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卒業論文を聴きに行こう! 音楽で社会とつながる大阪音楽大学の卒論発表会

2020年3月31日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

卒業論文。自分の選んだ学問に、1年あるいはそれ以上の時間をかけてじっくり向き合う大学生活の集大成だ。徹夜で研究に励んだり、ゼミ発表や諮問に緊張しながら挑んだ思い出のある方もいらっしゃるだろう。筆者もその一人で、精一杯背伸びをしてまだ誰も知らない世界の秘密を解き明かそうとしていたあの頃を振り返ると、今でも背筋が伸びる思いがする。そしてちょっと胃がチクチクする。

 

そんな汗と涙の結晶の卒業論文だが、もったいないことに一般的には指導教官などのごく限られた人以外の目に触れる機会はあまりない。しかし、一部の学科や研究室では卒論発表会が一般公開されていて、学外からでも自由に聴講できるということをご存知だろうか?

2016年にスタートし、今年その第1期生を送り出す大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻。そのはじめての卒業論文発表会が一般公開でおこなわれた。学生たちが4年間の集大成としてどんなことを論文にまとめたのか、聴きに行ってみた。

 

「音楽で人と社会をつなぐ」学生たちの卒業論文

大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻。ここで学生たちは、地域の音楽イベントのプロデュース(企画・実行・後片付けまで)を通して「音楽で人と社会をつなぐ仕掛け人」としての技能と経験を身につける。それに加えて、4回生は自らテーマを決めて卒論に取り組んでいる。今年はその1期生が晴れて卒業を迎える。

普段学生たちが過ごしているゼミ室。オシャレで開放的な雰囲気だ。

普段学生たちが過ごしているゼミ室。オシャレで開放的な雰囲気だ。

 

はじめての卒業論文発表会が一般公開で開催されたのは、彼らが日頃から地域社会の中での活動を続けてきた経緯があるからだ。会場は大学の講義室。先生や学生はもちろん、一般公開を聞きつけてやってきた地域の方々も多数集まる中、9名の卒業生を代表して3名が登壇した。

 

それぞれの問題意識が反映されたユニークなテーマ

Web上で発表会の告知を目にした時から気になっていたのは、今回発表される3名の「音楽教育」「合唱」「VRライブ」というバラエティ豊かなテーマ設定だ。テーマを選んだのにはそれぞれ理由があった。

 

一人目は、学校教育におけるリコーダーに注目した植田唯莉さんの発表。植田さん自身が音楽の教員を目指していたため、これからの教育実践にかかわるテーマを選んだそうだ。小・中学校で音楽科は教科としてどのような役割を果たしているのかを教育指導要領から分析し、教育現場でのリコーダーの活用に関する提言をまとめ、「これからの音楽科には、多様な音楽活動を通してさまざまな価値観を認め合う心を育成する役割が求められる」と結論づけた。

音楽を生活に取り入れることで、人生を豊かに過ごす。そのきっかけになるのが小・中学校の音楽教育だ。

音楽を生活に取り入れることで、人生を豊かに過ごす。そのきっかけになるのが小・中学校の音楽教育だ。

 

二人目の発表者は、合唱団で指揮者として活動し、数々のコンクールを経験してきた坂井威文さん。自身の活動を通して、合唱の良し悪しを評価する基準が業界内で一定していないことに疑問を持った。そこで卒論では、合唱を構成している諸要素を整理し、どの側面を重要視するかによって評価や指導方法が変わることを検証。「卒論を通して合唱にも多様な価値観があることを示すことができた。今後の合唱活動でも、それぞれの良さを認め合っていきたい」という言葉が印象的だった。

同じ歌でも、合唱のスタイルによって聞き手が受ける印象はまるで違う。それぞれの良さを「見える化」するのが坂井さんの研究だ。

同じ歌でも、合唱のスタイルによって聞き手が受ける印象はまるで違う。それぞれの良さを「見える化」するのが坂井さんの研究だ。

 

こうして聞いてみると、それぞれが日々さまざまな形で音楽にかかわり、あるいは卒業後も音楽を生活や仕事の一部に据えていく中で、自分にかかわりの深いテーマを設定して卒論に取り組んできたことがわかる。卒論は単なる卒業要件にあらず。研究を通して自分と世界との間に橋をかけることなのだ。

 

次元を超えたライブパフォーマンス「VRライブ」はライブなのか?

