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府立大発スイーツ第3弾「いちじくほっぺ」ができるまで(後編)

2015年11月25日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

学生がいちじくのスイーツを企画・開発する意味

ただ今『ほとゼロ』にて追いかけている、「Habikinoいちじくプロジェクト」第3弾、「いちじくほっぺ」発売までの道。前回のレポートでは羽曳野市役所訪問までをお伝えしたが、今回はその後、大阪府立大学羽曳野キャンパスを訪問した模様をレポートする。
(参照:府立大発スイーツ第3弾「いちじくほっぺ」ができるまで(前編)

 

この日は、「いちじくほっぺ」の製造元となるみどり製菓が商品化に向けて作った、試作品の試食会の日。案内された実習室に入ると、そこには黒川通典講師と、みどり製菓の翠紀雄社長、製造担当の井﨑宏治さん、そして大量の試作品がスタンバイしていた。そこへほどなくして、「いちじくほっぺ」の生みの親である学生たちが到着。彼女たちはすぐに試作品の山へと駆け寄り、「かわいい!」「すごい!」とワイワイ、キャーキャー、大興奮。スマホで写真を撮りまくってはしゃいでいる。正に、今時の学生そのものだ。

試作品を前にはしゃぐ学生のみなさん

試作品を前にはしゃぐ学生のみなさん

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「いちじくほっぺ」の試作品

 

 しばらく落ち着きそうにないため、まずは学生たちを温かな目で見守る黒川講師に、改めてこのプロジェクトを始めたワケを直撃してみる。 

プロジェクトをまとめる大阪府立大学 大学院 総合リハビリテーション学研究科 黒川通典講師

プロジェクトをまとめる大阪府立大学 大学院 総合リハビリテーション学研究科 黒川通典講師

 

「『Habikinoいちじくプロジェクト』は3年前、みどり製菓さんから『羽曳野のいちじくを使った大阪ならではのスイーツを作りたい』とご相談いただいたことをきっかけにスタートしました。いちじくは地元羽曳野の特産品であるのですが、傷みやすく、あまり流通には向いていません。また、売れ残ったものは廃棄されることも知りました。大学としては地元のこうした課題に向き合わないといけないと思いました。生のいちじくは傷みやすくても、スイーツに加工すれば流通するんではないかと。ちょうど学生たちには経営管理を教えていたので、テーマとしてもおもしろいことから、授業の数コマを使って『売れるいちじくスイーツの企画・開発』を始めたんです。最初はターゲッティングから始めましたが、意外にも学生たちの多くはいちじくって何? という反応でした。最近の若者はいちじくを知らないんですね、驚きました。そこでまずはいちじくのことを知ってもらおうと商品企画のターゲットは学生たちのような若い女性に決まりました。」

確かにいちじくは、数あるフルーツの中でも、わりと地味でマイナーなイメージ。若者が好きなスイーツと言えば、マンゴーとかイチゴとか? いちじくと同じ秋のスイーツなら、ぶどうや梨、柿あたりだろう。

こうして『Habikinoいちじくプロジェクト』は実施されることになったのだ。学生たちは休みの日を使って道の駅でのリサーチを行なったり、すでに販売されているいちじくのお菓子の調査を行い、あるいはいちじく農家を訪れるなど、ただ自分たちが“食べたいもの”ではなく、マーケティングもしっかり行った上で、“売れるもの”としてのいちじくスイーツ開発に奮闘している。

容赦ないダメダシの嵐

さて、先程まで試作品を前に熱狂していた学生たちだが、いざ試食を始めると、彼女たちの口からは次々に意外な言葉が飛び出してきた。
「モチモチ感はあるけど、フワフワ感がない」
「コーティングのチョコが分厚いから、生地よりチョコの方に気を取られる」
「見た目の色が、思っていたのと全然違う」
等々。さっきまであんなに喜んでいた(ように見えた)のに、厳しい評価がくだされる。翠社長と井﨑さんに対してけっこうズバズバ言うので、見ているこっちは内心ヒヤヒヤ。だが、それだけ学生たちも真剣に取り組んでいるということの表れなのだろう。

そんな彼女たちに話を聞くと、「いちじくほっぺ」のポイントは、まず食感にあるという。
「普通焼きドーナツは重いものが多い中で、私たちは子どもから大人までおやつとして手軽に食べられるよう、軽めの食感をめざしたんです。それに、テーマである初恋を経験する年代って中学生ぐらいかなということで、まだあどけなさの残る中学生の柔らかなほっぺたをイメージして、モチモチ・フワフワ食感を追求しました」
試行錯誤の末、タピオカ粉と豆乳でモチモチ感を、シフォン生地でフワフワ感を出すと決めてからも、配合が難しく、何度となく調整して大変な思いをしたそうだ。2ヶ月という短い準備期間の中、ドーナツが嫌いになるぐらい、試作と試食を繰り返した。

このレシピに対してみどり製菓側は、
「商品として流通させるためには日持ちすることが大切なのですが、学生さんたちのアイデアそのままでは、時間が経つと生地がパサパサになったり縮んだりしてしまいます。そこで、生地の食感を保ちつつ2ヶ月は日持ちさせるために、チョコレートでコーティングしました。チョコレートにはドライいちじくの粉末を混ぜて、いちじくらしいプチプチとした食感も出しているのですが……」
結果、分厚いチョコレートが優勢となり、学生たちこだわりのフワフワ感がやや落ちてしまったようだ。
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厳しい目で試食する学生たち。みどり製菓の翠社長、製造ご担当の井崎さんと真剣な意見交換がなされる。


また、「いちじくほっぺ」のもう一つのポイントは、学生たちが掲げた商品コンセプト、“クール×恋心”に基づくデザイン。
「表面的にはクールな表情を装っているけれど、それは照れ隠しで、心には熱い思いが秘められている。そんな初恋のイメージで、表面に白いアイシングを施し、中に白ワインジャムを入れました。生地にはいちじくジャムを練り込んでいます」
一方、みどり製菓による試作品の見た目は、鮮やかなピンク色である。食紅で染めたチョコレートでコーティングされているためで、これには学生から、
「見た目は白くしてほしいし、材料に食紅を使うのもやめてほしい」
とオーダーが出されていた。みどり製菓側は、
「初めはもう少し薄いピンク色だったのに、時間が経つとこんな色になってしまって……」
と前置きしつつ、
「とにかくキツイ色はやめて、白のイメージに近づけます。例えば、食紅ではなくいちじくジャムを使ってほんのり赤く染めるなど、淡い初恋の雰囲気が出せるように改良してみますね」
と応える。学生の想いを尊重しつつ、商品化にあたっての条件をクリアして、さらにより魅力的に仕上げる。そんなプロの仕事を垣間見た気がした。

「いちじくほっぺ」の改良はまだまだ続く

実は、この試食会には「いちじくほっぺ」以外に、もう2種類別の試作品が用意されていた。それは、6チームによるプレゼンテーションでは惜しくも優秀作品には選ばれなかったものの、その完成度の高さから商品化が検討されているという、別チームが考案したフィナンシェ風ドーナツ。こちらについても「いちじくほっぺ」同様、担当学生たちとみどり製菓側による熱いやり取りが繰り広げられていたのが印象的だった。遅かれ早かれ、商品化は間違いなさそうだ。

優秀作品のひとつ、フィナンシェ風ドーナツの試作品。

フィナンシェ風ドーナツの試作品。

 

こうした学生たちとのコラボについて、翠社長と井﨑さんに率直な感想を伺うと、
「学生さんたちは、アイデアも発想もとにかく自由。全然偏っていなくて、いろんな世界を見ていて、こちらが思いつかないような提案がたくさんあって、驚かされるばかりです。それに、プロ顔負けの技術を持って試作品を作り、プレゼンテーションされるので、本当に感心しますね。そして今日は改めて、商品化に向けては、もっと学生さんたちが考えられたコンセプトを大事にしないといけないなと、思い知らされました」
と話してくれた。

