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大阪大学×大阪市「江戸時代の文字、くずし字を読んでみよう!」に行ってみた

2016年9月2日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

大阪市営地下鉄淀屋橋駅からすぐの「淀屋橋odona」には大阪市が運営する「アイ・スポット」があり、さまざまな取り組みが行われています。今回は大阪市都市計画局と大阪大学21世紀懐徳堂の公開講座「i-spot講座」のうち、8月9日(火)に行われた「江戸時代の文字、くずし字を読んでみよう!」をレポートします!

 

くずし字とは、江戸時代以前に広く使われていた、漢字を元にした複数のかな文字(変体仮名)や簡略化された漢字のこと。現在はあまり目にする機会がないこの文字に触れてみようというのが今回の講座の目的です。
今回は対象が小学生ということで、1年生から6年生まで、親子12組が参加。なかには兄弟姉妹で参加されている方もいました。

くずし字を読んでみよう

登壇されたのは大阪大学大学院文学研究科の講師、山本嘉孝先生。以前ほとゼロでも紹介した「くずし字学習支援アプリKuLA」にも関わっている先生です。

講座は「読んでみよう」「書いてみよう」「触ってみよう」の3つのコーナーで進みます。
まずはくずし字を読むための知識を学んでいきます。

講義中のスライド1

写真の中から隠れているくずし字を探す

講義中のスライド2

正解は、おそば屋さんの看板だ

 

実は昔はひらがなもたくさんの種類があったんだよ、という説明に、参加者の皆さん興味津々。さらに、くずし字一覧を使いながら実際のくずし字を読んでいきます。

似た字を探す参加者

似た字と絵を頼りに、くずし字を解読!

 

教材のプリント

今回使用された教材。左:明治時代英語を学ぶための絵入り教材『英字訓蒙図会』 右:百人一首から

 

くずし字一覧を頼りに文字を解読していく参加者の皆さん。そこかしこから「あった!」「見つけた!」という声が上がっていました。

 

続いてさらに難易度の高い百人一首の解読にもチャレンジ。教材になっていたのは、「花の色は」ではじまる小野小町の有名な一首。
歌を知っていると、少し楽に読めるかもしれません。

くずし字を書いてみよう

読み方がわかったら、次はくずし字を書いてみるコーナーです。
くずし字の一覧表を参考に好きな文字を選んで、和紙にくずし字を書いていきます。
書くものは自分の名前や好きなキャラクターなど、何でもOK。今回はひらがなのみの講座なので、キャラクター名もひらがなで書いていきます。

 

皆さん、文字の見た目やつながりなどを考えながら真剣に文字を選び、用意された筆ペンや油性ペンを使って書いていました。それにしても皆さん字が上手い……!

くずし字を各練習をする参加者

本番の和紙に書く前に何度も練習

くずし字に触れてみよう

さて、読んで書いたあとは、実際の和本などでくずし字に触れます。普段図書館などでも和本の貸し出しはほとんどありません。皆さん触れたことのない和本に夢中でした。なお、この日用意された和本は山本先生の蔵書だそう。どれも高そうに見えますが、和本は安いものだと500円くらいで購入できるものもあるのだとか。

集まる参加者

当日教材に使用された和本

参加者の皆さん、書かれている文字を読んだり中身を想像したり、においをかいだりと和本を全身で楽しんでいました。和本を手に取り、そこにある虫喰い跡などを見つけた方もいて、先生にも質問する場面もありました。

 

昔はシミの虫害が多かったそうですが、最近はシバンムシの食害が多いそう。ちなみに本を食べるこの虫、お隣韓国などでは発生しないため、国外にある和本は虫食いの全くない、きれいな本だったりするそうです。

 

あっという間に1時間半の講座は終了。
くずし字を読むだけでなく、書いたり触ったりと体験を交えた講座だったこともあり、お子さんも親御さんも一緒になって楽しんでいました。
私もくずし字を読むことはありますが、書いたことはほとんどないので、今度こっそりチャレンジしてみたいなと思います。

 

i-spotでは定期的に講座が開催されています。あまり大学の先生と子どもたちが話す機会も多くはありません。
興味のあるイベントには是非参加されてはいかがでしょうか。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

大学アプリレビューvol.11 学生目線で金沢の魅力再発見! 金沢美術工芸大学「kanavi」

2016年8月29日 / コラム, 大学アプリレビュー

城下町や兼六園など、北陸の観光地として親しまれている石川県金沢市。北陸新幹線の開通も伴って、以前にも増して注目されている観光地のひとつです。伝統工芸や風情ある町並みが有名ですが、この金沢の魅力を金沢に住む学生たちの目線から再発掘するのが、金沢美術工芸大学の「kanavi」です。

 

金沢美術工芸大学の「kanavi」は、同大学に通う学生の「目利きの視点」で金沢のアートや生活クラフトを紹介するというデジタルマガジン。

内容は、学生が気になる金沢の作家やショップを紹介する「大好きな作家さんを訪ねて」や、「街にあふれる不思議アート」などのほか、金沢にある個性的なお店やカフェを紹介したページなどもあります。

 

発行されているのは2016年8月現在、6号まで。すべて無料で読むことができます。

 

マガジンそのもののダウンロードは「ライブラリ」の一覧ページから。

 

ライブラリ一覧

 

それぞれのマガジンは前から順に読む以外に、目次から気になる記事を選んで読むことも可能です。

 

目次ページ

目次ページ。右下のリストマークをタップすると目次を見ることができます

 

IMG_4329

「kanavi」vol.1より。このページではムービーの再生も可能

 

記事のデザインは紙の雑誌のようですが、スマートフォンなどで見ることを想定して読みやすいようにレイアウトされていたり、所々でムービーの再生ができるなど、デジタルならではの要素も組み込まれているのが特徴です。

 

「kanavi」vol.1より

「kanavi」vol.1より

 

たとえばこちら。写真右下にあるアイコンをタップすると、紹介されているアトリエを360度ぐるりと見渡すことができます。

 

「kanavi」vol.1より

「kanavi」vol.1より

 

またこちらは、金沢にあるアートギャラリーを紹介するページ。こちらでは興味のあるアートスペースをタップすると、マップが開いて場所を確認することができます。

 

説明そのものがタップで開く仕組みになっているページもあり、ピンクのフキダシをタップすると……

フキダシをタップ!

