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  • date:2017.1.31
  • author:中橋 由香

2016年のマンガ界を語り尽くす!「マンガカフェ25」に行ってきた。

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皆さん、マンガは好きですか?出版不況でもまだまだ大人気のマンガ。そんなマンガを語り尽くすイベントが開催されるとを聞き、私もマンガ好きの一人として参加してきました!

 

アートエリアB1が主催し、大阪大学21世紀懐徳堂と京都精華大学国際マンガ研究センターが共催の「マンガカフェ」は5年以上続くイベント。今回は2016年12月23日にアートエリアB1で開催された「マンガカフェ25『今年のマンガ界をふり返るぞ 2016』」に参加しました。登壇者による今年のマンガ界についてのトークセッションと、登壇者や参加者が各々の「今年の1冊」をプレゼンテーションする2部構成で展開されました。
なお、来場する際は「今年一番のマンガを持って参加してください」とのこと。私も今年イチオシのマンガを1冊持って参加しました。

 

どきどきしながらの初参加でしたが、会場はとても和やかな雰囲気。何度も参加されている方もいらっしゃるようで、あまり気負わず話を聞くことができ、とても楽しかったです。

 

さて、オススメマンガを語る前に、2016年はマンガ界にとってどんな年だったのかを振り返るトークセッションからスタート。
登壇者は以下の通りです。

 

カフェマスター
  • 伊藤遊氏(京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)
  • 金水敏氏(大阪大学文学研究科教授)
ゲスト
  • 雑賀忠宏氏(マンガ学会関西交流部会代表、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)
  • 吉村和真氏(京都精華大学マンガ学部教授、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)
  • ユー・スギョン氏(京都精華大学マンガ研究センター研究員)

 

まずは登壇者それぞれから2016年印象的だったことを発表。

 

転換期を迎えるマンガ業界
大物マンガ家の逝去、長期連載終了がめだった2016年

吉村和真氏(京都精華大学マンガ学部教授、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)

吉村和真氏(京都精華大学マンガ学部教授、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)

 

「少子化などの影響でマンガ読者人口が確実に減るなか、マンガ業界全体が利益を得るために何ができるかを考える場面に来ている。個人的には今年は出版社と関わる機会が多かったんですが、(出版社と一緒に)どのようなことをやっていくべきかが分かった一年だった」と吉村氏。加えて京都精華大学が関わる京都国際マンガミュージアムについても触れ、「今後求められるのは勤勉な読者であり、マンガミュージアムがその拠点となっていかないといけない」と続けました。

 

さらに、高井研一郎氏をはじめとした大物マンガ家の逝去や、『こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)』といった世代を超えて長年親しまれてきた長期連載の終了についても言及。「一時代の終わりを感じる。こういったマンガ界を長年支えてきたマンガの終了は、今後じわじわと影響してくるのではないか」と分析しました。

 

過去を見直す「リバイバル」「マンガ家マンガ」の増加
Twitterなど新しい場の台頭

雑賀忠宏氏(マンガ学会関西交流部会代表、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)

雑賀忠宏氏(マンガ学会関西交流部会代表、京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)

 

次にリバイバル作品や、マンガ家が自分の経験を綴るマンガ家マンガブームが来ているというのは雑賀氏。
「80年代に流行したマンガのリバイバルの波が来ており、懐かしさから手に取る人も多い。マンガの波がひとつの成熟期を通り越したのでは。この流れでそのうち90年代に流行したマンガのリバイバルも出てくるのでは」と分析。

 

ほかにも、TwitterやSNS発のマンガの増加が話題に上がりました。
『このマンガがすごい!2017(宝島社)』のオンナ編上位にランクインした『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』など、これまでもウェブ発表から書籍化する例はありましたが、Twitterでは絵とコメント(ツイート)で展開されているのが特徴。
「新しいメディアとしてTwitterなどの存在感は増している」と雑賀氏。

 

「インターネット上でも『クラスタ』と呼ばれる小さなコミュニティが多数でき、広いインターネットのなかでもある種のローカル性ができている。一部で大きく話題になる一方、全く知らないという人も多い。スマホの普及でオンラインでのマンガの進歩がめざまく、業界地図も変わりつつある。終戦直後の赤本や貸本以降のオーソリティだ」と評価しました。
私も普段Twitterを使っていますが、先に上がったようなマンガは話題になっていた印象が強く、全く知らない人も多いという話に少し驚きました。

 

日本の手法を取り入れた海外マンガの今

金水敏氏(大阪大学文学研究科教授)

金水敏氏(大阪大学文学研究科教授)

