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離れていても通じ合う、双子の不思議な“同時イベント発生現象”って? 大阪青山大学の松田葉子先生に聞いてみた

2026年2月19日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

「ことあるごとに会話がシンクロする」「クセが同じ」「お互いに考えていることがわかる」……など、双子にまつわる不思議なエピソードを聞いたことはありませんか。そして「単なる偶然」として受け止めていませんか。正直に言うと、筆者はそうでした。しかし大阪青山大学の松田葉子先生は、こうした双子の不思議な現象を、調査データをもとに研究しているといいます。ご自身も双子だという松田先生。さっそくお話を伺うことにしました。

「双子の同時イベント発生現象」の謎

そもそも、先生が双子を研究しようと思ったのはなぜなのでしょうか。

 

「私自身も双子で、姉と話すときは、ほかの人と話すときとは違う脳の部分を使っているような感覚がありました。以心伝心というべきなのか、相手が何を思っているかがなんとなくわかるから、考えなくても言葉が出てくるんですよ。また、離れていても同じようなことが同時に起こる現象も頻繁に体験していました。学生時代まではそれが特別なことだとは思っていませんでしたが、意識していなかっただけかもしれません」

 

大学卒業後、助産師としての勤務を経て双子の研究をはじめた松田先生。双子の間で同時に同じようなことが起きる現象を実証しようと考えます。

 

「双子は単胎出生児(一度の出産で一人のみ生まれてくる赤ちゃん)に比べるときょうだい間の親密度が高く、特殊な現象が起きやすいと考えられています。たとえば、同じタイミングで体調を崩したり同じ部位に痛みを感じたり……。これは世界中で確認されている現象なのですが、それを十分に体系化した研究はほとんど行われてきませんでした。そこで、双子の間で同時に起きる不思議な現象を『双生児間の同時イベント発生現象』と題して、研究してみようと思ったのです」

 

そう話す松田先生は、2023年9月から2024年9月にかけて『「双生児間の同時イベント発生現象」に興味がある方』という文面で双子の協力者を募り、男性5名、女性4名の合計9名にアンケートをとることに。その結果、協力者全員が「同時イベント発生現象」を体験していました。「自分自身にも身に覚えがあった方々が興味を持って下さったと思います」と松田先生。

調査には、幅広い年齢層の方々が参加。「独自言葉」は、双子の間だけで通じる言葉や表現(後述)

 

双子の親密さについても調べたところ、全員が幼少期に仲が良かったと回答。「1歳8カ月の頃、双子の妹が熱性けいれんを起こした数分後に姉もけいれんを起こした」「8歳の時に弟が公園で転び、3針縫った。別の場所にいた自分(兄)も、そこまでの衝撃ではないが、同じところを怪我したかのように同時に痛みを感じた」などの体験が寄せられています。

おお、まさに「これぞ双子!」と感じさせるエピソードですね。でも、やっぱり「偶然」なのではと思ってしまうのですが……という筆者に対し、松田先生は「実は、双子研究の権威といわれるカリフォルニア州立大学のナンシー・L・シーガル博士の研究でも、同じような結果が報告されているんですよ」と、教えてくれました。

 

ナンシー博士の研究によると、生後6ヶ月で離れ離れになり、一人はカトリック教徒として、もう一人はユダヤ教徒として育てられた双子は、異なる環境で育ったにもかかわらず同じようなクセや習慣があったのだといいます。

 

「ほかにも、離れて育った双子同士の再会場面を一卵性と二卵性で比較した研究では、一卵性のほうが再会時のコミュニケーションがスムーズだったという研究報告もあります。私の調査でも、同時イベントを体験した9名中7名は一卵性でした。同じ遺伝子を持つ一卵性は特に不思議な現象が起きやすいのではないかと思うんです」

 

一卵性の双子が同じ趣味をもっていたとかクセが似ていたというのは、偶然ではなく遺伝学で説明できる部分もありそうですが、松田先生が研究をしている「同時に痛みを感じる」といった“同時イベント”は、遺伝学だけでは語れない何かがありそう。偶然じゃないとしたら、一体、二人の間には何が起きているんでしょうか。

 

「その謎を解き明かすには、調査対象をもっと集めていかなければと考えています。たとえば、幼少期からそこまで仲が良くなかった双子ばかりを集めたら結果は違うのか、など。同時イベント発生現象の定義も、もっと明確にしていきたいですね。まだまだ知りたいことはたくさんあります」

 

うーん、謎は深まるばかり。

双子だけの言語「ツイントーク」とは?

もともと看護師を志し、大学の看護学科を卒業後、助産師として不妊治療に力を入れている病院で働き始めた松田先生。不妊治療を行うと双子を授かる確率は自然妊娠よりも高まるため、病院では双子を産み育てる親のサポートチームが組まれていました。自身も双子ということからチームメンバーに加わった松田先生は、多くの多胎児家族に接したり、双子に関する資料を読んだりしているうちに、かつての体験は双子特有のものだったのかもしれないと思うように。

そんなときに、双子の研究を専門に行っている先生が大阪大学にいらっしゃる事を知り、「きちんと研究してみたい」と、大阪大学大学院への進学を決めたのだといいます。

 

そこで松田先生が出会ったのが『ツイントーク』という双子独自の言語でした。ツイントークとは、双子の間だけで通じる言葉や表現のこと。周囲にはまったく伝わらないのに双子同士だけが理解できるのが特徴で、世界各地でツイントークを操る双子の例が報告されています。

 

「この独自言語には大きく分けて3パターンあるといわれているんです。1つめはコップを指して「はな」と言うなど、既存の単語に別の意味をもつ言葉をあてはめる、暗号のようなもの。2つめは、単語の音を省略したり言いやすい言葉に置き換えたりなど、既存の言葉を崩すパターン。双子は互いの言葉を真似し合う傾向が強いので、一方が崩した音をもう一方が真似ることで通常とは異なる言語で会話をするといわれています。

そして、最後が、いわゆる“宇宙語”です。周囲はまったく理解できない、何の意味も持たないような言葉なのに会話が成立している双子って、結構多いんですよ。ただ、3歳前後で消失してしまうので宇宙語が聞ける期間は限られています」

 

宇宙語といわれるだけあり、これもまた言語化しにくいと松田先生。ただ、世界的に有名なツイントークとして、両親の英語と祖母のドイツ語を融合させ、スタッカートの強いリズムで独自の造語や特殊な文法で会話をしていた双子の事例があるそうです。

 

「ツイントークはあくまで私が師事した先生の研究テーマのひとつだったため、独自のテーマを追究しようとたどり着いたのが、現在取り組んでいる双子の同時イベント発生現象です。でも、先ほど紹介した調査で、同時イベントを体験した方の約半数が、過去に独自の言語を使っていた傾向が見られたんですよ。何か関連があるのかもしれないので、これも深掘りしたいですね。ツイントークは音声データ解析によってある程度数値化できるので、そうしたデータをもとになんらかの糸口が見えないかと思っています」

 

もしかしたら、二人だけの共通言語から生まれる親密度の高さが、同時イベントにもつながっているのでしょうか。ますます謎は深まります……!

一筋縄ではいかない双子研究

双子の間には言葉にしづらい不思議な絆があることは、これまでの話でよくわかりました。双子ではない筆者が、その感覚を味わうことはきっと無理……。でも、だからこそ、なんでそんなことが起きるのか理由を知りたい気持ちが増す一方です。

 

「実は、研究者たちの間でも、双子の不思議な現象を解明することは難しいとずっと言われているんです。それでも、きっと偶然では片付けられない何かがあるはずだと、世界中の研究者たちが今日まであらゆる視点から研究を続けています」

 

ツインリサーチセンターを擁する大阪大学に加え、慶応義塾大学にはふたご行動発達研究センターがあるなど、国内外問わず、双子研究に取り組む研究者は多いそう。数々の研究で双子の間に起こる不思議な現象を事実として確認できているのに、長い年月をかけてもその理由の解明にはなかなかたどり着けないとは。双子の謎、恐るべし。しかし、だからといって「解明できない」とは絶対に言わないのが松田先生です。今後は、物理学など視野を広げて研究することも可能性として考えているそう。

 

「かつて、ラジオの電波が『目に見えない音を飛ばすなんてありえない』と思われていた時代がありましたよね。いま私たちが不思議だと感じているこの現象も、もしかしたら理解できる日が訪れるかもしれません。言葉を超えた双子のコミュニケーションの謎が解明できたら、もしかしたら双子に限らず人と人の関わりの研究にも役立てられるのではないかと思うんです」

 

そんな松田先生は、ご自身の母親が育児によって産褥精神病になった経験を持っています。「双子の親は育児が本当に大変で、うつになる人も多いんです。双子研究が、親の負担を軽くすることにつながればという思いもあります」。

「癒やしアイテムは欠かせない」と話す先生の研究室には、ぬいぐるみが!