「kanavi」vol.6より。金沢にあるカフェを紹介するコーナーの一部

「kanavi」vol.6より。金沢にあるカフェを紹介するコーナーの一部

 

このように説明が。下の黄色い部分を上にひっぱるようにスワイプすると、お店の詳細が出てくるという懲りよう。
見ている人を飽きさせない工夫が随所に施されています。

 

毎号さまざまな工夫がされ、読んでいるだけでも楽しめるデジタルマガジン。
「大好きな作家さんを訪ねて」では、学生ならではの視点で、堅くなりすぎず、それでいてそれぞれの作家さんのこだわりなど、紙面全体できちんとポイントを抑えたインタビューがおもしろかったです。

 

また、おもしろいだけではなく、金沢に行ってみたくなる紹介は必見です。
スマートフォンを使って、話題の金沢をちょっと違った角度から楽しんでみてはいかがでしょうか。

妖怪のルーツは化石? 阪大の『科学で楽しむ怪異考 妖怪古生物展』に行ってきた!

2016年8月22日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

昔から絵画や記録で姿を現す妖怪。そのなかには化石がもとになったかもしれないものもあるのだとか。
今回は古生物学の視点から妖怪を考える、大阪大学総合学術博物館の2016年夏期特集展覧会『科学で楽しむ怪異考 妖怪古生物展』に行ってきました。

 

妖怪と聞いて思い浮かべるものはなんでしょう?
鬼やつくも神、天狗にカッパ、九尾の狐とか鵺とか……。そういった非日常的なものを思い浮かべるのでは?
実際にいる(もしくはいた)かは想像するしかありませんが、『科学で楽しむ怪異考 妖怪古生物展』は視点を変えて、古生物学の観点から妖怪について考える展示をしています。

 

古生物学とは、大昔に地球上に生きていた生物を対象に、生物の分類や生態、歴史や進化の過程を明らかにする学問です。
主に化石を研究対象にしており、今回の展覧会にも大小さまざまな化石が展示されています。

 

実は化石というのは昔から各地で発見されていて、江戸時代以前から化石のスケッチらしき図が残っていたり、竜骨や天狗の骨として現代まで残っているもの、神社などにご神体として祀られているものもあるのだそうです。

 

今回の展示は妖怪の存在そのものの是非を問うのではなく、展示に携わっている大阪大学総合学術博物館の研究支援推進員である半田直人さんがおっしゃるには、「化石や古生物学の視点から、『昔の人はこういう妖怪を想像したのではないか』ということや、この妖怪はこんな生物がもとになったんじゃないかということを感じてもらうための展示」とのこと。

 

前置きはこのあたりにして、早速展示スペースへ行ってみましょう!

 

古来の人々が想像した竜はこんな姿だったかも?
ワニの化石と竜の関係。

まず入り口すぐ横にあるのは「古来の人々が目にした竜」をテーマにした展示。
竜といえばワニのような口に角が生え、蛇のような長い体をもって空を飛ぶ生き物ですよね。

竜のイメージ

竜のイメージ

そのルーツかもしれないのが、マチカネワニを初めとするワニの化石です。
ちなみにこちらは、マチカネワニの頭骨の一部。

 

マチカネワニの頭骨の一部

詳しい方が見ると、ワニの頭骨だとわかるのだそう

 

ワニの頭の骨は鹿の角と一緒に産出することもあるため、同一の動物の骨格と間違われる可能性は十分にあったようです。もしかしたらそういった骨から、昔の人は竜の姿を想像したのかもしれませんね。

 

今回の展示では、マチカネワニの骨格と鹿の角を合成した模型も展示されています。
こちらがその模型。

 

マチカネワニと鹿の角を合成した模型

これは、竜の骨にしか見えない!

 

他にも、ゾウの骨と思われるものが竜骨として伝わっている例もあります。

 

竜骨のスケッチ。

竜骨のスケッチ。角に見える部分はシカ類の頭骨の一部とのこと

古生物学の専門家であれば、これはゾウの骨だと分かるのかもしれませんが、私のような素人目には、竜の頭のように感じます。
昔の人も同じように思っていたのではないでしょうか。

 

このような化石展示のなかで特に興味深かったのは、チラシにも載っている一つ目おばけ。

 

外国では一つ目巨人の元になった動物の化石があり、展示されているのは、その動物の仲間の化石です。

 

ゾウの骨の一部

 

中央の空洞部分、確かに大きな目が入っていそう。
こちら、正体はゾウの頭部の化石。大きな穴はゾウの鼻の部分です。

 

その他にも角のある妖怪として鬼にまつわるものや、天狗にまつわる展示もありました。

 

天狗の爪とされてた化石

天狗の爪とされてた化石。こちらはサメの歯です

 

実在したかもしれない、伝説の動物についての考察。

化石のほかに、進化の過程を探る観点から、伝説上の生き物である鵺について考察した展示もあります。

 

鵺というのはサルの顔、タヌキの胴体、トラの手足と蛇の尾をもつという動物です。
現代には鵺に相当する動物は発見されていません。
しかし半田さんによると、古生物学者の想像する鵺の姿として、レッサーパンダが考えられるんだそうで、今回の展覧会ではレッサーパンダの骨格が展示されています。

 

レッサーパンダってあの小さな動物ですよね!?と思わず聞き返してしまいました。

 

伝説の鵺の絵

 

こちらが伝承の鵺の姿。私の知るレッサーパンダとは似つかない大きさですが……。
今でこそ小型のレッサーパンダですが、産出した化石などから、もとはかなり体が大きかったのではないかと考えられているそうです。
その大きさ、なんと昔の人々の身長と同じくらい(!)の可能性もあるとのこと。

 

レッサーパンダの化石は日本でも発見されているようで、もし古典の時代に巨大なレッサーパンダがまだ生き残っていたら、鵺のような姿で描かれていた可能性も十分にあります。
このように、現代を生きる動物の祖先の姿を探るのも、古生物学の研究なのだとか。

 

考察のほかに、伝承にある鵺の姿を現代の動物の骨格で再現したものもありました。

 

伝承にあるとおりの動物の骨格模型で作られた鵺の骨格

伝承にあるとおりの動物の骨格模型で作られた鵺の骨格

 

その他にもヤマタノオロチの考察や、妖怪にまつわる装飾品、マチカネワニの名前の由来にもなったトヨタマヒメの解説など、かなり見応えのある展示ばかりです。

 

ビカリアの化石

こちらはビカリアという巻貝の化石。月のおさがりなどと呼ばれ、神社に奉納されることも

 

プロトケラトプスの化石

プロトケラトプスの化石。グリフォンなどを想像する元になったのかもしれません

 

大阪大学総合学術博物館「科学で楽しむ怪異考 妖怪古生物展」は8月27日(土)まで開催中です。日・祝祭日は閉館日のため、ご注意ください。

 

化石を見ながら「この部分が目かな?」「これは何の骨なんだろう?」「どんな生き物だったんだろう」と想像を働かせるのがとても楽しい展示でした。
みなさんもぜひ、いつもと違った視点で古生物や妖怪について想像してみてはいかがでしょうか?

