教養を深めつつ料理も体験できるというユニークな講座「アカデミクッキング」は、大阪大学×大阪ガスの人気企画。1995年に阪神・淡路大震災が起こった1月17日のプログラムは、「今年も忘れずにおきたいこと」と題して地震をテーマに開かれた。
まず宇宙や地球へ思いを馳せる
講義を担当した廣野哲朗先生(同大学大学院理学研究科准教授/宇宙地球科学専攻)は日本を代表する活断層の研究者。「地震はなぜ起こるのか」というメインテーマに入る前の予備知識として、宇宙や地球の構造を少し解説してくれた。
調理の前に学びの時間
宇宙は、今、138億歳で、太陽系の位置する天の川銀河が生まれたのは宇宙誕生の8億年後だとか。太陽や地球のたどる運命もすでに大方わかっていて、太陽はこの後、どんどん大きくなって超新星爆発をして死に、太陽が拡大する過程で地球の水は干上がり、太陽に飲み込まれてその一生を終えるという。
太陽も地球も有限とは。地球が一生を終えるのは20億年後だそうだが、ちょっと複雑な気分になった。
さらに、天の川銀河のような銀河は宇宙にあまた存在しており、その一つひとつに恒星の周りを惑星が回っている太陽系のようなものが存在している。地球のような生きた惑星は宇宙に限りなく存在するのだから、宇宙人がいてもなんの不思議もない。
「われわれが存在することが、宇宙人が存在することを証明している」という先生の言葉に、とても納得してしまう。
さらに、最近の宇宙科学の研究で、私たちの住む宇宙以外にたくさんの宇宙があるということもわかってきているのだとか。ユニバースではなく、マルチバースなのだそうだ。他の宇宙は観測すらできないのだが、理論的に推測されるのだそうだ。
「宇宙は、ますます理解できない世界になりつつあります」宇宙は私たちからさらにさらに遠い存在になるみたいだ。
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改めて地震のメカニズム
そんな宇宙談義から話は地球の誕生から地震の発生へと進む。地球は今、46億歳で、宇宙の歴史の中でいっても結構な古参である。
生まれたときには火の玉のようだった地球に大量の雨が降って海ができた。地球の内部は、表面から地殻、マントル、核という層構造になっているのだが、誕生時の膨大な熱と自然に地下でおきる核分裂の熱を宇宙空間に逃がそうとしてマントルが対流し、対流に引きずられて表層のプレートが移動する。
海側のプレートと陸側のプレートが接する海溝部分では、海側プレートが陸側プレートの下に沈みこもうとする。引きずられて変形した陸側プレートにひずみが蓄積され、限界が来て元に戻ろうと跳ね上がるときに起こるのが海溝型地震。そこでの力が内陸に徐々に伝わって活断層が動くときに起こるのが内陸型地震だ。
「地震は私たちに被害をもたらす存在ですが、別の見方をすれば地球が生きていることの証明。火星や木星のように冷えてしまった星ではプレートは動かず、地震も起こりません」
防災意識が一気に点灯
それでは、地震はどこで頻発するか。
世界の地震分布図を見せてもらうと、日本列島の上には点が密集している。まさに地震大国。日本付近には4つものプレートがひしめき合っており、普段から地震が群発しているという世界的に見ても特異な場所なのだという。
さらに活断層もたくさんある。とくに、中部から近畿にかけては地図に書ききれないほどの活断層がある地域。阪神・淡路大震災を引き起こした六甲-淡路島断層系のほか有馬-高槻構造線、上町断層など、関西の都市部に活断層が多くあり地震のリスクは極めて高いとのことだ。
危険性を語る廣野先生
先生は、アメリカのカリフォルニア州法で制定された活断層法を紹介。活断層の真上付近に建物を新築してはいけないという法律で、日本でも2012年、徳島県で似たような趣旨の条例が制定されたという。
大阪大学の豊中キャンパスがある豊中市には上町断層が通っており、断層の上に民間のマンションや学校などの公共施設が建っている現状がある。先生は条例制定の必要性を指摘する。
さらに、南海トラフ地震の起きるリスクについて、研究から今わかっていることが明らかに。過去に発生した地震の周期からみて次の地震は30年以内に70~80%の確率で発生が予想されている。甚大な被害が予想される巨大地震で、東南海地震と南海地震が連動して起きる可能性も高いという。
また、津波の想定としては、東日本大震災のときと違って、太平洋沿岸地域では地震後わずか数分から10分程度で到達し始めるという。一人ひとりが震災への備えについて改めて考えるきっかけになる講義だった。
本格非常食クッキング5品を実作
防災意識が高まったところで、大阪ガスクッキングスクールの先生にバトンタッチ。定期的に非常食を食べ、食べたら買い足して常に新しい非常食を備蓄するローリングストック法への理解を深める、備蓄食クッキングレシピを教えてもらった。
作り方のコツと重要な部分の実演を見た後、参加者の皆さんが4つの班に分かれて調理開始。
アカデミクッキング専用のエプロンを身につける
サバ缶のつくねバーグを調理中
男性の方の顔も見え、年齢層もバラエティに富んでいる。男性も含めて料理はしなれている方ばかりのようで、役割分担をしながらスムーズに料理が進む。ビニール袋を使うパッククッキングで洗い物を減らす工夫、切り干し大根など繊維の豊富な乾物を避難生活の健康管理に役立てるなど、防災クッキングのプチ知識もいくつか盛り込まれていた。
30分ほどで手早く調理終了。サバ缶のつくねバーグ、切り干し大根とわかめの和え物、ツナととうもろこしの塩こうじごはん、とろろ昆布のすまし汁、抹茶のチーズケーキ乾パン入りと、1汁2菜にご飯もの、デザートまでついた本格的な献立が並び、みんなで試食。
缶詰や乾物を使った5品が完成!
非常用食材を中心に使ったとは思えない華やかな食卓に、参加者の皆さんも満足そうだ。知的好奇心と料理スキルを磨いておいしく食べたいという欲求を満たすだけでなく、地震への備えをすぐに始めないと、という気にもさせてくれる、一石三鳥?四鳥の有意義な時間だった。
取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