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ぬいぐるみに心を感じるのは「認知のバグ」? 白百合女子大学の菊地浩平先生に、人形と人間の不思議な関係を聞いてみた

2025年2月20日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

人形と目が合って、ついドキリとしたことはありませんか?「かわいい」や「視線がこわい」など抱く感情は人それぞれですが、たとえ木や布のかたまりだとわかっていても、人形には人間の心をかき立てずにはおかない不思議な何かが備わっています。かくいう筆者もつい反応してしまうひとりで、大人になった今も家にぬいぐるみがたくさんいます(ありますというべき?)。人間は人形とどのように関わってきたのでしょうか。人形劇の研究が専門で、幅広い人形文化を扱う講義が人気の白百合女子大学人間総合学部准教授の菊地浩平先生に聞きました。

どんなに真剣でもパロディになってしまう、人形劇の面白さ

――はじめに、菊地先生が人形文化研究者を志した理由を教えてください。

 

「実は志したことはないんですよ。元々は学部時代、演劇映像専修に所属していて、卒業論文は自分の好きなお笑いをテーマにしたいと考えていました。でも、お笑いを論文にしてもあんまり面白くないだろうと思ったんですね。

 

それで思いついたのが人形劇。人形劇って、どんなに真剣で泣けるような話であってもどこかおかしいですよね。なぜかというと、何をやっても人間のパロディになってしまうから。そこが人形の面白さなんだと気づいて、『人形とパロディ』というテーマで卒業論文を書きました。それがけっこう楽しかったので大学院に進み、舞台人形劇やテレビ人形劇を研究し始めて今に至ります」

Zoomでインタビューに答えてくださった菊地浩平先生

 

――元々はお笑いに関心があったというのは少し意外です。では、子どもの頃に人形やぬいぐるみが特別大好きだったわけではないんですか?

 

「こういう研究をしているのでよく質問されるんですが、人形やぬいぐるみは持ってはいたものの特別なこだわりはなくて、外で元気にサッカーをして遊ぶような感じでした。

 

でも最近、新しく本(『こころをよむ 人形は人間のなんなんだ?』NHK出版)を書くにあたって、大好きだった後楽園ゆうえんちのヒーローショーのことを思い出したんですよ。あそこは野外劇場の見栄えが良くて、登場する時もヒーローがジェットコースターに乗ってやってきて煙がバーンと上がって、『赤レンジャー登場!』みたいな派手な演出で。あとで知ったのですが、スーツアクターの中でもスター的な人たちが出演する由緒正しい劇場なんだそうです。

 

それとは別に、父の働いていた工場で年に一度のお祭りがあって、そこでも出張ヒーローショーをやっていました。で、五歳ぐらいから毎年観ていて、あれ?と気づいたんですね。『後楽園のレンジャーはみんなすごいけど、工場に来るレンジャーは、そうでもないぞ』と。でも、だからダメだということでもなくて、どっちもいいなと思いました。

 

要は人間がヒーローを演じていて、観る側は中にどんな人が入ってるのかなと想像しながら、嘘だけど、本当のヒーローじゃないとわかってるけど、ヒーローを観ている。さすがに小学生にはなっていたはずですが、演劇的な面白さを感じたのはそれが初めてだったのではないかと思います」

 

――人形劇の研究ではどんなことを研究するのでしょうか。

 

「初期のテレビ人形劇をとりまく状況や制作プロセスを研究しています。たとえば『ひょっこりひょうたん島』はナンセンスなギャグが散りばめられた作品ですが、実は政治風刺などもたくさん入っていて、『民主主義とはなんだろう』というテーマが突き詰められているんです。子どもから大人まで、いろんな立場の人が一つの島でどう共生するかを一緒に考えていくというあらすじなんですね。

 

面白いのは、制作体制においても民主主義を貫こうとしていたところ。制作プロセスを追っていくと、ディレクターや作家、スタッフ、人形劇団が議論を重ねながら作り上げていったことがわかりました。物語のテーマと制作体制が奇跡的に一致した作品だったという点で、最高傑作だと思っています」

 

――一方で人形文化論の講義では、着ぐるみなども含めた幅広い人形文化を扱っているほか、学生が人形を連れてくる「人形参観」など独自の取り組みがあるそうですね。

 

「2014年に早稲田大学で講義を持つことになったのですが、舞台人形劇だけにしぼっても学生はそれほど興味がないだろうと思って、人形だったらなんでもやるという授業にしたんです。学生と模索しながらの講義でしたが反応がすごく良くて、一年目から手応えがありました。

 

今勤めている白百合女子大学でも学生たちがとても積極的で、人形参観をすると80人の講義なのに人形だけで200体いるみたいなこともあります(笑)。人形とのエピソードを自己開示して話す学生も多くて、面白い大学ですね。講義をきっかけに取材を受けるようになったし、人形劇研究者から人形文化研究者になった理由のひとつでもあります」

「人形参観」に集まった人形たち

畏れる、愛でる、いじめる?人形と人間の多様な関わり

――ここからは、人間が人形とどのように付き合ってきたのかについて教えてください。そもそも人間と人形の関わり方にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