そんな中で、筆者が一番興味を惹かれたのは、発表会のトリを飾った山手健人さんの発表だ。テーマは近年盛り上がりを見せているコンテンツ「VRライブ」について。

 

みなさんはVRライブをご存知だろうか? VR(バーチャル・リアリティ)といえば『レディ・プレイヤー1』などのSF映画を真っ先に思い浮かべてしまうが、もはやフィクションの世界にとどまらず現実の生活に根付いた技術になってきている。その代表が、バーチャル空間でCGキャラクターを使って動画を配信する「VTuber」、そしてVR技術を用いて音楽ライブを楽しむ「VRライブ」だ。

発表では、VTuberに代表されるような3Dアバターを用いて、ヘッドマウントディスプレイで鑑賞するVRライブに焦点を当てて考察。全く新しい音楽体験であるVRライブが、これまでのライブやコンサートがもたらす体験とどのように違うのか、VRライブは果たして「ライブ」と呼べるものなのか、現状と課題を提示した。

3DCGのキャラクターによる次元を超えたライブパフォーマンスが、多くの人を魅了している。

3DCGのキャラクターによる次元を超えたライブパフォーマンスが、多くの人を魅了している。

 

山手さんによると、ライブやコンサートの定義自体も時代や語り手によって一様ではないものの、従来のライブは「ライブ会場と日常の空間が連続した体験」である。それに対してVRライブは、さまざまな技術や演出により多くの人々が同時に音楽を楽しめるものの、日常空間と非連続的で途中で視聴をやめてしまうことすらできる、MCが生配信であっても肝心の歌唱パフォーマンスは録画された音声や映像を使われることが多い、さらに生配信であってもタイムラグが生じることは避けられない、といった決定的な体験の差がある。こういったことから、少なくとも現状はVRライブはライブというよりも、動画コンテンツの一形態の域を出ていないのではないか、というのがひとまずの結論だ。

VRライブと日常空間の非連続性を説明する一方で、「VRのヘビーユーザーにとってはVR空間こそが日常なので、また前提が変わってくる」とも。SF映画のような話だ。

VRライブと日常空間の非連続性を説明する一方で、「VRのヘビーユーザーにとってはVR空間こそが日常なので、また前提が変わってくる」とも。SF映画のような話だ。スライド出典:https://www.slideshare.net/VirtualCast/tokyo-xr-meetup

 

しかし、だからVRライブは従来のライブよりも劣るのかというと、そうではない。音楽の楽しみ方やライフスタイルそのものが多様化する現在、音楽業界にとっても観客にとっても「ライブ」のありかたは過渡期を迎えている。そんな中で、遠方からでも気軽に参加できたり、物理的な条件に依存しないVRライブが今後重要な位置を占めてくるのは間違いないだろう。

山手さん自身、2018年ごろからVRchat(VR空間でアバターを介してユーザー同士が交流するサービス)をはじめ、日常的にVRの世界に接しているという。誰もがフラットに参加でき、自由に表現活動が行える場に「夢があるな」と感じたそうだ。今回の発表もそうした実体験がベースにあって、VRという新しい公共空間に豊かな文化が育ってきていることを伝えるものだった。

 

地域の中で培われた、多様性へのまなざし

3名の発表はどれもそれぞれの音楽への思いがあふれ、非常に興味をそそられた。上記では触れることができなかったが、質疑応答の時間、先生方だけでなく地域住民の方々(やはり音楽にかかわられている方が多かった)からも鋭い質問が飛び交っていたことも、彼らが地域社会の中で学びを深めてきたことを物語っているようで印象深い。

 

発表会の最後は、専攻の先生方のコメントで締めくくられた。

 

小島剛先生

「まだまだ突っ込みどころも多いですが、多様化をきわめる社会をどのようにとらえるかという問題に積極的にアプローチする姿勢が垣間見えました。その気持ちを心の真ん中に置いて、それぞれの進路でがんばってほしいです」

 

西村理先生

「専攻の学びでは主に音楽イベントのプロデュースを経験した学生達ですが、その中で音楽とは何かをそれぞれが考え、自分の関心に引き寄せて卒業論文に取りかかりました。今日は3名の発表でしたが、後の6名も力作です。地域の皆さまには、来年も是非発表を聞きに来ていただきたいと思います」

 

久保田テツ先生

「3名の発表を終えてみると、意図したわけではなく『多様性』という共通のテーマが見えてきました。そして、こうして地域の方々に聞いていただき、鋭い質問をいただくことで彼らの学びが完成したように思います。

