ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

仏教って何? に優しく応える博物館「龍谷ミュージアム」

2016年7月20日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

生まれた時から身近なところにある仏教だけど、実はよくわからないという人にぜひ訪れてみてほしい博物館。世界文化遺産・西本願寺正面というロケーションは抜群で、内部の落ち着きのある空間も一見の価値ありだ。

仏像好きになってしまうかも。

徳川家光の治世に鎖国が完成した1639年、京都では、西本願寺に「学寮」が設けられた。

これが龍谷大学の歴史の始まり。龍谷大学龍谷ミュージアムは、創立370年を記念して2011年4月に開館された、日本初の仏教総合博物館である。

仏教の世界を旅することができる展示室

仏教の世界を旅することができる展示室


平常展は、仏教の思想と文化をテーマに、仏像、仏教絵画、仏教の歴史、さらには仏教の教えや修行生活に至るまで、仏教をさまざまな角度から見ることができる展示が特長。

インドで誕生した仏教は、中央アジアから中国を経て日本に伝来するまで、さらには、日本国内でどのような展開をしたのかをたどることができる「仏教タイムトラベル」が体験できるのだ。

仏像の展示では、伝播した地域ごとに、洋風な顔立ちがなかなか魅力的だったり、ギリシャ彫刻のような立派な体格に驚かされたり、違いを比較しながら見られるのが面白い。

「菩薩」とはブッダをめざして修行者で美しい装身具や衣装を身につけている、「如来」とは悟りの最終段階に達したブッダのことで原則としてシンプルな衣で装身具は身につけないなど、仏像や仏画などの表現上の違いもよく理解できる。

なじみ深い日本の仏像

なじみ深い日本の仏像

ローマ彫刻のようなガンダーラの仏像

ローマ彫刻のようなガンダーラの仏像


また、仏教を一般の人に教えるための“教材”に共通性があるのも興味深かった。インド・ガンダーラでは、ストゥーパ(仏塔)の玉垣に釈尊の伝記をレリーフしたものが出土しており、参詣ついでに学ぶしくみになっていたようだ。

日本のものでは、法然上人の生涯が描かれた絵伝という掛軸が展示されていたが、伝記を絵で伝えるという手法はガンダーラと同じだ。

法然上人の生涯が描かれた掛軸

法然上人の生涯が描かれた掛軸


博物館の収蔵品はもちろん、龍谷大学が所蔵する学術研究資料、20世紀初頭にシルクロードの学術探検を日本で初めて行った大谷探検隊のコレクションのほか、各地の寺院からの寄託品なども含め、展示品の入れ替えも随時行っているという。

迫力がたまらない赤・赤・赤の回廊。

一番の見どころは、なんといっても、「ベゼクリク石窟大回廊復元展示」だろう。

龍谷大学がNHKと共同で、新疆ウイグル自治区トルファンの代表的な遺跡であるベゼクリク石窟寺院の回廊壁画をデジタル復元。その成果を実物大に復元して、仏教石窟の雰囲気を体感できる。実際はコの字型になっている回廊の2辺とその間の角を再現した。

迫力に圧倒される

迫力に圧倒される


一歩踏み入れると、赤を中心とした鮮やかな壁画に覆い尽くされた回廊が、高さ3.5メートル、長さ15メートルの規模で目の前に広がる。

手や頬までが赤く染まりそうな独特の色彩の壁画を見ていると、高いところから仏様のような存在に見られているような怖い感じ、全身が包まれているような安らいだ感じの両方が、一時に押し寄せてくる。

6

ここに描かれているのは誓願図といい、前世の釈尊が、将来はブッダ(仏)となって一切衆生を救済するという誓いを立てるシーンを描いたものだという。

前世の釈尊は、ブッダをたたえるために花を買ったり、自分の髪を泥水に敷き詰めてブッダが汚れるのを防いだり、さまざまな奉仕をし、ブッダは彼が将来ブッダになると予言するという物語だ。

11世紀頃に描かれた美しい回廊壁画はその多くがすでに失われており、現地でももはやほとんど見ることはできない。復元された回廊は、ここでもまた仏教タイムトラベル装置の役目を果たしてくれている。

館内のミュージアムシアターでは、4Kの高画質映像でこのベゼクリク石窟寺院壁画復元、また西本願寺障壁画復元のドキュメンタリーを上映しているので必見だ。

ゆっくり時間のある時に楽しんで。

龍谷ミュージアムは、建物自体も魅力的だ。「京(みやこ)環境配慮建築物最優秀賞」も受賞した、町なみとの調和が美しい。外観正面は、京町家をモチーフにしたセラミックの簾を設けて京都らしさを表現すると同時に、西日の直射から守る省エネ設計だという。

また、1階には堀川通と油小路通を東西につなぐ抜け道が設けられており、開館中は人々が自由に通行できるオープンスペースになっている。

京都の町に溶け込み、かつモダンなデザインが印象的

京都の町に溶け込み、かつモダンなデザインが印象的


地下1階のエントランスホールなど館内は、石と木、金属などの素材をバランス良く組み合わせた、モダンなのになぜか落ち着く空間。ミュージアムショップやミュージアムカフェも含め、ゆったりと楽しめる。

広々としたエントランスホールも美しい

広々としたエントランスホールも美しい


平常展の会期中は、展示内容を解説する学芸員トークが開催される。そのスケジュールや展示品目録、さらには仏教関連だけでなく幅広い展示が行われる特別展や企画展の情報も館のウェブサイトに掲載されている。ぜひサイトをチェックしてからおでかけを。

“新しいねむりが目を覚ます”。京大の展覧会「ねむり展」へ行ってみよう。

2016年6月17日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

京都大学総合博物館で開催中の特別展「ねむり展―眠れるものの文化誌」が注目されている。「人はいつ、どこで、どうやって眠ってきたのか?」と銘打って、眠りを多角的にとらえる視点が新しく、好奇心が大いに刺激される展覧会だ。6月26日(日)まで。

あなたはなぜ、平らな場所で眠っているのですか?

