ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2021.4.6
  • author:藤原 朋

建築家・塚本由晴さん×音楽家・小林武史さんが語る「社会の中の利他」とは?東京工業大学の「利他学会議」に参加してみた。

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「利他」をテーマに掲げ、2020年2月に誕生した東京工業大学「未来の人類研究センター」。センターの立ち上げがくしくもコロナ禍に重なり、「利他」という言葉への注目が高まりました。(センターの設立経緯や活動内容について、センター長の伊藤亜紗さんにお話を伺った記事はこちら

今回は、センターの1年間の研究成果を公開し、さらに「利他」について広く議論する場を設けるために、2日間にわたってオンラインカンファレンス「利他学会議」を開催すると聞き、ウェビナーに参加しました。

あらゆる視点で利他を考える2日間

利他学会議は2021年3月13日、14日の2日間、オンラインで開催。プログラムは分科会1「利他的な科学技術」、分科会2「自然と利他」、エクスカーション「分身ロボットとダンス」、分科会3「社会の中の利他」と、総まとめの全体会 によって構成されています。

利他という言葉から、「他者のために行動する」というちょっと偽善的なイメージを持ってしまう方もいるかもしれませんが、未来の人類研究センターがテーマとしている利他は少し違います。正義や善意の押し付けになってはいないかと一度立ち止まって、あらゆる視点から利他について考えるのが、このセンターが取り組んでいる利他学の特徴です。

利他学会議のポスター。多彩なゲストが招かれた photo by 石川直樹、designed by SEWI

利他学会議のポスター。多彩なゲストが招かれた
photo by 石川直樹、designed by SEWI

 

 

 

 

 

 

 













筆者が聴講した分科会3のゲストスピーカーは、建築家ユニット「アトリエ・ワン」の塚本由晴さんと音楽家の小林武史さん。同じ千葉県をフィールドに、農村と都市を結ぶ新たな働き方やサステナブルな農業のあり方について、実際に手を動かしながら実験している2人と共に考えるという内容です。

初めに塚本さんと小林さんがそれぞれの活動内容についてプレゼンテーションを行い、その後にセンターのメンバーである先生方を交えてディスカッションするという流れで行われました。

プロフィール紹介

塚本 由晴さん

東京工業大学 環境・社会理工学院 教授。1992年に貝島桃代さんと共にアトリエ・ワンの活動を始め、建築、公共空間、家具の設計、フィールドサーベイ、教育、美術展への出展、展覧会キュレーション、執筆など幅広い活動を展開する。

 

小林 武史さん

音楽家として数多くのアーティストのプロデュースや楽曲制作、映画音楽などを手掛ける。2003年に“サステナブルな社会のために”をテーマに非営利団体「ap bank」を設立し、音楽の枠組みを超えた社会活動も行っている。

建築の概念に捉われないアプローチの数々

まずは塚本さんのお話からスタート。建築家として知られる塚本さんですが、その活動は建物の設計だけにはとどまりません。たとえば、東日本大震災をきっかけに深く関わるようになった宮城県・牡鹿半島での活動。漁業の担い手を育てる「牡鹿漁師学校」や、暮らしの知恵を学び実践できる宿泊施設「もものうらビレッジ」など、活動範囲は多岐にわたります。

 

特に印象的だったのは、塚本さんが現在拠点を置く千葉県・鴨川の棚田集落での取り組み。里山の再生に関わる中で、塚本さんはあることに気付いたと言います。

 

「農村には都会からは見えない小さな仕事がいっぱいあるんです。脱穀や木割り、鶏の餌やりといった農作業などを朝や夕方にちょっとだけやるので、私たちは『ちょこっと仕事』と呼んでいます。この『ちょこっと仕事』に都会の人がもっとアクセスできるようになれば、これまでよりも一歩進んだ都市農村交流ができるのではないかと考えました」

 

そこで塚本さんが始めたのは、「ちょこっと仕事」を目録化しカレンダーに入れて、それを見た人が都市から手伝いに来ることができる仕組みづくり。「ちょこっと仕事」を集落の地図に落とし込んだドローイングを見せながら、こんなふうに話してくれました。

 

「建築の図面やドローイングとは全く違いますが、私にとって建築は今こういうところに来ている。資源へのアクセシビリティを作り出すことが重要だと考えています」

 

資源へのアクセシビリティを高める、つまり人々が自分で資源にアクセスできるようにすることを目指しているという塚本さんのお話を聞いて、これまでの持っていた建築へのイメージが覆されたような気がしました。

音楽の枠を超え広がっていった社会活動

続いて、小林さんのプレゼンテーションへ。音楽家である小林さんが様々な社会活動を行うようになったきっかけは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件だと言います。

 

小林さんは2003年に非営利団体「ap bank」を設立。野外音楽イベント「ap bank fes」の開催、「Bank Band」としての音楽活動などに派生していきます。さらに、2007年の「ap bank fes」開催中に新潟県中越沖地震が起きたことがきっかけで、災害復興支援活動にも取り組み始めます。

 

東日本大震災で関わるようになった東北で根を下ろして活動していく中で生まれたのが「Reborn-Art Festival」。アート・音楽・食をテーマとする総合芸術祭です。次回は2021年夏と2022年春に会期を分けて開催を予定しています。

 