 

偶然かもしれないけど、偶然じゃないかもしれない――小さな疑問を起点に研究によって解き明かされてきた現象は、世の中にたくさんあります。今は謎に満ちた松田先生の双子研究が、今後どのように発展していくのか。不思議な現象に答えが出るその日を、楽しみにしています!

 

「謎が多すぎて研究をやめようと思ったこともあったのですが、私自身も双子だから、この運命からは逃れられないようです(笑)」

 

 

編集者:柳智子/ライター:児嶋美彩

 

公開講座のお知らせ

大阪青山大学 令和7年度後期公開講座「双生児間で生じる不思議な現象について」

日時 令和 8 年 3 月 6 日(金)10:30 ~ 12:00
講師 松田 葉子 大阪青山大学 看護学部 看護学科 教授
受講料 無料
場所 大阪青山大学 箕面キャンパス
定員 30 名
https://www.osaka-aoyama.ac.jp/community/course_lecture/kokaikoza/

珍獣図鑑(28):そもそも捕獲が困難すぎる!研究者泣かせの謎に包まれた深海ザメ・ラブカ

2026年2月12日 / この研究がスゴい!, 大学の知をのぞく


普段めったに出会うことのない希少な生き物たち。身近にいるはずなのに、よく知らない生き物たち――。そんな「文字通り珍しい生き物」「実は詳しく知られていない生き物」の研究者にお話を伺う連載企画「珍獣図鑑」。

研究者たちはその生き物といかに遭遇し、どこに魅了され、どんな風に付き合っているのか。もちろん、基本的な生態や最新の研究成果も。生き物たちと研究者たちの交流が織りなす、驚きと発見の世界に誘います。

第28回は「ラブカ×山田一幸さん(東海大学 学芸員)」です。それではどうぞ。(編集部)


古代サメの特徴を持つラブカ

太陽の光が届かない水深200mを超える深海は、地球の海全体のうち98%を占めています。水圧が高く、水温は低く、酸素も乏しい——そんな暗黒の世界・深海には、私たちの想像をはるかに超えるような生物が、ひっそりと暮らしています。

 

なかでも、ひときわ不思議な姿をした「生きた化石」と呼ばれるサメがいます。その名も「ラブカ」。2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』のゴジラ第2形態のモデルになったともいわれています。

 

東海大学海洋科学博物館の学芸員・山田さんは「水深500~1000mに生息し、体長は最大で2mほどになるラブカは、一般的なサメとは異なる見た目をしていて、これらの特徴が3億年以上前の古生代デボン紀に栄えた古代ザメに似ているので『生きた化石』と呼ばれることもあるんですよ」と、教えてくれました。

これが、そのラブカだ!(写真提供:東海大学海洋科学博物館)

 

その一つが、特徴的なエラ。ほとんどのサメは呼吸に必要な水を出し入れする「鰓孔(さいこう・えらあな)」が5対あるのに対し、ラブカは6対と、一つ多いのです。さらに、ガバっと開いた口の中にはギザギザに尖った三叉の歯が内向きにびっしりと並び、一度見たら忘れられないインパクトがあります。

歯はかなり鋭利ですが、顎の力はそれほど強くないそうです(写真提供:東海大学海洋科学博物館)

 

しかし、山田さんは「ラブカの真の魅力は、やはり泳ぐ姿ですよ」と、ニヤリ。深海生物は深いところに住んでいるものほど捕獲が難しく、生きた状態でお目にかかれる機会はほとんどありません。それゆえに、筆者は図鑑の写真や標本を「幻の生き物」的に眺めるのが普通になっていました。泳いでいるところ……見たい!

 

「一般的なサメは、尾びれを左右に大きく振って水中を進みますよね。でも、ラブカは体全体を波打たせるようにしてクネクネとゆっくり移動するんですよ。その姿はまるでウナギというかヘビというか……私も初めて間近で見たときは感動しました」

東海大学海洋科学博物館がラブカ研究に強い理由

山田さんは「ここ10年で最もラブカを見ている日本人は私だと思います」と胸を張って言えてしまうほど、ラブカの研究に携わってきました。ところが、もともとは東海大学海洋科学博物館の飼育担当としてカクレクマノミをはじめとした小型海水魚の繁殖に取り組んでいたそうです。……サイズ感が違いすぎる! そんな山田さんが、なぜラブカ研究の道に進んだのでしょうか。そこには東海大学海洋科学博物館の歩みも関わっていました。

 

「東海大学海洋科学博物館では、1980年代後半に当時の館長だった鈴木克美先生が中心となり、世界に先駆けてラブカの網羅的な研究を行ってきました。現在図鑑などに記載されているラブカの基礎情報の多くは、この研究が基になっています」

 

その研究で蓄積されたラブカ研究をさらにアップデートしようと、東海大学海洋科学博物館とアクアマリンふくしまが2016年4月に共同で立ち上げたのが「ラブカ研究プロジェクト」。そのリーダーに指名されたのが山田さんです。

 

「ラブカは静岡名物のサクラエビ漁で混獲されることが多いのですが、網を破るなどの理由から通常はその場で放されてしまいます。しかし、研究する上では少しでも元気な状態でラブカを手に入れる必要があります。そのためには、地元の漁師さんとのつながりが欠かせません。その点では、これまでの水族館での活動を通じて、多くの漁師さんと関わりを持っていた私が適任だと思われたのでしょうね」

 

静岡が有する駿河湾は、日本で最も深い湾として知られています。とくに「湾奥」といわれる部分は陸からすぐの場所が急に深く落ち込む形で、サクラエビを始めとした深海生物が漁獲しやすい傾向にあるのだそう。東海大学海洋科学博物館がラブカ研究の最先端を担えたのは、こうしたポイントが重なった結果だといえます。

 

「ラブカは世界中にいるのですが、生息域が深く、環境の変化に極端に弱いため、捕獲も飼育も難しい。だから、1980年代から継続的に個体を収集している東海大学は世界的にも非常に珍しく、海外の研究者から『ラブカのサンプルが見たい』と連絡をもらうこともあるんですよ」

 

これが「ここ10年で日本一ラブカを見ている」と山田さんがおっしゃる理由というわけですね。

奇跡の連続でラブカの人工保育に成功

プロジェクトを進めるにあたり、山田さんには実現したい夢がありました。受精卵の保育です。

 

「水族館の飼育担当として働いている以上、やはり生きた状態で展示をし、多くの人に生物の魅力を知ってもらうことをゴールとして考えています。ところが、ラブカは深海生物なので、陸にあがった時点で水圧の変化でだいぶ弱っており、長期飼育がなかなか難しいんです。だからこそ、陸で卵の中の赤ちゃんを人工的に育て、陸の環境に適応させることができれば、生き生きと動くラブカの姿をお見せできるのではないかと考えました」

 

とはいえ、そう簡単に受精卵を持ったラブカが捕まるわけがありません。ただでさえ捕獲が難しいのに、さらに条件を加えるなんて!

