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5本のサクソフォーンにスポットを当てたジャズコンサート、その舞台裏は? 大阪音楽大学の学生たち コロナ禍での挑戦

2022年2月17日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

「学生たちが企画したコンサート」と聞くと、読者の皆さんは、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。「学生が楽しんでいる」「学園祭の延長みたい」「とりあえず賑やか」など、学生たちの若々しさや手作り感をイメージすることが多いかもしれない。もちろん、そうした若者による活気あふれるコンサートも魅力的である。しかし、「音楽大学で学び、音楽で人と社会をつなぐ仕掛け人を目指す学生たち」が企画したコンサートならば、その魅力は、一味も二味も違うものになる。宝塚歌劇で知られる阪急電鉄宝塚線沿線にあるコンサートホールやイベントスペースでは、こうした学生たちによる「知的な魅力」に彩られたコンサートが精力的に開催されている。

 

2021年12月8日に豊中市立文化芸術センター(大阪府)で開催されたコンサート「EXPRESSION5」は、豊中市民ホール等指定管理者が主催し、大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻2年生たちが企画・制作を手がけた挑戦的な「ロビーコンサート」である。

 

同専攻は「音楽で人と社会をつなぐ仕掛け人」を育成する、全国的にも珍しい大学教育プログラムである。学生たちは、音楽を活用したプロジェクトの企画立案や運営を行い、音楽と社会をつなぐ活動を行っている。

 

ロビーコンサートとは、一般にコンサートホールのエントランスホールやオープンスペースなど「開かれた空間」で開催される小規模なコンサートである。分厚い扉や遮音壁で区切られた「閉じた空間」で行われるコンサートとは異なり、幅広い年齢層のオーディエンスが気軽に足を運び、くつろいだ雰囲気の中で音楽を聴くことができる点がロビーコンサートの魅力として知られている。

 

「EXPRESSION5」はロビーコンサートでありながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、密集を避け、人を分散されるため、多目的室という「閉じた空間」において、昼と夜の2部構成で開催された。閉じた空間では観客は音楽に集中できる一方、オープンスペースほど出入りが気軽ではないため、集客や演出面の工夫が求められる難しい状況であった。

仕掛け人たちは、こうした制限の多い開催条件にもかかわらず、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンを揃えた5本のサクスフォーンとピアノ、ベース、ドラムのスリー・リズムによる、サックスの魅力を凝縮したエキサイティングなジャズ・ステージを、昼と夜それぞれで異なる演出で、見事に成功させた。昼と夜の2部合わせて100名近いオーディエンスが会場へ足を運び、ジャズの生演奏を楽しんだのである。

サクソフォーンの演奏は大阪音楽大学の学生、ピアノ、ベース、ドラムは大阪音楽大学の卒業生

サクソフォーンの演奏は大阪音楽大学の学生、ピアノ、ベース、ドラムは大阪音楽大学の卒業生

 

そもそも5本のサクソフォーンによるジャズコンサートとは珍しい。こうした挑戦的な試みに満ちたロビーコンサートは、どのように創り上げられたのだろうか。企画立案からプロデュースまでを手掛けた、澤田青空さん(企画発案/統括)、三和奈々美さん(広報)、古川千鶴さん(舞台・観客/広報)(共にミュージックコミュニケーション専攻2年生)に、その舞台裏について話を伺った。

5本のサクソフォーン」という発想はどこから?

「EXPRESSION5」は、音楽を用いたコンサートやイベントの企画立案や運営について学ぶ同専攻2年生の演習授業の一環として企画・開催された。「サクソフォーンを中心としたロビーコンサート」という企画は、発案者である澤田さん自身の音楽体験をもとに提案されたという。

 

「以前、『3本のトランペットと1台のピアノによるコンサート』を鑑賞して、とても面白い組み合わせだと思いました。しかし、これがトランペットではなく複数のサクソフォーンであれば、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、それぞれの音程の高低や音色の違いを活かした、より魅力的なアンサンブルを構築できると感じました」(澤田さん)

お話を聞いた大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻のみなさん:右から澤田さん(企画発案/統括)、三和さん(広報)、古川さん(舞台・観客/広報)

お話を聞いた大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻のみなさん:右から澤田さん(企画発案/統括)、三和さん(広報)、古川さん(舞台・観客/広報)

 

澤田さん発案の企画は、授業内で行われた企画コンペを勝ち抜き、2021年7月頃から始動した。コンサート実現に向けて準備を進めるなかで、楽器編成や曲目、曲順についての詳細な検討が行われたという。

それにしても、なぜ5本のサクソフォーンという編成になったのだろう?