たぶん、ほとんどの人は平らな場所で眠っているだろう。四角い形で安定したものの上で寝ている人もかなりの確率でいらっしゃるだろう。それは、「なぜか」と聞かれても答えられないような至極当然のこと、のはずである。そんな確信を揺さぶってくれる展覧会が、「ねむり展」だ。

会場でまず目を引くのが、チンパンジーのベッドをモデルに開発された「人類進化ベッド」である。チンパンジーの睡眠と夜間の行動を研究する霊長類学者が、その寝心地の良さを再現しようと取り組み、プロダクトデザイナーや京都の寝具屋さんなども協力して完成した究極のベッドだ。

チンパンジーは、毎日、3~5mの木の上に枝などを使って自分のベッドを器用に作り、眠るのだそうだ。ベッドは、土台はしっかりしていながら枝葉のマットはふかふか、身体を動かしたり風が吹いたりすると心地よく揺れるのだという。

チンパンジーベッドにならった人類進化ベッドは、四角ではなくて楕円形、身体の動きを受け止めるくぼみのあるお皿のような形をして、身体の動きに合わせて揺れる。特別にお許しいただいてこのベッドに寝転がらせていただくと、全身の筋肉の緊張から解放されて身体の重さを感じなくなる。とにかく気持ちがよくて包み込まれるような感覚だ。

人類進化ベッド。すばらしすぎる寝心地・・・!!(取材のため特別に体験させていただきました。ご来場されても、寝転がれませんのでご注意ください!)

人類進化ベッド。すばらしすぎる寝心地・・・!!(取材のため特別に体験させていただきました。ご来場されても、寝転がれませんのでご注意ください!)

裏側はこのような形で揺れる仕掛けに。ぜひ市販してほしい・・・

裏側はこのような形で揺れる仕掛けに。ぜひ市販してほしい・・・

 

チンパンジーベッドが快適ならば、なぜ、人は、平らな場所で眠ってきたのか。また、人も赤ん坊の頃は、平らな場所より母親の腕やゆりかごなど不安定な場所でよく寝かしつけられるのはなぜか。さらに、世界でも日本と同じような眠り方をしているのか、はるか過去の時代にはどんな寝方をしていたのか…。こんないろんな疑問を投げかけて、私たちの眠り観を刺激してくれる展覧会になっている。

国内外のさまざまなゆりかご

国内外のさまざまなゆりかご

 

意外性に満ち、いろんな眠りを実体験できる楽しい空間

世界の寝具や枕などの実物展示があるかと思えば、夜になると眠くなるという生体リズムをコントロールしている時計遺伝子や、夢を解読する装置など最先端研究の成果も展示されている。こうした多彩な展示について、ねむり展実行委員会の代表である京都大学アフリカ地域研究資料センター長・重田眞義教授は、「睡眠をめぐる文化的な多様性を感じてもらうのが目的」と話す。

重田眞義教授

重田眞義教授

 

「睡眠文化研究といって、睡眠を文化としている学際的な研究活動が、今から15、6年前、亡くなられた国立民族学博物館教授・吉田集而先生の音頭で始まりました。そのモデルとなったのが“食”です。本能的な行動の一つである食には、栄養摂取の観点と文化的な側面を極めるグルメ主義とも言える観点とが併存しています。同じ本能である睡眠は、食に比べると、科学的なとらえ方ばかりが先行してきました。何時間眠るのが良いとか、何時頃には眠っていないとお肌に悪いとか(笑)」

「しかし、眠気は我慢でき、すごく面白いことがあれば寝るのを忘れて集中したりします。本能ではありながら文化的な要素にかなり影響を受ける睡眠を研究しよう、ということで睡眠文化研究は始まりました。ねむり展でその成果の一部を展示し、皆さんにその面白さを知っていただきたいと思っています」

重田先生のコレクション。腰掛けにもなるエチオピアの“モバイル”枕

重田先生のコレクション。腰掛けにもなるエチオピアの“モバイル”枕

 

食の好みはいろいろ、睡眠だっていろいろ。展覧会では、食文化のように、睡眠文化としてさまざまなアプローチが可能だとわかり、「へえ」「ほう」というリアクションがいたるところで出てしまうはずだ。


会場の中央は人工芝となっていて、靴を脱いで上がることができ、災害用のフローティングベッド、正倉院の宝物「御床」という当時のベッドをモデルにつくった高級ベッド、快眠に誘う音楽プレーヤーなど最新の眠りを自由に楽しめる。一方で蚊帳が張られた一角では、昭和の懐かしい眠りも体験。また、JRの運転士、乗務員の方々が現在も使っているという自動起床装置もあり、珍しいめざめの体験も可能だ。

自動起床装置。起床時刻になると、紺色の枕の部分が膨らむ仕掛けになっている

自動起床装置。起床時刻になると、紺色の枕の部分が膨らむ仕掛けになっている

蚊帳でごろり

蚊帳でごろり

災害用ベッドでもごろり

災害用ベッドでもごろり

 

あなたはなぜ、スマホを寝床のそばに置いていますか?

人間は、社会をつくって誰かと交わりながら生きるようになって、自然に寝て自然に起きることができなくなった。「起きなければならない、寝なければならないというという社会的な要請に基づいて、本来自然なはずの睡眠という行動をコントロールするようになった。これが社会的睡眠です。眠れないとか寝すぎるとか現代人が抱える眠りの問題は、そこに起源があるのではないでしょうか」と重田先生。なるほど、休みの前の日はなかなか眠くならないのも、社会的要請が影響しているのかも。

社会的睡眠のもう一つの要素として、「誰と寝るか」という視点が取り上げられていたのが面白かった。睡眠文化研究では、集団で寝るのを「共眠」、一人で寝るのを「個眠」と呼んでいる。雑魚寝、川の字になって寝るなど、古くは共眠が多かった日本だが、現代は圧倒的に個眠の時代になっているという。
#P6036575

「でも、本当に一人で寝ているのか。私たちはそこに注目しています」と重田先生は言う。寝床の近くにいつも置いているモノを「眠り小物」と名付けて見ていくと、古い時代なら枕の下の七福神の絵、少し昔ならぬいぐるみなどだが、現代は圧倒的にスマホや携帯。「それがあると安心して眠れるものを眠り小物だとすると、1人で眠っている自分がネットワークを介して外の世界とつながっているから何らかの安心感が得られている、と考えることもできる。これは、個眠というより『ネットワーク型の共眠』と言えるのではないでしょうか」

今までになかった視点でねむりをとらえてみたい方、ぜひご来場を。会期も残り少なくなってきたが、これから開催される関連イベントもある。ホームページなどの情報を参照されたい。

大阪から発信するデザインの今。大阪芸大の「OSAKA DESIGN FORUM」が面白い

2016年5月11日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

今年で10回目を数える「OSAKA DESIGN FORUM」開催まであと数日。今年は記念すべき節目の年ということで、“グローバルデザイン”をテーマにデザインの魅力を思いっきり感じられるイベントになるようだ。

