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  • date:2022.12.15
  • author:夏野久万

圧倒的画力と創作エネルギーに溢れる空間! 東京造形大学「ヤマザキマリの世界」展

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『テルマエ・ロマエ』をはじめとする漫画やエッセイ、絵画など、多彩な作品を生み出し続けるヤマザキマリさん。その魅力的な作品は、どのように生み出されてきたのでしょうか。東京造形大学附属美術館主催の「ヤマザキマリの世界」展(会期終了)に行ってきました!

 

ヤマザキマリさんは、2020年度以降、東京造形大学の客員教授を務められています。同展は、さまざまな専攻から集まった学部生・大学院生60名のほか、卒業生、教職員、外部協力者などが協力して進めたプロジェクト。漫画家、画家、著述家としての3つの側面から、ヤマザキマリさんの作品が楽しめます。それをさらに盛り上げるのが、学生たちが制作した展示物の数々。ヤマザキマリさんの作品の世界観をよりわかりやすく具体的に伝えるため、その時代の芸術作品を模した作品を展示するなど、さまざまな工夫がされていました。

漫画作品と、学生の本気が融合

展覧会は2つの会場(東京造形大学附属美術館、ZOKEIギャラリー)で行われた。東京造形大学附属美術館の展示室Aでは『テルマエ・ロマエ』ほか、漫画家としての作品を展示

展覧会は2つの会場(東京造形大学附属美術館、ZOKEIギャラリー)で行われた。東京造形大学附属美術館の展示室Aでは『テルマエ・ロマエ』ほか、漫画家としての作品を展示

 

第一会場(東京造形大学附属美術館)に入ってすぐの展示室には、漫画家としての作品が展示されていました。上の写真左手、白枠の額縁には手書き原画が、右側の黒枠の額縁にはデジタル原画がおさめられています。手書き原画の細かい描写に見入ってしまいましたよ。

 

『テルマエ・ロマエ』の手書き原画。セリフなどの文字部分には写植(写真植字)で印字した印画紙が貼り込まれている

『テルマエ・ロマエ』の手書き原画。セリフなどの文字部分には写植(写真植字)で印字した印画紙が貼り込まれている

学生だけで描いた絵画作品「ヤマザキマリワールドの学堂」

学生だけで描いた絵画作品「ヤマザキマリワールドの学堂」

各所にある説明パネルも学生が制作

各所にある説明パネルも学生が制作

 

なかでも目立っていたのは、天井から吊されている絵画「ヤマザキマリワールドの学堂」。こちらはルネサンス期の絵画『アテネの学堂』をモチーフに学生が制作した絵画です。描かれている人物はすべてヤマザキマリさんの漫画作品に出てくるキャラクターという懲りよう! 学生たちの本気度がうかがえる展示でした。

 

15世紀半ばのイタリアを舞台にボッティチェリ、レオナルドらの生涯を描いた作品『リ・アルティジャーニ ルネサンス画家職人伝』のネーム

15世紀半ばのイタリアを舞台にボッティチェリ、レオナルドらの生涯を描いた作品『リ・アルティジャーニ ルネサンス画家職人伝』のネーム

 

また、通常ではなかなか見られない手書きのネーム(マンガのコマ割りや構図、セリフなどを大まかに表したもの)も展示されていました。漫画家は一般的に、ネームに修正が入ると、その部分だけを消して修正箇所を直しますが、ヤマザキマリさんは別の紙に描き直すそうです。ネームからペン入れを経て、漫画ができるまでがわかりやすく展示されていました。ネームの段階から細部にわたり丁寧に描かれていて、作品への真摯な思いが伝わってきます。

画家としての作品と、学生たちの情熱

次の展示室では、ヤマザキマリさんの画家としての側面が見られます。展示室に入った途端、驚いたのがヤマザキマリさんの圧倒的迫力の肖像(下の写真奥)。よく見ると、ヤマザキマリさんの漫画を貼り合わせて作られたモザイクアートなんです。

