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大学発広報誌レビュー第30回 桜美林大学「J. F. Oberlin Tokyo」

2022年9月6日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

洗練されたデザインで多様な魅力を伝える一冊。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第30回目を迎える今回は、桜美林大学が発行する「J. F. Oberlin Tokyo」を取り上げます。

 

学群制とメジャー・マイナー制度の導入、航空業界に特化したカリキュラム、女子学生比率の高さなど、独自の取り組みや特徴が目を引く桜美林大学。2021年には学園創設100周年を迎えました。広報誌「J. F. Oberlin Tokyo」でも、春と秋の2号にわたって総勢100人の卒業生、教員、在学生のインタビューを掲載。かなり読み応えのある誌面になっていました。今回ご紹介するのは通常の誌面構成に戻った第7号ですが、読者目線から紹介する特集記事やコンテンツによって変化をもたせたデザインなど、クオリティの高さを感じます。

 

第7号の巻頭特集は「その先に何が見える?」と題して、データサイエンスを取り上げています。最初の見開きでは、ビッグデータの活用によって日常がどのように変化するかを、イラストを使ってわかりやすく紹介。続くページで日本におけるDXの現状と展望を示した上で、「桜美林のデータサイエンス」を3ページにわたって具体的に解説しています。誌面に限りがあるのはいずれの広報誌も同じですが、自学の情報からではなく読者の日常生活に焦点を当てて語り始めることで、データサイエンスに対する関心が薄い人にも読みやすい編集だと感じました。

スクリーンショット (245)

データサイエンスがもたらす暮らしをイラストで可視化

 

特集以降は連載企画が並びます。卒業生の紹介ページは落ち着きのあるレイアウトと書体でまとめる一方、イベント紹介や在学生向けのページはメリハリがあって活発な印象を受けます。「J. F. Oberlin Tokyo」は大学校友会の広報機能を担っていることもあり、読者は多岐に渡ります。企画内容と想定する読者に応じてデザインを丁寧に変化させることで、読んでいて飽きることがありませんし、大学(卒業生にとっては母校)の多面的な魅力が伝わるクリエイティブだと思います。

スクリーンショット (246)

企画ごとに配色やあしらいが変化して読み飽きない

 

桜美林大学らしさを色濃く伝えているのが、巻末の1コーナー「いま・むかし」。今号は学内にある「パイプオルガン」を取り上げ、学園の過去と現在を紹介しています。桜美林学園は、キリスト教の宣教師だった創立者がアメリカ・オハイオ州のオベリン・カレッジに留学して、その教育思想に感銘を受けたことが名前の由来になっているそうです。在学生や卒業生はもとより、受験を考える高校生にとっても、大学の歴史と理念に興味をもつきっかけを与える良い企画だと感じました。

キャンパスの変遷とともに、変わらない理念も伝えている

キャンパスの変遷とともに、変わらない理念も伝えている

大学発広報誌レビュー第29回 武庫川女子大学「M*arch」  

2022年5月17日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

学生が知りたいことと、学生が伝えたいことが詰まった一冊。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第29回目となる今回は、武庫川女子大学が発行する「M*arch」を取り上げます。

 

全国の女子大の中でも最大規模を誇る武庫川女子大学。10学部17学科で約1万人の学生が学んでいます。この武庫川女子大学では、学内外に向けた情報発信を行う広報誌「rivière」とともに、在学生に向けた学内広報誌「M*arch」を発刊しています。全てのページの取材・編集、デザインや撮影も学生広報スタッフ「la chouette*」(ラ シュエット)が担当。型にとらわれず自由な発想で作られた誌面をご紹介します。

 

2021年秋に発刊された第21号の巻頭特集は、キャンパスの施設紹介です。コロナ禍でオンライン授業をキャンパス内で受けることが増えた学生に向けて、おすすめの自習スポットを紹介するなど、学生ならではの視点が生きています。また、「女子大生のお悩み解決」コーナーでは、オンライン授業による目や肩の疲れを癒すツボの紹介や、マスクメイクのポイントをイラストと共に紹介。教員や学生にオンライン取材を行うなど、独自の情報を集め、読み応えのある記事にまとめています。