 一流デザイナーが語る、デザインの魅力と今

第一線のデザイナーが集まる「OSAKA DESIGN FORUM」は、大阪芸術大学のデザイン学科の学生たちが中心になって取り組むデザインの一大イベントだ。メインプログラムは、国内外で活躍する著名デザイナーによるトークセッション。これまでに、佐藤可士和氏、水戸岡鋭治氏、浅葉克己氏など日本を代表するデザイナーたちが登壇している。そして、10回目を記念する今年は、グローバルデザインの時代を象徴するイベントにしようと、初めてアジアからスピーカーを招く予定だ。

大阪市中央公会堂外観

大阪中央公会堂 入場の様子

会場となる大阪市中央公会堂は、歴史があり美しい建物。豪華なゲストスピーカーが講演するのにふさわしい。

 

スピーカーとして登壇予定なのは、エドウィン・ロー氏。シンガポールの有名ギャラリーショップ「Supermama」を手がけ、有田焼などの日本の伝統工芸とのコラボ作品も多く発表している新進気鋭のプロダクトデザイナーである。海外のデザイン事情や、日本人とは異なるものの見方や考え方など、どんな話が出てくるのか今から楽しみだ。

 

一方、もう一つのメインプログラムが、日本のデザイナーとしてデザインユニット「KIGI」として活躍するアートディレクター植原亮輔、渡邉良重の両氏らによるトークセッションだ。「KIGI」は、エドウィン・ロー氏と同じく伝統工芸とのコラボワークを行っており、滋賀の伝統工芸の職人たちとのコラボブランド「KIKOF」を立ち上げている。さらに糸井重里氏の「ほぼ日」とのコラボによる洋服ブランド「CACUMA」など、ブランディング、グラフィック、プロダクトなど幅広くデザイン活動を行っている。

 

ロー氏も「KIGI」も国内外で数多くの受賞歴を持つ、今もっとも旬のデザイナー。日本の伝統工芸への思いやコラボから生まれる価値、今後の活動などについて本人たちの口から聞ける貴重なチャンス。デザインを学ぶ学生はもちろん、多くのプロデザイナーたちの注目を集めている。

 

また、このイベントならではのプログラムとして、デザインの現場で活躍する大阪芸術大学の卒業生によるプレゼンテーションがある。とくに企業で活躍するデザイナーを招くことが多く、普段は見聞きすることの少ない若手企業デザイナーの仕事やその仕事観などを聞くことができる。今年は、博報堂の細川剛氏、CITIZENの三村章太氏が参加する予定。また、この面々が一堂に会し、進行役の教員も加わってのフリートークセッションも開催。これが毎年とても盛り上がるというから楽しみだ。

 

さらに忘れてならないのが、オープニングパフォーマンス。毎年、伝統芸能の、普通ならなかなかチケットが取れないような第一人者が招かれているが、今年は浪曲師・春野恵子氏。英語浪曲をニューヨークで公演するなど、グローバルに活躍している話題の人である。

三原剛氏

世界的に活躍するバリトン歌手であり、大阪芸術大学音楽学科・演奏学科の学科長でもある三原剛氏がオープニングパフォーマンスを飾ったことも。

 

動かすのは学生約80人。終了後は泣くほどの感動が

これだけのそうそうたる顔ぶれが揃うこと自体もすごいが、一流のイベントにすること自体、実はこのイベントに課せられた開始当初からのミッションなのだという。イベントの世話人を続けている同大学デザイン学科教授の喜多俊之氏はその理由を教えてくれた。

 

「毎年会場となっている中之島の大阪市中央公会堂は、大大阪を象徴する素晴らしい建物です。壊そうという動きが出た時にそれを食い止め、残したのはクリエイターたちでした。再生した公会堂を何に使うか。次の日本のクリエイションを発信できる場として、若い人が集まる場所があればいい、そんな考えからこのイベントは始まりました」

 

大阪が一番元気だった頃のシンボルともいえる建物で、デザインは今これだけすごいぞ、という心意気を示したい。だから、どうしても一流の人が呼びたかったのだという。

初開催のときから「OSAKA DESIGN FORUM」を見守る喜多俊之氏。

初開催のときから「OSAKA DESIGN FORUM」を見守る喜多俊之氏。このイベントには、関西、そして日本のクリエイターたちへの熱いメッセージが込められている。

 

さて、裏方としてこの一大イベントを動かしているのは、実は学生だ。希望者がスタッフとして参加するのだが、年々その人数は増えていき、今年は約80名が各担当に分かれて準備や当日の運営を進める。一般の人を含め、当日は1000人近い人が訪れるイベントが切り回せるとはすごい。前年の10月、プロジェクトをスタートさせる時はもちろん“ド素人”なのだが、段々と成長して、今年などはシンガポールのロー氏サイドとの英語メールのやり取りまできっちりとやってのける。

 

グラフィックデザイナーで同大学デザイン学科長の高橋善丸教授は、「今、デザイン学科では、『ハイパープロジェクト』という科目を設けて、学生がコースや学年、さらには学科の壁を越えてチームとなって取り組んでいます。アクティブラーニングの一方法として自分で学びを作りあげていくという教育システムを、流動的に広げていこうとしているところです。その意図と、『OSAKA DESIGN FORUM』はとてもうまく合致しています」と語る。

 

プロジェクトはみんなで答えを出す。授業などで教員の指導を受けるのと違い、アドバイスの通りに直すのではなく、いろんな方向をもう一度考え直す。「この過程がかなり勉強になっている」という。

高橋善丸デザイン学科長

高橋善丸デザイン学科長。「OSAKA DESIGN FORUM」はイベントとしての意義やクオリティはもちろん、教育プログラムとしても非常に魅力的だという。

10年も続くプロジェクトだから、先輩から後輩へと年々引き継がれていくものも多くなってきた。学生たちも、年を重ねるごとにしっかりと運営できるようになってきているという。準備に真剣に取り組み緊張に耐えて当日を乗り切った学生たちは、毎年、終了後にみな感動で泣くそうだ。

 

今年のプロジェクトを仕切る学生たちに話を聞くと、「デザインのイベントだからこそ余計に、自分たちのデザインしたものを披露したいし、自分たちの色に染めたいという気持ちがあります。絶対、去年よりいいものにしたいという欲もあります」という答えが返ってきた。まさに、意欲的である。

 

当日は、同時開催イベントとして、学生ユニット「透明回線」による新しいライブペイントパフォーマンス、学生の作品展示も行われる。

「OSAKA DESIGN FORUM」への意気込みを語る学生たち

「OSAKA DESIGN FORUM」チラシ・ポスター

「OSAKA DESIGN FORUM」への意気込みを語る学生たち。ゲストのアテンドや当日の進行管理、広報活動など、すべてを学生が取り仕切る。もちろん、ポスターやチラシのデザインも学生が手がける。

世界初!阪大×大阪音大の境界をこえる音楽会!

