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仏教と宇宙から見えてくるものとは? 佛教大の講演会で、今後の社会に必要な 「融合」について考えてみる

2021年10月21日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

2021年9月17日、京都市にある鐙籠堂浄教寺で佛教大学のオープンラーニングセンター開講記念講演が行われました。テーマは「宇宙と仏教~近未来の人間の生き方から」。2020年には小惑星探査機「はやぶさ 2」が無事に帰還を果たして注目され、この9月にはちょうど民間人だけの宇宙旅行が話題になっていたところでした。普段は仏教とも宇宙とも無縁の生活を送っている身ですが、興味を覚えてオンラインで視聴しました。

プロダクトマネジメントの専門家による多方面からの講演

佛教大学オープンラーニングセンターとは、ICT を活用して対面とオンラインを活用した多様な講座を提供する教育機関です。本機関が、今年 10月から本格稼働するのを前に開設記念講演「宇宙と仏教~近未来の人間の生き方から」が開催されました。講演は、第一部は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岩渕泰晶氏による基調講演。第二部は、岩渕氏と佛教教育学園理事長の田中典彦氏による対談です。

会場となった鐙籠堂浄教寺はホテルと連携した新しいスタイルの寺院で、荘厳で神秘的な雰囲気があり、「仏教と宇宙を連想させる空間」として今回のテーマにふさわしい舞台でした。

 

基調講演では宇宙の起源や構造などの話が中心になるのかと思いきや、岩渕氏の専門は経営学。特にプロジェクトマネジメントが専門で、経営企画や産官学連携担当として、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」打ち上げプロジェクトや文部科学省の日本版シリコンバレー創出事業など、さまざまなプロジェクトに携わってきたといいます。
「宇宙を身近にしたい、宇宙のシンクタンクを作りたい。私はこの2つをライフワークにしており、宇宙を身近にするために、宇宙で地域振興できないかと取り組んでいます」と話す岩渕氏。JAXA の活動だけでなく、一般社団法人ニュースペース国際戦略研究所の理事としてさまざまな場所で講演活動を行っています。岩渕氏の話題は幅広く、宇宙活動領域の広がり、宇宙飛行士の仕事、宇宙と私たちの生活の関わり、文理融合という考え方など、いろいろな観点から話を聞くことができました。

荘厳かつ静寂な雰囲気が感じられる鐙籠堂浄教寺での本堂にて、ご講演いただいた岩渕氏。

荘厳かつ静寂な雰囲気が感じられる鐙籠堂浄教寺での本堂にて、ご講演いただいた岩渕氏。

 

国際宇宙ステーションが地上から肉眼で見える

ところで、どこからが宇宙なのでしょうか。岩渕氏によると「英語では宇宙はコスモス(cosmos)やユニバース(universe)という表現がありますが、科学でいう宇宙空間スペース(space)は一般的に地上から約100km以上。国際宇宙ステーションは地上約400km上空にあり、1時間半で地球を一周していて、条件が揃えば地上から肉眼で見ることができます」 

国際宇宙ステーション(ISS)とは、日本やアメリカ、ロシア、カナダ、欧州の 15か国が協力して建設した宇宙実験施設。サッカー場ほどの広さで、その一角に日本実験棟「きぼう」があります。ISSの位置や天候などの条件が揃えば、動く光の点として肉眼で見えるのだそう。見えやすい場所や日時を紹介する HP もあるので、興味のある方は「きぼうを見よう」で検索してみてください。
日本を観測する気象衛星は地上から約36,000kmの上空にあり、月までの距離は約380,000km。一番近い月でもこの距離ですから、宇宙の広大さを想像すると気が遠くなりそうです。

 

でも、そんな遠い場所でも儲け話に利用する人はいるもので、1980 年代以降、アメリカの企業が月や火星などの土地を販売しているといいます。
「1967 年発効の宇宙条約では、国家が宇宙の物体などを所有することを禁止しています。一方で、民間企業が宇宙に行く場合までを想定して条約に詳しく書いている訳ではありませんでした。そのため、アメリカの企業は『書いてないから企業が土地を売っても良い』と解釈したのです。ただ、これに関しては国連でもいろいろな議論が活発に行われています」
人類が宇宙を目指した当初は、まだ挑戦できる国が非常に少なかったのですが、国はもちろん、民間企業も宇宙旅行や宇宙開発に乗り出している現在、早急に新しいルールが必要にな っているようです。

 

