ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

甲南大学の新施設「KONAN INFINITY COMMONS」で開催の「親子で楽しむ甲南大学『キッズフェスティバル』」に行ってきた

2017年12月5日 / 大学の地域貢献

去る11月3日(金・祝)は全国さまざまな大学で学園祭が行われていました。兵庫県にある甲南大学でも大学祭が開催され、キャンパス内は大盛り上がり。学生が中心となるイベントのほか、職員が中心となり企画した地域の子どもが遊べるキッズフェスティバルも同時開催。このイベントが9月に竣工したばかりの新施設「「KONAN INFINITY COMMONS(愛称:iCommons(アイコモンズ)」で開催されると聞き、会場におじゃましました。

 

「親子で楽しむ甲南大学『キッズフェスティバル』」は、さまざまな体験ができる子どもや親子のためのイベントです。当日は午前10時からのスタートでしたが、開場直後からたくさんの家族が来場されていました。

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1階ではお祭りのような「Kids縁日」を開催。フェイスペイント体験やバルーンアート体験、オリジナルエコバッグづくりなどが行われていました。

バルーンアートのコーナーでは学生が動物などを作成

バルーンアートのコーナーでは学生が動物などを作成

 

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オリジナルエコバッグづくりのコーナー

オリジナルエコバッグづくりのコーナー。スタンプやペンで好きにデコレーションができる

 

フェイスペイントコーナー

フェイスペイントコーナー

 

射的のほか、輪投げでお菓子の景品をとることができるコーナーも

射的のほか、輪投げでお菓子の景品をとることができるコーナーも

 

小学生以下の子ども限定でもらえるわたあめ配布所は大人気で長蛇の列ができていた

小学生以下の子ども限定でもらえるわたあめ配布所は大人気で長蛇の列ができていた


「Kids縁日」の会場ではベビーカーの一時置き場などもあり、小さな子どもづれでも楽に回れるような配慮がされていました。
いくつか机や椅子が並べられているスペースもあり、一時的に休憩するご家族もいました。

ほかにも、「Kids縁日」会場のすぐ隣にある「Agora(アゴラ)」では和太鼓演奏や体験も。

和太鼓サークル甲(きのえ)の演奏。途中は留学生も交えた力強い演奏に拍手がおこる

和太鼓サークル甲(きのえ)の演奏。途中は留学生も交えた力強い演奏に拍手がおこる

 

和太鼓体験は子どもたちに大人気

和太鼓体験は子どもたちに大人気


ほかにも経営学部の西村順二教授と神戸マイスター認定のパティシエによる「スイーツ教室」や「ヨガ教室」などの催しも実施。大人や子どもたちが存分に楽しめるイベントが多数開催されていました。

普段は近所にお住まいだというご家族にお話しを伺ったところ、大学に来たのは今回が初めてとのこと。「大学祭も基本的に子どもが遊べるところは多くはないので、今回みたいに子どもが遊べる場所があるのはいいと思いました」と好感触。次回もこういったイベントがあれば参加したいと言っていました。

泣き声などもほとんど聞こえず、たくさんの子どもたちが思い思いにイベントを楽しんでいる様子が伺えました。


さて。
今回会場となっている「iCommons」は2017年9月に竣工したばかりの新施設。
食堂やフットネスジムなど学生が利用するための施設ですが、1階の「CAFFÈ&BAR PRONTO
」や、4階にある「TSUTAYA BOOKSTORE」など、一部は一般の方が利用可能なんだそうです。せっかくですのでこちらについてもレポートします!

まずはエレベーターに乗って4階にある「TSUTAYA BOOKSTORE」へ。

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「TSUTAYA BOOKSTORE」では、本とともにコーヒーや軽食を楽しむことができます。なかでもオススメは甲南大学だけで楽しめる「KOCO Café No.836」というオリジナルブレンドコーヒー!

「KOCO Café No.836」はUCC上島珈琲株式会社と甲南大学生協が共同で開発したオリジナルコーヒーで、そのネーミングを経営学部西村ゼミ17期生が考案。836コーヒー(ハチサブロー)の愛称で親しまれているそう。ネーミングは甲南大学の創立者である平生釟三郎(はちさぶろう)の名前であることはもちろんのこと、「新たな甲南大学の始まりとなる第1歩を『ここ=KOCO』からはじめよう」という思いが込められているそうです。

メニュー表オリジナルブレンドやベリーなどの風味を追加したコーヒーが楽しめる

メニュー表オリジナルブレンドやベリーなどの風味を追加したコーヒーが楽しめる

 

「KOCO Café No.836」はパックで購入することも可能

「KOCO Café No.836」はパックで購入することも可能


せっかくなので、「KOCO Café No.836」をブラックでいただきました。香ばしい香りと、苦みが少し強いものの、あまり酸味や渋みを感じないためとても飲みやすいコーヒーだなと感じました。

 

コーヒーとフィナンシェでひと休み

コーヒーとフィナンシェでひと休み

 

カップホルダーには創立者のイラストが

カップホルダーには創立者である平生釟三郎氏のイラストが


1階の「CAFFÈ&BAR PRONTO」は食堂に隣接しています。

中から見た様子。「iCommons」の入り口からすぐの場所にあり、外からでもアクセス可能

中から見た様子。「iCommons」の入り口からすぐの場所にあり、外からでもアクセス可能


落ち着いた内装についつい長居をしてしまいそうになりました。

「iCommons」の一部施設は一般の方でも利用可能です。
大学は敷居が高い、と思っている方。ぜひイベントや学生以外も利用できる施設で大学を体験してみませんか?

