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  • date:2022.3.22
  • author:ほんま あき

健康にかかせない野菜パワー「抗酸化」研究を学ぶ! 摂南大 農学セミナーレポート

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野菜と肉はバランス良く摂ろう、野菜をたくさん摂ろう、と以前からよく耳にしますが、なぜ野菜をたくさん摂ることがよいのでしょうか? その疑問を解決するキーワードが「抗酸化」です。今回「食品の抗酸化評価法とその活用」をテーマに、摂南大学農学部の市民公開講座が開催されましたのでオンラインで参加してみました。

 

健康や美容に意識の高い方なら、体に悪さをしたり老化を進めたりする活性酸素という言葉を聞いたことがあるかもしれません。公開講座のテーマである抗酸化とは、この活性酸素から体を守る働きで、平たくいえば、体をサビつかせないこと。例えば、鉄をイメージするとわかりやすいと思います。鉄が空気中の酸素と結合してサビるのも酸化現象です。私たちの体はもともと酸化させない物質、「抗酸化物質」を持っているのですが、加齢とともにその量は少なくなっていきます。なので、抗酸化物質を食材から補う必要があるのです。とくに野菜は抗酸化物質の宝庫。野菜を摂ることで体をサビにくくしてくれるそう。体をサビにくくするとエイジングケアになることからも、興味津々でセミナーを視聴しました。

植物の色は生きるための色。人の健康に大きく関係する 

s-稲熊先生

 

セミナーは2部構成で、第1部の講師は信州大学特任教授であり摂南大学の客員教授を務める稲熊隆博氏。あの「カゴメトマトジュース」で有名なカゴメの総合研究所でトマトのリコピンの研究をされていて、おいしいニンジンジュースや宇宙食などの開発に携われた方です。講演タイトルは「食品中の脂溶性抗酸化物質の健康効果とその評価法について」でした。

 

講演は、「植物はどうして色を持ったのか?」という投げかけで始まりました。

「秋になると山がきれいな色に染まります。植物はどうしてそんな色を持ったのでしょうか。その理由は、植物が生きていくためなのです」。

 

植物自身が生きていくためとはどういうことなのでしょう?

 

植物が光合成によってでんぷんや酸素といった栄養を作ることは、学校でも習いましたが、それと同時に、植物にとって有害な「活性酸素」を作ってしまうというのです。すなわち、植物は光合成をするために緑色のクロロフィルを、発生する活性酸素を消去するために黄色のカロテノイドという抗酸化物質を持つことになったそうなのです。赤や紫、オレンジ色など、色とりどりの鮮やかな野菜や果実には、一つひとつ意味があったのだと、新鮮な思いで話を伺いました。

 

普段は意識してはいないのですが、人は1日約500リットルの酸素を体に取り込んでいるそうです。そのうち1~2%程が活性酸素になるといいます。そう、体をサビつかせる張本人です。活性酸素は、がんや循環器系の疾患、糖尿病、骨粗鬆症といった病気と関係があるといわれています。つまり、活性酸素を消してくれる抗酸化物質を摂ることは、健康や若々しさを保つカギになるというわけです。

 

抗酸化物質にはさまざまな種類があります。その一つがカロテノイド。では、カロテノイドにはどんな種類があるのでしょうか。身近なところでは、トマトのリコペンや、ニンジンのβ-カロテン、赤ピーマンや唐辛子に含まれるカプサンチンなどがあげられます。

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講座で映し出されたスライド。カロテノイド類の化学構造式

 

“カロテノイドは摂りたいけど、ニンジンは苦手だから、トマトをいっぱい食べていればいいかな?”などと思ってしまいがちですが、実はそう単純でもなさそうです。

「実際に人の体が持っているカロテノイド類を調べてみると、目にはゼアキサンチンやルテイン、肝臓にはリコピンやβ-カロテンが多いなど、臓器によって持っているカロテノイド類が違うことがわかりました」と稲熊氏。臓器によって働くカロテノイドが違うので、一つの食材だけを食べれば良いというわけではないのです。筆者自身、美容と健康のため、毎日必ずトマトを食べるようにしてきたのですが、それではダメだとわかりました。

体内のカロテノイド

体内のカロテノイド

 