宇宙条約について、もう一つ興味深い話を聞きました。それは、宇宙飛行士の扱いについてです。
「宇宙条約の批准国は 100ヵ国以上あり、いろいろな国が立場を超えて参加しています。こうした宇宙法における国連での原則として“宇宙飛行士は人類の使節”とされ、例えばアメリカから飛び立ってロシアに不時着したとしても、きちんと母国に返そうという返還協定があります。一方で、宇宙開発に携わっていない途上国もメリットを受けられるような工夫が必要だと考えられています」と岩渕氏。宇宙においては、国や人種、宗教、思想を超えて協力しようという姿勢が伺えます。

地上約 400km 上空に建設された有人実験施設・国際宇宙ステーション。宇宙という特殊な環境の中で、さまざまな実験や研究がされています。ⓒNASA

地上約 400km 上空に建設された有人実験施設・国際宇宙ステーション。宇宙という特殊な環境の中で、さまざまな実験や研究がされています。ⓒNASA

 

分野を問わない“文理融合者”が革新を起こす

ちなみに、2021年秋、JAXAでは13年ぶりに宇宙飛行士を募集するとのこと。宇宙飛行士=理系というイメージが強いですが、「自然科学系の大学卒業以上」などとしてきた応募条件を緩和し、理系・文系を問わず応募できるように検討しているのが驚きです。確かに、文系であっても宇宙に興味を持つ人もいるでしょう。あるいは、ジャンルの枠組みを超えたチームづくりに何らかの期待もあるのかもしれません。


岩渕氏は、科学技術や社会の進化・発展に関連して、文理融合者による歴史的なイノベーシ ョンについても紹介しました。古くは、芸術家であり建築土木や兵器等の工学技術者でもあ ったレオナルド・ダヴィンチ。地動説を訴えたニコラウス・コペルニクスは医者であり経済学者でもあり、万有引力を発見したアイザック・ニュートンは日本でいう金融庁や日銀のようなところの長官を勤めていました。「そうした文理融合者たちの知的な冒険によって新しいものが発見されてきた」と、岩渕氏は話します。
「よく世界史の授業で『百科全書』がフランス革命やアメリカ独立につながったといわれますが、知識の体系化を図ることで一般市民のリテラシーが上がっていくと、ある時社会が変わるということが起こります。プロジェクトにおいて、経営者と現場、文系と理系をつなぐ共通言語としてプロジェクトマネジメントを使っていますが、それぞれに知識がついてくると一気にチーム力、集合知が上がってきます」
個々の人の中に「融合力」ともいうべき力があるとすれば、チームや集団にもそうした力が働く可能性は多いにあります。「融合力」を引き出してシナジー効果を発揮させるのがプロジェクトマネジメントの役割なのだろうと感じました。 

 

その他、気象衛星による気象予報精度の向上、農機の無人運転といった農林水産分野での活用、プロジェクトマネジメントの課題など、さまざまな話を伺いましたが、特に印象的だったのは「失敗やリスクを前提にする」という考え方でした。
「失敗を“ないもの”として考えると隠蔽につながりがちですが、人間は失敗するものと考えて仕事をすることが大切。それが宇宙開発をやっていて非常に実感するところです」 また、海外では宇宙開発の目的として軍事的なものに偏重する例も見受けられるが、日本は国際的にも平和目的で宇宙開発を進めてきた、また自然災害への対応をしてきた、という歴史があるといいます。平和利用という考え方のもとで新しい知恵を見つけ出して、そして、宇宙への挑戦で得たものをアジアや世界に発信していきたいと語りました。

 

相反するように思えるものも「融合」で大きな力に

第二部は、「宇宙と仏教」をテーマに岩渕泰晶氏と佛教教育学園理事長の田中典彦氏による対談です。ともに真理を追究する宇宙開発・科学と仏教の共通点、人と宇宙の関わり方、これからの生き方など、さまざまな側面から自由に意見が交わされました。 

「宇宙」と「仏教」という一見、相反するようなキーワードをテーマに、田中氏の鋭い質問が印象的でした。

「宇宙」と「仏教」という一見、相反するようなキーワードをテーマに、田中氏の鋭い質問が印象的でした。

 

田中氏からは「宇宙開発の“開発”という言葉が嫌いなんです」というユニークな発言も。「宇宙を明らかにするという視点はよくわかりますが、開発となると人間の違った面がそこに込められているような気がします。何のために宇宙を研究するのでしょうか」と。
確かに、開発というと利害を求める意味が強くなるように感じます。田中氏の問いに対して、「科学も宇宙開発も人間の社会や生活にマイナスになるようであれば止めるべきだと思っています。私自身で言えば、宇宙が社会に、特に日本の社会にとって意義のあるもののだと考えていて、だからこそもっと身近にしたいと活動はしていますが、宗教者も含めた色々な立場の人から社会全体でその議論を常に行っていく、重ねていくことが一番大事だと思っています」と岩渕氏。また、「昔の人は、星を見て自分の位置や暦を知るなどもっと宇宙が身近だったかもしれません。日本人は身近なものを愛することが得意だと思います。今では遠くなってしまったように思える宇宙を、もう一度身近なものとして人生を豊かにしたり、成長の礎になるようなものにしていきたい」とも話しました。