製造に携わるみどり製菓株式会社の翠紀雄社長(左)と同社製造担当の井崎宏治さん(右)

製造に携わるみどり製菓株式会社の翠紀雄社長(左)と同社製造担当の井崎宏治さん(右)

 

今後、さらなる試作を進めつつ、パッケージデザインや販売価格についても学生たちと検討していくと言う。いったいどんな形に仕上がるのか。続報を楽しみにお待ちいただきたい。

府立大発スイーツ第3弾「いちじくほっぺ」ができるまで(前編)

2015年11月24日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

絶好調な「Habikinoいちじくプロジェクト」

大阪府羽曳野市にある、大阪府立大学羽曳野キャンパス。ここでは3年前から、同大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類 栄養療法学専攻の黒川通典講師率いる3年生数十名 と「全国に通用する大阪スイーツを作りたい!」という大阪の菓子メーカー みどり製菓株式会社とのコラボで、いちじくを使ったスイーツ開発、その名も「Habikinoいちじくプロジェクト」が進んでいる。
学生たちとみどり製菓が共同で、企画から開発、マーケティング、プロモーションまで行う本プロジェクト。毎年着実に成果を出しており、すでに2013年度には第1弾のカップスイーツ「Habikino 無花果」、2014年度には第2弾のタルト「大阪いちじく(nanajiku)」が発売されている。各商品の詳細は、レビュー記事『大阪府立大×みどり製菓のいちじくスイーツ!』をご覧いただきたい。
(参照:大阪府立大×みどり製菓のいちじくスイーツ!

そして2015年度11月現在、シリーズ第3弾となる焼きドーナツ「いちじくほっぺ」の開発が進んでいる。そこでほとゼロでは、この「いちじくほっぺ」発売までの追いかけ取材を実施。数回に分けてレポートする。

満を持して、羽曳野市と強力タッグ

「いちじくほっぺ」の取材にあたり、まず向かったのは大学ではなく、羽曳野市役所。過去2商品の開発は府立大とみどり製菓の地域貢献プロジェクトだったが、今回は羽曳野市も加わるためだ。まずはそのあたりの経緯を、羽曳野市政策推進課の菅原清貴さんに尋ねた。

羽曳野市 市長公室 政策推進課 菅原清貴さん

羽曳野市 市長公室 政策推進課 菅原清貴さん

「『Habikinoいちじくプロジェクト』については、昨年1月に市の広報誌で取り上げさせていただいたのをきっかけに、市の観光・産業分野でも第1弾、第2弾との商品を『はびきの軽トラ市』や『道の駅』などで販売やPRのご協力はできたものの、さらに深い取組みをすることができないかと模索していたんです。そんな中、今年の3月に、羽曳野市・藤井寺市・太子町が舞台となり、2市1町が制作協力をした映画『あしたになれば。』が公開されました。劇中に重要アイテムとして『初恋ドーナツ』というドーナツが登場するのですが、市としては今後このドーナツでまちおこしをしたいと考えています。地元のお菓子屋やパン屋、カフェなど、いろいろなお店に独自のドーナツを考案いただき、それらを市公認の『初恋ドーナツ』としてPRして、地域を活性化したいなと……」

映画「あしたになれば。」のロケ地マップと、10月に行われたイベントのリーフレット。イベントでは初恋ドーナツコンテストが開催された。

映画「あしたになれば。」のロケ地マップと、10月に行われたイベントのリーフレット。イベントでは初恋ドーナツコンテストが開催された。

失礼ながら私はこの映画のことを知らず、取材前になんとなく想像していたシナリオとは、だいぶ違う方向に話が進んでいく……。どうやら映画をきっかけに、「初恋ドーナツ」という名のドーナツを羽曳野のご当地グルメにしよう! という計画が進んでいるらしい。となると、『Habikinoいちじくプロジェクト』シリーズ第3弾がドーナツというのも、この計画の一部ということだろうか。

「そうです。実は、劇中に登場する『初恋ドーナツ』のレシピ作りにあたっては、府立大の黒川先生にご協力いただいたんです。そのご縁もあって、今年度取り組まれる『Habikinoいちじくプロジェクト』でも『初恋ドーナツ』をテーマにしていただき、発売に向けて市と観光協会も共同させていただきたいと、黒川先生に直々にお願いしました」


こうして、今年度のプロジェクトは、企画・開発=府立大、製造=みどり製菓、販売=羽曳野市・羽曳野市観光協会という3タッグで、市オフィシャルの「初恋ドーナツ」開発に挑む! ということになったのだ。

白熱のプレゼンテーションを経て

毎年「Habikinoいちじくプロジェクト」は、黒川講師が担当する3年生向けの授業の一環として行われている。今年の受講生は29名。学生たちは6つのグループに分かれ、約2ヶ月かけて「いちじく・初恋・焼きドーナツ」というテーマに沿ったスイーツを自由に企画・開発し、実際に自分たちの手で試作品も準備。7月7日にプレゼンテーション&試食会(審査会)に臨んだ。審査員は、北川嗣雄 羽曳野市長、黒川健三 羽曳野市観光協会会長、荒井大作 羽曳野キャンパス事務所長の3名。同席した菅原さん曰く、
「当日は各チームが1商品ずつ提案してくださったのですが、私たちとしてはまさか6商品も考えていただけるとは思っていませんでしたし、どの商品も美味しくて驚きました。こちらからのお願いに対して、こんなに積極的に取り組んでいただき、本当にありがたいと思いましたね。市長や観光協会会長も、学生さんたちの熱心さに感動していましたよ」

かなりハイレベルな戦いだったようだが、この中で見事優秀作品に選ばれたのが「いちじくほっぺ」だ。いちじくジャムを練り込んだ生地で白ワインジャムを包んだ、フワフワ食感がウリの一品。原価55円という安さや、味の完成度の高さが評価された。

 

そして現在「いちじくほっぺ」は、学生たちが企画・開発した内容を元に、製造元となるみどり製菓が商品化に向け、さらなる試作を重ねている段階。ちょうどこの日、大学で試作品の試食会が行われるとのことで、今後はそちらへお邪魔してみることにした。

後編はこちら!→府立大発スイーツ第3弾「いちじくほっぺ」ができるまで(後編)

ウナギの危機を救う ウナギ味のナマズ誕生!

2015年8月24日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

今やウナギは絶滅危惧種

江戸時代、夏にウナギが売れずに困ったウナギ屋から相談を受けた平賀源内の発案で、土用の丑の日にウナギを食べる習慣が生み出され、ウナギ屋が救われたというのは有名な話。しかし、それから何百年も経った現代、事態は180度変わっている。ウナギを食べようムードが高まりすぎた(?)故に、日本人が7割を消費しているとされるニホンウナギは、養殖の原料となる天然稚魚の乱獲が進行! さらに河川環境の悪化や海洋環境の変化なども影響して、漁獲量が激減! とうとう、2013年には環境省、2014年には国際自然保護連合(IUCN)によって、それぞれ絶滅危惧種に指定されている。
そんな状況を受けて、近畿大学がウナギの代わりとなる、“ウナギ味のナマズ”の養殖に成功したという。聞いた瞬間思ったのは、ナマズってイメージ的にかなりマズそう……。ていうか、ナマズって食べられるんだ!? で、ウナギ味って……どういうこと?
にわかには信じられない“ウナギ味のナマズ”の実態を確かめるべく、私は生みの親である、近畿大学農学部の有路昌彦准教授に話を聞いた。