2016年1月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

2015年11月23日、大阪大学と大阪音楽大学のジョイント企画によるコンサートが開催された。その名は「境界面上の音楽会―箏と光の競演」。音楽と学術がコラボする実験の場だ。シリーズ7回目とあって、今回も一風変わったコンサートに期待する人たちで、300名の定員は満席に。ほとゼロ取材班も興味しんしんで、豊中キャンパスに向かった。

演奏者の感情にシンクロする光の演出

大阪大学と大阪音楽大学という豊中市内にキャンパスのある2大学が、それぞれの持ち味を生かして地域の文化振興に貢献しようと始まったこの企画。2011年から開催しており、今回の「境界面上」はシリーズ7回目にあたる。音楽の新しい側面を学術とのコラボで生み出していく実験の場でもあり、過去には、テルミンと琴、ロボットと生の音楽などのジョイントも行ったという。

「今年は、大阪音楽大学が創立100周年という節目の年に当たります。華々しい感じを出したいなと、“光”を使った演出を採り入れて何かできないかと考えました」というのは、コンサートを企画した大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任准教授・久保田テツさん。

企画の前半は、大阪音楽大学出身の箏奏者で同大講師でもある片岡リサさんによる筝独奏、後半はそこに同大出身で講師のサックス奏者西本淳さん、ピアノ奏者井手智佳子さんが加わる構成。その全編に光の演出をプログラミングしたのが、大阪大学クリエイティブユニット准教授・伊藤雄一さんだ。

今回の実験的な試みについて話す伊藤雄一先生

今回の実験的な試みについて話す伊藤雄一先生

 

「音楽に合わせて光の演出をしたり映像を動かしたり、ということではなく、音楽と光が互いに交流、インタラクションすることをめざしました。タイトルの『境界面上の音楽会』にあるように、音楽とIT、人とIT、和楽器と洋楽器、西洋音楽と日本音楽など、さまざまな境界のあるものがどこまで融合できるか、溶け合えるかがコンサートのテーマです」。

伊藤先生は、人とコンピュータの新しい双方向のやり取り(ユーザーインタフェース)を研究している。今回のコンサートは、曲の盛り上がりにそって感情が盛り上がってくる演奏者の“情報”を拾い、光の演出とシンクロさせようという試み。演奏者が音を生み出す瞬間に何が起こっているのかをコンピュータを使って可視化し、それに光を同調させるというのだ。ライブコンサートの音に二度と同じものはないように、同じ光の動きも二度とはない、その日その時だけの光とのコラボ、といえる。

ではどうやって…?その秘密の1つは椅子に隠されていた

ではどうやって…?その秘密の1つは椅子に隠されていた

コラボを可能にする2つのデバイス

それでは、演奏者の感情の盛り上がりをコンピュータはどうやって拾うのか。その秘密が、伊藤先生が開発したユニークな2つのデバイスだ。

1つは、「爪デバイス」。箏を弾く三本の指にはめる爪にセンサーを取り付け、爪の動きや爪にかかる圧力を読み取って情報を収集するもので、今回のコンサート用に新たに開発したという。
もう1つは、奏者の座る椅子の座面がセンサーになっている「Sense Chair」。身体の動きの変化の情報を収集するためのデバイスだ。Sense Chairは、伊藤先生の研究ですでに使われているもので、例えば、オフィスで働く人の身体の動きをセンシングして仕事への集中度や眠気などを読み取り、コンピュータが適切な支援やサービスを提供するといった活用法があるそうだ。

世界初!「爪デバイス」。客席からは「ホー」と感嘆の声が

世界初!「爪デバイス」。客席からは「ホー」と感嘆の声が

身体の動きを読み取る「Sense Chair」

身体の動きを読み取る「Sense Chair」


爪デバイスでは音の動きや強さを拾い、Sense Chairでは、音楽が盛り上がり演奏者の感情が高まってくるにつれ激しくなってくる身体の動きを拾う。そうしたデータに基づき、「曲」とではなく「演奏」とシンクロした光の演出をするという。

「演奏者の感情の盛り上がりを、身体の動きとしてうまく拾うことができるかどうかがカギ。アンサンブルでは三人が互いに影響し合うこともあるでしょう。世界初の試みなので、うまくいけば学会でも発表したい」と伊藤先生の声にも力がこもる。

音楽と光のアートのジャムセッション

音と光のコラボがどんなふうに展開するのか。
コンサートのオープニング「さくら」を例にとると、「さくら、さくら、やよいの空は…」というおなじみのメロディが片岡先生の美しい筝の音色として流れ出す。「生で聴く箏の音は意外に骨太なんだなあ」などと思いつつ、視覚としては演奏する先生の背景に映し出される光の演出が楽しめる。

演奏に合わせ、桜の花が開きそろい、風に揺れ、はらはらと散る

演奏に合わせ、桜の花が開きそろい、風に揺れ、はらはらと散る

 

花を咲かせるのも風を起こすのも花が散るのもすべて片岡先生の感情が盛り上がっているから。背景では「身体の動きが最大値になったらこの程度の花びらを散らす」など、プログラミングされた映像が次々と展開していく。

それを舞台袖で操作しているのが両大学の学生たちだ。「さくら」でいえば、木に花が咲く、風に舞う、など、1曲の中で曲調が変わる場面に応じて、用意した2から3の映像パターンを転換していた。演奏者の変化に忠実な映像だからか、演奏の世界を邪魔せず、イメージを増幅させて「さくら」の世界の一つの可能性を見せてくれる気がする。

データ収集と映像のパターン変換を担当する学生たち

データ収集と映像のパターン変換を担当する学生たち

 

「さくら」以外の曲には抽象的なパターンが使われており、幾何学模様が動いたり、光が激しく明滅したり、ドットが増殖したり。音楽を聴いてイメージを出し合い、「この曲は一音一音の音の流れを目に見えるように表現してみよう」など一曲一曲丁寧に制作。いかに美しい作品にするか、映像メディアデザインの専門家である久保田先生のアドバイスを得ながら、2、3ヶ月かけて準備をしたという。

