1月10日から2月9日までの間、慶應義塾大学のミュージアム・コモンズ(通称KeMCo)で開催されている「KeMCo新春展2023 うさぎの潜む空き地 特別企画 鏡花のお気に入りたち」。うさぎにまつわるさまざまな作品の展示のほか、うさぎを愛した小説家 泉鏡花のコレクションも楽しめる当展覧会。どんなうさぎたちが潜んでいるのか観てきました!
作品を観る前に知っておきたい、展覧会の楽しみ方
慶應義塾大学 三田キャンパス東門の並びにある、白い建物が目印の慶應義塾ミュージアム・コモンズ。毎年、年始めには「新春展」として干支にちなんだ展覧会を開催しています。今年の干支であるうさぎは、ペットやキャラクターとしても愛されている生き物。どんな内容の展示物があるのでしょうか。
※昨年、開催された新春展「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」の様子はコチラをご覧ください。
慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)入り口
建物に入るとすぐにエントランスがあり、パンフレット類の置かれたテーブルが設置されています。こちらのパンフレットは、展覧会のマストアイテムです。
建物に入ってすぐの場所にあるエントランスに用意されたパンフレット類。会場の3階へ!
同展覧会では作品をじっくり観賞できるように、会場には個々の作品の解説文はなく、LINE上で楽しめます。パンフレット内や会場には、KeMCoのLINEアカウントによるQRコードが表示されているので、スマートフォンで読み込んでから展覧会を観るとより深い理解が得られます。
ちなみに自宅からもLINE解説の確認が可能。パンフレットの後ろのページにある、出品作品リストに掲載されている作品番号を入力すると、解説を見ることができます。
うさぎの違う面も感じられる、新春展
展示品は90点以上あり、展覧会場は大きくわけて5つのエリアにわかれています。絵本などに描かれたうさぎを知る「物語に潜むうさぎ」のほか、うさぎと秋草を描くことで月をイメージさせるなど、連想をテーマにした「連想に潜むうさぎ」、ノウサギの歯なども展示されている「自然界に潜むうさぎ」、うさぎをモチーフにした映像作品や舞台空間メモなどが展開されている「人の間に潜むうさぎ」、泉鏡花の身の回りにあったうさぎを観られる「特別企画 鏡花のお気に入りたち」が展示されています。
各エリアの展示テーマはどれも特徴的で興味を刺激する
「物語に潜むうさぎ」では、うさぎに関する絵本などや、物語をモチーフにした絵画などを展示
「物語に潜むうさぎ」のコーナーでは、『不思議の国のアリス』『ピーターラビット』関連の絵本や、日本のおとぎばなし『因幡白兎』『かちかちやま』などをモチーフにした作品が展示されていました。
物語によって違いはありますが、うさぎは多くの場合、「非力だが、賢い」生き物のような描き方をされています。他の動物でも足の速い生き物はたくさんいますが、小さいのに「すばしっこい」というのが関わっているのでしょうか。
うさぎの身体的な特徴からか、いろいろな作品で同じような描かれ方をしているのが興味深かったです。
「連想に潜むうさぎ」では、「うさぎ」と「月」を結びつける連想から生まれた工芸品や絵画が紹介されています。月にうさぎが住むという考えは、紀元前に遡るそうです。その頃から、うさぎは神秘を象徴するような生き物だったのでしょうか。
「連想に潜むうさぎ」の作品展示
そんなことを考えながら観ていたところ展覧会場に、「うさぎと秋草」の組み合わせは「月夜」を思わせる、という内容の文章が記されていて、ハッとしました。
たしかにうさぎと秋草が描かれた絵画を観て、月夜を思い浮かべる自分がいました。その連想は、お月見や月に潜むうさぎに通じる気がします。物語や説話によってうさぎのイメージが生まれ、いつの間にか見えないものも想像できるようになっていくほど、イメージが植え付けられていたのです。モノやコトに対するイメージの強さは、見るものの情報を変える力を持っているほど強烈だと改めて感じさせられました。
