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  • date:2019.4.9
  • author:南 ゆかり

「おいしい」の凄みを体験。京の料理人と研究者が食感と向き合う龍谷大イベントへ!

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「食感」は、料理のおいしさを決める重要な要素。この食感に、京都の日本料理の名店で腕をふるうプロの料理人と研究者が真剣に向き合ってさまざまにトライするシンポジウムが龍谷大学主催により開かれた。その名も「食感の日本料理」。会場はホテルの宴会場、試食付き。シンポジウムらしくない、楽しいイベントだった。

日本料理の新機軸を生み出す!?

このシンポジウムを企画した、龍谷大学「食の嗜好研究センター」では、研究者と料理人がコラボしておいしい日本料理創成のための実験研究を行っている。研究者の実験+料理人の料理=基本実験+応用実験を行いながら、日本料理の新たな方向性や発想を探るというのが基本姿勢だ。ここで示されたものが、明日からどこかの料理店で食べられるというものではないのだが、いずれ潮流となる何かがここから生み出される、そんなワクワクするような研究なのである。

シンポジウムの趣旨を紹介する「食の嗜好研究センター」センター長の伏木亨教授(龍谷大学農学部食品栄養学科)

シンポジウムの趣旨を紹介する「食の嗜好研究センター」センター長の伏木亨教授(龍谷大学農学部食品栄養学科)

 

その成果を毎年シンポジウムで報告しており、今年のテーマは「食感」。京都の名だたるお店の料理人が登場し、自分の仕事の中での食感への関心を語り、新しい食感に挑戦した作品を発表した。食感を巡って今までになかった料理法、食材の利用法がいくつも提案され、その試作品が参加者に提供され実際に味わうことができるという趣向だ。

「食べ進む仕掛け」×「ヘテロ感」

第1部は、研究者と料理人の1対1のセッション形式。実際の研究でもこんな感じなのかなと思わせるような、研究者×料理人の議論がライブで行われる。
「食感を操る日本料理」のテーマでは、たん熊北店3代目主人・栗栖氏と味の素株式会社イノベーション研究所の研究者・川崎氏が、そもそも食感とは何かを紐解く。

川崎氏(左)と栗栖氏(右)。ふわふわ、モチモチなどの食感用語は、英語は約77、中国語は約144あるといわれるが、日本語はなんと450(!)近くあるという

川崎氏(左)と栗栖氏(右)。ふわふわ、モチモチなどの食感用語は、英語は約77、中国語は約144あるといわれるが、日本語はなんと450(!)近くあるという

 

研究者の「食感は、日本料理にとってどう大切なのか」という問いに、「見た目と口の中に入れたときの食感の違いで楽しませるのが我々の仕事」と答える栗栖氏。料理人の想いに触れることができるのも、このシンポジウムの楽しさだと気づいた。

 

その後、料理人が伝統の琥珀豆腐を題材にして、新しい食感の創造に挑戦した「実験」を紹介。食べ進むうちに「あれ?」「あれ?」と食感への期待を裏切っていくような料理をめざし、伝統料理を予期しなかった偶然の出会いを楽しむ料理にアップデートする試みである。

貝柱や長芋など食感の違う素材を使ってごま豆腐をつくり、さらにだしゼラチンで包んで固めて琥珀豆腐として仕上げる過程が披露された

貝柱や長芋など食感の違う素材を使ってごま豆腐をつくり、さらにだしゼラチンで包んで固めて琥珀豆腐として仕上げる過程が披露された

 

実験を経て「いつもの琥珀豆腐やなと思って油断していると、長芋はシャキシャキ、シャリシャリ、貝柱はコンフィにするとぐにゅぐにゅとして、ゴマ豆腐はモチモチ。食べ進むうちに口の中の感じ方が変わっていくという仕掛けをしてみたんです」(栗栖氏)

 

このように、今回のシンポジウムではほとんどすべての発表で、素材や作り方を始め実験の目論見を料理人自らが説明。その発想のあり様をリアルに感じられる。

 