田中氏によると、仏教では宇宙は無始無終。始まりも終わりもないもの、非常に大きなもので知る対象でないと捉えられていたといいます。ところが今では「宇宙を三千大千世界と表現し、いろいろな宇宙があると感じとられています。例えば、遠く離れた先に阿弥陀さんの極楽浄土があるというように」と田中氏。時代が進むと、仏教における宇宙観も変化していくのが興味深いと感じました。

「わからないことを追求するのが面白い」という学びの本質に直結しているお話しがうかがえました。

「わからないことを追求するのが面白い」という学びの本質に直結しているお話しがうかがえました。

 

今回の講演会は、伝統的な宗教である仏教と最新技術で追究される宇宙をテーマにした斬新な内容でした。そして、会場に選ばれたのはホテルと連携した寺院であり、講演内でも国を超えた協力体制や文理融合に触れるなど、随所に「融合」の大切さが示唆されていたように感じました。個人にしろチームにしろ、これからの社会をよりよくするためのキーワードになるのかもしれません。
なお、佛教大学オープンラーニングセンターでは、仏教学はもちろん、京都学や上方芸能、和歌文学、西洋史、災害対策など、幅広い分野の講座が用意されているとのこと。もしかすると、自分の世界を広げてくれる学びに出会えるかもしれませんね。

“中西医結合”とは? 立教大の公開講座で中国のコロナとの闘い方を知る

2021年5月27日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大が始まってから、すでに1年以上。しかし、いまだに多くの国では感染拡大が収まらないばかりか変異ウイルスまで流行する事態になっています。そんな中、「新型コロナウイルスと闘う-日本と中国から見る医療、こころ、養生」というオンライン公開講座が開かれると聞き、興味をひかれて申し込んでみました。

中医学と西洋医学の併用で重症化を抑えた中国

オンライン公開講座が開催されたのは2021年4月17日(土)。日本ではまさに第4波の真っ只中で、東京や大阪では3度目の緊急事態宣言も間近か?というタイミングでした。今回の公開講座は、立教大学心理芸術人文学研究所の主催で、中国からは実際にコロナ治療に携わった中医師、大学で気功を研究する専門家、上海在住の日本人中医師が、日本からはコロナ禍による精神面への影響を論ずる精神医学者が参加。それぞれの発表の後、参加者たちによるパネルディスカッションの時間が取られました。ちなみに、日本では馴染みのない言葉ですが、中医学とは中国の伝統医学のこと。日本の漢方のルーツは中医学です。

なお、講演は日本語・中国語の逐語通訳付きで行われました。

 

図1

オンライン公開講座 スライド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


<パネリスト>

上海中医薬大学附属曙光病院呼吸科主任教授 張 煒 氏

上海気功研究所所長 李 潔 氏

上海藤和クリニック、中国伝統医学医師 藤田 康介 氏

北里大学医学部精神科学教室非常勤講師(3月まで主任教授) 宮岡 等 氏

<司会・コーディネーター>

立教大学現代心理学部教授 香山 リカ 氏

立教大学心理芸術人文学研究所所長 加藤 千恵 氏


 

最初に発表を行ったのは上海中医薬大学附属曙光病院の中医師、張煒(チョウ・イ)氏。上海市新型コロナウイルス対策専門家チームメンバーなどを務め、新型コロナウイルス感染症の治療、予防に携わってきました。

図2_1

上海中医薬大学附属曙光病院呼吸科主任教授 張 煒 氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

張氏によると、「中医学の発展史は疫病と闘う歴史」とのこと。中国最古の医学書とされる「黄帝内経」にも感染症の記述があり、最近では2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2009年の新型インフルエンザ、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)など、さまざまな感染症に対応してきた経験があると話します。新型コロナウイルス感染症に対しても、有効な中医薬や処方を開発し、アップデートしながら治療に用いてきたといいます。

 

張氏の話には、どのような症状の患者に対してどのような中医薬(日本でいう漢方薬)を投与したかなど具体的・専門的な内容が多く、なかでも印象的だったのは新型コロナウイルス感染症に対する中国の姿勢でした。「中西医結合による治療法を活用したことで効果を上げてきた」と張氏。中医学と西洋医学がタッグを組むことで死亡率や重症化率を低く抑えることができたというのです。