ミュージックコミュニケーション専攻では、大学の中に閉じずに、外の世界とどのように関わっていくのかをいつも考えています。そのためにはこうして開かれた場で、音楽を言葉で伝えていくということが大切だと再認識しました」

 

左から西村先生、久保田先生、小島先生。

左から西村先生、久保田先生、小島先生。

 

奇しくも新型コロナウイルスの影響で、人と人とのかかわりや文化活動が停滞してしまっている。そんな中、学生たちの卒業論文をとおして多様な人と音楽のあり方に思いを巡らせることができたのは、とても心に残る体験だった。あなたのまわりの大学生がどんなことを考え、どんな研究をしているのか、機会があれば少し覗いてみてはいかがだろうか?

夜空に異変! ベテルギウスが超新星爆発? 京都産業大・神山天文台で聞いてみた。

2020年3月12日 / 大学の知をのぞく, この研究がスゴい!

2019年の秋、天文ファンを賑わすあるニュースが報じられました。冬の星座の代表オリオン座、そして冬の大三角のひとつとして夜空に赤く光り輝く「ベテルギウス」が、どんどん暗くなっているというのです。年が明けてもベテルギウスは暗くなりつづけ、「超新星爆発」の兆しではないかと世間を賑わせました。

 

いったいどれだけすごいことなのか? 超新星爆発でどんなことが起こるのか? オリオン座はどうなってしまうのか……? 気になることがたくさんあるので、国内の私立大学で最大の望遠鏡をもつ京都産業大学・神山天文台を訪ね、台長の河北秀世先生(理学部宇宙物理・気象学科教授)にお話を伺いました。

 (以前に神山天文台を取材した記事はこちら。)

オリオン座で明るく輝く赤い星がベテルギウス(画面左)。

オリオン座で明るく輝く赤い星がベテルギウス(画面左)。

 

天文学者は超新星爆発を待ち焦がれている

――先生、「ベテルギウスがどんどん暗くなっている」というニュースですが、現在(2020年3月2日)はどうなっているのでしょうか。


ベテルギウスについてはさまざまな人が観測を続けています。観測結果のグラフを見ると、2月の中旬頃に最も暗くなり、現在はまた徐々に明るさを取り戻しつつあるように見えます。

 

――そうなんですね。では、ニュースで話題になった超新星爆発は起こらないのですか?

 

超新星爆発の直前に何が起こるのか、天文学者もはっきりとはわかっていません。今回の減光現象が超新星爆発の兆候ではないか? と期待した天文学者も多かったかもしれませんが、どうやら、すぐにそれが起こるというわけではなさそうですね。

 

ただ、ベテルギウスが超新星爆発をいつ起こしても不思議ではない老いた星であることは確かです。もし超新星爆発に至る過程を観察できたならば、これは天文学史上初のすごい成果です。だから、今回は可能性は少なそうですが、天文学者たちは期待を胸にベテルギウスに注目しているのです。

誰も見たことのない現象なので、これからどうなるのか専門家であっても断言はできない。

誰も見たことのない現象なので、これからどうなるのか専門家であっても断言はできない。

 

ベテルギウスの明るさが変わるのは何故?

――超新星爆発についてはあとで伺うとして、そもそも、ベテルギウスはなぜ明るさが変わるのでしょうか?

 

ベテルギウスは今回突然に暗くなったわけではなく、もともと明るさが変わる星(変光星)として知られています。明るさが変動する複数の周期の存在が知られていて、明るさの変化がもっとも顕著な周期の減光時期に、別の周期の減光時期が重なったため、今回特に暗くなったのではないかと考えられます。

 

実際になぜ暗くなったのか、その理由ははっきりとはわかっていませんが、観測から推測できることもあります。ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)で撮影された2019年1月と12月の写真を見ていただくと、12月のベテルギウスは写真の下半分が暗くなっているように見えます。

超大型望遠鏡がとらえた2019年1月と12月のベテルギウス credit:ESO/M.  Montargès et al.

超大型望遠鏡がとらえた2019年1月と12月のベテルギウス。credit:ESO/M. Montargès et al.

