神戸の街に訪れると、街の雰囲気や道行く人がとにかくオシャレで歩いているだけで心ときめきます。オシャレさんを観察していると、タータン・チェックを身にまとっている人の割合が気のせいか高い印象です。
そんな神戸っ子も愛用している多色の糸で綾織りにした格子柄の織物・タータンを、神戸松蔭女子学院大学の学生たちが「神戸松蔭タータン」というブランド名で新たに開発したと聞きました。しかもこの「神戸松蔭タータン」は、バーバリー、伊勢丹、神戸タータン等に継ぐ、日本で5番目の法人に対して商標登録された由緒正しいタータンと言われているそうです。このタータンがどのようにして生まれたのか、開発現場となったファッション・ハウジングデザイン学科の授業をのぞいてきました。
「神戸松蔭タータン」の誕生
「商品のイイねがまた増えてる!」「式典でハンカチを大量に購入してもらった!」「ボールペンが売れたので梱包お願いね」——このやり取りは、神戸松蔭女子学院大学ファッション・ハウジングデザイン学科「地域プロデュース演習」の授業の様子です。この授業は、神戸という地域を題材に、ファッションやデザインの観点から地域社会の問題に対する視点を養うことをめざしています。
「神戸松蔭タータン」プロジェクトは、学院創立130周年を記念する事業の一環として2019年に始動しました。まずは大学をイメージする色を選考するために、松蔭女子学院の歴史、伝統などの調査からスタート。翌2020年度の授業では、さらに調査を進め、最終的に神戸松蔭タータンを構成する5色を決定しました。
この5色は、100年近く親しまれている松蔭中学・高校の制服に使われている紺と白、その胸に刺しゅうされた「Shoin Mission School」の文字色に使われた赤、大学のキャンパス内に六甲山を背にして建つレンガ色の校舎のイメージであるサーモンピンク、そして緑によって構成されています。全体のアクセントになっている緑は、「松蔭」の由来にもなった松蔭女学校設立当時の校地そばにあった3本の大松の象徴だそうです。
学位創立130周年を記念する事業の一環として制作された「神戸松蔭タータン」
タータンのデザインについては、5色をもとに学生がシミュレーションソフトを駆使して、さまざまな組み合わせを検討しました。最終的に学生投票により、現在のデザインの素案を決定。ラインの太さに若干の変更を加えて、3年がかりで神戸松蔭タータンが出来上がりました。
「地域プロデュース演習」を教える石田原弘先生(人間科学部ファッション・ハウジングデザイン学科 専任講師)は「生地を開発するにあたり、神戸松蔭タータンはそれぞれの素材の有名どころの産地にお願いしています。ウールは尾州一宮産、コットンは神戸の北に位置する多可町産の播州織、さらにスコットランド産のハリスツイードを使用しています。昔は赤色が出しにくいためタータンは緑色が多かったのですが、現代の技術だからこそ出せる色味で、とても気に入っています」と力説します。
さらに、2021年度の授業ではKobe Shoin Tartanのロゴタイプの開発も行いました。学生から85もの案が提案され、学生投票により最終デザインの素案が決定。グラフィックデザイナーに、ロゴタイプに落とし込んでもらい、運用マニュアルも制作してもらいました。他の大学グッズではあまり見ない、とても手の込んだ商品づくりとなりました。
5色の糸が織り上げた「神戸松蔭タータン」のグッズたち
日本で5番目のタータンとして商標登録
そもそもタータンとは、多色の糸で綾織りにした格子柄の織物のことで、スコットランドの伝統文化として保護されています。日本ではタータン・チェックの方が馴染み深いかもしれません。タータンのパターンはスコットランドの政府機関「The Scottish Register of Tartans(スコットランド・タータン登記所)』が管理していて、ここに登録されていないものはタータンを名乗ることができないとも言われています。
「神戸松蔭タータン」は2021年3月にスコットランド・タータン登記所における正式なタータンとして登録。登録番号13,101とのことで、スコットランド・タータン登記所のウェブサイトで確認すると、「神戸松蔭タータン」ほか、たくさんのタータン柄が登録されています。
「The Scottish Register of Tartans」公式サイトに掲載された「神戸松蔭タータン」の登録情報
さらには2022年にはタータンのデザイン、ロゴタイプとも特許庁における商標登録も完了。晴れて学校法人松蔭女子学院公認のタータンとなりました。通常なら商標登録を取得するのに2、3年かかると言われているそうですが、ブランドロゴデザインの運用マニュアルを作成するなど、実績を積み上げて説明し、出願から1年足らずで取得することができました。
自前のセールスプロモーションで取り組む
プロジェクト3年目を迎えた今年は、「神戸松蔭タータン」を使ったグッズの開発と販売に取り組んでいます。業務を担うのは、「地域プロデュース演習」の履修生30名です。学生たちは、「グッズ開発」の5チーム、「ECサイト開発チーム」、「販売促進チーム」の合計7チームにわかれて、それぞれ担当する業務を行います。
取材にうかがった日も、オンラインショップでボールペンが売れたことがわかると、伝票を印字し、倉庫から商品を持ってきて梱包する……手慣れた手つきで作業をする学生たちがいました。
現在は、大学構内のヤマザキYショップかオンラインショップのみの販売ですが、石田原先生は「神戸の街おこしにつながるよう、学内の販売にとどまらず、街中でも売れる商品にしていきたいです」と意気込みます。
ECサイトで販売されている「神戸松蔭タータン」グッズ
販売促進チームに同行させてもらいました。週一回の授業があるたびに、ショップへうかがい、在庫確認をして補充を行います。「ハンカチやクリアファイルなど、さりげなく持てる商品が『かわいい』と評判です」と話す販売促進チーム。売りたい商品を目立つところに置き、下の段でも目が届くようにと商品棚の陳列にも工夫が見られました。
ヤマザキYショップのスタッフの方と在庫確認する販売促進チーム
手づくりポップで購入をあと押し!
また、販売サイトをゼロから立ち上げたECサイト開発チームの学生に、難しかった点ややりがいについてうかがうと、「オンラインショップだと、何が必要とされているのかが目に見えて面白いです」と話してくれました。
「みんなが買いやすい場になるように、今後も試行錯誤しながら頑張りたいです」と話すECサイト開発チーム
履修生の大半を占めるグッズ開発チームでは、さまざまな商品の開発に取り組みます。費用も予算も限られた中で、自分たちが使いやすいかどうか、買いたいかどうかを考えながら取り組んでいるそう。
「ボールペンもハンカチも自分たちが使うことを想像しながら開発するのが楽しいです」「商品開発をリアルに想像できるようになりました」と将来の仕事を見据えていました。
「企画に携われる!」「地域貢献できるのは面白そう」と人気の授業
一番売れているタオルハンカチ。学生の意見を反映してデザインは2種類
石田原先生は「まだまだ未知数ですが、今期の売れ行きをみながら、商品のバリエーションを増やし、ブランドビジネスとして取り組んでいきたいです」と今後の展望を語ります。
「神戸松蔭タータン」を身につけたオシャレな神戸っ子が街であふれる日も、そう遠くはないかもしれません。神戸松蔭タータンのこれからの動向が楽しみです。
プロモーションの一貫として神戸市内で行われた「おひろめマーケット」に参加。衣装の製作やモデルの演出、運営など学生有志によるファッションショーで神戸松蔭タータンをアピール!