マスクメイクなど学生が知りたい情報を楽しく紹介

マスクメイクなど学生が知りたい情報を楽しく紹介

 

地方出身の在学生に、おすすめの観光地と食べ物についてアンケートを実施した「地元×旅」も良い企画だと思いました。コロナ禍で旅行に行きたくても行けない学生が多い中、広島県出身の学生がもみじ饅頭を揚げた「揚げ紅葉」を推薦したり、福岡県出身の学生が「あのBTSも食べに行った超人気のもつ鍋」を写真付きで紹介したりと、地元の人だから知っている名物や情報などを掲載。まさに全国各地から、多様な学生が集まっていることが伝わる内容でした。

出身県の地図を載せるなど、見せ方も工夫されている

出身県の地図を載せるなど、見せ方も工夫されている

 

今回は「M*arch」の編集を担当している学生スタッフのリーダー、米田さんからコメントをいただくことができました。現在は次号の制作に取りかかっているそうですが、実は企画のいくつかを大幅に変更することになったそうです。

「やり直しになった理由は、宣伝色が強すぎるページになってしまったからでした。事前に各関係者と話し合いの時間が取れていなかったことが原因だと考えています」

 

――しっかりした編集方針があるんですね。

「この失敗について話し合っている時、職員の方から『取材先の方の話をただ聞くだけではなく、自分たちの企画のためにお話を伺いに行っているという姿勢が大切だ』という助言を頂きました。例えば、実際にそこの方が提供されているものを体験する、女子大生に役立つ知識を専門家としての立場から教えてもらうなど、自分から動くことで得られることはたくさんあります。これからは、そういった点も意識して取材を行おうと考えるようになりました」

 

――「M*arch」は、約10年間にわたって発行を続けていると聞いています。編集活動を通して得られたことはありますか。

「リーダーを務める中で、自分が話を進める機会が増えました。そんな時、ただメンバーに質問を投げかけたり、職員の方に意見を聞いたりするだけでは上手く話が進みませんでした。しかし、先輩が仕切っている時に注目してみると、私はこう思うのですがどう思いますか?と意見を言って、方向性を最初に提示していることに気づきました。それからは、まず自分自身が思う進みたい方向性をしっかり考え、意見を伝えてから、他の人の意見を聞くということを意識しています」

 

巻末の編集後記からも、試行錯誤を重ねながら魅力的な誌面を作ろうという思いが伝わってきます。この学内広報誌「M*arch」自体が、武庫川女子大学の魅力であると感じました。

誌面のリニューアルにかける思いが伝わる編集後記

誌面のリニューアルにかける思いが伝わる編集後記

 

大学発広報誌レビュー第28回 群馬大学「GU’DAY」

2022年4月7日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

学生参加型だから生まれるコンテンツの数々。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第28回目となる今回は、群馬大学が発行する「GU’DAY」を取り上げます。

 

群馬県内に4つのキャンパスを構える群馬大学。受験生向けサイトが群馬を題材にした漫画とコラボして注目を集めていますが、年に2回発行する広報誌もかなりの充実ぶりです。「GU’DAY(グッデイ)」最大の特徴は、在学生広報チーム「学生広報大使」が編集と記事作成を担当して、学生ならではの目線から群馬大学をPRしていること。この「学生広報大使」が実に多彩な情報発信を行っている点についても、あわせてレビューします。

 

第11号の特集は「群大生の生態図鑑」。在学生が大学生活のリアルなイメージを語ってみせるのは、まさに大学の広報誌の王道的な企画です。しかしこの「生態図鑑」は、通り一遍の情報に終わりません。生協食堂の名物メニュー、4キャンパス周辺の詳細なお店マップなど、おそらく群大生スタッフがそれぞれのオススメを出し合った情報を8ページに渡って掲載。スーパーの特売日を活用すればポイントが貯まりやすい、キャンパスに近い自動車教習所なら授業の空きコマに受講できるなど、群大生の生活が見えてくる誌面です。