それを受けて研究者は、この新しい挑戦を分析。川崎氏は「ヘテロ感」に着目した。「ヘテロ感」とは、食品業界でよく使われる不均一さやコントラストを感じる感覚のことだそうだ。箸でつまんで口に入れやすいように正方形に切り出してある日本料理は、一見、不均一さがないようなのに、口に入れるとヘテロなものを感じる。そこが「日本料理らしい」食感の仕掛けだという。実験、そして考察。科学の対話の中で、日本料理に新しい可能性が見えてくるセッションである。

食感とはポエムである

続いて行われたセッション、平等院表参道竹林・下口氏と龍谷大学農学部・山崎准教授による「食感で季節を想う」では、和菓子の餡(あん)と砂糖というシンプルな素材で、色も形も香りも使わずただ食感のみで季節を表現するというチャレンジングな試みが披露された。

「もちもち、ふかふか、ふっくら、人肌恋しい」冬のイメージと「サラサラ、みずみずしい、つるん、ひんやり」の夏のイメージが、それぞれ見事にお菓子に。こちらは冬の雪もち。

「もちもち、ふかふか、ふっくら、人肌恋しい」冬のイメージと「サラサラ、みずみずしい、つるん、ひんやり」の夏のイメージが、それぞれ見事にお菓子に。こちらは冬の雪もち。

 

下口氏が食感で季節を表現する上で抱いたコンセプトは、「よろこび、想像、残心」。また会えたという喜びと、記憶からさまざまに呼び起こされる季節のイメージ、そして過ぎていく季節への名残惜しさを、食感に詰め込んでいるというのである。伝える料理人と受け止めるお客さんと。食感を大事にする日本料理には「お客さんとの見えないやり取りが非常に多い」という下口氏の一言が印象に残る。

 

これを受けて山崎氏は「食感とは詩のようだ」。食べる側の経験や記憶の積み重ねが、料理人のイメージを受け止められるかどうかを決める。「それは教養であり、食文化。食感とは、単に硬い柔らかいではなく、極めて高度な想像力や感覚ということになる」と分析した。よく「日本料理は繊細」とか決まり文句のように言われるが、その裏にある奥深さや凄みのようなものが伝わってきた気がした。

すごすぎる、日本料理

セッションの後の第2部は、休憩をはさんでゲストの料理人たちによるプレゼンテーションが8本。休憩中には、実験料理の中から3品と竹林さん自慢の巻きずし「万福巻」の皿が配膳され、後半のプレゼンテーションを聞きながら試食できる。

実験料理の中からどの3品をいただけるかは当日のお楽しみ

実験料理の中からどの3品をいただけるかは当日のお楽しみ

配膳の様子

配膳の様子

 

私のお皿に並んだのは、一子相伝なかむら・中村氏の「たらこの真丈?」※、京料理直心房さいき・才木氏の「濃厚な食感」、菊乃井・村田氏の「食感のカツ用」、と題された3品である。

※真丈(しんじょ):柔らかいかまぼこのようなもので、海老のすり身を昆布だしや卵白ですりのばして調味し仕上げたもの。

左上から時計回りに「濃厚な食感」「食感のカツ用」「万福巻」「たらこの真丈?」

左上から時計回りに「濃厚な食感」「食感のカツ用」「万福巻」「たらこの真丈?」

 

「たらこの真丈?」は、高野豆腐を使って、粒粒がありつつ柔らかいというたらこの食感を出すという驚きの料理。「濃厚な食感」は、モチモチ感を突き詰めるとどうなるのかという疑問を追究した本当に濃厚なビワマス料理。そして「食感のカツ用」は、肉ではなく大豆たんぱくで作っているのが信じられないカツサンドだ。

 

どれも前提としてとびきりおいしいが、プレゼンを聞きながら食べると、言葉で聞いたときのイメージを実際の食感で確かめることになり、食べる前の期待感も試食後の納得感も倍増する感じ。日本料理の奥深さに、圧倒される数時間となった。

ビワマスを使った「濃厚な食感」についてプレゼンする才木氏。それぞれの料理人が料理の複雑な工程や工夫ポイントを解説

ビワマスを使った「濃厚な食感」についてプレゼンする才木氏。それぞれの料理人が料理の複雑な工程や工夫ポイントを解説

 

食感の果たす役割がこれほど重いということを、恥ずかしながら、今まで知らなかった。おいしさが言葉で語られることの魅力にも、初めて気づいた気がする。おいしさって、すごいです。


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