ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

大学アプリレビュー番外 AIで見つける最適な本 近畿大学アカデミックシアターの診断コンテンツ

2017年7月20日 / コラム, 大学アプリレビュー

なんとなく「本を読もう!」と思った時、どうやって本を探しますか?
書店をうろうろ、本に詳しい友人におすすめを聞いたり……。いろいろな方法がありますが、もう少し踏み込んでAIに選んでもらう、なんていうのはどうでしょうか。今回はSNSや自己診断からおすすめの本を導き出す、近畿大学アカデミックシアターの診断ツールをご紹介します!

 

近畿大学アカデミックシアターは、独自の図書分類で配置された図書館だけでなく、企業との共同研究ブースやカフェがある教育施設。
詳しくは「近大のウワサの新施設「ACADEMIC THEATER」に行ってきた!」をどうぞ。

このアカデミックシアターのホームページには、学生だけでなく誰でも使える「診断コンテンツ」なるものがあります。
なんとこちら、TwitterやFacebookなどのSNS上の投稿を分析し、おすすめの本を独自の人工知能が導き出すというもの。
自分自身さえ気付いていないものをITの力で見つけられるかも?!

ということで。
さっそくこちらを試してみました!

 

診断を始めるにはアカデミックシアターのホームページから診断コンテンツにアクセス。
アクセスはパソコン、スマートフォンどちらからでもOKです。

アカデミックシアタートップページ

こちらのトップページにある「偶発的なほんとの出会いを体感する」から診断へ。

診断方法は2種類。
自分が使っているTwitterもしくはFacebookのアカウントを連携する方法のほか、キャラクター診断シートから導き出すことも。
今回はほとんど0円大学のTwitterアカウントを使って診断してみました。

 

キャラクター診断シート

キャラクター診断シート。簡単な設問に応えていくだけでOK


連携もしくは診断シートの設問に答え終わると、解析がスタート。

 

解析中の画面

総合結果画面


このように総合結果が表示されます。
「適合する本」を選ぶと、診断から導かれる本が表示されます。

 

今回総合結果から導き出されたのはこちら

今回総合結果から導き出されたのはこちら

 

本はタイトルや著者の他、OPACで詳細を見ることもできます。
なお、適合する本は総合結果だけでなく、それぞれのチャートの詳細からも出すことが可能。

チャートの詳細は「外向性」「開放性」といったチャートの項目を選ぶことで確認できます。

それぞれの項目を選ぶと再びプロセス画面が表示され……

 

Image-3


Image-4

 

このように、詳細のチャートが表示されます。

なお、総合結果・詳細ともに、チャートの内容を変更することも可能。
変更は最下部の「チャートを編集する」から行えます。
チャートを変更すると適合する本も変わります。
その日の気分で少し変更して、思いもよらない本との出会いを楽しむのもいいかもしれませんね。

今回、ほとゼロのTwitterアカウントや自分自身のSNSアカウントで試してみましたが、結果はかなり違いました。
意外な本がオススメとして上がることもあれば、読んだことはないけど興味を惹かれる本までさまざまです。

本選びはどうしても偏りがちですが、ちょっとこのツールを使って偶然の出会いからすてきな一冊を探してみませんか?
もしかすると、今まで知らなかった自分がみつかるかもしれませんよ!

身近な里山で植物の観察講座 阪大植物探検隊

2017年7月4日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

毎年春と秋に開講される大阪大学の植物探検隊。大阪大学豊中キャンパスにある標高77.3mの「待兼山」を散策する。緑萌ゆる春の山を堪能してきました。

 

「待兼山」の歴史は古く、平安時代に書かれた枕草子にも登場する古い山です。山と言っても標高は77.3mですが、大正天皇の行幸もあったという由緒正しい山になります。待兼山は豊中市、池田市、箕面市にまたがる。山の大半は現在、大阪大学豊中キャンパスが占めていることもあり、待兼山といえば阪大を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

山の周りは阪神高速や住宅地があり、身近な里山でもある待兼山。その山にある植物について学べるのが「阪大植物探検隊」です。

今回は4月22日(土)に開講された第17回植物探検隊に参加しました。

なおこの植物探検隊、定員40名の募集に100名以上の応募がある人気企画。まずは待兼山を散策し、この山にある植物を見た後、講義に参加するという流れです。
当日はよく晴れ、絶好の行楽日。集まった方々は山登りということで、それなりに本格的な装備で集合。私も長袖長ズボンに帽子に日焼け止めと、万全の格好で臨みました。

植物の解説は大阪大学栗原佐智子先生(大阪大学21世紀懐徳堂招へい研究員)。なお、待兼山の植物については長年の研究をまとめた植物図鑑、『キャンパスに咲く花 阪大豊中編』『キャンパスに咲く花 阪大吹田編』があります。当日はこちらを手に探検に参加されている方も。植物について詳しく知りたい方には必携の一冊です。

待兼山は原生林ではなく、植樹なども行われている人工林の一種なのだそう。また、大学の建物の増減など開発に伴い生態系も年々変化しているとのことです。

ちなみに待兼山ですが、冬にイノシシの出没情報があったそうで、当初はあまり山の中に入らないルートが予定されていました。しかし、イノシシの目撃情報がなくなり、おそらく問題ないだろうということで、当日参加者の多数決で山の中に少し入るルートに変更されました。
念のため、イノシシよけの鈴(山に調査に入ることが多い考古学の研究者が「危険な野生動物に遭遇したことがない」という霊験あらたかなシシよけ鈴)を参加者のうち数人身につけ、準備完了。

まずは博物館の周りの散策のあと待兼山の遊歩道へ。

 

待兼山へ

なだらかとはいえ、完全に山道です。先へ進みながら所々で先生が植物を解説。
ぱっと見は同じに見える植物でも端が違ったり、細かな差異を先生が解説してくださいます。

山の中の植物について説明する栗原先生

じっくり見ないと見落としてしまいそうになるくらいの違いなのですが、確かにじっくり見るとそれぞれに特徴がある。先生が「これは~~で」「あれは~~」とどんどん近くにある植物の説明をしてくださるので、こんなにたくさんの植物が自生しているのか!とかなり驚きました。

