ほとんど0円大学 おとなも大学を使っっちゃおう

立教大学で細野晴臣氏の“ずっと好き”を巡る。懐かしい記憶にそっと触れた企画展「細野さんと晴臣くん」

2025年8月28日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

音楽家・細野晴臣氏の活動55周年プロジェクト「HOSONO MANDALA」の第1弾として企画された展覧会「細野さんと晴臣くん」が、立教大学池袋キャンパス内の洋館「ライフスナイダー館」で開催されました(6月30日で終了)。多くの“細野ファン”で賑わっていた展覧会の様子をお届けします。

細野氏の音楽活動の原点、立教大学が舞台

音楽ファンに限らず国内外に広く知られ、日本を代表する音楽家の一人、細野晴臣氏。1969年に「エイプリル・フール」でデビューし、翌年、日本語ロックの礎を築いた伝説のバンド「はっぴいえんど」を大瀧詠一氏、松本隆氏、鈴木茂氏と結成。その後1978年に、坂本龍一氏、高橋幸宏氏と結成したテクノバンド「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」は今なお多くのミュージシャンに影響を与えています。

 

YMO 散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカといった音楽ジャンルを探求する一方で、ソロやユニットはもとより、作曲・プロデュースなど多岐にわたる活動を継続中。昨年2024年に音楽活動55周年を迎え、同氏の軌跡と進行形の活動を伝えるプロジェクト「HOSONO MANDALA」の第1弾として企画されたのが今回の展覧会です。

赤レンガ造りの建物と、現代的な美しい建物が調和する池袋キャンパス。手前にあるのは「細野さんと晴臣くん」の看板

 

「細野氏の音楽活動の原点である本学での企画展開催を望むお声をいただき、本学院と細野氏のマネジメント会社との共催により実現しました」と話すのは、立教学院企画部企画室室長の佐々木静さん。細野氏は立教高等学校・立教大学の出身で、そこで出会った盟友たちと結成したバンドから音楽活動が始まっています。

 

会場となったのは、池袋キャンパス内のライフスナイダー館。蔦に覆われた趣ある佇まいの同館前に設置されたポップな黄色い看板が展覧会へと誘ってくれます。

ライフスナイダー館。展覧会の企画編集・デザインを手掛けた三澤遥氏(日本デザインセンター三澤デザイン研究室)が視察の際、この建物を会場にすることを即決したそう

 

ライフスナイダー館を会場とした今回の展覧会では、館の雰囲気を活かした内装や照明をはじめ、細部にまで心を配った演出が光っていました

映画・音楽・漫画で紡ぐ細野氏の“ずっと好き”

展覧会は、映画、音楽、漫画など4つのテーマで展開され、細野氏の“ずっと好き”でいる作品や、学生時代のノートの落書きなどを展示。【昔の晴臣くん】と【今の細野さん】が時空をこえて語り合う「Dialogue(ダイアログ:対話)」を通した構成が見どころです。

 

最初のテーマは「Dialogue1_映画と晴臣くん」。西部劇や時代劇、喜劇など、画面の向こうの未知の世界に胸を躍らせたであろう【昔の晴臣くん】が観た映画のVHSビデオテープやDVDなどを展示。ジャズ音楽映画の名作で、ダニー・ケイが主演した『5つの銅貨』のDVD横には【今の細野さん】のこんな言葉が。

 

“びっくりするかもしれないけど 子どものころ見てたダニーケイショーの火星歩行とか 70を過ぎてもずーっとやってるんだよ ずーっと続いちゃうんだよね どうしても”

 

「ずーっと続いちゃう」――この一言に、身体が覚えている記憶、心に沁み込んだ感覚が滲んでいるよう。

細野氏の言葉が会話口調のまま添えられ、まるで細野氏が隣で語っているような感覚に

 

続いてのテーマは「Dialogue2_音楽と晴臣くん」。音楽との濃厚な時間が流れた高校から大学時代、細野氏はなかでも1960年代の社会活動に影響を与えた米国のシンガーソングライターのボブ・ディランに熱狂。学生時代に描いたボブ・ディランのイラストの他に、細野氏が集めたSP(レコード)なども紹介されて、当時の憧れと感受性がそのまま封じ込められているようでした。音楽だけでなく、人としても強く影響を受けたことが【今の細野さん】の言葉からうかがえます。

 

“僕 こんなにディラン描いてたんだ 世界が変わってきたんだよ このころから その象徴がボブ・ディランだった”

ノートと共に立教高校時代の定期券や音楽部の部員証も展示。「母親が全部捨てなかったから、こんなことになっちゃった。家系ですね。僕も捨てられないんで」(レセプションパーティーでの細野氏のコメント)

 

細野氏は漫画とも深い関わりがありました。「Dialogue3_漫画と晴臣くん」では、高校時代に得意で描いていたイラストや漫画をはじめ、夢中になったギャグ漫画やSF漫画が揃い、なかには大ヒットした映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の原作漫画『三丁目の夕日 夕焼けの詩』(作:西岸良平)も。なぜ西岸氏の漫画があるかというと……