 

「当初の企画では、3本のサクソフォーンと1台のピアノという編成でしたが、この編成では編曲が難しいことが判明しました。そこで、ジャズのビッグバンドと同じ5本のサクソフォーン編成へと変更しました。この編成ならば、ビッグバンド用に編曲された楽譜を使用できるからです。

この変更を受けてリズムセクションも充実させたくなり、ベースとドラムも加え、ようやく編成を固めることができました」(澤田さん)

 

「曲目は、初めてジャズに触れる人でも生演奏でサックスの魅力を感じ取れるセットリスト(プログラム)を意識しました。前半は有名サックス奏者が好んでいたレパートリーを、後半はビッグバンドの演奏が映える楽曲を選びました」

当日のプログラム

当日のプログラム

 

「曲順については、まず前半の1曲目でサックスの音を意識してもらうため、サックス1本の演奏でコンサートを始め、2曲目以降は1本ずつ増やしていくことで、サックスの音の多様性を感じてもらうことを目指しました。そして、4曲目以降は5本のサックスが混ざり合った時の音色やグルーヴ感を感じてもらうことを意識しました。最終曲『Mercy, Mercy, Mercy』は手拍子を入れやすい、会場が明るく盛り上がれる楽曲として選びました」(澤田さん)

 

澤田さんのねらい通り、音色の異なるサックスそれぞれの個性と、徐々に音の厚みが増していく様子を楽しめるプログラムとなっていた。サックスの音が折り重なっていくごとに音色は複雑になり、グルーヴ感が生まれ、それと呼応するように手拍子で演奏に参加するオーディエンスも増えていく。サックスやジャズに詳しいオーディエンスも、そうでないオーディエンスも、プログラムが進むごとにステージと一体になれる構成だ。

アートワーク、SNS――広報の工夫

会場となったコンサートホールは大阪音楽大学と連携し、これまでにも様々なイベントを実施してきた。

今回の「EXPRESSION5」の準備では、特に広報戦略とコンサートホールとの関係構築において、これまでに上級生たちが積み重ねてきた実践を踏まえた上で、新たな取り組みが行われたという。

まず、広報戦略については、企画意図を凝縮したアートワーク(チラシやポスターなど)を制作し、集客ターゲット層を絞り込んだ開催告知を行うと同時に、将来、音楽関係の仕事に就くことに興味のある中高生たちにミュージックコミュニケーション専攻の存在を広く伝えるため、SNSを活用した情報発信が行われた。

 

「アートワークについては、文字の配置や間隔、写真や色の配置にこだわり、印刷した時に遠くからでもはっきりと『サックスのコンサート』だと認識できるようなデザインを計算して制作しました。バランスの良い、鮮やかなデザインを構築できたと感じています」(三和さん)

告知ポスター

告知ポスター

 

「広報戦略については、このコンサートに来るお客さんとは誰なのかを強く意識しました。ジャズ、サックスのコンサートなので、比較的年齢層の高い男性が多く集まるお店や高齢者施設に告知をお願いしたり、自分たちでチラシを配りに行ったりしました。また、このコンサートが吹奏楽からジャズへの入り口になれるよう、近隣の中学校や高校の吹奏楽部へチラシやポスターを送り、顧問の先生から生徒たちへの告知をお願いしました」(澤田さん)

 

広報では、SNSの活用も欠かせない。

「Web広報は、学内プロダクションのホームページやTwitter、Instagramに加え、新たにTikTokを活用しました。中学生や高校生のユーザーが多いSNSを活用することで、ロビーコンサートの告知だけでなく、これからの進路について考える人たちに向けて、自分たちの専攻が何をしているのかを知ってもらえる機会になれると考えたからです」(古川さん)

古川さん

古川さん

 

地元コンサートホールとの協力関係

さらに、もうひとつの新たな試みとして、「EXPRESSION5」の企画・運営では、授業の初期段階から当日まで、コンサートホールのスタッフによる丁寧かつ、きめ細やかな指導が行われたという。

 