エンタメ最前線を学生が斬る 立命館大学「SPOT編集部」

2017年11月13日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

立命館大学にエンタメ系雑誌を発行している学生団体があるらしい。雑誌といっても本屋に陳列される商業紙ではありません。しかし中を見てびっくり。読み応えのある記事に作り込まれた紙面。ぱっと見でこれが学生の作った雑誌だと思う人は少ないのではないでしょうか。
今回はこの「SPOT」をつくったSPOT編集部に話を伺いました。

 

業界の裏側に光を当てる「SPOT」の目的とは

SPOTとは、立命館大学の登録団体である「SPOT編集部」が定期的に刊行している、エンタメ業界、とくにアニメやマンガ、ゲームなどの業界について取り上げた雑誌です。編集部ではこの雑誌の刊行の他、雑誌に関連するイベントなども実施。
主に雑誌の編集を担う編集部と、イベントを主催する事業部、誌面デザインを行うデザイン部、そして最近新しく立ち上げたアニメ制作部と4つの部署で成り立っています。学生団体ではありますが、最近立ち上げたアニメ制作部では既存企業のように細かく役割分担をし、一般的なアニメ制作と同程度の制作スケジュールでアニメをつくるなど、企業的な体制が特徴です。

所属している部員は現在30人超。エンタメ業界に興味があり、その業界への就職をめざす学生が多く、実際にめざす業界へ就職した卒業生もいます。OBや他大学の学生も関わるインカレサークルとして活動しています。現在は立命館大学だけでなく東京にも支部を置き、活動をしているそう。

「元々は、すでに卒業された先輩方が、 立命館大学内にある『メディア芸術研究会』で季刊誌を発行していたのですが、研究会の色が濃く、さまざまな業界の方にインタビューをしたインタビュー集を別に作ろうということからはじまったのがSPOTです。その後2015年に『SPOT編集部』として独立しました」と語るのは、取材に協力いただいた副編集長の関戸さん。

 

立命館大学SPOT編集部副代表 関戸覚 さん

立命館大学SPOT編集部副代表 関戸覚 さん

 

「『SPOT』という名称は、普段あまり表に出てこない業界を支える裏方にあたる方々にスポットを当てたものにしようという理念がもとになっています。さまざまなイベントでの販売に加えて通信販売も行っています。また発刊の際には巻頭特集に協力いただいた方を招いての記念イベントも開催しています」とのこと。

2017年10月現在、最新号は7号。11月下旬 には8号の発行も予定されています。

一見商業紙と見まがうデザインだけでなく、掲載されている記事の濃さも一見の価値あり。6号ではジブリ映画のプロデュースにも関わる鈴木敏夫氏のインタビューを掲載。もちろん取材の依頼から当日のインタビュー、記事執筆まですべてこの編集部内で行っています。

今年9月には京都で毎年開催される「京都国際マンガアニメフェア2017(京まふ)」にも学生団体として初めて参加。「来年以降も参加するかは未定ですが、非常に勉強になりました」と関戸さん。
このイベントで発行されたvol.7では同イベントの裏側について取材し、大きく特集記事として掲載しています。

 

『SPOT vol.7』の紙面。さまざまな角度で「京都国際マンガアニメフェア」について掲載している

『SPOT vol.7』の紙面。さまざまな角度で「京都国際マンガアニメフェア」について掲載している

 

「京都国際マンガアニメフェア」当日のブース

「京都国際マンガアニメフェア」当日のブースの様子(提供:SPOT編集部)

 

「京都国際マンガアニメフェア」のブースで流されていたSPOT編集部の紹介PV

「京都国際マンガアニメフェア」のブースで流されていたSPOT編集部の紹介PV(提供:SPOT編集部)

 

フェアでは7号の表紙を飾った岡本信彦氏が出演する多作品のイベントが開催されていたこともあり、岡本氏のファンが大勢ブースに訪れたそう。一時は長蛇の列ができるなど、盛況だったといいます。

 

 

おもしろさだけではなく、業界の現在を伝えたい

企画で重視していることは、業界の現実を真摯に伝えるということ。
「5号、6号 では度々問題になるアニメ業界の人材育成についてなどを深掘りしています。こういった各号の大きな特集には業界の現状をしっかり伝えられるようなものをもってくるようにしています」

とくに反響が大きかったのは、3号の「地方化するアニメスタジオ」という特集。あまり意識したことがありませんでしたが、京都アニメーションをはじめ、有名なアニメ制作会社でも都市圏から離れた地方で活動する制作会社は少なくありません。

 

記事では制作会社WHITE FOXの伊豆高原スタジオを写真とともに紹介している

記事では制作会社WHITE FOXの伊豆高原スタジオを写真とともに紹介している

 

今後はSPOT8号の発行のほか、11月には表紙に登場予定の山谷祥生氏を招いた記念イベント、12月には「アニメ業界セミナー」を開催予定だそうです。

 

アニメ業界セミナーフライヤー



「SPOTはエンタメ業界への就職を目標に活動しているメンバーがほとんど。実際にこの編集部からさまざまな会社に就職した実績もあります。今後もこのつながりを大切にしながら、チャレンジを続けていきたいです」

Welcome! 龍谷ミュージアム「地獄絵ワンダーランド」で地獄体験ツアーをしよう!