「本当に多様ですが、大元にあったのは儀式やお祭りで使う呪術的な道具としての人形だと思います。神様の代わりであったり、わら人形であったり、畏れ多くて気軽に触れられないような存在。たとえば平安時代には、赤子が生まれた時に災厄を肩代わりさせる天児(あまがつ)や這子(ほうこ)という人形を贈る風習がありました。

 

でも『信仰の対象だから大切にしなさい』と言われても小さな子どもにはわからないですよね。だからそういう人形をおもちゃにして、抱いたりかじったりする。そんなふうに、個人が楽しむための愛好の対象という関わり方もあります。もうひとつ、人形が大衆化のプロセスをたどっていくと、エンターテインメントの道具になってくるんです。これは人形劇的な方向性といえます。

 

歴史的にはそんなふうに呪術・愛好・大衆娯楽とざっくり説明できるんですが、講義で学生たちが人形との関わりについて話すのを聞いていると、なかなかひとくくりにはできないと感じます。家族だという人、友達だという人、ぎゅっと握ると心が落ち着くという人もいて本当にいろいろです。一方で意外かもしれませんが、あんまり大事にしないのも人形との本質的な関わり方です」

 

――大事にしないというのは、たとえばどんな関わり方ですか?

 

「以前、講義で可愛い犬のぬいぐるみを持ってきた学生がいたんですけど、『実はそんなに大切じゃない』と言うんです。なんでも今、実家の犬をモデルにしたぬいぐるみを何十万円もかけてオーダーメイドで作っているところなんだけど、完成するまでの間ちょっと寂しいから同じ犬種のぬいぐるみを買ってきた。『だからこれはつなぎなんです』と。

 

なるほどと思いましたが、『オーダーメイドが完成したらこのぬいぐるみはどうなるんだろう?』と思わないでもないですよね。あとは、乱暴したりいじめたりする場合もけっこうあります」

 

――人形というと、ホラー作品に登場することも多い気がします。

 

「ホラーと人形は今、関心のあるテーマです。『人形=怖い』というイメージがなんとなくありますよね。映画では動く人形チャッキーが登場する『チャイルド・プレイ』や、最近ではAI人形が出てくる『ミーガン』という作品もありました。でも、これって人形そのものが怖いという話じゃなくて、人間のことが怖いという話なんじゃないでしょうか。

 

なぜ人形を怖いものに感じるかというと、たくさんの物語の中で、ずっと人形というモチーフが描かれてきたからではないかと思います。要は長い時間積み重ねられてきた表象に影響を受けているだけで、もしかしたら自分たち自身もなぜ怖いと思うのかわかっていないかもしれません。講義では『藁人形って藁で人間の形を模してるだけで、実は怖くないんじゃないか?』みたいな話もしています」

 

講義でも使用したという藁人形

 

――愛でたり、畏れたり、雑に扱ったり。どうして人間は人形に「何か」を見出してしまうのでしょう。

 

「人間に備わった、認知のバグみたいなものではないかと思っています。スマホのカメラには人の目を追う機能がありますが、人形の目も追ってしまいますよね。私たちも実は同じようなことをしていて、目があるとつい真剣に見てしまうし、考えてしまう。

 

人形ではなくても、たとえばパソコンの調子が悪い時に『昨日冷たくしたせいかな』などと親しい間柄の人と冗談めかして話すことは普通にあります。そういう想像力の出力先として人形が選ばれやすいのではないかと。

 

でも、錯覚だしバグかもしれないけど、バグっていることを受け入れて生きていく方が楽しいと私は思います。人形は私たちがバグっていることをいつでも教えてくれる、かけがえのない物以上の何かなんです」

 

――「バグを楽しむ」という姿勢は、先生が人形劇に感じている面白さとも関係がありますか?

 

「そうですね、まさにバグを『もらいにいく』みたいな感じですよね。嘘だってわかっているけど、感動する瞬間もある。でもやっぱり嘘だなと思う自分もいる。たとえば人形浄瑠璃では人形の後ろに人形遣いがいて、顔も姿も観客からずっと見えてるんですよ。のめり込むと人形しか見えなくなるという人もいるんですけど、私はそれはないと思うんです。

 

見えていない方がいいんだったら、極端に言えば人間が演じるのが一番いいですよね。人形よりなめらかに動けますし。人形遣いが見えていて、人形劇も展開されていて、観る側はその両方をものすごいスピードで往復している。そこが人形劇の楽しいところではないかと思います」

人形浄瑠璃では、人形遣いが顔を出したまま人形を操ることが多い

人形やぬいぐるみは、人生を「ちょっとだけマシ」にしてくれるもの

――人形やぬいぐるみに関連して、最近興味を惹かれた現象などがあれば教えてください。

 

「最近はアクリルスタンドが面白いなと思っています。今はなんでもアクスタになる時代ですよね。昨年、横浜人形の家で開催された『ひとはなぜひとがたをつくるのか』という企画展に各時代の人形を展示するコーナーがあって、芸術的な作品もたくさん展示されたのですが、私は現代の人形文化としてアクリルスタンドを担当しました。実際に展示したものが手元にあるので、取ってきますね」

企画展で展示したというアクスタを見せていただいた

 

――大きいですね!