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

偶然が生んだ奇跡の屏風 関西大学「豊臣期大坂図屏風」の謎に迫る

2016年8月3日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

関西大学の第1学舎1号館には、オーストリアで発見された『豊臣期大坂図屏風』の復元陶板が展示されています。この屏風が大坂の風景を描いたものだとわかったのは2008年。大変貴重なものだそうですが、そもそもなぜ日本の屏風がオーストリアで発見されたのか、またこの屏風の魅力について伺うべく、関西大学なにわ大阪研究センターを訪ねました。

関西大学なにわ大阪研究センター

関西大学なにわ大阪研究センター

関西大学文学部総合人文学科の黒田一充教授

関西大学文学部総合人文学科の黒田一充教授。なにわ大阪研究センター副センター長も務める

偶然が重なり、再発見された屏風

今回取材に応じてくださったのは、なにわ大阪研究センターの副センター長である黒田一充教授。


黒田教授によると、屏風の発見はさまざまな偶然が重なり合ったものだといいます。

 

「この屏風が1600年代前半の豊臣家統治時代の大坂を描いたものだとわかったのは2008年のことです。


屏風は今もオーストリアのグラーツ郊外にあるエッゲンベルグ城(現在はシュタイアーマルク州立博物館の一部)にあり、パネルが8枚の八曲一隻、それが一つずつばらされ、インドの間(現:日本の間)と呼ばれていた部屋の壁に埋め込まれています。


実はエッゲンベルグ城は第二次世界大戦時にソ連軍に占領され、いろいろなものが奪われたり壊されたりしました。しかし、壁と一体化していたためか、この屏風は難を逃れ、現在まで残っています。おそらく、屏風そのままの姿であったら、今も残っていたかどうか……。

 

その後インドの間の解体修理の際、屏風が修復のため壁から取り外され、そこではじめて日本の屏風であることがわかったんです。


この時エッゲンベルグ城に勤め、修復に携わったバーバラ・カイザー氏からこの屏風がどこのものか調べてほしいと、日本文化に明るいケルン大学のフランチィスカ・エームケ教授に屏風の写真が託されました。


エームケ教授は2006年に関西大学に招かれ、その時なにわ・大阪文化遺産学研究センター(現:なにわ大阪研究センター)に写真をもってこられました。そこではじめて『これは大坂の街を描いたものじゃないか』と判明したんです」

 

盗難されず現在まで残っていることや写真が関西大学に持ち込まれたことなど、ほとんど奇跡のような偶然だと感じます。

 

この屏風がなぜ海を渡ってオーストリアにたどりついたのかは、未だはっきりしていないそうですが、1600年代半ば、長崎の出島から東インド会社を通じた交易記録にいくつかの屏風が輸出された記録があるようです。

 

「1600年代半ばに、東インド会社から交易品として屏風が何点かリクエストされたという記録があります。実際にこの屏風がその交易品に含まれていたかは不明ですが、その可能性は大きいと思います」と黒田教授。

謎だらけの「豊臣期大坂図屏風」

ところでこの屏風に描かれた風景、なぜ豊臣家統治時代の大坂であるとわかったのでしょうか。その理由を先生に尋ねました。

 

「大坂の風景であることは、大坂城や住吉神社が描かれていることからわかります。


豊臣秀吉が建造した大坂城は大坂夏の陣で燃えてしまいますが、まもなく徳川幕府によって再建されました。

 

豊臣時代と徳川時代の大坂城の大きな違いは、天守閣の最上階の構造です。秀吉が建てた大坂城は天守閣の周りに桟がついていて、外に出られるようになっているんです。『大坂夏の陣図屏風』を参照して再建された今の大阪城も、そのようになっています。


しかし徳川大坂城には桟がなく、窓のみの構造でした。これは同時代に建設された名古屋城などにも見られる特徴ですね。


もう一つ、住吉大社にある四角い部分。これは今でも存在する石舞台※です。記録では1607年に秀頼が住吉大社に石舞台を寄贈したとあります。大坂夏の陣が1615年ですのでこの二点から、1615年の大坂夏の陣以前の大坂の街を描いたものだとわかったんです」

 

※石舞台
雅楽などを演じるための舞台。住吉大社の石舞台は厳島神社、四天王寺とともに日本三舞台と称され、重要文化財にも指定されています。

屏風に描かれた大坂城

屏風に描かれた大坂城

 

住吉大社の石舞台(白枠部分)

住吉大社の石舞台(白枠部分)

 

専門用語では景観年代というそうですが、その頃の大坂を描いたスケッチなどをもとに、屏風絵は描かれたのではないか。さらにいうと、描かれているのは1600年代前半の風景ですが、制作されたのは1600年代の半ばで、大坂ではなく京都の工房で描かれたのではないかと黒田教授は考えているようです。

 

「金雲の表現方法などが特徴的で、貝殻を薄く切ってその上に金箔を張り込むという表現をしていて、当時京都で制作された洛中洛外図屏風と同じ手法です。

美術陶板で作られたレプリカの『豊臣期大坂図屏風』の金雲部分

美術陶板で作られたレプリカの『豊臣期大坂図屏風』の金雲部分

 

この屏風は大まかに、左から右へ、京都から堺までの風景を描いていますが、四角い屏風の画面に配置するため、実際の建物の位置や方角とは異なっています。


景色を見ながらではなく、何かの資料を見て描かれたではないかなと思われますので、それも大坂以外で制作されたのではと考える理由のひとつです」

屏風に描かれた極楽橋

極楽橋。別の記録とこの絵では位置が違う

 

『豊臣期大坂図屏風』に限らず、屏風はコラージュに近い形で作られているようです。時間や場所が変わる時は区切りの場面に金雲をおいて表現するなど、さまざまな工夫が見られるといいます。

 

「住吉祭の行列の後ろにある石の鳥居は、四天王寺の石の鳥居になっています。本来は反橋の前に住吉社の石の鳥居があるのですが、この長い行列を入れようとすると長さが足りないので、鳥居の位置をずらして収めようとしたのだと考えられます」

四天王寺付近の鳥居(白枠・左部分)。本来の地理から考えるともっと右側(南側)にある。右は住吉社の反橋(白枠・右部分)

四天王寺付近の鳥居(白枠・左部分)。本来の地理から考えるともっと右側(南側)にある。右は住吉社の反橋(白枠・右部分)

 

他にも、町中にうどん屋さんなどがあったり住吉社への行列に女性が参加していたりと、当時の暮らしが分かるものがたくさんあります。

 

当時の大坂の様子を知る資料は、この『豊臣期大坂図屏風』を含めても4例ほどしかないそうで、さらに大坂夏の陣などを描いた合戦図ではない、平和な時代の大坂がうかがえる最古の資料がこの屏風なのだそう。