 

“高校生のとき隣の席にいたのが 将来 三丁目の夕日を描くことになる 西岸良平だった 同じように漫画が好きで その子が隣で描いて続きを僕が描くっていう風にして 忍者漫画を交換して描いてたんだ”

 

“僕より漫画が上手い人がいるから あーもう僕は漫画できないなって やめちゃった 音楽一辺倒になっちゃった”

 

可愛らしいエピソードに、思わずクスっと笑ってしまいました。細野氏の軽やかさとユーモアが絶妙にブレンドされた音楽の源泉を垣間見るようでした。

細野氏と西岸氏の共作による忍者漫画

 

最後に鑑賞した「Dialogue4_晴臣くんと細野さん」では、【昔の晴臣くん】がノートに描いた面白可笑しいキャラクター「オッサン」を立体化したものが展示されていて、ノートから飛び出した「オッサン」のなんとも言えない愛嬌につい見入ってしまいました。その横に添えられた【今の細野さん】の言葉がこちら。

 

“小さなころに好きになったものは ぜんぶ自分がつくろうとするものに集約されるね これやったらウケるとかじゃなくて 自分の中からよろこびがあふれ出てくるような感じ ほら いい音楽を聴くと背筋がぞぞぞっと総毛立つでしょ 若いことほどそういう感受性が強かったのは覚えてるんだよ 今はもうなかなかないんだけど そういう衝撃や感覚はなくしたくないし いまだにどっかに持ちつづけてるんだろうなって思う ぜんぶ音楽をつくる動機として活きているからね”

 

好きなものと出合ったときの感覚はいくつになっても創作のエンジンにあるという細野氏の言葉は、クリエイティブな活動に生きる人への静かな励ましのようにも感じました。

シュールで愛らしい「オッサン」はグッズ化され、会期中限定のショップでも販売されていたようです

 

テーブルの中で細野さんが歌ってる♪

展覧会では3つの体験型のインスタレーション展示もあり、来場者が思い思いに楽しんでいる様子が印象的でした。なかでも、テーブルに耳を添えると、中から静かに歌う細野さんの歌声が聴こえる「Ear Here」が人気で、筆者も早速体験。無機質なテーブルから歌声が立ち上がる不思議な体験はどこか懐かしく、心にそっと触れてくるようでした。

一方、箱のフタを開けると高校時代の細野氏のバンド「オックス・ドライヴァーズ」の音源が流れるインスタレーション「Family Jamboree」は、長年のファンにはもちろん、細野氏を詳しく知らない人にとっても楽しい展示でした。

「Ear Here」を体験する細野氏

 

会場で配布されたリーフレットに、細野氏の耳を描いたイラストが。「Ear Here」でテーブルに直接、耳をあてることに抵抗を感じる人も、リーフレットを敷いて聞くことができる楽しいギミック

 

「Family Jamboree」。流れてくるのは高校時代の細野氏のバンド「オックス・ドライヴァーズ」が音楽フェスティバル「ファミリージャンボリー」に参加した際の演奏。本邦初公開だったそう!

 

まるで細野氏自身の記憶の中をそっと歩いているような、不思議で温かい体験。決して派手ではないのに、どこか懐かしさとユーモアに満ちていて、心にじんわりと残る展覧会でした。

 

*参考情報

立教大学ホームページでは、若き日の細野晴臣氏に迫る、立教時代を特集した記事を公開中。併せてご覧ください。

出会いを重ねた立教時代 音楽をめぐる旅は続く

音楽という“自由研究 „ に没頭した立教時代—— 変幻自在な旅の始まり

 

戦後80年、演劇で描かれた戦争を早稲田大学演劇博物館企画展「演劇は戦争体験を語り得るのか」で見る

2025年7月22日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

古今東西の貴重な演劇資料を100万点以上所蔵し、世界トップレベルの演劇専門総合博物館として知られる早稲田大学演劇博物館(通称「演博」=エンパク)。現在、企画展「演劇は戦争体験を語り得るのか――戦後 80 年の日本の演劇から――」が開催されています。日本が戦後80年の節目を迎える今年、「戦争という悲惨な現実を前に、はたして芸術に何ができるのか」という展示案内にひかれ、訪れました。

演劇は戦争とどう向き合ってきたか

20代・30代の若手研究者によって企画されたという本展。今回は、企画の発案者で同館助手の近藤つぐみさんにお話を伺いました。

お話を伺った近藤つぐみさん。早稲田大学大学院文学研究科(演劇映像学コース)で、戦後ヨーロッパのバレエ・ダンスについて研究している

 