「コロナ治療については、中医・西医それぞれの長所、役割があります。西医には人工呼吸器やECMO(エクモ)、抗ウイルス薬などがあり、中医は解熱、臓器や胃腸の保護などに大きな役割を果たし、悪化を防ぐことができます」。中西医結合という考え方の下、未知の感染症と闘い、結果を出したことが非常に興味深く感じられました。

東京より人口の多い上海市でも、現在は市中感染ゼロに

続いて発表したのは、気功の専門家、李潔(リ・ケツ)氏です。中医における精神・心理疾

患のとらえ方や要因、診断などを解説した他、不眠症や不安障害、うつの症状が気功を活用することで改善したという実験結果を紹介。また、李氏によると、コロナ治療でも回復期のリハビリとして気功や太極拳が役立てられているそうです。

図2_2

上海気功研究所所長 李 潔 氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上海市在住の中医師、藤田康介氏は、現地で体験した中国のコロナ対策について詳細に語りました。上海市は人口約2400万人と東京より人口が多く、大分県と同じくらいの面積を持つ市。武漢からは新幹線で3時間40分ほどの距離にあります。

 

上海市では、2020年1月にロックダウンを始めた後、状況に応じてレベルを下げていきました。「3月には1級から2級へ、5月には2級から3級へと、徐々に解除していきました。現在はほぼ日常生活が戻り、会食も旅行もできます。2021年2月4日以降は市中感染もありません」と藤田氏。日本でも報道されたように、中国のロックダウンはすべての交通機関の停止や道路封鎖、検温の義務化、厳しい外出制限といった厳格なもの。それにより、一時は多くの感染者数を出しながらも早期の収束につなげ、その上で、水際対策を徹底して続けることで新たな感染者を防いでいます。市内・国内で感染を抑えるだけでなく、外から持ち込ませないことがいかに大事かを痛感する話でした。

 

また、藤田氏によると、中国の対策のポイントは「早期の発見・報告・隔離・診断・治療と、患者や医療資源・専門家・治療の集中。軽症の段階から把握して中医薬を使うこと」。無症状患者にも投薬するというから驚きです。住宅地やビル単位で細かくリスクを判定し、封鎖を行うという話も印象的でした。

 

また、中国ではスマートフォンアプリがウィズコロナ時代の生活に大きな役目を果たしているそうです。一つは過去2週間に滞在したエリアを自動的に記録し表示することができるアプリ。もう一つはPCR検査結果や治療状況などを記録・表示できるアプリで、将来的にはワクチンの接種状況にも対応するといいます。この2つのアプリを活用することで、感染拡大を防止しつつ、ホテル宿泊や移動がスムーズに行えているようです。

 

最後に発表した宮田等氏は、自殺者数の増加や感染者を責める傾向など、日本の特徴について話しました。日本はもともと自殺者数の多い国ですが、コロナ以降、特に30代以下の女性の自殺者数は昨年に比べて74%も増加しているとのこと。「原因はよくわかっていませんが、在宅・リモートワークが増え、家族と接する時間が増えたことが、かえってストレスになっているのかもしれません」

 

ディスカッションではパネリストの議論の他、参加者から質問も。「コロナ治療で鍼灸を使うことは?」という質問に対しては、「鍼灸で治療する例もあります。武漢でも鍼灸による治療を行い、症状の改善に効果があったと報告されています」と張氏。

 

中医学というと古いイメージがありましたが、実は常に進化を続けて新しい疾患にも対応できていることに驚きました。また、新型コロナウイルス感染者が初めて確認された中国では、新規感染者数を2桁台にまで抑え込めているのに、日本では連日数千人もの新規感染者が発生しており、強制力のある強い対策が取れないもどかしさとデジタル施策の遅れを改めて感じさせられました。

佛教大学・原清治教授からの提言!ウィズコロナ時代の教師・保護者の在り方とは?

