ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

  • date:2021.6.29
  • author:羽田理恵子

新しい大学博物館のかたち「慶應義塾ミュージアム・コモンズ」のグランド・オープン記念企画展へ

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収蔵品の展示だけではなく、文化財を活用しよう!というコンセプトをもとに、大学博物館に新たな旋風を巻き起こした「慶應義塾ミュージアム・コモンズ(通称KeMCo)」。その核となる施設が2021年4月に三田キャンパスの東別館内に開館、グランド・オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」(2021年4月19日~6月18日)とともにぐるっと全部見てきました。

慶應義塾“初”の博物館!アナログ×デジタル「慶應義塾ミュージアム・コモンズ」は文化財の宝庫!

KeMCoは慶應義塾初の博物館です。同法人が保有する文化財はさぞたくさんあるはずなのに、今まで博物館という専用施設がなかったということがまず驚きでした。もちろん160年以上の歴史を誇る慶應義塾ですから、ふさわしい環境で文化財を収蔵・保管し、展示・公開する施設の建設案は何度も浮上しては消えてきたそうです。

それが一転したのが2017年のこと。きっかけは、一般財団法人センチュリー文化財団からの書跡・絵画といった文化財の寄贈と寄付でした。これによって、新たな建物を造るだけではなく、KeMCoをハブとして学内の既存施設の文化財や学術資料を相互に連携させ、活用するという新たな試みがスタートしました。

桜田通り沿いにある白い11階建のビルが東別館、外壁には慶應義塾のシンボルであるペンマークのモチーフが浮き出している。

桜田通り沿いにある白い11階建のビルが東別館、外壁には慶應義塾のシンボルであるペンマークのモチーフが浮き出している。

 

KeMCo最大の特徴は、かつてない文化財を通したデジタルとアナログの融合です。貴重な文化財自体を使っての学習・研究はもちろん、作品を3D化するとともにその情報をデジタル化して一元管理(現在進行中)。情報はネットワークで共有されることにより、ボーダーレスにさまざまな交流、教育・研究活動へとつなげていく予定です。

文化・芸術作品の展示や収蔵はもちろん、分散する学内の収蔵品の「ハブ」と位置づけ、デジタル技術を用いた発信や保存、さらには教育拠点を目指したKeMCo。 Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

文化・芸術作品の展示や収蔵はもちろん、分散する学内の収蔵品の「ハブ」と位置づけ、デジタル技術を用いた発信や保存、さらには教育拠点を目指したKeMCo。Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

 

KeMCo機構長でもある松田隆美先生(慶應義塾大学文学部教授)は、「“空き地”をキーワードにさまざまな人が興味を持って集まり、文化財を使って、垣根のない試みがいろいろできる空間としてミュージアムを考えました。もちろん実際に見にきていただきたい。でも見るだけではなく、この空間で考えたり、体験したりして欲しいです」とお話しくださいました。

 

グランド・オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」を見ていこう!

グランド・オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」は「文字景」と「集景」の2つの展覧会で構成されています。KeMCo開館を記念した企画のテーマは景色:ランドスケープに由来するもの。土地とか国だけではなく、目の前の光景や具体的な情景、人が交流する場景、そして芸術作品の背景…KeMCoがいろいろな“景色”が交わる空間であるから、このテーマが選ばれました。

 

第一景「文字景 --センチュリー赤尾コレクションの名品にみる文(ふみ)と象(かたち)」

センチュリー赤尾コレクションとは、センチュリー文化財団から寄贈された2千件を超える作品群。もともとセンチュリー文化財団は旺文社の創業者・赤尾好夫の美術コレクションを保存するために1979年に設立された団体です。書状、和歌、写経、短冊、屏風など書跡のあらゆるジャンルはもちろん、関連する文房具、さらに漢字伝来にゆかりのある鏡や絵画など多岐にわたります。

「i 承ける-漢字の伝来と展開」「iiつなぐ-ひらがなの文化」展示室。

「i 承ける-漢字の伝来と展開」「iiつなぐ-ひらがなの文化」展示室。

 

展示は赤尾コレクションと慶應義塾に蓄積された資料により漢字の伝来からひらがなの誕生、そして日本文学の開花までを紹介しています。

展示室に入ってすぐ、ドーンと目に入ったのは「三十六歌仙図屏風」です。江戸時代初期の作品ですが、書跡の妙と色鮮やかな画が絶妙な世界観を作り出しています。千年以上前の紺紙金字法華経断簡、中国から伝わった紀元前の鏡などはぜひ見ていただきたい貴重な作品。

「文字景」で展示されている江戸時代初期の「三十六歌仙図屏風」。まさに大迫力!