 

「……と、思いますよね。私も長期に及ぶことは覚悟していました。ところが、プロジェクト発足からすぐ、漁師さんから『ラブカが捕まったよ』と連絡を受けて駆けつけたら……いたんです、お腹に受精卵を持ったメスのラブカが」

捕獲されたラブカ(写真提供:東海大学海洋科学博物館)

 

研究を始めようと思った矢先に研究対象として最適すぎるラブカが見つかる? もはや、ラブカから研究されにきているではないですか。これは確実に、ラブカの神様(そんなものがいるのかはわかりませんが)が味方をしてくれたに違いありません。まさに山田さんは、ラブカ研究者に選ばれるべくして選ばれたのでしょう……。こうして、ラブカの人工保育がスタートしました。2016年5月17日、プロジェクト発足からわずか1カ月あまりのことです。

 

サメの繁殖様式は多様で、大きく分けると、卵を産む「卵生」と、お腹の中で赤ちゃんを育てる「胎生」があります。ラブカの繁殖方法は胎生の一種で「卵胎生」と呼ばれ、卵から孵化したあと、赤ちゃんは母体の子宮の中で育ちます。ラブカの卵は「卵殻」と呼ばれる薄く柔らかい殻に包まれているのが特徴で、胎仔は卵殻の中で卵黄の栄養を吸収して育ちます。そして、ある程度の大きさになると自ら卵殻を破り、その後は母体の子宮の中でさらに成長を続け、親とほぼ同じ形になってようやく出産されるのだそうです。なんと、その妊娠期間は約3年半!

 

この神秘的な成長過程を解明するため、山田さんたちが取り組んだのは、受精卵の人工保育です。過去の研究では最長で134日間の保育期間が報告されていたので、めざすは記録更新。山田さんたちは先行研究を踏まえつつ、新たな工夫を加えることにしました。

 

「以前の研究記録に、卵が同じ環境に置かれ続けると“床ずれ”のような状態になって死んでしまうと書かれていたんです。飼育をする立場としては、そこがどうしても気になりました。そこでいろいろと考えた結果、水槽の中にやわらかいポリマーの緩衝材を敷いてみました」

 

しかし、卵殻の中に何かがいる様子は見られず、このまま育てられるのかわからないまま時間だけが経過していきました。ああ、やはり研究とは一朝一夕にはうまくいかないものか。なんて思いきや、やはり“持っている”山田さん。観察を始めて数日後、わずかな違和感を覚えてよく目を凝らしてみると、数ミリの小さな小さな胚(赤ちゃんのなりたて)が見えたといいます。卵の中で確かにラブカの赤ちゃんが育ち始めている——熱い感動が、山田さんの体内をかけめぐりました。

 

その後、取り出した3つの卵のうちの1つを、人工環境下で最長361日保育することに成功。小さな胚は少しずつ育ち、胎仔の全長は約120mmにまで育ったそうです。残念ながら卵殻から出る前に死亡してしまいましたが、卵の中でラブカの赤ちゃんが少しずつ形を変えていく様子を毎日見られたのはもちろん、人工保育によってラブカが育つプロセスが正確に確認されたのは、非常に大きな一歩でした。

ラブカの赤ちゃんが、確かに見えます(写真提供:東海大学海洋科学博物館)

 

その後もメスのラブカの収集は続けられ、東海大学海洋科学博物館では胎仔の展示に挑戦したこともありました。「母体のお腹の中と同じような環境を再現できれば、もしかしたらまた違った結果が得られるかもしれません」と、山田さんは可能性を語ります。

ラブカは「生きた化石」……とも言いきれない!?

ラブカの研究史のなかで、1980〜90年代の研究は世界的にも非常に先進的であったことは先述した通り。しかし、当時はゲノム解析の技術が今ほど発達しておらず、遺伝子レベルの情報までは調べきれていませんでした。そこで近年は、国立遺伝学研究所が中心となり、ラブカのゲノム解析が進められています。活用されているのが、山田さんたちがこれまでに集めてきた貴重なサンプルです。

 

その結果、ラブカの「生きた化石」説はゆらぎ始めています。

 

「これまでは、クラドセラケという古代サメと形態がよく似ているから、ラブカはそのままの姿で生き残った“生きた化石”だろうと考えられてきました。ところが、遺伝子情報などを詳しく調べていくと、どうやら両種に祖先と子孫の関係があるわけではなさそうだということが見えてきたそうです」

 

つまり、古代のサメと同じ遺伝子をそのまま受け継いだのではなく、別の系統のサメが深海という環境に適応していくなかで、たまたま古代ザメに似た形態を二次的に獲得したという可能性が示唆されているようなのです。ラブカは太古の姿そのままではなく、深海という環境が生み出した、独自の形態かもしれないということ!?

 

「現時点では『生きた化石ではない』と断言することは難しいものの、研究がさらに進めば、真実が解明される日もそう遠くはないかもしれません。そうすれば、サメの進化や繁殖の方法など、さらなる研究に発展させることもできそうです。ラブカはわかっていないことだらけだからこそ、研究のしがいがある生物なのだと思います」

 

そう話す山田さんですが、実はここ数年のラブカの研究は難易度がさらにあがっています。

 

「とにかく、捕獲が難しいんですよ。現在も地元の漁師さんにはラブカが見つかったら連絡をくださいと伝え、サンプルを収集する活動は続けていますが、正直に言えば研究プロジェクトとして大きな進化は見られていないのが現状です。そこには、人員や予算など、厳しい現実も理由としてあげられます」

 

東海大学海洋科学博物館は、今後、教育研究に特化した新たな活動を続けることが決まっています。そのため、現在はアクアマリンふくしまなど他の水族館とのさらなる連携も模索しているとのこと。特に、アクアマリンふくしまはROV(遠隔操作無人探査機)を使ったシーラカンス調査などを行っており、その技術をラブカの野外観察にも活かしています。

 

「生きたラブカがゆうゆうと泳ぐ姿を展示したいという思いは、いまでも変わりません。私は“研究者”と呼ばれるのは苦手なんですよ。あくまでも水族館の飼育担当としての立場で、これからもラブカを調べていきたい。そのためにも、どうすれば元気な状態で捕獲して飼育できるのかを考え続けたいです。実は、水族館として、深海を泳ぐラブカの映像を撮影して残すこともプロジェクトの構想にあり、挑戦もしています。これも、いつか実現したいですね」

 

山田さんがあくまで「水族館」、「飼育」という部分にこだわるのは、生きた姿を間近で観察し、飼育を突き詰めることが、標本だけではわからない生態の解明につながると信じているから。「元気な姿を展示したい」「深海での泳ぎを映像に残したい」という山田さんの情熱。それらが実現した未来では、3年半という長すぎる妊娠期間の謎や、深海での暮らしの真実も、明らかになっているかもしれません。筆者は今後の研究動向も追い続けます!

 

【珍獣図鑑 生態メモ】ラブカ

水深500〜1000mに生息する深海ザメで、原始的特徴を残す板鰓類に属する。体長は1.5〜2mで、細長い体をくねらせて泳ぐ。口内には三叉状の鋭い歯が300本以上並び、獲物を逃さない構造となっている。卵胎生で妊娠期間は3年以上と推測され、繁殖生態を含め未解明の点が多い希少種である。

 

 

(編集者・ライター:児嶋美彩/イラストレーター:谷脇栗太)

 

神戸が「おしゃれな街」であり続ける理由を神戸タータン生みの親である神戸松蔭大学 石田原弘先生に聞いた

2026年1月20日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

海と六甲山系に挟まれた兵庫県・神戸市。異国情緒あふれる街並みや港町の爽やかな風景から、神戸と聞くと「おしゃれ」や「洗練されている」といったイメージを連想する人は多いのではないでしょうか。何度も神戸を訪れている筆者でも、歩くたびにうっとりしてしまいます。それにしても、なぜ“神戸=おしゃれな街”だという共通認識がここまで定着したのでしょうか。地域ブランディングに詳しい神戸松蔭大学・石田原弘先生にうかがいました。

始まりは「雑居地」だった

さかのぼること1858年。日本は安政五カ国条約を締結し、アメリカ・イギリス・ロシア・オランダ・フランスの五カ国と、函館・神奈川・長崎・新潟、兵庫の五港の開港を取り決めました。そして、それぞれの土地には外国人専用の「居留地」を作ることで、外国人の移住を認めたのです。ところが、兵庫だけは京都の朝廷から許可が得られず、なかなか開港されませんでした。外国人との接触によって京都の治安に影響が及ぶのではないかという恐れが理由だと考えられています。

 

結局、兵庫(神戸)港が開港されたのは条約締結から10年後の1868年でした。とはいえ、朝廷側から勅許が得られたのは開港日の半年前だったため、居留地の工事は未完成。そこで苦肉の策として神戸に生まれたのが、日本人と外国人が一緒に住む「雑居地」だったのです。