「大きいんですよ。これは『一緒に暮らすアクスタ』というグッズで、30センチぐらいあるのかな。『あんさんぶるスターズ!』の斎宮宗というキャラクターで、人気で手に入りにくいのですが、たまたま譲ってくださる方がいてすぐ展示に回しました。

 

そしたら初日に偶然見に来た『あんスタ!』ファンの方が『斎宮宗がいたぞ!』とSNSで話題にしてくださったんです。それがバズって、写真撮影OKのコーナーだったので、投稿を見た大勢の人が自分の推しのぬいぐるみやアクスタと一緒に写真を撮りに来てSNSにアップするという現象が起きました。

 

アクスタって市販品だし、透明な板にプリントしてあるだけでそんなに特別感はないですよね。それでも多くの方が『展示されてるこいつと写真が撮りたい』と思って足を運んでくださった。人間側が思い入れれば特別なものになるというわかりやすい例であり、人形文化のすごいところだなと、人形文化研究者としても面白く感じました」

 

――専門である人形劇研究について、これからの展望はありますか?

 

「テレビ人形劇はテレビ局に映像や台本がほとんど残っていなくて、研究が進んでいませんでした。しかし調べていくと、人形劇団の人々がテレビ局に出入りしていて、制作に大きく貢献していたことがわかってきました。人形劇団側に資料が残っていたりするんです。

 

『ひょっこりひょうたん島』や『チロリン村とくるみの木』でも、人形劇団の考え方が番組に反映されていたようです。これまでの研究はテレビ局が主体となっていましたが、人形劇団側の視点にフォーカスすることで、テレビ人形劇の歴史を明らかにできるのではないかと考えています」

 

菊地先生が所有する、NHKの人形劇「テレビ天助」(1955~1956年放送)のかるた

 

――その他、人形研究の新しい視点として注目されていることはありますか?

 

「人形劇研究で培ったものの捉え方をほかの人形文化に応用できないか、という考えはいつも持っています。さきほどお話した『物だけど、生きている瞬間もある』というようなことは人形遊びや『ぬい撮り』でもあるのではないかなどと考えています。

 

もうひとつは『癒し』という言葉です。最近はぬいぐるみについて取材される機会が増えて、『私たちはなぜぬいぐるみに癒しを求めるのか』というような質問をいただくことが多くなりました。ただ考えてみると、ぬいぐるみが与えてくれるのは、『癒し』よりもうちょっと軽微なものじゃないかと思うんです。

 

ぬいぐるみに触れたからといって、具体的に症状が改善したり、問題が解決したりするわけではありませんよね。でも、ちょっとマシになることはある。『ウェルビーイング』という言葉がありますが、『ウェル』までいかない、『マシビーイング』くらい。ぬいぐるみもアクスタも、我々の営みの中で『マシになる手がかり』として捉えられるのではないかと考えています」

 

 

菊地先生が人形を楽しむ姿勢として言った「バグをもらいにいく」という表現は、人形がつい気になる筆者にとってしっくり来るものがありました。我が家のぬいぐるみたちにはこれからも勝手気ままに存在感を発揮してもらい、こちらも時と場合に応じて会話したり無視したりすることにしたいと思います。

古代の儀式的な道具から現代のアクスタまで。形は変われど、人間と人形の関係はずっと未来まで続きそうです。

お寺を宇宙に打ち上げる!?奇想天外な新ビジネスを生み出した、京大発ベンチャー「テラスペース」代表をインタビュー!

2021年4月22日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

京都は寺社仏閣の多い街。散策すればすぐにお寺や神社に行き当たる。古くからの信仰を伝える建築物や美しい庭園を眺めると、なんとなく手を合わせたい気持ちになるから不思議なものだ。

 

「京都大学内で立ち上げられたベンチャー企業が、宇宙寺院を乗せた人工衛星を2023年に打ち上げ予定」というニュースが話題となったのが2021年2月8日のこと。同日に「宇宙法要」がとり行われ、「宇宙祈願」の受付もすでに始まっているという。宇宙と、お寺と、人工衛星。一体なぜ? 中にはどんなものを乗せるのだろう。お参りはどうするの?