ウナギの救世主、現る

近畿大学農学部 有路昌彦准教授

近畿大学農学部 有路昌彦准教授

ウナギの危機を救うべく立ち上がった有路准教授。元々、ウナギの研究を専門にしていたのだろうか?
「いえ。私は養殖技術そのものではなく、事業化を図る水産経済が専門です。2009年に近畿大学に赴任してすぐ、養殖業者の方々との会合があったのですが、その当時ちょうどワシントン条約でヨーロッパウナギの規制が議論されていた頃で。同様にニホンウナギも資源が減っているので、『このままでは困る。なんとかならないか?』と、ウナギの養殖業者の方に相談されたんです」
江戸と平成、状況は真逆だが、まるで現代版・平賀源内みたいなストーリーである。
「そこで早速、私のゼミの学生たちと一緒に、資源が豊富な淡水魚の中で、ウナギに代わるものを探し始めました。ひとまず、フナ、コイ、ブラックバス、雷魚など、20種類ぐらいピックアップして蒲焼で食べてみたのですが、どれもマズかったです(笑)」
案の定、マズかったと。ここからどうやって、ナマズまで行き着いたのだろうか?
「実は、10年ぐらい前に琵琶湖を訪れたとき、地元の漁師の方に琵琶湖固有種のイワトコナマズの蒲焼きを食べさせてもらったことがあったんです。一般的にナマズというのは、脂質がほとんど無くて泥臭いものなのに、すごく美味しくて驚きましたね。生物学的には異なるものの、ウナギの蒲焼きに似ているなという印象でした。ただ、イワトコナマズはウナギよりも希少な幻の魚で、ウナギの代わりにはできません。でも、いくら探しても、他に代用できる魚が見当たらない……。そこで、もう一度その漁師の方の所へ出向いて、一般的なマナマズの味はどうなのか聞くと、あっさり『美味しいよ』と言われまして(笑)。試しにマナマズの蒲焼きを食べさせてもらったら、脂も乗っているし、泥臭さも無くて美味しい。このとき、もうマナマズ以外に代わりは無い! と確信しました」
マナマズであれば日本各地で生息しているし、マナマズ料理が郷土食になっている地域もあり、そこでは養殖も行われている。しかも、日本産のマナマズは種苗技術が確立されているため、卵から成魚という完全養殖が可能。養殖の原料に天然稚魚が必要なウナギと違って資源的な問題が無く、ウナギの代役としてもってこいだった。

ナマズはコントロールできる

ナマズサイズ合わせ済み
マナマズに焦点を絞った有路准教授は、それから全国の天然・養殖マナマズを取り寄せ、食べ比べを行った。「それが、どれを食べても、驚くほどマズかったんです」
あまりのマズさに、もしかしたら琵琶湖で食べさせてもらったのはマナマズじゃなかったのかもしれない……と疑心暗鬼になった有路准教授。真相を確かめるべく、ゼミの学生たちを連れて琵琶湖へ行き、自らマナマズを獲って食べてみた。うん、やっぱり美味しい。さらに混乱した一行は、今度は大学の近くの川でマナマズを獲って食べてみた。うっ……。涙が出るほどマズかった。
「この経験から、マナマズは住んでいる場所によって、全然味が違うということが分かりました。ということは、生息環境をコントロールすることで、味を変えられるということ。ウナギのように脂が乗っていてこってり、泥臭さのない、いわゆる“ウナギ味のナマズ”を育てることが可能だと判明したのです」
こうして、ナマズのウナギ化プロジェクトは、一気に加速していった。

“ウナギ味のナマズ”誕生

ナマズをウナギ味にするためのポイント。それは、“水”と“餌”だ。
「文献調査の結果、ナマズ特有の泥臭さは、水中のバクテリアが原因だと分かりました。同じ養殖ナマズでも、川の水で育てるのと、井戸水で育てるのでは、全然違う。食べ比べたところ、バクテリアのいない井戸水で育った方は、泥臭くありませんでした」
マナマズはきれいな水の中で育てば美味しくなるということで、大きな技術的な進歩があった。これで、泥臭い問題は解決した。
「そして、脂質や味を左右するのは、やはり餌です。この餌については、何百種類と存在する海水魚や淡水魚用の既存ペレット(固形餌)の中から、数種類をピックアップ。基本的に淡白な味わいのナマズを、脂乗りが良くこってりとした味わいのウナギに近づけるべく、ひたすら調合を繰り返しました」
ウナギ味にするなら、ウナギと同じ餌を与えれば良いのでは? と思ったが、やはりそんな単純なものではないらしい。有路准教授は、マスやコイ、ブリなど、あらゆる養殖魚の刺身を買っては食べ、どのような餌を与えて育てるとどのような味になるのか、混ぜて食べるとどのような味になるのか、地道に追究し続けたという。
ちなみに、新しい餌を一から開発するのではなく、既存の餌を組み合わせることにこだわったのには理由がある。
「完全にオリジナルの餌を開発しようとすると、それだけで何年もの時間とコストがかかってしまいます。でも、既存のものを組み合わせるのなら、時間もコストも抑えられ、すぐにビジネスとして成立させることができます」
冒頭でも紹介した通り、有路准教授の専門は水産経済。と考えると、これは正に10年、20年後ではなく、今すぐにでも実現できる仕組みを考える専門家ならではの発想なのだと、いたく感心した。
「途中、脂乗りを良くしようとして、油分を多く含む餌を与えたところ、やりすぎで脂の塊のようなナマズが育ったこともありました。また、ウナギっぽくするには、程良い脂身のこってり味である上に、食感も重要。ウナギと違ってナマズは全く小骨が無いため、ウナギ特有の食感のメリハリが無いんですよ。そこで、身に弾力を持たせるようにして、噛み応えがありつつ、脂身の柔らかさも楽しめるように調整しました。試行錯誤の末に辿り着いたベストな調合の中身についてはヒミツですが、完成した餌は数種類あって、成長段階に応じて与える種類を変えていきます」
こうして味と食感の問題もクリアし、ナマズをウナギ味に育てる方法が確立された。実際の養殖には、鹿児島にあるウナギ&ナマズの養殖業者「牧原養鰻」が協力。2009年のプロジェクトスタートから6年後の2015年2月、とうとう理想通りの“ウナギ味のナマズ”を育て上げることに成功した。

ナマズがメジャーになる日も近い!?

うなぎ味のナマズを使った「ナマズの蒲焼き丼」

うなぎ味のナマズを使った「ナマズの蒲焼き丼」


完成した“ウナギ味のナマズ”は、まず2015年5月に約1ヶ月間、奈良のウナギ料理店「うなぎの川はら」で試験販売された。見た目も風味も食感も、まるでウナギなナマズの蒲焼きは、評判上々。確かな手応えを得て、土用の丑の日である7月24日には、大阪・梅田と東京・銀座にある料理店「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」でも試験販売され、ほぼ100%「美味しい」「また食べたい」との反響を得た。
これほど完成度が高いとなると気になるのはその価格だが、この点においてはウナギと大きく異なる。ナマズはウナギを始めとした一般的な養殖魚に比べ、約3分の1の期間で成魚になるそう。成長が早く少ない餌で大きく育ち、さらに種苗単価も安いため、養殖コストはウナギに比べ圧倒的に低く抑えられる。結果、ナマズの蒲焼き重や丼は、ウナギよりはるかに安く提供できるのだ。
現在、“ウナギ味のナマズ”の試験販売は終了しているため、残念ながら一般の方々が食べることはできない。しかし、試験販売の成果を受け、有路准教授の下には水産商社や飲食店、スーパーなどから続々と、商品として扱ってみたいという声が届いているという。今後、供給拡大のための生産体制が整っていくと共に、少しずつ着実に“ウナギ味のナマズ”は広まっていくだろう。また、このナマズは天ぷらや鍋、刺身でも美味しくいただけるそうなので、さらに楽しみが広がるはず。近い将来、一般家庭の冷蔵庫にナマズがストックされているというのも、珍しくなくなるかもしれない。

気になる味については、こちら「ウナギ味のナマズ」は本当にウナギ味か!?実食体験レポ!をどうぞ!