先生のお話をハンドブックと照らし合わせる人、写真に収める人、ただただお話に聞き入る人など、各々植物探検を楽しんでいました。

セイヨウタンポポとカンサイタンポポの違いを説明する栗原先生

セイヨウタンポポとカンサイタンポポの違いを説明する栗原先生

 

自生するカンサイタンポポ。近くにはセイヨウタンポポも。

自生するカンサイタンポポ。近くにはセイヨウタンポポも。

 

カナメモチ。庭木として人気があるレッドバロンよりも落ち着いた色が特徴

カナメモチ。庭木として人気があるレッドバロンよりも落ち着いた色が特徴

 

中山池周辺にあるドウダンツツジ

中山池周辺にあるドウダンツツジ

 

アオギリの木。幹が青みがかっていることからその名が付いているそう

アオギリの木。幹が青みがかっていることからその名が付いているそう


その他にも、正直数え切れないほどの草花を短時間で見て回りました。
最後に八重のツツジを見た後は、大阪大学21世紀懐徳堂スタジオでの講演会へ。


講演会の様子


講演会では昔の待兼山から今の待兼山の様子までを紹介。
待兼山は古くは枕詞としても登場する由緒ある山で、枕草子の作者清少納言を始め、和歌のなかに登場することも少なくない場所です。そんな待兼山は原生林ではなく人が作る里山に近い山で、現在はほぼ極相※に近い生態系になっています。

※極相
植物群落の最終段階。その地域にもっとも適し、安定した状態に至った段階のこと。

 

極相に近いとはいえ、開発や環境の変化などにより、それまでにあった植物が減少したり、外来種なども増えているんだそうです。


その他にもこの地に生息していたマチカネワニのいた時代の植物や、古墳の盛り土などからわかる昔の待兼山についてのお話しに、皆さん興味深く聞き入っていました。


「この山で見られる植物というのは、全国的に見ればそれほど珍しいものではありません。しかし、こういった街中にあるところはあまり多くないので、身近でさまざまな植物を観察できる場所として待兼山の魅力があると思います」と栗原先生。

今回初参加でしたが、リピーターの方が多いというのも頷ける密度の濃さでした。
講演会からの帰り道は、なんとなく道ばたの草木が気になり、ついつい寄り道してしまったり、これはどんな植物なんだろうと足を止めてしまいました。

植物探検隊は春と秋に開講。毎回見られる植物も解説も異なります。毎回、栗原先生が事前調査を行い、その時見られる植物を探していらっしゃるとのこと。
みなさんもぜひ一度、身近な山でさまざまな植物に触れてみてください。

 

(取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂)

京大の「おもしろい」を中から発信! 『360°』をやっている理由を聞いてみた。

2017年6月1日 / 学生たちが面白い, 大学を楽しもう

さて皆さま、『360°(サンロクマル)』というウェブサイトはご存じでしょうか。この3月に現れた、京都大学生がさまざまな京大関係者を取り上げるというメディアサイトです。「京大の面白さを余すことなく発信するメディア」を標榜する『360°』、いったいどんな人たちが運営しているのか。サイトを運営する“中の人”にお話を伺いました。

 

ところで『360°』って?

『360°』は2017年3月に「京大の面白さを余すことなく発信するメディア」をめざして開設されたメディアサイト。
いろいろな活動をしている京大生のインタビュー記事やクラブ・サークルの記事、恋愛を真面目に考えるなどなど、多岐にわたる記事が公開されています。

 

去る3月24日の京大卒業式では、毎年恒例の卒業生のコスプレフォトをTwitterアカウントでリアルタイム配信。Twitterで話題となり、ネットニュースなどにも取り上げられました。

 

まとめ記事はこちら。

コスプレの祭典「京大卒業式」が今年も尋常じゃない【2017速報】

コスプレの祭典「京大卒業式」の裏側!【2017年・現場からの詳細報告】

 

その他にも
「カレーになりたい」 その愛は縦横無尽。 京大カレー部・石崎楓の「全てをカレーにする野望」とは

GANGSTERSの主役はもはやこの人たち?【アメフトから日本の大学スポーツを変える挑戦】
など、京大生が内からみたおもしろいことを発信しています。
(京大カレー部については、こちらの記事を見た後、本を即購入しました。こちらもおすすめ!)

 

京大こと京都大学といえば、関西随一の国立大学。頭が良くて個性的な人が集う大学というイメージが根強くあります。
とはいえ、自分が京大生じゃないと、京大って結局どういうところなの?というのが本音でもあります。

 

このメディアサイトを運営してるのはどんな方たちなのか、気になったので直接話を伺ってきました。

 

京大生がおもしろいをめざす、『360°』

今回話を伺ったのは、『360°』編集部の代表、松村真仁さん(京都大学総合人間学部4年生)と副代表の浅原祐太さん(京都大学総合人間学部4年生)。

 

代表の松村真仁さん(京都大学総合人間学部4年生)

代表の松村真仁さん(京都大学総合人間学部4年生)

 

副代表の浅原祐太さん(京都大学総合人間学部4年生)

副代表の浅原祐太さん(京都大学総合人間学部4年生)

 

――まず始めに、このサイトを立ち上げた経緯は?

浅原さん「このサイトの大目標は、『京大生が見るメディア』にしたいというのがあります。
京大生が見るメディアってどんなものか?となると、やっぱりおもしろいと思ってもらうのが一番かなと。じゃあ何がおもしろいのか、人もおもしろいし、京大の中でもおもしろい物事はいろいろあります。その中でコンテンツとしておもしろいと思うものを、ジャンルを限らず全部載せようということで、いろいろな記事を掲載しています」


――記事は編集部の中で企画・制作されているんですか?

