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  • date:2019.1.8
  • author:南 ゆかり

祇園は観光地か?! 龍谷大が祇園で調査した訪日客の実態は?

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日本情緒にあふれた京都・祇園町は、外国人観光客に不動の人気を誇るエリア。しかし近年、急激に観光客が増え、地域住民との間にさまざまな摩擦が起こるようになっている。問題解決に向け、龍谷大学国際学部デブナール・ミロシュ講師と学生たちが調査を実施した。

「一見さんお断り」の町にやってきた観光客

京都、八坂神社に向かう四条通の南側一帯、祇園町南側は、国内だけでなく世界にも知られたお茶屋文化の町。しっとりとした町家のたたずまいを背景に時折行き交う舞妓さんや芸妓さんが、伝統の花街情緒を醸し出す。花街というだけでなく、町家の並ぶ「ザ・京都」的な町並みが非常によく残っているのが祇園の魅力である。

 

だが、驚くことに、祇園は観光地ではない。もちろん、舞妓による京舞、日本の伝統芸能や伝統文化を1時間でダイジェストに楽しめる「ギオンコーナー」といった観光客向けの施設もあるが、ほとんどはそうではない。少なくとも、祇園に住み商売をしている人たちはそう考えている。お茶屋はご存知の通り一見さんお断りである。エリア内にはみやげ物店などはほとんどなく、レストランやカフェなどの飲食店も予約の必要な店が多い。観光がもたらす経済効果が及ばないのが、祇園のビジネスモデルなのだ。

 

祇園町南側の人たちにとって、古きよき町並みは、貴重な財産であり商売に欠かせない“パートナー”だった。地区の人がまとまって京都市とも協力し、花見小路の景観整備、私道の整備、防災活動などを進め、大切に守ってきた。しかし、ここ数年のインバウンド旅行人気が、この町の状況を変えた。「祇園町南側の特徴は、商業地でありながら人が暮らしていることです。町家のたたずまいがそのまま残っているのも、住宅として使っていること大きな関係があります。こうした日常生活を営む場所に、世界から観光客が訪れ始めたことが、地区の人を悩ますことになりました」(デブナール先生)

祇園町の課題について話すスロバキア出身のデブナール先生

祇園町の課題について話すスロバキア出身のデブナール先生

 

無断で個人宅の玄関前で写真を撮る。なかには、敷地の中にまで勝手に入ってきてしまう人もいる。舞妓さんを見かけると追いかけて一緒に写真を撮ろうとする。

 

お茶屋遊びは、舞妓さんが置屋を出た瞬間から料金が発生するシステムなので、お座敷に向かう舞妓さんが遅れることはお客に直接迷惑がかかることになる。もっと単純には、人が多すぎて、お客さんが乗ってきたタクシーが動けないというようなトラブルも増えているという。

訪日客は祇園に何を求めている?

町の人の自治組織、祇園町南側地区協議会ではこの問題を何とかしたいと考え、まずは訪日観光客の実態をつかもうとデブナール先生に調査を依頼した。デブナール先生は、大学院生時代から京都に住んで11年。この数年祇園に興味があり、協議会の話し合いにも参加してきたという。

 

2年前に初調査を行い、今回の調査は2回目。2018年8月、龍谷大学国際学部の授業「国際文化実践プログラムⅡ~国際観光と京都~」の受講生とともに調査を実施した。学生たちは、事前学習として、協議会の人たちから祇園の歴史やビジネスなどの現状、観光客とのトラブルの現状などについて学んだ上で調査に臨んだ。

祇園に出向き、現地を訪れる訪日観光客にタブレット端末によるアンケートを実施

祇園に出向き、現地を訪れる訪日観光客にタブレット端末によるアンケートを実施

5日間かけて252人から回答を得た

5日間かけて252人から回答を得た

 

調査結果は、後に報告書としてまとめるそうだが、その前に報告会があるというのでおじゃまさせてもらうことにした。2018年11月14日、会場は龍谷大学深草町家キャンパス。協議会のメンバーや京都市の担当者を招き、学生たちが調査結果を報告した。

深草町家キャンパスは、深草駅にほど近い、150年以上の歴史を持つ京町家

深草町家キャンパスは、深草駅にほど近い、150年以上の歴史を持つ京町家

 

