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仏教界のめくるめく脇役ワールド!龍谷ミュージアム特別展「眷属(けんぞく)」をレポート

2024年11月7日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

「眷属(けんぞく)」ってことば、聞いたことありますか?

 

ちょっとなじみの薄い言葉かもしれませんが、仏さまやお釈迦様にお仕えする者たち、すなわち「主役」の主尊に対して「脇役」になる皆さんのこと。といっても、主役を引き立てる控えめな姿を想像したらびっくりするほど、主役顔負けな顔ぶれが勢ぞろい。それを実感できるのが、龍谷ミュージアム(京都市)で開催されている特別展「眷属(けんぞく)」です。

武道に長けた精悍な漢(おとこ)たちから十二単の女性たち、ひょうきんで愛らしいこどもから動物まで…、本展のリサーチアシスタントを務める見学知都世さんに連れられ、総勢80もの名・珍脇役たちからなる、めくるめく「眷属」の世界へ、いってきました。

そもそも眷属(けんぞく)ってなあに?

入口でお出迎えしてくれたのは、本展のナビゲーターも務めるこのおふたり。

<矜羯羅童子・制吒迦童子坐像>(大阪・四天王寺)

 

不動明王に仕える、矜羯羅童子(こんがらどうじ)と制吒迦童子(せいたかどうじ)の木彫り像。その左下に写っているイラストは、かれらをモデルに仏像イラストレーター・マシュロバさんにより描き下ろされた本展オリジナルキャラクター「こんがらさん」と「せいたかさん」。

ぱっと見ただけでも、なんとなく対照的な性格がみえてきませんか。おっとりタイプな「こんがらさん」と、喧嘩っぱやそうな「せいたかさん」。そんな凸凹コンビに挨拶をして先へ進みましょう。本記事では、多数の展示のなかでもとりわけ印象的な眷属さんをご紹介しながら、展示の魅力をレポートしていきます。

 

……と、その前に。

そもそもあまり身近な言葉ではない「眷属(けんぞく)」とは、古くは中国語で「親族」のことを意味していたそうです。それが仏教用語としても使われるうちに、弟子や信奉者、お世話役など、ひろく主尊の周りに仕える者たちを示すようになりました。

そんな言葉の示す範囲の拡がりは、仏教美術における眷属の表象とも重なるかのようです。主尊の権威を高め布教に寄与する「引き立て役」にとどまらない、独自の多彩な世界観を本展の随所に見ることができます。

ボディガードな武闘派眷属

国宝〈安底羅大将立像〉(奈良・興福寺)

 

まずは武闘派のかっこいい眷属さん。いかめしい表情に隆々とした身体、精巧かつダイナミックな表現は今にも動きだしそう。上の〈安底羅(あんてら)大将立像〉は、しっかりと主尊をお守りするボディガードのような眷属で、主尊である薬師如来とそれを信仰する人々を守ります。

鬼も眷属⁉

重要文化財〈千手観音二十八部衆像〉(滋賀・大清寺)の一部

 

こちらは千手観音に仕える眷属さんたち。見ると、女性や男性など人間の姿をした者から……おや、真っ赤なお顔や緑のお顔、目を見開いて髪を逆立てた異形の姿もありますね。鬼神すらも従えてしまう千手観音の凄さが伝わってきます。

こどももいれば、お狐さんまで

国宝〈指徳童子立像〉(左)、〈阿耨達童子坐像〉(右)(和歌山・金剛峯寺)

 

大人や鬼もいるとなれば、こどもたちだっています。こちらは国宝の〈指徳童子(しとくどうじ)立像〉(左)と、〈阿耨達童子(あのくたどうじ)坐像〉(右)。「童子」といっても、今でいうこどもとは異なり、仏の手足となって働くお小姓さんのような立場を指しているそう。凛々しくもどこかふくふくした頬に、こどもっぽい愛らしさが覗きますね。

岡山で最近発見された対の白狐〈神狐像〉(岡山・木山神社)

 

人の範疇も超えた、こちらのお狐さんも立派な眷属さん。鍵と珠(たま)をそれぞれ咥えた一対の白狐さんは狛犬を彷彿とさせますが、「守護獣」というよりも福を授ける「神の使い」としての性格が強く、「御眷属」「眷属さん」と呼ばれ、今日まで信仰を集めてきたそう。

 