高校生・在学生が知りたい地元情報がぎっしり

高校生・在学生が知りたい地元情報がぎっしり

 

特集以外のページも「学生広報大使」のメンバーがインタビューを担当。高校生向け、在学生向けと記事を読んでほしい対象者を明示した上で、Q&A方式で読みやすい記事に仕上げています。大学の広報活動を支えるだけでなく、学生だからこそ気付けることや素直に驚けることがあり、語り手の言葉を引き出せている部分があると感じました。ちなみに卒業生の仕事場を訪問する記事では写真部に所属する学生が撮影を担当しており、写真のクオリティもしっかりしています。

誰に向けて書かれた記事なのかを分かりやすく表示

誰に向けて書かれた記事なのかを分かりやすく表示

 

「学生広報大使」は2017年に120人余りでスタートしたそうですが、2019年度には276人にまで拡大。これは全学部生・大学院生の5%近くが登録していることになります。この組織規模を活かせることもあるのでしょう、活動内容は広報誌編集の他にも、オープンキャンパスなど高校生向けイベントの対応、オリジナルグッズの企画やデザインなど実に多彩。また、Zoomを使ったラジオ番組を配信したり、TikTokに各キャンパスまでの道筋案内を投稿したりと、Z世代ならではのデジタル・SNS広報も非常に活発です。

自分が通う大学に愛着を持った学生が大学の魅力を発信するチームに入って、主体的に行動しながら下の学年に組織を受け継いでいく「学生広報大使」。学生参加型広報の理想の姿だと感じました。

イントロページで「学生広報大使」発信のSNSを紹介

イントロページで「学生広報大使」発信のSNSを紹介

大学発広報誌レビュー第27回 東北文教大学「To Be!」

2022年2月24日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

注意深く計算された編集が光る一冊。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第27回目となる今回は、東北文教大学が発行する「To Be!」を取り上げます。

 

山形市に立地し大学と短大を擁する東北文教大学は、1925年に山形裁縫女学校を前身とする、歴史ある大学です。沿革を追うと、留学生別科の早期設置や学科の新設・再編など時代と社会のニーズに応える形で変化を続けてきたことが見てとれます。この東北文教大学の広報誌のタイトル「To Be!」は、「やがて~になる」という意味と、「TOBE(飛べ)」という思いが込められているとのこと。毎号の表紙を飾る学生のいきいきとした姿と相まって、大学の自由な雰囲気が感じられます。

 

この「To Be!」は年2回発行されており、2021年9月発行の最新号でVOL.9を数えます。全8ページの誌面は、巻頭特集以外は毎号統一のフォーマットで、学生/教員/卒業生がそれぞれの関わりから大学を語る形を採っています。

ちなみにVOL.9の巻頭特集は「数字で見る東北文教大学」。入学者アンケートを活用し、集計データとフリーアンサーから入学した理由を紹介しています。「進学の決め手は?」という設問に対して、大学・短大の4学科で「資格を取得できる」が1位を独占。将来の進路を意識して進学する学生が多いことを伝え、「うちに来てほしい高校生」へのPRにもなっていると思いました。 

高校生も興味をもちやすい柔らかなデザイン・レイアウト

高校生も興味をもちやすい柔らかなデザイン・レイアウト

 

 個人的に「学生の個性が伝わってきていい企画だな」と思うのが、2見開き目の「my BEST ●●」です。この号では「ワタシが出会った運命の一冊。my BEST BOOK」を8人の学生が紹介。学科の学びに関連した本を選ぶ学生、部活動がきっかけで本を手に取った学生、インフルエンサーのエッセイを紹介する学生など、バラエティに富んでいる点が面白いです。そして、その一冊が自分にどんな影響を与えたか、物事の捉え方がどう変わったかを語る学生たちの人柄が伝わってくるので、興味をもって読み進めることができました。

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全身のポーズ写真が学生のキャラクターを際立たせる

 

続く3見開き目の左ページは「FOCUS」というタイトルで、毎号教員を1人ピックアップして紹介しています。在学生がインタビュアーを務めている点がポイントで、学科内の親密さや、教員の学生に対する熱意が自然と伝わります。