浅原さん「編集部主導の企画もありますが、いろんな人が情報を発信できるメディアとして運営しています。メンバーは固定ではなくて、都度『こういう記事を載せたい』と手を上げた人に書いてもらう形です。コアメンバーは現在5人。もちろん寄稿だけでなく編集部が企画制作している記事もあります」

松村さん「このサイトを通じて何かを実現したい人がいればOKで、企画を持ち込んでもらうこともありますね」

浅原さん「サイトの管理や記事の編集、戦略などはコアメンバーが担っています。あまりにもメディアの趣旨に沿わない記事はお断りすることもあります」

なるほど。執筆は発信したい人が行っているそうですが、掲載前には必ず編集部のチェックが入るそうで、自由な投稿サイトというものではないそう。

 

代表と副代表

 

――これまでの記事で特に反応がよかったのは?

松村さん「やっぱり卒業式でしょうか。ツイッターでもかなりリツイートされ、流入も多かったですね」

浅原さん「まだ立ち上げ早々で『360°』を知らない人が大半だったこともあり、まず知名度を上げたいという目的があってやった企画なんです。かなり拡散されましたし、狙い通りの効果が出たなと感じます」

松村さん「あの日はTwitterのリツイート通知が鳴り止まなくて、まるで芸能人になったような気分でした(笑)」

 

話題になったツイートの一部。当日は『360°』の公式ツイッターでリアルタイムに情報を流していました

 

――定期的に記事の更新など、メディアサイトを運営するのは大変だと思いますが、苦労したのはどういうところでしょうか?

浅原さん「まずこういうメディアサイトの運営は経験がなかったので、どうやったら成功するのかとか、組織としてやって行くにはどうしたらいいかを考えるのがとても大変でした。今はまだ『360°』というメディアそのものが知られていないので、認知拡大をめざしています。なかなか拡散しないのが悩みどころですね」

松村さん「戦略は浅原さんが担当してくれているので、僕の方はメディアの方向性をコントロールする方に力を注いでいます。方向性がぶれないように、どんなプランでやっていくか、どんな人にメンバーとして協力してもらうかとか。
僕らも今年4年生になり、組織を後輩に引き渡す必要があり、そのあたりも今悩みどころです。全部初めてのことなので手探りで、まだいろいろと考えている最中です」

――ありがとうございます。では、当面の目標はどういうところなんでしょうか?

浅原さん「まずはメディアとしての認知度を上げていきたい」

松村さん「僕は長期的なところで、『どんなメディアにしたいか』を考えています。
おもしろいメディアにしよう! という最初の目標を大切にしているのですが、じゃあ『どんなものがおもしろいのか』、おもしろいの意味を考えている最中です。その中で、外から見たおもしろさだけを追究するのではなく、自分たちが楽しみながらコンテンツを作り、愛してもらえるメディアをめざしたいです」

――このメディアに関わって得たものは?

浅原さん「僕はメディアを通じて人のつながりができるのが醍醐味だと思います。いろいろな人に関わって視野も広がりました」

松村さん「発信することの気持ちよさを知れたことでしょうか。
実は自分から何かを発信するのは苦手な方でして……。でも、トライしてよかったと思っています。この経験をここで終わらせず、自分や周りの人にもリレーしていければと思っています」


――ありがとうございました。


色々お話しを聞いていると、本人たちが感じている「京大生はおもしろい」を発信されているんだなというのを強く感じました。
京大はおもしろい、というのは漠然と感じていましたが、ではどこがおもしろいのかどんな人がいるのか、そのリアルな感覚をこのメディアでなら知ることができそうです。

 

とくにインタビュー記事ではインタビュアーの方がおもしろいと思うことがしっかりと書かれていて(しかもこれがすごくおもしろいんですが)、もっといろいろな人にこのサイトを知って欲しいというのが本音です。

 

このサイトや今回お話しを伺ったお二人を見ていると、いかに私の中の「京大像」が固定観念にとらわれているかを感じました。まだまだこれからどんなおもしろいものが出てくるか、『360°』に注目です!

大学アプリレビューvol15  猫との関わり方を考える「ねこのまち」

2017年4月20日 / コラム, 大学アプリレビュー

動物との生活は楽しいもの。しかし、長く動物と暮らすためには愛情や一時の楽しさだけに目を向けるのではなく、きちんとした知識を身につけることも大切です。そのなかでも猫に焦点をあて、動物との共生を学ぶことができるのが、熊本県立大学の絵本アプリ「ねこのまち」です。

 

「ねこのまち」は熊本県立大学飯村研究室と熊本市の動物愛護センターが協働で制作。熊本市動物愛護センターで作成された啓発用紙芝居をスマートフォンやタブレット等で読めるようにしたアプリです。

 

タイトル画面

タイトル画面

 

アプリの使い方はタイトル画面の「つかいかた」から確認できます。

 

アプリのつかいかた

アプリのつかいかた

 

「?」ボタンをタップすると、より詳しい解説を見ることができます。

 

解説を見ることができる

 

設定は歯車のボタンをタップすることで変更可能。
音楽や読み聞かせのオンオフを切り替えられます。

 

タイトル画面の「読む」をタップすることでストーリーがはじまります。

 

ストーリーは右から左にフリックで「進む」、左から右にフリックすることで「戻る」ことができます。
また、「じまく」をタップすることで、音の聞けない環境でもストーリーを楽しめます。

 

字幕表示。スクロールすることで話を読むことができる

字幕表示。スクロールすることで話を読むことができる

 

画面をタップすることで音のオンオフやタイトル画面へ戻るためのメニューが表示される

画面をタップすることで音のオンオフやタイトル画面へ戻るためのメニューが表示される

 

ストーリー中には質問があり、この選択によってストーリーやエンディングが変化するマルチエンディングになっています。
質問は全部で3つ。それぞれ二択になっており、間違った場合はエンディング後にもう一度同じ質問にチャレンジできます。

 

質問の画面。「?」をタップすると質問に答えることができる

質問の画面。「?」をタップすると質問に答えることができる

 

質問画面。選択次第でストーリーが変化する

質問画面。選択次第でストーリーが変化する

 

間違ったものがあった場合は、エンディング後にもう一度質問にチャレンジできる画面が表示される

間違ったものがあった場合は、エンディング後にもう一度質問にチャレンジできる画面が表示される

 