人間にちかい存在から、鬼、動物まで、多様な眷属と出会ってきましたが、かれらの姿から浮かびあがってくるのは、お仕えする主尊の権威や威容だけではありません。眷属の姿をすこしふみこんで読みとくことで、主尊の背負う属性や物語が浮かびあがってきます。

主尊と眷属、関係性から見えてくる

文殊菩薩の化身とされる〈大威徳明王像〉(東京・霊雲寺)※展示は前期(~10月20日)で終了

 

たとえばこちら。まんなかの大威徳明王(だいいとくみょうおう)の周りで、童子たちが元気よく駆けています。よーくこどもたちの姿を見ると……、なんと獅子のかぶりものをしています。

よーく見ると、額のうえに、歯をむきだした獅子の顔が見えます

 

なんともかわいい恰好ですが、なぜ獅子の面を? 秘密は主尊の大威徳明王に潜んでいます。大威徳明王は文殊菩薩の化身とも考えられていて、文殊菩薩の乗り物として知られる獅子を眷属である童子がまとうことで、主尊の文殊菩薩としての側面が暗示されているんですねぇ。眷属のありようによって主尊が立体的に立ちあがっていく。まるで、その者が誰であるかを持ち物などで表現する、美術のアトリビュートを連想させるような方法です。

 

実は最初に見た「せいたかさん」と「こんがらさん」の対の性格も、ふたりがお仕えしているお不動さんの「慈悲」と「忿怒」の両極の表現でもありました。眷属は、主尊をめぐる物語や世界観を表す役割も担っているのです。

習合の存在としての眷属

眷属の奥深い魅力は、仏教伝来の軌跡が凝縮されている点にもあります。

眷属や仏をはじめとした仏教はインドで生まれ、中国大陸を経由して日本に伝来しました。多種多様な眷属たちの幅の広さは、その長い道ゆきのなかで、混ざりあいながら継承されてきたともいえるでしょう。先ほど見てきた眷属の面々に異形が多いのも、象や鳥などしばしば人からほど遠い姿で表されるインドの神様の名残と思えば妙に納得がいきます。また、「主尊と鬼形の眷属」という外来の形式が、荒神さまという日本独自の神様にも波及し、いつのまにか眷属らしき存在を連れていたりすることも。様々な文化が習合した存在として、眷属が浮かびあがっていきます。

〈普賢十羅刹女(ふげんじゅうらせつにょぞう)像〉(東京藝術大学大学美術館)。十二単の女性たちは、元は人を食らう鬼。改心して眷属になりました ※展示は前期(~10月20日)で終了

人と神をつなぐ、あいだの存在

さて、充実した展示をまわりおえてとりわけ印象に残ったのは、眷属と、かれらがお仕えする主尊にたいする親近感でした。

尊い主尊は恐れ多くとも、主尊を慕う周りの眷属たちはとっても人間くさく、“ほとけ”の範疇におさまりきらないものたちまで多種多様です。そんなユニークな眷属に囲まれて、主尊もなぜだか優し気に見えてくる…。思わず自分もその輪に入りたくなってしまうように、眷属は仏様とわたしたちとをつないでくれるあいだの存在でもあったのですね。

 

そんな茶目っ気たっぷりな眷属たちに連れられ、仏教にも仏教美術にも詳しくない筆者も、いつのまにか夢中になってしまう充実した展示「眷属(けんぞく)」。会期は11月24日(日)まで。ふだんは主尊にお仕えする「脇役」な眷属たちが一堂に介してスポットライトを浴びるこの機会をどうぞお見逃しなく。

展示風景

 

参考文献:龍谷大学 龍谷ミュージアム『特別展「眷属」』2024年

現代を生きぬくために芸術は必要? 美術家・森村泰昌さんが大阪大学の講演会で投げかける、「つよさ」とはちがう芸術の可能性

2024年4月16日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

「芸術は、まちがっていてもおもしろければよい?」赤字で記された挑戦的な文句につられてやってきたのは大阪大学中之島芸術センター。梅田からすこし歩いた街中に位置する大阪大学中之島センター内にある、文化・芸術に関する教育拠点です。大学院生・学部生だけでなく社会人にひらかれたこの拠点で今回開催されたのは、同大学特任教授である森村泰昌さんの講演会「芸術は、まちがっていてもおもしろければよい? ―ゴヤの《カルロス四世の家族》を深読みする―」。

 