8ページという限られたボリュームでも、大学の雰囲気と魅力を効果的に届けている「To Be!」。取材の方法を工夫したり、写真の切り取り方で印象を高めたりと、注意深く編集されていると感じる一冊でした。

教員の登場ページは知的にスッキリと

教員の登場ページは知的にスッキリと

 

大学発広報誌レビュー第26回 高知県立大学「Pin+(ピント)」

2022年2月3日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

徹底した地域志向を人物の声で伝える一冊。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第26回目となる今回は、高知県立大学が発行する「Pin+(ピント)」を取り上げます。

 

女子大学を前身として、2011年に男女共学化して誕生した高知県立大学。「域学共生」という理念を掲げ、地域に出かけ、地域の営みや人々の生活を理解し、課題を分析する実習を全学必修科目とするユニークな教育を取り入れています。この高知県立大学の広報誌「Pin+(ピント)」は、2015年に発刊されて以来、表裏両方を表紙とするスタイルを継続。表面を教員、裏面を主に学生が飾る両A面の表紙で、大学を構成する人の魅力を伝えています。

 

現時点の最新号は、2021年11月発行のVol.23。今回の巻頭特集は高知をフィールドとした地域志向の学術研究を取り上げています。教員の方々が語るテーマは特別支援教育、福祉、食と防災など、どの地域にも通じる今日的な内容ですが、高知県においてどのような状況であり、何が解決課題なのかを探る内容となっています。

高知県は東京や大阪といった都市部から遠く離れ、山間部が多くを占める地域です。筆者も高知県出身なのですが、人口構成や産業構造などの社会事情が都市部と大きく異なっていることを実感します、一般論が適用しづらい地方だからこそ、地域に根ざした学術研究の重要性は高いと思いますし、その成果を広報誌で発信する意味も大きいと感じます。

画像1

学術研究で明らかになった高知県の実情と課題を紹介

 

「Pin+(ピント)」の後半ページでは、Vol.21から「あの人にピント!」という人物紹介の企画を連続掲載中。1回目はコロナ禍で学びをいかに継続しているか(遠隔授業)、2回目はコロナ禍で学生はどのようにキャンパスライフを送っているか(課外活動)、そして3回目の今号では、コロナ禍に負けず地域活動や実習に取り組んだ4回生の体験談を取り上げています。未だにコロナ禍の先行きが見通しにくい中、学生や教員がコロナ禍の活動を自分ごととして具体的に語っているので、読み物として面白いコンテンツになっていると思います。

学外の関係者からのコメントがリアリティを高める

学外の関係者からのコメントがリアリティを高める

 

高知県立大学のサイトにある理念・使命・方針のページを見ると、「地域」というキーワードが何度も登場します。立地する地域にとってなぜこの大学が必要なのかを明示し、その理念に基づく取り組みを学生・教員の言葉で発信する。届けたい相手を明確にして、王道的なアプローチを継続して行っている広報誌だと思います。表紙に教員の写真、裏表紙に学生の写真をレイアウトしているのも、人を通して伝えるという編集方針の表れなのかもしれません。ただ余計なお世話かもしれませんが、表紙に学生をもってくる方が、大学の特性や活気をより印象付けられるのでは…、とも思いました。

教員と学生が毎号両A面の表紙を飾る

 

大学発広報誌レビュー第25回 新潟大学「新大広報」

2021年11月30日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

学生の目線から丸ごと一冊を企画・編集。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第25回目となる今回は、新潟大学が発行する「新大広報」を取り上げます。

 

旧制官立大学と旧制高校を起源にもつ新潟大学は、本州日本海側では最大規模の総合大学です。2005年からどの学部に在籍しているかにかかわらず、ほとんどの学部の授業を選択できるようにするなど、早期から学士力の向上に取り組んでいます。さて、今回取り上げる「新大広報」は、学生が主体となって企画・編集を行っている、主に在学生を対象とした広報誌。10名程度の学生編集スタッフがさまざまな企画を考え、学びやサークル活動のインタビュー、学内の施設紹介など、学生目線から大学の魅力を紹介しています。