次に金水氏とユー氏からは、視点を変えて海外のマンガについて。
まず金水氏からは、フランスで大ヒットしている自伝マンガ「L'ARABE DU FUTUR」の紹介がありました。
「このマンガはシリア人の父とフランス人の母をもつリアド・サトゥーフの幼少期を描いたマンガ。多くのアラブ系移民を抱えるフランスの現状を具体的に知ることができる貴重な作品です。このようなマンガがヒットしているということが、今のフランスを表している」と金水氏。いじめや移民といった生々しい現状が淡々と描かれており、とても興味深い一作でした。

 

続いて同じくフランスのマンガについてユー氏から。

 

ユー・スギョン氏(京都精華大学マンガ研究センター研究員)

ユー・スギョン氏(京都精華大学マンガ研究センター研究員)

 

今海外では日本スタイルでマンガを描く若い作家が増えているそう。なかでもとくにユー氏が注目していたのが、フランスのマンガ(バンド・デシネ)の『ラストマン』。

 

「日本では1人の作家が作品を作るのが常ですが、作者が3人のチームとして活動しています。また、完全に日本スタイルを踏襲しているのではなく、演出や技法を取り入れつつもバンド・デシネらしい作画に寄せるなど、いいとこ取りで構成されているのがおもしろい。こういった日本マンガの影響を受けつつも独自進化している海外マンガも今後注目してほしい」とユー氏。

 

マンガは海外では9番目の芸術として評価され、グランフロント大阪でも、日本のマンガ家とフランス語圏のバンド・デシネ作家等が「ルーヴル美術館」をテーマに創作した作品を展示した「ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~」展が開催されました。
「(近年はバンド・デシネが認知されつつあり)フランスのマンガも日本に定着してきたかな?」と言うのは司会の伊藤氏。

 

他にも文章では書ききれないほどさまざまなお話しがあったのですが、総じて感じたのは思っていた以上に新しいことがはじまっているんだな、という印象。海外でのマンガ編集の事情などは知らないことも多く、感心するばかりでした。

今年の振り返りは以上。後半からはいよいよ2016年の今年の1冊へ。まずはトークセッション登壇者からイチオシのマンガについて紹介がありました。

 

それぞれこだわりの「今年の1冊」を紹介!

まずユー氏からは自身の価値観を変えたマンガとして、ドジだけど明るく素直な彼女と“ネコ彼氏”のほのぼのカップルを描いた『オデットODETTE(著:日当貼/ほるぷ出版)』を紹介。
ネコ“系”ではなく“ネコ彼氏”というのがポイントで、彼氏は完全にネコ。ですが、ネコにしては真面目だったりと、それまでもっていたネコの価値観が変わったとスギョン氏。

 

雑賀氏からは『天野めぐみはスキだらけ(著:ねこぐち/小学館)』が紹介されました。作者はなんと雑賀氏の後輩の方だそうで、「いかにもサンデーっぽい王道ラブコメです」とのこと。また、もう1冊おまけでということで、雑賀氏がコメントを寄せている坂田靖子氏のムック本も紹介。雑賀氏いわく、「ほとんど個人としての情報がでない作家・坂田靖子さんの歴史を紐解く貴重な一冊」だそうです。

ねこぐち:天野めぐみはスキだらけ!, 1巻(株式会社小学館、2016)

ねこぐち:天野めぐみはスキだらけ!, 1巻(株式会社小学館、2016)

 

吉村氏からは2冊。
1冊目は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界(著:パンラボ/ガイドワークス)』。アーティスティックなタッチが印象的な1冊です。いわゆるグルメマンガとも違う、パン好きのためのマンガ。食パンなど“日常簡単に手に入るパン”の平均点が高いのは実は日本だそうで、とにかく編集者の熱意がすさまじいマンガだといいます。

もう1冊は、ドラマ『重版出来!』に登場する『タンポポ鉄道』を手がけた村上たかし氏の『アキオ(著:村上たかし/小学館)』。実はこのマンガ、妻に不倫された中年男性が主人公。吉村氏からは「主人公は負け組ではない、不倫の新しい解決法に目から鱗だった」との感想がありました。
またおまけとして、「女子柔道部物語(著:小林まこと/講談社)」を紹介。アトランタオリンピック金メダリスト・恵本裕子が原作・モデルの柔道マンガです。まだ連載が始まったばかりだそうですが、「来年の1位は間違いなくこれ」と太鼓判を押す1作、ぜひ注目してほしいとのこと。

村上たかし:アキオ(株式会社小学館、2016)

