レアな地球外物質を間近で見るチャンス!京都大学総合博物館の企画展「宇宙からの手紙 隕石の発見からはやぶさ2の探査まで」
太陽系や銀河、ブラックホール…宇宙の大部分はいまだ謎に包まれています。そんな宇宙の謎を解くカギの一つが、地球に飛来する隕石です。京都大学総合博物館では、「宇宙からの手紙 隕石の発見からはやぶさ2の探査まで」と題し、隕石など地球外物質の研究を紹介する企画展が開催されています。地球外物質の実物も多数展示されているということで、宇宙を体感しに京都大学総合博物館を訪ねました。
世界中の地球外物質が大集合
自然史や文化史、技術史に関する260万点もの貴重な学術標本資料を収蔵する京都大学総合博物館は、京都大学の吉田キャンパス内にあります。東大路通に面した入口から館内に入り、エレベーターで企画展の開催されている2階へ。鑑賞にあたっては、今回の展示を企画された総合博物館助教の竹之内惇志先生が案内してくれました。
「京都大学は地球外物質の研究者が多く、扱っている地球外物質の種類もさまざまです。2020年12月に小惑星探査機『はやぶさ2』が小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルの研究にも、京大の先生が多く関わっています。ちょうどその成果もまとまってきていますので、これを機に京大の地球外物質研究について発信しようというのが今回の企画です」と、竹之内先生(以下、発言はすべて竹之内先生)。
展示は4つのチャプターから構成されていて、展示の約3分の2を占めるチャプター1では地球外物質全般、チャプター2では地球外物質研究のあゆみ、チャプター3では鉱物学としての地球外物質の分析、チャプター4では隕石と人との関わりが紹介されています。
展示室に足を踏み入れると目に飛び込んでくるのが、ショーケースに並べられたさまざまな隕石。これだけ多様な地球外物質が一堂に会するのは国内外でも珍しいそうです。来てよかった…!
最初の一画には、比較として地球の鉱物も展示されています。
「地球の石も宇宙の石も、同じく太陽の周りをまわっている石ですから、本質的には似た成分をしています。大雑把にいうと、地球は『かんらん石』のマントルと、『鉄ニッケル合金』のコアからできています。隕石も同じで、主にかんらん石と鉄ニッケル合金で構成されています」
地球も太陽系の一員であることが実感できますね。
もちろん、地球の石と隕石それぞれが持つ特徴もあります。たとえば、地球ではありふれた岩石である花崗岩は、地球外では滅多に見ることができません。花崗岩が生成されるためには水と、「プレート」と呼ばれる地球表面を覆っている岩盤の運動が必要なのだそうです。
一方、宇宙空間の特徴のひとつが無重力。宇宙空間で岩石が溶けると、表面張力のため球体として固まります。そんな球体『コンドリュール』が隕石にはたくさん含まれています。
チャプター1に展示されたさまざまな地球外物質の中から、いくつかピックアップしてご紹介しましょう。
まずは46億年のロマン、「太陽系の始まりの物質」。太陽系にある物質は太陽の周りに集まったガスやチリから生まれたと考えられています。そのガスが冷えて太陽系ができる時に、一番最初に固体になった物質が『CAI』と呼ばれるもので、いくつかの隕石に含まれている様子が観察できます。隕石の研究ではいろいろなことについて調べますが、そのひとつが年代の分析で、CAIはおよそ45億6700万年前にできたものだと考えられています。
次に、天体の中心部分からやって来たと考えられる隕石。まるでレトロなガラスのような美しい格子模様が入っていますが、その成分は鉄とニッケルです。「ウィドマンシュテッテン構造」と呼ばれるこの模様は、100万年にマイナス1℃といったスケールの、気の遠くなるほどゆっくりした速さで冷やさなければできない構造で、人の手では絶対に作ることができません。
そのほか、まるで太陽をぎゅっと固めたような、太陽とほぼ同じ成分をもつ隕石や、生き物の材料となったかもしれないアミノ酸などの有機物を豊富に含んだ隕石など、多種多様な地球外物質が展示されています。
ところで、地球外物質というとすごくレアなイメージがありませんか。ところが実際は、とても身近にあるものだというので驚きです。昨年度には、京大博物館の建物の屋上で地球外物質を探す調査が行われ、約40年分降り積もった塵の中に、地球外から来た可能性が高い粒子が1個見つかったそうです。そのサイズは10~20ミクロン(1000分の1ミリメートル)。このような小さな地球外物質は「宇宙塵(うちゅうじん)」と呼ばれています。
「隕石、宇宙塵、探査機のリターンサンプル。これらが地球外物質研究の三本柱で、実はそれぞれが違う情報を持っているんですね。宇宙塵やリターンサンプルは数十ミクロンの小さな物質ですが、それらがどういう環境で作られたのか、作られてからどういう反応があったのかなど、太陽系の成り立ちに関する実にさまざまなことを教えてくれます」
地球外物質は宇宙のどこから来るのか?