各質問の解説を見ることも可能です。

 

ストーリーは猫がたくさん暮らす街で人と猫との共生をめざすもので、飼い猫との関わり方だけでなく、野良猫との関わり方についても触れています。
話がとてもわかりやすく、文章も小学生でも理解できる内容になっているうえ、大人も知っておいた方がいい知識を身につけられるので、親子で楽しむこともできます。

 

簡単なだけでなく、放し飼いの危険性や室内飼育のポイントなども詳しく学べるのもいいですね。

 

動物を飼うことを考えている人も、そうでない人も、一度このアプリで動物との関わり方を考えてみてはいかがでしょうか。

誰でも参加できる研究プロジェクト「みんなで翻刻」のこれまでと今後

2017年4月18日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

以前ご紹介した市民参加型プロジェクトの「みんなで翻刻」。この中心となっている京都大学古地震研究会の合宿にいき、「みんなで翻刻」が誕生するまでと、今後についてお話しを伺った。

 

2016年10月に開設されたウェブサイト「みんなで翻刻」。くずし字が読める人の力で活字化されていない地震史料を翻刻していく、市民参加型研究プロジェクトだ。今回は古地震研究会の合宿でこのサイトを使うと伺い、現場におじゃました。合宿の会場ではすでに10人以上の参加者の方々が「みんなで翻刻」を使い、翻刻を進めている。

 

※翻刻
写本や版本などを原本通りに活字に組むなどして新たに出版すること。ここでは写本や版本に書かれたくずし字を読んで活字にしていくことを指します。

 

合宿の様子

合宿の様子

翻刻中の画面

 

この日翻刻作業が行われていたのは「善光寺地震聞書」という、1847年に信州の善光寺平(現在の長野県長野市を中心とした盆地)で起こった直下型地震に関する聞き書き集。
同時編集が可能な特性を活かし、全員が史料や翻刻結果をリアルタイムに確認しながら作業を行う。もくもくと作業を進めているのではなく、ひとつずつ意見を出し合い、作業が進んでいくのが印象的だった。

合宿の様子

参加者は手元のパソコンで内容を確認しながら意見を出し合う

参加者は手元のパソコンで内容を確認しながら意見を出し合う

 

くずし字は手書き文字であることがほとんどであり、ある程度の型はあっても機械的に「これはこの文字」と当てはめていけるものではない。前後の文意やその他の資料、崩し方のくせ、当時の時代背景にこの地震についてなど、さまざまな知識を駆使して文章を読んでいかなければならない。もちろん正解というものもないので、何度も検討を重ね、地道に精度を高めていく。

 

少し見学させていただくだけでも、ひとつの文章にかなりの時間がかかっているのを感じた。

始まりは先生たちのくずし字勉強会

くずし字を学ぶ人というと思い浮かぶのは日本文学や日本史研究者。しかし勉強会の参加者のには地震の研究や防災研究に携わる方々が多い。なかには気象庁の関係者も参加しているという。

京都大学大学院理学研究科 中西一郎教授

京都大学大学院理学研究科 中西一郎教授

 

「元々は私や加納先生といったごく少数で週1回、専門家の先生に協力いただき資料を解読する勉強会を始めたのがきっかけです」そういうのは京都大学大学院理学研究科の中西一郎教授。

 

大地震は数十年数百年という長い周期でやってくることから、地震研究では古い史料を扱うことも多い。しかし史料のなかで活字化されているものはごく一部だ。

 

「現在活字化されているものは、実は40年くらい前の地震研究に基づくもの。研究が進めば必要になる情報は増え、それまで活用していなかった史料を要する場面が出てきます。それまでも古い史料を読み解く時、くずし字に詳しい専門家を頼ることもありました。しかし、研究者自身が読めるようになる必要性は感じていました」と中西先生。

 

解読はもちろん、今目の前にあるものが必要な資料かそうでないか。そういった判断も実際に研究に関わる者でないとできない。資料の選定のためにも研究者自身がある程度読める力を身につけなければいけないと感じ、勉強会を始めるに至ったそう。

 

「必要な資料を読むことが目的なので、体系だった学び方ではなく、いきなり今欲しいと思っているものを読んでいきます」中西先生は、最初は大変だったと笑う。

京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 加納靖之助教

京都大学防災研究所附属地震予知研究センター 加納靖之助教

 

「始まりこそ研究のためだったが、教えてもらいながら読めるようになっていくと『なるほど』と思う瞬間があり、くずし字解読そのものの快感にハマった部分もあります」というのは京都大学防災研究所附属地震予知研究センターの加納靖之助教。

もちろん資料解読が第一だが、くずし字の解読はゲームのようでもあり、翻刻そのものの楽しさも感じているという。

そんな勉強会を数年行うなかで、やはり情報技術の活用もしていかなければならないだろうという方向に自然と向かっていったそう。しかし、OCR技術を使った翻刻技術も存在しているが、まだまだ課題が多い。
そのなかで加納先生が偶然発見したのが、当時橋本雄太氏が開発に携わっていた「SMART-GS」だ。

京都大学大学院文学研究科 橋本雄太氏

京都大学大学院文学研究科 橋本雄太氏

 

「SMART-GS」は京都大学文学研究科の林晋教授らが人文学のテキスト研究用ツールとして開発したソフトウェアで、手書き文字を含むテキストの画像データを検索したり、マークアップやリンクを作成したりすることができる。字形から類似の画像を検索するため、従来あるOCRとは異なり、未知の文字でも検索できることが強み。また、画像データを見ながら読みや注釈を付けていくことができるため、わからない文字が出てきた時、画像検索で読みや注釈を参照することも可能だ。

文系と理系、それまで会う機会がなかったそうだが、偶然入試監督として林先生と加納先生が出会ったことが縁で、古地震研究会に橋本氏が参加するようになった。この頃から、いろいろな人の手で翻刻を行う「みんなで翻刻」のアイディアのようなものができてきたそう。また、「SMART-GS」は学内研究でも活用され、さまざまな意見を取り入れ、ノウハウを蓄積。この時のノウハウは「みんなで翻刻」にも活かされている。

