ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2016.6.1
  • author:蔵麻子

大学のまち、大阪・茨木

茨木・見山地区の魅力を商品化せよ! 追手門学院大学が野菜ジュレを開発

地方創生が何かと話題になる昨今だが、「地方」は都心部の身近にも潜んでいる。自然は豊かだが人口減少に悩む地域にどう貢献すべきか。大学で学ぶ経営学やマーケティングを武器に、商品開発を通じて里山の活性化に挑戦している追手門学院大学経営学部の村上喜郁准教授と学生たちの取り組みを追った。

茨木市北部の里山・見山で地方創生の可能性を探る

茨木市といえば大阪・京都のベッドタウン。交通の便が良い、落ち着いた住宅街といったイメージが強いが北部は山に囲まれ田園風景が広がっている。標高510メートルの竜王山山麓に広がる見山地区も、茨木北部に位置する里山のひとつだが、ここでは地元農家が、地場野菜の直売と加工品を製造・販売する6次産業施設『見山の郷』を運営している。そこに、地域の活性化をめざし『地域文化創造機構(現:北摂総合研究所)』を運営している追手門学院大学が、協力を申し出たのだ。同機構の研究員でもある経営学部の村上准教授がゼミ生と共に、2013年より『見山の郷商品開発プロジェクト』に着手。2014年に見山の特産品である赤しそと米粉を使った『おうてもん赤しそ塩あんぱん』を考案し発売。さらに2015年には茨木市の「産学連携スタートアップ支援事業補助金」を得て、野菜を使ったジュレの開発に取り組んだ。

『見山の郷』(茨木市大字長谷1131)は、地産地消を理念に地元産の野菜や、施設で製造した加工食品、パンやお弁当などの総菜を販売する施設。休日には新鮮な野菜を求めて多くの人が訪れる。

『見山の郷』(茨木市大字長谷1131)は、地産地消を理念に地元産の野菜や、施設で製造した加工食品、パンやお弁当などの総菜を販売する施設。休日には新鮮な野菜を求めて多くの人が訪れる。

『おうてもん赤しそ塩あんぱん』150円(税込み)。あんこと組み合わせることで見山特産の赤しその味・香りを引き立たせている。

『おうてもん赤しそ塩あんぱん』150円(税込み)。あんこと組み合わせることで見山特産の赤しその味・香りを引き立たせている。

見山の魅力を若者にもPRできる商品開発を!

野菜を使ったジュレの開発は2015年5月から始まった。村上准教授のもとでプロジェクトリーダーとして開発に関わってきた安井佑佳さん(経営学部マーケティング学科4回生)は、「ジュレとはゼリーのことです。若い人に手に取ってもらえる商品を作りたいと企画しました」と狙いを明かす。見山地区は高齢化が進み、『見山の郷』の顧客も中高年が中心。見山を知らない若いファミリー層に、美味しい野菜が獲れる地域の魅力を伝える商品を開発して集客につなげたい。そんな想いで始まったジュレ開発だったのだ。

枝豆などいくつかの地場野菜を候補に試食を重ね、同年10月に地域産の寒天と野菜を使った『赤しそ』と『ゆず』の2つの味のジュレを開発。『見山ジュレ』と命名し、試作品を追手門学院大学の学園祭で配布しアンケート調査を行った。

開発段階の『見山ジュレ』。スプーンでは食べにくいという意見を考慮し、「プルプル食感飲むゼリー」という文言をラベルに加えた。

開発段階の『見山ジュレ』。スプーンでは食べにくいという意見を考慮し、「プルプル食感飲むゼリー」という文言をラベルに加えた。


「集計したアンケートは494件。そこから見えてきたのは、『柔らかすぎてちょっと食べにくい』『子どもがスプーンで食べるとこぼす』という食べにくさの問題でした」と教えてくれたのは、アンケート分析に関わった田村聡史くん(経営学部経営学科4回生)。「ジュレというイメージを大切にして柔らかい仕上がりにしたのですが、飲む感覚で食べていただくのがいいのだなと。ストローをつけるなどの容器自体を工夫することを検討しています」。普段は考えないようないろんな問題が出てきて大変、とぼやく彼らだが、その表情は楽し気だ。

商品を通じて地域のブランディングも提案

商品を開発しても売れなくては意味がない。そこで学生たちは販促やブランディングまで『見山の郷』に提案。商品ラベルやイベントで着用する販促Tシャツを提案したほか、商品に共通して使うロゴやその使用ルールについても統一を呼びかけた。「統一ロゴを作り、まずジュレに使用。今後開発していく商品にも使用することでブランドを確立し、見山の郷の認知度を高めることが必要ではないかと提案しました」(安井さん)。見山の郷マネージャーの九鬼実さんも「そういうアイデアをいただけるのは非常に嬉しいですね。我々だけではデザインに偏りが出るので若い人の意見を取り入れられるのはありがたいです」と学生たちの提案を歓迎している。

また学生たちは、見山地区の祭りを手伝ったり、食育イベントを開催するなど、地域の賑わいにも協力し、広い意味で見山地区の地方創生に貢献する関係を築いている。また取り組みを食に関わるシンポジウムなどで発表。『見山の郷』の挑戦が先行事例として広く伝わるよう活動している。

月に数回『見山の郷』を訪れて、施設のスタッフと会議を重ねている学生たち。

月に数回『見山の郷』を訪れて、施設のスタッフと会議を重ねている学生たち。

学生たちが司会をした収穫祭は大いに盛り上がった。

学生たちが司会をした収穫祭は大いに盛り上がった。


学生たちを指導してきた追手門学院大学の村上准教授は、「見山ジュレを流通させることで商品自体が見山の広告塔となり、見山の郷を訪れる人を増やすことにつながります。まずは人に来てもらうことが第一段階。そこから、地元定着や移住へとつなげたい。幸い本学と見山の郷は近いため、今後も連携を続けていきたいですね」とプロジェクトへの意気込みを語る。

なお、この追手門学院大学による『見山の郷商品開発プロジェクト』は、村上准教授も著述に参加した書籍『人としくみの農業 地域をひとから人へ手渡す六次産業化』(2016年4月出版/追手門学院大学出版会)にて詳細が紹介されている。経営学的視点から考える農村部の地方創生。追手門学院大学の取り組みを引き続き注目したい。
(購入はこちらから→『人としくみの農業 地域をひとから人へ手渡す六次産業化』

『見山の郷』の岡初美さんと談笑する追手門学院大学の村上准教授と学生たち。人と人との距離の近さからもプロジェクトの活気がうかがえる。

『見山の郷』の岡初美さんと談笑する追手門学院大学の村上准教授と学生たち。人と人との距離の近さからもプロジェクトの活気がうかがえる。


次回は総合病院が母体の藍野大学のならでは! な取り組みをご紹介いたします。子育て支援やアンチエイジングなどなど。幅広い世代に向けた地域貢献の数々、お楽しみに!

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