仏教って何? に優しく応える博物館「龍谷ミュージアム」
生まれた時から身近なところにある仏教だけど、実はよくわからないという人にぜひ訪れてみてほしい博物館。世界文化遺産・西本願寺正面というロケーションは抜群で、内部の落ち着きのある空間も一見の価値ありだ。
仏像好きになってしまうかも。
徳川家光の治世に鎖国が完成した1639年、京都では、西本願寺に「学寮」が設けられた。
これが龍谷大学の歴史の始まり。龍谷大学龍谷ミュージアムは、創立370年を記念して2011年4月に開館された、日本初の仏教総合博物館である。
平常展は、仏教の思想と文化をテーマに、仏像、仏教絵画、仏教の歴史、さらには仏教の教えや修行生活に至るまで、仏教をさまざまな角度から見ることができる展示が特長。
インドで誕生した仏教は、中央アジアから中国を経て日本に伝来するまで、さらには、日本国内でどのような展開をしたのかをたどることができる「仏教タイムトラベル」が体験できるのだ。
仏像の展示では、伝播した地域ごとに、洋風な顔立ちがなかなか魅力的だったり、ギリシャ彫刻のような立派な体格に驚かされたり、違いを比較しながら見られるのが面白い。
「菩薩」とはブッダをめざして修行者で美しい装身具や衣装を身につけている、「如来」とは悟りの最終段階に達したブッダのことで原則としてシンプルな衣で装身具は身につけないなど、仏像や仏画などの表現上の違いもよく理解できる。
また、仏教を一般の人に教えるための“教材”に共通性があるのも興味深かった。インド・ガンダーラでは、ストゥーパ(仏塔)の玉垣に釈尊の伝記をレリーフしたものが出土しており、参詣ついでに学ぶしくみになっていたようだ。
日本のものでは、法然上人の生涯が描かれた絵伝という掛軸が展示されていたが、伝記を絵で伝えるという手法はガンダーラと同じだ。
博物館の収蔵品はもちろん、龍谷大学が所蔵する学術研究資料、20世紀初頭にシルクロードの学術探検を日本で初めて行った大谷探検隊のコレクションのほか、各地の寺院からの寄託品なども含め、展示品の入れ替えも随時行っているという。
迫力がたまらない赤・赤・赤の回廊。
一番の見どころは、なんといっても、「ベゼクリク石窟大回廊復元展示」だろう。
龍谷大学がNHKと共同で、新疆ウイグル自治区トルファンの代表的な遺跡であるベゼクリク石窟寺院の回廊壁画をデジタル復元。その成果を実物大に復元して、仏教石窟の雰囲気を体感できる。実際はコの字型になっている回廊の2辺とその間の角を再現した。
一歩踏み入れると、赤を中心とした鮮やかな壁画に覆い尽くされた回廊が、高さ3.5メートル、長さ15メートルの規模で目の前に広がる。
手や頬までが赤く染まりそうな独特の色彩の壁画を見ていると、高いところから仏様のような存在に見られているような怖い感じ、全身が包まれているような安らいだ感じの両方が、一時に押し寄せてくる。
ここに描かれているのは誓願図といい、前世の釈尊が、将来はブッダ(仏)となって一切衆生を救済するという誓いを立てるシーンを描いたものだという。
前世の釈尊は、ブッダをたたえるために花を買ったり、自分の髪を泥水に敷き詰めてブッダが汚れるのを防いだり、さまざまな奉仕をし、ブッダは彼が将来ブッダになると予言するという物語だ。
11世紀頃に描かれた美しい回廊壁画はその多くがすでに失われており、現地でももはやほとんど見ることはできない。復元された回廊は、ここでもまた仏教タイムトラベル装置の役目を果たしてくれている。
館内のミュージアムシアターでは、4Kの高画質映像でこのベゼクリク石窟寺院壁画復元、また西本願寺障壁画復元のドキュメンタリーを上映しているので必見だ。
ゆっくり時間のある時に楽しんで。
龍谷ミュージアムは、建物自体も魅力的だ。「京(みやこ)環境配慮建築物最優秀賞」も受賞した、町なみとの調和が美しい。外観正面は、京町家をモチーフにしたセラミックの簾を設けて京都らしさを表現すると同時に、西日の直射から守る省エネ設計だという。
また、1階には堀川通と油小路通を東西につなぐ抜け道が設けられており、開館中は人々が自由に通行できるオープンスペースになっている。
地下1階のエントランスホールなど館内は、石と木、金属などの素材をバランス良く組み合わせた、モダンなのになぜか落ち着く空間。ミュージアムショップやミュージアムカフェも含め、ゆったりと楽しめる。
平常展の会期中は、展示内容を解説する学芸員トークが開催される。そのスケジュールや展示品目録、さらには仏教関連だけでなく幅広い展示が行われる特別展や企画展の情報も館のウェブサイトに掲載されている。ぜひサイトをチェックしてからおでかけを。