森村泰昌さんといえば、モナ・リザをはじめとした名画の人物や、マリリン・モンローやアインシュタインなどの著名人に扮して写真を撮影するポートレイト作品で有名な美術家です。チラシはゴヤの自画像に扮したもの。会場の中之島芸術センターと目と鼻の先にある国立国際美術館にも、ゴッホに扮した作品をはじめモリムラ作品が多数収蔵されています。そんな特任教授でアーティストな森村泰昌さんとともに、絵画のなかに分けいってみようというのが今回の趣旨。どんな絵かというとこちら。

ゴヤの《カルロス四世の家族》を読み解いていく森村さん

ゴヤの《カルロス四世の家族》を読み解いていく森村さん

 

1、2、3……ぜんぶで14人。王家がずらりと並んだ、歴史の教科書にでてきそうな絵画です。寝そべる女性を描いた《着衣のマハ》《裸のマハ》、自分の子どもを食らう神サトゥルヌスの絵などでよく知られるスペインの巨匠ゴヤが、宮廷画家時代に王家の命を受けて制作したのがこの絵画。

 

今回、ゴヤが選ばれたことには理由がありました。これまで数年かけて特別講義を重ねてきた森村さん。コロナウイルスによる社会状況の一変、ウクライナとロシアの戦争など、その時々の事象と必然的に内容が絡みあっていくことで、おのずと「現代を生きぬくには」というテーマがみえてきたそうです。昔の先人たちはいかにして時代を生きぬいてきたのかを参照することで現代を考えるべく、まさしく激動の時代を生きたゴヤに白羽の矢が立ったとのこと。

誰かに「なってみる」ことでみえてくる景色

にしても……、ずらりと居並ぶ王家の集合写真のような絵画。国も時代もちがえば、文化もちがう。なかなか絵のなかに入っていけない……というのが私もふくめた会場の大多数が抱いた感触のようでした。どこからどう鑑賞すればいいのか。とりつくしまのなさを前に森村さんが案内役としてとりあげたのは、小説家の故・井上靖さんの見方です[1]。じつは井上さん、大学では美学美術史を専攻、大阪での新聞記者時代には美術欄を担当していた、大の美術好きでもありました。単調に並んでいるようにみえた面々に微細な差異をみいだし、一幅の絵画からまるでその場に居合わせたかのような物語を紡いでいきます。

 

たとえば、絵画のどまんなかに起立する女性、国王の妻、マリア・ルイサ・デ・パルマの堂々とした風貌からは、右横に逸れた国王カルロス4世よりも強い影響力と政治手腕を嗅ぎとり、ふたりのあいだにぽっかり空いた不自然な空間と、両脇にぴたりとひっつく幼い子どもたちからは、夫婦の不仲だけでなく、マリアの不倫相手の存在まで浮かびあがらせ、左にすっくと立つ長子フェルナンド7世の足元から伸びるあやしい影には、その後に両親に謀反する姿を読みとります。人物の配置や距離、光のあたり具合や伸びる影からみるみると立ちのぼっていく光景に、先ほどまでとっつきづらかった王族の集合絵画が、個性的な登場人物たちが繰りひろげるドラマティックな絵画に変貌してしまいました。

ゴヤの《カルロス四世の家族》の部分。左奥がゴヤ、左前方が王子、真ん中が王妃、右が王。

ゴヤの《カルロス四世の家族》。左奥がゴヤ、左前方が王子、真ん中が王妃、右前方が王。(出典:Wikimedia Commons)

 

ちなみに、左端の影にひっそり描きまれているのがゴヤ本人。ちゃっかり絵のなかに自分も入りこんでいますが、これはゴヤの先輩にあたるベラスケスの手法にあやかったもの。そしてこの絵が描かれた当時のゴヤの立場といえば宮廷お抱えの画家、つまり雇われ人であり、王家が気にいる絵を描かなくては画家として生きていくことができません。それなのにもかかわらず、この絵には王族の権威を高め、維持しようとする目的にはそぐわない、王妃と王の確執や派閥、波乱までもが描きこまれてしまっています。そここそがこの絵の魅力となり後世に残るゆえんともなるのですが、当然、王家にとっては内部の不和を明るみにされてはたまりません。絶対的な力を持つ権力者の思惑と、そこをかいくぐって自身の芸術を達成したいゴヤとの攻防。《カルロス四世の家族》が生まれた背景に、両者の大変なせめぎあいがみえてきました。