 

さらに2014年に行われた夏のくずし字学習合宿で、偶然大阪大学文学研究科の飯倉洋一教授と出会い、くずし字学習アプリ「KuLA」の配信にも結びついた。

参考:大学アプリレビューvol.10 クイズでくずし字学習ができる 大阪大学「くずし字学習支援アプリ KuLA」

 

古地震研究会の勉強会などでも、予定が合わずに参加できない人や別の場所でもくずし字を学びたいといったニーズがあったため、「みんなで翻刻」にはこの「KuLA」で使用した学習コンテンツも組み込んだのだという。

くずし字学習のためのスマートフォンアプリ「KuLA」(イメージ)

くずし字学習のためのスマートフォンアプリ「KuLA」(イメージ)

 

結果として「みんなで翻刻」は、参加者がくずし字を読む力を高めながら、それをスムーズに社会貢献に活かせるひとつのプラットフォームとして機能している。

くずし字を学ぶプラットフォームとしての「みんなで翻刻」

「みんなで翻刻」トップページ

「みんなで翻刻」トップページ

 

「みんなで翻刻」の参加者を対象にしたアンケートの結果によると、参加者は40代が36%と最も多く、次いで学生と思われる20代、30代と続く。ネットに馴染みのない50代以上の人はほぼいない。

 

従来から各地域で古文書解読の会が開かれていたり、大学の公開講座など、学びの場自体は存在している。しかしそれらは平日の開催だったりと、とくに働き盛りの若い世代が参加しづらい事情があった。
これまでそのような地域のコミュニティに参加していなかった若い世代が、くずし字を通じて「みんなで翻刻」にあつまっているのは成果だという。

 

参加者はなぜ「みんなで翻刻」に参加しようとしたのか。
「一番多いのは翻刻が楽しいという意見。社会貢献活動として参加していると答えた人もいる。また、おそらく文系の学生だろう人からは『(普段の研究から離れて)現実逃避として』というのもありました」と橋本氏。

 

同好の人とコミュニケーションをとれる、みんなで翻刻することによる一体感があることを評価する人、自分の読解度を客観的に確認できることを良さとしてあげる人もいる。

 

また「みんなで翻刻」には他の参加者に添削をお願いできる機能もある。複数の目で「この文字は何か」を検討することで、資料の精度を高めていくことができる。利用者全体が協力してレベルアップし、より精密な翻刻ができることも期待できるという。

 

加納先生がいうには、「公開前の勉強会で翻刻できたのが15万字。しかしこのアプリができてから数ヶ月で、すでに150万字を超える翻刻ができている」とのこと。
開始直後はここまで多くの人が参加し、早く翻刻が進むとは思っていなかったそう。プロジェクトの成果は上々だ。

みんなで翻刻の今後

今、利用している人はインターネットに馴染みのある40代以下の人がほとんど。インターネットに馴染まない人やネット環境がない場所でもやりたいという声はある。しかし、オフラインでの対応は人的リソースも必要なので、現時点では難しいそう。「こちらは今後どのようにしていくかを検討したい」と加納先生。

 

せっかくのプラットフォームなので、なかの資料を入れ替えて地震史料の翻刻以外でも使用できるようなパッケージ化や、KuLAの「つながる」機能のように、利用者が原本をアップロードし、翻刻していく機能の追加も検討中とのこと。

 

「利用者が資料をアップロードすることでこれまで発見されなかった資料を発見することにもつながるかもしれない」と橋本さん。

 

サイト以外にも3月1日からはニコニコ動画でくずし字学習の生放送もスタート。より多くの人に裾野を広げていこうとしている。

 

これまでくずし字学習は研究者でなければ教養や趣味の範囲で活用することがほとんどだった。しかし、これからはこういった個人のもつ知識を集め、大きな研究に活かす取り組みが増えてくるのではないかと感じる。
これまで雑学、教養としてのみ評価されてきた国文学・日本語学習にもこういった活用を見出し、再評価されればという期待もある。

 

こうしている間にも日々翻刻作業は進んでいる。
登録されている資料は114点。すべてがテキスト化される日もそう遠くない。このプロジェクトがどんな風に広まっていくのか今後注目だ。

マンガカフェ「海の向こうでBLはどうなっている?」で海外BL事情を聞いてきた。

2017年4月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

BLとは“Boys Love”の略語で、主に男性同士の恋愛を描いた作品のこと。今や確固たる地位を築くジャンルです。しかし日本以外の状況はあまり知られていません。そこで海外のBLについて知るため、大阪大学 21 世紀懐徳堂とアートエリア B1が主催するマンガカフェ「海の向こうで、BLはどうなっているのか?~藤本由香里さんを迎えて~」に参加しました。

 

年末に続き、2017年2月17日にアートエリアB1で開催されたマンガカフェ。参加者はマンガ好きの方だけでなく、ジェンダーについて研究している学生の方も。今回はBLがテーマということもあってか、若い女性が多い印象でした。

会場の様子

会場の様子

 

参考:2016年のマンガ界を語り尽くす!「マンガカフェ25」に行ってきた。

 

今回登壇者は4名。

 

ゲスト
藤本由香里氏(明治大学国際日本学部教授)
伊藤遊氏(京都精華大学国際マンガ研究センター研究員)

 

カフェマスター
金水敏氏(大阪大学文学研究科教授)
沢村有生氏(大阪大学21世紀懐徳堂)

 

 

スタートは「藤本さんと私」というテーマで、カフェマスターの金水先生、沢村さん、伊藤先生からゲストの藤本先生との出会いについておのおの語られました。(とても和やかムードでした)

 

ゲストの藤本由香里先生(明治大学国際日本学部教授)マンガ文化論・ジェンダー論、マンガの国際比較などが専門。

ゲストの藤本由香里先生(明治大学国際日本学部教授)マンガ文化論・ジェンダー論、マンガの国際比較などが専門。

 

金水先生(右)・伊藤先生(左)はマンガ学会ができた時、藤本さんが理事として参加されたことがきっかけ。金水先生は以前ベルサイユのばらのイベントなどそれまでにも顔を合わせたことはあったんだそう