伊藤先生いわく「視覚と聴覚は全くの別物なので、曲のイメージを光の演出としてどう置き換えていくかという点も、境界があるものを溶け合わせるという挑戦の一つ」なのだという。まさに光のアートと音楽とのジャムセッションという感じがした。

境界面で溶け合い不思議世界が立ち現れる

休憩をはさんで後半には、サックス、ピアノが加わったアンサンブルに、箏の弾き歌いなど珍しい演目も含め楽しむことができた。バレエ曲「剣の舞」を箏、サックス、ピアノのアンサンブルで、筝と尺八の二重奏曲「春の海」を筝とサックスで演奏するなど、和と洋の融合はとても新鮮だ。

音と光のコラボの方も、たとえば「剣の舞」の疾走感は光のアートでもいかんなく表現されていた。尖った感じのする音の連打、畳みかけてくるリズムの持つ迫力。箏の音色でさらに増幅された東洋的な曲調の魅力が、光のアートによって一つのイメージに昇華していた。

「剣の舞」の1シーン

「剣の舞」の1シーン

 

今まで聴いたことのなかったこのアンサンブルによる剣の舞が、今後は筆者の中で、「剣の舞といえばコレ」になりそうな予感。そこに及ぼした光のアートの影響は大きいのではないか、という気がする。

また、Sense Chairで拾っている演奏者の身体の動きのデータを、伊藤先生が解説するという学会風コーナーも。アンサンブルでは、同調して身体の動きが似てくるという傾向は一目瞭然。さらに、独奏よりアンサンブルの時の方がよく動いているとか、誰が一番よく動くかとか、本人も知らなかった演奏中の体動が明らかに。データを取られる緊張があるので、気にならない超薄型のデバイスにしてもらわないと、という演奏者からの注文もあった。

直前の演奏のデータが可視化された

直前の演奏のデータが可視化された


無意識の情報が解明されて、さらに面白いことに活用される可能性は無限な気がする。刺激的であっという間の2時間。筆者にとっては久々の生の音楽で、その意味のインタフェースとしても抜群だった。

書評対決ムーブメント!阪大「ブックコレクション」見参!

2015年12月11日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

2014年4月からスタートした、大阪大学生協主催のイベント「ブックコレクション~教員vs学生【書評対決】」は、教員と学生団体が書評で戦う対決企画だ。阪大生協サイト上には対決予告動画がアップされていて、うーん、何かおもしろそうな雰囲気。さっそく取材にうかがった。

思わずアツくなる推薦図書企画

「ブックコレクション」は、教員と学生団体がそれぞれおすすめの5冊を選んで書評を書いてキャンパス内の書籍ショップに展示販売し、本の売り上げによって勝敗を競うという企画。対決は1か月間。阪大生協ウェブサイトと学生向けの学習支援サイトで書評が読めるほか、生協書籍ショップに加えて大学附属図書館でも書評冊子が手に入るのでそれを読んでもいい。半期で5カードの対決が行われ、2015年10月の今、すでに160冊以上の本が紹介された。

生協には特設コーナーも

生協には特設コーナーも

 

「学生にもっと本を読んでもらう」ことを目的とした推薦図書企画なのだが、ミソは「対決」というところ。選書する学生たちは読書のボリュームが違う先生を相手に「勝ちにいく」というか、どうしたから勝てるのか選書にも書評にもいろいろと工夫する。

ネット上で書評が読めるのでぜひ読んでみてほしいのだが、学生らしい視点で書かれていてすっと理解できるし、古典の名著を現代の視点でコスプレしたみたいな書評もあって面白いし、読んでみたいという気持ちになる。

先生の方は、紹介する本にも書評にもどこか説教くさい「教育的視点」が入ってしまって一見不利なようだが、学生への親心的選書や熱い気持ちが伝わる書評には心を動かされる。

12月に対決予定の生命機能研究科長であり医学系研究科でも教える仲野徹教授は、書評サイト「HONZ」のレビュアーの一人でもあるが、学生向けということで「単に役立つ本というより、刺激を受ける、インスパイアされる本を選んだ」と語る。

ブログや書評サイトでの熱が入った読書レビューに定評がある仲野徹教授

ブログや書評サイトでの熱が入った読書レビューに定評がある仲野徹教授

 

現在まで16回行われた対決の勝敗は、現在対決中のカードを除くと、教員6勝、学生8勝、1引き分け。連敗すると「負けられない!」と鼻息が荒くなって逆転するので、ほぼ両者拮抗という状態。「対決」企画の狙いは、完全に当たっている。

勝敗は売上だが、図書館にも紹介された本を展示する特設コーナーを設置。生協書籍部と図書館が手をつなぐ取り組みというのは、珍しいかもしれない。法廷のソクラテスを描いたプラトン著『ソクラテスの弁明』が取り上げられた時には、毛色の変わった「関西弁訳」を展示して、読書の楽しみをアピールしたという。

予告動画撮影現場もアツかった

ブックコレクションは、生協、図書館に加え、対決のコーディネートには全学教育推進機構の先生、予告動画の制作は大阪大学のブランディングを担う大学内のクリエイター組織「クリエイティブユニット(CU)」と、強力な学内コラボプロジェクト。とくに、キャンパス内に設置されている学生対象のデジタルサイネージ「O+PUS」で流しているPR動画は、盛り上げに一役買っている。

この動画、阪大生協サイト上で見られるのでぜひ見てほしいのだが、次回の対決を予告する妙に熱い劇画調動画(って、そんなものあるのか?)になっている。「ブックコレクション」というシュッとした感じの名前とのギャップがいい味。CUの浅井和広先生は、動画に登場する先生や学生にどんどんヘンなポーズをとらせて撮影する。「まず、マジメな阪大生やおカタイ教授といったイメージを打ち壊したい。そして見た人が、なんだか面白そうだなと思って興味を持ってもらえれば」という。

12月対決の予告動画撮影現場にお邪魔してみた。カメラマンの浅井先生に「はい、そこで何か決めポーズ、ください」と呼びかけられた仲野先生は、「決めポーズ? 歌舞伎役者か」と突っ込みながらも、なかなかの乗りでオーダーに応えていた。

対決相手は、医療系サークル「TEKISHI(適志)」ということで、「師弟対決、どうですか?」と意気込みを聞くと、「敵やない、敵やない。読んでる本の量が違うよ」と余裕の発言。仲野先生が紹介するのは、医学・生物学のジャンルから「何かがなくなったらどうなるか」をテーマにした定評のある5冊である。

ノリノリでポーズを決める仲野教授

ノリノリでポーズを決める仲野教授

 

一方のチャレンジャー、TEKISHI(適志)は、将来働くことになる医療現場で進む多職種連携の動向を見据え、ともすれば縦割りで疎遠になりがちな各領域の学生相互の交流と理解を進める「医療系学部の中でも一番熱い」(自称)学生団体だ。

今回のチャレンジャーたち。チームの力で教授に挑む!