近藤さんは以前、文化庁や舞台芸術界と連携して舞台芸術支援事業を行う団体(一般社団法人EPAD)に所属。業務を通じて相当な数の演劇の舞台映像を見たなかで、戦争劇は観客を劇世界に引き込む力が強く、心に引っかかるものがあったといいます。舞台の外側で今、現実に起きていることにも意識を向けさせる力があると感じた近藤さんは、今なお世界で戦争や紛争が続く現状や、日本が戦後80年を迎えることもふまえて『演劇と戦争』をテーマにしたいと、近藤さんと同じく早稲田大学大学院で研究する矢内有紗さんと関根遼さんとともに展示を企画しました。

 

「矢内さんはアングラ演劇が専門で、関根さんは2000年代以降に登場した新たな演劇形式を中心に研究しています。それぞれの専門分野や考えを基に、日本の演劇において戦争がどのように捉えられ表象されてきたかを紹介するとともに、演劇をはじめ芸術に何ができるのか、普遍的な問いを考える糸口になるような展示をめざしました」

 

近藤さんとともに展示を案内してくれた同館学芸員の原田真澄さんはこう続けます。「今回のように若手研究者が『戦争』をテーマの一つに取り上げること自体、非常に意義があると思っています。エンパクのこうした取り組みが10年後、20年後、そして100年後に、日本の演劇界や劇作家が戦争とどう向き合ってきたかを紡ぐ一端になればうれしいですね」

戦争とは何か――41のセリフの問いかけ

本展は「戦争と演劇の関わり」をテーマにしたプロローグに始まり、第1章から第5章までの構成となっています。作品の公演ポスターやチラシ、台本、戯曲原稿、舞台美術模型、さらには舞台映像などの展示資料を通じて、作品における戦争へのまなざしを垣間見ることができます。

 

筆者が圧倒された展示が、大判パネルに印字された劇中のセリフの数々。第1章~5章にかけて41のセリフが展開されています。

 

 

(三島由紀夫『弱法師』『三島由紀夫全集 決定版23』新潮社、2002年)

 

 

上は『弱法師(よろぼし)』の主人公・俊徳の独白セリフです。俊徳は幼い頃に戦争で視力を失い、以来「この世のをはり=戦争の焔」を見続けているという比喩的な言葉が用いられているのだとか。

 

『弱法師』が発表されたのは1960年代で、日本は高度経済成長期に入り豊かさを享受する一方、戦争の記憶は急速に風化しつつあった時代でもあります。このセリフから感じる力強い訴えのようなものには、そうした日本人に警鐘を鳴らす意味も込められていたかもしれないと思いました。こうしたセリフを読むと、戦争は終わらない問いなのだと感じます。

第1章「『当事者世代』の戦争演劇」のセリフ*。「関心をもったセリフをきっかけに、作品のアーカイブ映像の視聴やリアルな観劇体験につながると嬉しい」と近藤さん
*戯曲の出典は展示会場で配布される展示リストに記載

 

中には戦争と時代の波に翻弄される女性の人生を描いた『女の一生』(作:森本薫)初演時の台本など、貴重な資料も。同作品は文学座の看板女優だった杉村春子の代表作としても有名です。

「展示している台本は1945年の初演時のもので、現存する唯一のもの。戦後上演された際の台本は幾度か改訂が重ねられているため、そうした意味でも大変貴重です」と原田さん。

 

下の写真は原爆が後世に残した身体的・精神的な傷跡を生々しく描き出した別役実の初期の代表作『象』の自筆原稿。作家の筆跡から創作の「生の息づかい」が感じられるのが魅力です。

別役実『象』自筆原稿(初演:1962年、演出:鈴木忠志)

 

「本展の目玉の一つ」と近藤さんが言う展示品が、野田秀樹氏率いるNODA・MAP『パンドラの鐘』の舞台美術模型。原爆投下をテーマとした作品で、その存在感には思わず目が引きこまれます。

堀尾幸男舞台美術模型  作・演出:野田秀樹 『パンドラの鐘』NODA・MAP 第7回公演(1999年) 制作・所蔵:堀尾幸男 協力:「堀尾幸男 舞台美術の記憶」事務局

 

日常の背後に透けて見える戦争

本展では従来の枠を越えた戦争劇作品が取り上げられている点にも注目です。例えば、第3章「『焼け跡世代』の演劇人と戦争の影」。アングラ演劇の旗手として知られた唐十郎の戯曲『少女仮面』の劇中に次のセリフがあります。

(唐十郎『少女仮面』 『唐十郎全作品集 第2巻 戯曲Ⅱ』冬樹社、1979年)

 

 

「『少女仮面』は直接的な戦争劇ではありませんが、このセリフによって戦争の記憶が呼び覚まされる――。アングラ演劇の劇作家らは、戦中に幼少期を過ごした焼け跡世代が多く、作品の前面に出るテーマが戦争でなくとも、戦争の影響を間接的に感じさせる要素が盛り込まれているのが特徴です」と近藤さんは解説してくれました。

 