 

2021年7月発行「新大広報」No.219の巻頭を飾るのは「講義&初修外国語特集」。新潟大学が開講している「個性化科目」を紹介しています。酒どころ・新潟らしい講義として日本酒の文化的・科学的な知識や教養を幅広く学ぶ「日本酒学」や、将来に向けて子育てへの理解を深める「大学生のための役に立つ育児学」など、文字通り個性的な講義をピックアップ。また、外国語科目を履修中の学生がどこで苦戦しているか、どこに面白さを感じているかなどのコメントも掲載しています。大学生の目線から紹介される授業紹介は、大学案内とはまた違ったリアリティと魅力を感じさせます。

飾らないコメントが引き出せるのも学生取材ならでは

 

その他のページも、在学生、卒業生、ゼミ・研究室紹介、部活・サークル紹介をそれぞれ見開きページで展開し、読みごたえのある構成となっています。大学広報誌の多くは、プレスリリース的なTOPICSページを設けていますが、「新大広報」には一切なし。バックナンバーをさかのぼってみても、どの号も学生による連載企画だけで構成されています。1冊丸ごとの企画・編集を学生スタッフに任せるというこの方針自体が、学生が存分に活動できるキャンパスであるというメッセージを伝えているように感じました。

取材対象学生の思いと魅力がしっかりと伝わる誌面

取材対象学生の思いと魅力がしっかりと伝わる誌面

 

発刊して13年目を数える「新大広報」は、年4回の発行ペース。学生スタッフを主体としたスタイルで、現在まで途切れることなく続いているというのがすごい。もちろん職員スタッフによる後ろ支えがあってのことと思いますが、代々の学生スタッフが企画・編集のスキルと思いを受け継ぎ、キャンパスにも「新大広報」が浸透し愛されてきた証とも言えそうです。学生スタッフによる取材時の裏話が読める編集後記まで、たっぷり楽しめる一冊でした。

誌面に載せきれなかった取材の裏側も紹介

誌面に載せきれなかった取材の裏側も紹介

 

大学発広報誌レビュー第24回 甲南女子大学「シーソー」

2021年10月5日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

自慢要素ゼロ、情緒を揺さぶる新感覚のブランディング広報のかたち。

 

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第24回目となる今回は、甲南女子大学が発行するWebマガジン「シーソー」を取り上げます。

 

甲南女子大学は神戸市東灘区に本拠を構える女子大学。1920年に「甲南高等女学校」として創立され、2020年には100周年を迎えました。

甲南女子大学といえば、神戸の街を一望できる立地と、建築家・村野藤吾による白亜の学舎が印象的です。市街地とは違う落ち着いた空気と時間が流れている、独特の魅力をたたえたキャンパス。その空気感を「エモい写真」と「飾らないことば」で切り取っているのが、今回ご紹介するWebマガジン「シーソー」です。

 

「シーソー」のサイトコンセプトは“曖昧に揺れてる私の、未来を見つけるキャンパスマガジン”。近年さまざまな大学が取り入れている「オウンドメディア ※」的なサイトです。高校生にも身近なモノゴトを話の入り口にして、学生・教員がそのテーマを楽しみながら深めている様子が紹介されています。例えば、「モテるためのメイク」と「私らしいメイク」をめぐる流行の変化を教員が紹介する記事や、K-POPにハマったことをきっかけに学びと将来が広がった学生の話など、興味をもっていなかった話題でもするすると読み進められる記事内容は、さすがとしか言いようがありません。

※オウンドメディア(Owned Media)…「自社・大学等で保有するメディア」の総称。主に自社・大学等で運営・情報発信を行うウェブマガジンを指す

 

2- シーソー|甲南女子大学

動きのあるデザインは、スマホでも見やすい

 

甲南女子大学の公式サイトをのぞくと、ほとんどのコンテンツが自学の優位点をさまざまな形でアピールしています。そのなかで「シーソー」だけは、キャンパスと学生・教員の日常の雰囲気、情緒的な価値を伝えることだけに振り切っています。「どうです、すごいでしょう?」という大学のアピール要素を注意深く避け、あえて押し付けないことで、いきいきと「学びを遊んでいる」姿を印象づけることに成功しているように思います。

