2019年3月卒業生の新卒採用がスタートし、街中でもリクルートスーツをまとった学生の姿がめだつようになりました。前回は学生目線で企業の会社案内を作る「志プロジェクト」のミーティングにお邪魔しました。その後どんな会社案内ができあがったのか。2月23日、いよいよ学生の皆さんが作った企業案内の発表会が開催。学生の「企業選びの注目ポイント」にはいろいろな発見が詰まっていました。
志プロジェクトは地元の大学生が地元企業の会社案内をつくることを通じて、企業と学生のコミュニケーションを創出しようというプロジェクト。東京多摩地区で始まり、2015年から富士ゼロックスが参画し、全国拡大をめざし活動しています。
今回お邪魔したのは、大阪経済大学の杉本俊介先生のゼミ。
前回はまだ1回目の企業訪問というところで、まだまだこれから、という部分も感じました。その後2度目の企業訪問やグループでの話し合いを重ねて、出来上がったのがこちらの企業案内3つ。
今回プロジェクトに協力したのは、アルミニウムの表面処理を行う株式会社日本電気化学工業所(NACL)、圧力容器の専門メーカーである日本鏡板工業株式会社、そしてお好み焼きレストランを運営する千房株式会社の3社。
まずはそれぞれのグループごとに会社案内の概要説明、どういったところをアピールしたか、工夫したことなどを発表していきます。
企業の概要からこだわったポイントなどを発表
時折企業のご担当者から笑いがあふれる場面も
こちらはNACLの企業案内にある育休についてのインタビュー部分。読みやすさを考え、普段から使用しているメッセージアプリ風のデザインを採用しています。
このようなアイディアは、メッセージアプリに慣れ親しんでいる学生ならではの発想です。
そのほかにも、NACLの会社案内では、アルミニウムの表面処理とはなにか、ということから、世界的な実績と身近な実績を掲載し、さまざまな場所で活躍していることがアピールされています。
日本鏡板工業株式会社のページの一部。見開きでポイントが抑えられるようなページになっている
また、日本鏡板工業の会社案内では、製品が人々の命を守る場所でも活躍していることや、社内行事が活発なことも掲載。
千房の案内では表紙を店内写真と黒色で構成することで、おしゃれでかっこいいイメージを作り、中ではお好み焼きを中心に据えて千房のすごさをアピールする方法がとられています。
どのチームにも共通するのが、実績だけではなく、そこで働く人にフォーカスしている点。
従業員を大切にする姿勢や家族的な交流に対して、好印象をもって掲載しているところが心に残りました。
「従来の家族的な日本式の経営には課題が多い、という意識が研究者としては長らくありました。学生が企業のそういったところに親しみやすさを感じ、いい印象を抱いているのは意外でした」と、このゼミの担当教員である杉本先生。
発表会の後は対話会で学生と企業の交流も
それぞれの発表が終わった後は、グループごとに対話会へ。途中学生の席替えも行われ、担当外の企業とも交流を深めました。
対話会は終始和やか。学生から鋭い質問が飛ぶことがあれば、会社側から今の若者の感覚を聞くシーンもあった。
とくに盛り上がっていたのは、情報収集・発信の仕方や、コミュニケーションの取り方の違い。学生たちがメールをほとんど使わずメッセージアプリでやり取りすることや、若者が自分に関する情報の発信をコントロールしている点などが話題になっていました。
NACLを担当した3回生の杉野七海さんは、「企業と関わるいい経験になった」といいます。「社会人の方と関わるということで、失礼がないかなど、訪問前はとても緊張していました。けれど、実際に訪問すると細やかに気遣ってくださり、とてもやさしく接していただいて安心しました。また、中小企業では育休といった制度があまり利用されていないイメージがあったのですが、そんなことはなくイメージがかわりました。今後就職に向けても中小企業へも目を向けていきたいと思います」
日本鏡板工業を担当した2回生の石井翔陽さんは、「町工場に持っていた雑然としたイメージが一新されました。社長の人柄にも触れ、また中小規模だからこそ社長と社員の距離がとても近く、人と人との関係が大切だということを感じました。自分もこの会社の一員として働いてみたいという気持ちになりました」
千房を担当した3回生の峰さんは企業と関わってみたいという思いでプロジェクトに参加したそう。「就職活動での企業訪問などもあるが、それよりも企業のコアな部分に近づけるんじゃないかという期待がありました。これまでは商品そのものの魅力や技術が大切だと思っていましたが、実際は人との関わり合いがとても重要だということを学ぶことができたと思います。また、何の仕事をするかよりも、仕事でどんなやりがいを感じるかが大きいのだと思いました。今後就職活動をするにあたって、社風にもしっかり注目していこうと思います」
また、企業側からはとくに「若者の考え方を知るいい機会だった」という声が多く上がりました。
日本鏡板工業の小林氏は、「学生の知りたい情報と、こちらの発信したい情報の違いを知ることができました。これを参考に今後のPRについて検討していきたいと思います。また、今後もこのつながりは生かしていければと思います」 と今後に向けた期待もお伺いできました。
千房株式会社の中井氏からは、「千房には学生アルバイトも多くいますが、今回外からの視線で意見をもらえたのが新鮮でした。どういう人が働いているか、一緒に働きたいかという点に注目していることがわかったのは大きな収穫です。昔は福利厚生、給与という外発的要因が重視されていましたが、今後定着のためには内発的な要因が必要。会社としても取り組んでいく必要性を感じました」 とコメントをいただきました。
発表や出来上がった会社案内をみても、学生が学生目線でどう伝えたいことを伝えるかをしっかり考え、落とし込んでいることが感じられ、とても見応えのあるものでした。
「メールは使わない」「情報発信は自分でコントロールする」といった、今どきの若者らしい部分も感じつつ、日本企業が従来もっていたような家族的な付き合いや従業員を大切にするといった価値観に重きを置いているということは私も驚きでした。また、このプロジェクトを通して、実際に訪問した企業に就職したいという学生も。
企業としてはいいところばかりを見せられない、ということはあるかもしれませんが、それ以上に学生がどこを見ているのかを知ることができるというのはメリットなのかもしれません。
志プロジェクトは2017年度までの累計で全国22校が実施しています。
これらの成果は各大学のホームページでも閲覧可能。企業と学生が出会うことで、新しい可能性がどんどん出てくることを今後も期待したいですね。