ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2018.1.23
  • author:南 ゆかり

大阪大学×大阪音大の月を知り尽くす音楽会

木枯らしが吹く季節になると、月が格別、近くに感じられる気がしませんか。いつもタダモノでないコンサートを聴かせてもらえる年に一度の秋のお楽しみ、大阪大学×大阪音楽大学のジョイント企画のテーマも「月と音楽」がテーマでした。よかったですよ、かなり。

第7回(2016年)開催時の記事はこちら

 

月にひたり音楽にまみれる2時間

 

今回の企画は、惑星科学の専門家で、アポロが持ち帰った月の石や、はやぶさの収集した微粒子の研究をされている大阪大学の寺田健太郎先生によるお話と、大阪音楽大学出身で世界的に活躍するヴァイオリニストであり、同大で教鞭を取られている松田淳一先生率いる弦楽四重奏のジョイントです。

 

寺田先生の解説を、松田先生や司会進行役の久保田テツ先生らが聞く

寺田先生の解説を、松田先生や司会進行役の久保田テツ先生らが聞く

 

解説はスクリーンに画像や映像を映しながら行われた

解説はスクリーンに画像や映像を映しながら行われた

 

最初のナンバーは、ドビュッシーのピアノ曲「月の光」。弦楽で奏でられ、いきなりアッと驚かされました。「月の光」以外の演目は、ベートーヴェンの「ピアノソナタ14番『月光』」、ジョン・ウイリアムスの「スター・ウォーズのテーマ」、スタンダード曲で知られた「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、ドヴォルジャークの「アメリカ」第4楽章、ラヴェルの「弦楽四重奏曲へ長調」第4楽章、グレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」というラインナップ。弦楽四重奏曲でないものは、すべて松田先生が編曲されたそうです。

大阪音大の卒業生などで編成

大阪音大の卒業生などで編成

 

こうした演奏と寺田先生の月にまつわるさまざまなトピック解説が対バンを張るイベントです。月のトピックといっても、私のような天体のことをほとんど知らない素人が興味を持つような話題もちゃんとちりばめてくれました。

 

「地平線から上ったばかりの月は赤く大きく見え、頭上高くに来ると小さく見えますが、あれは錯覚。一日の間で月の大きさは変わりません」。

 

えー! あれを錯覚と言われてしまったら、自分が見ていることがいろいろ信じられなくなりそうです。満月の時に、目の前に5円玉の穴に月がぴったりはまるようにかざし、その時の目から5円玉までの位置を覚えておいて、夕方と頭上に来た時とを比べてみるとわかるそう。同じ距離なら同じ大きさというわけです。

 

「月は楕円軌道を描いているので、満月の大きさには時期によって差があります。地球に一番近づいた時の満月は大きくなります」。

スーパームーンとかいう、あれのことですね。寺田先生に、2017年の最スーパームーンは12月4日と教えてもらい、その夜は心の準備をしてじっくりと眺めました。「今一番地球に近づいた月」を思うと、いつもと違う月に感じられます。

 

松田先生も、お話が相当面白い。司会進行役で、今回のイベントを企画された大阪音楽大学の久保田テツ先生に「古来から月は表現者を刺激する存在のようですが、音楽家にとってはどうでしょう?」と水を向けられた時の答えなど、最たるものでした。

 

「ネアンデルタール人は、月夜に宴会をしたといいます。宴会とはつまり求愛活動であり、踊りのうまい男はモテたらしい。昼間に狩猟をして体力を使ったはずなのにまだまだ余力がある強い男は女性に好かれる。踊る男は音楽家につながります。音楽の能力とは、ずっと昔にプログラミングされたものなのかもしれませんね。太陽には仕事や労働のイメージがありますが、月は自由や創作意欲の象徴です」

 

イベントのチラシ映像。モチーフは世界初のストーリーのある映画として知られる「月世界旅行」

イベントのチラシ映像。モチーフは世界初のストーリーのある映画として知られる「月世界旅行」

 

 

ほかにも演目や作曲家についての解説も折々にはさまれ、興味深く聞くことができました。ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」では、「ベートーヴェンは表題をつけるのが好きでなく、月光という名前も後で他の人がつけたもの」「第1楽章でゆっくりした曲から始まるのは、当時のピアノソナタの常識では考えられない」「メロディに“無”を与え、宇宙や存在を超えたものへの畏怖を表現している」といった「!」な情報と弦楽四重奏によって、初めて聴くような新しい「月光」に触れることができました。