村上たかし:アキオ(株式会社小学館、2016)



金水氏からは息子さんが持っているマンガから、『ヒナまつり(著:大武 政夫/KADOKAWA/エンターブレイン)』ほか、『波よ聞いてくれ(著:沙村広明/講談社)』『ゴールデンカムイ(著:野田サトル/集英社)』の3冊。こちらは息子さん本人から紹介が。
「『ヒナまつり』はだらーっと読むのに最適。中盤まで『泣ける話か?』と思ったら最後は笑えるオチがある。『波よ聞いてくれ』は、(作者は『無限の住人』の沙村広明氏だが)『無限の住人』とは全く作風が違い、サブカル知識がぎゅうぎゅうに凝縮され、細かい突っ込みが痛快なコメディ」とのこと。

 

紹介された本、タイトルは知っていても読んだことがない本や、全く知らない本も。会場では見本としてこれらの本が回覧されていましたが、さすがオススメされるだけあり、どれもかなりおもしろそうでした。


ここからは来場者の中から今年イチオシの一冊を紹介することに。こちらは数が多いため、一部のみ紹介します。

 

アサイ:木根さんの1人でキネマ,1巻(株式会社白泉社、2015)

アサイ:木根さんの1人でキネマ,1巻(株式会社白泉社、2015)

木根さんの1人でキネマ(著:アサイ/白泉社)
三十路越え映画を見るのが趣味の独身OLの、映画愛をこじらせた生き様を感じるマンガです。登壇者からは「最近こういったお一人様マンガ、趣味女子マンガは増えている」というコメントも。これからまだまだこういったこじらせ女子マンガ増えそうです。

 

ジョージ朝倉:ダンス・ダンス・ダンスール, 1巻(株式会社小学館、2016)

ジョージ朝倉:ダンス・ダンス・ダンスール, 1巻(株式会社小学館、2016)

ダンス・ダンス・ダンス―ル(著:ジョージ朝倉/小学館)
男子バレエを題材にしたスポーツマンガ。バレエマンガといえば昔から女性の身体を美しく見せるためによく少女マンガなどでも題材にあがるものですが、こちらはあえて男子バレエに焦点をあてているそうです。

 

浅野りん:であいもん,1巻(株式会社KADOKAWA、2016)

浅野りん:であいもん,1巻(株式会社KADOKAWA、2016)

であいもん(著:浅野りん/株式会社KADOKAWA)
私が紹介させていただいた一冊です。京都の和菓子屋を舞台にしており、和菓子と京都と家族もの、というとしんみりしそうですが中は軽快なコメディ。とにかくこの作家さんは京都弁をマンガにするのが上手いのでぜひ。

 

雲田はるこ:昭和元禄落語心中, 1巻(株式会社講談社 2011)

雲田はるこ:昭和元禄落語心中, 1巻(株式会社講談社、2011)

昭和元禄落語心中(著:雲田はるこ/講談社)
同じ人物が年をとっていく、経年の差をしっかりと描けているのがスゴイと紹介者絶賛。落語そのものが経年が重要ということもあり、その部分を繊細に描いているのがとても魅力的だとのこと。

 

アトム ザ・ビギニング(元案:手塚プロダクション コンセプトワークス:ゆうきまさみ マンガ:カサハラテツロー 監修:手塚眞 協力:手塚プロダクション/小学館クリエイティブ)』
タイトル通り、鉄腕アトムの前日端を描く物語です。鉄腕アトムを元案にしつつも今風にリファインされており、アトムを知らない人でも十分に楽しめるとのこと。

 

ぼのちゃん(著:いがらしみきお/竹書房)』
『ぼのぼの』に出てくるぼのぼのの赤ちゃんの時のお話しだそうで、ぼのぼのらしい笑いと懐かしさが魅力。

 

最後に締めとして、司会の伊藤氏から『動物たち(著:panpanya/白泉社)』と『傘寿まり子(著:おざわゆき/講談社)』を紹介。とくに、80を超えた女性を描く『傘寿まり子』は作者の才能を感じたとのことです。

panpanya:動物たち(株式会社白泉社、2016)

panpanya:動物たち(株式会社白泉社、2016)

 

16時から18時までの開催でしたが、2時間があっという間に過ぎてしまいました。マンガが好きだという共通点があるからか、終始とても楽しそうだったのも印象的。

 

マンガカフェは現在不定期で開催、次回は2月17日(金)に「海の向こうで、BLはどうなっているのか?~藤本由香里さんを迎えて~」を開催予定です。(2017年1月31日現在受け付けは終了しています)



取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂


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