一方、第4章「さまざまな視点から見た戦争」では、日本が支配下においた朝鮮などの外地や戦時下における国内など、さまざまな立場から戦争を描いた作品資料がならびます。

「日本は戦争の被害者であり加害者。この重要な側面も伝えられたらと思いました」と近藤さん。

 

この章で紹介されているのが、新たな演劇形式のツアーパフォーマンス『サンシャイン62』(構成・演出:高山明/Port B)の作品概要です。『サンシャイン62』は戦犯が収容された巣鴨プリズン跡地の高層ビル・サンシャイン60を中心に、参加者が日本の戦後をたどる「時のツアー」。ツアー中に起こる体験そのものが演劇作品だといいます。従来なら戦争劇として取り上げられない作品ですが、戦後と「今」の交錯を観客に体験させる試みといえそうです。

「語り得るのか」――現在形の問いに込めた思い

沖縄は米軍基地問題など、戦争から地続きの問題を現在も抱えています。最終章のテーマは「沖縄と終わらない戦争」。沖縄戦や米軍基地問題を題材とした作品は近年でも数多くつくられているといいます。沖縄戦に着想を得た『cocoon』(原作:今日マチ子、製作・公演:藤田貴大、マームとジプシー)や、沖縄の現状に真正面から切り込んだ『ライカムで待っとく』(作:兼島拓也)など、高い評価を得た作品のセリフや公演ポスターなどが紹介されていました。

『ライカムで待っとく』の劇中セリフ *戯曲の出典は展示会場で配布される展示リストに記載

作:兼島拓也・演出:田中麻衣子 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ライカムで待っとく』公演ポスター(2022年)/宣伝イラスト:岡田みそ/宣伝美術:吉岡秀典

沖縄の舞台制作事務所エーシーオー沖縄による『洞窟(ガマ)』『島口説』『カタブイ、1972、1995』などの公演写真。エーシーオー沖縄について「役者さんの力がとにかくすごい!」と近藤さん

 

企画展タイトルの「演劇は戦争体験を語り得るのか」という進行形の問い掛けについて近藤さんはこう話します。「本展では、『語り得たのか』という過去形で終わらせたくありませんでした。米軍基地問題しかり、世界で戦争や紛争は『続いて』います。そうしたなかで、演劇に携わる人だけでなく、観客側も戦争を前に芸術に何ができるのかを考えていけたらという思いを込めました」

 

41のセリフを中心に、さまざまな角度で切り取られた作品資料を通じて、戦争を「再現する」のではなく「どう語り継ぐか」を模索し続ける劇作家や舞台関係者の姿が浮かび上がるようでした。また、戦争と私たちの未来について、あらためて向き合うきっかけとなる時間でした。本展は8月3日(日)までの開催です。ぜひ足を運んでみてください。

 

なお、以下のリンクから本展の展示資料の作品解説が閲覧できます。作品概要が簡潔にまとめられているので、読んでから鑑賞に臨むとより深い理解につながるはずです。

「演劇は戦争体験を語り得るのか——戦後80年の⽇本の演劇から——」作品解説集

日本大学生物資源科学部の「骨の博物館」で、骨の多様性と進化を体験!

2025年7月17日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

生命科学や環境科学を扱う11学科を擁する日本大学の生物資源科学部。同学部は、多様な骨格標本を収蔵・展示する「骨の博物館」を併設しており、2019年に「骨の多様性と進化」をテーマとした公開施設にリニューアルして以来、地域内外から幅広い世代の人が訪れているのだそう。2025年3月28日に、神奈川県内の大学博物館初の「登録博物館」に指定された同館の魅力に迫るべく取材に行ってきました。

資料室から資料館、博物館へ昇格

「骨の博物館」は、神奈川県藤沢市の日本大学湘南キャンパス内にあります。小田急江ノ島線の「六会日大前(むつあいにちだいまえ)」駅が最寄り駅で、西口の歩道橋を降りて線路沿いに歩くと約3分で正門に到着。正門をくぐり、すぐ左手に見えてくるのが同館です。

自然豊かな環境が広がる湘南キャンパス。「骨の博物館」周辺も緑があふれています

 

生物資源科学部の前身は農獣医学部で、その資料室が資料館として発展し、1996年の「生物資源科学部」への改組を機に同学部の付属博物館に。2019年に「骨の多様性と進化」をテーマとした公開施設にリニューアルした際、現在の「骨の博物館」の呼称がつけられました。

 

「『骨の博物館』は通称で、正式名称は『日本大学生物資源科学部博物館』といいます。現在も獣医学科があり、卒業生の縁で全国の動物園や水族館で亡くなった動物の寄贈を受ける機会もあります。骨格標本・剥製が展示の中心になりますが、それに限らず、生物資源に関わる幅広い資料も紹介しており、小学生向けの夏休み宿題相談会なども行っています」と話すのは同館学芸員の田中雅宏さん。今回、こちらの田中さんに館内を案内していただきました。