 

「東は旧生田川から西は宇治川まで、ちょうど現在の三ノ宮駅から神戸駅あたりまでのエリアが“雑居地”として、日本人と外国人の雑居が認められました。他の港では居留地として外国人が暮らすエリアは分けられていたのですが、神戸は最初から外国人の生活が身近にあったのです。神戸市民には、異文化を受け入れる寛容性もあったのでしょう」と、石田原先生。ボーリングやゴルフ、コーヒーや洋菓子などは今でこそ私たちの生活に根付いているものですが、海外から日本に最初に導入されたのは神戸なのだそう。こんな背景からも、異文化を受け入れる寛容性を持ち、それを楽しんだ当時の人々の様子を想像できます。これが、現在の「神戸=おしゃれな街」というイメージの土壌を作ったと考えられます。

 

「『海外の真似をしよう』と考えて西洋文化を取り入れたのではなく、自然とその文化が生活に馴染んでいったというのが、神戸の特徴ではないかと思います」

 

神戸のイメージを支えるのは市民の地元愛

開港以来、海外の文化やライフスタイルを取り入れて独自に発展してきた神戸は、1973年に「神戸ファッション都市宣言」を行いました。衣・食・住・遊を含む生活文化産業としてファッションを捉え、官民一体で産業振興を進めるというものです。「当時の神戸はとにかく勢いが強かった。山を削り、海を埋め立てた結果、土地は約2倍にまで広がり、こうした積極的な開発は大きな話題を集めました。『株式会社神戸市』なんて表現されるほどだったんですよ」と、石田原先生は笑います。

 

さらに1980年代に入ると神戸の女子大学生が火付け役となり、全身を高級ブランドで揃えた品のある装い「神戸エレガンス」のブームが到来。神戸松蔭をはじめとする神戸の女子大がファッションの発信地だったそう。こうして、ますます「神戸=おしゃれな街」が定着していきました。石田原先生はイメージが浸透した理由について「コンパクトな神戸の立地も功を奏したのではないか」と分析します。「都市機能が効率的に配置され、公共交通機関を使えばほとんどの主要施設に数分で移動できるのも神戸の魅力です。いわゆる“小さな大都市”なんです。だからこそ、『神戸ってこうだよね』という共通イメージが広がるのが早かったのではないでしょうか」

 

そして何より、現在に至るまで神戸のイメージを守り続けることができたのは「神戸に住む人々の存在が大きい」と、石田原先生は話します。「以前、神戸市が住民の方々にアンケートを行ったところ、『市民は神戸に誇りを持っている』という回答が85.0%を占めていたらしいんです。神戸の人って、神戸が大好きなんですよ。そして、そんな方々が神戸の一番のPR大使だと思うんです」

神戸ポートタワーの再開やバスケットボールアリーナ「GLION ARENA KOBE」の開業など、進化し続ける神戸港

 

今から約160年前、異文化と共生し、オリジナリティに富んだ文化を作り上げてきた神戸は、現在にいたるまで「おしゃれな街」としてのイメージを守り続けてきました。そこには、一人ひとりの「地元愛」があったからこそです。神戸を神戸たらしめているのは、その街を愛する人々なのだと、石田原先生の話をうかがっているとしみじみと感じます。

 

市民の「ソフトパワー」が神戸を向上させる

石田原先生は、2017年の神戸開港150年を記念して誕生したオリジナルのタータンチェック「神戸タータン」の生みの親でもあります。実は「神戸タータン」も、神戸を愛する人々のために作られたものなのだそう。

神戸タータンには、神戸を象徴する神戸の海の青、ポートタワーや神戸大橋の赤、六甲山の緑、真珠の白、街並みのグレーの5色が使われている

石田原先生が経営する石田洋服店のショーウィンドウでも神戸タータンがアクセントに

 

「観光客向けのお土産ではなく、神戸の人に愛着を持ってもらいたいという願いを込めました。神戸タータンを手に、『神戸って良い街でしょう』と、県外の人に胸を張ってPRしてほしいんです。150万人の市民全員が、神戸の広報担当ですから」。そう笑いながら話す石田原先生は、続けてこんなエピソードも紹介してくれました。

 

「小学生の男の子が『引っ越す友人に神戸タータンのハンカチを渡したい』と言って、買いにきてくれたことがありました。ハンカチにはポートタワーやイカリなど、神戸を象徴するアイコンが刺繍されているんですよ。このハンカチを見るたびにお友だちは男の子のこと、そして神戸のことも思い出してくれるだろうなと考えると、神戸タータンを作って良かったと改めて感じました」

 

石田原先生は、このように市民が街を愛する気持ちを「ソフトパワー」と表現しています。「ソフトパワー」とは、軍事力や経済力ではなく、その街が持つ独自の文化や価値観などによって他者を引き付ける力のことだそう。「この街がなくなったら寂しいと思われるような魅力がなければ、街は衰退してしまいます。だから、ソフトパワーで神戸を向上させていくことが私の目標です」

 

しかし、どれほど魅力的な文化であっても、放っておけばその魅力は時間とともに薄れてしまいます。結果、ソフトパワーもなくなってしまう可能性が高いでしょう。そこで重要になるのが、文化やデザインなど、無形の価値を保護する「IP(Intellectual Property)=知的財産」だと、石田原先生は断言します。

 

文化を未来へつなぐIP

IPとは、漫画やアニメ、ブランドのロゴデザインなど、創造的な活動から生まれた無形の財産(著作権、特許権、商標権、意匠権など)を指す概念です。近年、アニメやゲームといった日本のコンテンツが世界的な人気を集めていることから、IPをビジネスに活用する動きが活発になっています。

 

「IPを法的に保護できれば、デザインやロゴの模倣を防げますし、ブランド力を高めることもできます。ところが、日本は権利関係を法律で守るという視点があまり得意ではないんです。だから、良いコンテンツをたくさん持っていても利益につなげることがなかなかできない。特許庁への申請手続きの厳しさも、IPビジネスが根付かない要因かもしれません」

 

実は、石田原先生がプロデュースした「神戸タータン」や「神戸松蔭タータン」のデザインは、日本の特許庁に商標登録されています。日本において純粋なタータンのデザインのみで商標を登録することは極めて難しく、過去には英国発の大手アパレルブランドや日本の大手百貨店の例があるだけなのだそう。

日常使いできるタオルハンカチから機能性重視のエコバッグなど、学生たちによって企画・製作された神戸松蔭タータンのグッズ

 

こうしてデザインのIPを守ることで、商品開発やプロモーションにつなげやすくなるのはもちろん、神戸の人々にとっての誇りも大切にできます。それがソフトパワーとなって、ますます神戸の人が神戸に自信を持つことができるのです。これが、石田原先生が「IP(Intellectual Property)=知的財産をプロデュースする力」が重要だと語る理由です。そして、そんな石田原先生が客員教授を務める神戸松蔭大学のファッション・ハウジングデザイン学科には、2026年4月から「IPプロデュースコース」が新設されることになりました。

 

「このコースでは、キャラクターやデザインなどのクリエイティブと、それを守り育てるビジネスの両方を学んでもらいます。特許や商標といった法的な保護だけではなく、それをどのように発展させて、どんなメディアで展開をし、どんなビジネスにつなげられるのか。アイデアを考え、収益化につなげるまでを一貫してできる“ジェネラリスト”を育てたいと考えています」

 

授業では、欧米最高峰のトレードショーへの出展やムーミンとのコラボ企画など、実践的な活動も多く取り入れているそうです。「神戸はありがたいことに“おしゃれな街”というイメージを持っていただけていますが、実際のところ特筆するような観光名所がたくさんあるかというと、そうではないんですよ。だから、このまま何もしなかったら『神戸って何もないじゃん』ということが世間にバレてしまう(笑)。それを防いで市民のソフトパワーを向上させるためにも、神戸が築いてきた文化や魅力をしっかりと守っていけるスキルを磨いていきたいと思っています」と、石田原先生は冗談まじりにIPの大切さを教えてくれました。

 

その街の真の価値は、行政や経済力ではなく「この街が大好きだ」と胸を張る一人ひとりの市民の心にある――神戸が「おしゃれな街」であり続けているのは、街を想う人々の誇りが今も息づいているから。取材を終えて外に出ると、目の前に広がる神戸の風景が、いつもとちょっと違って感じられました。

 

 

(編集者:稲田妃美/ライター:児嶋美彩)

【ことわざと研究】「嘘も方便」を心理学の視点で考える―京都橘大学・田口恵也先生

2025年12月9日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!


