【第8回】ほとゼロ主催・大学広報勉強会レポート。大学オウンドメディアのいまとこれからを考える
2023年8月31日 / ほとゼロからのお知らせ, トピック
ほとんど0円大学では、2019年から大学広報関係者を対象に勉強会を開催しています(勉強会レポートの一覧はこちら)。2023年7月21日に開催した第8回のテーマは、ずばり「大学オウンドメディアのいまとこれから」。
大学の研究・教育・社会活動を広く発信するプラットフォームとしてかなり浸透してきたオウンドメディアですが、その目的や運営体制は大学によってさまざま。当然、表現方法も千差万別です。今回の勉強会では、東洋大学、千葉大学、同志社女子大学、立命館大学から担当者をお招きして、オウンドメディア立ち上げの経緯や運営ノウハウについて発表していただきました。
・東洋大学「LINK@TOYO」
・千葉大学「CHIBADAI NEXT」
・同志社女子大学「ひとつぶラジオ」
・立命館大学「shiRUto」
「大人向け」に特化したことが成長の鍵。東洋大学「LINK @ TOYO」
最初に登壇いただいたのは、東洋大学 総務部広報課の中村智治さん。2017年から運営されているオウンドメディア「LINK@TOYO(https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/)」をご紹介いただきました。
目を引くのは、興味を惹かれる特集テーマやキーワードが散りばめられたサイトデザイン。ページを上から下へスクロールしていくだけで、気になる記事がいくつも見つかるように設計されています。「大人向けのウェブマガジン」に特化した見せ方とコンテンツの充実度は、ほとゼロ編集長・花岡も自身のブログで「現時点での大学オウンドメディアの最高峰」と紹介しているほど。
そんな東洋大学のオウンドメディア(当初は「LINK UP TOYO」)がスタートしたのは2017年。スポーツで知名度が高い東洋大学ですが、多方面で活躍する研究者や卒業生を紹介することでイメージに厚みを持たせたい、なかでもとくに研究者のメディア露出を増やしていきたいというねらいがあったそうです。2020年にファンの獲得と価値向上をめざしてサイトをリニューアルしたところ、PV数がぐんと向上。今では月平均32万PVというから驚きです。この伸びを実現できた背景には、ターゲット層とコンセプトを練り直し、「社会人層の教養や学び直し」に特化したことが大きかったと中村さんは言います。
露出を増やすための具体的な施策にも抜かりはありません。想定キーワードの検索結果で上位10位以内という目標を設定してSEOに取り組んだり、外部のニュースサイトと連携したりと、より多くの人に届けるための地道な取り組みが今に繋がっているようです。
「大学が発信したい情報だけではなく、世の中が欲している情報を提供することが重要」と中村さん。また、「PV数を意識せざるを得ない面もあるが、そこに執着しすぎず『先生たちへの取材依頼の増加』と『ブランドイメージの厚みの向上』を目標に取り組んでいきたい」と締めくくりました。
研究を発信するための新しい場所をつくる。千葉大学「CHIBADAI NEXT」
次に登壇いただいたのは、千葉大学 特任准教授 学長特別補佐 広報担当の日高祐一さん。
千葉大学の「CHIBADAI NEXT(https://www.cn.chiba-u.jp/)」は開設してまだ1年という新進のオウンドメディアです。研究紹介記事はもちろん、記事に紐づいた研究者データベースも充実していることが特徴。ほぼ週1回という「国立大学としてはめずらしい高頻度」(花岡談)の更新ペースからも、研究情報を発信することへの強い意志を感じるメディアとなっています。今回の発表では、その立ち上げのお話を披露していただきました。
2020年の学長交代を機に研究情報の発信に力を入れることになった千葉大学。しかしそもそも、大学や研究者が研究の情報を発信する機会は、論文発表など研究成果が一定の形になったタイミングに限られてしまっていると日高さんは言います。一方、ユーザー側の動向はというと、千葉大学のサイトを訪れる人の大部分は研究関係のコンテンツを見ていないということもわかりました。
研究を発信しようにもネタが無い、発信手段がない、社会からの関心がない、という状態。しかし裏を返せば、新しい発表の場をつくり、一つひとつの研究のストーリーを深掘りしていくことで社会との接点をつくることができるのではないか。そんな逆転の一手として持ち上がったのが、オウンドメディアを立ち上げるという手段でした。
こうして動き出したCHIBADAI NEXT。最終的なゴールは優秀な研究者の獲得と、他の研究機関や企業・自治体等との連携を広げることですが、より広く社会に研究情報を届けるために開設時に3つの方針を定めたそうです。