「プロとして第一線で活躍しているスタッフの方から、ロビーコンサートとは何か、どのような企画を立て、どのような舞台設営を行い、お客さんに何を提供することが求められるのか、といった根本的な考え方を、企画の最初の打ち合わせ段階で教えていただきました。その方から指導を受け、多くの言葉を交わすなかで、多目的室でロビーコンサートを開催する意義だけでなく、舞台にまつわる様々な知識や経験について教えていただきました」(澤田さん)

 

現場で経験を踏んだプロならではの指導は、学生たちにとって貴重な糧となったようだ。地域のコンサートホールと大学とが協力関係を築き、ステージの「仕掛け人」たちを基礎から育成する試みは、本プロジェクトの肝と言える。

準備中の会場

準備中の会場

 

会場演出とプログラムに込められた意図

「EXPRESSION5」は、昼と夜の2部構成で開催されたことによって、同一の企画であるにも関わらず2回のコンサートそれぞれが異なる表情を見せていた。こうした開催形態の決定に大きな影響を与えたのは、冒頭で紹介したコロナ禍による制約に加え、ジャズ独自の演奏様式であったという。

 

「企画が走り出した当初は、単純に密集を避けて人を分散させる意図で、2部構成での開催と、多目的室という扉のある会場での開催を決めました。また、これまでの会場の傾向から、昼の部と夜の部とでは、集客人数や年齢層が異なることも想定していました」(澤田さん)

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昼の部では、親子連れやシニア層まで60名程度のオーディエンスが集まり、大きなガラス窓から外光が入る明るい雰囲気の空間でリズミカルな演奏が展開された。特にプログラム後半は、拍手や手拍子によるオーディエンスの参加度も高く、子供から大人まで一緒に演奏を楽しんでいる光景が繰り広げられていた。

一方、夜の部では、大人を中心に30名程度のオーディエンスが集まり、落ち着いた雰囲気の空間で、グルーヴ感がより強調された重厚なサックスのアンサンブルが展開された。プログラム全体を通して拍手や手拍子は控え目で、大人のためのジャズ空間といった光景が繰り広げられていた。

 

「最も大きな理由は、この企画がジャズのコンサートだったからです。ジャズはアドリブ演奏が可能な自由度の高い音楽なので、1回1回の演奏が異なります。お客さんの反応に合わせて表情を変えることができるジャズだからこそ、こうした制約の多い状況下で、音楽的に充実したコンサートを開催できたのではないかと思います。このことは、企画を担当した私にとって、とても励みになりました」(澤田さん)

 

昼の部と夜の部とでは、セットリストの一部を入れ替えただけでなく、照明も異なる演出プランが用意された。舞台演出を担当した古川さんは、照明について工夫した点を次のように話してくれた。

 

「ロビーコンサートらしさとは何かということを意識して、全体の照明プランを組みました。ロビーコンサートが持つ開かれた雰囲気を演出するため、客席の照明はあえて灯したままにしました。また、舞台照明については、複雑なことをするのではなく、6台のLEDライトを使って1曲につき1色、楽曲のイメージに合ったものを映し出すように工夫しました」(古川さん)

照明プランを確認

照明プランを確認

 

澤田さんたちの言葉どおり、昼の部と夜の部とでは、基本構造は共通であるにもかかわらず、異なる雰囲気のコンサート体験がオーディエンスに提供された。

コンサートの舞台では、まさに一期一会の演奏が展開される。特にジャズの場合は、同一の楽曲でも会場の雰囲気に合わせて大きく表情を変化させる。こうしたジャズの音楽的特性と時間帯、客層の違いを意識した学生たちの工夫が功を奏したと言えるだろう。 

舞台と客席を見守る

舞台と客席を見守る

 

コロナ禍で生演奏を楽しむ機会が激減していた中、オーディエンスからは「久しぶりに本格的なジャズの演奏を聞いて、ものすごくいい気分転換になった」「音楽に浸ることができて、日常の雑事を忘れた。音楽の力ってすごい」「本格的に音楽を学んでいる学生さんやプロの演奏を気軽に楽しめるのはありがたい。ぜひまた来たい」といった声が聞かれた。オーディエンスは生演奏による音楽体験を通じて、コロナ禍で落ち着かない日常においても、特別で優雅な時間を過ごすことができた様子だった。

 