新しい奈良の名産品となるか!?大和野菜がほんのり香る「大和ベジサイダー あかね&まな」【後編】

2015年7月27日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

帝塚山大学発の大和野菜を使ったサイダー。前編では、生みの親である稲熊隆博教授(同大学現代生活学部食物栄養学科)に、その中身についてたっぷり語ってもらった。後編は、サイダーのネーミングやラベルデザインを担当した、同大学文学部文化創造学科の河口充勇准教授と学生たちを直撃。なぜ、このサイダー開発に関わることになったのだろうか?(前編はこちら)

ネーミング&デザインチーム始動

「文化創造学科は、本学が創立50周年を迎えた2014年4月に開設されました。この学科のミッションは、地元奈良に密着し、地域の魅力を発掘し、世間に発信していくこと。これが、ちょうど同タイミングでスタートしたサイダー開発のコンセプトと一致するなという話になりまして。学生の中から有志を募り、彼らにネーミングとラベルデザインを考案してもらうことになりました」と、河口准教授。

ちなみに、河口准教授が最初に声を掛けたのは、前田好美さん(文化創造学科2年)。なぜなら、彼女がまだ高校生だった時、入学前に訪れたオープンキャンパスでたまたま河口准教授と話す機会があり、その際に「地域活性化や伝統産業の勉強、商品開発などをやりたい」と話していたから。恐るべし、河口准教授の記憶力。その後も何人かの学生たちが呼び掛けに応えてくれ、最終的に文化創造学科と経営学科の学生10名が集まったという。

メンバー間では特に役割分担をするわけではなく、全員でネーミングとラベルデザインのアイデアをひたすら出し合った。

福島一輝さん(文化創造学科2年)は、「毎週のようにミーティングを重ねつつ、何かアイデアが浮かべばすぐにLINEでやりとりし合っていました。みんなでディスカッションしながら、少しずつ形にしていくのが楽しかった」と当時を振り返る。高井泰伸さん(経営学科3年)も、「お互いに刺激し合う中で、受け身ではなく、自分からどんどん考えて動けるようになりました」と、自身の成長を実感しているようだ。

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(右)大和ベジサイダーについて熱く語る河口充勇准教授 (左)ネーミングとラベルデザインづくりに携わった学生たち

ベジサイダー姉妹、あかね&まな誕生

河口准教授のサポートの下、10名の精鋭たちが命名したサイダーのネーミングは「大和ベジサイダー あかね」。「大和野菜ダー」といったダジャレ的要素の強い案もあったそうだが、最終的に「大和野菜」をイマドキっぽく「大和ベジ」とするあたりが、流行に敏感な学生らしい。「あかね」は原料の「片平あかね」のことだが、実は偶然にも、大学で式典の際などに歌う祝歌のタイトルが「茜雲」であったり、春の学園祭の名前が「あかね祭」であったり、何かと「あかね」というキーワードに縁が深いことも影響している。

一方、デザインについては“幼い子どもでも手に取りやすい”ことをコンセプトに掲げ、「あかね」をキャラクター化! と言っても、決して蕪を擬人化したわけではない。「あかねちゃん」という可愛らしい女の子を、全員でイメージを膨らませながら生み出していった。また、それからほどなくして、第二弾となる「大和まな」を使ったサイダーが誕生。「大和ベジサイダー まな」と名付けられ、これまたキュートな「まなちゃん」も生まれた。

商品に込められた学生たちのこだわり

デザインに興味があってこのプロジェクトに参加したという小林由也さん(文化創造学科2年)曰く、「奈良らしい和の雰囲気を出しつつ、キャラクターは子ども受けする可愛らしさにこだわりました。みんな思い思いのキャラクターを描いて持ち寄って吟味して、その中で“二頭身の女の子”という方向性が固まり、今の形に仕上がりました」

確かに、ベースは古都・奈良をイメージさせる和風な格子柄ながら、それを背景に「あかねちゃん」と「まなちゃん」が佇んでいることで、グッと可愛らしい雰囲気に仕上がっている。

また、東恭太郎さん(文化創造学科2年)は、「『あかね』をボトル缶から瓶にリニューアルするときがけっこう大変で。ボトル缶の場合は全面を使ってたくさんの情報が掲載できたのですが、瓶の場合はラベルの面積が狭く、情報を半分ぐらいに絞らないといけなくなったんです。それに、商品化するとなると、使用するフォントとか食品表示とか、いろいろと縛りが出てきて。良い勉強になりましたね」と、思わぬ苦労を振り返ってくれた。

ちなみに、この「あかねちゃん」と「まなちゃん」は姉妹の設定。当然、先に生まれた「あかねちゃん」が姉かと思いきや、それぞれの風味の特徴から、大人しい姉=「まな」、個性の強い妹=「あかね」ということになっているので、くれぐれもご注意を。

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ベジサイダーのキャラクター。個性の強い妹“あかね”と、大人しい姉“まな”

三女誕生も間近!?「大和ベジサイダー」の挑戦は続く

「大和ベジサイダー」は現在、奈良市内にある一部の土産物店や飲食店などで常設販売されている他、学園祭や地域のイベントなどにも積極的に出店している。例えば、最近では2015年6月27日に生駒市で行われたイベント「いこま環境フェスティバル」に出店。この日はネーミング&ラベルデザインチームの学生たちが売り子として活躍し、なかなかの盛況ぶりだった。

また、生みの親である稲熊教授は、さらなる販路拡大を目指して、日々自ら営業に回っている。ゆくゆくは、奈良漬や柿の葉寿司に次ぐ、奈良の新定番土産に育てたいという野望を胸に秘めて。さらに、将来的には地産地消で、奈良の水を使って奈良の工場で生産できたら……という大きな夢も抱いている。一方、稲熊教授のゼミ生たちも、実は「あかね」「まな」に続く、第三弾を企画中らしい。三女の誕生でさらに弾みをつけ、「大和ベジサイダー三姉妹」として大々的に売り出される日も、そう遠くはなさそうだ。

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(上)学園祭での販売風景。およそ500本の大和ベジサイダーを販売した (下)いこま環境フェスティバルで、イベント参加者たちに大和ベジサイダーを振る舞う、河口准教授と学生たち

新しい奈良の名産品となるか!?大和野菜がほんのり香る「大和ベジサイダー あかね&まな」【前編】

2015年7月24日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

野菜のサイダーって……

地酒や地ビールに続くご当地ドリンクとして、ここ数年ブームになっている地サイダー。私もこれまで公私にわたり、数々の地サイダーを口にしてきた。いわゆるネタ的なものは賛否両論あるとして、シンプルなプレーンを筆頭に、みかん、柚子、レモン、梅などの王道フレーバー系は当然のように美味。その場所を訪れる度についついリピート買いしてしまう。

そんな流行を受けてか、奈良県にある帝塚山大学が、奈良で昔から生産されている野菜=大和野菜を使ったサイダーを作ったという。私は野菜もサイダーも、どちらも好きだ。だが、しかし、なぜその二つを一緒にしてしまったのか……。私はその異色コラボっぷりと、なんとなく想像される味わいに大いなる疑問と不安を抱きつつ、このサイダーの生みの親を訪ねた。