性別やライフステージによっても、積極的に摂りたいカロテノイドが変わるそうです。つまり“カロテイノドが変わる=食材が変わること”になります。稲熊氏はさまざまな研究結果から、例えば、胎児期や乳児期における栄養・ミネラル補給にはトマトやニンジン、パセリなどを、女性成人期における妊娠中毒や日焼け、卵巣・子宮がん対策にはカボチャやキャベツ、クコ、ショウガなどを積極的に摂るということなど、を話されています。

 

また、稲熊氏らは、日本で初めてカロテノイド類の抗酸化作用を正確に評価するSOAC(ソーアック)法を開発されました。SOAC法で測定した場合、抗酸化作用があるα-トコフェノール(ビタミンE)を1とすると、リコペンは105、β-カロテンは82という数値になり、カロテノイド類に高い抗酸化力があると確認されたのです。

 

人の健康に役立つ野菜のパワー、抗酸化。トマトのリコペン、ニンジンのβ-カロテンなどの力を充分に活かすには、体内にうまく吸収させることが大切です。稲熊氏は「生トマトを食べても、トマトジュースを飲んでも、カロテノイドの吸収は同じなのでしょうか」と、私たちに問いかけました。野菜の固い細胞壁が壊されることで、栄養成分が溶け出すため、調理によってカロテノイドの吸収性は変わるといいます。特に、カロテノイド類のような脂溶性の抗酸化物質はどう調理するかが重要になるそうです。

 

稲熊氏によると、ケチャップなどのペースト状のトマト加工品を利用することで一部の論文で生トマトに比べて約16倍の吸収率があるとのこと。ケチャップに加工される工程でトマトの細胞壁が壊れて吸収率が上がるといわれています。また、トマトジュースと牛乳を同時に摂取することでもカロテノイドの吸収は高くなるといいます。リコピンやβ-カロテンは脂溶性であるため、脂肪を多く含む牛乳に溶け込んで吸収されやすくなるそうです。「野菜を食べるときは、その調理法を考えることで抗酸化力を高めることができる」と稲熊氏は話しました。

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トマトジュースと牛乳の同時摂取によるカロテノイドの吸収 (出典:H18果汁強化技術大会)

 

 

植物の色の意味から、ライフステージごとに変わるカロテノイドの種類、調理法まで、「抗酸化」にまつわる多岐にわたる興味深い講演でした。

北海道産食材の抗酸化を数値化。抗酸化データベースを活用した商品作り

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 続いて行われた第2部では、酪農学園大学教授の若宮伸隆氏による講演、「抗酸化分析による北海道の農作物の評価」が行われました。若宮氏は、微生物学が専門ですが、大阪大学から旭川医科大学に拠点を移したあとは食の研究もスタート。文部科学省のプロジェクトに携わり、北海道産食品の有用成分を調べることで、そのブランド力の向上や差別化に取り組んでいます。

 

広大な土地を持つ北海道では、さまざまな野菜や、その加工食品が作られています。これらの付加価値を高めるには、何が良いか? そこで着目したのが、活性酸素を消去する抗酸化物質です。

 

「昆虫を含め動物は、ポリフェノールやカロテノイドを好んで食べる習性があります。何らかの役割をしているのですが、今のところ科学的な根拠を明確には出せていません」と若宮氏。

 

それでも、体によい働きがあるに違いないと注目され、抗酸化物質は7大栄養素に入るともいわれています。6大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維)までは知っていましたが、7大栄養素まであるとは驚きました。

 

第7の栄養素である抗酸化物質

第7の栄養素である抗酸化物質

 

よく水や土が変わると、野菜の味が変わるといわれます。抗酸化力も、土地よって違いがでるのでしょうか。北海道で生まれた野菜や食品の抗酸化力はどうなのでしょう。

 

北海道産食品の抗酸化物質を調べるため、若宮氏はゼロからインフラ作りを行い、旭川医科大学に抗酸化機能分析研究センターを開設。旭川医科大学から酪農学園大学に赴任されたのにあわせ、抗酸化機能分析研究センターもデータごと移設し、名称も抗酸化機能分析教育研究センターと一部名称を変更しました。

野菜や果物など北海道産の食素材を探すところから始め、抗酸化に関する情報をまとめた素材データベースと、素材そのものを保管・管理する素材ライブラリーを作り上げました。

 