・記事が専門的になりすぎることを避けるため、研究者を「めざす人」や「文系の」新規事業担当者にも理解いただける内容とする。
・多様な研究内容の中から、社会の課題や潮流といった関心事と重なり合う部分を見極めて記事のテーマに落とし込む。
・予算のなかで最大限メディアの魅力を高め、かつ学内にノウハウの蓄積できるように、企画・編集・サイト運営を学内で回し、執筆・撮影を学外のプロに発注する体制を構築する。
こうした方針に加えて、SEO対策として研究キーワードや所属学会、メディア掲載などの情報を充実させたなどの工夫が功を奏し、半年を過ぎた頃からPV数も増加してきているそう。
最後に日高さんは、「広報全体で考えると、研究をオウンドメディアのコンテンツという形に落とし込んで蓄積しておくことで、メディア取材やSNS、イベント、講演会、出版など多様な展開につなげることができる」と語ってくれました。研究情報のデータベースとしてオウンドメディアを育てていく、という考え方は意外と新鮮ですが、CHIBADAI NEXTを見ればその説得力は十分です。
産休・育休の経験から辿りついた音声メディア。同志社女子大学「ひとつぶラジオ」
続いて、ラジオ番組が始まりそうな爽やかなジングルとともにご登壇いただいたのは、同志社女子大学広報課の川添麻衣子さんと、株式会社バンバンバンの吉井和久さん。
同志社女子大学では、Podcastと書き起こしテキストを組み合わせたオウンドメディア「ひとつぶラジオ(https://hitotsubu.dwcla.jp/)」を2022年にスタート。巷では音声メディアが注目を集めていますが、音声をメインに据えた大学オウンドメディアはまだ多くありません。一体どうして「ラジオ」だったのか、その背景には川添さんご自身の体験がありました。
2018年の末から産休・育休を経験した川添さん。はじめての子育てで、本を読んだりテレビを見たりするのもままならない日々を経験します。単に忙しいというだけではありません。仕事で人と関わる機会がなくなったことで、新しい情報を得て、自分自身を成長させることも難しくなったと感じたそうです。
2020年から広報部に復帰し、新たにオウンドメディアの立ち上げを担当することになったときに、自身の経験を振り返り「教員の研究活動を素材とする」、「忙しいなかでも手軽に新しい情報に触れられる」「日々に彩りと希望を見出す契機になる」というコンセプトが定まってきました。しかしこのときはまだ、メディアの形式は決まっていません。イメージを具体化する作業のなかで「36歳で市役所勤務の女性、夫と小学生の子供二人と暮らし、猫を買っている」というペルソナをつくり、このペルソナを深掘りしていった末に、最終的にラジオという形が見えてきたそうです。
川添さん自身のライフストーリーが反映されて生まれた「ひとつぶラジオ」。川添さんは企画だけでなく、先生の話を引き出すナビゲーターとして毎回出演もされています。ナビゲーターの心構えとして、「リスナーと同じ立場で、あえてあまり事前に知識を入れずに生身でお話に反応していく」「さまざまな話し方の先生がいるなかで、できるだけ先生の個性が現れるように、自分自身が臨機応変に対応していく」といったポイントを教えていただきました。
音声コンテンツの制作を担当する吉井さんからは、技術面にフォーカスして「音声メディアはこんなに楽しい」というお話をしていただきました。ラジオを聞く層も今やほとんどがラジコのタイムフリー視聴。コンテンツ消費がほとんどスマホで行われているので、大学が発信するコンテンツもいかにスマホで完結するかを意識する必要があると吉井さんは言います。
映像制作も手掛ける吉井さんから見た音声コンテンツは、企画・制作が「早い」、制作費が「安い」、とにかく「お手軽」と良いことずくめ。「企画を始めるハードルが低いですし、少人数でワイワイ作る楽しさもある。みなさんもぜひチャレンジしてみては」とのことでした。そういえば、ポッドキャストでも教養系のトーク番組は人気ジャンルです。大学発の音声メディアはこれからもっと増えてくるかもしれません。
大学名を冠さず、独立したメディアとして勝負する。立命館大学「shiRUto」
最後の発表は、立命館大学 総合企画部広報課の名和拓哉さん。立命館大学の「shiRUto(https://shiruto.jp/)」は、暮らしのなかで誰もが気になる話題と研究紹介とをかけあわせたニュースサイトのような読み味が魅力のオウンドメディアです。他の大学メディアとの大きな違いは、大学名を大きく掲げていないこと。実際にサイトを見てみても、ページを一番下までスクロールしないと立命館大学の名前が出てきません。その理由とは?