うさぎを愛した、泉鏡花の世界
物語や説話によって、子どもから大人まで多くの人たちに浸透していったうさぎのイメージ。うさぎを愛した小説家・泉鏡花の身のまわりには、多くのうさぎグッズがありました。大小、さまざまなうさぎの作品が展示されていますが、なかでも興味深いのが「水晶の兎」です。
「特別企画 鏡花のお気に入りたち」の作品
1873年(酉年)に生まれた泉鏡花は、向かい干支である卯(うさぎ)を形取った水晶の置物を幼少の頃、母親から譲り受けたそうです。このことを契機に、膨大な数のうさぎ雑貨をコレクションするようになった泉鏡花。展示されている「水晶の兎」は、母親から最初に譲り受けたものではないそうですが、執筆時などに身近に置かれていたものだそう。愛らしいうさぎの姿に癒されながら執筆していたのでしょうか。
「特別企画 鏡花のお気に入りたち」の「水晶の兎」
鑑賞を進めていくと、泉鏡花の展示品の中に葉っぱが紛れこんでいました。これは何!? と思ったところ、泉鏡花は、江戸時代中頃に出版された絵入り娯楽本で知られる草双紙のところどころに葉っぱを挟み込んでいたそう。当時の葉がそのまま展示されていると聞き、驚いてしまいました。まるでしおりのように挟まれていたためか、とてもきれいな状態で残っています。なぜ葉を挟んでいたのか、その意図はわかってはいないそうですが、好奇心旺盛な泉鏡花の人柄が感じられるエピソードでした。
挟み込まれていた葉っぱとともに、草双紙が展示されていました。とってもリアル!
うさぎがどのように愛されてきたか感じられる展覧会
入り口に置いてあった展覧会パンフレットによると、1871〜1873年の日本では「ウサギバブル」と称されるほど、うさぎが人気を博していたそうです。当初はペットとして愛されていたうさぎでしたが、次第に「うさぎを飼育すれば病気にならない」という、よくわからない説が広まり、さらに繁殖しやすさからお金儲けを企む人たちにも目をつけられ、ブームは加速していったという歴史があるそうです。
うさぎ本来の個性と、物語や説話から植え付けられたイメージと、大人の思惑が組み合わされ、現代でも根強い人気を誇る「うさぎ」につながっていることが感じられる展覧会でした。
「みんなの書き初め」や「うさぎおみくじ」ができる体験型展示も併設。学生主導でつくられたデジタルとアナログを上手に組み合わせた展示になっているので、興味がある方はぜひお立ち寄りください
展覧会後は、コラボスイーツを味わおう!
展覧会観賞後にはずせないのが、慶應義塾大学 三田キャンパス内にある喫茶店「カフェ八角塔」。先ほど紹介した、泉鏡花の本に挟まれた葉をモチーフとしたコラボスイーツ「鏡花の葉っぱビスケット」を会期中のみ限定販売しています。展覧会を楽しんだあとは、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
試行錯誤を経て誕生したという「鏡花の葉っぱビスケット」。書物をイメージした紙を開くと、中に葉っぱの形をしたビスケットが入っています。大きな葉型のビスケット案もあったそうですが、これくらいコンパクトで、いくつか入っていた方が食べる楽しさが膨らみますね。薫り高い紅茶「マルコポーロ」との相性もバッチリでした。
残念ながらビスケットのお持ち帰りは出来ないそうですが、ビスケットを挟んでいる文庫デザインの包み紙は持ち帰りが出来るそうです!
左から、ヴァニラのような香りのふわりと広がる紅茶「マルコポーロ」(800円)、「鏡花の葉っぱビスケット(左から時計回りで、ほうれん草、かぼちゃ、にんじん味)」(300円)
さまざまなうさぎを観賞し、うさぎおみくじや書き初めをして、美味しいビスケットを味わい、帰宅後はLINEで解説文を読み直して余韻に浸る……楽しみ方がいっぱいの新春展でした!