日本の食生活に馴染み深いウナギ。7月の土用の丑の日に食べるイメージがありますが、本来の旬は脂の乗った秋から冬にかけてなのだそう。香ばしく焼き上げたウナギの蒲焼きを白ごはんと一緒にいただくところを想像すると…たまりませんよね。
一方で、天然のウナギは激減していて、完全養殖の手段も確立されていないことから、絶滅危惧種に指定されているということはご存知でしょうか。ウナギがなぜ減っていて、私たちにはどんなことができるのでしょうか? 日本自然保護協会と中央大学がニホンウナギの生態を学習できるすごろくを作ったと聞いて、さっそく子どもたちと遊んでみました。
海から川へ、また海へ…波乱万丈のウナギの旅を体験
ということで、今回遊ぶのは「ウナギいきのこりすごろく」。ウナギを題材にして私たち人間の経済活動と環境保全や資源の持続的利用を考えるきっかけを提供するという目的で、日本自然保護協会とウナギ保全の専門家の海部健三先生(中央大学法学部 教授)が共同開発した「遊んで学べる」すごろくです。学校や子供向けのワークショップで広く活用できるように、公式サイトからすごろくキットの貸し出しを行っているほか、無料でダウンロードしてご家庭でも遊ぶことができます。
「ウナギいきのこりすごろく」公式サイトより
今回は小学4年生と5年生の4人の子どもたちに集まってもらいました。みんなウナギは好きかな? ときくと、3人が元気よく「「「はーい!」」」。もうひとりは小骨が気になるから苦手とのこと。
まずは公式に用意されている動画でウナギの生態を予習。ニホンウナギは南の海でタマゴから稚魚が孵化し、川を遡上しながら大きく成長して、また産卵のために海へと帰ってゆきます。しかしその道中には危険がいっぱい。果たして無事に海まで帰り着くことができるのでしょうか?
やさしい言葉でテンポよく進む動画に、やんちゃ盛りの男子たちも釘付け
このすごろく、4人で勝敗を競うわけではなくて、25匹からスタートしたウナギがゴールにたどり着くまでに何匹生き残れるか、どうして減ってしまうのか、みんなで話し合いながら進めるところがミソ。サイコロを振って出目の数だけ進むと、ウナギが成長したり、いろいろな原因で数が減ったりしていきます。
ちなみに本来、学校やワークショップで使用する場合はA0サイズを推奨。今回は家庭やコンビニのコピー機でもプリントしやすいA3サイズのサンプル版を使用しました
「レプトセファルス幼生」から「シラスウナギ」に成長!
「カードをひらく」マスに止まると……
「カードをひらく」というマスに止まったらイベントが発生します。河口でシラスウナギを待ち受けていたのは網を持った人間……シラスウナギ漁です。捕まったシラスウナギは養殖場で育てられ、お店や食卓に並びます。これがいわゆる「養殖ウナギ」。養殖とは言っても、元は野生のシラスウナギなんですね。ウナギに卵を産ませて大人まで育てて出荷する、完全養殖の方法はまだ確立されていません。
子どもからは「知ってる! 社会科で習った!」の声も。えらい、ちゃんと勉強してるじゃないか。
人間に捕られたり、他の生き物に食べられたりしたウナギはこうして容赦なく減っていく
鳥たちが待ち受ける難関。ちなみにこのすごろくのサイコロは1、2、3の目しかないので、ここで必ず減ってしまう
ウナギ漁を生き延び、その後に立ちはだかる河口堰もなんとか乗り越えたシラスウナギたちは成長して黄ウナギに。しかしここで難関が。住宅地にさしかかると川はコンクリートで護岸され、ウナギたちは隠れる場所がなくカワウやアオサギの餌食になってしまいます。まるで銃弾の飛び交う戦場を丸裸で駆け抜けるよう。子どもたちからも「ぜったい減るやん!」とブーイングが飛びます。
ここで助け舟かと思いきや…?
ずんずん減っていくウナギの数に精神を削られていると、ここでイベント発生。ウナギの放流です。商品にならなかった養殖ウナギが川に放流されて、これで少しは数も増えるのかと思いきや……弱ったウナギが病気を媒介したり、食べ物が減ったりしてウナギの数は結局プラスマイナスゼロ。放流にどれほどの効果があるか、実際にはよくわかっていないようです。
ようやく大人の「銀ウナギ」まで成長した
最後の難関……ダム。発電機に巻き込まれたり、魚道があっても水が流れていなかったりしてじわじわと減っていく
大人になったウナギを待ち受ける最後の難関は、ダム。洪水や水不足から人々の生活を守る大切なダムですが、海へ向かうウナギにとっては行く手を阻む巨大な障害です。魚の通り道として設置された魚道に運よく進めないと、ここでじわじわと数が減っていきます。
ダムをなんとか抜けると、ゴールである故郷の海に向かって一直線! さてさて何匹残ったかな?
優秀なウナギたちでした
残ったのは12匹でした! スタート時から半分に減ってしまいましたが、全滅してしまうパターンもあるようなので大健闘ではないでしょうか。
ウナギが減った理由、そして私たちにできること
すごろくを通してウナギの波乱万丈な生態を学ぶことができましたが、大切なのはそこから問題を洗い出して、私たちに何ができるかを考えること。実は「ウナギいきのこりすごろく」には、振り返り用のまとめシートも用意されているんです。
それでは、ウナギはなぜ半分まで減ってしまったのかな?「人間に捕まった!」「他の生き物に食べられた!」「ダムにひっかかった!」みんなで思い出しながら、まとめシートに書いていきます。
子どもたちが考えた対策は「ウナギのかわりにアナゴなどを食べる」。代わりになる食品を見つけるというのは賛成だけど、ではアナゴは減っていないのか調べてみたいところ
遊んでみてわかったのは、ウナギが減っている原因はいろいろあって、人間の営みがさまざまな形で関わっているということでした。たとえば美味しいウナギを気兼ねなく食べられる生活も、ダムに守られた安心な生活も、私たちにとってはどちらも大切。だからこそ正しい知識を身につけて、豊かな生活を子どもたちに伝えていきたいですね。
ハラハラドキドキ遊んで学べる内容もさることながら、事前学習から復習までバッチリフォローされている教材としての質の高さにも脱帽の「ウナギいきのこりすごろく」。もちろん大人でも新しい発見がたくさんあるので、家族でチャレンジしてみてはいかがでしょうか?