 

ところでこの屏風、まだまだ謎が多いのだそうです。

 

「例えば船場からつながる、右端にある塔のある神社。ここに該当する神社がどこなのかわかっていません。すぐ下には金雲がありますが、船場と神社の間にはないので地理的につながっているはずなんですが……はっきりとはわかりません。


他にも中央のかごに乗っている人物も、秀吉にしては若すぎるかな?とか。


一番の謎は、この時代の大坂の風景を、誰がどんな目的で描かせたのかということ。京都の洛中洛外図は需要もあり、盛んに生産されました。しかしわざわざ豊臣家統治時代の大坂を誰が描かせたのか、記録が一切ないので謎のままです」

『豊臣期大坂図屏風』復元陶板の全景

『豊臣期大坂図屏風』復元陶板の全景

当時の人々の姿を紐解く資料としての大坂図屏風

このような絵画資料が果たす役割はどういったことなのでしょうか。やはり視覚的に見れる部分は大きいと黒田教授は言います。

 

「これまでの歴史研究、文学研究で盛んに取り上げられたのはいわゆる貴族、武士など上層階級の人たちの文化です。歴史の研究で一番分かりづらいのは、その当時の庶民の暮らしぶりなんです。江戸時代くらいになって庶民の暮らしを描いたものが多くなりますが、現代の私たちは文字で書いてあることを想像するしかできません。絵画資料があると、実際にはどうだったか、想像だけでは足りない部分を補えます。そこが一番のポイントではないかと。


また、昔より今は当時の庶民の暮らしに興味を持つ人が増えていること、想像するだけではなく視覚的研究へとシフトしてきているのを感じます。今後この流れはより一層進むのではないか」とのことです。

 

 

さてこの『豊臣期大坂図屏風』、実物は現在もオーストリアのエッゲンベルグ城にありますが、大阪市のフェスティバルホールの緞帳としても見ることができます。

 

関西大学創立130周年を間近に控え、8月9日(金)には、このフェスティバルホールでコンサートが開催されます。コンサートではエッゲンベルグ城で毎年コンサートを行っているグラーツストリングスによる、豊臣期大坂図屏風をイメージした新曲が披露される予定です。


偶然の積み重ねで発見された一枚を、ぜひ耳からも楽しんでみてはいかがでしょうか。

全国同時七夕講演会 大阪市立大学「変化する!?ニュートリノ」に参加してきました。

2016年8月1日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

みなさん、全国同時七夕講演会という企画はご存じでしょうか。その名のとおり、7月7日の七夕の日や8月9日の伝統的七夕の日を中心に、6月下旬から8月にかけて全国各地で天体や宇宙に関する講演会を行うものです。今年で8回目となるこの企画、今回は7月3日に大阪市立科学館で開催された大阪市立大学の講演会「変化する!?ニュートリノ」に参加してきました。

 

ニュートリノについて知るべく、いざ大阪市立科学館へ!!

2015年、東京大学の梶田隆章教授らはニュートリノが姿を変えることを実験で確かめ、ノーベル物理学賞を受賞しました。
このニュースについては私も耳にしたことがありますが、そもそもニュートリノがどういうものなのかわからず、ただ「すごいなぁ」と感心していただけでした。しかし今回ニュートリノについての講演が開催されると聞き、大阪市立科学館にお邪魔しました。

 

この日の講演は「中学生以上が対象」。これは私でもわかるに違いない!と、いざ会場へ!

直前の会場の様子

直前の会場の様子

会場にはすでに100人ほどの人が! 年齢層は幅広く、ご年配の方から主婦らしき方、大学生くらいの方や中学生も。科学館に遊びに来たと思われるお子さんも数人見かけました。

 

会場にいらっしゃった方にお話を伺ったところ、「元々物理学を学んでいて、現在も講演会などを開催しています。今回はそのヒントになれば」という理由で参加されたそうです。
参加者はやはり物理に興味のある方が多いようですね。

 

今回登壇されるのは、大阪市立大学理学研究科の清矢良浩教授。
「中学生以上が対象ということで、スライドもわかりやすいように作りました」
話す雰囲気が堅苦しくなくて安心しました。会場は和やかなムード、簡単な説明などのあと、いよいよ講演会がスタートしました。

大阪市立大学理学研究科 清矢良浩教授

大阪市立大学理学研究科 清矢良浩教授。高エネルギー物理学専門

そもそもニュートリノとはなにものか?

今回のテーマは「変化するニュートリノ」。そもそもニュートリノが変化するとはなにか、の説明の前に「物質の成り立ち」や「ニュートリノとはなにか」ということから話が始まります。

 

ニュートリノとは中性を表す「ニュートラル(neutral)」と、イタリア語で小さいという意味である「イノ(-ino)」を組み合わせ名付けられている、いわゆる素粒子の一種です。
素粒子とは、現代科学でそれ以上分解できない極小の粒のことなのだそう。

 

私は、ものの極小単位といえば原子かな?と思っていたのですが、この原子すら、さらに小さな粒の素粒子で構成されていると知り、驚きました。さらに素粒子にもさまざまな種類があり、電荷をもつものもたないもの、力の強いもの弱いものがあるとのこと。

 

ちなみに、物質の性質は原子の中に含まれる電子で決まるそうで、電子の数と陽子の数は同じなので陽子の数が変わると物質自体が変わるといっていいそうです。

 

さらに深部へ…クォーク

原子を形作るのは電子と陽子、中性子の3つ。さらに陽子と中性子はクオークという素粒子で構成されている

 

素粒子について

素粒子は、今の科学ではこれ以上分割できない最少の物質

 

このなかでニュートリノは力の弱い素粒子の一種になります。
力が弱いというのはなんだかイメージがしづらいですが、ほかの物質と強く反発したり引き合ったりしない物質なのだそうです。
また、物質は粒子がぴったりくっついて1つになっているように思いますが、ミクロなレベルで見ると、原子核同士の間はスカスカ。

ものと反発する力の弱いニュートリノは、物質の間をすり抜ける性質をもっているんだそうです。

 

実はニュートリノは私たちの身近にある物質の内部には存在していません。ニュートリノは私たちの周りを飛び交っているものなのです。
しかし非常に小さく、ものと反応しないうえ、電気的にも中性なため観測するのも困難。
身近にあふれているのに謎に満ちている……それがニュートリノです。

ニュートリノの検出について

ニュートリノは直接検出できないため、別の方法で観測を行う

では、物質の中に含まれていないのなら、いったいどこからやってくるんでしょうか? そして検出できないのに、どのように検出するんでしょう?