金水先生(右)・伊藤先生(左)はマンガ学会ができた時、藤本さんが理事として参加されたことがきっかけ。金水先生は以前ベルサイユのばらのイベントなどそれまでにも顔を合わせたことはあったんだそう

 

海外での商業BLの話

現在藤本先生はサバティカル(在外研究)として海外で研究中。2年の在外研究中に約20カ国、50もの都市を回られているそうで、昨年11月からはシンガポールを拠点にアジアで研究を進めています。

 

やはり日本と海外、国も文化も違えば当然BLに関する事情も異なるようです。

 

こちらはアメリカの書店の写真。

 

アメリカの書店の一角の様子

この棚すべてがBL本。注目なのが左上にあるジャンル名です。

 

ジャンル名(拡大図)

 

YAOI(やおい)とがっつりかいてあります。

 

海外ではBL=Boys Loveは、「少年を愛する」という意味あいが強いようで、このようにYaoiと書かれていることが多いそうです。

 

また、取り扱いの状況は国によってかなり違います。
中東諸国などはそもそも宗教的に人物画がNGで、同性愛は死刑の対象でもありますから、BLなんてとんでもない。ただ、そうした国を除けば、世界規模でBLは流行っていると藤本先生。
各国でのBLの取り扱いについていくつか例が出されました。

 

まずアメリカではかなり流行しているそうで、YAOI‐CONなどイベントも定期開催されているといいます。
イベントでは高級ホテルを2泊3日ほぼ貸し切りにして、海外で人気の日本の作家や声優をゲストに呼ぶこともあるそう。思っていた以上に流行っている…!!

 

そもそもアメリカには日本のBLが入ってくるより前からスラッシュ※1と呼ばれる作品群があるので、伝統的に広まりやすかったのではないかと藤本先生。

 

続いて欧州。
イタリアのイベントではBIG ROBOTというポスターの隣にBLコーナーがあったり、日本のマンガというくくりで販売されています。
ドイツはヨーロッパの中で一番BL好きの国だそうです。しかしドイツは基本的にマンガは輸入という文化が強く、自国のマンガ家は1割以下。90年代半ばまではアメコミと、バンド・デシネというフランス語圏のマンガが主流で、90年代後半以降、日本マンガもそこに加わっていったとのこと。ドイツはマンガ読者の7、8割が女性ということもあり、マンガの内3割程度がBLなんだとか(ちなみに日本は1割程度)。

 

一方前回のマンガカフェでもいくつか話が上がったフランス。
こちらは意外なことに、BLが入ってきたのは欧州では一番遅かったそう。マンガが盛んな国という印象があったので驚きました。おそらく、恋愛がもっとも自由な国だからだろうと藤本先生。
棚としては少女マンガと同じ棚に分類。「Yaoi/Shojo」と書かれています。

 

どの国でもBLに関しては、爆発的に売れるというよりも、「手堅く、確実に売れるジャンル」と藤本先生。

 

アジアでも流行しているそうですが、状況は欧州やアメリカと異なります。

 

ベトナムでは同性愛を社会悪とする見方も強く、同性愛表現は公的には流通していませんが、かなり多くの若い人がインターネットで読んでいるんだそう。
また、キリスト教圏のフィリピンでも同性愛に対する見方はかなり厳しく、ファンコミュニティも認証制をとるなど慎重になっています。

 

なお隣の韓国は自国のBLマンガも多いものの表現規制の厳しさもあり、日本のBL翻訳にもかなり修正が入っているといいます。香港でもBL本の帯には「警告」と大きな文字で書かれており、所持は自己責任だが、人に貸したり、古本として売却するのはNG。
中国ではそもそも出版物が許可制ということもあり、まずBLは出版の許可が下りず、流通している本はほぼ海賊版とのこと。

 

日本と異なる海外でのBL作品と活動

日本でも個人のBL創作活動が盛んですが、マンガ同人誌が代表的な発表形態となっている日本と違い、海外ではイラストレーション(一枚絵)や小説が多いそうです。

 

印象的だったのは中国。創作活動はとても盛んですが、発表場所はほぼインターネット上。また、二次創作よりも一次創作、マンガよりも圧倒的に小説が多いんだそうです。
日本ではインターネットと平行して即売会といったイベントでの発表も盛んなので少しびっくりしました。

 

アメリカではYAOI‐CONといったイベントが定期開催されています。
アメリカの創作物はリアリスティックなものが多く、また、現実のLGBTの活動とも深く結びついているんだそうです。

 

このあたりは、LGBTの活動と創作物としてのBLがかなり離れている日本と状況が違います。むしろ世界的にはアメリカのような考え方が主流で、日本のようにLGBTとBL・GLなどの作品がほぼ分断されていることの方が珍しいそう。
アメリカではリアルな男性が好きだという感情が根底にあるようで、日常と地続きになっているところが日本とは違うところなのではと藤本先生は分析していました。

 

ただ、日本でもゲイ・アートの巨匠・田亀源五郎氏の一般向けのマンガ作品『弟の夫』が大きくヒットするなど、今後状況が変わり、実際のLGBT活動と結びつく可能性はあるのではないかといいます。

 

会場の様子

 

各国の創作について共通点と国ごとの違い

さてここからはもう少し踏み込んで、各国の同人誌や二次創作の話へ。

 

まずアジアの状況から。アジアでは現在「刀剣乱舞」が人気だそう。
台湾では欧米映画の同人誌が人気だそうで、有名なところではハリポタなど。(ちなみに台湾に限らず、どこの国でも「ハーマイオニーどうするか問題」があるそうです)

 

またフィギュアスケートの世界女王がハマっていたことでも話題になった「ユーリ!!! on ICE」は近年のサイマル配信の影響もあってか、藤本先生曰く「世界同時多発萌え」としか言いようのない状況だったようです。
「何か“やおい遺伝子”みたいなものが世界中で内面化したのかな?」と金水先生。

 