データだけでなく、素材そのものを残しているのは、「この機会に北海道の素材を集めておけば、10年後、20年後、あとで比較しながら再分析することもできるのではないか考えて」と若宮氏。気温や土壌など環境の変化によって植物の機能にどう差が出たか、比較すると興味深い結果が得られそうです。

北海道産の食素材ライブラリー

北海道産の食素材ライブラリー

 

食の宝庫・北海道だけあって、これまでセンターで収集した食素材はなんと300から400品目。合計何千というサンプルが素材ライブラリーに残されています。食素材は茎や葉、実といった部位に分けて保存。天然物ならGoogleマップで採取した位置情報とともにデータ化しているそうです。

 

分析する抗酸化指標は、総ポリフェノール濃度やORAC(オーラック)値など。ORAC値とは、活性酸素を吸収、消去する能力を数値化したものです。パッケージにORAC値をラベルに表示することで抗酸化力をアピールしている食品もあるので、目にしたことがある人もいるかもしれません。これまでの分析では、道産素材でORAC値の高い食材は、ローズマリーやペパーミントといったハーブ類、小豆、大豆、アロニア、インゲン、クサソテツ、赤米などがあります。

 

では、実際にはどんな食素材が調べられ、どのように活用されているのでしょうか。若宮氏は、具体的な例をいくつか紹介してくれました。

例えば、ヨモギはORAC値が非常に高いのですが、収穫時期による違いを分析すると、収穫時期の早いヨモギの方がより高いという結果に。「春先のヨモギは抗酸化力が非常に高い。だから、抗酸化成分を摂るには春のはじめに食べるのが良い」と若宮氏。ヨモギは3月~5月頃が旬で、その頃に新芽を摘みます。桃の節句(3月3日)に草餅を食べていた風習は理にかなっていたのです。

 

センターでは加工によるORAC値の違いも分析しています。ニンニクは、発酵して黒ニンニクにすることでORAC値が大幅に増加。小豆は、茹でると大幅に減少してしまいますが、煎餅などのように焼く場合は減少度合いが少ないことがわかりました。どうすれば抗酸化物質を上手に摂れるのか、調理のヒントにもなりそうです。

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ORAC値を表示した実際の商品

 

実際に企業が商品開発や販促活動に活かしたケースもあり、味噌や黒豆エキス飲料、アロニア果汁入飲料など、ORAC値の表示を行った商品が販売されています。また、北海道にある16醸造所(約15年前の調査時)の赤ワインや元となるブドウをすべて測定し、ポリフェノール濃度を分析。北海道産赤ワインの抗酸化を数値で表すことで付加価値をつけることができ商品のアピールに役立ったそう。

 

最後に、若宮氏は「薬の発展とともに、ある成分が活性酸素を抑えて抗がん作用に関係するなど、いろいろなことがわかってきました。10年後、20年後、50年後にはもっとわかってくるでしょう。昆虫も含めて動物も私たちも抗酸化物質を食べて育っている。そこに何らかの科学的な根拠があると思っています」と話しました。

抗酸化物質をうまく摂るには、地のもの・旬のものを食べるのがコツ

講演後の質疑応答では「抗酸化力のある食べ物を効率よく摂取するにはどうすればよいのか」などの質問がありました。

 

稲熊氏は「山や海など、住む場所によって食べ物が違うと遺伝子が変わってくるといわれています。抗酸化データをそのまま利用するというよりは、地産地消的に、その土地で食べられているものを摂ることが抗酸化物質をうまく摂ることになるのでは。温故知新で、昔からの食べ方・風習を利用するのがポイントです」。

 

若宮氏も「普通の生活をしている限りは、抗酸化力をあまり気にする必要はないと思っています。日本には四季がある旬のものを食べていれば必然的に抗酸化物質を摂れるようになっています。日本人は健康的な生活を営んできて、公衆衛生もしっかりしていることが平均寿命を押し上げてきた大きな要因になっていると思っています」

 

旬を大切にする日本の食文化に納得するとともに、健康に生きるためには、食べどきや食べ方を工夫することが大切だと改めて考えさせられました。

 

抗酸化物質にはさまざまな種類があり食材も多様です。第7の栄養素に位置づけられていることを知り、健康には必須の栄養素であることを感じた講演でした。


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