2017年11月2日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

血の池地獄や針の山……。悪人が落ちるという世にも恐ろしい世界「地獄」。
とにかく恐ろしい場所というイメージですが、時代とともに絵画や文学の題材として取り上げられることも多くなり、エンターテインメントとしての側面も強くなるように。
今回は地獄の恐ろしい面とちょっとおもしろい面を「地獄絵」という切り口で体験できる龍谷大学の龍谷ミュージアムの特別展「地獄絵ワンダーランド」をレポート。
また、10月9日に開催されたプレミアムナイト企画「地獄絵 絵解き×音解き×美解き-今夜は地獄へ行かナイト」についてもご紹介します。

 

まるでテーマパーク?! 実はバラエティ豊かな地獄

龍谷ミュージアムは、京都・西本願寺の正面にある仏教総合博物館です。仏教を中心とした文化財を広く公開することで仏教文化の理解を広めるとともに、さまざまな学術研究を社会に発信することを目的としています。

今年は恵心僧都源信没後1000年ということもあり、源信が記した「往生要集※1」にちなんだ地獄絵の特別展を開催することになったそう。

地獄といえば恐ろしい場所というイメージですが、時代が下るにつれ、地獄のもつ不思議な魅力がエンターテインメントとして親しまれるようになります。
「今回図録などでも協力頂いている跡見学園女子大学文学部の矢島新教授の『かわいい仏像たのしい地獄絵ー素朴の造形』(PIEインターナショナル刊)という本に出会い、地獄を1つのテーマパークとして取り上げる企画に変更をしたんです」と村松さん。

矢島教授が日本の素朴絵研究でも活躍されていることもあり、仏教美術だけではなく素朴絵も交えた展示を検討。
素朴絵とは、緻密でリアリズムを求めた芸術性の高い絵画などとは異なり、庶民のために制作された縁起絵巻や御伽草子の絵など、一見すると稚拙だが、それゆえに愛らしさやぬくもりを感じられる絵のこと。これまで芸術作品として展示されることも少なく、歴史資料として扱われてきたものもあります。

初めは本当にこの内容で展示品を集められるのかと不安だったそうですが、いざお寺などに伺うと、驚くほどの数が集まったのだといいます。

今回集められた絵は、お正月に信者の方々に開帳してきたものやお寺で眠っていたものや素人やお寺の住職さんが描いたのだろう絵もあるといいます。
だからこそ素朴でユーモアがあり、親しみを感じる絵が多いのだとか。これが地獄絵ワンダーランドの大きな魅力になっています。

 

地獄の沙汰を決める十王の図

地獄の沙汰を決める十王の図(右:地蔵・十王図 東京・東覚寺/左:十王図 神奈川・明長寺)

 

舌を伸ばして地面に打ち付けられる罰を受ける亡者

舌を伸ばして地面に打ち付けられる罰を受ける亡者。悲壮ではあるが悲惨さだけではない魅力がある絵(白隠筆 地獄極楽変相図 静岡・清梵寺)

 

江戸時代頃に描かれた死絵

江戸時代頃に描かれた死絵と呼ばれるもの。人気歌舞伎役者を先に往生した先達が迎えに来ている(死絵 八代目市川團十郎 国立劇場)

 

館内にあるフォトスポット

館内にはいくつかフォトスポットも。ぜひここで写真を撮ってSNSにアップしてください!とのこと

 

子どもも大人も楽しめる展示に注目

展示は2階と3階の2箇所で開催。第1部である3階部分では「往生要集」の展示・解説や地獄の成り立ちと歴史、冷たく恐ろしい地獄を垣間見られる展示になっています。

 

「往生要集」の版本。完本としては現在最古のもの

「往生要集」の版本。完本としては現在最古のもの(往生要集 龍谷大学図書館)

 

そして第2部の2階ではさらに分かりやすく、テーマパーク的な地獄について紹介されています。こちらでは八大地獄を順に巡ることができたり、六道※2について説明されたパネルなども展示。

 

それぞれの地獄がどんな場所かがわかる。表示に沿って順に辿っていくお客さんも多い

それぞれの地獄がどんな場所かがわかる。表示に沿って順に辿っていくお客さんも多い

 

六道を苦しみの少ない順にしたランキング。

六道を苦しみの少ない順にしたランキング。やはり地獄が一番辛い!

どれも仏教に馴染みが薄い方や子どもでも理解できるよう、やさしい解説がたくさんあるのが印象的でした。
仏教を取り上げることが多い龍谷ミュージアムでは、普段のお客様の年齢層は比較的高め。しかし今回の展示では若い人や親子連れ、カップルの来場も多いそうです。

地獄を楽しめるのは展示だけではありません。
今回は付随するイベントも気軽に楽しめるものを多数開催。企業とコラボした謎解きゲームを行ったり、地獄No.1を決める「地獄選抜総選挙」をするなど、かなり力の入った催しになっています。

10月9日(月)に行われたプレミアムナイト企画「地獄絵 絵解き×音解き×美解き-今夜は地獄へ行かナイト」もそのひとつです。

 

地獄の成り立ちからエンターテインメントな地獄を楽しむナイト企画

「見る」「聞く」「感じる」といった五巻をフルに使って“ある意味、疲れる……これも地獄!?”盛りだくさんの内容で、たくさんの方々が参加されました。

 

龍谷大学大宮学舎本館講堂にて。

龍谷大学大宮学舎本館講堂にて。会場は満席

 

前半は地獄絵の絵解きとして、関西学院大学の西山克教授による地獄絵の絵解きが行われました。絵解きとは、仏教の教えを絵と語りで説く布教活動の一種です。
今回は「熊野観心十界図(熊野観心十界曼荼羅)※3」を題材に、六道や地獄についての解説を行いました。

 

関西学院大学 西山克教授

関西学院大学 西山克教授

 