話の中でさまざまな同人誌が出てきましたが、見ているとイラスト本などが多く、マンガはやや少ないように感じました。プロとして活躍されている方が出しているものも多いそうで、非常にキレイなイラストが多かったのが印象に残っています。

 

また、各国のファンコミュニティについてのお話も。
各国BLのような作品をネット上で投稿したり、BLについて語る場というのはあるんだそうです。ただ、そういったコミュニティやプラットフォームは国ごと、というよりも、言語ごとに別れているというお話は新鮮でした。

 

日本国内にいるとあまり意識することもありませんが、言語とコミュニティは密接に関わっていることを改めて感じます。

 

 

と、いろいろなお話しを伺っている間に2時間があっという間に終了。前回に引き続き、もっともっと聞きたい!と思ってしまう会でした。
それにしてもBLがこんなにいろいろな場所で流行っているとは思っていなかったので、国ごとに違う状況やLGBTの活動との関わりなど、とても興味深い話ばかりでした。

 

マンガカフェは現在不定期に開催。アートエリアB1ではマンガカフェ以外にも飲み物を飲みながら研究などの話を聞けるラボカフェを随時開催しています。勉強!という雰囲気ではないので興味がある回があれば、ぜひ足を運んでみてください。

 

※1 スラッシュ
スラッシュ・フィクションとも言う。2人以上の男性間の関係について焦点を当てたファン・フィクション。「スタートレック」シリーズの登場人物のカーク船長とスポックなどが有名。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

華やかなひな人形を堪能する「浪花の大ひな祭り」

2017年3月27日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

女の子の健やかな成長を祈願する3月3日の桃の節句。大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)では、摂南大学との共同で、寄贈されたひな人形による大ひな壇を展示。さらに今年は鴻池家と並ぶ浪花の豪商「加島屋(廣岡家)」に伝来したひな人形や道具類も公開しています。

 

ひな祭りといえば、とくに女の子にとっては大切な行事のひとつ。ひな人形を飾ったり、ちょっと特別なご飯でお祝いしたなんて思い出がある方もいるのでは?

 

このひな祭り、起源はかなり古く、桃の節句は奈良時代から、ひな人形を飾って女の子の成長を祝う習わしは江戸時代ごろにできた風習なんだそうです。
摂南大学と大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)では、毎年ひな祭りの時期に合わせて約1ヵ月間「浪花の大ひな祭り」として大ひな壇を展示しています。
今年はNHKの朝の連続テレビ小説「あさが来た」で登場した「加野屋」のモデルとなった浪花の豪商「加島屋(廣岡家)」ゆかりのひな人形や道具類が寄贈された記念として、廣岡家をはじめ浪花の豪商に伝来する人形や道具類も展示されています。

 

まず展示場に入ってすぐ横には、寄贈されたひな人形約600体による大ひな壇が!

 

大ひな壇

 

これだけのおひな様が揃うと本当に圧巻です。
飾り付けは摂南大学の学生をはじめボランティアの手によるもの。

 

展示されているひな人形は、2012年に摂南大学の学生がプロデュースした「京の大ひな祭り」を行うため一般から寄贈を募ったもので、2000体を超えるひな人形の中から今回選ばれた600体が展示されています。

 

ひな壇の左右を彩る飾り

ひな壇の左右を彩る飾り

 

ひな段の左右を彩る飾りはすべて学生の手作り。古布や余ったリボンなどを持ち寄り制作されたものだそうです。
こちらの飾りもひな壇を見事に彩っています。

 

また大ひな壇のすぐ側には、ひな祭りに付随する遊具や、ひな祭りに関する説明パネルも。

 

近年海外からのお客さまも多いことから、日本語だけでなく、英語やスペイン語等の多言語パネルを展示。こちらも摂南大学の先生や学生が手がけてます。

 

日本語での解説パネル。

日本語での解説パネル。このパネルに並び、英語、スペイン語、インドネシア語など

 

「禊ぎ」などといった日本文化特有の翻訳もしっかりされており、苦労が伺えました。

 

英語によるひな祭りの解説の一部

英語によるひな祭りの解説の一部。赤線部分は「禊ぎ」や「祓い」の説明文。

 

浪花の大ひな祭り、もちろんこれだけではありません。

 

御殿飾りのひな人形

 

こちらは戦前頃まで関西で主流だった御殿飾りと呼ばれるひな飾りです。
現在よく見る段飾り、元々は関東地方の飾り方だったそうで、関西はこのような宮中を模した御殿飾りが主流だったそうです。
戦後は百貨店などで関東風のひな飾りがセット売りで広く販売されるようになり、御殿飾りは次第に見られなくなったようです。

 

私も初めて見ましたが、小さいながらも華やか。御殿の細工や小さいおひな様がとてもかわいらしかったです。

 

その他にも雛飾りやひな祭りの様子を描いた掛け軸や屏風などを展示。今にもまして賑やかな雰囲気を感じることができます。

 

 

次にいよいよ、豪商たちのひな人形・道具展示。
(正直ここからスケールが違います)

 

まずはこちら。廣岡家伝来の立ち雛です。

 

廣岡家伝来の立ち雛

立ち雛とは、紙で作られたひな人形のこと。一般的には折り紙のような、あまり大きくなく、それなりに安価なものです。

 

一般的な立ち雛

一般的な立ち雛

 

しかしこちらの立ち雛は、高さ60センチという大きさもさることながら、華やかさが段違い!
紙で作られている関係もあり、ここまできれいなものは滅多にないそうです。
次郎雛と呼ばれる、丸顔でやさしい顔をしているのも特徴です。なんとも親しみのわくおひな様でした。

 

次にひな人形と共に飾られていた道具類展示へ。

 

廣岡家伝来の道具飾りの一部

廣岡家伝来の道具飾りの一部

 

これ、すべてひな人形サイズの道具類なんです。
写真に収めきれませんでしたが、どれも目を見張る細やかさ。また、案内をしてくださった摂南大学の岩間教授によると、「飾りひとつも当時の一流の画家や職人が手がけたもの」とのこと。
とても高価で手のかかった品というのが見ているだけでも伝わる逸品です。

 