 

尽きぬ疑問を解明すべく、京都大学吉田キャンパスに本社を置くテラスペース株式会社の代表取締役・北川貞大さんを取材した。

 

テラスペース株式会社代表取締役の北川貞大さん

テラスペース株式会社代表取締役の北川貞大さん

宇宙寺院=地球上のどこからでも参拝できるお寺

――さっそくですが、宇宙寺院「浄天院劫蘊寺(じょうてんいんごううんじ)」の打ち上げプロジェクトを立ち上げた背景を教えてください。

 

「現在の日本では、仏教を信仰していることになっている人が多いですよね。それはお寺が檀家制度をとっていて、代々家単位で代々同じお寺にお世話になるからです。

 

昔は一家で同じ土地に住み続けることが普通だったので、そのシステムが有効に働いていました。けれども現代ではライフスタイルが変化して、転居することも珍しくなくなり、お寺とのつながりが希薄になっています。

 

よくあるのが『菩提寺(先祖代々の供養をするお寺)が祖父母の地元にある』というパターンではないでしょうか」

 

――我が家がまさにそうでした。お盆やお正月に祖父母の家を訪れて、その時にお墓参りもするという。

 

「そうなると、儀式の作法は知っていてもその意味までは継承されにくいですよね。昔は地元のお坊さんとの会話で、日常的に仏教の倫理観や道徳観に触れていましたが、そういった機会もありません。

 

現在、地方のお寺では檀家さんが減っていて、遠方で管理できないからと墓じまいをする人も増えています。お寺のシステムってすごく土地に縛られているんですよね。

 

そこで、お寺を宇宙に浮かべれば地理的な制約はなくなり、地球のどこにいても身近に意識できるようになるのではないかと考えました。日常に仏教を取り戻し、心の拠り所にするためのお寺、それが宇宙寺院です」

衛星運用に必要な機器とお寺を搭載した超小型人工衛星

――2023年の打ち上げに向けてまだ開発中の段階だと思いますが、どんな人工衛星になるのでしょうか。

 

「6Uサイズと呼ばれる、10×20×30cmの直方体の形をした超小型人工衛星を打ち上げ予定です」

 

――あ、意外と小さい!手で抱えられるサイズですね。人工衛星という言葉からイメージする気象衛星などのサイズ感とはかなり違います。

人工衛星と同じサイズのフレームを手に説明する北川さん。右手に持っているのは、ご本尊となる大日如来像のレプリカ

人工衛星と同じサイズのフレームを手に説明する北川さん。右手に持っているのは、検討のため購入した市販品の大日如来像

 

「このサイズの人工衛星が比較的安価に打ち上げることができるようになってきたため、民間企業の宇宙ビジネス参入が加速しているんです。

 

宇宙寺院は高度400km~500km程度の低軌道を秒速約8kmのスピードで周回し、約90分で地球を一周します。宇宙寺院の現在地を表示できるスマホアプリで空を横切る時間を調べてもらい、空に向かって参拝します」

 

――高速で飛び回るお寺なんですね。何が搭載されるのでしょう?

 

「半分の区画には人工衛星を維持したり、地上と通信したりするための機器を乗せます。バッテリーやコンピュータ、通信機器、姿勢制御装置、カメラなどですね。電力は外側の太陽光発電パネルでまかないます。

 

残り半分は宇宙寺院の区画で、地上のお寺と同様に、真言密教のご本尊である大日如来像や曼荼羅が安置されます。また、宇宙祈願に寄せられたご祈願を保管したメモリーも、一緒に収められて衛星軌道を周回します」

人工衛星の完成予定図(©️テラスペース株式会社)

人工衛星の完成予定図(©️テラスペース株式会社)

 

――「宇宙寺院」への願いだから「宇宙祈願」。どうすれば願い事ができますか?

 

「公式ページ( https://www.gounji.space/pray )の申し込みフォームから受け付けています。毎月恒例の宇宙法要で祈願し、人工衛星の打ち上げ後はデータとして宇宙寺院に送信し、搭載したメモリーに保管します。

 

すでにお申し込みいただいた内容を見てみると、コロナ収束のほか、宇宙開発に関連する祈願が多いところに特色が出ていますね」

 

――申し込み方法まで現代らしいのが面白いです。地上のお寺では願い事をする時にお賽銭を奉納しますが、宇宙寺院でもできるのでしょうか? あとは、大日如来像の前にディスプレイを置いて願い事を文字で流したり、音声で再生したりだとか……。

 

「あ、それはおもしろいですね。私は仕事の関係でデータセンターが身近なので、メモリーに保管すれば良いと考えていますが『何をもってして大日如来に祈りを届けたとするのか』という視点ですよね。

 

過去、ディスプレイを搭載した超小型人工衛星には、ハローキティとコラボした2014年の『ほどよし3号』という先例があります。これは公募したメッセージを流し、その様子を撮影して地上に送る企画でした。ただ、機能を増やすほど搭載する機器や消費電力が増えるのでなかなか難しいところです。

 

最近はキャッシュレスでお賽銭を奉納できるお寺や神社もありますよね。宇宙祈願についても、電子マネーやクレジットカードを使ってお賽銭ができないかと考えています。海外からもよく願い事が寄せられているので、そちらはよりグローバルな仮想通貨が選べるといいかもしれません」

 

――海外からも反響があるのは、地理にとらわれない宇宙寺院ならではですね。ところで、人工衛星の技術も必要になりますが、課題などはありますか。

 

「技術顧問に和歌山大学教授の秋山演亮さんや、有限会社オービタルエンジニアリング  取締役社長の山口耕司さんといった宇宙技術の専門家を迎えています。

 

