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  • date:2023.9.14
  • author:藤原 朋

女性学のパイオニア・上野千鶴子先生が次世代に伝えたいこととは? 東洋学園大学の公開講座をレポート

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19世紀末から20世紀初頭にかけて起こったフェミニズムは、女性の権利拡大に大きく寄与してきました。近年は、世界中に広がった「#MeToo」運動に代表されるSNSを中心とした動きが活発化し、「第四波フェミニズム」の到来とも言われています。日本でも「#Kutoo」「#わきまえない女」といったハッシュタグが話題になったことは記憶に新しいのではないでしょうか。

 

今回は、日本のフェミニズムを牽引してきた認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長で東京大学名誉教授の上野千鶴子先生が、東洋学園大学の公開講座で講演を行うと聞き、オンラインで聴講しました。

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フェミニズムが半世紀にわたって達成してきたこと

今回参加したのは、今年5月から8月にかけて全7回開催された東洋学園大学の公開講座「教養の扉を開く ~一流講師の知にふれる、珠玉の講義~」の第5回。上野千鶴子先生が、「次世代にどんな社会を手渡すか ―ジェンダー平等の明日」と題してオンライン限定で講演されました。

 

女性学のパイオニアとして知られる上野先生は、「日本でウーマンリブが生まれたのは1970年、半世紀以上前です。フェミニズムが変えたことはいくつもあります」と語り始めます。

 

「東京メトロで『痴漢は犯罪です』というポスターを見た時の感動は忘れられません。かつては『痴漢は受けて当たり前。痴漢に遭ったことのないおまえには性的魅力がない』とさえ言われていました。でも、痴漢は犯罪だとはっきり表現できるようになったのです」

 

他にも、家庭科男女共修や男女混合名簿、お茶汲みの廃止など、フェミニズムが変えたものを挙げながら、「中でもセクハラの不法行為化はとても大きい変化だった」と話す上野先生。自身の性被害を公表し、日本の「#MeToo」運動の先駆けとなったジャーナリストの伊藤詩織さんの例を取り上げ、このように指摘します。

 

「私が『空気が変わった』と感じたのは、伊藤詩織さんと作家の中島京子さんの対談を読んだ時でした。中島さんはこうおっしゃっています。『もし私たちの世代がちゃんと声をあげていれば、社会も少しは変わっていたかもしれない。詩織さんがひとりで頑張らなければならない状況にしてしまい、本当に申し訳ない』と。それまでは、年長の女性はセクハラを告発する若い女性に対して『そんなことを言い立てるとあなたのためにならないわよ』『うまくいなすのが大人の女よ』と抑える側にいた。そんな年長の世代が変わり始めたことを実感しました」

 

さらに、上野先生は「権力=状況の定義」だと語り、セクハラについて次のように説明します。

 

「セクハラの加害者は『合意の上だった』と言います。でも被害者は『いや違う、あれは強制だった。ノーが言えなかった』と言います。こうやって加害者側から被害者側へと状況の定義権を奪い返してきたことが、フェミニズムが達成したことです」

 

フェミニズムが変えられなかったこととは?

多くのことを達成してきたフェミニズム。では、フェミニズムが変えられなかったことは何でしょうか。上野先生は「一番大きな問題は、労働と経済に切り込めなかったこと」だと語ります。

 

例えば、日本の男女賃金格差は諸外国と比べると非常に大きく、韓国に次いでワースト2位。女性管理職比率も諸外国の半分から3分の1ほどに留まっています。

 

「なぜ賃金格差が大きいかと言うと、女性が稼げるポストに就いていないからです。ポストが上がらないから、給料が上がらない。(それに対して)なんでやねんと言ったら、『女性は早く辞めるから出世できない』と言われてきました」

グラフは講演のスライド資料をもとに「ほとんど0円大学」で作成

グラフは講演のスライド資料をもとに「ほとんど0円大学」で作成

 

本当に女性が早く辞めることが原因なのでしょうか。ここで上野先生は、非正規雇用の問題について言及します。

 

「日本の女性は、生産年齢人口の10人に7人が働いています。問題はこの人たちの半分以上が非正規で働いているということです。正社員は妊娠・出産を経ても25%しか離職しません。でも非正社員の人たちは、6割が離職します。多くの人が期間満了、雇い止めといった形で辞めざるを得ない状況です」

 

そして、こういった状況の背景には、男女平等法制と労働法制が関係していると言います。

 