「ヤマザキマリの肖像」

「ヤマザキマリの肖像」

近くで見るとヤマザキマリさんの漫画を組み合わせて作られていることがわかる

近くで見るとヤマザキマリさんの漫画を組み合わせて作られていることがわかる

 

このモザイクアートは学生が制作したものです。学生たちの情熱がこの展示会をより味わい深いものにしていると感じました。

ミュージシャンの肖像画や幼少期の作品も

左の絵画から『桐竹勘十郎の肖像』『山下達郎の肖像』『立川志の輔の肖像』

左の絵画から『桐竹勘十郎の肖像』『山下達郎の肖像』『立川志の輔の肖像』

 

モザイクアートと反対側の壁には、ヤマザキマリさんが描いた肖像画が展示されていました。どの方の肖像画も生き生きとして、あたたかみを感じます。

ちなみに山下達郎さんの肖像画(上の写真中央)は、もともと山下さんご本人の新作アルバムのジャケット用に、山下さんの提案によりヤマザキマリさんが描いたもの。さらに今回の個展開催のために、山下さんのお声がけにより文楽人形遣いの桐竹勘十郎さん(写真左)と、落語家・立川志の輔さん(同右)の肖像画制作も実現したそうです。山下さんは、絵画に描かれている通りのやさしく、面倒見のいい方なのだろうと感じました。

 

本展の隠れた目玉展示ともいえるのが、幼少期の作品の数々。小さい頃から、市販本のように表紙や見開きのページを作り、メリハリのあるストーリー展開を考えて絵本を描いていたのはすごいと思ってしまいました。

幼少期の手書き絵本やお絵描きなど

幼少期の手書き絵本やお絵描きなど

手書き絵本『えんぴつとけしごむ』。絵本の体裁になっています

手書き絵本『えんぴつとけしごむ』。絵本の体裁になっています

4〜6歳の頃の作品。右下の絵は「ぬいぐるみ」を描いたもの。今でも大切に持っているといいます

4〜6歳の頃の作品。右下の絵は「ぬいぐるみ」を描いたもの。今でも大切に持っているといいます

 

これらの貴重な作品は、展覧会に出すためにヤマザキマリさんのご実家から持ってきてもらったそうですが、とてもきれいな状態で残っていて驚いてしまいました。作品もすばらしいですが、ご家族の愛情も感じます。

著述家としての作品と、学生たちのアイデアの共演

エッセイなどが展示されたZOKEIギャラリー

エッセイなどが展示されたZOKEIギャラリー

 

第二会場(ZOKEIギャラリー)は、ヤマザキマリさんの著述家としての姿が感じられる空間です。

会場に入った途端、目に入ったのが、天井から吊された布の数々です。「ヤマザキマリのことば(インスタレーション)」という展示で、著作の中から学生がピックアップした言葉を布に印字したもの。

 

「わたしは絵を描く人間なんだと悟ったとき、腹をくくった気がします。」という言葉は、絵を描く人だけではなく多くの人に刺さるフレーズなのではないでしょうか。立ち止まって見上げている方が多数いましたよ。

最新刊「歩きながら考える」と、学生が作った本のレビュー

最新刊「歩きながら考える」と、学生が作った本のレビュー

 

ZOKEIギャラリー入口や布のまわりに展示されていて興味を引いたのが、ヤマザキマリさんの本と学生たちのレビューです。このレビューは教授だけではなく、ヤマザキマリさんご本人にもチェックを受けての展示だったようで、何度も書き直して生まれたものなのだそうです。いいものを見せたいと思う学生さんと教授の熱意に頭が下がる思いで読ませていただきました。

 

ヤマザキマリさんの作品をより深く感じられる工夫が、随所に散りばめられた「ヤマザキマリの世界」展。学生による展示物や丁寧な説明パネルがあることで、よりヤマザキマリさんの世界が色あざやかになっていたように感じました。演出の仕方によって作品のことをより好きになっていく。見せ方の工夫は、そのような可能性を秘めていると改めて気づかせてくれた気がします。

 

そして何より、ヤマザキマリさんの圧倒的な画力と作品への真摯な思いが感じられる展覧会でしたよ!


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