 

物質が変化するときがニュートリノ発生の瞬間。

結論からいいますと、ニュートリノは中性子や陽子が別のものに変化するときに発生します。例えば、年代測定などに使われる炭素14。
これは通常の陽子6つ中性子6つで構成される炭素(炭素12)とは違い、陽子が6つ、中性子が8つで構成されています。

 

「炭素14は徐々に陽子7つ、中性子7つでできている窒素に変化していきます。陽子と中性子の合計数はどちらも14ですが、窒素は炭素14よりも陽子が1つ多く、中性子が1つ少ない物質です」
それにしても違う性質のものに変化すると、いったいどんなことが起こるのでしょうか。

 

「炭素14の場合は中性子が1つ陽子に変化するときに、中性子から電子とニュートリノが放出されます」と清矢教授。

中性子が陽子に変化

「このとき電子と一緒に出てくるニュートリノが電子ニュートリノ。そして、このように性質が変わるときに粒子を放出する物質のことを『放射性物質』といいます」

 

放射性物質といえば原子力発電所などで使用されるウランなどを思い浮かべます。もちろんこのウランからもニュートリノが発生しているそうです。
こういうと危険なものかと思いがちですが、そもそも地球の核にはウランなどの放射性物質が含まれており、日常的にこの核からもニュートリノが放出されているんだとか。
ニュートリノはものをすり抜けるので、地層をすり抜け、地上にどんどん出てきているんだそうです。とはいえほとんど反応しないため、私たちには影響しません。

 

ほかにも、太陽が燃えてエネルギーを作るときにも陽子が中性子に変化するなど物質の変化によってニュートリノが放出され、太陽光などと一緒に何百万も私たちに降り注いでいるようです。ニュートリノがなければ太陽はエネルギーを作ることができないというから驚きです。

 

さらに宇宙にはビッグバンのときに生成されたと思われるニュートリノが無数に存在しているそう。
ニュートリノの謎を探ることで、宇宙そのものの成り立ちを解明できるかもしれないわけです。

 

「ニュートリノはひっそり存在していますが、太陽エネルギー生成の根幹部分にも関わっています。ミクロの世界を理解することは、実はとても重要なことなんです」

 

ニュートリノに質量があることを発見。

ニュートリノは長年その質量は0だと考えられてきました。そう考えられてきた背景は、エネルギー保存の法則やアインシュタインの質量とエネルギーの法則を用いて理解できます。

 

質量といえば単純に重さと捉えがちですが、そもそも質量というのはものの動かしにくさのこと。質量が大きいと、動かす(状態を変化させる)のに必要な力も大きくなります。
もののもつエネルギーは質量から計算することができます(エネルギー=質量×光の速さの二乗)。

 

例えば先の炭素14の変化であれば、変化後の窒素と電子と電子ニュートリノのエネルギーを足すと、炭素14のエネルギーと等しくなります。ところが1930年代の実験結果では、ニュートリノの質量は0もしくはほとんど0だと考えられ、以降60年近く、ニュートリノは質量0と考えられてきました。

 

2015年のノーベル物理学賞は、長年0とされてきたニュートリノに実は質量があったことを示した1998年の発見に与えられました。
現在もニュートリノがどのくらいの質量をもっているのかはわかっていないそうですが、ここまでお話を伺って、これがとんでもない大発見だということはわかります。

 

では質量があることはどのようにして証明されたのでしょうか。

 

粒子の波の重ね合わせでニュートリノの姿が変わる。

「ニュートリノが姿を変えるキーとなるのは『波』です」
突然、波といわれ、混乱してしまいました。どうもこの波の性質をもつことが、質量をもつことを示す「ニュートリノの姿が変わる」という現象につながるようです。
ニュートリノは粒子であると同時に波の性質ももっていて、この波の違いでニュートリノの種類が変わるのだといいます。

 

「波が重なり合うと強めあったり弱めあったりする性質があります。この波の重ね合わせが変わることで性質が変わります。また、異なる波は異なるエネルギーをもちます」

 

ニュートリノは実は1つではなく、異なる質量エネルギー、したがって異なる波の性質をもつニュートリノが合わさって電子ニュートリノやその他のニュートリノになるようです。この波の重ね合わせのパターンが変わることで性質が変わり、それが「ニュートリノが変化する」(「振動する」と表現する)ことにつながるようです。

逆にニュートリノが振動するということは質量エネルギー、つまり質量があることを意味します。

これは地道な観測が生んだ結果のようです。

 

この発見にいたるまでの話は、ニュートリノの観測を行うスーパーカミオカンデのウェブサイトにも掲載されています。

 

スーパーカミオカンデ公式ウェブサイト「ニュートリノとニュートリノ振動」
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/sk/neutrino.html

 

ミクロ世界の謎は、さらに大きな謎を解く鍵になる。

このニュートリノの質量、すごい発見です。でも、実は私たちが思う以上に重要な発見なんだそうです。

清矢教授は、「ニュートリノが変化することがなぜ物理学の大問題とされるのか。この現象が素粒子物理学のなかで“困ったことになる”ということではありません。困るというより“重要だ”ということなんです。ニュートリノの謎を解くことで、宇宙の始まりなど、大きな謎の解明に迫ることができるかもしれないからです。ミクロの世界を追究することが、さらに大きな疑問を解くことにつながっていくのです」と締めくくりました。

 

途中何度か質疑応答の時間がありましたが、来場者から多くの質問があり、活発な講演会でした。

 

ニュートリノってなに?レベルの私でしたが、今回の講演は興味深く聞くことができました。宇宙の謎という壮大なことも、実はミクロの世界から読み解くことができるとは……。
このニュートリノ、まだまだ謎が多いようで、今後どのような研究に結びついていくのかが楽しみです。

 

大阪市立科学館での講演会は終了しましたが、全国同時七夕講演会は8月中も各地で開催予定です。
講演会のほか天体観測などを行う予定の施設もありますので、興味がある方はぜひ近くの講演会に参加してみてはいかがでしょうか。

くずし字習得者の裾野を広げる 「くずし字学習支援アプリKuLA」の挑戦(後編)

2016年7月27日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

近世以前のくずし字を学ぶために開発された「くずし字学習支援アプリKuLA」。前回は開発までの経緯と収録コンテンツについて語ってもらった。今回はアプリそのものの操作感やデザイン、さらに今後の展開について伺った。

 

アプリのこだわりは細部の操作やデザインに及ぶ。

アプリを開発する上で、使い心地の面もかなりのこだわりを詰め込んだという。
なるべくストレスなく学習できるよう、操作面でかなり細かな調整が入ったことは、実際のアプリを使っていても感じる。

 