実は女性ばかりが落ちるという血の池地獄や、生前愛した異性の呼び声に従って、刀の葉が茂る木をひたすら上り下りする刀葉林地獄など、地獄は細分化されかなりバラエティに富んでいるそう。
もちろん地獄なので、すべて想像を絶する苦しみがありますが、「例えば刀葉林地獄であれば、たとえ愛した人とはいえこんな木登るか?と思うかもしれません。けれど、愛した異性というのは恋人や、もしかしたら自分の娘だったりするかもしれない。そういう人が助けを求めていたら自分だったら登ってしまうかも」と西山先生。

実は極楽往生にもランクがあり、一番下のランクであれば、蓮のつぼみの中に生まれ変わり永遠に近い時を一生蓮の中で過ごす可能性もあるそう。
そういう孤独な往生と、触れられないとはいえ愛する人が目の前にいる刀葉林地獄のような地獄だったらどちらがいいか、など考えさせられる内容でした。

音解きでは、ファンファーレ・ロマンギャルドによる「組曲 六道」の演奏とともに、同組曲を題材にした影絵人形劇団 蝸牛車作の「地獄の影絵 組曲六道」を上映。生演奏の迫力ある音と影絵で描かれた鮮やかで不思議な映像に、六道それぞれの特徴や地獄の恐ろしさを感じ、とてもおもしろかったです。

 

影絵人形劇団 蝸牛車作 地獄の影絵 組曲六道とファンファーレ・ロマンギャルドの演奏に聴き入る

影絵人形劇団 蝸牛車作 地獄の影絵 組曲六道とファンファーレ・ロマンギャルドの演奏に聴き入る

 

地獄を目と耳で感じた後は、いよいよ地獄絵を鑑賞へ。
通常は閉館している龍谷ミュージアムで、獄卒(に扮した学芸員の村松さんや副館長(学芸員)の石川知彦さん)が地獄絵について生解説。
といっても難しいものではなく、「往生要集」の概要から地獄の歴史的な成り立ち、閻魔大王をはじめとした地獄の十王についてなどをわかりやすく解説してくださいました。

 

地獄の獄卒による地獄絵解説

地獄の獄卒による地獄絵解説

 

今回は展示とイベント両方に参加させていただきましたが、正直なところ、取材とは関係なしにもう一度行きたい、じっくり地獄を楽しみたいと感じる企画でした。
おもしろいのはもちろん、わかりやすい説明や展示で地獄だけでなく、仏教が説く教えについても考えるきっかけになるのではないかと思いました。

恐ろしい地獄と庶民の間で親しまれてきたユーモアを感じる地獄、その両端を一気に感じることができる今回の展示。
皆さんも一度地獄を覗いてみませんか?

 

※1 往生要集
恵心僧都源信が多くの仏教の経典や論書などから、浄土教の観点で極楽往生に関する重要な文章を集め、念仏の要旨と功徳を示した書物。地獄に関する詳細な記述があり、広く民衆にも影響を与えた。

※2 六道
仏教において迷いのあるものが輪廻するという苦しみがある6つの世界のこと。人界や地獄を含む。仏教ではこの六道輪廻から脱し、極楽往生する方法などを説く。

※3 熊野観心十界図(熊野観心十界曼荼羅)
中世末期から江戸時代にかけて活躍した熊野比丘尼が絵解きに使用したと伝えられているもの。仏教における宇宙を描いたもので、輪廻と悟りの世界を表現している。

遊んで学ぶ 大阪工業大学「工作・実験フェア」は大学で丸一日楽しめる!

2017年9月12日 / 大学の地域貢献

夏休みといえば、子どもにとって1年で一番楽しい休み。でも、工作や自由研究などの宿題もたくさん課される休みでもあります。今年はどうしようと親子で頭を悩ませていた、という方もいるのでは?
大阪工業大学では、毎年夏休みに大規模な「工作・実験フェア」を開催しています。第9回となる今年は8月11日に開催。その様子をうかがいました。

 

大阪工業大学は大宮キャンパス、梅田キャンパス、枚方キャンパスの3つのキャンパスがあります。1949年に工学部のみの単科大学としてはじまり、情報科学や知的財産についても学ぶことができ、工学・ロボティクスなどに強い大学というイメージがあります。

「工作・実験フェア」は同大学の建学の精神である「世のため、人のため、地域のため」という理念のもと、理科や工作好きの子ども達を育てようと企画されたもの。
このフェアで開催されるプログラムはなんと90以上! そのほとんどが工作を行ったり大学でしかできないような実験ができるため、毎年多くの親子が参加しています。

 

プログラム一覧

プログラムの一覧。当日参加可能なものでもどれに行こうか迷ってしまうかも


この日は10時からプログラムが開始。少し前に会場へ到着しましたが、この時点でかなりの人だかり!

 

途切れることなく続く人だかり

途切れることなく続く人だかり

朝10時の時点で1,600名ほどが来場、この日、最終的には約4,800名もの来場者があったそうです。

プログラムの約半数は事前申込が必要ですが、当日参加できる自由参加型のプログラムもけっこうあります。自由参加のものでも、ものづくりや理科実験、自然体験などができます。

当日は休憩スペースや学内の学食、コンビニなども稼働。普段入ることが少ない大学の研究室にも入れる貴重な機会でもあります。

パソコンソフトを使ってオリジナルのはんこを作るプログラム。研究室の中で開催

パソコンソフトを使ってオリジナルのはんこを作るプログラム。研究室の中で開催

 

はんこの面を削る超小型の加工機

はんこの面を削る超小型の加工機

 

自動歯みがき機をつくるプログラム。電子工作のプログラムも豊富だ

歯ブラシと振動モータを組み合わせて、振動で推進力を得るロボットをつくるプログラム。


こちらはアルミ板と厚紙でオリジナルペンダントを作るプログラム。

机の上には作り方とともに塑性加工についての分かりやすい説明もある

机の上には作り方とともに塑性加工についての分かりやすい説明もある

 