有名な京野菜と無名な大和野菜

出迎えてくれたのは、同大学現代生活学部食物栄養学科の稲熊隆博教授。早速開発の経緯を伺うと、のっけから飛び出したのは、大和野菜への愛あるダメ出しだった。

「私は長年、野菜の色素について研究していて、3年前に栃木県の研究所から本学へ移って来ました。そして大和野菜の存在を知ったのですが、全国的に有名な京都の京野菜に比べて、あまりにも無名だと思いまして。京野菜は、それを使った料理や商品がたくさんあり、お店でも家庭でも一年中食べられるシステムが確立されているため、広く流通しています。それに比べて大和野菜は、出荷販売される期間が短く、お店でも家庭でも出まわったら終わりでほとんど食べる機会が少ない。また、少数の農家が伝統を守るため生産しているだけなので、道の駅などごく限られた場所にしか出まわらない。普及のために努力をしても報われないというか、これじゃあは無名でも仕方がないですよね」

確かに、私も京野菜なら、和洋さまざまな料理やスイーツなど、何かしらの形でわりと口にする機会がある。しかし、大和野菜はぼんやりと聞いたことぐらいはあるものの、正直今まで見たことも食べたことも無い。レアと言えばそうなのかもしれないが、そもそもその存在自体が知られていなければ意味が無い。

「私は大和野菜の現状を知って、もっと大和野菜を身近なものにしたいと思いました。そして、大和野菜の研究を始めたのです」

聞けば、これは県や市、農家などに依頼されたわけではなく、稲熊教授が自発的に始めたことだという。にこやかに語るその裏に、奈良で野菜を研究する者としての、静かに熱い使命感のようなものを感じた。

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(左)大和野菜の魅力と課題を語る稲熊教授 (右)サイダーづくりをサポートした稲熊教授ゼミの学生たち

大和野菜をブームに乗せて

では、大和野菜を前に、稲熊教授はどう出たのか。

「多くの人に大和野菜を知ってもらい、いろいろな形で楽しめるようにするにはどうしたら良いか。私は自分の専門分野である、大和野菜の色素に注目して考えました。全23種類ある野菜の中で、何か色を特徴として打ち出せる商材が無いか……。見比べた中で目に留まったのが『片平あかね』という、名前通り茜色の細長い蕪です」

カタヒラアカネ? やはり、申し訳ないが、聞いたことも見たことも無い。

「この茜色は使えるなと思い、まず『片平あかね』を使った料理として、炊き込みごはん、おすまし、つけものの3品を考案しました。これが、見た目も味も良いと好評で、次に飲み物を考えることになったのです。出回る期間も数量もかなり限定的な大和野菜ですが、飲み物に加工すれば一年中楽しめますし、見た目が悪いだけで廃棄となっていた野菜の新たな活用法にもなります。ちょうど本学が創立50周年の節目にあたるタイミングだったので、記念事業の一つとして取り組むことになりました」

その結果が例のサイダー?

「そうです。サイダーにしたのには2つの理由があります。まず、『片平あかね』は蕪なので、臭いがキツイんです。そのため、そのまま野菜ジュースとして出すにはツライものがありまして(笑)。少しでも飲みやすい形として、サイダーにすることにしました。それに、最近は全国各地で特産品を使った地サイダーが作られていますよね。大和野菜もそのブームに乗せれば、世間に広く知ってもらえるんじゃないかと思ったわけです」

なるほど。でも、蕪のサイダーって……。聞いた限りでは、違和感しか無い。

「もちろん、ただ炭酸水に『片平あかね』の野菜汁を入れただけでは、飲めたもんじゃありません。そこで、独特の臭みを消すために、爽やかな柑橘系の中でも特に臭い消し効果の高い、シークワーサーの果汁を加えました」

そしてできあがったサイダーはボトル缶に詰められ、帝塚山大学創立50周年関連のイベントやオープンキャンパスなどで、記念品として配られた。これが、2014年8月のことである。このサイダー、実際に飲ませてもらったのだが、見た目は鮮やかなワインレッドで、香りや飲んだ瞬間に感じる味わいは、正しくシークワーサー! 爽やかな風味で、やや酸味が強い。そして、甘味はほとんど無く、後に若干の苦みが残る。おそらくこれが「片平あかね」の残り香なのだろう。炭酸もけっこうきつめ。ちょっとクセのある、大人のための辛口サイダーといった印象だ。

あかね IMG_0219

(左)美しい茜色をした大和野菜「片平あかね」  (右)「片平あかね」の色素で色づけたサイダーは、驚くほど鮮やか

波に乗って商品化&第二弾開発!

「片平あかね」を使ったサイダーの誕生後、事態はさらに進展する。

「ボトル缶入りサイダーが好評だったため、今度は茜色の見た目も楽しめるよう瓶入りにして、記念品ではなく商品として売り出そうという話になりました。と同時に、第二弾の開発にも着手したのです」

まさかの第二弾! その原料には「大和まな」という見た目はホウレン草そっくりの大和野菜が選ばれた。こちらも私は存じあげなかったが、大和野菜の中でも地元奈良では有名なものらしい。じゃあ、茜色の次は緑色? と思いつつ見せてもらうと、まさかの無色透明!

「緑色は、酸に混ぜると茶色に変色するんですよ。それだとどうしても見た目が悪いので、逆に色を除去することにしました」

色にこだわるが故に、なんとも潔い稲熊教授。こちらはリンゴの果汁を加えることで、葉物野菜特有の青臭さを消したという。こうして2015年4月、満を持して瓶入りの「片平あかね」と「大和まな」を使ったサイダーを商品化。同月、春の大学祭「あかね祭」で販売したところ、それぞれ250本以上の売り上げを記録した。この「大和まな」のサイダーも試飲してみたが、こちらは正にリンゴの味! 酸味や苦みはほとんど無く、口の中にはまろやかな甘味が残る。「片平あかね」のサイダーとは対照的に、子どもにも受けそうだ。

ちなみにサイダーの原料となる大和野菜は、稲熊教授自身が生産地へ足を運び、農家の方に直接交渉して仕入れている。始めは怪しんでいた農家の方も、少しずつサイダーが持つ大和野菜発展の可能性に興味を示し、増産などの対応をしてくれるようになった。そうして集めた野菜を、まずは名古屋にある知り合いの野菜処理工場で加工し、それから大阪のサイダー工場で商品として完成させているのだ。

また、このサイダー作りには稲熊教授のゼミ生たちも少なからず関わっている。野菜処理工場では野菜の皮むきを手伝い、サイダー工場では製造ラインを見学してものづくりの現場を体感。初めての販売となった「あかね祭」では、売り子として大いに活躍した。

大和まな(画像①) 

IMG_0216

(上)大和野菜「大和まな」 (下)大和ベジサイダーあかねとまな

 

これまでサイダーの中身について聞いてきたが、商品としてもう一つ重要な要素である、ネーミングやラベルデザインにも触れておかなければいけない。これらは同大学文学部文化創造学科の河口充勇准教授の指導の下、学生たちが担当したとのこと。私はそれを聞き稲熊教授のいる学園前キャンパスに別れを告げ、河口准教授と学生たちがいる東生駒キャンパスに足を延ばすことにした。

(後編に続く)

最新鋭工場でロボットがムダ無く生産! 大阪府大産のハイテクレタス「学園菜」【後編】

2015年6月22日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

前回は、大阪府立大学の福田弘和准教授に「学園菜」が生産される植物工場ができた経緯や、なぜレタスなのか?を伺った。今回は実際に「学園菜」が生産されている植物工場と「学園菜」を扱うレストランを訪問!工場産野菜の安全性は?味は?栄養価は? 気になる「学園菜」の魅力に迫ります。(前編はこちら

安心安全で使いやすい「学園菜」

大幅なコストカットを可能にした最新鋭の植物工場。ここで生産されるレタス「学園菜」は、従来よりも高品質なものに仕上がっていると言うが、いったいどういうことなのだろうか? その秘密は現場が握っている! ということで、実際に生産から販売までの事業運営を担う、(株)グリーンクロックスの木村一貫さんを訪ねた。

 

株式会社グリーンクロックス 木村一貫さん

株式会社グリーンクロックス 木村一貫さんに工場産レタスについて伺う。

「まず、工場は病害虫の入る余地がほとんど無く、作業員の人数も出入りも最小限に抑えた、かなりクリーンな環境です。そのため、農薬を全く使わずに生産することができます。『学園菜』はいわゆる安心安全な農薬不使用の野菜であり、洗わなくてもそのまま食べられますよ。それに、ほとんど生菌類が付着していないので、腐敗しにくく日持ちするんです。家庭用の冷蔵庫保存でも、3週間程度は美味しく食べられます」

 

農薬の心配も洗う手間も無く、日持ちも抜群!! これは、多くの人がスーパーで生野菜を買う時に躊躇する点を見事に覆す、かなりうれしいポイントだ。かく言う私も、本当は毎食欠かしたくない程の野菜好きながら、忙しく働くようになってからというもの、洗うのが面倒だったり、すぐに傷んでしまうので買い溜め出来なかったりで、めっきり生野菜を買う機会が減った一人。それだけに、この点には大きく反応してしまった。そういうことなら是非、自宅の冷蔵庫に「学園菜」をお迎えしたい!

