「見えない虫歯を観(み)つける」「ポケット磁石で都市鉱山」「しゃべロボと話そう」……。一風変わったテーマが気になり、大阪大学のイベントに足を運んでみました。
会場は万博記念公園(大阪)にほど近い大型ショッピングモール、ららぽーとEXPOCITY。体験やミニレクチャー、展示などを通じて大学の研究成果やSDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みを紹介し、科学・研究・学術の魅力を楽しみながら学び合おうというイベントです。
今回のテーマは『つながろう! SDGsアドベンチャー!』。健康、ジェンダー、環境、技術革新など、様々な観点でSDGsの達成に貢献する大学の研究を紹介するブースが並び、場内のステージでもテーマに関連したクイズやレクチャーが行われます。ショッピングモールという場所柄もあって気軽な雰囲気で、特に体験ブースは大にぎわい。親子連れの姿も多く見られました。
かくれた虫歯は、どれ?
まずは工学研究科の研究室による「見えない虫歯を観つけるぞ!」というブースから体験。
手前の器具を歯の模型に押しあてると、見た目ではわからない虫歯がわかるというものです。
説明を受けて歯の模型に軽くあててみたところ、瞬時に下のような画像と数値が表示されました。
3つの歯それぞれに調べて、表示された数値をシートに書き込んでいきます。
この数値から虫歯がわかるというのです。さて、どの歯が虫歯でしょう……?
真ん中の歯の数値がずいぶん低いですね。実はこの数値は、歯の表面のかたさを表しているのです。
上は虫歯模型の検査画面です。白い円の真ん中に暗く写っているのは、検査器具が歯に接触している部分。
虫歯は歯がやわらかくなるため、わずかにめりこんでしまうのですね。器具の先端が歯に接合する面積から歯のかたさを算出して、まだ黒く変色していない早期の虫歯を検出するというしくみです。
実際に使わせてもらって、本当に軽い力で瞬時に数値が出てくるのにはちょっと感動しました。歯医者に行くと鋭利な器物で虫歯疑いの歯をカチカチされて冷や汗をかくことがありますが、この機械なら、もう少し穏やかな気持ちで検査を受けられそうです。
ウイルス探査機 ~ウイルスをAIで判定
ここ数年、世間をお騒がせのウイルスですが、さまざまなウイルスや細菌の種類をAIで識別するという装置が、産業科学研究所のブースで紹介されていました。
上の画面、左側のひし形中央にある黒い点のようなところ(赤い矢印の先)に、ウイルスに似せてつくられた模造ウイルスが次々と吸い込まれていきます。
ウイルスの表面にはデコボコした突起があり、その形によってウイルス表面を流れる電流値が変化するそうです。ウイルスの吸い込み口にはその電流値を測定するセンサーがあり、画面右上の赤枠内に測定結果が映し出されます。
この波形がウイルスの種類により異なるため、たとえば新型コロナウイルスには新型コロナウイルス特有の波形があらわれます。それをAIが判定するというしくみです。
この装置自体にすごい技術が詰め込まれているのだと思いますが、「電気っていろんなところを流れているんだな」とか「デコボコの形によって電気の流れ方がちがうのか‥」など、わりと基本的な事柄で感心しました。
識別にかかる時間は5~10分。現在、実用化をめざしている段階だそうです。
ポケット磁石で都市鉱山
電気の次は、磁気です。理学研究科の研究室による「ポケット磁石で都市鉱山を始める」のブースを拝見。
えんぴつの芯が磁石から逃げていく
写真の赤枠内、糸の先にぶらさがっているのは、えんぴつの芯です。
下にある磁石をゆっくりと右に動かすと、えんぴつの芯が磁石から逃げるように動いていきます。えんぴつの芯が磁石に反応するイメージがなかったのですが、芯に含まれている黒鉛は磁石に反発する性質があり、強い磁石を使うとこのような反応がみられるとのこと。
別の装置で、黒鉛と金とをわける実験もしていました。SDGsとの関連では、磁場で物質を分別してリサイクルするなどの活用方法が考えられます。
ちなみにこのブースの研究グループの本業は、「磁場が太陽系の生成に及ぼす影響」の研究です。
惑星を構成する物質の種類は、太陽からの距離によって明確に分かれているそうです。それが初期太陽がもっていた巨大な磁石の力によるものか、実験と理論の両面から探っているとのこと。
難しそうですが、ロマンがあります。もし巨大磁石のはたらきで地球の成分が決まったのだとしたら、わたしたち人間も磁力の子ですね。
小さなものから大きなものまで、はんだ付け
ものづくり体験コーナーもありました。接合科学研究所による「はずして→つないで→再利用!」は、使わなくなった色ガラスを分解し、はんだ付けで自分好みのステンドグラスを作るというもの。事前予約で満員御礼でした。
はんだ付けは時間と温度との勝負。集中力が必要です。
このブースには下のような電子回路も展示されていました。こうした電子回路の接合にも、はんだ付けの技術が使われています。
部品と部品を接合するのに、部品にダメージがない低い温度で溶ける合金だけを溶かして、その溶けた合金で部品と部品を接合するのが、はんだ付けです。部品にダメージを与えずに接合でき、電気をよく通すのが特徴とのこと。
そばには、飛行機模型も飾られていました。「本物の飛行機を作るのにもはんだ付け(ろう付け)の技術が使われているので」ということで、小さなものから大きなものまで、接合が活躍しています。
学問って楽しい?
いくつかの体験内容をご紹介しましたが、このほかにもロボットとおしゃべりしたり、フードロスについて考えたり、光エネルギーの力を体験したり、…と、さまざまなテーマの体験ブースや展示がありました。子どもだけでなく大人も体験させてもらえるのは、うれしいところです。
(左上)光のエネルギーで微粒子を捕まえる「光のピンセット」(基礎工学研究科) (右上)バナナの流通プロセスからフードロスの削減を考えるコーナー(革新的フードロス共創拠点) (左下)「世界の国からこんにちは!」留学生によるお国紹介(SSI、JICA関西) (右下)ロボットとおしゃべり(基礎工学研究科)
先生方とともに各ブースで案内してくれたのは、学生さんと思しきお兄さんお姉さん方。とても丁寧に、楽しそうに解説してくれていました。特に子どもにとっては年齢も近く、ふだん接点のない学問の世界を身近に感じたり、憧れを抱いたりするきっかけになりそうです。楽しい体験になっていれば良いですね!