「スマートフォンで使うため、小さな画面に出てくる情報の制御と操作感にこだわりました。
操作面では、例えば、次の文字に移動するとき。戻るボタンをタップする手間をへらし、スワイプで文字間を移動できるようにしました。
また、用例集にもスワイプで楽に移動できます。このあたりはモニターを募り、何度もテストしてもらいました。
収録資料を読むメニューについても同じです。

最初は5行くらいを一度に表示させていましたが、画面に表示する文字量は2行、多くて3行に制限しました。これもテスト時、多いとやりづらいという声を聞き、改良した部分です」

「け」の解説画面

用例や前後の文字にはスワイプで移動できる

 

次に、このアプリのアイコンや起動画面、飯倉先生の似顔絵などデザイン部分を担当したという平井さんに、デザイン面での苦労を伺った。

平井華恵さん(大阪大学博士後期課程)

起動画面やアイコンデザインを担当した平井華恵さん(大阪大学博士後期課程)

「アイコンデザインではまず、これがくずし字のアプリと分かること、学習アプリと分かること、親しみやすいことの3つを心がけました。とくに難しかったのは、文字を『読めるようになる』ことをアイコンで示すところですね。
書くアプリであれば筆やペンで『書いている』ことを表しやすいのですが、『読む』というのは絵にしづらくて……。しかし、くずし字そのものを全面に出してしまうと、学習アプリであることが分かりづらくなる。
いろいろなパターンを考えて、今のような、近世の和装本をイメージしたアイコンに落ち着きました。
また、「くずし字」とそのまま単語を入れることで、これがくずし字に関わるアプリだということを示し、マスコットキャラクターを追加することで親しみやすさを出しました」

 

平井さんデザインのアイコン

こちらが平井さんデザインのアイコン。わかりやすくかわいいデザイン

「起動画面の方は、アプリの操作画面がとてもシンプルなので、その雰囲気を受け継ぎ、シンプルさを心がけて制作しました」と平井さん。

 

なお、しみまるの声は飯倉教授が直々に担当されている。元々別の方の声の予定だったそうだが、しっくり来ず、先生に打診したところ快諾し収録してくださったそう。
アプリを使用する際はぜひ先生の声も聞いていただきたい。

 

まだまだ発展するKuLA。

今でも十分なアプリだと感じるが、KuLAはまだまだ進化予定なのだそう。
今後どのような発展があるのだろうか。

 

まずはアプリの実装部分を担当されている橋本さんから。
「次のバージョンでは海外向けに英語対応を予定しています。機能はどんどん強化していくつもりで、現在は試験運用中の『つながる』機能を大幅拡張する予定です。
今はFacebookで実名登録する必要があるので敷居が高くて……。それでもかなりの人が使ってくださっています。今後はTwitterやGoogle+アカウントでも使用できるようにする予定です。

 

また、現在は分からない文字をアップして教えてもらうことをメインにしていますが、欲しい資料を募ったり自分の持っている資料を紹介したり、アプリだけでなくブラウザからも閲覧できるようにして、情報蒐集のプラットフォームになるような使い方も考えています。

 

元々この『つながる』機能、研究者向けに実装したんですが、ふたを開けてみると、家にあった古い文献などを読んでみたいという一般の方にも利用されているんです。
意外と一般の人にも需要があるんだなと。学習だけでなく、くずし字を介したコミュニケーションツールとしても発展できたらと考えています」

 

橋本さんへ教材の追加について伺うと、「追加予定です。今のようなアプリに含む形ではなく、ユーザーが選択して追加ダウンロードできる、そういう機能を考えています。
また、読んで覚えるだけでなく、手でなぞって覚える機能も、構想としてはあります」とのこと。

 

テスト機能についても強化する予定だという。

 

「現在は仮名だけですが、今後は漢字についても対応予定です。収録文字や用例については今後もどんどん追加していく予定です」と久田さん。
収録文字についてはまだ検討中とのことだが、より深く学べるツールになるのは間違いない。

 

さらに! 近いうちにしみまる以外のキャラクターも登場予定とのこと。
増えるキャラクターについても見せていただいた。しみまるは笠間書院の編集者である西内友美さんがデザインしたキャラクターだが、次回追加予定の新キャラクターも、同じく西内さんがデザインしたとのこと。

 

どんなキャラクターなのかは、実装後、ぜみみなさんの目で確かめていただきたい。

 

追加されるキャラクターの資料画面

追加されるキャラクター。しみまるよりもすこし小さく、性格も違うキャラクターになるそう

「アプリに実装するか未定ではありますが、KuLAを入り口にして、翻刻化されていない歴史資料をみんなで翻刻するプロジェクトも考えています。古い文献をクラウドソーシングで翻刻していくものです。
海外では既にロンドン大学の市民参加型プロジェクトとして似たプロジェクトがあり、そちらは大成功しています。現在KuLAのダウンロード数は2万以上。それだけの人数が参加してくれれば、あるいはと」

 

2万人が参加する市民プロジェクト、そこまで行くとかなりの一大プロジェクトになるかもしれない。くずし字を覚えてそれを役立てられるようになれば、さらに学習者が増える可能性もある。

 

「これまでくずし字は、覚えて読む訓練をして、ようやく読めるようになるものでした。このアプリでその敷居をぐっと下げていければ」

 

今後も発展を続けるKuLA。今後のさらなる躍進に注視していきたい。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂

 

【2017年1月11日(水)追記】
2017年1月10日から、パソコン・タブレット向けWebアプリケーション「みんなで翻刻」が公開されました。こちらは研究者と市民が協力し、古い地震資料に書かれたくずし字の活字化を進めようというプロジェクトです。
「みんなで翻刻」ではくずし字解読を学ぶことも可能。こちらの内容はKuLAとも連携しているので、KuLAで学んだことを活かして、地震研究に協力することができます。

 

 

くずし字習得者の裾野を広げる 「くずし字学習支援アプリKuLA」の挑戦(前編)

2016年7月25日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

先日大学アプリレビューvol.10で紹介した「くずし字学習支援アプリKuLA」。このアプリ開発の中心を担っているのが、大阪大学文学研究科の飯倉洋一教授と同じ文学研究科の大学院生、そして京都大学文学研究科所属で大阪大学特任研究員でもある橋本雄太さんだ。
今回はアプリ開発の裏側を伺うため、大阪大学を訪ねた。

 

くずし字学習支援アプリはこうして生まれた。

取材に訪れた私を迎えてくださったのは、主にアプリの実装を担当された橋本雄太さん、デザインを担当した平井華恵さん(大阪大学)、収録文字の選定や蒐集を行った久田行雄さん(大阪大学)とダニエル・小林ベターさん(大阪大学)の4人。
残念ながら飯倉洋一教授は今回お話を伺うことはできなかったが、開発に関わるさまざまな話を伺うことができた。

 