今回のチャレンジャーたち。チームの力で教授に挑む!

 

今回の選書もそんな活動とリンクして医療をテーマに医師、看護師、診療放射線技師、臨床心理士、歯科医師をめざす学生がそれぞれ選書。一般の学生向けに、医療をいろんな面から理解できるラインナップとなっている。「ブックコレクションに出ることで、僕らの活動にも関心を持ってくれればうれしい」とリーダーの医学部医学科5年山本暁大さん。選書にあたっては、医療に関係ないものも含めメンバーが推薦した70冊のなかから絞り込んだ。

映画やマンガの話はするが、小説や本の話は普段あまりしない世代。自分の好きな本を選んだことで「普段そんな本を読んでるのか」とか「○○ぽいな」とメンバー同士の理解が進んだり、「そんな本もあるのか」と盛り上がったりもしたという。

TEKISHI(適志)もノリノリ!

TEKISHI(適志)もノリノリ!

 

彼らの動画テーマは、自分たちが提案した「ゆるい巨塔」。「『白い巨塔』のイメージをひっくり返し、カジュアルさを伝えられれば」(歯学部歯学科6年・田中大貴さん)との狙いとか。この予告動画は11月から、書評は12月に公開される。勝敗も楽しみだ。

師弟対決!勝つのはどちらだ。

師弟対決!勝つのはどちらだ。

 

2014年度にはSF対決が話題になって本も良く売れ、学生の意外なSF指向が明らかになったことも。「選書も書評も学生のクォリティが想像以上で、かなり盛り上がってきました。ベストセラーではない隠れた良書を掘り起こす、という意味でも期待しています」と言うのは、阪大生協・朴寿美さん。阪大生だけのものにしておくのはもったいないコレクション、読書の秋への入口に一度、おすすめされてみませんか。

 

【完成した対決予告動画はこちら!】

 

立命館大 「マイクロ環境発電」技術から生まれたエコマウス

2015年12月7日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

立命館大学理工学部・道関隆国教授がプロデュースし、立命館大学とエレコム株式会社との産学協同で開発したワイヤレスマウス「WINKS」。そこにはどんな技術革新があったのか。研究室におじゃましてお話をうかがった。
「WINKS」紹介記事:立命館×エレコム 最強タッグで生まれた省エネマウス!

LEDが発電する(!?)しくみを応用

ワイヤレスマウスはコードが邪魔にならなくて使い勝手がいいが、電池式のため、作業の前後にスイッチをオン/オフする手間がいる。面倒くさいから、電池の無駄遣いと思いつつも、つけっぱなしという方もおられるかもしれない。

この面倒なスイッチのオン/オフが自動にできる、というのが、今回の「WINKS」に搭載されたアイドリングストップ機能。マウスを握ると自動でオンになり、手を離すと数十秒で自動的にオフになる。省電力で、単4電池2本で1日8時間使用して、2年ぐらいは電池を取り替える必要がない。

「握るとオン、離すとオフ」は、マウス上面の前後にLEDセンサーを内蔵し、マウスを握って片方のLEDセンサーを隠すと電源オン、手を離して両方のLEDセンサーが光を認識すると電源がオフになるというしくみになっている。

立命館大学理工学部 道関隆国教授(左)と、田中亜実特任助教(右)

立命館大学理工学部 道関隆国教授(左)と、田中亜実特任助教(右)


「LEDは、太陽電池と同じで、安価で光エネルギーを電気にかえる半導体素子。室内の光でもわずかですが発電します。このLED発電の有無を発電量の差によって検出しスイッチングする回路をつくればいいと考えました」(道関先生)

電気を流すと発光するLEDが、逆に光が当たると発電するとはびっくり。LED発電で生まれるのは、数十nW(ナノワット)という非常に小さな電力だという。ナノは10-9分の1という極小単位だ。
どれだけ小さいのか教えてください、と道関先生にお願いすると、単位時間にどれだけの仕事をするかという仕事率に置き換えて比べてくださった。ヒト1人が安静にしている時の消費エネルギー量が約100W(W:ワットは、仕事率の単位)。1Wの1万分の1がミミズの消費エネルギー量で、1mW(ミリワット・10-3)。その千分の1がクォーツ腕時計の消費電力で1μW(マイクロワット・10-6)。それをさらに千分の1してようやく1nWになる、というほど小さな小さなレベルだ。

腕時計に次ぐマイクロ環境発電製品

道関先生が研究を進めるのは、「エナジーハーベスト」、日本語では「環境発電」といわれる分野。光、熱、体温、振動など身近なエネルギーを有効に活用しようという技術だ。なかでも極小エネルギーを対象にした「マイクロ環境発電」の分野は、1970年代から自動巻き腕時計、太陽電池腕時計、熱発電腕時計など1μWのレベルまでは製品化が進んだが、それ以降、応用は進んでいなかった。

「腕時計以外にも応用できる分野があるということを、しかもさらにその千分の1のレベルでもできることがある、という実例をどうしても示したかった。どんな商品があるかいろいろと探っていて、マウスに行き当たりました」
数十nWの電力でマウスを動かすわけではないが、アイドリングストップ機能で待機電力をなくすことができるようにしよう、というわけだ。
早速、精密機器メーカーの技術者である社会人大学院生とともに回路設計をスタート。ほとんどないような電力で動く回路の設計はなかなか大変で、回路の完成までに2年ほどかかったという。LEDや回路をマウスに搭載した試作品づくりや実験を担当したのは、現在、立命館大学理工学部電子情報工学科特任助教で、当時は大学院生だった田中亜実先生だ。道関研究室の個性の一つは、ものづくりを重視した教育。配属された学生全員が、腕時計の発電機を分解し、再度組み立てて配線をするなど、ものづくりをしっかりと体験するようにしている。田中先生も日頃鍛えたものづくりの腕を発揮した。

IMG_1174のコピー
IMG_1196のコピー
時計の発電装置を利用した光るヨーヨーや、回路の仕組みを学ぶミニ電光掲示板。道関研究室の学生は必ずものづくりに関わる。