では、このような地球外物質は、どこから地球へ飛んでくるのでしょうか。
「太陽系の火星と木星のあいだには、小惑星がたくさん存在する『小惑星帯』と呼ばれる領域があります。はやぶさ2が探査したリュウグウも、もともとは小惑星帯にいた小惑星だと考えられていますね。地球外物質のほとんどは、この小惑星帯から飛来すると言われています。ただ不思議なのは、小惑星帯から来る地球外物質にはかつて氷を含んでいた証拠がみられます。氷が存在するのは、小惑星帯よりももっと外側の太陽から遠いところのはずなのですが、それがなぜ太陽に比較的近い小惑星帯にいるのでしょうか。
これについて、天体観測、天体力学など多方面の研究がたどり着いた仮説は、過去に太陽系の中で”かき混ぜ”が起こったということです。かつて、木星や土星はいまよりももっと太陽の近くをまわっていましたが、互いの重力の相互作用によって、太陽から離れる方向に移動していき、現在の位置に落ち着いたと考えられているのです。木星や土星のような巨大なガス惑星が外側へ動いたために、外側にあった小惑星が逆に内側へとやってきたんですね。ただこの仮説はまだまだ検証中で、今後また変わっていくかもしれません」
太陽系の惑星はずっと同じ位置にいたのではなかったのですね…!木星や土星が移動していったとは、話のスケールが大きすぎて驚きの連続です。
企画展の見どころ~日本初の隕石からリュウグウの粒子まで
地球外物質研究のあゆみを紹介するチャプター2では、日本で初めて科学的に分析が行われた「竹内隕石」や、京都大学総合博物館の目玉の一つともいえる「岡野隕石」が展示されています。岡野隕石は、今から120年前に兵庫県の岡野村(現在の丹波篠山周辺)に火の玉となって落ちた隕石です。この岡野隕石が当時の京都帝国大学にわたり、そこから京都大学の地球外物質研究が始まりました。
そして、もう一つの目玉といえるのが、はやぶさ2のリターンサンプル、小惑星リュウグウの粒子です。はやぶさ2について筆者は、2019年のリュウグウへのタッチダウンや2020年の地球へのサンプル投下を、リアルタイムでドキドキしながら見ていました。そのため、はやぶさ2が苦労してリュウグウから持ち帰った試料の実物を見ることができたのは、ことさら感慨深いものがあります。
チャプター3の「鉱物の分析」からチャプター4の「隕石と人との関わり」へと進むと、冷たい光を放つ一振りの日本刀が!これぞ、幕末から明治時代に活躍した武人・榎本武揚が隕石から作らせた「流星刀」です。(流星刀は期間限定展示のため、9月1日に展示は終了しました。)隕石から作った刀剣なんて、かっこよすぎませんか。もっとも、隕石にはニッケルがたくさん含まれているため日本刀の材料には適しておらず、玉鋼を混ぜて隕石成分はかなり薄められているそうです。
「実は昔から、ツタンカーメンのナイフなどのように、武器や神具に隕石が使われていました。昔の人々が、それを宇宙から来た石だと認識していたかどうかはわかりませんが、鉄の精錬が難しかった時代には、隕石は使いやすい鉄として貴重な素材だったのかもしれません」
「この展示を通して、地球外物質が実は身近な存在であること、最新の分析では非常に小さな物質からでも太陽系の成り立ちについてさまざまなことがわかるんだということが伝えられたらいいですね。そして本展示をきっかけに、この分野の研究者をめざす人が出てきてくれたらうれしいです」と竹之内先生。
地球外物質という「宇宙からの手紙」を通して、普段は手の届かない宇宙のスケールの大きさ、気の遠くなるような歴史が感じられたように思いました。それと同時に、私たち人類と隕石には昔から関わりがあったことをはじめて知りました。ぜひ京都大学総合博物館を訪れて、星空の向こうの宇宙に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。