そもそも、このアプリを開発しようとしたきっかけは何だったのか。まずはその理由を伺った。

 

アプリの実装・プログラミングを担当した橋本雄太さん(京都大学大学院文学研究科所属)

アプリの実装・プログラミングを担当した橋本雄太さん(京都大学大学院文学研究科所属)

「現在国文学研究資料館では、所蔵する30万点もの古文資料をデジタル化し、公開するプロジェクトを行っています。すでにかなりの文献が活用できるようになっていますが、公開されているのはあくまで資料の画像であって、テキスト化されているわけではありません。活用するためにはくずし字を読む力が必要なんです。
せっかくたくさんの資料が公開されているのに、活用するノウハウがない。
私は京都大学理学研究科の古地震研究会にも参加していますが、地震の研究では昔の資料を読み解く必要もある。研究者のなかでも、くずし字で書かれた文献を読める人はごくごく少数です。
くずし字を読める人の力を借りれば文献を調べることはできますが、研究資料として利用するには、研究者自身が直接文献にあたる必要がある。
読みたいと思っている人はいるのに、手軽に学習する方法がないのがネックなんです」

 

古典文学を研究する国語学や日本文学研究者、日本史研究者にとっては、くずし字学習は必須。しかし、その他の分野となると、読める人の数はやはり多くないのだそう。

 

「私はこれまでにもスマートフォン向けアプリを開発しているのですが、『くずし字を読みたい人が手軽に学べるアプリ』を作れないかと考え始めていた矢先、たまたま古地震研究会の合宿での講演会に登壇いただいた飯倉先生に『くずし字をスマートフォンで学ぶアプリを作れないか』と相談され、共同で開発することになりました。
今までくずし字に触れてこなかった方や海外の研究者にも活用してほしいと思い、学習しやすいアプリケーションづくりに取りかかりました」

 

その後すぐに飯倉教授と橋本さんが中心となり、研究者を主な対象にして開発がスタート。
ところが、たまたまくずし字アプリを開発しているとTwitterで発信したところ、思わぬ方向からの反応があったのだという。

 

「Twitterで『今こういうアプリを作っています』とKuLAのことをつぶやいたら、10代20代の若い女性から大きな反応があったんです。100回くらいリツイートされまして。驚いて調べてみると、今若い女性の間で、日本刀を題材にしたゲームが話題になっていることを知りました。
このゲームのプレイヤーの中に『くずし字を読みたい』という需要が少なからずあることを知り、急遽『新刃銘尽(あらみめいづくし)後集』を収録することにしました」

 

公開後もダウンロード数などをモニタリングしているそうだが、利用者には18~22歳の女性が多いのだという。また、講義でくずし字を学ぶ大学生と思われる人も少なくない。
30代以上の年代もいるものの、スマートフォンに親しむ若い世代の利用が目立つのだそうだ。

 

日本刀については伺ったとおりだが、それ以外にも収録資料がある。こちらはどのように選定したのだろうか。

 

「『新刃銘尽後集』については先ほどの理由ですが、『方丈記』と『しん版なぞなぞ双六』を収録したのは別の理由です」と橋本さん。

 

「収録資料は2つの軸を定めて選びました。一つは誰でも知っているものであること。もう一つが見た目にも楽しめるものであることです。
『方丈記』は高校で習う代表的な古典で誰でも知っています。また、日本だけでなく、海外でも古典文学学習の教材として使用されているそうで、知名度が高いという理由から収録しました。
『しん版なぞなぞ双六』は絵が入っていて見た目にもおもしろいので」とのこと。

『方丈記』は文字のくずし方やつなぎ方、語句など、くずし字で書かれた資料を読む上で基本となるものが多く使われているそう。

 

収録されている『方丈記』の画面。「ゆく川の流れは絶えずして」という、有名な序文が収録されている

収録されている『方丈記』の画面。「ゆく川の流れは絶えずして」という、有名な序文が収録されている

 

それにしてもこのアプリ、実際に使ってみると、くずし字学習でつまづくポイントをしっかり抑えて開発されていることがわかる。

 

例えば各文字の用例の収録などが代表的だ。
この用例画像の選定と収録には久田さんと小林ベターさんが関わったのだという。

 

くずし字学習の基本をおさえた収録コンテンツができるまで。

文字の選定と収録に関わった久田行雄さん(右・大阪大学博士後期課程)とダニエル・小林ベターさん(左・大阪大学博士後期課程)

文字の選定と収録に関わった久田行雄さん(右・大阪大学博士後期課程)とダニエル・小林ベターさん(左・大阪大学博士後期課程)

「くずし字を読む時ですが、一文字一文字を覚えて読むというよりは、前後の文字や知っている文字を読んで、『この文章ならこの文字はこれかな?』というふうに、推測しながら読んでいくんです。
なので、文字を一つずつ覚えるだけでは不十分。そのため、用例集という形でそれぞれの文字のつながりパターンを学習できるようにしています」と久田さん。

 

なかでも、適切な用例を探すことに手間がかかったとのこと。
収録されている用例は同じ語句でもパターンの違うものが収録されていたりと、学ぶ側としても嬉しい用例集になっている。
では、具体的にどのように用例を選出していったのだろうか。

 

「まず漢字と仮名は分けて考えました。仮名については、アプリの容量などもふまえて、前もって収録文字数を決め、よく使われる文字を選んで収録するようにしました。
漢字は岩波文庫の古典文学大系を参照し、この文学大系にある近世文学作品に出てくる文字を機械的にカウント。その中で、まず上位500文字くらいにしぼりこみ、その後市販のくずし字辞典なども参考にしながら選んでいきました」

 

とくに大変だったのは、用例集で表示するくずし字のパターンの画像を集める作業。
文字のつながりごとにくずし方も変わってくるため、突飛ではないくずし字をなるべく多くのパターン集めるよう心がけたのだという。
これは機械で選ぶことはできないため、一つ一つを人の目で確かめながら選んでいったのだと久田さんは言う。

 

最終的に収録のための画像の切り出しは、橋本さんが開発した専用ツールを使って、人海戦術で行った。
「ブラウザ上でくずし字の画像データを切り出し、クラウドデータベースにアップロードするプログラムを作成しました。画像は久田さんと小林ベターさん、さらにアルバイトの学生3名がかりで集めたものです」と橋本さん。

 

ブラウザ上で文献から直接文字画像を編集できるソフト

ブラウザ上で文献から直接文字画像を編集できるソフト

 

そうして収録されたのが、280文字以上3000パターンもの用例だという。近世文学に絞ったのは、まずは近世の文献を読めるようにしようという目的があったため。

 

それにしても、くずし字を学習するアプリとして、実に細かいこだわりを感じる。
このこだわりは収録文字だけでなく、操作部分やデザインにも及んでいる。

 