昔から言い伝えられてきた教訓や知恵などを短い文で表した「ことわざ」は、世代から世代へと受け継がれ、現代を生きる私たちにも気付きを与えてくれる。そんなことわざが筆者は好きで、子どもたちに話をするときにもよく引用している。しかし、あるとき11歳の娘から指摘をされた。

「それって本当? 今の時代には合っていないかもよ」

衝撃だった。悔しいが、確かに娘が言うこともことわざによっては一理あるかもしれない。というわけで始まったのが、今を生きる専門分野の研究者はことわざをどう見るのかを掘り下げ、ライターなりに読み解いてみる企画「ことわざと研究」。記念すべき第1回目は、嘘をメインテーマに研究をしている京都橘大学 総合心理学部の田口恵也先生に「嘘も方便」について聞いた。


 

「嘘も方便」――相手のことを考えたり、物事を円滑に進めたりするには、嘘も必要だということわざだ。どうやら、一説によると語源は仏教と言われていて、法華経の中では嘘を使って火事から子どもを守る例え話が書かれているらしい。仏すらもある種の嘘は「良し」としているのだ。しかし一方で、ことわざの中には「嘘つきは泥棒の始まり」なんてものもある。果たして、「嘘も方便」が適用されるような嘘は、どのようにして決まるのだろうか。

相手のためについた嘘がもたらす抑うつ傾向

約10年、嘘をメインテーマに研究を続けている京都橘大学 総合心理学部の田口恵也先生は「『嘘も方便』を相手のためにつく嘘、『嘘つきは泥棒の始まり』を自分が利益を得るための嘘と仮定した場合、この2つは二項対立ではなくグラデーションになると考えています。嘘をつく背景には多様な動機が存在しますから、一義的に善悪を判断することは非常に難しい。嘘は実に曖昧な概念なんです」と教えてくれた。

卒論のテーマに掲げて以来、今日に至るまで「嘘」の研究を続ける田口先生

 

「曖昧だからこそ、研究の興味が尽きません」とほほ笑む田口先生の研究は、相手を傷つけないためや相手を喜ばせるためにつく「優しい嘘」に焦点を当てることから始まった。心理学研究では、こうした相手のための優しい嘘は「向社会的な嘘」と呼ばれ、社会的な利益や他者の幸福のために機能する、まさに「嘘も方便」としての役割を担っているという見方があるそうだ。

 

しかし、田口先生は「たとえ優しい嘘であろうとも、嘘をついた側には何らかの心理的負担があるのではないか」と考えていた。そこで、2021年、東海地方の大学生263名を対象にアンケート調査を実施。すると、優しい嘘を多く使う人ほど、友人関係が良好であったが、同時に抑うつ傾向も高いことが確認された。

向社会的な嘘と抑うつ傾向の関連性:友人関係の良好さによる抑うつの軽減効果と、嘘をつくことによる直接的な心理的負担を示す予測モデル

 

調査では、相手のためにつく「向社会的な嘘(優しい嘘)」と、自分を守るための「利己的な嘘」の2種類を、合計16項目設定し、使用傾向を測定。特に、向社会的な嘘については「嘘をつく本人の犠牲を含むか」という点も考慮して質問を作成し、回答は「全くあてはまらない(1点)」から「よくあてはまる(6点)」の6段階評価で行われた。

 

その他にも、人間関係がどの程度うまくいっているかを示す「友人関係の良好さ」や、一般的な心の健康度を示す「抑うつ」なども測った。詳細な調査項目は以下。

 

まず、調査への回答データについて、統計的な分析をしたところ、優しい嘘は人間関係が円滑になる効果(.19※)をもつことが明らかになった。その一方で、同程度に関係が良好な人同士を比べた場合には、優しい嘘を用いる傾向が高いほど「抑うつが高い」(=心の健康度が低い)ことも明らかになった(.15※)。つまり、「嘘も方便」といわれるような優しい嘘は、人間関係をよくする側面だけではなく、嘘をついた本人が感じる心理的負担も伴うことが示唆されたのだ。

※数字はパス係数によるもの

 

「この研究を経て、嘘をついた本人の精神に与えるマイナスの影響(自尊感情の低下といったメンタルヘルスへの影響)を深堀りしてみたいと思いました」と、田口先生は話す。

優しい嘘は誰のため?「方便」は嘘をつく側の言い訳か

この結果を聞いたとき、筆者はふと、小学1年生だった娘が泣きながら帰ってきた日のことを思い出した。理由を聞くと、登下校班の全員がいつも同じアイドルの話題で盛り上がっているのだという。てっきり仲間外れにされたのかと思いきや「同じ話題に入りたくて自分も好きだと話を合わせたけど、嘘をついてしまった自分が嫌になったし、もし嘘だとバレたら嫌われるかもしれない」と、ポロポロと涙を流したのだ。

 

その話をすると、田口先生は「嘘をつくのは、相手がどういう状態なのかを推測し、本音を抑え込むという高度なテクニックが必要です。相手にバレないようにしなければと考えながら言葉を発するのは、思っているよりもストレスになります。そうしたものに耐えきれずに心理的負担を感じる人は多いかもしれませんね。あるいは、嘘をついてしまった罪悪感に苦しむ人もいるでしょう。なぜ優しい嘘をついた本人が心理的負担を抱えてしまうのか、その詳しいメカニズムは現在まさに究明中です」と、教えてくれた。

 

そして、ひと呼吸置くと「ただ、優しい嘘、すなわち『嘘も方便』は、嘘をつく側の言い訳という見方もできると思うんですよね」と、つぶやいた。「相手のためを思って嘘をついたとしても、受け手が好意的に感じなければ『嘘も方便』は成立しないのではないかと思うのです。また、相手のための嘘だとしつつも、振り返ってみると自己利益のための嘘だったというケースもあるでしょう。良い嘘と悪い嘘にはっきりとした境界線はないものの、受け手によってその捉え方は変わるのではないかというのが私の考えです」

 

改めて、娘が小1だった頃の出来事を思い返す。あの嘘は、グループ間の盛り上がりを下げないようにする相手への思いやりも多少はあっただろう。しかし、それよりも「話を合わせなければ」という“ごまかし”のほうが大きかったのではないか。その意味では、方便ではなく自己防衛のための嘘だったとも考えられる。だから、罪悪感にさいなまれてしまったのかもしれない。

 

冒頭であげた法華経の中に出てくる例え話は、嘘によって命を守っているのだから、嘘をつく側もつかれる側も嫌な思いはしていないはずだ。しかし、思い返してみると「嘘も方便」を免罪符のようにして嘘をついた経験が、筆者にも少なからずある。田口先生は「もちろん、嘘が相手に良い影響を与えることもありますし、嘘をつく背景にはさまざまな動機がひそんでいますから、一概には言えないんですけどね」と笑ったが、田口先生の話を聞いていると、「嘘も方便」は互いを思い合う気持ちがあってこそ成立することわざなのだと強く感じた。そのことを胸にとどめ、自分の発言と向き合うことが人間関係や物事を円滑にするのだろう。

優しさの連鎖で成り立つ「嘘も方便」

それにしても、ここまで曖昧な概念をもつ嘘を研究対象にしようと思ったのは、一体なぜなのか。田口先生に尋ねると、少しはにかんで教えてくれた。

 

「原点は母です。母は、私が大学生になるまで『サンタクロースはいる』と言い続けていて……私が真実に気づいていることはわかっているだろうに、あの手この手で信じ込ませようとしていたんですよ。このときに、嘘は悪だとされるけれど、人を楽しい気持ちにさせてくれる嘘はどうなのだろうと考えたことが、この研究を始めたきっかけです」

田口先生(右)2~3歳の頃。この写真を見ていると、無垢な笑顔を守るための愛ある嘘だったのだろうと感じる

 