つよさとは別の生きぬきかた

王家と一介の宮廷画家という圧倒的な力関係のなかでも、相手の求めるままに従うのではなく、みずからの画家としての思想をあきらめなかったゴヤ。その姿勢はたくましく、したたかで立派です。ゴヤの果敢な戦いがあったからこそ、この絵画は生みだされ、人々の記憶に継がれて今に残っているのでしょう。すごい、やっぱり生きぬくためにはゴヤのようにつよくあることが大事なのかぁ……と会場が納得し講演が終わるかにみえて、森村さんがひとこと。

「でも、ゴヤってなんだかわたしはちょっと苦手なんですよねぇ、たくましすぎて」

 

ゴヤの姿勢はたしかにすごい、作品もすばらしい、でも……。ゴヤのようなつよさがないと生きぬくこと、芸術を志向することは難しいのだろうか。その問いに森村さんは別の視点から応えます。

 

「たくましく、つよく、勇ましくあることによって、勇敢な兵士や立派な政治家、経済界のリーダーが生まれてくるかもしれません。けれど、勇ましく生きぬくことから芸術が生まれるかどうかはわかりません。生きぬくために芸術は必要か? という問いへのわたしなりの応えは、『生きぬくための』芸術が必要なのではなく、『生きぬくことができないもの』のために芸術が必要だ、ということです」

 

「生きぬく」というイメージは「つよさ」と結びつけられがちです。過酷な現実を生きぬくためには、確固とした自分を打ちだし、ゴヤのように強きに対しても負けじと対峙していくことが必要なのだと。そんな既存の価値観を覆す森村さんの最後の投げかけから想起されたのは、モリムラ作品に感じる存在のゆらぎでした。

 

森村泰昌《ロス・ヌエボス・カプリチョス(私は冷静に熱狂する/バケツをかぶった自画像)》2004~2016

森村泰昌《ロス・ヌエボス・カプリチョス(私は冷静に熱狂する/バケツをかぶった自画像)》2004~2016

見方が変われば「わたし」も変わる

先述した、森村泰昌さんによる誰かや何かに扮するポートレイト作品は、一見してコスプレを思い起こさせますが、みればみるほど対象に「なりきろう」する行為とは別物であることがわかります。モナ・リザに扮する森村さんは、モナ・リザだけれどモナ・リザではありません。でも、かといって扮する姿は森村さん自身であるとも言い切れない……。「なりきる」手前の対象と自分のあいだにとどまって両者の境界線をゆるがし、自明だと思われていた認識に疑問をなげかけるモリムラ作品には、つよい輪郭線ではこぼれおちてしまうたくさんの気配たちが作品に息づいているようです。

 

「わたしたちはついつい脈絡をつけようとしがちです」と森村さんがいうように、自分が何者であるかをふちどり、納得しやすい因果関係にあてはめて外へ説明していくことは、「生きぬく」ためにつよくあろうとすればこその身振りでしょう。それは実際、学校や仕事など、現実の多くの場で求められることでもあります。森村さんの最後の問いかけは、それとは異なる在り方を提示するかのようでした。

ほぼ満席の会場。講義後には質問や感想でにぎわいました。

ほぼ満席の会場。講義後には質問や感想でにぎわいました。

 

18世紀を駆けぬけたゴヤの生きざまを鏡像のようにして、たくましさとは異なる「生きぬき方」の可能性を提示した森村さん。いま、ご自身の活動で気になっていることは「自分自身の脈絡から抜けだし、ばらばらなまま、どう人にみせていくか」ということだそう。ひとつの文脈ではなく様々なあり方を共存させていく。それは、今回とりあげられたゴヤの絵画しかり、名作と呼ばれる作品の数々がさまざまな見方を注がれ多様に読みとかれることでこそ、今に残り「生きぬき」続けてきたことに通じるように感じました。



[1]森村さんが引用された井上靖さんの魅力的な解釈が掲載されているのが90年代に中央公論社から刊行された『世界の名画』シリーズのゴヤ編。他にも、ドラクロワ×松本清張、クレー×吉行淳之助など、取り合わせを聞いただけで興味がそそられるものばかりでした。

アフリカマンガの最前線! ブリコラージュな表現のスピリット。京都国際マンガミュージアム「アフリカマンガ展」レポート

2023年12月5日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

「アフリカのマンガ」と聞いてどんなイメージが浮かびますか?