「文字景」で展示されている江戸時代初期の「三十六歌仙図屏風」。まさに大迫力!

 

ご案内くださった松谷芙美先生(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)から「名品をシンプルに紹介することで、文と文字や漢字の象(かたち)、書いた人の動作や景色、例えば歌合わせの屏風なら歌合せの風景や、構図や制作の背景とか、文化財からいろんなことを想像して欲しいです」とお言葉をいただいて、作品の素材や装飾にも注目しながら見学しました。

例えば…シミ?と見間違うようなものが「飛び雲」という料紙装飾の一種であり、違う色の紙を継ぎ合わせたり、後世に残すために美しく工夫を凝らしたものがみられました。こういった工夫は料紙装飾と呼ばれ、文字の発展とともに日本で一千年以上も前から育まれてきたそうです。

料紙装飾の技法が使われた「群書治要 巻第30断簡」(平安時代/11世紀)。 Photo ©︎ 慶應義塾ミュージアム・コモンズ(センチュリー赤尾コレクション)

料紙装飾の技法が使われた「群書治要 巻第30断簡」(平安時代/11世紀)。
Photo ©︎ 慶應義塾ミュージアム・コモンズ(センチュリー赤尾コレクション)

「iii物語る--テキストとイメージ」展示室、源氏物語と平家物語の写本の比較が興味深い。

「iii物語る--テキストとイメージ」展示室、源氏物語と平家物語の写本の比較が興味深い。

 

書跡の内容を読んでみたい、という方にはくずし字認識AIアプリ「みを(Miwo)」の貸出があります。専用タブレットで読みたい部分を撮影すると、AIが翻刻(テキスト化)。まだまだ学習中で失敗することもあるそうですが…。将来的にはアプリケーションとして公開される予定。楽しみですね。

専用タブレットによる翻刻。Google翻訳のごとく、くずし字をリアルに読めるのを体感!

専用タブレットによる翻刻。Google翻訳のごとく、くずし字をリアルに読めるのを体感!

 

第二景「集景 --集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」

2000年以上前の女性の頭部彫刻、パウル・クレーやパブロ・ピカソの版画、小山敬三と宇佐美圭司の大型油彩画…。「文字景」とガラッと変わって、まるで寄せ集めのような「集景」の作品ラインナップ。ところが展示会場は違和感どころか、何か不思議な一体感が静かに醸成されていて、この世界観は何だろう?何があるのだろう?と好奇心を刺激します。

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

 

そもそも「集景」とは“集う景色”から生まれた、この企画展のために生まれた造語。ご案内くださった長谷川紫穂さん(慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員)にうかがうと「大学にはいろんな物が集まるんです。先生方から時代ごとに託された文化財だったり、卒業生からの寄贈品だったり、人と人との繋がりで紡がれたコレクション。なので今回のテーマは、人と物の集まる景色ということで『集景』になりました。自然に集まってきたコレクションの多様性、面白さを楽しんでください」と大学コレクションの隠れた魅力を教えてくださいました。

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

 

今回の展示作品は2020年10月に刊行されたコレクションブック「慶應義塾名品撰」から、さらに厳選されたお宝中のお宝です。慶應義塾の文化財コレクションの魅力はジャンルが多岐にわたること。それは時代時代の教職員が教育研究のために集めてきた物、そして慶應義塾に関わる人々の交流で集まった物ばかり。

慶應義塾の附属校から芸術家になった方や、著名な芸術家が附属校で美術講師として勤務していた時の作品など、一点一点に素敵な物語がありました。版画家の駒井哲郎が慶應義塾の機関誌「三田評論」に掲載していた作品も一見の価値あり。

 