「骨の博物館」学芸員の田中雅宏さん

骨格標本や剥製など約400点を展示

同館は1階から3階まであり、約400点の資料が展示されています。1階フロアは「陸・空・海」のゾーンに分かれ、哺乳類から鳥類や爬虫類、両生類、魚類まで実に多様な脊椎動物の骨格標本や剥製がぎっしりと並びます。続いて2階フロアでは、家畜と、犬や猫といった伴侶動物の骨格標本や剥製を展示。3階フロアには膨大な昆虫標本の他に、稲の栽培の起源や農機具・漁具の歴史を遡ることができる貴重な資料も紹介されています。

 

それでは、鑑賞した中から筆者的見どころをピックアップして紹介します。

迫力満点! 大型動物の骨格標本は必見

1階フロアでまず目を奪われたのが大型動物の骨格標本。アフリカゾウやキリン、シロサイなどの骨格標本が今にも動き出しそうなポージングで展示されています。大型動物の大きさや迫力を間近で体感することは滅多にできないため、それだけでも貴重な体験に。

アフリカゾウの骨格標本

 

圧巻は、「海」ゾーンに紹介されたクロミンククジラの骨格標本です。巨大さにただ圧倒される一方で、海をしなやかに優雅に泳ぐ姿を想像させる流線型の骨格に美しさを感じます。

クロミンククジラの骨格標本

 

「クロミンククジラは、退化した後ろ足(後肢)を支えていた骨盤の名残りが、痕跡として体内に残っているんですよ」と田中さん。

腹部内部の骨格標本の一部。写真中央の「対になった骨」が骨盤の痕跡です

 

ご存知でしたか、クジラの先祖は陸上を四足歩行する哺乳類だったことを。現在のような水中生活に適応するために体の形や器官がさまざまに変化していったのだといいます。動物の進化を物語る骨の奥深さを実感しました。

「骨格標本×剥製」のハイブリッド展示

続いての見どころは、「骨格標本×剥製」のハイブリッド展示です。例えば、「陸」ゾーンでは、ホワイトタイガー(ベンガルトラの白変種)やオランウータン、シロテナガザルなどが同じ個体から製作された骨格標本と剥製を並べて紹介されています。骨と外見を比較しながら動物の構造や特徴を捉えることができ、思わず引き込まれる展示でした。

ホワイトタイガーの骨格標本と剥製

 

ホワイトタイガーの骨格標本の前で、田中さんが頭の骨を指さしながら「これは骨粗しょう症の跡なんですよ」と教えてくれました。よく見ると、骨がスカスカになっているではないですか!東武動物公園から寄贈を受けたホワイトタイガーで、老衰で亡くなったときは国内最高齢の20歳、人間の年齢で100歳超(!)だったとか。人間と同様、動物も加齢に伴い骨密度が低下していくんですね……。

骨密度が低下した痕がわかるホワイトタイガーの頭骨

ウシ、ブタ、ウマなど「家畜」の骨格標本に注目

2階フロアの展示室に入ると、ウシやブタ、ヒツジの骨格標本やその他家畜の剥製も並びます。博物館で家畜の骨格標本が豊富に揃うのは珍しいそうで、ここにも注目です。

 

ウシやブタについては特に、それぞれの太くがっしりとした骨格を前にすると、普段「食」として接している動物が新たな視点で見えてくるようでした。「ブタの祖先はイノシシです。胴が比較的短いですが、そこから現在のブタのように胴が長い体形に進化したのは、食肉として効率よく肉を得るために人の手で品種改良されたからです」と田中さん。あらためてブタの骨格標本を見ると、肋骨の数が多く背骨が長く伸びています。

ブタの骨格標本(左)とイノシシの剥製(右手前)、骨格標本(右手後)

 

また、古くから家畜化され、人とともに長い歴史を歩んできたウマの骨格標本の展示も。日本在来馬の木曽馬については剥製も一緒に並びます。木曽馬は胴長短足で小柄ですが山間部で飼育されていたため足腰が強く、頑強。がっしりと骨太な体格がよくわかります。一方で、西洋から持ち込まれた競走用のサラブレットの骨格標本も木曽馬の横に紹介があり、骨が細く、脚が長いのが印象的でした。それぞれの役割に応じた骨格の違いが興味深いです。

木曽馬の骨格標本と剥製。この馬はかつて長野県の泉谷神社の神馬(しんめ)だったそう

サラブレットの骨格標本2体

シロシュモクザメの特殊な繁殖様式を知る

最後におすすめするのは、シロシュモクザメとその子ども(仔魚)の標本です(1階フロア「海」ゾーン)。ハンマー状の頭部が特長のシロシュモクザメは、卵黄嚢(妊娠初期に子どもに栄養を与える器官)から「偽胎盤」を形成し、それを通じてある程度子どもを成長させてから出産するのだそう。ちなみに「偽胎盤」は、子どもの組織からできて母親とつながるのだといいます。繁殖様式が多様なサメの中でも珍しい様式なのだそう。後日調べると、外敵の多い海の中で生存率を高めるために、ある程度成長した状態まで育てて産むという繁殖様式に進化したと考えられているのだそうです。

