都会のオアシス、どこを連想しますか?文京区にある「東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園)」は、1684年(貞享元年)に徳川幕府が設けた小石川御薬園に端を発する日本最古の植物園。教育実習・研究の施設であり、日本近代植物学発祥の地なんです。だからこそ守られてきた、ありのままの東京の自然。都会のオアシスとして、四季折々、訪れる人々に安らぎを与えています。
園内にはその長い歴史を物語る数多くの由緒ある植物や遺構が残されていて、国の名勝及び史跡に指定されています。日本でもっとも古い植物園であるだけではなく、世界でも有数の歴史を誇る植物園なのです。
春は緑のトンネル、秋は赤のトンネルとなる美しいカエデ並木
小石川植物園の広さは161,588平方メートル(48,880坪)。台地、傾斜地、低地、泉水地など変化に富んだ自然の地形を利用して約1500種の樹木をはじめ、さまざまな植物が自生しています。なかには、日本の近代植物学発祥の地ならではの貴重な植物があるのも特徴です。
さらに、万有引力の法則を発見したニュートンの生家に生えていたリンゴの木や、遺伝子学の基礎を築いたメンデルが実験に用いたブドウの木、中国で発見された原生種のメタセコイア林などなど、見どころがたくさん。
1896年(明治29年)に平瀬作五郎が、この雌の木から採取した若い種子から精子を発見。当時、世界の学会に大きな反響を起こしました
江戸時代には薬用に供された、日本で一番古いと言われるサネブトナツメ
ハンカチノキ。花びらのように見える大型の美しい 苞(ほう) を持つ。園内でも人気のある植物の一つ
植物の分類体系を、約500種の生きた植物で理解できるように植栽した、植物分類標本園
季節のみどころは、早春から始まる花々のリレー。ウメ、ツバキ、そしてサクラへ。樹齢約130年と推定されるソメイヨシノは日本屈指のご長寿サクラ。ハナショウブ、フジ…そして秋の紅葉へとバトンが渡され季節ごとに訪れる人々を楽しませてくれます。
コンペイ糖のような形をしたカルミアの花。昆虫などの刺激により雄しべが飛び出し、花粉が散るというおもしろい仕組みを持っています
ソメイヨシノ林。1879年にはすでに植栽されていたという記録が残っており、日本で最も長寿といわれる。お花見のシーズンには多くの人で賑わいます
そして小石川植物園といえば、日本庭園や建造物も魅力。時代劇でよく耳にする小石川養生所もここにあり、当時を忍ばせる井戸も残っています。
趣のある日本庭園は第5代将軍徳川綱吉の幼時の居邸だったもの。また、池の奥に見える赤い建物は明治時代に建てられた、重要文化財の旧東京医学校本館(小石川植物園の敷地外)です。正門を入ってすぐのモダンな建物、植物園本館は安田講堂と同じ建築家・内田祥三によって建てられました。
江戸時代、小石川養生所で使われていた井戸は水質もよく、水量も豊富で今も現役とか。関東大震災の際には飲料水として使用されたそうです
第5代将軍・徳川綱吉に縁ある白山御殿に由来する、自然の地形に優れた技術がうかがえる江戸時代の代表的な庭園
柴田記念館。理学部植物学教室の教授・柴田桂太の寄付で1919年に建築された建物。現在は柴田博士や植物園の歴史を紹介する資料、植物学関連の出版物などを展示公開
園内を散策していると他の植物園や庭園との違いに気がつくことがあります。それは教育・研究の場として、ありのままの自然、失われつつある東京の野生を守り続けていること。あまり手が加えられていないんですね。
特に自然林のエリアは雑草がぼうぼうと茂っていたり、木々が折れたり朽ちたりしていてもそのまま。都内では珍しい昆虫や鳥、動物も出没するとか。散策の際には少し注意が必要ですが、何と遭遇するかわからない探検をしているようです。
東京の真ん中?まるで山の中へとテレポートしたような豊かな自然林が残る
鐘形のフリル状の花が優雅な印象を与えるアメリカキササゲ
山本周五郎『赤ひげ診療譚』をはじめ、泉鏡花、寺田寅彦、森鴎外、北原白秋、安部公房…多くの文学者に愛され、作品にも登場する小石川植物園。都会の喧噪を忘れ、東京のありのままの自然と歴史に触れることができる場所です。文豪の一冊を片手に森林浴もおすすめ。自然のエネルギーでココロとカラダを満たしませんか?