 

「世界三大マンガ」と呼ばれる、日本をはじめとしたアジアのマンガ、アメリカのアメコミ、フランス語圏のバンド・デシネならなんとなくわかるけれど、「ん?アフリカのマンガ?」と疑問符が浮かぶ方も多いんじゃないでしょうか。それもそのはず、これまでアフリカのマンガはほぼ日本に紹介されてきませんでした。そんな日本にとって未知の分野であるアフリカマンガの初の企画展が開催されていると聞いて、京都市と京都精華大学の共同事業である京都国際マンガミュージアムに行ってきましたよ。会場に満ちていたのは、アフリカマンガの多様な魅力と、文化の接点をつぎつぎに生みだしていくマンガという表現手法の力強さでした。

ミュージアムの入口

ミュージアムの入口

 

京都の繁華街、京都市営地下鉄「烏丸御池駅」から徒歩2分ほど、おおきな校庭が目をひく建物は、元小学校を改修して建てられたのだそう。入り口付近の前田珈琲の香りに惹かれつつ館内に入ると、ずらりと並んだマンガがお出迎え。

 

マンガにまつわるミュージアムは全国70施設ほどあるそうですが、研究機関として専門員が常駐する施設は片手の指に収まるほどしかないとのこと。マンガ関係の卒論を書くために国内外の大学生が訪れることも多いのだとか。江戸時代の戯画から現在の人気作、海外のものまで約30万点が収蔵されています。文化としてマンガを捉え研究・発信していく施設だからこそ、これまで機会の少なかったアフリカのマンガを紹介する今展は念願の企画だったそうです。

バンド・デシネスタイルで描くアフリカの物語

複製原画(デジタルプリント)がならぶ展示風景

複製原画(デジタルプリント)がならぶ展示風景

 

足をふみいれると目を惹くあざやかなマンガたち。アフリカのなかでもフランス語圏の国をとりあげた今展では、複製原画のほか、手にとって読むことのできる雑誌やマンガの展示、アフリカの歴史やマンガをめぐる現状がわかるパネルなど、作品が生まれた背景とともにアフリカマンガの世界に入っていくことができます。

 

二部構成の第一部では、アフリカ出身作家によるバンド・デシネスタイルの作品がずらり。バンド・デシネは、「世界三大マンガ」のひとつである主にフランス語圏で発展したマンガスタイル。アフリカで「マンガ」といえばまずこのスタイルを指すそうですが、そこにはフランスによる植民地支配の歴史が関係しています。

 

旧宗主国の文化ということもあって、それまでアフリカに流通していたマンガの多くがアフリカ人以外の作家によるものでした。アフリカ人が登場するマンガはそれほど多くなかったようなのですが、ここで展示されているのは、そんな状況を反転させるかのような、アフリカ人が主人公で、アフリカの神話、歴史、日常などを扱った物語。アフリカの子どもたちが「自分の物語」として楽しめるマンガを増やしていきたいという思いで活動する作家もおり、もとは欧米のスタイルであったバンド・デシネが、アフリカのマンガとしてあたらしく生まれ変わっていく活況が伝わってきます。

 

複製原画のフィルムをめくると原語が

複製原画のフィルムをめくると原語が

主に2000年代以降に発表されたアフリカのマンガ本。実際に手にとって読むことができます

主に2000年代以降に発表されたアフリカのマンガ本。実際に手にとって読むことができます

マンガスタイルにこめられた表現へのスピリット

第二部の展示風景

第二部の展示風景

 

つづいて第二部に入ると、がらっと絵の雰囲気が変わります。

日本のマンガに親しんできた立場からすると、どこかなつかしい絵柄……。そう、第二部では、日本のマンガスタイルが取り入れられたアフリカマンガが紹介されています。おおまかに比べれば、文章が比較的多く固定的なコマ割りが特徴のバンド・デシネにたいし、躍動感のあるコマ使いと、絵と文字が一体化したような特徴がみられます。

 

日本のスタイルがアフリカに取り入れられていった背景には、1990年代から放映された日本アニメの影響があるそうですが、とりわけ社会的ムーブメントとして盛り上がりをみせたアルジェリアではより深い理由があるようです。

 