次回は操作やデザインのこだわりや、KuLAの未来について伺う。

 

取材協力:大阪大学21世紀懐徳堂
(後編はこちら

 

【2017年1月11日(水)追記】
2017年1月10日から、パソコン・タブレット向けWebアプリケーション「みんなで翻刻」が公開されました。こちらは研究者と市民が協力し、古い地震資料に書かれたくずし字の活字化を進めようというプロジェクトです。
「みんなで翻刻」ではくずし字解読を学ぶことも可能。こちらの内容はKuLAとも連携しているので、KuLAで学んだことを活かして、地震研究に協力することができます。

 

 

大学アプリレビューvol.10 クイズでくずし字学習ができる 大阪大学「くずし字学習支援アプリ KuLA」

2016年7月1日 / コラム, 大学アプリレビュー

古文を楽しむうえで障害となるくずし字(草書体)や変体仮名※。以前変体仮名を学べるアプリを紹介しましたが、今回は江戸時代以前に使われていた変体仮名とくずし字を学び、『方丈記』や今話題の日本刀に関する本も原文で読めてしまうアプリ、大阪大学の「KuLA」をご紹介します。

 

※変体仮名(へんたいがな)
1900年の小学校令施行規則改正以前に日常的に使われていた仮名文字で、現代のひらがなの異体字にあたります。多様な漢字をもとに、さまざまな形のひらがなが使われていました。

 

このアプリはよく使用される変体仮名のほか、「御」「候」「様」といった、古文で頻繁に使われる漢字のくずし字についても学べるところが特徴です。
変体仮名も漢字のくずし字も、当時は書く時の筆運びや見た目の美しさを考え、さまざまな使い分けやくずし方がされていました。ですので、一文字一文字の形を覚えることに加えて、文字と文字のつながりを知り、読み解くことが必要になります。
KuLAでは一つ一つの文字とともに、用例という形で文字のつながりを学ぶこともできるのです。

 

ではまず、アプリの使い方について。
アプリの使い方については、ゆるキャラしみまるが丁寧に教えてくれます。

アプリを案内してくれるゆるキャラ、しみまる

こちらがしみまる。このアプリだけでなく、日本近世文学会刊行の「和文リテラシーニューズ」にも登場します。
メニューは「まなぶ」「よむ」「つながる」の3つ。まずは「まなぶ」機能から。

 

「まなぶ」機能で変体仮名とくずし字を学習!

「まなぶ」メニューのトップ画面

「まなぶ」メニューのトップ画面

 

「まなぶ」メニューでは変体仮名やくずし字に加えて、くずし字学習の基本についても知ることができます。文字検索では、変体仮名の元になっている漢字(これを字母といいます)をもとに文字を探せます。

 

くずし字学習の基本 仮名編

変体仮名のもとの漢字(字母)ごとにかなの形もがらっと変わる

 

くずし字学習の基本 くずし字を読むために

収録されている文献についても、どの段階で読めばいいのかを教えてくれる

 

かな文字は元となった漢字から学びたいものを選べます。また、メニューから文字を選ぶ以外に、前後の文字には上下にフリックすることで移動も可能。混同しやすい文字については注意書きがあり、確認しながら覚えられるのもいいところです。

 

文字詳細 け(遣)

誤読注意から直接似た文字の項目に飛ぶことができる

 

このアプリでは一つ一つの文字だけではなく、江戸時代の本から抜粋した用例も収録。2文字以上のつながった文字もあわせて学習できるよう設計されています。

昔は同じ単語でも本や文章によって違うかな文字が使用されていることもあったので、こうしてさまざまな用例を比較しながら学べるのは助かりますね。

 

こ(己)の用例

「こ(己)」の用例集にある「まこと」の用例。「ま」の字母が「真」と「満」で異なっている

 

文字を学んだ後はテストで確認もできます。テストは10問出題のものと、19問出題のものの2パターン。全問正解までは根気強く覚える必要がありそうです。

 

私も19問のテストにチャレンジ!

 

19問のテスト画面

テスト画面。出題されるのは変体仮名のみ

 

結果画面

結果発表後、SNSでシェアする機能もある

 

結果は19問中11点……まだまだ勉強が必要のようです。

 

「よむ」メニューで原文を読んでみよう!

「よむ」メニューでは、古文の授業でおなじみの『方丈記』や江戸時代に遊ばれた『しん板なぞなぞ双六』、江戸時代の刀工についてまとめた『新刃銘尽後集(あらみめいづくしこうしゅう)』の3つの書籍を読むことができます。
教材は随時追加予定とのこと。『新刃銘尽後集』では新撰組沖田総司が愛用した刀の作者とされる、加州清光の記載も。

 

よむメニューのトップ画面

「よむ」メニュー。3つの書物の一部を読むことができる

 

このメニューでは、「まなぶ」のメニューで勉強した知識を活かして、江戸時代に出版された本の原文に親しむことができます。各ページごとに翻刻文※も付いているため、原文のみ・翻刻文付きを切り替えて、正解を確かめながら読むことができますよ。

※翻刻文
古文書や写本など、くずし字で書かれた昔の文献を楷書に直し、一般に読める形にすること。

 

『方丈記』

『方丈記』の画面。翻刻文のボタンで表示を切り替えられる

 

『方丈記』翻刻文付き

翻刻文を表示した画面。活字と見比べながら読める

 

アプリには使用頻度が高い278字に対し、江戸時代の本から蒐集した用例3000以上を収録しています。この時代の本は木版印刷が主流。本によって文字の字体も変わるため、さまざまなパターンを比較できるのはありがたいなと思います。

 

「つながる」機能で一緒に勉強もできる

まだ実験段階のようですが、わからない文字を写真で共有し、読み方を尋ねる「つながる」機能も搭載。ひとりで黙々と勉強するのではなく、誰かと一緒に勉強できるというのは、学び続ける上で重要かもしれません。

 

「つながる」機能トップ画面

 

昔の文章を読んでみたい方はもちろん、今大学で古文を学んでる学生の方、町中で見かけるおそば屋さんなどの看板を読みたい方などなど……グローバルの前に日本の文化知識を深めるためにも、ぜひ一度古い日本の文字に触れてみてはいかがでしょうか。

 

【2017年1月11日(水)追記】
2017年1月10日から、パソコン・タブレット向けWebアプリケーション「みんなで翻刻」が公開されました。こちらは研究者と市民が協力し、古い地震資料に書かれたくずし字の活字化を進めようというプロジェクトです。
「みんなで翻刻」ではくずし字解読を学ぶことも可能。こちらの内容はKuLAとも連携しているので、KuLAで学んだことを活かして、地震研究に協力することができます。

 

 

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