 

こう見える理由はいくつか考えられます。ひとつは、ベテルギウスはブヨンブヨンした不安定な状態にあるので、星表面の温度が部分的に下がってしまい、星から発する光自体が少なくなっているため。もうひとつは、ベテルギウスから漏れ出したガスに由来する塵のようなもの(ダスト)に下半分だけが覆われて光が遮られているためです。

 

そこで、赤外線観測によって明るさを調べてみると、目に見える可視光線では暗くなっていたベテルギウスも、赤外線ではあまり暗くなっておらず、温度が下がって暗くなったのではなさそうです。そうすると、これはどうやらダストが原因ではないかと考えられます。可視光線と違って、赤外線の光はダストに邪魔されずに通過する性質が強いのです。

 

しかしなぜ今、ここまで暗くなるほどにダストに覆われているのかという原因までは分かっていません。超新星爆発の前兆を観測した人はいないので、今回の現象がそうであるともそうでないとも、現在の研究では断言はできないのです。少なくともすぐに爆発しそうな様子には見えませんが。

 

――観測からいろいろなことがわかるのですね。

 

ベテルギウスはシャボン玉のような星?

――しかし、「ブヨンブヨン」というのが聞き逃せません。星というと、きれいな丸い形をしているのでは?

 

意外かもしれませんが、ベテルギウスのように老いた星は、ちょうどシャボン玉のように不安定な存在です。

 

では、そもそも恒星(太陽のように自ら光る星)がなぜ丸いのかご説明しましょうか。恒星はご存知のとおり、水素などのガスの巨大な塊です。物質には万有引力があるので、宇宙空間を漂うガスは互いに引き寄せあい、中心へ、中心へと落ちるようにして圧力と温度を高めてゆきます。そうすると水素原子同士がくっついてより重いヘリウムになる、水素核融合反応が起こります。このときに莫大なエネルギーが発せられるのです。このエネルギーが、核融合反応が活発な中心部から外側へ向けてガスを押し返す力になります。ガスが中心に向かって落ちる力と、外に押し返すエネルギーが拮抗することで、星は丸い形を保っているのです。こうした安定状態にある星を主系列星とよびます。

 

一方、核融合から発生したエネルギーのほぼ半分は熱や光として宇宙に逃げていくので、星は常に「冷め」つづけているともいえます。私たちが星の輝きとして見ているのはその逃げた光で、いわば星が形を保つための副産物として宇宙に捨てているエネルギーなんですね。

重力と核融合のエネルギーのバランスで主系列星は形を保っている。(イメージ図:筆者作成)

 

――すると星の光は、例えるならば私たちがかく汗のようなものでしょうか。

その星が老いるというのはどういう状態なのですか?

 

恒星は絶えず核融合を続けていますが、燃料となるガスには限りがあります。中心部に水素が潤沢にある間は安定的に核融合を続けることができますが、やがて水素が尽きるとヘリウムの反応が始まり、ヘリウムがなくなると炭素や酸素、というふうに「点いたり消えたり」の状態になります。中心部には核融合を繰り返した重い元素が溜まっていって、それ以上核融合が起こりづらくなっていきます。すると周縁部のまだガスが残っている部分で核融合が起こり、重力と外へ押し出す力のバランスがくずれて恒星は膨張していきます。非常に不安定な状態なので、ガスが漏れ出して塵を発生させたり、きれいな球形を維持できずにブヨブヨと歪んだりするのです。また、星の表面温度は低くなるため、光は赤く見えます。これが年老いた星、赤色巨星とよばれる状態です。

 

夜空で赤い星を見かけたら、その星は年老いた星である可能性が高いのです。ベテルギウスもまさにこの状態です(ベテルギウスのような巨大な星は、赤色超巨星とよばれます)。

 

――人間も年を重ねるといろいろな不調が起きますが、星も同じなんですね……。

 

超新星爆発は老いた星の最期の光

――年老いた星は恒星はその後どうなるのでしょうか?

 

形を維持できなくなって、ガスが中心に向かってグシャッっと落ち込み、中心付近に非常に密度の高い部分ができます。さらに、星の中心に向かって周囲からガスが落ちてきて衝突し、衝撃波が発生します。この衝撃波によって外側のガスが飛び散ることで、超新星爆発が起こると考えられています。そして、爆発の後、星の中心には中性子星やブラックホールといったものすごく密度の高い天体が残ります。

 

――ついに来ましたね。超新星爆発が起こると、地球上ではどんなことが起こるのでしょうか?