何歳になっても、ワクワクしたクリスマスを過ごしてほしい――そんな、親の愛から生まれた嘘は、全世界にあふれているのではないだろうか。嘘をつかれた田口先生は1ミリも嫌な気持ちになっていないし、それどころか研究者としての道を歩む動機にまでなっている。これぞ正しい「嘘も方便」のありかたなのかもしれない。

田口先生、大学院生の頃。本格的に研究者の道へ

 

最後に、田口先生に今後の目標を聞いてみた。

 

「嘘についてやってみたい研究はまだまだたくさんありますが、最終的には優しい嘘をついたときになぜ心理的負担を感じるのか、そのメカニズムを解明することです。嘘による過度なしんどさがあるならば、外部から何か手助けにつながる対処法を考えていきたいと思っています」

 

そうほがらかに笑う田口先生は、もともとカウンセラーをめざしていたそうだ。きっと、適切な対処法を見つけることができれば、救われる人は多いだろう。

 

「嘘はつかないに越したことはないとはいえ、まったく嘘をつかない人は本音ばかりを話して人間関係がうまくいかず、辛い思いをしているかもしれません。研究によって、ほどよい本音と建前を使いこなせるサポートができるようになれば理想的ですね」とも話してくれた。もしもそんな未来が訪れたら「嘘も方便」ということわざは、どんな見え方をするのだろうか。そのときを楽しみに待ちたい。

 

 

(編集者・ライター:児嶋美彩)

リーガロイヤル直営! 大阪大学「ミネルバ」でホテルクオリティのランチを満喫

2025年12月2日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

万博記念公園のほど近くにある大阪大学 吹田キャンパス。自然豊かで広大な敷地には、工学部、医学部、歯学部、薬学部、人間科学部に関連する研究施設などが建ち並びます。その一角にある銀杏会館は、医学史料展示室をはじめ研究者や卒業生が集う交流の場、医療情報を発信する拠点として会議室やホールを備えています。そんな銀杏会館2階に「ミネルバ」というリーガロイヤルホテル直営のレストランがあると聞き、行ってきました!

クラシックなレストラン「ミネルバ」

大阪モノレール「阪大病院前駅」を下車し、大阪大学病院北通りに進みます。散策気分で並木道を下ると……。

案内表示もあります

 

ガラス張りのスタイリッシュな建物を発見。ここが、銀杏会館です。

静まり返ったホールに少しドキドキ

 

2階にあがると、お目当てのレストラン「ミネルバ」がありました。

店名のレトロなロゴに惹かれます

 

店内は、ホテルのレストランさながらのクラシックな空間。壁一面の窓からは緑の木々が見えて癒やされます。紅葉の季節は、もっと素敵な景色が広がっているのでしょうか。これだけでも十分なごちそうですね。

70席あるそうです

 

ここがキャンパス内にあるなんて信じられないなあと思いながら、席につきました。

カトラリーはリーガロイヤルの刻印入り

 

ランチメニューは「ミネルバランチ」(1450円 ※スープ、パン又はライス、メイン、コーヒー又は紅茶付き)のみ。2日置きの日替わりで、この日は「豚肩ロース肉のグリエ ローズマリー風味の赤ワインソース」でした。

人気は有頭海老フライ。確かにこれだけ2度登場しています。気になる!

 

注文からほどなくして料理が運ばれてきました。

本来はパン、スープ、メインの順にサーブされます

 

スープは濃厚でなめらかな舌触りのパンプキンスープ。かぼちゃの甘さが口いっぱいに広がり、冷えた体を温めてくれます。3種のパンは上から時計回りに「くるみパン」「豆乳パン」「胚芽パン」。一つひとつ違った味わいで、バターを塗ったりスープにつけたりして楽しみます。

 

……これだけで、だいぶ満足度高めのランチを味わっていますが、忘れてはならないのが本日のメインです。見てください、このお肉の厚みを!

なかなかのボリュームです

 

分厚い豚肩ロースは驚くほど柔らかく、ナイフを入れるとスッと切れます。ほどよい脂身が、酸味のきいた赤ワインソースとマッチしてたまりません。さらにローズマリーのほんのりとした香りがあとから追いかけてきて、口の中はたちまち高級レストラン。ここがキャンパス内にあるなんて信じられないなあ(2回目)。

12時を過ぎると続々とお客さんが入ってきて、あっという間に席が埋まっていきました。この内容をホテルのレストランでいただいたら、1450円では済まないでしょう。それを考えると「ミネルバランチ」はかなりの高コスパ! 学生はもちろん、地域住民の方々にもありがたいことこの上ないですね。

食後はデザート&展示も満喫

せっかくなので「パティシエールおまかせデザート」(650円)も注文してみました。この日は「リンゴとアールグレイのカスタードケーキ」です。

ランチについてくるコーヒーは食後に持ってきていただきました

 

香り豊かなアールグレイのケーキを彩るのは、あっさりめのカスタードクリームにリンゴのコンポート。このコンビがアールグレイに合わないわけがありません。花びらのように添えられたラングドシャやベリーソースを合間にはさむとほどよい味変に。最後のひと口を食べてしまうのが名残惜しいほど堪能しました。

 

ちなみに、3日前まで(土日祝除く)の予約で「ランチコース」(3500円~)や「創業90周年メニュー」(2500円)も楽しめるとのこと。今度はこちらもぜひ味わってみたいです。

 

「ミネルバ」のあとは、1階にある医学史料展示室にもおじゃましました。0円で、誰でも入場できます。

 

明治2年以来の貴重な史料が保存・展示されています。当時の往診カバンや医療器具などを見ると、医学の進歩を感じずにはいられません。中でも驚いたのは、条件反射の実験「パブロフの犬」で知られるパブロフ教授が、実験の際に採取した唾液が展示されていたこと。どんなものかは、ぜひその目で確かめてください!

 

(編集者・ライター:児嶋美彩)

研究がグッと身近に!大阪大学のイベント『五感をシゲキ、未知のマナビ体験!』に行ってきました

2025年11月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

2025年10月18日(土)、大阪大学のイベント『五感をシゲキ、未知のマナビ体験!』が、ららぽーとEXPOCITYにて開催されました。情報工学や医学など、最先端の研究の魅力を体験イベント、ミニレクチャー、展示などを通じて楽しみながら学べるブースが19も集結! 子どもから大人まで「へぇ!」「すごい!」と感心しきりだった当日の様子をレポートします。

 

脳が錯覚を起こすと……?

最初に訪れたのは、情報科学研究科 バイオ情報工学専攻のブース『錯覚で発見しよう、感覚の謎!』です。置かれていたのは、謎の装置。「持ち上げて、強めに握ってみてください」と言われ、その通りにすると……。

 

前に引っ張られる!!

 

まるで誰かに力強く手を引っ張られているかのようです。しかし、機械は手のひらの中で振動しているだけ。驚いていると、スタッフの方が「これが人間の錯覚なんですよ」と、ニヤリ。秘密は、装置の中に仕込まれた“おもり”です。おもりをある方向に短い時間で強く動かし、そのあと逆方向にゆっくり戻すという非対称な動きを繰り返させることで、脳が「引っ張られている」と錯覚するのだと言います。この不思議な感覚、文章だけだとなかなか伝わらなさそうで悔しい……!

 

研究は、さまざまな分野に応用が期待されているとのこと。例えば、ゲームコントローラーに組み込めば釣りのゲームで実際に大物を釣ったときの手応えを感じられるようになります。また、装置を携帯端末に組み込めるほどの大きさにすれば、視覚障害がある人に避難する方向を伝えることができるようになるかもしれません。

 

さらに、隣にはブロックチェックとボーダーが印刷された用紙が置かれていました。普通にさわると平面ですが、「スマートフィンガー」と呼ばれる装置を指先につけると……。

 

でこぼこになった!!