課題は機械的な寿命です。人工衛星は衛星軌道を周回する間、太陽風や空気分子からさまざまなダメージを受けます。またバッテリーや太陽光発電パネルも徐々に消耗して性能が落ちていきます。

 

現在の想定では長くても6年ほどで落下する計算です。動作実績を積み、改良を重ねながら2号機、3号機と飛し続ければ、できることを増やしていけます」

 

――さきほど話題に出たような機能が実現するかもしれませんね。

弘法大師空海が開いた真言密教と宇宙の関わり

――醍醐寺との共同企画という点でも話題を呼んでいます。お寺はどのように決まったのでしょうか。

 

「醍醐寺は京都市伏見区にある真言密教醍醐流の総本山で、平安時代から残る五重塔があり、世界遺産にも登録されています。

 

真言密教の中心的なご本尊である大日如来は、宇宙の真理や宇宙そのものとされているんですよ。太陽と重ね合わされることもあります。平安時代に建てられた醍醐寺の五重塔も、下から地、水、火、風、空を表し、仏教の宇宙観を示しています。思想のプラネタリウムみたいなものなんですね。

 

宇宙全体の平和や人類の宇宙活動の安全を祈願する宇宙寺院にふさわしいということで、以前からの知人だった醍醐寺の仲田順英さんにお声がけし、取締役に迎えました」

2021年2月8日、醍醐寺にてとり行われた初めての宇宙法要。新型コロナ禍と世界の安穏、そしてこの日までに寄せられた宇宙祈願101件の成就を祈願した

2021年2月8日、醍醐寺にてとり行われた初めての宇宙法要。新型コロナ禍と世界の安穏、そしてこの日までに寄せられた宇宙祈願101件の成就を祈願した

 

――1,000年以上の歴史を持つ古いお寺が宇宙寺院という斬新なプロジェクトに参加しているのは、少し意外な気もします。

 

「お話ししたように、真言密教と宇宙には深いかかわりがありますから、自然な発想として受け止めてくださいました。

 

それに、真言密教は平安時代最新の仏教ですからね。弘法大師空海が唐に渡って密教を学び、日本に伝えたことから真言密教が始まりました。今でいうと留学です。最新の学びを実践するという点にもこのプロジェクトとの親和性があるようです」

経営を学びつつ多様な分野に触れた京都大学での2年間

――ところで、テラスペース株式会社は京都大学吉田キャンパスに本社を置いているそうですね。立ち上げられた経緯を聞かせていただけますか?

 

「テラスペースは、私がMBAの取得を目指して京都大学経営管理大学院に在籍していた修士2回生の頃に設立しました。在学中に起業する構想は当初から持っていましたが、周囲には驚かれました」

 

――ということは、宇宙寺院のアイディアはもともとあったんでしょうか。

 

「いえいえ、最初は何もなかったです。ところが、京都大学のビジネススクールは日中に開講されるので、他学部の授業を履修しやすい環境だったんですよ。せっかくだからと、天文学や工学、宇宙、人工衛星など、興味のある講義に参加する中で、宇宙寺院という研究テーマを思いつきました」

 

――北川さんは企業を経営しながら大学院で学び、さらには起業までされたわけですが、大変ではなかったのですか?

 

「試験やレポートもあって大変でしたが、知らなかったことを知るのが楽しいんです。知識を得てから身の回りのものを見直すと、世界の解像度がぐっと上がります。あとは、一見なんの役に立つのかわからないものが好きなんです」

 

――そうした学びの中から生まれたアイディアだからこそ、宇宙寺院は私たちの想像力を掻き立ててくれるのでしょうね。

 

ありがとうございました!

 

京都大学在学中に手に入れた宇宙科学関連のステッカーや、トライアスロンの記念シールなどが貼られた北川さんのMacBook。興味の幅広さがうかがえる

京都大学在学中に手に入れた宇宙科学関連のステッカーや、トライアスロンの記念シールなどが貼られた北川さんのMacBook。興味の幅広さがうかがえる

 

宇宙に浮かぶ人工衛星のお寺という、よく知らないままに聞くと突飛に思えるプロジェクト。北川さんへのインタビューを通じて、現代における宗教と人の関わりの変化や、真言密教と宇宙の関係が見えてきた。また、大人になっても知的好奇心を絶やさず、学び続けることの楽しさを思い出す機会にもなった。

 

2023年の人工衛星打ち上げを楽しみに待ちたい。

地球外知的生命は必ず存在する! SETIの第一人者、兵庫県立大の鳴沢真也さんに聞いてみた。

2020年8月27日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

「地球外知的生命が存在する科学的な証拠を探し続けている天文学者が日本にいる」という話を聞いた。しかも日本国内や世界各国の天文台や大学と協力して、合同プロジェクトまで成し遂げたらしい。ええっ、それはつまり、本気で宇宙人を探しているということ? 一体どんな方法で? そもそも知的生命とは……。

 

それはれっきとした天文学の一分野で、今年で60年の歴史があり、SETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence=地球外知的生命探査、発音はセティまたはセチ)と呼ばれているという。門外漢の地球人からするとまるでSF映画の世界。次々と聞きたいことが浮かんでくる。日本におけるSETIの第一人者、兵庫県立大学西はりま天文台天文科学専門員の鳴沢真也さんに話をうかがった。

地球外知的生命が存在するって、本当ですか?