 

ことばも写真も、自然なトーンでまとめられている

ことばも写真も、自然なトーンでまとめられている

 

さらに、キャンパスの雰囲気や情緒を伝えるために、サイトの構造やデザインにも工夫が凝らされています。PC版のサイトは、ページの半分をビジュアル表現に割いてイメージを印象付けていますし、マウスを追いかけるポインターは、クリックできるコンテンツに触れると緑色の丸がふわっと広がる遊び心のある動きをします。また、写真投稿コンテンツには、マスクをした友人が振り向いた瞬間や、電車の窓から差し込む光と陰を切り取った写真などが並び、在学生たちの等身大の日々が浮かび上がります。あくまで雄弁には語らず、自然体の姿で感じてもらって感情を揺れ動かす、新しい広報の形だと思いました。

4- シーソー|甲南女子大学

普段の景色だからこそ伝えられる情感がある

 

大学発広報誌レビュー第23回 大阪学院大学「L’horloge」

2021年8月12日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

特集テーマに沿ってじっくり読ませる、雑誌クオリティの学内誌。

日本全国の大学が発行する広報誌を、勝手にレビューしてしまおうというこの企画「大学発広報誌レビュー」。第23回目となる今回は、大阪学院大学が発行する「L’horloge」を取り上げます。

 

大阪学院大学は1940年に創設された関西簿記研究所を前身とする、社会科学系学部を中心とする私立大学。将来の経営者をめざす学生が多いことで知られています。また、女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんをはじめ、多くのアスリートを輩出しており、大学スポーツ界でも注目を浴びる存在です。さて、今回取り上げる広報誌「L’horloge」は、フランス語で大時計という意味があり、レンガ壁で統一されたキャンパスのシンボルである時計塔を表しているようです。


「L’horloge」は、主に保護者に向けて年2回発行されています。2021年6月発行の161号の特集は「知ってる?OGU」。ポップなイラストの表紙をめくると、大学のトリビア的知識を数字で見せる巻頭ページ、おそらく大学が力を入れている学内留学の紹介ページと続きます。どのページも読者を飽きさせないタイトルやデザインが秀逸。これはもはや一般の雑誌と変わらないレベルでは…?と思って奥付けを見ると、『SAVVY』や『Meets Regional』といった京阪神のエリア情報誌で有名な出版社、京阪神エルマガジン社が編集制作を担当しているとのこと。なるほど!と誌面のクオリティの高さに納得したのでした。

目を引くタイトルと読みやすい誌面はさすが

目を引くタイトルと読みやすい誌面はさすが

近畿大学の大学案内を筆頭に、情報誌の制作チームが入試広報ツールを手がける事例は他にもありますが、大学広報誌に起用しているケースは珍しい気がします。バックナンバーにも目を通すと、毎号の企画に必ず学生が登場して、学生の目線から大学や大学生活を紹介。制作の実務は学外に委託しつつも、広報課が特集のコンセプトから取材手配までしっかり手をかけていることがうかがえます。また、過去にはPBLの一環として、ゼミの学生が京阪神エルマガジン社のオフィスを訪ね、誌面の企画に参加したケースもあったようです。

156号の特集はメディア研究のゼミが企画・制作を担当。 https://www.osaka-gu.ac.jp/pbl/project/20190110/

156号の特集はメディア研究のゼミが企画・制作を担当。
https://www.osaka-gu.ac.jp/pbl/project/20190110/

 

大学が発信したい情報は、教育、研究、スポーツ、卒業生の活躍など多岐に及びます。一つの冊子に伝えたい最新情報を盛り込んでいった結果、「いろいろ載っているけれど、読後感が残らない」というケースに陥りがち。この「L’horloge」は、特集テーマを強く打ち出して、その内容を学生のリアルな声とクオリティの高いデザインで紹介することで、「大阪学院大学の魅力的な一面」を切り取ることに成功した好例だと思います。

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