 

装置を外してもう一度さわると、やっぱり平面です。なぜ……? それは、爪の上に小さな振動装置を取り付け、指でなめらかな面をなぞっている最中に特定の振動を与えているから。これによって、脳が「表面に凹凸がある」と錯覚してしまうのです。

 

これまで触覚を再現する装置は、ものにふれる指の腹側から刺激を与える方法が主流でしたが、そうすると現実のものにふれた感覚が失われてしまいます。そこで、大阪大学では「爪の上から刺激を与える」という方法を取り入れたそう。これにより、指の腹側では現実のものの感触を、爪側からは仮想の感触を同時に感じられるようになるのです。

 

この装置は、タッチパネルを操作した際にクリックした感触を返すインターフェースとしても活用が期待されているのだとか。未来の技術は、すぐそこまできていることを実感しました。

 

希少な「月の砂」とご対面

次に向かったのは、理学研究科 宇宙地球科学専攻の『赤青メガネや顕微鏡で「月」をみよう!』です。赤青メガネを通して大画面の映像を見ると、目の前には月面がすぐそこに! 近い将来は宇宙旅行が身近になり、人類の生活圏が月や火星へと拡大する未来社会がくるといわれています。月はまだまだ遠い存在に思えますが「実際に降り立つとこんな景色が広がっているのかな」と、楽しい妄想を繰り広げられました。

大人も子どもも目を輝かせて、何度ものぞいていました

月隕石の展示も

 

なかでも感動したのは、旧ソ連の無人月探査計画「ルナ計画」で採取に成功した「月の砂(レゴリス)」です。肉眼ではよく目をこらさないと見えないほど小さな粒ですが、顕微鏡を通すとしっかりと確認できました。

思わず「おぉ……」と声をもらす人続出

 

何億年もかけてできた月の砂が今ここにあると考えると、壮大なロマンを感じずにはいられません。月の砂はさまざまな「資源」としても注目を集めているので、これから宇宙の研究がどうなっていくか楽しみです。

地球から月までの距離は、地球約30個分と教えてもらいました

 

狙いを定めて“がん”に照射!

ひときわ行列ができていたのは、医学系研究科 医学物理学研究室の『がんを正確に狙い撃ち ~第六感を研ぎ澄ませ!』です。日本人の3人に1人が“がん”で亡くなるといわれている現代。“がん”の三大治療法「手術療法」「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線療法(放射線治療)」のうち、放射線療法を研究しているのがこちらの研究室です。

 

肺や肝臓にできた“がん”は呼吸に伴って数cmほど動いてしまうので、正確に放射線を照射する技術が必要です。そこで、“がん”に必要な量の放射線を照射する難しさを、ゲーム感覚で体験してみます。

動く“がん”を10秒間追いかけて照射します

 

間違えたところに照射しないよう、狙いを定めるのが難しい! 「あ~!また失敗した」と笑いながら、ふと「実際の治療だったらこんなこと言えない……」と我に返り、ゾッとしました。お医者さんの技術はやはりすごい。

思っていたより苦戦しました

 

本来は、金属マーカーを“がん”の近くに固定し、その動きをX線透視画像で追尾することで照射しているそうです。

 

ブースでは放射線療法の仕組みについても解説してもらいました。身体を切らずに治療ができるため全身への負担が少なく、手術が難しい部位の治療にも効果が期待できるそう。近い将来、こうした研究によってがん治療の技術が進歩したら「日本人の3人に1人」という表現は変わるかもしれません。研究を進めている皆さんに、改めて敬意を表したくなりました。

 

工学の基礎のひとつ「固体力学」を工作感覚で体験

3階では基礎工学研究科固体力学グループによる編み紙教室が開催されていると聞いて、行ってみました。

 

こちらのブースでは編み紙が持つ「構造を強くする」という性質を通じて、目には見えない力や変形がどのように起きているかを追究する「固体力学」の基本を体験できます。紙を編み、立体的に加工する編み紙は、強度を高める技術としてさまざまな構造物に応用されているそうです。早速、好きな色の紙を2枚選んでパーツごとに切り離したら、交互に組み合わせていきます。

 

平面の紙が、段階を追うごとに少しずつ立体になっていきます。「こんな編み方をしたら破れないかな」と不安になる私の横で、すいすいと手を動かす子どもたち。恐れない大胆さも必要だ!と、苦戦しながらようやく完成したのがこちらです。

達成感を味わえました

 

平たい紙のままだとペラペラなのに、編み上げて立体になると強度が出ました。簡単には曲がらず、ちょっとした小物なら余裕でのります。一見すると工作遊びですが、編み方を変えることで、強度や柔軟性も変えることができるそう。

編み紙のパターンはこうして作られているそうです

 

「固体力学とは……」といわれると小難しく感じてしまいますが、初心者が工作で楽しめるようなところにも学問が関係していると思うと、一気に見え方が変わって楽しくなります。

 

まだまだ研究にふれたい!

基礎工学研究科 社会ロボット学グループのブースでは「無人島で3日間過ごすとしたら何を選ぶか」といったトークテーマで、ロボット「テレコ」とお話ができました。まるで友達のように話すテレコと参加者の様子は、未来のコミュニケーションの形を見ているようです。

表情がコロコロ変わってかわいい!

こちらのキャラクターは「コミュー」。研究室にはテレコ以外にもさまざまなロボットがいます

 

また、大阪大学グローバルキャンパス(箕面キャンパス)のブース『ことばと文化の博覧会』では、教員の方々が現地で買い集めてきた世界の民族衣装がたくさん用意されていました。各国の文化と絡めてどんなときに着る衣装なのかを聞くと、よりその国を身近に感じられます。

サイズもさまざま

 

こちらはインドネシア・バリ島の衣装です。寺院での祭礼や冠婚葬祭など、特別な機会に着用されるそう。クバヤと呼ばれるレースやシフォンのブラウスに、豪華な刺繍が施された布を腰に巻くのがポイントです。

 

クメール文字とハングル文字のどちらかを使った、オリジナルネームバッジ作りにも挑戦しました。

クメール文字はカンボジアの公用語

「クメール文字は書くのが難しい」と、ハングル文字をチョイス

 

工学や宇宙、医療など――難しそうに聞こえる分野も、実際にふれてみると驚きと発見の連続で、自分の生活につながっていることを改めて実感した今回のイベント。この研究の先にはどんな未来が待っているのか、想像するだけでワクワクします!

阪大の公式マスコットキャラクター「ワニ博士」のグッズもたくさんありました

 

(編集者・ライター:児嶋美彩) 

大学広報誌レビュー第39回 横浜国立大学「横国刻々」

2025年10月28日 / コラム, 大学発広報誌レビュー

全国の大学が発行する広報誌をレビューする「大学広報誌レビュー」。今回とりあげるのは、横浜国立大学が発行する『横国刻々』です。

 

横浜国立大学は、教育学部、経済学部、経営学部、理工学部、都市科学部という文理にまたがる5学部すべてが1つのキャンパスに集約されています。国際貿易港として栄えた横浜という地に根ざし、実社会で役立つ「実学」を重んじている点も特徴です。さらに「実践性」「先進性」「開放性」「国際性」「多様性」といった、社会の発展に直結する教育と研究を追究し続けています。

 

そんな横浜国立大学の広報誌が、2017年に創刊された『横国刻々』。「よここくこくこく」と読みます。特徴は「実学」を重んじる大学の精神を、視覚的に訴えかける構成で表現している点です。特に、大学が注力する研究テーマやプログラムを紹介する巻頭特集では、毎号大胆なデザインでテーマを表現。読者が内容を直感的に理解できるように工夫されているところが印象的です。

2025年2月発行のvol.9は、各学部の実践的なプログラムを特集

 

最新号の特集「これからを、ここから」では、社会と連携した教育による人材育成プログラムを紹介しています。単に大学の取り組みを羅列するのではなく、各プログラムの社会的意義や将来の展望を具体的に提示している点は「実践性」だけではなく「先進性」も感じさせる内容です。

 

「メタ・バースやVRゴーグルを活用した不登校支援」に取り組むプロジェクトは、教員が自身の研究を活かしながら関わっており、その言葉からは、多様な子どもたちの可能性を広げるようとする希望が感じられます。

右下には学部生のインタビューも掲載。どんな思いで学びと向き合っているのか、学生の言葉で語られています

 