プレス機など危険がともなう作業はスタッフが行う

プレス機など危険がともなう作業は学生スタッフが行う

 

世界で一つしかないペンダントを作れる

世界で一つしかないペンダントを作れる


会場ではプログラムの案内だけでなく、そのプログラムに関係した掲示物も設置されていました。

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こちらはアルミニウムに関するクイズ。下側の紙をめくると……

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このように正解を見ることができます。楽しいだけじゃなくしっかり勉強もできるところが教育機関らしさを感じるところですね。

はんだ付けに挑戦する参加者の女の子

はんだ付けに挑戦する参加者の女の子

 

和紙を使ったランプシェード制作。工作要素の強いものもたくさんある

和紙を使ったランプシェード制作。工作要素の強いものもたくさんある


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こちらは毎年人気のペットボトルロケット制作のプログラムの様子。
講師は機械工学科の田原弘一教授が担当。宇宙推進工学を専門に研究している先生とのことで、ロケットの羽の位置なども細かく計算されているそう。そのおかげか、打ち上げではどれもかなりの飛距離が!

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打ち上げの様子

打ち上げの様子

 

打ち上げの様子。右上赤丸部分が打ち上げられたロケット。100メートルほど飛ぶものも

打ち上げの様子。右上赤丸部分が打ち上げられたロケット。100メートルほど飛ぶものも


思った以上に飛びすぎて、ロケットを回収する学生スタッフがグラウンドを走り回らなければいけないという思いがけないアクシデント(?)まで。
きれいに打ち上がるロケットを見て、子どもからも見守る大人からも「おー!」という歓声が上がっていたのが印象的でした。

大阪工業大学の「工作・実験フェア」は毎年開催。その他夏休みに限らず子ども向けのセミナーも随時開催されています。
こういったセミナーは大学ならではの高度な学問を肌で楽しむ絶好のチャンス。もしお近くで開催される催しがあれば、一度参加してみてはいかがでしょうか。

追手門学院大学の日本酒っぽくない日本酒を高槻市ハイウェイフェスティバルで飲んできた。

2017年9月7日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

ほとゼロでもこれまでにさまざまな日本酒を紹介してきましたが、「日本酒」という言葉で少し敬遠してしまう人もいるのでは。私も日本酒はあまり……の一人です。
以前ほとゼロでも紹介した、追手門学院大学が開発に携わった日本酒「MODERN」と「きっかけ」。こちらはまさにそんな人向けの日本酒です。
今回、この2つが7月に開催された高槻市ハイウェイフェスティバルで販売されると聞き、現場を訪ねました。

「MODERN」と「きっかけ」の二つは、追手門学院大学がある茨木市内の取り扱い店などで販売中。現在他地域の人は現地に赴くか、通信販売での購入が可能です。
この日は2つの卸、販売を担うかどや酒店が出店。追手門学院大学の学生も販売応援という形で関わっているとのこと。

昨年は米作りから日本酒完成までを手がけた追手門日本酒プロジェクト。今年は日本酒をどう販売するかということに主眼をおいて活動しているそうです。
昨年関わったメンバーもいれば、今年からプロジェクトに参加したメンバーも。このプロジェクトは学部学科の垣根を越えて希望者を募り活動する授業の一環なのだそう。

当日は夏らしいかんかん照り。呼び込みを行うのは、日本酒プロジェクトに関わる学生です。

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2種の日本酒は氷でキンキンに冷やされ、カップでの提供も行われていました。足を止めるのは若いご夫婦や女性が多いものの、ちょっと変わった日本酒に興味を引かれる方も少なくありません。

この日は追手門学院大学でプロジェクトにも協力している日本酒Bar あさくらの店主朝倉康仁さんの姿も。今回のプロジェクトには朝倉さんも関わっているそう。
今回はどのようにこの日本酒を作り上げたのか、その内容を尋ねました。

学生ならではの新鮮な視点で新しい日本酒が誕生!

――「MODERN」や「きっかけ」を飲まれる方はどういう方が多いんでしょうか?
朝倉さん「ワインが好きな方や海外から来られた方、女性に人気です。ひとくちに日本酒といっても、香りや味わいはさまざま。今回作られた『MODERN』は酸味が強く少しとがった味わい、『きっかけ』はライトな口あたりで飲みやすくなっているので、その当たりが好まれているんだと思います。
どちらも大きいマーケットを狙うような、オーソドックスなお酒ではありません。ただ、今回はたくさん売ることよりも日本酒を飲むきっかけにしてほしいというのが目的。その目的にはしっかりマッチしていると思います」

当日私も2つを飲ませていただきましたが、「MODERN」は白ワインのようなすっきりとして酸味が強く、いわゆる辛いお酒とも違う不思議な味わいでした。またきっかけはもう少し甘みがあり、とくに冷やして飲むとすっと飲めてしまうさわやかさが魅力。しかし飲みきった後はふわっと日本酒っぽい穀物の香りがわずかに感じられ、より日本酒らしさを感じました。
とはいえどちらもいわゆる日本酒らしい日本酒とは違う新しさを感じます。

――製造にも関わっていらっしゃるとのことですが、こういうお酒になるまでどういう経緯があったんでしょうか。
朝倉さん「どちらも企画段階で秋鹿酒造の協力のもと、さまざまな種類の日本酒を飲み比べたり香りの比較を行い、学生が方向性を決めています。
飲みやすいお酒、ということでフルーティなものや後味がすっきりしたものが選ばれるだろと思っていましたが、学生が選んだのは酸味が強いもの。少し意外な結果でした」

王道から外れた味であることもあり、本当に受け入れられるのかという気持ちもあったそうです。しかし結果として狙いどおりの効果が出ていると言うから、学生たちの勘の鋭さに舌を巻いたそう。
若い感性はすごい……!