 

また、組織を合成樹脂に置換・飽和させるプラスティネーションという処理法で製作した子どものシロシュモクザメの標本が展示されており、こちらはなかなかお目にかかれないものだそうで、非常に印象的でした。

シロシュモクザメの標本

シロシュモクザメの子どもの標本。ひも状の先端のまとまった部分が偽胎盤

 

前知識がなくても「形」や「仕組み」に注目することで、骨格標本や剥製は十分に楽しめると思います。「ヒトも脊椎動物です。自分と動物たちの骨格がどう違うかを見比べながら鑑賞するのもおもしろいです」と田中さん。普段目にすることのない多様な脊椎動物の骨格を間近で見る体験は新鮮で驚きの連続でした。


ここでは紹介しきれなかった鳥類や両生類、爬虫類などの骨格標本・剥製も豊富に揃い、見応えのあるスポットです。ぜひこの夏、骨の多様性と進化を体験できる「骨の博物館」に出かけてみませんか。

”心地よい空間”×”美味しい学食”、千葉商科大学「The University DINING」

2025年7月1日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

2015年の開設以来、“おしゃれすぎる学食”として知られる千葉商科大学の「The University DINING」。総合的にデザインされた魅力的な建物であるとともに、オリジナリティあふれる“食”も多彩に取り揃うとか。気になる同学食に行ってきました!

 

とびきり心地よい空間

千葉商科大学は、JR総武線「市川駅」や京成線「国府台駅」、北総線「矢切駅」などが最寄り駅として利用できます。この日は、「市川駅」から歩いて向かい、約20分で自然に囲まれた静かな場所に立地する同大学に到着しました。

千葉商科大学の正門

 

正門から入るとすぐ左手に見えるのが「The University DINING」です。これまでの学食のあり方を一新した、“学生の創造欲を刺激する学食、地域の文化・情報のハブとなる学食”というコンセプトのもと、学食企画・建築デザインを手掛けた建築家ユニットのシーラカンスK&H株式会社をはじめ、日本を代表するクリエイターたちの手によって、建築デザインから内装、家具、サイネージなどに至るまで総合的にデザインされた新しい学食が誕生したのだそう。

 

平屋建てのスタイリッシュな外観で、外周壁はガラス張りになっていて開放感があふれています。

ロゴマークは、食堂とひと目で分かるようにそれ自体がピクトグラムになっているのだそう

建物を囲うように設置されたテラス席

 

室内に入ると、天井を覆う幾層もの木の梁が、ナチュラルで温かな雰囲気を演出しています。その天井を介して届く柔らかなライトの光と、窓から差し込む太陽光も相まって、まるでリビングのようなくつろぎ空間に。驚くほどの心地よさがあります。

 

また、国内外で幅広く活躍するLINE-INC.によるインテリアデザインも秀逸。例えば、バラエティに富んだハイセンスな家具類がセレクトされていて、バランスよく配置されていることもあって不思議と落ち着きます。

広さ1120.30㎡のフロアに350席が設置されています

 

室内でひときわ目を引いたのが、世界的に活躍する人気イラストレーターSHOGO SEKINE氏によるカラフルでポジティブなアートワーク。コンセプトを体現するべく、「The University DINING」が地域のイベントスペースやライブハウス、 企業のワークショップ会場になることも。食や憩いの場というだけでなく、さまざまな個性が「つどい」、縁が「つながり」、未来を「つくりだす」、ワクワクする創造拠点を象徴するような壁画でした。

SHOGO SEKINE氏によるポップでおしゃれな壁面イラスト

食を中心に国内外のカルチャー誌が並ぶ棚も。すべて自由に読むことができます

 

ダイニング&ベーカリーの2軸展開の「美味しい学食」

「The University DINING」の核となる「食」については、「bills」など話題のカフェやレストランなどを運営する株式会社トランジットジェネラルオフィスがプロデュースを手掛け、メインダイニングの他に、本格的なカフェが楽しめるコーヒー&ベーカリースタンドが併設されています。

 

美味しく栄養バランスも取れる日替わりランチは、「REGULAR SET」(550円)と「DON SET」(450円)の2種類が毎日用意されているそう。「REGULAR SET」は、スープ&ライスに好みの主菜と小鉢2品を選んで付けるプリフィックス・ランチスタイルで、「DON SET」は、丼とスープ、小鉢が楽しめるのだとか。しかし、この日は用事が長引き、到着時刻にはランチの営業が終了……(泣)。

この日の「REGULAR SET」の主菜3種の案内

 

気を取り直して、「The University DINING」の中央に位置するコーヒー&ベーカリースタンドへ! 「自由が丘ベイクショップ」のオープニングディレクターがメニューを監修していて、焼き立てのパンをはじめオリジナルのサンドイッチやハンバーガーなどの軽食、香り高いコーヒーなどが揃っています。