 

月と地球の不思議な関係

 

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」では、アポロ11号の時にオルドリン飛行士が月で流したというエピソード、この曲のもっと有名なバージョンを歌ったフランク・シナトラとアポロ計画を推進したケネディ大統領は大の仲良しだったというような裏話が。演奏中には、バックのスクリーンに月の上を歩くアポロ11号の宇宙士たちの映像が流れるなど、洒落た演出です。

 

月の石を研究する寺田先生によると、アポロ計画全体で月から持ち帰った石は、12人の飛行士が6カ所から380kgを集めたそう。月を研究すると地球のことがわかるので、石を持ち帰ったことはアポロ計画最大の成果だといいます。コンサートの最後には、月の石の実物に触れるチャンスも設けられていました。

 

また、月と地球の不思議な関係についての逸話も、印象に残っています。月の大きさは地球の3.67分の1、約4分の1で、これは火星と衛星フォボス(1/309)、木星と衛星ガニメデ(1/27)、土星と衛星タイタン(1/23)と比較しても、非常に比率が大きい。それだけに地球に対する月の影響力は大きいのだそうです。

地球と月の関係を他の惑星と比較

地球と月の関係を他の惑星と比較

 

1日の長さも月の影響下。月の引力でできる潮の干満がブレーキとして働いて地球の自転はだんだんと遅くなっており、今から4億年ほど前の1日は今よりずっと早くて21時間ほどだったそうです。

 

また、大きな月が公転していることが、地球の自転軸を安定させているそう。万が一地球が横倒しになったりすると生物には大打撃なので、月はかけがえのない守り神でもあるようです。

 

ロックでエールを贈るサプライズ

 

寺田先生のお話の最後には、松田先生や久保田先生からの質問するコーナーが。「月移住は可能か?」という質問には、月には放射線が飛び交い隕石もぶつかってくるので定住はとても危険。でも最近、日本人が月の表面に洞穴があることを発見し、そこに基地を作ろうという話になっているというお話があり、会場にどよめきが起こりました。

 

寺田先生は普段はどんな音楽を聴いているのかという質問には、「日本のロック」という答えが返ってきました。「みんなが右を向く時でも、左を向かないといけないことがある。突っ張っているところが、ロッカーと研究者とそっくり」なのだそうです。

 

そこで、寺田先生へプログラムには載っていないサプライズ。エレファントカシマシの「今宵の月のように」の演奏がプレゼントされました。「努力しても報われない時に聴くと励まされる」エレカシファンという寺田先生は、演奏の後「音楽の力に感動しますね。涙が出そうです」とうれしそうでした。

 

次のラヴェル「弦楽四重奏曲へ長調」第4楽章は、「混沌をテーマにした曲」だそうで、ドヴォルジャークの「弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 作品96, B.179 『アメリカ』」と同様、弦楽四重奏として書かれた曲でした。確かに、いろいろな要素がいっぱいで緊張感の中に弦楽の美しさが湛えられた、圧倒されるような曲。松田先生が、「ボレロ」が大宇宙ならこの曲は小宇宙とおっしゃっておられた、まさにそんな感じでした。

 

ラストナンバー「ムーンライト・セレナーデ」の前に、進行を務めた大阪大学21世紀懐徳堂・肥後楽さんから、今日のプログラムがいつもより1時間遅い15時からスタートした理由の披露が。

 

コンサートが終わる頃、ちょうど月が出るようにセッティングしたのだそうです。「残念ながら今日は三日月だそうですが、少しゆっくりと空を見上げてみてください」。

 

その言葉通り、コンサートがはねて会場の大阪大学会館を一歩出た途端、薄明りの残る真正面の空に見えたのはすっきりとした三日月です。

※イメージ

※イメージ

 

自然現象も計算に入れた粋な計らいに感謝しながら大阪大学豊中キャンパス内を歩く頭の中には、今目の前で聴いたばかりの弦楽バージョンの「ムーンライト・セレナーデ」が鮮やかに鳴り続ける夢幻のような小旅行。

 

どちらかというとクラシックが得意ではなかったのにもっと聴きたいと思ったこと、空に月や星の浮かんでいるのを見るのが楽しみになったことなど諸々併せ、ちょっとだけ脱自分した私にとっては大きな一歩のコンサートでした。

 

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

 

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