 

学年や学部も超えたプロジェクトの魅力

今回呼び込みをおこなっていた杉岡さん(2回生)にもお話を伺いました。

お客さんの呼び込みを行う杉岡さん

お客さんの呼び込みを行う杉岡さん

 

――このプロジェクトに参加したきっかけはなんですか?
杉岡さん「元々、実家にさまざまな日本酒があったことから、日本酒に興味はありました。追手門学院大学に進学してからこのプロジェクトの存在を知り、おもしろそうだと思って手を上げました。
こういった呼び込みや営業の経験も初めて。とにかく知ってもらいたいというのがあるので、声をかけることを重視しています。笑顔も大切。秋鹿酒造の名前で足を止める方もいらっしゃるので、そういう方に『大学生が造ったお酒なんです』と説明したり。プロジェクトは学部も関係なし、やりたいと思ったことをどんどんやれるので楽しいです」

追手門学院大学日本酒プロジェクトはまだまだはじまったばかり。

「MODERN」「きっかけ」は今後も販売店やイベントで購入可能です。
とくに今まで日本酒に興味はあるけどチャレンジは……と思っていた方にはおすすめです!

立体錯視を体感しよう! 関西大学博物館「ノーマンD.クック教授、林武文教授のふしぎなサイエンスアート」展

2017年8月29日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

突然ですが、こちらの画像を見てください。

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横に通っている灰色の線が傾いて見えませんか? 線はすべて平行なのですが、その周りにある模様の力で傾いて見えるんです。

このような目の錯覚のことを錯視といいます。錯視といえば平面のものが有名ですが、立体を使ったものもたくさんあります。今回はそんな錯視の専門家である関西大学総合情報学部のノーマンD. クック教授の3Dイリュージョン作品と、映像の研究を行う同学部、林武文教授の作品を楽しめる、関西大学博物館「ノーマンD.クック教授、林武文教授のふしぎなサイエンスアート」展を訪ねました。

3Dイリュージョン(逆遠近錯視)とは?

展示されている作品は主に、3Dイリュージョン(逆遠近錯視)のもの。立体的に見える絵画や見る角度によって印象が変わるものなど、不思議で楽しめる新しいアートです。


具体的にはでこぼこのある立体に本来とは逆の遠近感をもつ絵を描くことで凹凸が逆に見えたり、人の動きに合わせて絵も動いて見えたりします。

こちらがその3Dイリュージョンの説明に使用されていた作品。


それぞれ描かれている絵は同じですが、凹凸が異なります。

一番下は平面に絵を描いたもの、真ん中は絵から受ける凹凸と同じ凹凸を施したもの。一番上が3Dイリュージョンに使用されているもので、絵の奥行きとは逆の凹凸が施されている

一番下は平面に絵を描いたもの、真ん中は絵から受ける凹凸と同じ凹凸を施したもの。一番上が3Dイリュージョンに使用されているもので、絵の奥行きとは逆の凹凸が施されている

 

一番上のパネルを横から見た図。絵で一番奥になる部分がパネルでは一番出っ張っている部分になる

一番上の箇所を横から見た図。絵で一番奥になる部分がここでは一番出っ張っている部分になる


凹凸があることで、見る方向によって絵の見え方が変化し、まるで動いているような不思議な感覚を味わうことができます。


こちらの作品の近くには、白いキャンバスにさまざまな絵をプロジェクションマッピングで映し出す作品もありました。このプロジェクションマッピングについては、総合情報学部の林武文教授が担当。
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3Dプロジェクションマッピング

3Dプロジェクションマッピング


こちらでも3Dイリュージョンの不思議を体験することができます。

その他にも、どこから見てもこちらを向いているように見えるコイや、

ノーマン・D・クック教授作「こいにこい!」

ノーマンD. クック教授作「こいにこい!」


文字が回転しているように見える作品も。

左から見た図

左から見た図

 

右から見た図。文字が反時計回りに回るように感じる

右から見た図。文字が反時計回りに回るように感じる


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こちらは横回転だけではなく、上下の見る位置によっても見え方が異なる。仕組みは上のものと同じ

こちらは横回転だけではなく、上下の見る位置によっても見え方が異なる。仕組みは上のものと同じ


また、2017年7月に完成したばかりという、最新の作品も初披露! 鏡に映った女性の姿を描いた作品ですが、こちらはぜひ会場で確かめてください。


一部の展示作品はかなり近くまで顔を寄せてじっくり眺めて楽しむことができます。

関西大学博物館「ノーマンD. クック教授、林武文教授のふしぎなサイエンスアート」は2017年9月30日(土)まで開催です。

この夏、錯視の不思議な世界に浸ってみませんか?

筆とあそぼう! 関大の体験イベント「キッズミュージアム」に潜入!