「EXPRESSION5」は、コロナ禍による逆風下での企画運営となったが、その制約を乗り越え、幅広い年代のオーディエンスへサックスの魅力を伝えるロビーコンサートとして大きな成功を納めた。その背景を紐解くと、学生たちによる学びと挑戦への意欲、そして、学生たちと地域のコンサートホールとの綿密な連携が大きな鍵であったことがわかる。加えて、学生たちが自らの「学びの場」を継続・発展させていくため、次の世代に向けた情報発信を自覚的に始めたことも、このロビーコンサートの大きな成果であったといえる。

 

「音楽で人と社会をつなぐ仕掛け人」を育成する大学教育プログラムは、学生たちの成長とともに着実に成果を重ね、その価値を高めている。大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻による実践は、音楽のビジネスとしての側面以上に、これからも地域の音楽文化振興の一端を担い続けることが期待される。

コンサートを終えて ※撮影のためマスクを外しています

コンサートを終えて ※撮影のためマスクを外しています

大阪音大の学生たちがプロデューサー。「TAPたっぷりタップダンス!」公演の舞台裏

2020年4月21日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

素晴らしいコンサートやイベントの舞台裏には、観客に気づかれることなく、感動と魅力的な音楽体験を演出する「仕掛け人」たちの活躍がある。

 

2016年に誕生した大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻は、音楽で人と社会をつなぐ「仕掛け人」の育成に取り組む、全国的にも珍しい大学教育プログラムである。学生たちは、音楽事業の企画・運営拠点として設置された学内プロダクション「epoch/c(エポック)」での実践的な学びを通じて、大学内外の人々と協働しながら、音楽を活用した様々なプロジェクトに携わっている。

 

そのひとつが、2020年1月24日に豊中市立文化芸術センター小ホールで開催された専攻主催コンサート「TAPたっぷりタップダンス!」である。このコンサートでは、前半の第1部に国内随一のタップダンサーと、ピアノ、サックス、ヒューマンビートボックスとのコラボレーション・ステージが、後半の第2部にホール全体が一体となってリズムを響かせるオーディエンス参加型のタップダンス・アンサンブルが展開された。こうした、タップダンスを様々な切り口で紹介する先鋭的な演出が試みられたコンサートは、どのように創り上げられたのだろうか。このコンサートの企画立案からプロデュースまでを手掛けた、巽美寿紀さんと吉川さくらさん(現在ミュージックコミュニケーション専攻4回生)に、その舞台裏を明かしてもらった。

吉川さん(左)と巽さん

吉川さん(左)と巽さん

厳しい企画コンペを通過した理由

巽さんと吉川さんは、2017年の春、この専攻へ進学した現役音大生である。「TAPたっぷりタップダンス!」は、3回生を対象とした有料コンサートの企画・運営について学ぶ必修授業の課題として、2人が提出した企画案であった。

「TAPたっぷりタップダンス!」のチラシ

「TAPたっぷりタップダンス!」のチラシ

 

「自分が行きたいと思える理想のコンサート、ただ演奏を聴かせるだけじゃなくて、観客の皆さんも参加できて何かを得られるコンサートを目指しました。第1部はショーだけど、第2部ではお客さんも一緒に参加できる。演出にはこの緩急を付けたかった」(巽さん)

 

授業では企画コンペが開催され、ここで選ばれた上位2組の企画だけが次のステップへと進むことができた。この企画コンペでは、学生が自身の企画書をもとに教員やコンサートホール関係者の前でプレゼンを行い、企画の斬新さや完成度などについて、専門的な評価を受ける。こうした厳しい競争を経て選ばれた「TAPたっぷりタップダンス!」の企画は、コンサートホールの音響特性を十分に考慮した点、そして、タップダンスと他ジャンルとのコラボレーションを目指した点が審査員の高評価につながったという。

 

「1回生の授業で豊中市立文化芸術センターを見学して、ホール担当者から、ホールの特徴や音の反響へのこだわりについて説明を受けたことがあったんです。この時から、どんな音ならホールで綺麗に響くのかをずっと考えていました。そんな中、素人がタップダンスに挑戦する企画をテレビで見たときに、タップダンスってカッコいいし素人でもできるところがすごいなと思って、この企画を提案しました。演出については、ずっとタップダンスだけを見せるのではなく、新たな刺激として、タップダンスと様々な音楽ジャンルとのコラボを展開させた方が面白いと思ったんです。そこで注目した音楽ジャンルが、クラシックとジャズとヒューマンビートボックスでした」(巽さん)

