京都の有名ラーメン店の2号店なのに学食というレアな存在なのが、京都産業大学の「らーめん壱馬力」。どんなところなのかと、出かけてみた。
高いハードルを乗り越えて出店
京都産業大学のラーメン専門店学食「らーめん壱馬力」はグルメサイトにも載っていて、所在地の欄には「京都産業大学並楽館1F」とちゃんと書いてある。
一般的な店と変わらぬ佇まいだ
そのオープンは、今から10年前の2008年。当時、京都産業大学では、学生がキャンパスに長く滞在するように、学食をはじめとするアメニティ施設の拡充を図っていた。特に学生の毎日の食を預かる学食は、おいしく、安く、ボリュームがあるのはもちろん、4年間通っても飽きないものにしたいと考えた職員さんたち。出店してくれるお店はないかと、さまざまなつてをたどった。
大学には長期休みがあるため一般的な学食の営業期間は実質9カ月ほど。市中と同じような経営はできないので、参入のハードルは高い。そんな難題に挑戦しようと手を上げたのが、京都・千本丸太町の有名ラーメン店「しゃかりき」だった。
当時の担当者だった京都産業大学職員の井上朋広さんは、ラーメン店では大盛りを頼んで汁まで1滴残さず飲み干すという大のラーメン好き。出店は大歓迎ではあったが、350~400円という学生のランチ事情に、1杯600~700円はしていたラーメンがどう応えたらいいのかにはかなり悩んだとか。「といっても、結局はお店にお願いして調整していただくしかない。市中より安く、なるべく同等の商品を出してもらう、というところからスタートしました」。
ラーメンブームに火がつくまではいっておらず、ラーメン街道と呼ばれる激戦区・京都一乗寺もそれほど騒がれてはいない頃だったが、壱馬力の開店は一部のラーメンマニアの間で「千本のしゃかりきが2号店出した! 大学の中に出す?」などと話題になったとか。学生たちの間では、本格的なラーメンが学食価格で食べられることで、あっという間に人気店になった。
午後3時を過ぎても男子学生を中心に賑わう
良いものを食べてもらおうと、スープは自店で仕込み化学調味料は使わない。麺はクォリティの高さで知られる有名製麺所・麺屋棣鄂(ていがく)から仕入れている。
突然爆発的にヒットした「油そば」
オープン当時、壱馬力の看板商品は紛れもなくラーメンだった。そら、そやろ、ラーメン屋やねんから、と思いました?
しかし、今は違う。ラーメンの売上は1割に過ぎず、残り9割を占める主力商品となっているのが、「油そば」だ。オープン2年目ぐらいから火がついて、爆発的なヒットが現在まで続いている。ちなみに、なぜ火がついたのかは謎だ。
油そば300円。トレーには大学のキャッチコピー!?
油そばとは、麺がタレで味付けされたスープのない麺料理。油そば専門店も一部にはあるが、ラーメン屋で出している店はそんなに多くない、どちらかといえばマイナーメニューだそうだ。なのに、壱馬力では超ド級のスター選手。店長の美藤陽二さんいわく、「券売機でも、油そばは下のほうの目立たない小さなボタンなのですが、学生さんはそれしか押してない」。
その秘密は、なんといっても300円というその安さ。にもかかわらず、ラーメンの標準的な麺の量が150gなのに対して、壱馬力の油そばは200gの大ボリュームである。さらにもう一つの魅力は、トッピングし放題なこと。「最初は2、3種類のトッピングだけだったが、学生さんのリクエストもあって今では9種類にまで増えた」と美藤さん。このトッピングで、自分好みの味にして食べるのが京産大生の食べ方だ。
トッピングコーナーに並ぶ豊富な調味料。酢、ラー油、マヨネーズ、ごま油、一味、ねぎ油、魚粉、ゴマ、こしょうと全9種
食べてみた。ほぼ初の油そばだったが、麺の少しモチモチめの歯応えとタレの風味がベストマッチで、とてもおいしい。トッピングコーナーで試しに酢をかけラー油をかけ、後でもう一度、マヨネーズも。これをかけたらどうなるかな、次はこれを試してみようか。トッピングの種類が多いとなんか楽しい。
トッピングで自由にアレンジできる
大ヒットした油そばには、今ではシリーズも生まれている。油そばと「塩油そば」を定番に、「チャーシュー油そば」や「ピリもや油そば」、さらに、ラードをオリーブオイルに変えて野菜を載せた「油そばライト」もある。また、季節が変わるごとに限定メニューも開発しており、私たちがうかがった5月には、なんと「ピザそば」なるものが。気になって美藤店長に聞くと、トマトベースのタレで味わうイタリアンな油そばだそうだ。
京産大生のソウルフードは永遠に
お話を聞くのにピーク時を避けようと午後3時頃にうかがったのだが、学生さんの来店がひっきりなしである。男子学生が多いようだが、「女子学生も油そばはよく食べてくれていますよ」と美藤店長。
「学生アンケートに『油そばは京産のソウルフード』と書かかれていたのが、うれしくて。大げさに言いたいわけではないんですけど、文化として根付いているみたいです」
京産大生になったら、まずは油そばを食べんとな、みたいな。トッピングもいわば無造作に置かれているし(学食ですから)、ねぎ多めを注文できるがとくに貼り紙もなかったりするから、前にいる常連らしい先輩を真似しつつ、だんだんと自分の油そばを味わえるようになっていく、みたいな。
「いつもねぎ多めを頼んでいた学生が、あるとき、冗談で『いつもの!』と声をかけてくれて。ちょっとしたやり取りなんですけど、学食ならではの交流があって楽しい」と美藤店長。アルバイトとして働いているのも、全員京産大生だ。
油そばのことばかりになってしまったが、壱馬力の魅力はまだまだある。「京都背脂醤油ラーメン」470円は、普通に市中の店で食べると650円はするクォリティ。また、しゃかりきの人気メニューである「濃厚魚介つけめん」も味わえる。京都ではつけ麺が珍しく、しゃかりき自慢の濃厚ダレを味わってみたい人に人気だという。
看板メニューはこちら!
全国的にも珍しいラーメン専門店学食、ぜひ一度訪れて、京産大生のソウルに触れてみてほしい。京都産業大学には全部で9の学食があるので、京産学食サーフィンなんていうのもいかかでしょうか。