研究や教育プログラムの紹介だけではなく、教員や学生の活動を紹介する常設企画も、大学の「実践性」を一貫して伝えています。

その一つが、学生の間で評判の授業を紹介する「横浜国大の名物授業!」のコーナーです。ただ授業の内容を羅列するのではなく、授業が実社会にどのように活かされるのかが平易な言葉で語られているため、専門外の人にもわかりやすく、一般にも「おもしろそう」と思わせてくれます。たとえば「マクロ経済学」が物価水準や失業率など、私たちの生活に直結する経済活動を分析したり、人口増加や技術進歩がどう経済に影響するかを学んだりする学問であるという内容は、勉強のその先にあるものが明確に見え、学習意欲をそそられます。特に、これから大学をめざす読者にとっては、より身近に感じられる内容なのではないでしょうか。

 

加えて、取り上げられた授業には、担当教員からのショートインタビューも掲載されています。読んでみると「思いも寄らない質問を受ける」や「回を重ねるごとに学生がレベルアップしている」「大学に来るのが楽しくなると聞いている」といったリアルなコメントがたくさんあり、授業時の教員と学生のやりとりが目に浮かぶようです。

先生を身近に感じられるのもポイントです

 

学生をクローズアップする企画として印象的だったのは、学生たちのベンチャー精神に迫る「VENTURE SPIRIT」です。同企画では毎号、さまざまな学生の取り組みを紹介しています。vol.9では記録映画の自主上映とワークショップを行うイベントの実行委員を務める学生を、Vol.8では出張授業を中心に活動するサイエンスコミュニティを立ち上げた学生を取り上げていました。まさに、横浜国立大学の理念である「実学」や「実践性」が表れています。

 

後半は「横国生のオン&オフ事情」や「横国生のランチ事情」など、学生の日常にふれられるページも。学生の方々が楽しくキャンパスライフを送っている様子が感じ取れて、読み応え抜群です。

学生によってタイムスケジュールが異なるのも見ていておもしろい!

賑やかなレイアウトから、学生たちの楽しげな様子が伝わります

 

研究者の熱意、学生の挑戦、そしてキャンパスの日常が詰まった『横国刻々』。視覚にうったえてくる大胆なビジュアルと、大学の理念である「実学」「実践性」を一貫してわかりやすく伝える編集によって、読み物としてのおもしろさを加速させています。これからも横浜国立大学が刻々と変化していく様子に注目です。

 

 

(編集者・ライター:児嶋美彩)

京都市立芸術大学に2025年4月、食堂が誕生。キャンパス散策と合わせて堪能してきた

2025年10月21日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

2023年、西京区大枝沓掛から京都駅東部に移転した京都市立芸術大学。しかし、移転後は学生食堂が存在せず、多くの学生や教職員から開業を期待する声があがっていたそうです。そんな京都市立芸術大学に2025年4月10日、ついに待望の食堂がオープンしたということで行ってきました! キャンパスの様子とともにレポートします。

 

新キャンパスは“テラス”のよう

JR京都駅中央口を出て東へ歩くこと約6分で、「京都市立芸術大学」に到着しました。

スタイリッシュな外観が目印

 

「テラスのような大学」を掲げる新キャンパス。テラスは外に向かって開かれ、風通しや陽当たりもよく、内側と外側を共有できる点が特徴です。新キャンパスは、そんなテラスのように「開かれた」場所をめざすことから、大学関係者以外も気軽に足を運べるようになっています。なかでも注目は、キャンパス内を南北に貫く大通り「芸大通」です。学生たちの芸術活動の場としてだけではなく、ここを訪れる人々と学生の交流の場としても活用されているそう。

「芸大通」。京町家の特徴の一つ・軒下空間を思わせる庇のようなデザインが印象的

 

いたるところに木々があったりベンチがあったりと居心地の良い空間が広がっていて、ついついのんびり。うっかり今日の目的を忘れてしまいそうになったところで、仕切り直して食堂へ向かいます。案内図が点在しているので、外部から来ても迷子になりません。

3つの区域にわかれたキャンパス。食堂があるのはE棟

 

キャンパスのあちらこちらでは、音楽を聴いたりデッサンをしたりする学生の姿も見られます。邪魔をしないように現在位置から河原町通を渡ると、食堂のあるE棟が見えてきました。

大きな窓が開放的な雰囲気を引き立てます

 

学生の胃袋をわし掴みするメニューがずらり

さっそく中に入ると、剥き出しの配管やコンクリートの壁など、インダストリアルな空間が広がっています。

アーティスティックな天井

券売機は2台あります

 

さすが京都市立芸術大学……おしゃれ……とうっとりしながらメニューを見てみると、お腹にたまるガッツリ系が充実。ああ、そこはしっかり学生食堂らしいと、不思議とホッとする自分がいました。

ごはん大、麺大盛など、わんぱくなワードが並びます

 

運営しているのは不二家商事といって、関西圏の大学の学食を多数手がけている会社。「佛教大学」や「関西学院」などの学食にも関わっているそうです。つまり、学生の好みを熟知して、胃袋をつかみにつかみまくっているということ。これは期待が高まります。

親切な掲示も

 

カリッとジューシーな唐揚げランチ

中でも気になったのは「どでかいハンバーグランチ」(450円)です。この価格でどれだけ大きいハンバーグが出てくるのかこの目で確認したいと思ったのですが、13時半にはすでに売り切れ。悔しいですが、それだけ好評ということでしょう。

どうしようかとメニューとにらめっこしていると、あることに気がつきました。「唐揚げランチ」(550円)、「唐マヨ丼」(480円)、「唐揚げカレー」(480円)、「唐揚げラーメン」(500円)……唐揚げが多い! 学食の定番とはいえ、ここまで唐揚げが充実しているのは、並々ならぬ自信があるからかもしれません。

 

と、いうことで「唐揚げランチ」と「唐マヨ丼」を注文することにしました。

食券をここに置き、トレーを取って待ちます

 

ほどなくして「唐揚げランチ」のお出ましです。食欲をそそる香りが鼻をくすぐります。

大ぶりの唐揚げが5つ

ドレッシングはセルフサービス

腹ペコにはうれしいサイズ感!

 

ひと口かじると、カリッとした軽やかな衣のあとに、じゅわ~っと熱々の肉汁が口いっぱいに広がります。ほんのりスパイスがきいていてごはんが止まりません。唐揚げ、ごはん、唐揚げ、ごはん……と、夢中で食べているうちに、あっという間に完食。これを550円で楽しめるとは、さすが学食です。きっと大量の唐揚げを作っているはずなのに、一つひとつカラリと揚がっているのもすごいなあと、主婦目線で感動してしまいました。

 

こちらは「唐マヨ丼」。なんとも背徳感があるメニューです。

見た目のインパクトも大きい!

丼いっぱいに盛られたごはんの上に千切りキャベツがたっぷり。さらに、その上には4つの唐揚げがゴロリと鎮座しています。カリッとした衣にマヨネーズのコクが絡み、これまたごはんが止まりません。唐揚げメニューが充実するのもわかるなあ、としみじみ……。

 

こうなったら「唐揚げラーメン」と「唐揚げカレー」にも挑戦したいと思いつつ、近いうちに「どでかいハンバーグランチ」をリベンジしなければと、次の予定を考えながら学食をあとにしました。

テラス席もあります

 

お腹が満たされたあとはキャンパスを散策

食堂の隣には、京都の老舗画材店による購買「画箋堂」があります。美術や音楽に特化した専門画材・用具類はもちろん、日用品なども取り扱っているとのこと。一般の方も利用できるので、アートが好きな人はのぞいてみるのもおもしろそうです。

京都市立芸術大学内に購買ができたのは今回が初

 

今回は立ち寄れなかったのですが、C棟1階にある「京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)」では教員や在学生、卒業生などによる企画展が開催されていることもあり、一般の方も気軽に訪れることができるようです。

川沿いでもデッサン中の学生の姿が

 

京都駅から徒歩圏内という好立地でありながら、川や木々にも囲まれた自然豊かな環境、それでいて地域の方との距離が近く、交流できる機会があるというのはクリエイティブな発想を養うには最適ではないでしょうか。さまざまなアートに触れられ、食欲も満たされる京都市立芸術大学の食堂。ぜひ、みなさんも足を運んでみてください。

 

 

(編集者・ライター:児嶋美彩)

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