アルジェリアマンガについての解説パネルを眺めていると、なんとテキストを書かれたご本人、筑波大学の青柳悦子教授が横でマンガをお読みになっているではないですか! アフリカ文学の翻訳も手掛けていらっしゃる青柳先生は、フランスや北アフリカ文学を専門にされています。うれしい偶然に感謝し、マンガをめぐるアルジェリアの事情についてお話を伺いました。

取材に協力してくださったみなさん。左から広報・中村浩子さん、京都精華大学国際マンガ研究センター特任准教授の伊藤遊先生、筑波大学教授の青柳悦子先生、司書・大谷景子さん

取材に協力してくださったみなさん。左から広報・中村浩子さん、京都精華大学国際マンガ研究センター特任准教授の伊藤遊先生、筑波大学教授の青柳悦子先生、司書・大谷景子さん

 

アルジェリアは1990年代前半から2000年代初めにかけて、「暗黒の10年」と呼ばれる内戦状態が続いていました。あらゆる文化活動が停止し、安全のために自宅にこもらざるをえなかったこの時期に、ちょうど放映されはじめたのが日本アニメ。内戦に関わるような政治色がないので危険視されず、盛んに放映されていたようです。夢や希望、冒険心、人と人との絆がテーマになることの多い日本アニメが、厳しい状況になか生きる人びと、とりわけ子どもたちの心をつかんだのではと青柳先生は言います。

 

まさにそうしたアニメを観て育った子どもたちが、内戦終結後の2008年に立ちあげたのが、日本式マンガの出版社、Z-LINK。日本アニメやマンガから手法を吸収しつつ、「100%アルジェリア製」をモットーにし、アルジェリア人が登場人物、アルジェリアが背景の、アルジェリア人によるマンガを次々と世に送りつづけています。現在はマンガ雑誌が65号、単行本が60冊を超える、アルジェリアのコミックス史で前例のない大きなムーブメントを引き起こしました。会場にはそんなZ-LINK社が手掛けたマンガたちがたくさん展示されていましたよ。

 

実際に見てみると、1950年代のアルジェリア革命(アルジェリア独立運動)について調べる宿題を出された主人公が、革命にかかわった祖父を訪ね、歴史を知っていくという内容がありました。内戦でさまざまな文化が奪われた中、親しみをもった日本のマンガ・アニメを吸収し、自分たちの物語を紡いでいることがみえてきます。

Z-LINK出版社から発表された、アルジェリア革命を題材にした『革命』(作:フェラ・マトゥギ)の複製原画と青柳先生

Z-LINK出版社から発表された、アルジェリア革命を題材にした『革命』(作:フェラ・マトゥギ)の複製原画と青柳先生

 

そのほか、セネガルで活躍するセイディナ・イッサ・ソウさんによる、セネガルにかつて存在したカヨール王国が舞台のマンガや、日本で活躍するマンガ家でカメルーン生まれ兵庫県育ちの星野ルネさんによる、文化の差異や固定観念に焦点を当てたマンガなど、それぞれの魅力がひかる作品たちが勢ぞろいしていましたよ。

ブリコラージュな文化のありかた

状況にあわせて柔軟に、けれど粘り強く自分たちの創意をはたらかせていくこと。その姿勢に、伊藤先生は「ブリコラージュの精神」と言葉を重ねます。「ブリコラージュ」とは、あり合わせのものや道具を使って、修繕したりあたらしいものをつくったりするという意味のフランス語。

 

お話を伺って感じたのは、「フランスの影響を受けたバンド・デシネ」、「日本の影響を受けたマンガスタイル」という捉え方はふさわしくないということ。あらゆる文化が他の文化と

混ざりあいながらつむがれてきたことを思い起こさせてくれる展示内容は、ブリコラージュ的な目線であらゆる文化を捉えるきっかけを与えてくれます。

 

今回展示された「フランス語や英語のアフリカマンガ」からは、国と言語と文化がイコールではないということも示されています。もちろんフランス語圏になった要因としての植民地支配の歴史や自国語の未来を考えていくことは重要です。しかし同時に、日本のマンガスタイルで描かれたアルジェリアマンガにアルジェリアの固有性を感じたように、言語や表現をブリコラージュ的に選び取った手段として捉え、そこにオリジナリティを見出していく視線も大事であると気づかされました。(今回の展示ではフランス語圏のアフリカ諸国のマンガが中心でしたが、現地の言葉でつくられたマンガも存在し、積極的に現地語でマンガ制作を行う作家もいます)

