立命館大学大阪いばらきキャンパスで進んでいるのは里山づくり。地域の人と大学が一緒になって穴を掘り、植物を植える。遠い未来を夢見るロマンにあふれた活動だ。
キャンパスの中に失われる里山を再生する
立命館大学大阪いばらきキャンパスでは、教員、職員、学生が地域の人と一緒になって進めるコミュニティ共創プロジェクトが進行中。
その一つ「育てる里山プロジェクト」は、キャンパスに自然の山を再現してしまおうという取り組みだ。茨木市北部に広がる約2800ヘクタールもの豊かな森林。その一部が開発で失われることになって、キャンパス内への茨木の里山再現が計画された。
始まったのは、大阪いばらきキャンパスが開設された2015年4月よりも以前、2012年頃から。新キャンパスの緑化方法を模索していた大学と「里山サポートネット・茨木」に集う有志の方々とで「消える里山引っ越しプロジェクト」を立ち上げして活動がスタートした。
里山サポートネット・茨木とは、市内の里山・里地保全や環境教育ボランティア団体などの連合体で、市民参加の里山里地保全活動を行い、茨木市里山センターの運営を行っているところだ。
そんなサポートネットからレクチャーを受け、実際の里山に生えている構成種に従って苗木を採取。採取地は、隠れキリシタンの里でもあった千提寺地区や棚田のある銭原地区などが選ばれた。植生に従って、茨木の山そのものを再現するところがポイントだ。
採取後はまず茨木市里山センターに持ち帰って植え付け、細かい根を増やす育苗をし、2015年3月には大阪いばらきキャンパスへの最初の植樹を行った。
立命館大学大阪いばらきキャンパス。校舎の裏手に「育てる里山」エリアがある
2015年からは、「育てる里山プロジェクト」として大学主導のサークルが誕生。「消える~プロジェクト」の協力を受けながら活動し、植物の移植に適した11月から3月にかけて移植を進めている。キャンパス内の里山エリアは、約1000平方メートル。全体を3つのエリアに分け、それぞれアカマツ林、雑木林、クヌギ・コナラなどの炭山にする計画だ。
幅広い年代の市民が参加。交流が生まれている
2016年3月までに200本以上の樹木や草花を移植したが、なかなかスムーズには進まない。とくに問題になったのが水はけの悪い土壌で、せっかく植えた植物を枯らしてしまうこともあったという。試行錯誤しながらも土壌改良を継続的に進めており、2016年の春は新芽や可憐な花を咲かせる植物も見ることができた。
自然の山が町中に、身近にある意義は大きい
プロジェクトリーダー田中力教授。ご専門は統計学。「育てる里山」エリアをバックに
教職員、学生、一般の人を併せプロジェクトに登録している人は約60名。2016年度になって説明会などを開催して、さらに学生の加入が増えた。学生の参加者は、プロジェクトリーダーである経営学部・田中力教授の教養ゼミナール「里山の環境と文化」など、授業で先生から誘われた人が多いが参加者全体からみると少数派。
メンバーの主力として活動しているのは何といっても一般の人で、里山に興味のある人はもちろん、自然や草花が好きな人、山野草を生ける華道家なども参加。移植の指導には、立命館大学OBのプロの造園家もいる。
田中教授は「10年20年のタームで進める活動なので、4年で卒業する学生には興味が湧きにくいかもしれない」と言いながらも、「四季のある雑木林を、キャンパスで経験してもらう意義は大きい」と話す。
「移植するのは、植木屋さんには売っていない商品としての価値はない植物ですが、人々の暮らしや農業の歴史の中では重要な役割を果たしてきました。樹木の利用、里山の文化的な広がりなど、知らないことがたくさんあると、この活動で改めて気づかされるでしょう。緑の庭をつくるにしても、ただ買って揃えればいいというのではなく、『自然の中にある』ということの意味を考え直すチャンスになれば、と思っています」
活動に参加する経営学部3回生・井上美賀子さんは、「山と人間との関わりを学べる場所になる」と話す。
「プロジェクトはなかなか進まないんですけど、それこそが自然環境、思い通りにならないんだなと感じます。ここには食べることのできる木の実を植えていますが、もし災害時に役に立つならそれも一つの関わり方ですよね」
まだまだ細い木が多いが、参加者の努力が少しずつ実る
土に触れながら自然の厳しさを実感する学びの場にも
消える里山を大学キャンパスに再生する意義について、里山サポートネット・茨木の長谷川淳朗さんは、「未来を担う若い人たちが5、6千人も集まる大学が、茨木の自然に触れるアンテナショップになってくれれば」と話す。
里山といわれても漠然としたイメージしかない人が多いが、里山や樹木、鳥や虫が身近にあれば変わってくる。生態系も含めこんな町の中に里山を復活させる「実験場」として大学の発信力に期待しているという。
確かに、何もないところに自然の山をつくるというのは壮大な「実験」だ。採取地の山を歩き、植生や里山のことを学び、汗を流して移植する。自分が植えた植物が育つのは楽しいし、何度もそこに足を運びたくなるだろう。将来、木々が茂る山になってきた時に、あれを作ったんだなと、誇りに思うこともできるはず。ご近所の方、草木を愛する方は、ぜひ参加してロマンを感じてみてはいかがだろう。