「次回のテーマは『利他と流動性』。震災後、特に東北では利他のセンスが爆発的に増えました  が、時間が経つとともに薄れていく面もあります。震災から10年を経た今こそ利他を考えたい。また、安定しない地盤や多くの水害に昔から向き合ってきた東北は、不安定な流動性を抱えた場所。そんな流動性の中でこそ生まれる化学反応を起こしていきたいと考えています」

 

さらに小林さんは、2010年から千葉県で農場を始め、2019年にサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープンしたことなど、農業に関する取り組みも紹介されていました。

 

「ap bank」の活動をされているのは知っていましたが、小林武史さんと言えばやはり音楽プロデューサーというイメージが強かったため、芸術祭や農業など音楽の枠組みを超えた様々な取り組みを改めて知って驚きました。

2人に共通する「巻き込まれる力」

ここからはセンターの先生方を交えてのディスカッションへ。センター長の伊藤亜紗さん(東京工業大学 未来の人類研究センター 准教授)は、2人のお話を聞いて「巻き込まれる力を感じた」と語ります。

 

「偶然出会ってしまった困難に自分が巻き込まれて、勝手に体が動いていって、現場と出会う中でその人の可能性もどんどん引き出されて利他が起こっていく。2人のお話からそんな感覚を持ちました。さらに、ただ現場の問題を解決するだけではなく、もっと大きな問題につながっていることをどんどん掘り進めている。その姿にものすごく感動しました」(伊藤さん)

 

「巻き込まれる力」とは興味深いキーワードです。2人はこの言葉をどのように受け止めたのでしょうか。

 

「寄り添うっていう言葉が震災後よく使われましたが、寄り添うだけでなく自分自身も変わっていかなきゃいけないと思う。私たちは被災した当事者にはなれないけれど、自ら変わることによって当事者性を自分に宿らせることはできると考えています」(塚本さん)

 

「人のせいにばかりしているのはカッコ悪いという思いがあった。自分で関わるからこそわかることがあって、そこから数珠つなぎになって活動が広がっていったと思います」(小林さん)

 

2人のコメントから「巻き込まれる力」の強さを改めて感じます。中島岳志さん(同センター 教授)は、2人の「巻き込まれる力」を「NHKのど自慢で、おじいちゃんがどんなに自分のペースで歌ってもリズムを合わせていく演奏家たちのよう」と表現していて、思わず笑ってしまいました。

 

中島さんは「2人のお話に共通しているのは、流動性とサステナビリティの問題。この2つは一見逆の概念のように見えますが、流動性があるからこそサステナブルだっていうことだと思います。変わりながら継続していくという、流動性とサステナビリティの関係性が非常に重要」とも話していました。

新しい形で地方と都市を結ぶ

國分功一郎さん(同センター 特定准教授)は、塚本さんの「ちょこっと仕事」のお話に言及しました。

 

「塚本さんが取り組んでいる『ちょこっと仕事』の見える化マップは、とても大きなヒントになると思います。今は労働がどんどん細分化されていて、自分がやっている仕事が全体の中でどう役に立っているのか全然わからない。『ちょこっと仕事』は単にボランティアとして手助けするのではなくて、自分の仕事が全体の中で有機的にどう関わっているかわかるという点が重要だと思いました」(國分さん)

 

「確かにボランティアとは少し違っていて、都市の人にとってはある意味レジャーなんです。ただしレジャーの新形態で、利他的なレジャー。やればやるほど自分が関わった場所が良くなっていって、自分も気持ちが良い。やるほどに自分の場所になっていくんです」(塚本さん)

 

自分の仕事が確実に役に立っていると実感できれば、楽しく取り組めて充実感も得られそうです。確かにある種のレジャーであり、居場所づくりでもあるのかもしれません。

 

「二拠点、三拠点の生活なども含め、今は段階的に移行している時代だと感じます。塚本さんの『ちょこっと仕事』も、僕たちの『Reborn-Art Festival』や『KURKKU FIELDS』も、都市と地方をシームレスに行き来するところから始まっていく。次に移行する段階としてはすごく良いのかなと思います」(小林さん)

 

地方移住や多拠点生活は少しハードルが高く感じてしまいますが、「行き来するところから始まる」と聞くと自分にとっても身近な話に思えてきます。

それぞれの取り組み、専門性を交えながらのお話は、利他が無限に広がっていくのを感じました

それぞれの取り組み、専門性を交えながらのお話は、利他が無限に広がっていくのを感じました

 

センターの先生方だけでなく、参加者からのチャット画面での質問に2人が答える場面もあり、ここには書ききれないほどもりだくさんの内容であっという間に90分が過ぎていました。

 

最後に中島さんが「仏教との親和性がとても高いお話だった。確たる何かを作ろうとする設計的なあり方を越えて、外からやってくる大きな力、つまり『縁』に自己の生成を委ねていく。利他の世界と密着する重要な考え方だと思う」とコメントしていたのも印象的でした。

 

大きな「縁」の力に導かれ、「巻き込まれ」て自分を変えていく。寄り添うだけでなく自分自身も変化させていくのは勇気のいることですが、そんな意識を持って利他を考えていきたいと思いました。

 

【アーカイブ動画】以下のチャンネルに期間限定で公開中!(2021年9月末頃まで)
未来の人類研究センター YouTubeチャンネル


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