みんな大好き! ポテトフライも並びます

 

好物の「フィッシュバーガー」(280円)を迷わずセレクトし、お腹が空いていたのでサンドイッチの「ツナブロッコリーとアボカド」(400円)も追加。初夏の陽気だったこともあり「ストロベリースカッシュICED」(350円)をお供に。

 

テーブル席に着いて、早速「フィッシュバーガー」から実食。バンズがふんわり食感で、肉厚&やわらかな白身魚フライとしっかり味のタルタルソースとも相性抜群。期待を裏切らない味で大満足でした。続いて、「ツナブロッコリーとアボカド」。これでもかくらいたっぷりの野菜が入っていて野菜不足の体が喜んでいるのを実感。甘酸っぱさとシュワっとした炭酸の爽快感がたまらない「ストロベリースカッシュICED」も最高でした。

「フィッシュバーガー」(写真右)、「ツナブロッコリーとアボカド」(写真左)

紙コップなどのツール類にもロゴマークが

パンなどを温めるためのレンジも完備

 

座る場所によってもさまざまな表情が楽しめる「The University DINING」。食後は窓際のカウンター席に移動し、外の景色を眺めながらしばし休憩。

電源も完備された奥行きのあるカウンターでPC作業に最適

 

「The University DINING」は、今年2025年に10周年を迎え、その間に地域のファンも増え続けているのだとか。この日も、女性グループがコーヒーを飲みながら談笑する姿が。近所の方はもちろん、近くに寄った際は、ぜひ訪れてみてください。想像以上の心地よさと、美味しい学食が待っています!

学食レベルを超えた本格寿司! 東京大学柏キャンパス「お魚倶楽部はま」

2025年6月17日 / 美味しい大学, 大学を楽しもう

千葉県柏市、東京大学柏キャンパス内にある「お魚倶楽部はま」は、同大学の学食でありながら、れっきとした寿司店です。「大学内に寿司店!?」とこれだけでも珍しいでが、手頃な価格で本格寿司が味わえるとあって数々のメディアに取り上げられています。気になる話題の学食を体験しに行ってきました!

 

アイコニックな魚の看板が目印

柏キャンパスは、本郷・駒場キャンパスに次ぐ東京大学の主要キャンパスの一つで、広大な敷地には最先端の研究所・研究棟が並んでいます。最寄り駅は、つくばエクスプレス線の「柏の葉キャンパス駅」。駅からはシャトルバスが出ていますが、心地よい気候に誘われてこの日は歩いてキャンパスへ。30分ほどでキャンパスの入口に到着しました。

新緑が眩しい緑あふれるキャンパス入口。門や塀はなく、開放的な雰囲気

 

入口から直進するとすぐに現れるのが学融合の道(けやき並木)です。「知の冒険」をテーマに、新たな学問の創生や学問の進化を推進する柏キャンパスの中心に位置しています。

学融合の道には、さまざまな研究の一端がモニュメントやパネルを通じて展示されています

 

学融合の道を左折し3分ほど進むと、突き当りに見えてくるのが海洋と大気の基礎的研究を推進する大気海洋研究所です。お目当ての「お魚倶楽部はま」は、同研究所の1階に。アイコニックな魚の看板が目印です。

大気海洋研究所外観

海をイメージした(!?)鮮やかなブルーが目を引きます

 

丁寧に握られた寿司をカウンター席で

早速、中に入ると、カウンター席とテーブル席を合わせて16席のこぢんまりとした店内に中国人の2人組と大学職員さんと思しき女性の先客が。在店中、店内を見ていると入れ代わり立ち代わりさまざまなお客さんが来店しており、人気の高さがうかがえました。

外国人の学生や研究者の来店率も高そう。入口には手書きの英語案内も

 

カウンター席に案内され、お茶をいただきながらメニュー選び。20種類以上ある豊富なメニューを前に“迷える幸せ”のひと時。学食らしいリーズナブルな価格で新鮮な海鮮がたっぷり楽しめる「日替わり丼」(600円)や、「地魚5貫にぎり」(1080円)が看板メニューらしいのですが、この日は早くも売り切れてしまったよう……(残念!)。

豊富なメニューは見ているだけで楽しい

 

気を取り直して再検討。「あれもこれも食べたい」欲望から、「12貫にぎり」(1,100円)や「15貫にぎり」(1,780円)に目を奪われつつも、自身の適量に合わせて「にぎり」(980円)を注文しました。

 

さて、2010年にオープンした「お魚倶楽部はま」は、もともとは東京中野区で店を構え、ご夫婦で営む寿司店だったとか。当時、その店の近くに東京大学の研究拠点があり、常連だった同研究所の教授から柏キャンパスの学食業者入札応募の誘いを受けたことが縁で、中野から移転したのだそう。この日は、女将さんが板場に立って切り盛りしていました。待っている間、その手捌きを眺めていられるのもカウンター席ならではの醍醐味です。

