜呑みにはせず、考えている証拠ですから」と語った竹内さん。日頃ネガティブに捉えてしまう「モヤモヤ」の感覚を大切にしなければな、と感じました。

「モヤモヤ」を肯定的に捉えなおす

「モヤモヤ」を肯定的に捉えなおす

「失敗」を楽しむコミュニティ

それぞれの発表のあとは対談が行われました。まず話題になったのは「失敗」について。バシバシと謎を解いているイメージの理論物理学者ですが、「実は失敗ばかりしている。例えば、『クォークの閉じ込め』という大問題は、30年、40年、誰も解けていない」と橋本教授。「では素粒子物理学者は何をやってるのか。もっと小さな問題を解いています。それだって解けないときもあります。でも科学者のコミュニティでは、失敗を許し合い、楽しむ文化ができています。失敗して、モヤモヤしている過程でおもしろいことを見つけ、問題を再設定して、論文を書いていくんです」。失敗を重ね、長い時間をかけて地道にものごとを考えることを許容する環境が、素晴らしい研究を生み出す土壌を作っていくんですね。

橋本教授のTシャツは「SORIUSHI」。反り牛、そりうし、そりゅうし…

橋本教授のTシャツは「SORIUSHI」。反り牛、そりうし、そりゅうし…

一方、「大学以外で、失敗を楽しんで受け入れるコミュニティはあるんでしょうか?」という竹内さんの問いに、「なかなか無いと思います」と語る橋本教授。「すぐに答えを出すこと」に重きが置かれていると、失敗は許しにくくなってしまうのかもしれません。じっくり自分で考える余裕があったほうがいいよね、という2人の語りに、フロアも頷いていました。

無駄話のススメ

続いて対談は、わからないことの楽しさを受け手にどう伝えるかという話題に。橋本教授は「教育学部を出たわけでもないので、教育の仕方を学んできたわけじゃない。でも教壇には立たなきゃいけない」ということで、試行錯誤を重ねてきたそうです。そんななか、講義がうまくいっている先生の授業アンケートを見て、「無駄話」がキーポイントだと思ったとのこと。科学者のちょっとしたエピソードなど、科学の背後にある人間の物語などを織り交ぜて講義することが、受け手の興味を喚起するために大切だといいます。実際、無駄話を挟むと、学生のやる気も成績もあがるそうです。竹内さんも、「科学番組も、大事なことだけを伝えようとすると、見る方も疲れる。受け入れられません。余談が必要」と語ります。

大学の授業にも科学番組にも共通する無駄話の重要性

大学の授業にも科学番組にも共通する無駄話の重要性

ところでイベント冒頭に流れていた、ハーフパンツ姿でひたすら板書する橋本教授の姿。あの映像もまさに、「人間・橋本幸士」を語る、素晴らしき「無駄パート」だったのですね!

自分の問いを見つけて、「わからないこと」を楽しもう

また、フロアを交えた質疑応答では「質問をすることに抵抗を感じる学生も多いが、どうやったら質問することのハードルは下がるか」といった質問がありました。「仕事をするとなったら問いを自分で見つけないといけない」、「小中高の段階で、自ら問いを発する技術を身につける機会を設ける必要があるのではないか」と竹内さんが語ったように、話題は科学以外の仕事や、学校教育全体の問題にも接続され、広がりのあるラストとなりました。

話題は日本の教育制度にも及んだ

話題は日本の教育制度にも及んだ

親しみやすい入口から科学の世界に人々を誘う橋本教授。あえて「不親切な」方法で番組視聴者が考える時間を作る竹内さん。一見真逆に見えるアプローチですが、どちらも、「わからないこと」に向き合って何かを考えることは楽しいんだよ!というメッセージを、より多くの人に届けるための挑戦だと感じました。すでに用意された問いに答えるばかりでなく、また、すぐに「答え」を知ろうとするのではなく、自分の問いをじっくり吟味する力と余裕。これは科学に限らず、何をするにも大切なことだと認識できた、貴重なイベントでした。

 

『大阪大学COデザインセンター × ナレッジキャピタル 対話で創るこれからの「大学」』シリーズは、第2回、第3回と今後もイベントが予定されているようです。ぜひチェックしてみてください。

主役は仏像の「手」!佛教大学宗教文化ミュージアムのユニークな特別展「ほとけの手」

2019年6月4日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

お寺や博物館で目にすることも多い仏像や仏画。しかし、その「手」だけをじっくりと見る機会はあまり多くないのでは。

そんな仏像や仏画の「手」を集めて展示した、なんとも個性的な展覧会「ほとけの手 黙して大いに語る」が佛教大学宗教文化ミュージアムで開催中だ(2019年6月30日(日)まで)。

 

佛教大学宗教文化ミュージアムは、佛教大学のキャンパスから出土した考古資料や、京都の民俗文化を中心に紹介する平常展示を行っているほか、春、秋、冬には特別展・企画展を開催。