2021年3月11日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

新型コロナウイルス感染症の影響で、今、教育現場はこれまでにない対応を求められています。子どもたちにどのような変化があったのか?教師や保護者はどう考えればよいのか?子を持つ親なら誰もが気になるこのテーマについての講演会が、2021年2月に佛教大学通信教育課程主催で開催されると聞き、うかがってみました(2020年の講演会レポートはこちら)。

休校明けの6月、不登校生徒の「再」登校現象が

講演会のタイトルは「ウィズコロナの時代に教育現場はどう変わる?―教師・保護者の役割とは―」。当初は講演会会場での聴講も予定されていましたが、二度目の緊急事態宣言が出されたため、オンラインのみでの開催となりました。それでも500名を超える申し込みがあったといい、タイムリーなテーマに対して関心の高さがうかがえます。

 

講師の原清治先生は、教育社会学や学校臨床教育学、教員養成が専門分野で、ネットいじめを含むいじめ、不登校、学力低下、若年就労問題などの研究をされています。「コロナ禍で多くの子どもたちがオンラインゲームに興じていたのは皆さんもご存じの通りです。僕もやってみましたが、楽しいゲームです。ただ、一方でそのカゲに。ハゲではありませんよ。・・・笑うところです、ここ(笑)」など、時折ユーモアやモノマネを交えつつ、丁寧に語りかける様子が印象的でした。

★DSC01147

原先生の講演は、わかりやすくて面白い

 

原先生によると、コロナ禍の休校期間が明けた2020年6月以降、教育現場で特徴的な現象があったといいます。入学式を迎えられなかったため、新小学生・新中学生が精神的に不安定な状態になりがちだったのですが、その一方で、不登校傾向の強い児童・生徒が「再」登校するようになったのです。その要因と思われるのは、主に3つ。マスクで半ば顔を隠す状態が当たり前になったこと、コロナ禍でも熱心に学びを届ける教師に温かみを感じたこと。そして、スモールステップによる効果です。

 

スモールステップとは、小刻みに目標達成しながら徐々に最終目標に近づく方法。原先生は、「今日は午前中だけ、今日は出席番号偶数の生徒だけ」などのように、密を避けて少人数ずつ登校する工夫がスモールステップになった可能性を指摘しました。

 

「マスクのこともあります。先生が教材をわざわざ届けてくれたという、先生に対する感謝の思いもあります。さらに、スモールステップ。要素がいくつも積み重なって、不登校の子たちが学校に登校再開できるようになった。そう考えれば、不登校の子たちの背中の押し方を考えるヒント、なぜ彼らが学校に来づらかったのかを考えるヒントを、コロナは与えてくれたといえます」。ただ、残念ながら、学校が元の状態に戻ってから、また再び学校に来られなくなったという報告も届いているそうです。

★DSC01161

聴講者無しのオンライン配信の講演会は、原先生もはじめての経験だったとのこと

オンライン授業は個別に学びを届ける環境として有効か

原先生のお話の中で特に興味を引かれたのは、「ネットとリアルでは、どちらの方が深い人間関係が築けるか」という話題です。おそらく40代以降の人なら、ほとんどの人が「リアル」と答えるはず。早くコロナ禍が収束してリアルで飲み会をしたい、営業や打ち合わせもリアルの方が捗る、と思っている人は多いでしょう。ところが、原先生の10年にわたる研究によると、最近の子どもたちはそうした「重い人間関係」を嫌う傾向にあるとのこと。

 

「2年前から、ほぼリアルとネットの位置づけが一緒になってきました。そして、このコロナ禍の中で、ネットを介した人間関係の方が円滑・円満な関係性を構築できるという回答が増えてきました。正直に言ってリアルに頼ってきた我々の価値観からすると、ショッキングな出来事です。でも、子どもたちからすると当たり前なのかもしれない」

子どもたちは、ネットの方が大事というより、「リアルな人間関係は一度破綻するとおしまいと考える」と原先生。子どもたちにとって学校は非常に気を遣う場所になっているといえそうです。

 

また、新聞でも報道されましたが、オンライン授業で大学生の学力が上がったという報告があります。原先生ご自身も、オンライン授業の方が学生から質問や意見が出るという変化を感じているといいます。こうした背景として、画面を通して一対一でつながっている感覚、「学びを宛名づけている」環境がかかわっているのかもしれないという、京都大学の石井英真准教授の研究を教えてくれました。

 

もちろん、リアルな一斉授業にはその教育効果があるでしょうし、どちらか一方だけが正解ではありません。原先生は「これまでの教員養成は一斉授業が前提でしたが、これからはそれだけでなく、個別に教育を届けること、TPOに合わせた学びの個別最適化が大切」だと指摘します。オンラインで一人ひとりに学びを届けることは、リアルに本人に向き合う環境になるかもしれないのです。

 

大人世代はついリアル至上主義に陥りがちですが、もうリアルかオンライン(ネット)かという二者択一で考える時代ではないのでしょう。働き方や価値観を大きく変えた新型コロナウイルス感染症は、新しい教育の在り方を生み出すきっかけになると感じさせられました。

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