 

超新星爆発が起こると、数時間から数日の間に劇的に状態が変化していくと考えられます。当然、昼間は観測できませんから、世界中の観測所が協力してリレーのように持ち回りで観測することになります。それに加えて日本でベテルギウスを見られる季節は限られているので、夏に爆発したら日本からは観測できません。

 

地球にはまず光が届きますね。昼間でも見えるぐらいに星が眩しく光り輝きます。それから目に見える可視光線以外の電磁波(紫外線や赤外線など)も届くと思われますが、人体に影響のあるレベルにはならないと考えられています。超新星爆発によるガスも徐々に減速して太陽系まではほとんど届かないですし、太陽の勢力圏では簡単にはガスは入ってきません。太陽から地球が受ける猛烈な光や電磁波などに比べれば、それを上回る影響があるとは考えづらいというところです。

 

――どうやら生活には影響がなさそうで安心しました。

参考:NASAの人工衛星チャンドラが捉えた超新星1987A。 Credit: X-ray: NASA/CXC/SAO/PSU/D. Burrows et al.; Optical: NASA/STScI; Millimeter: NRAO/AUI/NSF

参考:NASAの人工衛星チャンドラが捉えた超新星1987A。
Credit: X-ray: NASA/CXC/SAO/PSU/D. Burrows et al.; Optical: NASA/STScI; Millimeter: NRAO/AUI/NSF

 

人類はこれまでも「超新星」を見上げてきた

そもそも、「超新星」は人類史上今までに何度も観測されています。1000年単位で見てみると何度か観測された記録が残っています。日本では「明月記」(編注:鎌倉時代の公家である藤原定家の日記。当時の天文現象についても記録されている)が有名ですね。

 

ただ、歴史上観測された新星、あるいは超新星は、それまで星図に載っていなかった星が突然現れたという現象です。それだけ遠くにあって、普段は観測できなかったということでしょう。私たちの太陽系の近くの星が超新星爆発を起こす確率は相当低いです。ベテルギウスが超新星爆発をしたなら、人類史上初めて、目に見える星の爆発を観測できることになるでしょうね。

 

参考:新星の名付け親ティコ・ブラーエによる、1572年に現れた超新星を記録した星図。 一番上の大きな星が超新星(SN1572)。  出展:wikimedia commons

参考:新星の名付け親ティコ・ブラーエによる、1572年に現れた超新星を記録した星図。一番上の大きな星が超新星(SN1572)。出典:wikimedia commons

 

――素朴な疑問なのですが、星の最期なのに「新」という字がつくのは何故でしょうか。

 

先ほども触れましたが、ルネサンスの頃に空に突然すごく明るい星が現れて、それを見た人たちは、「星というのは永遠不滅のものではないんだ」と理解したわけですね。当時の人はその現象を新しい星(stella nova)が生まれたと解釈して「新星(nova)」と名付けました。さらに研究していくと新星の中でも比較的暗いものと、特に明るいものがあるということが分かってきて、明るいものを「supernova(超新星)」と名付けたんです。

 

なので、「新」という字を使ってはいますが、字の意味と実際起こっていることは全然違います。さらにややこしいことに、超新星爆発は必ずしも単独の星の崩壊で起こるわけではありません。比較的小さな星の燃えかす(白色矮星)に近くの星からガスが吸い寄せられて、一定以上の質量に達することで起こることも知られています。

 

――仕組みが異なる現象でも、同じ名前で呼ばれることがあるのですね。意外です。

 

天文現象は見た目から名付けられる場合が多いです。発見された時は同じような見た目の現象であっても、詳しく調べていく中で全く違う現象だったと分かることもありますが、最初は見た目で分類することしかできないんですね。たとえば私は彗星の研究をしていますが、「彗星」と「小惑星」も、簡単に言ってしまえばしっぽがあるかないかといういわば「見た目」の違いなんですよ。

 

――納得です! 昔は「新しい星」だったものが今は「恒星の最期の光」と考えられているのと同じように、今知られている現象でも本当の姿がわかるのはずっと未来のことかもしれませんね。お話をお聞きして、壮大な天文学の世界を少し身近に感じられました。

 

天文学は、人間の一生をはるかに超えるスケールの大きな時間の中で起こる現象を扱います。その中で、数年とか数か月の単位で様子が変わるベテルギウスは、宇宙で起こっているダイナミックでビビッドな変化を体感させてくれる存在です。

 

夜空を見上げると、これからは徐々に明るくなっていくベテルギウスを肉眼で観察できるでしょう。特別な機材は必要ありません。春になると観察が難しくなってしまいますが、今晩のベテルギウスを覚えておいて、また次の冬に明るくなった姿を確かめてみてはいかがでしょうか。

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