今回の大変マニアックな企画「ほとけの手」は、2019年度の春期特別展として開かれている。ちなみに、「ほとけ」とひらがな表記なのは、いわゆる仏(仏陀や如来)に限らず、菩薩や天部などを含む仏教諸尊を対象としているためだそうだ。

展示室

「ほとけの手」をおさめた展示ケースが並ぶ

 

会場には、ガンダーラ出土の石造りの手や、日本で作られた木造の手と腕、現代の仏師が彫刻した手、「ほとけの手」をめぐる人々の信仰の様子が伺える仏画などが並ぶ。まさに「手」づくしの展示内容だ。

 

しかしなぜ「手」なのだろうか?「仏像の手にはさまざまな思想が込められています。その意味を読み解くおもしろさを感じていただけたら」と語るのは学芸員の熊谷貴史さん。「さらに造形も魅力。一点一点の手が持つ表情の違いを楽しんでみてください」。

 

込められた意味を読解するもよし、見た目の美しさを味わうもよしの「ほとけの手」。例えば素材や地域によってもその表情は異なってくる。「ガンダーラは写実的な手が特徴」だが、日本では「時代にもよりますが、曲面を強調して単純化した造形も味わい深い」という。

ガンダーラ出土の仏像の手

会場に入ってまず目に飛び込んでくる石造の手、手、手(ガンダーラ出土、京都大学人文科学研究所蔵)

ガンダーラ出土手部断片

石造の手に近寄ってみる。美しい手の甲。今にも動き出しそうだ

手首先

平安時代後期の木造の手。丸くころころしている(兵庫・達身寺蔵)

 

意味を読み解く面白さがよくわかるのが、不思議なマークが刻まれた石造の手だ。掌の真ん中にある円状の印は「法輪」、指の間の水かきのようなものは「縵網相」。「法輪」も「縵網相」も仏が持つ身体的特徴で、掌から放たれた光が広がっていく様子を表現している可能性があるという。

法輪と縵網相

意味を理解すると本当に光を放つ手に見えてくる(ガンダーラ出土、京都大学人文科学研究所蔵)

 

手が独立して展示されることで、さまざまな角度から手を鑑賞できるのもポイント。例えば「通常は見られない仏像の視点から眺めることもできますよ」と熊谷さんは語る。

「ほとけの視点」から

「ほとけの視点」から(徳島・雲辺寺蔵)

本展を企画した学芸員の熊谷さん

本展を企画した学芸員の熊谷さん

 

実にレアな展示品もある。千手観音像の手と腕だ。仏像の手は破損しやすいため、手が欠けている場合も多いが、手と腕だけが遺るのは珍しいという。展示ケースに「手」だけが大量に並ぶ様子を見て、少しぎょっとするかもしれない。しかしそれぞれの手の造形を見比べたり、かつての全体像を想像したりしていると、いつの間にか時間を忘れて見入ってしまう。

千手観音像断片

こんな光景を目にする機会はめったにないだろう。すべて千手観音像の手(徳島・雲辺寺蔵)

腕部

こちらは腕。近寄ってよく見ると、きらきらと輝く漆箔が残っている(徳島・雲辺寺蔵)

 

古い手を堪能したら、今度は新しい「ほとけの手」。現代の仏師・前田昌宏さん作の「手」が、完成段階だけでなく制作段階のものを含めて紹介されている。「ほとけの手」が生まれる過程を知ることのできる貴重な展示だ。

 

また、「五色の糸」の紹介も興味をそそる。仏像の指にかけられたカラフルな五色の糸。これをつかむことで、仏様と縁を結ぶことができるという信仰だ。像だけでなく、糸の跡が残る仏画まであるという。人々にとって「ほとけの手」がどんな意味をもってきたのかを垣間見ることができる。

 

会場のラストを飾る展示にもぜひ注目したい。チベット出身のリシャン・ツェランさん(佛教大学大学院生)が墨で画いた「印相」の図解だ。仏像が両手を組み合わせて作り上げる「印相」は、「ほとけの手」と聞いて多くの人が思い浮かべるものかもしれない。墨の線が形作る印相は、仏像とはまた違った「ほとけの手」の美しさを見せてくれる。

定印

ツェランさんが画いた図解は、なんと387枚。展示されるのはその一部だが、残りも資料として活用されていくという

 

「手」がこんなにも豊かな世界を見せてくれるとは思いもよらなかった。本展を経験した後では、もう「手」に注目せずに仏像や仏画を見ることはできなくなるかもしれない。実際に訪れて「ほとけの手」の魅力を堪能してほしい。

 

なお、会期中6月15日(土)には、関連ワークショップも開催される。熊谷さんが展覧会鑑賞のツボを紹介する講演会、ツェランさんによる仏画教室、そしてツェランさんと館長・小野田俊蔵さんとの対談も行われる予定だという。ぜひ足を運んでみては。

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