鳴沢先生は兵庫県立大学西はりま天文台の天文科学専門員として天体物理学の研究を続けるかたわら、天体観望会での講師なども務めておられます。今日はSETIについて、初歩的なところから教えていただきたいのですが、どうやって地球外知的生命を探しているのでしょう?

 

「その前に、地球以外に知的生命は存在するのかという話をさせてください。私は他の知的生命は必ずどこかに存在すると考えています。その根拠は、星の数です。

 

人類が観測できる宇宙の限界に限っても、銀河は10の11乗個あるとされています。そして典型的な銀河には、恒星が10の11乗個あると。つまり観測範囲だけでも10の22乗個の恒星がある。これは世界中の海岸の砂粒の数よりもはるかに大きな数字なんです」

 

一般の方や子ども向けの講演会も積極的に行う鳴沢先生

一般の方や子ども向けの講演会も積極的に行う鳴沢先生

 

途方もない数ですね。

 

「それだけの星があって、知的生命が存在していない方がおかしい。天文学者にとっては『存在するかしないか』は問題ではない。問題は、どのくらいの頻度で知的生命が生まれるのか、私たちのような存在はどの程度珍しいのかということです。

 

バクテリアのような単純な生命体なら、宇宙にいくらでもいるはずです。太陽系内の火星や、木星の衛星でさえ見つかる可能性があると言われています。環境の変化がなければバクテリアで十分なわけですよ。バクテリアはあのままで今日まで生き延びているんですから。ある意味、われわれは知能を発達させなければ子孫を残せなかったかわいそうな生き物かもしれない」 

 

かわいそうな生き物……。「知的=生物として優れている」ではないんですね。

 

「月まで行って通信技術も発達させた人類が、今は生物とも言えないちっちゃな新型コロナウイルスに苦しめられているんですよね。

 

話が逸れましたが、地球の生物が今日まで進化してきたのにはさまざまな要因が影響しています。6600万年前に隕石の衝突がなければ、ひょっとしたら今も恐竜の時代だった可能性もなきにしもあらず。絶妙な大きさの隕石が、絶妙な角度で、絶妙な場所にぶつかって、恐竜は滅びたけれど原始的な哺乳類は残り、人類にまで進化した。偶然に偶然が重なってわれわれがいるんですね。バクテリアを笹舟だとすると、知的生命は原子力空母にたとえられるほど複雑で、そこまで進化できるのは奇跡のような確率です。だからそういう存在は、もしかしたらものすごく珍しくて、天の川銀河の外まで行かないといないかもしれません。SETIにおいては、探査対象を知的生命にしぼっているところがポイントです。

 

さて、そんな知的生命の文明の密度はわかりませんが、楽観的にみてひとつの銀河に数個あったと仮定しても、その間には平均数万光年の距離があります。地球外知的生命がダイレクトに地球にやってきて……とはまず考えられない。私たち人類が目と鼻の先の月に行くのでさえ、莫大なコストがかかったのですから。ならば、彼らが存在する証拠は間接的にキャッチするしかありません。それがSETIです」

宇宙からの電波や光線から地球外知的生命を探し出す

それではSETIの手法や、これまでの探査の成果について教えてください。ちなみに昔教科書で、人類について記した金属板を宇宙探査機に乗せたと読んだ記憶があるのですが。

 

「あ、それはパイオニア探査機の話ですね。知的生命に向けてメッセージを送るのはまた別の分野で、METI( Messaging to Extra-Terrestrial Intelligence)と呼ばれています。ボトルメールのようなものです。

 

SETIには大きく分けて2つのアプローチがあります。ひとつは1960年に始まった世界最初のSETIでも取られた手法で、地球外知的生命の発する電波を探す方法。電波は簡単かつコストの低い通信手段で、強力なものは現在の地球人レベルでも何千光年、1万光年の距離を超えてキャッチできます。もうひとつは90年代から盛んになったレーザー光線を探す方法です。たとえば電波の一種であるマイクロ波と比べると、光は単位時間あたり10万倍の情報を持っているので、高度な知的生命体なら光で通信するはずだという仮説にもとづいています。現在だと、電波観測とレーザー観測の割会は大体半々ですね。

 

それで、これまでの観測で何が見つかったのかっていうことなんですが、地球外知的生命の兆候がありました」

 

(!!?)はい。

 

「はいじゃなく、えー! と驚いてほしかったんですけれども……。

 

1977年8月15日、オハイオ州立大学の電波望遠鏡がいて座の方角から電波をキャッチしました。それは自然に生じるノイズの約30倍の強さで、しかも電波継続時間が72秒。この秒数が重要で、この電波望遠鏡がこの方向を向いていて、かつ日周運動をしている天体から電波をキャッチした場合、観測できるのはちょうど72秒なんですよ。つまり航空機や人工衛星ではなく、遠い宇宙から来たものと考えられる。その周波数は狭い領域に集中していて、しかもそれは天文学研究の妨げにならないよう、国際的に使用が禁止されたものだった。発見者は、驚いて記録用紙に『Wow!』と書き込みました。このことから『Wow!シグナル』の名前で、今でも侃々諤々の議論がされています。

 

ただこれ以降は、オハイオ州立大学も、他の観測者も、私も同じ方角を観測しましたが、同様の電波は一度も観測できていません。再現性がないので、残念ながら科学的発見とは言えません。地球外知的生命の放送を受信したと考えた方がシンプルなんですが。これがSETI史上で一番有名な観測記録です」

 

正体が気になります……!

