世界屈指の演劇専門総合博物館が、コロナ禍に苦しむ舞台芸術をサポート!
2020年からのコロナ禍によって、数多くの舞台公演が延期や中止を余儀なくされた。どうにか実施の運びとなっても、人数制限を行わざるを得ないなど、大きな打撃を受け続けている。そんな舞台芸術を支援し収益力の強化をめざそうと昨年度、「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)」がスタート。その一環として今年2月、舞台公演映像の情報検索特設サイト『Japan Digital Theatre Archives(JDTA)』が開設された。
手がけたのは、“エンパク”こと早稲田大学演劇博物館。1928年に坪内逍遙が創立して以来、古今東西の貴重な演劇資料の収集と保存、公開に取り組んできた。収蔵品はなんと100万点以上を誇る、アジアで唯一、世界でもトップレベルの演劇専門総合博物館だ。
エンパクでは、文化庁・文化芸術収益力強化事業の一つ、EPADにより、約1,300本の舞台公演映像と、フライヤーや舞台写真などの関連資料を収集・整理し、デジタルアーカイブ化。JDTAではその情報を検索できるだけでなく、画像や一部(2021年7月現在で273本)のダイジェスト映像も無料で閲覧できるようになっている。
現代演劇・伝統芸能・舞踊の3分野にわたる舞台公演めぐりに大興奮
JDTAには現代演劇・舞踊・伝統芸能の3分野にわたる資料が集結しているが、「現代演劇だけを見ても老舗の新劇から若手の作品、児童演劇、ミュージカル、2.5次元など、多種多様な公演の情報が凝縮されている」とのこと。
ダイジェスト映像が掲載されているのは、EPADにより著作権処理がなされたもの。順次配信サイトで公開されていく予定なのだそう。
まずトップページでは、収集された舞台公演の関連画像12枚がランダムで入れ替わり、気になる画像をクリックするとその公演情報が見られるので、予備知識ゼロでも取っつきやすい。また、メニューにある〈キーワードから探す〉の部分をクリックすれば、10個のキーワードがランダムに登場。あるときは「ピカレスク ミステリー メディアミックス ブラックコメディ 家族 宗教 歴史 四人以上で踊る 震災 囃子」、またあるときは「コンテンポラリーダンス ポストドラマ演劇 元気が出る 児童劇 語りもの 国際共同制作 四人以上で踊る 神話・伝説 笑える インスタレーション」などが並び、気になるワードをクリックすると該当の一覧画像が表示され、そこから公演情報へとジャンプできる。つまりは知らない本との出会いを求めて書店や図書館へ行ったときのアレが体感できて(つまりは?)、めちゃくちゃアガる! 演劇好きな筆者としては、もうこれだけで大興奮なのです。
ランダムに出てくる10個のキーワードが、演劇界のリアルを表していて興味深い!
懐かしの公演、気になっていた公演、初めて知る公演…目の前に舞台が広がる!
トップページでさんざん遊んだあと、いよいよ〈検索〉ページへ。キーワードを入力すれば、対象を「公演 / 画像 / 映像」から絞って簡単に検索できるが、さらには分野や上演年、「抜粋映像あり・受賞歴あり」などの条件やキーワードを追加しての詳細検索も可能だ。
最初に表示されている全公演リストを分野や「抜粋映像あり・受賞歴あり」で絞り込むこともできるので、たとえば「抜粋映像あり」にチェックを入れ、表示された公演のダイジェスト映像を片っ端から見まくることもできる。
ちなみにまずここで、「抜粋映像あり・受賞歴あり」両方にチェックを入れ、目に留まった維新派の2004年公演『キートン』を見てみたところ、〈公演/作品概要〉の【Note】部分に「度重なる台風の襲来で、初日・二日目が中止になるというアクシデントも」と書かれていて、「そうだった、そうだった!」と大興奮。〈関連する演劇〉に表示された『アマハラ』や『トワイライト』、『透視図』や『カンカラ』のダイジェスト映像やフライヤー画像、舞台画像でひとしきり思い出に浸っているとあっという間に時間が過ぎていた。
再び検索ページに戻り、「抜粋映像あり」視聴ごっこをリスタート。検索結果の並べ替えができるので、「上演年」で並べ替えて最も古かった東京芸術座の1983年公演『蟹工船』をクリック。セリフが早々に刺激的すぎ!フライヤーシヴすぎ!〈関連する演劇〉に出てきた2010年版『蟹工船』と見比べるのも面白すぎ!!東京芸術座の2017年公演『父を騙すー72年目の遺言ー』も面白すぎる!!!と、あっさり体感血圧が上がりきってしまった。
さらに検索ページにも検索候補のキーワードがランダムに表示されるので、試しに「マンガ・アニメ原作」をクリックしてみたところ、検索結果一覧のなかに『舞台「パタリロ!」~霧のロンドン・エアポート~』がドン。「これ、コロナ禍のせいで東京まで観に行けんかったやつ~!!!」と脳みそ沸騰させつつ、ダイジェスト映像と舞台写真を舐めるように拝見した。
- 複数の演目に加え、当時のエピソードを交えた全情報が網羅!
約550本もの戯曲データの目録も掲載。その多くは全文読めちゃう!
さらにはEPADにより、一般社団法人日本劇作家協会が収集・デジタル化した約550本もの戯曲データの目録も掲載。同協会が制作したポータルサイト『戯曲デジタルアーカイブ』では(JDTAとは異なる)この目録に掲載されたほとんどの戯曲が無料で閲覧・ダウンロードできるほか、上演許諾の申請先も調べられる。
ここではスクロールで目に留まったクドカン(宮藤官九郎)の『鈍獣』をリンク先で確認し、〈戯曲を読む〉をクリックしたところ、200ページ以上のPDFが開いてエア鼻血! ウッカリ読みふけってしまい、気づけばどっぷりタイムワープ…(バキバキに面白い!)。同じウッカリを寺山修司の『毛皮のマリー』でもやらかしてしまったので、自制心のない人は時間に余裕のあるときにご覧あれ。
このJDTA、舞台ファンはもちろん、舞台公演を観たことがない!という人の“はじめの一歩”にも超オススメ。ちょっとの「面白そう」が趣味につながることだってある。英語との2カ国語サイトにもなっているので、海外に友人知人がいらっしゃる方々は、ぜひ自慢してほしい。なお、今年6月21日からは、エンパク館内限定で公演映像を閲覧できるサービスもスタート(事前予約制)。詳しくはエンパクの「映像・デジタルデータ資料の閲覧」ページでご確認を。
エンパクによれば、「劇場に縁遠かった方々にも身近になれば、観劇文化の裾野が広がり、コロナ禍に苦しむ舞台芸術界の活性化と持続的な収益向上に貢献できるのではないかと私たちは考えています」(岡室美奈子館長)。舞台公演は不要不急に括られるモンじゃ決してないので(とある友人は、舞台があるから自分は生きていられると断言していた)、まずは配信視聴からでも盛り上げていきたいし、生の舞台を気軽に観に行けるご時世にも早くなってほしい!