2017年8月22日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

絵日記や自由研究、工作、読書感想文などなど、小学校の夏休みはとくに宿題がたくさん出ます。とはいえ、これらもこなせば貴重な経験になるもの。また、各地の大学では夏休みを利用して、子ども向けの理科実験やミュージアム体験を行っているところも少なくありません。

今回はそのひとつ、関西大学博物館で開催された「一日書道教室~筆とあそぼう!~」におじゃましました。

このプログラムは同大学の博物館で開催されるキッズミュージアムというイベントのひとつとして開催。毎年申込が殺到する人気企画です。


書道に親しみ、楽しむことがコンセプト。指導には万葉書作家の鈴木葩光先生や伊賀本妙智先生を招き、自由に書く楽しさなどをしっかり教えてもらえるところが魅力です。

会場には漢字の成り立ちを知ることができる展示なども。

会場には漢字の成り立ちを知ることができる展示なども。


参加者はまず自分の書きたい文字を選び、名前入りのお手本をもらい、半紙に練習をします。途中先生にアドバイスをもらいながら、OKが出たら最後は色紙に清書するという流れ。清書したら次に消しゴムでオリジナルはんこを作り、名前と一緒に押して完成です。

書き順も教えてもらえる

書き順も教えてもらえる

 

お手本の数々

お手本の数々


お手本もひらがなや楷書のほか、篆書(古代文字)や英語まで! みんな自分の好きな文字を楽しんで書いていました。
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消しゴムはんこづくりでは彫刻刀を使用。初めての方にはスタッフから説明がある

消しゴムはんこづくりでは彫刻刀を使用。初めての方にはスタッフから説明がある


上手に書くことよりも楽しんで書く、一人一人がもつその子らしさを重視しているように感じました。途中、お母さんたちはあんまり手伝わないように!と先生がおっしゃる場面も。
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清書が終わったら今度は廊下の模造紙に好きな色、好きな大きさで字を書き、みんなで1つの作品を作ります。こちらは変わった筆や大きな筆を使い、みんな思い思いの字を書いていました。

なお、色紙の作品はキッズミュージアムでの展示後郵送してもらえるので、おうちに飾ることもできます。

「書道教室は初めてですが、毎年キッズミュージアムの催しには参加している」という方や、兄弟・姉妹での参加者、書道そのものが初めてという子まで、さまざまな子どもたちが形式にとらわれずのびのび書道を楽しんでいる姿が印象的でした。


夏休みは大学内で子ども向けイベントが増える時期。ほとゼロのイベントカレンダーにも子ども向けイベントをいくつか掲載しています。

【ほとんど0円大学 イベントカレンダー】
http://hotozero.com/event/

せっかくの夏休み、遊びながら一味違う学びを体験してみてはいかがでしょうか。

描くという発明 ファッション・プレートに見る人の装いの歴史 神戸松蔭女子学院大学講演会

2017年8月9日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

本屋に並ぶ色とりどりのファッション誌。今の流行や未来のファッションを提案するものとして確固たる地位を築いています。そういえばこういったファッション誌の起源はなんなのか? 実は昔から人々のファッションを提案する「ファッション・プレート※」がありました。このファッション・プレートについての荒俣宏氏の講演が神戸松蔭女子学院大学で4月30日に開催されましたので参加してきました。

 

※ファッション・プレート
当時の最新ファッションを伝える銅板手色彩の版画のこと。さまざまなファッション誌の付録として人気だった。

 

今回は荒俣氏の講演だけでなく、20世紀を代表するイラストレーター、ジョルジュ・バルビエのファッション・プレートの展示もあり、当時の華やかなファッションの世界をかいまみることができる貴重な機会でした。

 

起源は3万年前 「絵を描く」という発明から

ファッション・プレートについてのお話しの前に、そもそも「人はいつ絵を描くようになったのか?」についての話から、講演はスタート。
荒俣氏がいうには「人類が絵を描き始めてからおおよそ3万年が経つといわれます。1万年以上前のマンモスの写生画が現存していますが、これが実にうまい。ピカソがこの絵を見てうなったのは有名な話です」

当時、紙が存在していなかったため、洞窟などに壁画として描かれていたそう。岩肌の出っぱっている部分はおしりにするなど、でこぼこを活かした立体的な絵が描かれていたそうです。
そういった時代が続き、「人を描くにはどうすればいいか?」という疑問から「影絵をなぞればその人になるのでは?」という発見があり、これが現在の絵画に通じる「絵の発明」だったとされているようです。

 

生存戦略としてのファッションとコスチュームブックの隆盛

ファッションという単語そのものは「生存戦略である」ということが大きいとのこと。たとえば生き物の中にも、ファッショナブルになることで生存戦略に結びつけているものがたくさんいます。こういった性質はヒトにもあり、原住民の民族衣装や入れ墨などに見られます。

セイテンベラ

生存戦略として装う生物の例。セイテンベラの雄は雌を誘うため体に蛍光色の模様が浮かぶ

17世紀頃のヨーロッパでは中東のコスチュームに関心が向かい、民族衣装や現地の人々のコスチュームを写生し紹介するコスチュームブックが盛んにつくられるようになります。
南洋諸島のタトゥー文化などがコスチュームブックを通じてヨーロッパに紹介され、貴族の間で大きな衝撃を与えると共に、一大ブームを巻き起こしました。

コスチュームブックの一例

コスチュームブックの一例。これらを取り入れた衣装やタトゥーも流行した


しかし、「こういったコスチュームブックはあくまで現実にあるものをそのまま写し取ったもの。20世紀に流行するファッションブックとは異なるもの」だと荒木氏。
ですがこのようなコスチュームブックの存在が後のファッション・プレートの基礎となったのは間違いないようです。

 

個人を特定する“コスチューム”から誰でも着られる“ファッション”へ

ファッション・プレートのはじまりとも思えるのが、当時の街にいた婦人たちの服を描いたウィンセスラウス・ホラの銅版画集に描かれた、顔を隠した貴族の女性。
当時は、身にまとう衣装を見れば、その人がどこの、どんな地位にある人かを推測することが容易な時代でした。さらに顔があれば、ほぼ個人の特定が可能です。
そこで正体がばれるのを防ぐため、顔を隠したのではと思われます。※1