キャプション:SETI史上で一番有名な観測記録「Wow!シグナル」Credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO).

キャプション:SETI史上で一番有名な観測記録「Wow!シグナル」Credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO).

 

いて座の方角を観測していたのには何か理由があるんですか?

 

「いて座の方角は、星が密集している天の川銀河の中心方向なのです。観測視野の中にたくさんの星が入ります。どの星が電波源だったのか、それは今も不明ですが……」

 

空は広いので、観測範囲を決めるだけでも苦労しそうです。 

 

「ひとつのやり方はターゲット法といって、文明が存在しそうな星に狙いをつけるやり方です。オールスカイ法というものもあり、こちらは空をくまなく探そうというものです。一本釣りと地引網みたいなものですね。私はおもにターゲット法で、レーザー光線の探査をしています」

世界中の天文台がつながったSETIプロジェクト『ドロシー計画』

鳴沢先生は国内外の大きな合同プロジェクトでリーダーを務められたそうですね。くわしく教えてください。

 

「まず2009年に初めて国内30カ所以上の天文台に協力していただいて、『さざんか計画』という全国同時SETIを行いました。地球外知的生命の痕跡を受信するXデーに備えた予行演習です。複数の観測者で観測するのが一番確実ですから。バックアップ観測のネットワーク作りが目的で、まずまず成功しました。

 

翌年の2010年、アメリカのSETI専門の研究所から、アストロバイオロジーの国際研究会に招待され、『さざんか計画』について発表するためにヒューストンへ行きました。アメリカはSETIがもっとも盛んな国なんです。

 

そこでSETI研究所に『日米でも合同SETIプロジェクトをやりませんか』と相談しました。日米で観測すれば、日本では見えなくなった星をアメリカで観測できるからです。それに2010年は、世界初のSETIから50周年の年でもありました。

幸い実現できることになったのですが、向こうから『せっかくの50周年記念だし、日米じゃなくて世界合同でやろう』と提案されました」

 

すごいですね。その時のお気持ちは?

 

「いやもちろん、やりたいという気持ちはありましたけど、たくさんの天文台に協力してもらうのって本当に大変で……。人間関係もありますし、日本人だけでも大変だったのに、ましてや世界でやったら大変なことになるだろうなと。私は英語もそれほど得意ではないですし……」

 

おお、スケールの大きな観測プロジェクトなのに人間関係と言葉の壁が……。

 

「でも、なんのトラブルもなかったです。すべて私に任せてくれて。1960年の世界初電波SETIは、『オズの魔法使い』に登場するお姫様、オズマ姫に著者が電波通信を試みる場面にちなんで『オズマ計画』と名付けられました。だから私のプロジェクトは、この小説のヒロインの名前を借りて『ドロシー計画』としました。南極大陸を除く5大陸15カ国の29施設が観測に協力してくれました」

『ドロシー計画』の観測は約1週間、集中的には2日間にわたって行われた。鳴沢先生は二晩兵庫県立西はりま天文台に泊まり込み、世界各地の天文台から報告を受け続けたそう

『ドロシー計画』の観測は約1週間、集中的には2日間にわたって行われた。鳴沢先生は二晩兵庫県立西はりま天文台に泊まり込み、世界各地の天文台から報告を受け続けたそう

 

成果や反響はいかがでしたか?

 

「一番の目的は世界的なネットワークを組んで協力関係を築くことだったので、そういう意味では成功です。世界中のSETI観測者が参加してくれました。面白いところでは、日本に留学経験のあるフランスの研究者が、SETIの俳句を寄せてくれました。それから、『オズマ計画』を行ったフランク・ドレイク博士からのメッセージも嬉しかったです。野球でいえばベーブ・ルース のような伝説的人物です。

 

ここ数十年で天文学は進歩しました。たとえば1917年から存在が予見されていた太陽系外惑星は、1992年に初めて発見され、2000年代に入ると次々と見つかるようになりました。『オズマ計画』50周年を迎えた2010年に、当時最新の技術で天文学の歩みを振り返る意味でもいいタイミングだったと思います」

地球外知的生命が発見されたら、世界は変わる?

