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  • date:2023.4.25
  • author:三木鞠花

嫁入本『源氏物語』全54帖が一挙公開! 國學院大學博物館で楽しむ物語絵の世界

國學院大學博物館で開催された企画展「物語絵―嫁入本『源氏物語』全54帖公開―」は、日本人が古くから親しんできた物語と絵の組み合わせを『源氏物語』を中心に『竹取物語』や『伊勢物語』も含めて楽しむことができる展覧会です。國學院大學図書館が所蔵する貴重資料がわかりやすく展示されており、しかも入場無料。美しい絵で表現された物語の世界を満喫させていただきました。

 

全54帖が一挙に公開されるのは初めて!

会場に入ってすぐのところに展示されているのは、嫁入本『源氏物語』の装飾箱。寛文8年(1668)頃に製作されたこちらの箱には、各帖冒頭に絵を付した『源氏物語』が収められています。久我家が、このような美しい箱に入れられた『源氏物語』を姫君の嫁入道具として用意したそうです。今回の展示は前期(2023年1月28日~2月26日開催)と後期(3月1日~3月26日開催)に分かれていて、この箱の引き出しの右側(一の引き出し〜三の引き出し)が前期に、左側(四の引き出し〜六の引き出し)が後期に公開されていました。

嫁入本『源氏物語』装飾箱。木製の小さめな引き出しをイメージしていたのですが、思っていたよりもしっかりとしている印象。各引き出しに書かれた文字が流麗で美しい

嫁入本『源氏物語』装飾箱。木製の小さめな引き出しをイメージしていたのですが、思っていたよりもしっかりとしている印象。各引き出しに書かれた文字が流麗で美しい

 

学芸員の佐々木理良さんに企画展についてうかがったところ、企画展の目玉は嫁入本『源氏物語』54帖の一挙公開ではありますが、見て欲しいポイントは他にもあるとのこと。

「本学では『源氏物語』だけでなく、絵巻物や物語絵という切り口でも研究しているので、『竹取物語』や『伊勢物語』なども含めて“物語絵”というタイトルで展示しました。日本人がかなり古くから、物語を読み込むために絵を用いていたことを紹介したかったのです」

 

「54帖一挙公開」と「物語絵」と大きな見どころが2つもある今回の企画展。では実際に、どのような展示なのでしょう。早速、見ていきましょう。

 

物語の勉強にも絵の勉強にも!

企画展のタイトルは「物語絵」で、主役は物語と絵。西洋では聖書の内容を理解するためにステンドグラスや宗教画が描かれていましたが、日本でも古来から、物語を理解するために絵が活用されていたのですね。どのような場面について書かれているのか、絵を見れば一目瞭然。『源氏物語』は登場人物が多くて苦手意識があったのですが、絵の美しさに惹かれ、次第に『源氏物語』の世界に入り込んでいきました。

 

今回展示されている嫁入本『源氏物語』54帖は、江戸時代に描かれたものですが、保存状態が良く、とても細かいところまで見ることができます。物憂げな表情や目線、月のニュアンス……精緻に描かれていて、見入ってしまいます。そして、そして、物語の本文と展示の解説も読むと、まるで答え合わせをしているようで、なかなか楽しかったです。どういう場面なのか、どのような心情から生まれた表情なのか。文字からだけでは想像しにくい情景が、絵の力によって想像しやすくなりました。

手前に展示されているのが絵の部分。壁のパネルでも主要な場面が解説されていて、物語の流れも把握することができます

手前に展示されているのが絵の部分。壁のパネルでも主要な場面が解説されていて、物語の流れも把握することができます

こちらは本文とともに引き出しに収められていた注釈書類の展示。うーん、達筆すぎてぱっと見で読むことはできなかったので、絵のありがたみを感じました

こちらは本文とともに引き出しに収められていた注釈書類の展示。うーん、達筆すぎてぱっと見で読むことはできなかったので、絵のありがたみを感じました

 

また、物語絵ならではの感じ方もありました。1枚の絵の中にその場面の時間の流れまで表されているように見えます。例えば、『竹取物語』のかぐや姫が旅立つ場面では、かぐや姫の行動だけでなく、あたかも登場人物の心の機微まで伝わってくるようでした。物語の中のある一瞬を切り取って描かれているというよりも、文章で表されている場面の時間の流れまでも表しているようです。静止画なのに絵がここまで語ってくるように感じるのは、物語とテキストの相乗効果のように思いました。

『竹取物語』の展示。初めての古典の授業で暗唱した「今は昔、竹取の翁といふものありけり……」とすぐに思い浮かび、展示を見てもすぐにどの場面なのかピンときました

『竹取物語』の展示。初めての古典の授業で暗唱した「今は昔、竹取の翁といふものありけり……」とすぐに思い浮かび、展示を見てもすぐにどの場面なのかピンときました

 

充実した資料で展示をより楽しめる

今回の企画展は、会場で展示を鑑賞する以外にも、さまざまな楽しみ方があります。一つは、YouTubeに公開されている解説動画です。なんと、針本正行氏(國學院大學学長)自らが解説をしてくれています。

 

★針本学長による『源氏物語』第51帖「浮舟巻」はコチラ

 

筆者は國學院大學に向かう電車のなかで予習をしたのですが、そのおかげで展示を見たときに「おぉ〜これが浮舟か!」とより一層わくわくしました。解説をふまえて見てみると、やはり細部までじっくりと目を留めたくなりますね。

 嫁入本『源氏物語』第51帖「浮舟巻」。動画で解説を聞いたので興味が湧き、こちらの絵はよりじっくりと鑑賞できました

嫁入本『源氏物語』第51帖「浮舟巻」。動画で解説を聞いたので興味が湧き、こちらの絵はよりじっくりと鑑賞できました

 

また、私が訪れた後期の会期中は前期の展示がデジタルミュージアムで公開されていました(会期中のみの公開のため、現在は非公開となっています)。デジタルミュージアムであれば好きなときに観ることができるので、とても便利に感じました。

会場には十二単の展示も。國學院大學博物館の公式YouTubeやInstagramでは、装束の着装をタイムラプスで撮影した動画も公開されていて、興味深かったです

会場には十二単の展示も。國學院大學博物館の公式YouTubeやInstagramでは、装束の着装をタイムラプスで撮影した動画も公開されていて、興味深かったです

 

ちなみに、常設展もかなり見応えがありました。「考古ゾーン」「神道ゾーン」「校史ゾーン」に分かれていて、國學院大學ならではの充実した資料が展示されています。特に、なまずの御神輿の展示には目が釘付けに……。企画展「物語絵―嫁入本『源氏物語』全54帖公開―」は残念ながらすでに終了していますが、5月14日までは企画展「土御門家がみた宇宙−江戸時代の天文観測−」が開催されています。こちらの企画展では、代々天文道をもって朝廷に仕えた土御門家の天文観測の史料が公開されているとのこと。興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。

國學院大學博物館の外観。5月14日までは、企画展「土御門家がみた宇宙−江戸時代の天文観測−」を展示

國學院大學博物館の外観。5月14日までは、企画展「土御門家がみた宇宙−江戸時代の天文観測−」を展示

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