この非常に低エネルギーで動く回路を適用したアイドリングストップ機能のついたマウスは、2010年10月に学会発表。2013年には報道発表を行って新聞にその写真が大きく載った。「その記事をたまたま読んでおられたのが、エレコム社の社長さんだったのです」
試作品に使ったのがエレコム社製のマウスだったことで、「ぜひとも一緒に製品化を」との社命が下り、そのマウスの設計者が道関研究者を訪ねてきたという。こうして偶然も手伝って、トントン拍子に産学共同による開発の話が進んだ。

発表時の試作品。既存マウス(エレコム製品)にお手製の回路が組み込まれている。

発表時の試作品。既存マウス(エレコム製品)にお手製の回路が組み込まれている。

試作品と発売中の「WINKS」。

試作品と発売中の「WINKS」。

物と人との距離を近づける?技術

製品化の過程でもっとも大きな課題になったのは、マウスを暗闇の中でも使えるようにする、という点。プレゼンテーションや会議など暗い所でマウスを動かすことはよくある。しかし、光がなければLED発電ができずマウスを握っても回路が動かない。この問題の解決として、マウスの1クリック操作は必要になるが、5個のディスクリート部品を追加するだけでアイドリングストップ機能が持続できるようにした。その他、光の入り具合がLED発電検出にとって大切なので、LEDの最適な配置場所についてもいろいろと試行錯誤をしながら決定したという。

生産ラインに乗せるのにも、生産現場の技術者たちが初めて見る回路になかなか対応できず、エレコム社の担当者と一緒に苦労をした。道関先生は、「細かいものづくりの分野で、日本はまだまだ負けてはいない」と実感したという。「日本の強みは、まずものづくりができ、さらにその上にソフトウエアを併せられるところです」

こうして、2015年9月に世に出した「WINKS」の他にも、道関先生たちはエナジーハーベスト技術の応用でさまざまな成果を上げている。赤外線リモコン信号で発電する赤外LEDをセンサーにした自動スイッチ回路もその一つ。現在のリモコンに必要な、信号検知のための待機電力をなくし、ナノのさらに千分の1であるピコレベルのエネルギーを利用する画期的な技術で、後は製品化するメーカーを探すだけという段階だ。
IMG_1185のコピー
IMG_1169のコピー
リモコンの赤外線信号受信で車のスイッチが入るラジコンカー。受信側の待機電力はほぼゼロだという。


道関先生たちが追い求めるのは、身の回りにある小さなエネルギーを活用し、「使う時のスイッチをなくす」技術。握るとスイッチが入る「WINKS」にしても、物と人との距離を近づける、そんな側面もある技術という気がする。スイッチのある製品といったらそれこそ無限。一体どこまで広がっていくのか、今後がとても楽しみだ。

公家のお屋敷学舎、平安女学院「有栖館」を訪ねて

2015年11月30日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

平安女学院大学京都キャンパスにある有栖館は、裁判所所長官舎だった有栖川宮旧邸の建物で、国登録有形文化財でもあります。京都御所を取り囲む公家町の邸宅の一つであったことから、毎年、春と秋の京都御所一般公開に合わせて公開していると聞き、訪ねてみました。格式のある書院造の建物を季節の風情の中で味わう、贅沢なひと時になりました。

勉強になるガイド付き見学

平安女学院大学京都キャンパスは、京都御苑の西隣という絶好のロケーションにあります。明治館、昭和館(いずれも国登録有形文化財)、聖アグネス教会(京都市指定有形文化財)などキャンパス内には多くの貴重な文化財があります。なかでも、京都文化の研究・教育の発信拠点として活用するため2008年に取得した有栖館は、元は有栖川宮邸だった建物で国登録有形文化財でもある文化的価値の高い施設です。

烏丸通りに面した「青天門」

烏丸通りに面した「青天門」

烏丸通りと下立売通りの一角に建つ650坪の広大なお屋敷。烏丸通りに面した「青天門」はとても風格があります。1912年に三井総家邸宅の門として建てられたものを裁判所が購入して1952年に所長邸の門に据えました。当時の所長であった石田寿氏は文化人で、親交のあった歌人吉井勇氏が李白の詩から青天門と名前をつけたそうです。ケヤキの一枚板を曲げ木にした唐門は、大正時代の門建築としても価値が高いものです。

門を入ると立派な庭に2本の立派な枝垂桜。塀を越えて烏丸通りに張り出した枝は、毎春、道行く人に桜の景観を楽しませているそう。この桜は、日本画家・堂本印象の発案で醍醐三宝院から移植したもので、秀吉が花見をした醍醐の桜の孫にあたります。

桜の時期も見事です

桜の時期も見事です

と、いかにも知ったような顔して書けるのは、こんなさまざまなエピソードをガイドさんから教えてもらったから。公開中は、専属ガイドさんに解説していただきながら、邸内をぐるっと一巡りできます。有料だけど、お得感あり。

書院造りで楽しむ歴史時間

お屋敷は伝統的な書院造りで、中庭を囲んで玄関棟、客間棟、住居棟の3つで構成。玄関棟から最初に導かれる客間棟は、板間と和室の間仕切りが取っ払われてひとつながりの大空間になっています。縁側の向こうには、日本庭園の風情ある眺め。ここでガイドさんは少し時間をとって、有栖川宮という宮家の話やお屋敷の現在までの歴史などを解説してくれます。

庭園を見ながら解説が聞ける

庭園を見ながら解説が聞ける

有栖川宮邸は、もともと京都御所建礼門前にあった広大な敷地の邸宅でした。明治になって主を失ってからは京都裁判所の仮庁舎等として使用された後、その一部は、京都御苑から烏丸通りを隔てた西隣りの現在の場所に旧京都地方裁判所所長宿舎として移築されました。2007年までは使われていたというのにびっくり。「毎日の手入れはすごく大変だったと思いますよ」とガイドさんがおっしゃる通りでしょう。
伝統的なデザイン、矢筈の寄木が張られた美しい床板の板間では、訪れる人が「ドン」と大きな音をさせて足を踏みしめていました。この板間は能舞台として使われたとされ、床下に甕(かめ)を置いて足拍子を響かせるしくみがあるかどうかを試しておられるようでした。

和室は、正面にしつらえられた上段の間に付書院という作り付けの机のついたスペースがあるのが本格的。さらに、書院窓の上には龍の透かし彫りが施され、月の明かりでその姿を壁に投影して愛でる洒落た演出がなされています。

この龍の透かし彫りが…

この龍の透かし彫りが…

右奥の壁に投影される仕掛け!