 

「また、露地栽培は天候との戦いですが、工場栽培ならその心配が不要。常に最適な環境にコントロールされた空間で、計画生産が可能なんです。生産量が一定であれば、固定価格で販売することができますし、味や品質も常に一定のクオリティのものを提供できます。私たちの工場ではレタスのポテンシャルを最大限に引き出すべく、肥料や水、光、温度を調整しているので、栄養価が高い上に、レタス特有の苦みを抑えた仕上がりになっています」

 

どんどん出てくる、「学園菜」の魅力。収穫後、行き着く先は?

 

「現在は、学内の販売所と地元堺市のスーパー、生協、インターネットで150~200円ぐらいで販売している他、学食や市内の飲食店、ホテルなどでもメニューに使っていただいています。一般の主婦の方には、アレルギーのある家族にも安心、苦みが少ないので子どもでも食べられるといった声をいただいていますし、飲食店やホテルのシェフには、価格が変動しないことや日持ちの長さ、いつでも味が一定といった点が、長期的に使っていきやすいと好評です」

 

何を隠そう、実は当初、私は工場生産の野菜に対し、自然の露地栽培に比べて何か人工的に操作してつくっているような、どことなく危険なイメージを抱いていた。しかし、よくよく話を聞いてみると、むしろ逆。工場ではクリーンな環境で植物の能力を活かし、安全で美味しい野菜をつくっているのだ。疑って申し訳ない……。それに、最近多く見られる、異常気象による価格高騰なんていう心配もなく、常に一定の価格、品質で安定供給されるという点も安心である。地域の人々も最初は嫌悪感や拒否反応を示す人も多かったそうだが、地道なプレゼンテーションの結果受け入れられ、今では大人気となっているのだ。

さらなる未来へ向けて

工場は一般の方も見られるように見学者用通路が設けられ、いつでも解放されている。ということで、一通り話を伺った後、私も足を運んでみた。そこから見えたのは、床から天井まで約9mもの高さに積み重なっている栽培ベッドの数々。赤っぽい独特の色味のLEDに照らされ、無数のレタスが整然と並んでいる様は圧巻の一言だ。この工場は正に総合大学ならではの、さまざまな科学技術の結晶。未来に思いを馳せた人々の、夢と希望が詰まっているのだ……。そう思うと、レタス一つひとつが一際輝いて見えた。

育苗室

苗の赤ちゃんを育てる育苗室

栽培棚

育苗室で育った苗は選別され、栽培棚へ。収穫まではすべて全自動だ。

さらに大学からの帰り際、「学園菜」を使っているというイタリアンレストラン&バー「Trattoria Primo Piano」に立ち寄った。なかもず駅に程近い一角で、一際オシャレな雰囲気を醸し出している。そこで、オーナーの大谷さんに「学園菜」との出合いを聞いた。

 

大阪府立大からすぐのイタリアンレストラン&バー「Trattoria Primo Piano」

大阪府立大からすぐのイタリアンレストラン&バー「Trattoria Primo Piano」

 

大谷昭徳さん

レストランを経営する株式会社ウィスキーキャット 大谷昭徳さん

「元々、工場が完成する前の研究段階の時に研究センターの方が来店されて、どういったレタスなら使ってみたいかなど、ヒアリングされたんです。その時は、甘くて、味がしっかりと濃いレタスが良いと答えました。それから試作品をいただいたり、『学園菜』がどういったものなのか説明していただいたり、工場が完成してからオープンまでの間に見学にも行かせていただきました。正直、始めは工場産と聞いて、安全なのか疑問でしたし、普通に畑で育ったレタスの方が美味しいだろうと思いましたよ。でも、実際に食べてみたら『学園菜』は美味しくて栄養価も高いですし、安心安全で便利ということで、正式にお店で使わせていただくことにしたんです」

 

実際に調理をしているシェフの七夕純一さんも、オーナーと口を揃える。

 

「Trattoria Primo Piano」シェフ 七夕純一さん

「Trattoria Primo Piano」シェフ 七夕純一さん

「やはり工場生産ということで、品質も価格も安定しているのが良いですね。季節に関係無く、甘味が強く、はっきりとした味わいです。無農薬できれいなので破棄する部分も無く、扱いやすいのも魅力。お客様にも美味しいと好評ですよ」

 

「学園菜」は見事に地元の方々に受け入れられていた。私も自宅に帰ってお土産にいただいたレタスを食べてみたが、確かに苦みが少なく、とても甘くてみずみずしい。シャキッと歯ごたえもよく、洗わずそのまま、何もつけずにパクパクと食べられた。

 

「植物工場研究センター」ではもちろん今現在も、植物工場の発展に向けてさらなる技術開発が進んでいる。今年度からは、大学の工学系分野と生命環境科学系分野の学生が副専攻という形で植物工場科学を選択できるようになるなど、今後はさらに多くの学部生や大学院生も巻き込んでいく方針だ。ハード面だけではなくソフト面もということで、今後ますます増えるであろう植物工場をきちんと管理運営できる、専門的な人材育成にも力を入れるのである。これから日本の植物工場がどのような発展を遂げるのか、私たちが口にする野菜がどう変わっていくのか、非常に楽しみだ。

最新鋭工場でロボットがムダ無く生産! 大阪府大産のハイテクレタス「学園菜」【前編】

2015年6月19日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

今や野菜も工場でつくる時代

ここ数年で見聞きすることが多くなった、野菜を生産するための工場=植物工場。屋内で光と水を人工的にコントロールしながら作物を育てる新しい農業の形であり、近年その数は急速に増えているという。一昔前は夢のような話だったはずが、テクノロジーの進化と共に、もはや野菜の工場生産も珍しくない時代になったのだ。
こうした中で、今世間に一目置かれている植物工場産のレタスがある。2014年9月、大阪府立大学の中百舌鳥キャンパス内に誕生した植物工場でつくられている、その名も「学園菜」だ。このレタス、いったい他のものと何がどう違うのだろうか? 百聞は一見にしかず! ということで、早速現地へと赴いた。

大阪府立大学 植物工場研究センター

大阪府立大学にある植物工場研究センター。ここで植物工場の研究が行われている。(大阪府立大学提供)

ブームから国家プロジェクトへ

そもそも、なぜ大阪府大に植物工場があるのか? まずはその経緯について、大学院工学研究科の福田弘和准教授に話を聞いた。

 

大阪府立大学大学院 工学研究科 福田弘和准教授

大阪府立大学大学院 工学研究科 福田弘和准教授

「植物工場の歴史をさかのぼると、始まりは1960年頃のデンマークと言われています。日本では、1980年代に第一次、1990年代に第二次と、二度のブームが到来。未来の科学技術として、世間の注目を浴びました。そして、昔から園芸に強い大学として全国的に有名だった本学も、約20年前から植物工場の研究を開始。現在まで続けてきたという背景があります」

 

意外と古い、植物工場の歴史。となると、現在は第三次ブーム? 満を持して自分たちの工場をオープン! ってわけ?