 

異なるものと異なるものがつながりあうネットワークの重要さは、この日開催されていたトークショーでも感じることができました。タイトルは「フランス語圏アフリカ諸国における日本マンガの影響:カメルーン人作家・エリヨンズの場合」。エリヨンズさんはアフリカマンガ文化を牽引する作家のひとり。アフリカンルーツの人が遭遇する偏見やハプニングなどをコミカルに描いた『エベーヌ・デュタの日常』が反響を呼んだそうです。マンガ制作だけでなく、国際マンガフェスティバルの主催や、フィギュア制作をはじめとしたトランスメディアへの挑戦など、幅広い活動を展開しています。

トークショーの様子。中央がエリヨンズさん

トークショーの様子。中央がエリヨンズさん

 

マンガ専門のメディアや出版社が日本ほど多くないアフリカでは、作家は兼業で自費出版をしたり、クラウドファンディングや電子書籍、SNSを活用したりなど、それぞれ工夫をしながら取り組んでいます。そのような状況のなか、マンガを志す人々がつながり、活動が促進されるネットワークをつくっていきたいというエリヨンズさんの言葉は頼もしく、今後のアフリカマンガの展望を照らすかのようでした。

 

これまで紹介される機会の少なかったアフリカマンガの世界に入り、マンガを起点に社会と表現をめぐる関係を考えることのできる本企画。会期は2024年2月18日まで。ぜひこの機会に足を運んでみてくださいね。

ホテル直営!アートに囲まれた大阪大学中之島センター「カフェテリア・アゴラ」でひらめきが訪れるかも。

2023年10月5日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

昨今、おしゃれな学食はめずらしくなくなってきましたが、それのはるか上をいくのが今年2023年の4月にオープンしたばかりの「カフェテリア・アゴラ」。それもそのはず、リーガロイヤルホテル直営とのこと。地域にちなんだオリジナルメニューもあると聞きつけ、早速行ってきました。

それぞれの過ごし方ができるアート空間

「カフェテリア・アゴラ」があるのは、大阪大学のサテライトキャンパスである中之島センターの中。辿り着いた中之島エリアは、梅田からすこし歩いたところに位置するオフィス街で、美術館が集まる文化的なエリアでもあります。ちょうど並びにあるのが2022年にオープンした大阪中之島美術館。岡本太郎展などで話題になりましたよね。

実は、この中之島エリアは大阪大学発祥の地で、創立70周年の2004年に、ゆかりあるこの土地にサテライトキャンパスが設立されたそうです。

 

スマートな外観の中之島センター。オフィス街に位置するだけあり、ひろく一般の方々に向けた公開講座や催事が開催されているそう。おもわず大阪で仕事をしながら阪大サテライトに通って学ぶ、という刺激的な生活を思い浮かべてわくわくしてしまいます。知的好奇心っていくつになっても大事ですよね、とそんな妄想をしながらカフェのある2階へあがってみると……

アート作品が並ぶカフェテリア・アゴラ

アート作品が並ぶカフェテリア・アゴラ

 

約80席もあるおしゃれな空間がひろがっていました。グループでゆったりくつろげるソファ席から、打合せにぴったりなテーブル席、ひとり時間に便利なカウンター席やすこし奥まった席まであり、数人で打合せをしたい時、ちょこっと作業をしたい時、ゆったりぼーっとしたい時、様々な用途でつかえそうです。筆者は平日に行きましたが、ひとりで作業をするひと、美術館帰りで談笑するふたり連れ、ビジネススーツで打合せをするグループなど、みなさん思い思いに過ごしていましたよ。

そんな多用途な利便性をおさえてなにより目をひいたのは、空間のいたるところにちりばめられたアート作品です。

大きな絵画が飾られた壁面

大きな絵画が飾られた壁面

いたるところにあるアート作品

いたるところにあるアート作品

 

大きな絵画やオブジェたち。これらは大阪大学総合学術博物館の収蔵品や、寄贈された作品だそうで、空間内のあちこちに置かれています。いいアイデアが浮かんでこないとき、仕事が行き詰まったとき、ふと周りにあるアート作品を眺めてみれば、なにか変化が訪れるかも。