「1985年、男女雇用機会均等法ができたのと同じ年に、労働者派遣事業法ができました。ここから怒涛のごとく、雇用の規制緩和が起きました。ジェンダー平等法制の整備と雇用の規制緩和、この2つがまるで表番組と裏番組のように、手に手を取り合って進んできたように見えます」

 

さらに、もう一つの大きな問題として、昭和型の税制・社会保障制度を挙げます。配偶者控除、第3号被保険者制度、配偶者特別控除といった制度が「女性の就労をよってたかって抑制してきた。禁止してきたと言ってもいい」と上野先生。これらの制度は「103万・106万・130万・150万円の壁」と呼ばれ、「専業主婦優遇策」などと言われてきましたが、それは間違いだと断言します。

 

「こういったルールによって、いったい誰が得をするのか。それは、妻の社会保険料を負担しなくて済む夫、主婦パートの社会保険料を負担しなくて済む使用者、就労調整をする主婦パートを低賃金に抑えることができる使用者。結局、得をするのはおじさんばかりです。専業主婦優遇策と呼ぶのは完全な間違いだと思います」

 

男女雇用機会均等法、労働者派遣事業法、そして第3号保険者制度。この3つが制定された1985年が、「女性の分断」「女性の貧困」「女女格差(女性間における格差)」の元年であったと上野先生は語ります。

 

「ここから女の人たちが分断されていった。男並みに働く総合職と、『私はそこまで働けない』という非正規職、そして育児・介護専従者。女性が3層に分解され、貧困や格差が生まれていきました」

 

近年よく目にする、女性の分断・貧困・格差といった言葉。これらが40年近く前から始まっていたことにハッとさせられます。

 

日本がジリ貧から脱するための処方箋

フェミニズムが変えられなかった、労働と経済の問題。根本にある原因は一体何なのでしょうか。

 

「諸悪の根源は、日本型雇用。これは私たち社会学者も経済学者もほぼ意見が一致しています。日本型雇用とは、終身雇用・年功序列給与体系・企業内組合の3点セット。これらは組織的・構造的に女性を排除する効果があることがわかっています」

 

こうした性差別のツケによって、「このままでは日本はジリ貧になる」と上野先生は警告します。

 

「日本のGDPは世界3位ですが、国民一人あたりのGDPは24位に転落しました。生産性は28位です。国民負担率、男女賃金格差、ジェンダーギャップ指数も順位が低い。日本はジリ貧になり、二流国になりました。これは人災です」

 

数値ではっきりと現実を目にすると、思わず気持ちが暗くなってしまいますが、上野先生は「処方箋はある」と力強く語ります。

 

「どうしたらいいか、もう答えは出ています。日本型雇用をやめることです。女性を積極的に雇用し、均等処遇を行っている企業ほど、売上高経常利益率が高いことが調査からもわかっています。つまりそのほうが『儲かりまっせ』ということなんです。このまま変わらなければ、ジリ貧になるだけ。現状維持をするだけでも、変化し続けなければならない。危機感を持たなければ、日本社会は変化しません」

 

「こんな日本は変わりますか?」と問われたら、「YES」と答えると上野先生は言い切ります。「なぜなら、私たちが変えてきましたから。だから、あなたにも変えられます」。

 

被害者、加害者、そして傍観者にならないために

最後に、今回の講演のテーマとして掲げられている「どんな社会を次世代に手渡したいのか」について、上野先生はこう語ります。

 

「私はあなた方に加害者にも被害者にもなってほしくない。女がじっと我慢して被害者で居続けることは、次の誰かにとって加害者になることです。そして、とりわけ傍観者になってほしくない。沈黙は同意、笑いは共犯です。言葉を飲み込んだり、つられて笑ったりするのではなく、直ちにその場でイエローカードを出してほしいのです」

 

そして、現在は高齢者介護を研究テーマとしている上野先生は、「フェミニズムは、弱者が弱者のままで尊重される社会を求める思想です。私たちが手渡したい社会は、弱者が安心して生きられる社会。その弱者の中には、子どもやお年寄り、障害者、そして女が入っています」と講演を締めくくりました。

 

質疑応答の時間には、「社会を変えていくために、個人レベルでは何から始めたらいい?」「女性が自分らしくキャリアを構築するには?」「女性管理職を増やそうとして男性から『逆差別だ』と言われたら、どう切り返せばいい?」といった質問が次々と寄せられ、上野先生が厳しくも温かいアドバイスで激励する姿が印象的でした。

 

上野先生の講演を通じて、フェミニズムが変えたこと、変えられなかったことを振り返り、傍観者ではなく自分事として向き合っていくこと、小さなことからでも一つずつ声を上げていくことの大切さを改めて感じました。


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