もし地球外知的生命の証拠が見つかったらどう対応するのでしょうか。

 

「見つかったら人類史上最大の大発見ですから、国際宇宙航行アカデミー(IAA)による国際的なガイドラインが定められています。(1)徹底的に検証する、(2)確定するまで公表しない、(3)確定したら隠蔽せず公表する、(4)勝手に返信しない、という4つの指針が基本です。

 

ただかなり前に作られたものなので、改善点もあります。これもSETI観測者が議論しているところで、私も改訂案を作成しました」

 

なるほど。世界への影響はどうでしょう?

 

「これもシミュレーションをしている団体があるんですよ。彼らは大きなパニックは起きないだろうと言っています。

 

地球外知的生命といっても、楽観的にみても何千光年と離れた星のことなので、大きな影響はおそらくないんですよね。発見された次の日も子どもは学校に行かなきゃいけないし、大人は会社に行かなきゃいけないんですよ。多くの人にとっては『だから何?』なんですよね。だけど、じわじわと人の意識や文化は変化するであろうと。

 

私の予想では、まず科学教育が盛んになります。一部の政治家が安全保障などにかこつけて軍備拡張をしたがるでしょう。あとは一時的に景気が回復して、キーホルダーなどの関連グッズが売れて、その星がよく見える場所への旅行が盛んになって、というようなことが起きるんじゃないでしょうか」

向こうの銀河の知的生命に思いを馳せた子ども時代。そして今も

意外と地味なんですね……。でも、意外とそんなものかもしれません。ところで鳴沢先生は、子どもの頃から天文学がお好きでしたか? 宇宙人との交信に憧れるようなことはなかったんでしょうか?

 

「宇宙人には憧れなかったなあ。ウルトラマン世代だし子ども向けのSF小説を読むこともありましたが、宇宙は私にとってずっと科学的な興味の対象なんですね。SFが好きな天文学者もいますけど。

 

母に読み聞かせてもらった、アポロ計画について紹介する絵本が私の宇宙の原点です。4歳の時に実際にアポロ宇宙船が月に着陸しました。白黒テレビの中で、宇宙飛行士が月面をふわふわと歩いている映像が印象的でした。

 

そして小学4年生の時には、ウェスト彗星という肉眼でも見える大彗星が飛来しました。父が望遠鏡を買ってくれて、届いたのは彗星が去った後でしたが、それで天体観測を始めました。子ども用なので銀河を覗いてもシミのようにしか見えない。ところがある本を読んでいたら、『銀河には知的生命がいて、向こうでもわれわれを観測しているかもしれない』というようなことが書いてあったんです。向こうの銀河の天文少年がこっちの銀河を見ているのかなあと。それが胸に響いたというのかな、今のSETIにもつながっているかもしれないです」

鳴沢先生の家宝でもある月の絵本。月の重力やアポロ宇宙船について、わかりやすく説明されている

鳴沢先生の家宝でもある絵本。月の重力やアポロ宇宙船について、わかりやすく説明されている(『キンダーブック』昭和41年7月号、フレーベル館 指導・文=村山定男/絵=水沢 泱、中島章作、高田藤三郎、木村定男、上田三郎)

 

最後に、最新のSETIについて教えてください。

 

「私自身の話では、今は効率よくSETI観測をするための戦略を練っているところです。地球外知的生命がレーザー光線で通信するなら何色を選ぶのか? 予測が立てられれば照準が合わせやすくなります。

 

それから、文明が進歩すると脳内の意識や記憶をコンピュータに移植するようになる可能性も視野に入れています。最終的には肉体を持った生命ではなく、メモリー内のデジタル信号だけになる。それが私のイメージしている知的生命の姿です。

 

こうなると通信そのものが彼らの移動手段です。一種のテレポーテーションですね。生命体そのものがダイレクトに地球に来ないもうひとつの理由がここにあります。テレポーテーションについてはすでにわれわれ人類も研究を始めていて、中国では予備的な実験が行われているんですよ。こういった通信を見据えていくのが、今後のSETIの進むべき道だと考えています。 

 

世界の情勢でいうと、実は一時期アメリカのSETI研究所は予算難で危機的状況でした。SETIは何かとお金がかかるんですよ。しかしロシアの富豪ユーリ・ミルナー氏がカリフォルニア大学バークレー校に莫大な投資をして、2016年から10年間継続する新たなSETIプロジェクト『ブレイクスルー・リッスン』が発足しました。

 

なぜ多くの人が予算や設備や人材を投じてSETIに取り組むのかというと、やっぱり根っこには『私たちは特別な存在なのか?』という哲学的な問いがあるんですね。よその星にも同じような生物がいるのかどうか知りたい。だから人類がいる以上、SETIは続いていくと思います」

 

地球外知的生命は必ずどこかにいるけれど、宇宙はとてつもなく広い。鳴沢先生をはじめ、世界の観測者によるSETIプロジェクトが実を結ぶ日を、ぜひとも生きているうちに見届けたい! でもそれはあまりにも人間的なサイズの考え方かも。とはいえ、今ここにないものを思い描くのは知的生命の得意技。「実は公表されていないだけで、すでに天文学者が検証中なのでは」と想像をたくましくしながら、その日を楽しみにしたい。

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