 

ヒューマンビートボックスは口やのどを使い、打楽器の音や様々な効果音を表現する奏法である。ピアノやサックスの演奏に、複雑なリズムを生み出すヒューマンビートボックスが加わることによって、視覚的にも聴覚的にも、ユニークかつ躍動感のあるタップダンス・ステージが企画された。

タップダンスとヒューマンビートボックス

タップダンスとヒューマンビートボックス

半年以上をかけたコンサート制作

企画コンペ終了後、学生たちは半年以上をかけて、タップダンサーやミュージシャンへの出演交渉、ホールとの打ち合わせ、スケジュール管理、舞台演出、広報活動など、コンサート制作にかかわるあらゆる仕事に取り組んだ。教員や出演者たちのサポートを得て準備を進める中で、有料コンサートをプロと一緒に創り上けることの苦労も経験したという。

 

「タップダンスのリハーサルは、大学で広めの練習室を借りて、自分たちでタップダンス用の板を運んで準備しました。ホール関係者に加え、プロの出演者が8人もいるため、それぞれの要望を聞きながらスケジュールを組むのがとても大変でした」(吉川さん)

 

「チケットの売れ行きがあまり良くなかったときに、先生たちから広報が足りてないと強く指摘されてしまったんです。どうするのが効果的かなと考えて、フライヤー配布やインターネットでの広報に加えて、新たに専攻からプレスリリースを発表して、大手メディアからも情報を発信しました」(巽さん)

最後まであきらめなかった音響装置と舞台演出

コンサート制作の中で、2人が最も工夫を凝らした点が音響装置と舞台演出であった。音響については、ホールの音響特性を細かく分析し、タップ板の周りや内側に複数のマイクを設置することで、タップの音をすべての客席に美しく響かせることを目指した。当日のリハーサルでは、タップダンス用の音響設営のために長時間を割き、タップダンサーの協力を得ながらバランスの調整を行った。

 

舞台演出については、タップダンサーを目立たせるための平台設置に加え、ホールの内装と調和したシンプルな照明を採用し、観客が演奏に集中できる空間演出を目指した。当日の客席では、こうした学生たちの細部にわたる工夫によって、舞台上で繰り広げられるタップダンサーのダンスに注目しながら、ホール全体に軽やかに響くタップの音、そして生楽器とのコラボ演奏を全身で体感することができた。

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第2部のタップダンス体験コーナーについては、タップダンサーと綿密な打ち合わせを経て、観客が達成感を得られるような工夫を行ったという。

 

「誰にでもできそうだけど、少し難しくて、できたときに達成感を得られるラインを探りました。お客さんがタップダンスに興味を持って、もう少しやってみたいと思えるような体験コーナーにしたかったんです。本番では皆さんがタップを踏んでくれて、会場全体がタップダンスでひとつになれる場が作れたのではないかなと思います」(吉川さん)

 

客席の床を爪先と踵で踏み鳴らす体験を、筆者はとても鮮明に記憶している。一見、簡単そうに思えたステップでも、実際に足を動かしてみると、上手く音を鳴らすことの難しさに気づく。しかし、舞台からの掛け声に合わせて丁寧にステップを刻んでいると、次第に客席のタップ音も、自分のタップ音も大きくなる。そして、自信が付いた頃には楽器の音も加わり、観客ではなく演奏者の一人として、ホールの一体感やリズムを生み出す快楽を存分に体感することができたのである。

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学生たちが主体となって創り上げた初めての有料コンサートはホール全体を包む盛大な拍手でフィナーレを迎えた。集計した来場者アンケートによると、内容や学生の対応に大変満足した、レクチャーが楽しかった、次はタップダンスと自分の好きな音楽とのコラボレーションを企画してほしいなど、多くの好意的な意見が寄せられていた。

 

「コンサートをやり遂げたことで自信が付きましたし、チームで成長できたことを実感しています。これからも、お客さんの気持ちを動かせるような存在になりたいです」と、2人は語ってくれた。

 

音楽を専門とする大学は、地域の音楽文化振興において、その中心を担う社会的役割を期待されている。大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻が実践する「音楽と社会」とをつなぐ取り組みは、その「仕掛け人」である学生たちの成長とともに、着実にその成果を積み重ねている。

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