アナログ文化財とデジタル空間をつなぐKeMCo StudI/O

KeMCo最後の見学は、卒業生でもあるアーティスト、大山エンリコイサムさんの作品のあるKeMCo StudI/Oです。ここは本格的な撮影から、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル・ファブリケーション設備が整った工房みたいなスペース。デジタルとアナログの関係性を学ぶ体験ができるので、ワークショップなども開催されます。

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

Photo ©︎ Katsura Muramatsu (Calo works)

 

KeMCoのアナログとデジタルの融合の一翼を担っているのが、さまざまな学部から集まった9人(取材時)の学生有志。ここを中心に文化財を使ってさまざまなデジタルコンテンツを作れないか、試行錯誤しています。「何か思いついたらやってみて、考える、そしてフィードバック。まずいろいろなアイディアをプロトタイプとして始めることを重視しています。やっていく中で、どんどんアイディアが出て次のプロジェクトの実験が行われています」と話すのは本間友先生(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)。

1階エントランスで展示されているKeMCoM Projectの一つ。

1階エントランスで展示されているKeMCoM Projectの一つ。

 

学生たちは「自由にやりたいことをやらせてもらっている」「制約がない」「学部を超えた化学反応ができている」と満面の笑みで話してくれました。文化財を使いアイディアをデジタル空間で具現化し、SNSで情報を発信しています。

 

関連展示「(西洋)文字景--慶應義塾図書館所蔵 西洋貴重書に見る書体と活字」

最後に、本展の「文字景」に呼応するように慶應義塾図書館で開催された「(西洋)文字景」(2021年4月14日〜5月29日)にも行ってきました。西洋を強調するためにあえて「(西洋)」をイタリック体にしているそうです。紀元前から17世紀までの西洋の文字文化を、アルファベットを中心に辿るもので、書体や支持体の変化、中世の手書き写本、印刷本の書体やレイアウトを紹介しています。

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慶應義塾は歴史的価値のある西洋古書の収蔵では日本一を誇り、印刷された世界初の聖書「グーテンベルク42行聖書」をアジアで唯一所蔵しています。その膨大な収蔵品から選ばれた27作品は、「文字として面白いもの、アルファベットの見た目で気になるものをセレクトしました」とKeMCo機構長の松田先生。

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さらに「文字は時代ともに変化して中世はラテン語が一番多かったが、それぞれ国の言語ができて書体が変わり、地域の個性も出てくる。日本語にはないけれど、文字の中に緻密な絵が描かれたデザイン性に優れた飾り文字が出てきたり。内容がわからなくてもページのレイアウトを眺めるだけでも書物は楽しめます。文字が作り出す景色を思い描いて欲しいです」ともお話しくださいました。

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何気なく使っているパソコンの欧文フォント、この時代に作られた書体が多いそうです。同じ時代でも地域によって書体に個性があるので、書体やデザインを比較してみることをオススメします。イタリアやフランス、ドイツで書体は全然違いますよ!

緊急事態宣言中、「交景:クロス・スケープ」展は会期終了しましたが、ギャラリートークや展示品はオンラインで見学することができます。KeMCoは今後年4回程度の展示会を予定。海外の作品ともデジタル空間で繋げていくなど、慶應義塾ならではの視点で挑戦を続けていきます。どんなお宝が出てくるのか、みなさん乞うご期待です!

 

それぞれの展覧会の出品作品やギャラリートークなどはオンラインでみることができます。

文字景展>>https://objecthub.keio.ac.jp/ja/event/3

集景展>>https://objecthub.keio.ac.jp/ja/event/4

集景展ギャラリートーク>>https://www.youtube.com/watch?v=HL3NmeRwfNc

文字景展ギャラリートーク>> https://www.youtube.com/watch?v=6Y8Q5s-v1Y4&t=5s

KeMCo 360 VIEW>>https://studio.kemco.keio.ac.jp/360/

オンライン展覧会「Keio Exhibition RoomX 交景:クロス・スケープ」>> https://roomx.kemco.keio.ac.jp/

KeMCo StudI/O最新情報>>https://kemco-keio.note.jp

(西洋)文字景展>>https://objecthub.keio.ac.jp/ja/event/2


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