カラフルバーガーと、パフェ仕様なミックスジュース

さて、くつろぐのは大きな絵画が眺められるテーブル席に決定! 待ちに待ったフードを注文しにいきます。サイネージメニューを見ると、フードからスイーツまで豊富なラインナップ。ランチタイム(11時~14時)とカフェタイム(14時~16時)で内容もすこし変わるそう。私はイチオシだというアゴラバーガーセットを頼んでみました。じゃーん。

具材たっぷりアゴラバーガーセット(1480円)

具材たっぷりアゴラバーガーセット(1480円)

 

見た目もおいしいゴージャスサンドです。グリルされたパンから覗く色とりどりの具材は、左から、マンゴー、アボカド、ラタトゥイユ、エッグスプレッド。チーズがとろけた細長ハンバーグの上にぎっしり詰まっています。つけあわせのポテトも太くて食べ応えあり。ドリンクカップの手書きウサギのチャーミングさにやられてしまいました。

 

バーガーにかじりつきながら、読書をしたりアートを眺めたりしているとあっという間に時間が経ち、いつのまにかカフェタイムに。すかさずデザートを注文。頼んだのは、かわいらしいビジュアルが目をひく、その名も「中之島四丁目ミックスジュース」(700円)です。

ハートがかわいい中之島四丁目ミックスジュース(カフェタイム限定)

ハートがかわいい中之島四丁目ミックスジュース(カフェタイム限定)

 

大阪名物として浸透しているミックスジュースですが、こちらのミックスジュースはまるでパフェのようないでたち。自家製ミックスジュースとシャリシャリとしたイチゴのアイスクリームが二層になっています。注目はなんといってもかわいいトッピング。ホワイトチョコと甘いメレンゲで、美術館と中之島センターをつなぐデッキをイメージしているそう。見た目にもおなかにもおいしいフード×スイーツと、アートに囲まれた空間に、リフレッシュするひとときでした。

 

メニューは他にも、ランチタイムの、今月のシェフランチ(1580円)、オムライス(850円)、今月のパスタ(950円)。カフェタイムの、ガトーショコラ(500円)、フレンチトースト(700円)、アフタヌーンティーセット(二人前4000円)など。ワインやビールまで置いてあるのにはびっくり。次に来た時にはどれを頼もうかなぁと想像しながら、カフェテリア・アゴラをあとにしました。

 

古代ギリシアで、政治、経済、文化の拠点であった公共広場を意味する「アゴラ」。中之島センターのフライヤー置き場に寄ってみると、メタバース、AI、月と地球、坂本龍一のピアノ……などなど、多彩な公開講座情報が並んでいました。また、カフェを出て周りを歩けば、国立国際美術館や大阪中之島美術館、プラネタリウムのある大阪市立科学館、もうすこし足を伸ばせば、フェスティバルホールや大阪市立東洋陶磁美術館、そして大阪大学が協働運営者となっているコミュニティスペース・アートエリアB1まで。

 

アカデミックな知と芸術文化がゆるやかにつながっている、このエリアの豊かさをひしひしと感じます。あたらしいひらめきもアイデアも、こうした交差のなか起こる化学反応で生まれていきそうですよね。アートな空間においしいフードとスイーツがそろう「カフェテリア・アゴラ」に、ぜひ一帯エリアとあわせて行ってみてくださいね。

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大学で学ぶ50歳以上の方たちのロングインタビューと、社会人向け教育プログラムの解説などをまとめた、おとなのための大学ガイド。

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楽しい大学に出会う本

大人や子どもが楽しめる首都圏の大学の施設やレストラン、教育プログラムなどを紹介したガイドブック。

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関西の大学を楽しむ本

関西の大学の一般の方に向けた取り組みや、美味しい学食などを紹介したガイド本。

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年齢不問! サービス満点!! - 1000%大学活用術

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子育て層も社会人もシルバーも、学び&遊び尽くすためのマル得ガイド。

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定年進学のすすめ―第二の人生を充実させる大学利用法

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第二の人生を充実させる …

私は、こうして第二の人生を見つけた!体験者が語る大学の魅力。

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フツーな大学生のアナタへ
- 大学生活を100倍エキサイティングにした12人のメッセージ

学生生活を楽しく充実させるには? その答えを見つけた大学生達のエールが満載。入学したら最初に読んでほしい本。

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アートとデザインを楽しむ京都本 (えるまがMOOK)

アートとデザインを楽しむ
京都本by京都造形芸術大学 (エルマガMOOK)

京都の美術館・ギャラリー・寺・カフェなどのガイド本。

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