廣岡家のひな人形は御殿飾りのものでしたが、道具と同じくちょっとしたふすまなども森 一鳳といった当時の有名な絵師が手がけているそうです。ぜひ実物を生で見てください。

 

その他にも、浪花の豪商のひとつ八代家に伝来した日本最大の台所道具の展示もあります。

 

こちらが一般的な台所道具。

 

台所道具のミニチュア

台所道具のミニチュア。大きさは20センチに満たないくらい

 

昔はひな人形と共に、白木造りの台所道具を揃えるのが一般的だったそう。普通は大きくても幅20センチくらいのサイズ。

ですが八代家の台所道具は幅1.5メートル高さ1.3メートルほど。
また、ねずみ取りが設置されていたりと、当時の台所を本当にそのまま写した道具類は、資料としても貴重なんだそうです。

 

こちらは個人蔵のため、写真はありませんが、「えっ、これが飾りなの?!」と思う大きさ、細やかさはぜひ現地で体験してください。

 

浪花の豪商のひな飾り、きっととても華やかなんだろうなと思い伺いましたが、大ひな壇に、丁寧に作られた上品な品々はぜひ実際に見ていただきたいなと感じました。御殿飾りや台所道具といった、今のひな祭りではあまり馴染みがないものを見られる貴重な機会でもあります。

 

「浪花の大ひな祭り-浪花の豪商の雛道具-」は2017年4月2日(日)まで開催中です。駅からもすぐですのでこの機会に足を運んでみてください。

 

取材協力:摂南大学外国語学部 岩間香教授、大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)

ゆるーく学問を楽しもう 関西大学「ココロカフェ」

2017年3月21日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

大学では日々いろんな公開講座が開かれています。最新の研究内容だったり意外な豆知識だったり、参加してみるととてもおもしろいんですが、やっぱりちょっと敷居が高いかも……。
そういう方にもってこいなのが、コーヒーとお菓子をつまみながら学問を楽しむ関西大学の「ココロカフェ」です!

 

「ココロカフェ」は、レクチャーやワークを通して学問のおもしろさを知ってもらおうという対話型イベント。


参加者同士が交流したり、先生同士のちょっとコミカルな会話があったりするのが特徴です。ちなみに、参加者が先生にツッコミを入れてもいいそうです。

 

お邪魔したのは第1回ココロカフェ。今回のテーマは「笑い」です。

 

登壇したのは人間健康学部の森田亜矢子先生と、社会学部の北村英哉先生。

人間健康学部 森田亜矢子助教

人間健康学部 森田亜矢子助教

 

社会学部北村英哉教授

社会学部北村英哉教授

 

森田先生は「笑い」を科学する専門家、北村先生は社会心理学や対人心理学が専門とのこと。

「笑い」には楽しくない「笑い」もある

私たちが笑うのは、おもしろかったり楽しかったりするときだけだと思いがち。


しかし森田先生は「怖い時や不安な時も人間って笑うんです」といいます。そのほかにも泣き笑いや何かをごまかすときの愛想笑いなど、実は楽しい・嬉しい感情以外でも人は笑うんだそうです。

さまざまな笑いの種類を分類

さまざまな笑いの種類を分類

 

赤ちゃんから年配の方まで、人は何歳でも笑います。


生まれたばかりの赤ちゃんもほほえむことがありますが、赤ちゃんの笑みは作為の笑みではなくて、意識して笑っているわけではないとのこと。

 

人間は未熟な状態で生まれるので、生きるために笑顔で人の関心を得るのではないかという仮説もあるそうです。しかし近年、赤ちゃんは母親の胎内にいるときにも笑っていることが確認されたそうです。笑顔を作ることそのものが、人の本能にプログラムされていると考えられているそうで、いつから人は笑顔を作れるようになるのかは現在解明中なんだとか。

「笑い」が生まれるのは「ギャップがあるとき」

さて、人は楽しくなくても自発的に笑うことができます。どうやら笑いには感情とは別の側面がありそう。


でも、意識していなくても思わず笑ってしまうことも。そういった笑いは何がきっかけになっているんでしょうか。

 

不安なときや怖い目に遭ったとき思わず笑ってしまうのは、恐怖や不安に別のものをぶつけて恐怖心を相殺するためでもあり、臨床にも応用されているそうです。


恐怖を感じる状況下などで感じるストレスを笑いの題材に変え、ストレスを緩和する。そうすることで人はストレスを乗り越えてきたといいます。


また、自分の認識と現実に「ずれ」があるとき、人は思わず笑ってしまうんだそうです。

ワークショップで笑いのメカニズムを体感しよう

今回ワークショップではこのずれの理論を実際に体験しました。まず配布されたシートに描かれている「いつ」「どこで」「だれが」「だれと」「なにをしたか」という質問に沿って、思いついた単語を当てはめていきます。

 

配布されたシートを埋めていく参加者

配布されたシートを埋めていく

 

そしてグループ内で単語をシャッフルし、全く別の文章を作り上げるというもの。

 

でき上がる文章はもちろんちぐはぐ。そこに生じるギャップが笑いを誘います。

 

とても簡単なワークですが、あちこちのグループから笑い声が上がっていました。


参加者のほとんどは初対面。年齢も立場も違うというグループばかりでしたが、ワークショップをきっかけに会話が弾んだグループもあったようで、楽しくワークを進めているの印象的でした。

グループ発表の様子

最後に各グループごとに渾身の一文を発表。現実ではあり得ないような文章に思わず笑ってしまう人も

 

こういった試みは初めてということでしたが、先生1人の講演や複数人が議論するシンポジウムとは違い、異なる専門の先生がそれぞれに話を振りながら1つのテーマについて話していくというスタイルがおもしろかったです。

 

1つのテーマであっても先生それぞれ違う切り口で話が聞けるので、退屈せず、「なるほど」と思う場面もたくさんありました。

 

ココロカフェは3月中の木曜日夜もしくは土曜日午後に開催。すでにチケットは完売とのこと。次回開催は未定ですが、次期シリーズの可能性もあるそうです。

 

興味のある方は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

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