右奥の壁に投影される仕掛け!

庭園は、250年続く造園業として数々の名園を手がけてきた「植治」11代小川治兵衞氏によって、2009年に「平成の植治の庭」としてよみがえりました。縁に立ったり座ったり、座敷から見たり、視点の位置や高さを変えて眺めるといくつもの顔が見えてくる、奥行きのある庭園空間です。

「平成の植治の庭」

「平成の植治の庭」

中庭には白とピンクの両方の花を咲かせる源平桃のしだれが植えられ、桃が終わった頃に前庭の桜を楽しむという趣向。さらに、フジバカマの原種など珍しい花も引き受けて育てているということです。

住居棟側では、開学140年の歴史を持つ平安女学院の歴史や制服の変遷などの展示、すぐ近所で江戸時代からお香を商う山田松香木店による、お香の香りあて遊びなどの展示もあり、興味深いものでした。

平安女学院は日本で初めてセーラー服を制服に導入

平安女学院は日本で初めてセーラー服を制服に導入

3種の香りのうち、1種類だけ違う香りが

3種の香りのうち、1種類だけ違う香りが

京都御所一般公開にお出かけの際は、ぜひ一度、有栖館にも足を運んでみてはいかかでしょうか。

「国際協力×○○○○」がテーマのミクストメディアゼミ。(後編)

2015年10月30日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

「国際協力×○○○○」をテーマにユニークな活動を展開する龍谷大学経済学部講師・神谷祐介先生のゼミレポート後編。「国際協力」と聞くと、どこか遠い彼方の話、無縁の世界、という感じがしてしまうというなら、「“エントリーポイント”をつくればいい」というテーマを。

(参照:「国際協力×○○○○」がテーマのミクストメディアゼミ。(前編)

感じて!国際協力の肌触り

神谷ゼミの多彩なプロジェクトのうち、前回紹介した事業化につながる国際協力と並んで注目できるのが、「国際協力への入口=エントリーポイントをつくる」取り組みだ。遠い彼方の自分に関係ない国際協力から、身近ですぐに何かできそうな国際協力へ変えていくには、「エントリーポイントをつくることが必要」だと神谷先生。小学生や中高生など、それぞれ関心のあるメディアから、国際協力への入り口をつくっていこうとしている。
たとえば、演劇プロジェクトは、途上国の子どもたちがどんな暮らしをしているのかを、日本の未就学児や小学生に伝えていこうという目的の取り組み。ラオスプロジェクトのメンバーが、現地で小学校を訪問し小学生とその保護者にアンケート調査した内容に基づいて、紙芝居やスライドにして日本の小学生に紹介する。

教科書は3人で1冊

教科書は3人で1冊

 

 

2015年の夏休みには学生と小学生が一緒に演劇にして上演するワークショップも開催した。ワークショップは、「話を聞くより、現地の子どもたちの暮らしが疑似体験できたら楽しいのでは」という発想からスタート。神谷先生の友人であるプロ演劇人集団『劇団衛星』(京都市)の俳優が協力し、指導してもらいながら演劇に仕上げた。

 

日本との違いを保護者などに話を聞きながら調査した

日本との違いを保護者などに話を聞きながら調査した

 

演劇ワークショップの様子

演劇ワークショップの様子

 

また、マンガプロジェクトというものもある。国際協力ってどんなことをするのか、どんなキャリアなのか、学生がJICAやNGOなどで国際協力の仕事をしている人へのインタビューなども交えながら情報を収集。マンガにして電子書籍で配信しようというものだ。マンガの描き手はネットや口コミで探すという。

バンコクの企業を訪問し情報収集

バンコクの企業を訪問し情報収集

おいしい国際協力も

さらに、誰にでも入ってきやすい入口づくりとして、「国際協力×食」の取り組みも進んでいる。自社でカカオ豆から調達するこだわりで注目され売り切れ続出の人気ショコラティエ、京都のDari K(ダリケー)とコラボし、親子向けのチョコレートづくりワークショップを開こうというチョコレートプロジェクトが、すでに日程調整中の段階に。開催日程や内容など、ほとゼロでも追いかける予定なのでご注目を。
開催が決定しているものでは、2015年10月30日~11月1日に開かれる深草キャンパスの大学祭「龍谷祭」へのアフリカ料理の屋台出店がある。龍谷大学の大学院に留学中のアフリカから来た留学生に協力を得てアフリカプロジェクトメンバーが開発した本格的な料理がサービスされるらしいので、こちらも要チェック。
「小さい頃に出会ったことは、記憶に鮮明に残ることも多いですよね。こんな取り組みを通じて、国際協力に関心を持つ層が広がっていけばいいなと思います」(神谷先生)

 

RANKINGー 人気記事 ー

  1. Rank1

  2. Rank2

  3. Rank3

  4. Rank4

  5. Rank5

PICKUPー 注目記事 ー

BOOKS ほとゼロ関連書籍

50歳からの大学案内 関西編

大学で学ぶ50歳以上の方たちのロングインタビューと、社会人向け教育プログラムの解説などをまとめた、おとなのための大学ガイド。

BOOKぴあで購入

楽しい大学に出会う本

大人や子どもが楽しめる首都圏の大学の施設やレストラン、教育プログラムなどを紹介したガイドブック。

Amazonで購入

関西の大学を楽しむ本

関西の大学の一般の方に向けた取り組みや、美味しい学食などを紹介したガイド本。

Amazonで購入
年齢不問! サービス満点!! - 1000%大学活用術

年齢不問! サービス満点!!
1000%大学活用術

子育て層も社会人もシルバーも、学び&遊び尽くすためのマル得ガイド。

Amazonで購入
定年進学のすすめ―第二の人生を充実させる大学利用法

定年進学のすすめ―
第二の人生を充実させる …

私は、こうして第二の人生を見つけた!体験者が語る大学の魅力。

Amazonで購入

フツーな大学生のアナタへ
- 大学生活を100倍エキサイティングにした12人のメッセージ

学生生活を楽しく充実させるには? その答えを見つけた大学生達のエールが満載。入学したら最初に読んでほしい本。

Amazonで購入
アートとデザインを楽しむ京都本 (えるまがMOOK)

アートとデザインを楽しむ
京都本by京都造形芸術大学 (エルマガMOOK)

京都の美術館・ギャラリー・寺・カフェなどのガイド本。

Amazonで購入

PAGE TOP