オウンドメディアを開設した背景にあったのは、立命館の情報を積極的に収集しない層や、そもそも無関心な層にいかにPRするかという課題でした。そこで立命館が選んだのは、大学名を関した情報をプッシュ(自薦)することではなく、有用な情報を発信することで結果として大学情報に触れてもらう「他薦」型コンテンツの発信に取り組むことだったといいます。こうして、人々が抱える困りごと、知りたいことを取り上げ、研究者の言葉で解説を加えるというshiRUtoのスタイルが確立。2021年に行ったリニューアルでは、「社会課題の『解決』の一端を担うメディアへ」という一歩踏み込んだコンセプト方針を掲げました。
現在、shiRUtoはトレンドや社会のニーズ、SEOを意識した通常記事と、大学として力を入れているテーマを複数の研究者の視点で掘り下げる特集コンテンツの2本柱で構成されています。めざすのは、「困りごとを解決する手段を探せば、その先にいつもshiRUtoがある」状態を作り、「shiRUtoには社会課題を解決する知見が集約されている」という認知につなげる流れです。
shiRUtoは内部でも評価されるようになり、学内の研究者から「取材してほしい」と声がかかるようになっているのだそう。名和さんは最後に「今後も大学公式サイトからは一線を引いて、独立したウェブメディアとしてさらに認知されるように勝負していきたい」と締めくくりました。オウンドメディアで大学の価値を引き上げていくという本気の姿勢を見せていただき、刺激を受けた参加者も多かったのではないでしょうか。
オウンドメディアに正解はない、だからこそ目標と日々の積み重ねが大切
休憩を挟んで、後半は登壇者による座談会に突入。オウンドメディア運営の裏側についてさらに突っ込んだお話をお聞きして盛り上がりました。
「ネタ探しってどうしてる?」という問いかけには、「ヒアリングやプレスリリースのチェック、SNSでのエゴサーチなど、広報全体として積極的に情報収集している」(立命館・名和さん)、「編集部のメンバーに研究推進の担当者が入っているので情報が入って来やすい。それと、受賞関係はネタになりやすいため欠かさずチェックしている」(千葉大学・日高さん)、「広報全体として、発信できるネタがあれば声をかけていただけるように各部局に定期的にアナウンスしている。高校生向けの特設サイトで過去に扱った記事をひとつぶラジオのネタとして掘り起こすことも」(同志社女子・川添さん)、「研究推進部とミーティングをするほか、広報が把握していない情報を拾うためニュースサイトのチェックも欠かせない」(東洋大・中村さん)と各大学の事情が垣間見える回答に。
さらに、編集方針やプロモーション方法について、AIの活用について……などなど、話題はつきません。会場からの「評価指標をどのように設定しているか」という質問に対しては、運営年数の長い東洋大学と立命館大学が「PV数などの明確な基準を定めつつ、広報全体の視点での波及効果も大切にしている」、年数の比較的浅い同志社女子大学と千葉大学が「数値目標は定めないが、PV数などの変化はしっかり把握して対応することは必要」という答えになりました。
後日、時間内に取り上げることの出来なかった質問にメールで回答いただきました。「オウンドメディア運営で最も難しいことは?」という質問の答えは、4大学がほぼ一致して「継続すること」(立命館大学は目標設定、継続性、発展性)とのこと。これには大きくうなずくほかありません。
オウンドメディアに正解はない、だからこそ目標を立て、日々積み重ねていくことが大切で何よりも難しいのかもしれません。ほとゼロ編集部としても、とても良い刺激をいただいた勉強会でした。
最後にひとつ宣伝を。
今回の勉強会で取り上げさせていただいたオウンドメディアをはじめ、多くの大学や研究機関が独自にメディアを手掛けて学術・研究情報を発信しています。ほとんど0円大学を運営する株式会社hotozeroでは、そうしたメディアコンテンツをさまざまな切り口で紹介するキュレーションサイト「フクロウナビ(https://fukurou-navi.jp/)」を新たに立ち上げました。まだまだできたばかりですが、機能もコンテンツもますます充実させるべく日々奮闘中です。ほとんど0円大学ともどもよろしくお願いたします!