調査した観光客の内訳は、ヨーロッパが半数、4分の1が中国・台湾・香港、1割弱が北米・オーストラリア。アンケートは「情報源」「観光行動」「マナー」「イメージ」という4つの観点で質問項目が構成されていた。

4つのグループにわかれ、順に調査報告を行う学生たち

4つのグループにわかれ、順に調査報告を行う学生たち

 

観光情報をどこから得たかという「情報源」については、ガイドブックを頼る人もいるが、自分たちで集めた情報をもとに観光をする人が多いこと、若い人の4割程度はSNSから情報を得ていることがわかった。

 

「観光行動」では、アジアからはリピーターがより多く、欧米の観光客は初めての人が多いとのこと。学生たちは、遠い国から来て、日本文化に触れられる場所として祇園が選ばれているという分析をしていた。また、祇園の文化を知りたい、地元の人と話したいという人が多いことにも注目をしていた。

 

アジアから来た人の4割近くが、京都は日帰り予定であるにもかかわらず祇園に来ていることなども明らかになった。祇園で関心のあるもののトップは伝統的な風景や建築、次は現地の習慣やマナーである。とくに欧米から来た人は、ギオンコーナーに行く人が多かった。

 

「マナー」については、予約なしに高級料理店を訪れたり、撮影のときに自撮り棒を使うこと、舞妓・芸妓の写真を撮ることなどをどのように認識しているかを調査。実際に調査の際に、舞妓を追いかけて写真を撮っている観光客を目の当たりにした学生もいたという。看板やポスターなどでマナーを呼びかけてはいるが、一度しか訪れることのない観光客も多いため、WEBサイトなどを使ってマナーを広める必要があると分析していた。

 

最後に「イメージ」については、祇園は観光地ではないということについてどう思うか、舞妓は観光客のものかなど、祇園のイメージが観光客にどのように浸透しているかについて調査を行った。祇園を観光地と思っているのは8割程度もおり、さらに舞妓は観光客のためにいると思っている人もいたようだ。同時に、入場規制など観光行動が制限されることになっても、祇園の伝統的な雰囲気が守られるべきかという質問には、8割程度が賛成していた。

コミュニケーションが第一歩

学生たちからは、「祇園の歴史を理解していない人が多いことがわかった。観光客に歴史やそれを起源とするマナーを理解してもらい、WINWINの関係をつくるための方法が必要」「祇園の雰囲気が守られることに反対、という人がいるのに驚いた。祇園が伝統的な文化を守っていること、その重要性を理解してもらうことが大切だと改めてわかった」など調査の感想が述べられた。

学生たちの報告に、協議会の方たちも真剣に耳を傾ける

学生たちの報告に、協議会の方たちも真剣に耳を傾ける

 

国際学部3回生のメンバーの1人は、「観光客一人ひとりと直接話してみて、いろんな考えを持っている人がいることがわかりました。日本人と交流したい、話しかけてほしい、と思っている人も予想以上に多い。思い込みで対策を考えるのでなく、まずは実際にコミュニケーションしてみることが大切だと思う」と話す。

 

学生の発表を聞いた協議会のメンバーからは、観光情報源としてのSNSに注目する声があがった。「マナーを知って行動を改められるのは、年配の人よりむしろ若い人ではないか。その意味で、若い人に伝わる情報発信をしていきたい」という意見に、デブナール先生は「若い層に伝わる情報をどのように発信するかについては、学生や留学生がお役に立てるのではないか」と応じていた。

 

世界の観光都市、バルセロナやベルリン、ソウルなどでは、観光に反対するデモが起こっているという。京都は観光都市であり、ここ数年減ってきた日本人の観光客を補う外国人観光客の存在は重要だが、経済効果だけでは単純に評価できない問題がある。

 

「祇園に来る観光客は、オーセンティシティ(真正性)、つまり本物の日本らしさ、京都らしさを求めて来ている。しかし、観光の影響で祇園で暮らす人がいなくなったら、町家の並ぶ町並みは今のような形で残っていくことができないかもしれない。学生たちは、この調査によって、観光に存在するさまざまな問題に気づくことができたと思います」

 

観光の規模が増すと、今までなかった問題がいろいろと巻き起こる。観光は経済を潤し、町を活性化させる、などとひとくくりに語ることなどできないのだと改めて知ることができた。京都には本物の日本がある、などと何となく安心していたが、それは努力があってこそ守られてきたもの。せめて、もっと知ろうとしないとな、と考えさせられた貴重な経験となった。


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