ウィンセスラウス・ホラの描いた女性

ウィンセスラウス・ホラの描いた女性

実はこれまでのコスチュームブックとファッション・プレートの大きな違いが「個人が特定できるかどうか」なんだそう。

ファッションというのは交換可能であり、誰でも自由に身にまとうことができるもの。さらに、ファッション・プレートで主役となるのは衣装であり、それを着ている本人ではありません。
この銅版画でも、主役はこの婦人ではなく、身にまとう衣装そのもの。
ホラがこのような絵を描いた背景には、イギリス内戦のさなかで売れない絵を何とか売るためだったのではといわれています。しかしこの時期を境に、外の文化(コスチューム)を紹介するコスチュームブックが、衣装が主役となるファッション・プレートへと変化していくのだそうです。

 

文化の変容と隆盛するファッション・プレート

さて、この時代衣装といえば量産品ではなく個々人に合わせたオートクチュールでした。当時お金がある貴族の元にはミニチュアマネキンに着せた衣装見本を送り、仕立屋が訪れることが多かったそう。
しかし18世紀頃から貴族が凋落し、それまで貴族文化であったオートクチュールを一般市民に対して展開するようになります。しかし貴族と市民では数が違います。ミニチュアを量産することは難しいため、業者は服の見本を紙に印刷したカタログを送るという方法をとることにしたそうです。

この時代のファッションカタログには、正面の絵と共に後ろを向いた絵がかなり多く存在します。後ろ姿も掲載することで、カタログとしての役割を果たしていたようです。「新しく誕生した中流の人々が後ろ姿も気にするようになったことも影響しているのでは」と荒俣氏。
この時代から「あの人が着ている衣装を着たい」ではなく、「あの服が着たい」というように、服が主人公として人々の意識が大きく変わることになりました。

これがファッション・ジャーナリズムの勃興につながったといいます。

ところで、このようなカタログとしての印刷物、ファッション・プレートといえるものが日本にも存在します。日本ではマネキンが存在せず、かなり初期から錦絵によるファッションブックが主流だったそうです。

江戸時代頃に日本で刷られた衣装集。「雛型」「ひいな型」として刊行されたそう。着物の柄がよく見えるように工夫されている

江戸時代頃に日本で刷られた衣装集。「雛型」「ひいな型」として刊行されたそう。着物の柄がよく見えるように工夫されている

 

「実際のファッション」から「ファンタジーとしてのファッション」へ

隆盛を極めたファッション・プレートは、少しずつ理想のファッションを描くもの、ファンタジーとして変化していきます。
20世紀、戦後と呼ばれる時代になり、心理学の概念がファッションの意味を変化させたことも一因にあるようです。

「たとえば、ジョルジュ・バルビエの描くファッション・プレートに『今日の幸福』※2というものがあります。これは実際に着用されている服を描いたものではなく、人々が身にまとうことで幸福になれる服をテーマに描かれたもの。このように、ファッションがただ着飾るものではなく、身にまとうことで幸福になるものという概念が付加されることになります」と荒俣氏。

この時代に描かれたファッション・プレートは先のカタログのようなものではなく、世界観をもって描いたものが増えます。
また、それまでは絵の中の女性も決まったポーズをとっているようなものがほとんどであったのに対し、着ている本人がうれしくなる、幸せであるということを示すような絵やさりげない動き、気取らないポーズが多くなります。

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20世紀のファッション・プレートの一部。さりげないポーズや1枚の絵として完成度の高いものが多い

20世紀のファッション・プレートの一部。さりげないポーズや1枚の絵として完成度の高いものが多い

「物語挿絵作家などが出てきた時代とも重なり、その中にはファッション・プレートを描いた作家もいます。ファッション・プレートに物語を見ることができるようになり、非常におもしろいものになっている」と荒木氏。
ここから現代的意味のファッションになってきたのではないかと考えられているそうです。

 

講演のあとはジョルジュ・バルビエのファッション・プレートを見学!

講演は以上。その後図書館で開催されていたジョルジュ・バルビエのファッション・プレート展示を見学しました。
ジョルジュ・バルビエのファッション・プレートは神戸松蔭女子学院大学が所蔵しているもの。展示は常設ではないため、貴重な機会です。展示ではファッション・プレートのほか、同大学のファッション・ハウジングデザイン学科の学生による服飾デザインの展示も。こちらはジョルジュ・バルビエのファッション・プレートから着想を得たものだそう。ほかにも、同大学のプロジェクトで制作されているカレンダーなどもありました。

同大学が所蔵するジョルジュ・バルビエのファッション・プレート

同大学が所蔵するジョルジュ・バルビエのファッション・プレート

 

こちらはジョルジュ・バルビエの絵を使用したクリアフォルダー(非売品)

こちらはジョルジュ・バルビエの絵を使用したクリアフォルダー(非売品)

ファッション・プレートから着想を得た衣装のデザイン(神戸松蔭女子学院大学竹丸彩花さんの作品)

ファッション・プレートから着想を得た衣装のデザイン(神戸松蔭女子学院大学竹丸彩花さんの作品)

 

衣装の蝶はすべて1枚1枚のモチーフを手でつなぎ合わせたそう。こだわりを感じる

衣装の蝶はすべて1枚1枚のモチーフを手でつなぎ合わせたそう。こだわりを感じる


講演と展示両方からファッションについて考えることができる非常におもしろい講演会でした。ファッション・プレートの展示などは不定期に開催されていますので、当時のファッションに思いを馳せてみてみるのも楽しいのではないでしょうか。

 

※1 顔を隠している理由には、作家自身の知り合いであったなど、諸説あります。
※2 ジョルジュ・バルビエの作品には、「今日の幸福、あるいは流行の雅」「今日の幸福あるいはモードの魅力」など、幸福をテーマにしたものが多数あります。

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