「国際協力×○○○○」がテーマのミクストメディアゼミ。(前編)
2015年10月28日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!
「国際協力」と聞くと、どこか遠い彼方の話、無縁の世界、という感じがしてしまう。「井戸を掘ったりとか、そんなイメージが浮かびますよね」と問いかけられ、深くうなずいてしまった。あなたも? だが、実はそんなにとっつきにくいもんじゃない、と教えてくれるのが、今回取材した龍谷大学経済学部講師・神谷祐介先生だ。
GO! GO! 国際協力
神谷先生は、開発途上国の医療経済や母子保健を専門分野にJICA(国際協力機構)やタイのNGOでも活躍、龍谷大学経済学部には2014年に赴任した。現在は「ジェンダーと開発」をテーマに研究活動を進め、担当するゼミの主題は「国際協力」だ。 「現代の国際協力は、井戸掘りのイメージから大分変わってきている。最新のテクノロジーも入ってきているし、資金にクラウドファンディングを活用したプロジェクトもあります」
こんなに変わってきた国際協力の姿を肌で感じ、自分たちには何ができるかを考えてほしい、という思いを込めて、ゼミのコンセプトは「国際協力×○○○○」。学生たちは、先生が用意するさまざまなプロジェクトの中から興味のあるものを選んで参加し、活動に携わりながら体験的に学習。ゆくゆくは学生がやりたいプロジェクトを自ら企画・運営していく。
現在、神谷ゼミではさまざまな「国際協力×○○○○」プロジェクトが走っているが、まずは最近フィールドワークを敢行したというラオスプロジェクトから。2015年3月にタイ、ラオスのスタディツアーに出かけ、現地の人々の暮らしや開発の実際を見聞きしたことをベースにして立ち上げたプロジェクトのうちの一つである。
ラオスプロジェクトでは、健康・美容に関わる商品・サービスの市場調査を現地で行い、できれば事業化につなげるのが目標という。ラオスは今、都市部では急激な経済発展の波が押し寄せて消費が高まり、健康・美容への関心も高まっている。一方で、急速な近代化の影響もあって、肥満をはじめとする生活習慣病が増加しているという。首都ビエンチャンでは今、朝夕ごとに公園などで1回1時間60円程度でできるエアロビクスが市民に人気らしい。そんなラオスで、日本から持ち込んだ100円均一の健康・美容グッズは人々の心をどうとらえるのか。なかなか興味深い調査だ。
無茶ぶりで鍛える行動力
2015年の夏休み、ラオスプロジェクトのメンバー7人はラオスの首都、ビエンチャンを訪問して調査を実施した。中心街にある多くの人々が行き交う公園で通りかかる人に次々と声をかける。ラオス保健科学大学の学生との共同調査だが、頼ってばかりはいられない。「とにかく言葉がわからないから、ジェスチャーとか何でも使って必死でコミュニケーションしました。苦しかった…」(ゼミ生)
今回調査した100均グッズは、小顔ローラー、竹ふみ、肩マッサージ器、頭皮マッサージ器、万歩計の5点。実際に使ってもらいながら、商品の満足度やいくらなら買うかを聞いていったという。この「いくらなら買うか」という調査項目は、支払意志額(willingness to pay:WTP)といい、市場に出ていないものにどれだけ価値があるかを調べる経済学の手法なのだそうだ。しかし頭皮マッサージ器って、泡立て器の切れたような形をした頭にあてて動かすとゾワゾワーとするあれ…用途を説明するの、いかにも大変そう。
しかも、年齢と性別に加え体重と身長もその場で測定し、BMIをはじき出して分析に使ったとか。いったい、街角でいきなり体重測定なんか気軽にOKしてくれるものなんだろうか、と首をひねっていると、「無料測定はむしろ、人寄せの決め手になるんです」と先生。ラオスでは体重計が高価で誰の家にもあるというものではないし、定期健康診断も広まっていない。身体測定が無料だなんてラッキー、ということらしい。
学生たちが苦労の末に集めたアンケートは50人分。神谷先生の指導の下、詳しいデータ分析を行って研究や事業化プロジェクトに活かしていく予定だ。大まかな調査結果によると、ラオスの人にとってもっとも高い価値があると認められたのは肩マッサージ器で、日本円で500円程度は出してもいいと考えているそうだ。反対に竹ふみは満足度は高いが、似たようなものが現地にあるためあまり高い価値を認められなかったらしい。
この街頭アンケート以外にも、学生たちは、ビエンチャンのモーニングマーケットで日本製の美容健康商品の評判や売れ行きの聞き取り調査などを実施。また、ラオスを訪問している外国人にインタビューをして動画に記録。その内容を「YOUは何しに○○へ~ラオス編~」として編集し、動画サイトにアップする予定だそうだ。
今回の調査を入口に、ラオスの人たちの生活改善につながるようなBOPビジネス(途上国の低所得層に有益な製品・サービスを提供するビジネス)プランへの発展など、可能性はいろいろ考えられると神谷先生。手始めに、ファッションや日用品がよく売られる中心的な市場、ナイトマーケットに「実際に学生の店を出してみてもいい」とも語る。次の挑戦はもう始まっているようだ。
ラオスプロジェクトがめざす事業化は、国際協力にあった「慈善」のイメージも塗りかえてしまう。神谷先生はBOPビジネスの推進で関西の民間企業と連携した取り組みも進めており、今後も「日本の技術や新しいアイデアで、途上国の人々の暮らしを変えるようなソーシャルビジネスの橋渡しをしたい」という思いがあるという。
まだまだ神谷ゼミの「国際協力×○○○○」は幅広いので、興味のある方は、後編へ。