 

「第三次ブームは2009年、経済産業省と農林水産省が、植物工場の研究開発拠点に関する公募を行ったことに始まります。年々、国内農家の高齢化や世界的な環境変動、食糧危機などの問題が膨らむ中で、その解決策となり得る植物工場を単なるブームに終わらせるのではなく、社会に必要な産業として確立しようと、ついに国が動き出したのです。これに本学が応募し、それまでの研究実績から両省のプロジェクトに採択されたことで、2011年4月、まずは2棟の研究棟から成る『植物工場研究センター』がオープンしました」
なんと! 夢やブームといったものから、国家政策へ。植物工場の在り方が大きく変わっていく中で、大阪府大は国の重要な研究開発拠点に選ばれたのだ。

大学ならではの総力を結集! 大阪府大の挑戦

まずは研究センターがオープン。ということは、そこから実際に工場が誕生するまでには、まだまだ長い道のりが?


「はい。研究センターでは、当初から植物工場が抱える最大の課題であり、一時的にブームになってもなかなか産業として定着しない要因でもあった、コストの削減と高付加価値化に取り組みました。どうしても露地栽培よりかさんでしまう生産費用をなるべくカットすること。そして、消費者に積極的に購入したいと思われる大きな価値を生み出すこと。そのための研究開発と実証を、本学の生命環境学や工学分野の教員約50名と、本プロジェクトに参画いただいているさまざまな業種の企業約70社が協同し、約3年半の時間を費やして行いました。そうして得られた成果をもとに、2014年9月、いよいよ研究棟の隣に、実際の量産を目的とした植物工場が誕生したのです。栽培品目はいろいろと試した結果、最も生産性が高く、地元農家とのバッティングも避けられる、レタスに決めました」


コスト削減と高付加価値化。どうやらこの2つが、大阪府大の植物工場産レタスのすごさの秘密を解き明かす鍵になりそうだ。

 

「また、この研究開発において掲げたテーマが、『新たなチャレンジ』。大学が手掛けるからには、やはり工場には最先端の技術を投入し、未来を担う若い世代に夢を与えなければ意味が無い! ということで、新しい独自技術の開発に努めました。その結果が、現在工場で活躍している、世界初のグリーンクロックス技術による苗診断ロボットや、国内初の自走式搬送ロボット&自動搬送ライン、最適化空調システムなどです」

 

初めて耳にするものの、なんだかすごそうな響きのグリーンクロックス技術! そして、世界初のロボット! 国内初のシステム! そう聞いただけで心が躍るのは、何も若者だけではない。この工場、やはりただものではないな……。

ロボットが優良苗を自動でピックアップ

工場を形成する数々の最先端技術。中でもまず、世界初のグリーンクロックス技術による苗診断ロボットというのが気になる。

 

「グリーンクロックス技術とは、植物の細胞内に存在する時計遺伝子の特性を利用して、作物栽培を効率化するという技術です。人間と同じく、植物にもこの時計遺伝子によって構築される体内時計があって、その性能を診断すれば、元気の良し悪し、つまり成長度合いが見えてくるんですよ。簡単に言うと、体内時計の性能が良ければ、日中しっかりと光合成を行うことができ、活発に成長できる植物ということになります。人間も、たとえ同じ環境下であっても、元気の良さや成長のスピードには個人差があるでしょう? それは植物も同じ。だから、まず苗の段階、それもかなり初期の赤ちゃん苗の段階で体内時計を診断し、なるべく力強くて成長の速いものだけを選抜して工場で育てれば、必然的に収穫量を増やすことができるというわけです」

世界初の技術「苗診断ロボット」

世界初の技術「苗診断ロボット」。優良苗を診断してピックアップする。(大阪府立大学提供)

苗を育てる育苗室

苗を育てる育苗室。育苗に最適な光を作り、効率よく苗を育てる。(大阪府立大学提供)

なるほど。発芽して間もない超初期段階で、育ちの悪い、ムダになるものを排除し、良いものだけを残して一気に育てる。かなり効率的なコスト削減法である。

 

「具体的には、苗に青色LEDの光を当て、高感度カメラで撮影したデータを分析して診断します。4時間ごとに撮影したデータから、個体サイズや形状の形態データ、光を当てることで発光するクロロフィル色素の蛍光強度などを算出し、苗の優良性を数値化。そこで優良と判断できた苗だけを、育苗用のパネルに定植するのです。しかも私たちは、この一連の流れを全て自動的に行うロボットまでを、世界で初めて開発しました」
苗を選別し、移植作業まで自動で行うロボット。ムダな時間と手間を徹底的に省く、恐るべし大学の技術力だ。

あらゆる技術でとことんコストカット

すでにお腹いっぱいな感覚だが、工場にはまだまだ多くの最先端技術が投入されている。

植物工場内部

植物工場内部はこのようになっている。栽培室内は全自動。(大阪府立大学提供)

 

「育苗工程を終えた苗は、移動式の栽培ベッドに移植し、育苗ラインから栽培室の栽培ラインへと移します。栽培室は、18段×4レーン+16段×2レーン=計104レーンの栽培棚を備えた巨大空間。ここでは、始めに栽培棚の入庫口に栽培ベッドをセットする作業のみをスタッフの手で行い、あとは私たちが開発した、国内初の自走式搬送ロボット&自動搬送ラインが全て担ってくれます。栽培ベッドを各棚へと運び、手前の定植側から一番奥の収穫側まで毎日少しずつ順番に移動させ、ちょうど収穫段階になったところで出庫。最終的に出荷準備を行う作業室まで運んでくれるのです」

 

ふむふむ……ということは、栽培室内は全自動!?

 

「はい。ロボットに任せることで、栽培ベッドは1ミリのズレも無くきっちりと、そして栽培室いっぱいにびっしりと並べられます。人の手で行うより精度が高く、効率的です。ロボットはバッテリー駆動なのですが、切れそうになると自分で勝手に充電するので、本当に手がかかりませんね。それに、作業人員が削減できるということは、人の入室による菌の持ち込みを抑えることにもつながるんですよ」

 

この工場では人に代わり、最新鋭のロボットたちが大活躍しているのだ。正に誰もが夢見た、未来の工場が今ココに! である。

 

「その他の最先端技術としては、国内初の最適化空調システムがあります。高々と積み重なっている栽培棚の各段に空調空気を配風する、独自のダクトシステムです。これによって巨大な栽培室内の温度ムラを改善し、どの場所でも均一な生育環境を実現。生産性を上げています。加えて、栽培過程においてLED光源を全面採用。従来の蛍光灯よりも省エネなLED、中でも植物の光合成に最適な光に特化した植物育成用LEDを用いることで、さらに効率的な省エネが図れています」

 

こうして、従来の植物工場が抱えていた課題、コスト削減を実現した大阪府大。その削減率は、なんと約40%にものぼる。発芽から収穫まで栽培日数は38~40日(露地栽培は平均70~80日なので約半分!)。約15人の作業員により、日産5,000株のペースで、フリルレタスとバタビアレタスの2品種が生産されている。これは国内最大級の規模だ。

 

ところで、もう一つの課題であった、高付加価値化についてはどうなったのだろうか?

 

「これらの最先端技術を駆使した生産法によって、効率的なだけではなく、従来よりも高品質なレタスが出来上がっています。その詳細については、ぜひ工場のスタッフに聞いてみてください」
というわけで、ここでバトンタッチ。研究の現場から、生産・販売の現場へと舞台を移そう。

 

後編に続く

 

 

アスリートのための冷凍餅!? 関大×和菓子屋の技の結晶「和ne チャージS」【後編】

2015年5月20日 / 大学発商品を追え!, 大学の知をのぞく

餅のことは餅屋に聞くべし!

河原教授が開発した、冷凍食品の品質劣化を防ぐ「不凍タンパク質」。その噂を聞きつけて動いたのが、大阪府堺市に店を構える和菓子屋、「浜寺餅 河月堂」のご主人だった。冷凍餅はいかにして誕生したのか。私は大いなる疑問と期待を胸に、南海本線諏訪ノ森駅を下り、静かな住宅街の中を進んだ。こんな場所に和菓子屋なんてあるのか? と思いながら歩いていると、数分で見えてきた。河月堂だ!

浜寺餅 河月堂

 

ひっそりと佇む店の扉を開けると、優しそうなご主人が笑顔で出迎えてくれた。小ぢんまりとした空間ながら、目の前にはお餅やお団子、大福など、いろんな和菓子がズラリ。ご近所の常連さんと思われる奥様が、一人、また一人と訪れては、お目当ての品を買っていく。創業80余年とのことで、地域の人々に愛される、なかなかの繁盛店らしい。

ターゲットはアスリート!?

餅好きの心をくすぐるラインナップににわかにテンションが上がる中、私も本日のお目当てである、冷凍餅を発見。早速、なぜこの餅を作ろうと思ったのか、率直な疑問をぶつけてみた。

河月堂社長、前田昌宏さん

河月堂社長、前田昌宏さん

 

「うちは常連さんの中に、マラソン選手やトライアスロン選手がいらっしゃるんです。みなさん、お餅は炭水化物でエネルギー補給に良いからと、よく買いに来てくださいます。その時口々に、大会の時も簡単に保存・持ち運びができて、時間が経っても柔らかくて、手軽に食べられるお餅があったら良いのに……と言われていて。特に会場が遠方だと、移動日で中1日空いてしまい、食べようと思う頃には硬くなっているんですね。食べる前にレンジで温めたり焼いたりできれば良いんだけど、遠征先では難しい。それでよく、じゃあ冷凍して持って行ったら大丈夫かなぁ? って聞かれるのですが、やっぱり硬くなって食べられないよって。そんな中、堺市の広報の方から河原教授の『不凍タンパク質』の話を聞いて、もしかしたらと連絡を取ってみた」

 

なんと、冷凍餅の開発は、アスリートの一言がきっかけ。エネルギー補給に餅など、アスリートでもなければ運動なんて一切しない私にとっては、まったく考えも及ばなかった。河原教授も、このアスリート向けというコンセプトに、他にはない面白さを感じてくれたそうだ。

関大生数百人を巻き込む一大プロジェクトに

大学教授と和菓子屋店主。運命的な出会いを果たした二人は、アスリートのための手軽でおいしいエネルギー補給食として、冷凍して持ち運べ、自然解凍でモチモチの食感が楽しめる……そんな夢のお餅の開発に着手した。

 

まず、河原教授からご主人に「不凍タンパク質」が提供され、添加量なども伝授。それを受けてご主人が試作品をつくり、今度はその試作品を河原教授の研究室でデータ解析……。こうしたやり取りを繰り返し、夢は少しずつ形になっていった。これには、河原教授のゼミ生たちも数多く関わった。


さらに、ある程度まで出来上がってからは、試作品を関西大学の運動部に所属する学生約500人に配布。形状、味、価格などについてアンケート調査を行い、商品化に向けてブラッシュアップを図った。

 

また、商学部の学生を対象に、商品のネーミングを募集。約30名の応募の中から、「和neチャージ(わん・ちゃーじ)」と「6つのS(えす)」の2案が河原教授とご主人の目に留まり、商品名は双方を組み合わせた「和neチャージS(わん・ちゃーじ・えす)」に決まった。


多くの人を巻き込みながら突き進んだプロジェクト。始動から商品完成まで、この間わずか半年と言うから驚きである。

 

「大学や学生さんとのコラボは初めての経験でしたが、とても面白かったです。アンケートやネーミング募集では、固定概念に捉われない学生さんたちの自由な発想に触れられて、たくさんの刺激を受けました。それに、こうして産官学連携のプロジェクトに参加することで、河月堂は商品づくりに対して真面目に取り組んでいるということを、世間に印象付けられたんじゃないかと思います」と、ご主人は振り返る。今後もこうした取り組みを続けていきたいとのことだ。

2014年、大阪マラソンのEXPOでの販売風景

2014年、大阪マラソンのEXPOでの販売風景

「和neチャージS」は「大阪マラソンEXPO 2014」でも試食・販売。

満を持して冷凍餅を食す

完成した冷凍餅改め「和neチャージS」は、1個50g程の手の平サイズ。円形状で、平べったい。ご主人曰く、お餅らしい食感と風味にこだわり、もち米100%で作ったとのこと。キラリと光る、職人気質を垣間見る。これを一旦冷凍してから常温に移せば、なんと約1時間で自然解凍され、まるで作り立てのような食感に……!?

 

頭では理解しつつも未だ半信半疑のまま、いよいよ実食の時が来た。手に持った瞬間に感じる、想像以上の柔らかさ。一口食べて、さらに衝撃が走る。引っ張るとビヨーンと伸びの良さが見られ、噛めば程良いコシも! 大学教授と和菓子職人の技のコラボで、冷凍しても失われない、見事なとろーりモチモチ食感が実現している。

 

味は、プレーン、ハチミツ、きな粉の3種類。プレーンはほぼ味がしないのかと思いきや、ほんのり黒糖風味で、あっさりとした甘味の中にもコクのある味わい。砂糖ではなく黒糖を使ったのは、ビタミンとミネラルが豊富で、エネルギー補給というコンセプトにより適しているからだそうだ。ハチミツは、プレーンよりも高カロリーを望むトライアスロン選手の声から誕生。口の中に、優しい甘さが広がる。きな粉は、関大の運動部員アンケートの結果、運動後にプロテインを摂る人が多いと分かり、ラインナップに加えることに。このきな粉味のみ、疲労回復を促す還元型コエンザイムQ10が配合されているのもポイントだ。一通りおいしくいただいた結果、個人的には意外性もあって、プレーンが一番印象的だった。

 

ちなみに、「和neチャージS」はパッケージにもこだわりが。桜の花びらが舞っているのだが、これは「今後グローバルな展開も期待されるため、和のイメージを打ち出そう!」と考え作成された、河原教授の図案が基になっている。そして左下には「関西大学130周年」の記念ロゴのシールが貼られ、裏側には商品名を考案した学生二人の氏名が記載されている。産学連携商品らしく、大学のアピールにも抜かりがない。

多忙な現代人の救世主にも

機能面だけではなく、味も◎な「和neチャージS」。スポーツをする方にはもちろん、美味しく手軽に栄養補給したいという中高年にも人気らしい。さらに意外なところでは、新聞記者や消防士、警察官など、仕事の時間が不規則で、時に食事もままならないほど超多忙な人たちの心もわしづかみにしているとのこと。確かに、私もライターという職業柄、取材や原稿の〆切に追われ、昼も夜も食べ損ねることは珍しくない。そんな時、この「和neチャージS」があれば、どんなに救われるだろう……。会社の冷凍庫に備蓄されていたら、どんなに有難いだろう……。

 

取材を終えて帰り際、早速この後に訪れる激務に備えて、「和neチャージS」を購入させていただく。当然ながらまだカチコチだが、その硬さが愛おしい。溶ければまた、あの柔らかな幸せを味あわせてくれるのだ……。そんなことを思い頬を緩ませながら、小さく冷たい餅をそっと鞄に忍ばせ、河月堂をあとにした。

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