ガラスのショーケースにネタがズラリと並んでいます

 

そうこうしているうちに、寿司下駄に乗って注文の「にぎり」が到着! マグロ(赤身)、イカ、サーモン、コハダ、ヤリイカげそ、たまご、蒸し海老、山芋オクラ、ネギトロ巻の9種類のお寿司に、嬉しいことに味噌汁まで付いています。

 

では、いざ、実食! 食べたいネタから食すスタイルで、まずは旬(春)のコハダから。酢締めされて臭みもなく、口の中に広がる旨味――。続いて、新鮮なイカ、サーモン、ヤリイカげに舌鼓を打ちながら、ネギトロ巻3貫を一気に平らげ、味噌汁でホッとひと息。

 

後半は、甘めのたまごから再開。山芋オクラの食感を楽しんだ後、肉厚でソフトな食感の蒸し海老を堪能し、ラストはサッパリとした味の柔らかなマグロで締め、あっという間に完食。

どれも本格的な味わいで、絶品の寿司ランチでした。

彩りも鮮やかな「にぎり」

 

お茶を飲み干し、余韻をかみしめながら退店。そうそう、店の外にブース席やテラス席も用意されていてここでも飲食が可能です。さらに、「お魚倶楽部はま」は、夜も寿司居酒屋として営業しており、地魚や深海魚など珍しい鮮魚や日本酒なども取り揃えているそう。近所ならぜひ通いたい!

ビニールカーテンで覆われたユニークな形のブース席

 

これから暑さが本格化する中、「さっぱりとお腹を満たしたい」と思う日も多くなりそうです。そんな時はぜひ、「お魚倶楽部はま」の寿司ランチに訪れてみてください。

新たな有形文化財、駒澤大学の「禅文化歴史博物館」を花まつりの季節に探訪!

2025年6月5日 / 話題のスポット, 大学を楽しもう

仏教の教えと「禅」の精神を建学の理念とし、7学部・17学科を中心に多彩な学びを展開する駒澤大学。2025年3月、同大学の「禅文化歴史博物館」の建物が国の有形文化財(建造物)に登録決定しました。都内のあちこちで桜が満開となった4月上旬、同館に訪れ、建築の魅力を体感するとともに、館内展示も合わせて堪能してきました。

稲妻型の外観が圧巻。次代へ継承される文化遺産へ

禅文化歴史博物館は駒澤大学が有するキャンパスの一つ、駒沢キャンパス内にあります。もとは大学図書館として1928年に建設され、その後、図書館の新築に伴い宗教行事を行う場などとして活用。1999年、東京都選定歴史的建造物に選定されたのを機に博物館としてリニューアルが進められ、開校120周年記念事業の一環として2002年に開館。以降、博物館として、広く一般に向けて仏教や禅の歴史や文化を発信しています。

 

関東大震災後の復興に向け建てられた復興建築の一つで、後の戦争や高度成長期の地域開発など、時代の荒波を乗り越えて現存する稀少な建築とされています。耐震耐久性を考慮した鉄骨鉄筋コンクリート造の重厚な佇まいには堂々たる存在感があり、キャンパス内の近代的な建物のなかでひときわ異彩を放っていました。

 

この建築の最大の見どころは、ユニークな稲妻型の正面外観です。「折板構造(せつばんこうぞう)」という工法によって造られたそれは、独創的なだけでなく圧巻の造形美で非常に見応えがあります。

 

設計者は、銀座サッポロライオンビヤホールなどの設計を手掛けたことでも有名な菅原榮蔵。20世紀建築界の巨匠の一人とされるフランク・ロイド・ライトに影響を受けたとされ、館内外でその要素を見て取れます。

例えば、外壁を覆うスクラッチタイル。ライトの代表作である旧帝国ホテルで多用されたスダレ煉瓦の意匠を引き継いだタイルで、一つひとつ引っかき傷を付けたような模様で独特の味わいを醸し出しています。

旧帝国ホテルが関東大震災で軽微な損傷だったことから、震災復興期には、ライトの影響を受けたライト風(式)建築が多用されたといいます

 

また、博物館入口をはじめ館内にも旧帝国ホテルに採用されたテラコッタ装飾が用いられ、温かみある陰影を生み出しています。さらに玄関のタイルは日本六古窯のひとつ、常滑焼(とこなめやき)でつくられており、旧帝国ホテル(ライト館)で使われたタイルと同じ意匠なのだとか。こうした装飾などもほぼ当時の様子をとどめている点で稀少性が高いといえます。

博物館入口を飾るテラコッタ

 

館内に入ると吹き抜けになった大ホールが現れ、天井にある幾何学模様のステンドグラスに目を奪われます。ライトの影響を受けながらも、こうしたステンドグラスや、それを際立たせる柱のない無柱空間構造などに設計者の創意が体現されています。

万華鏡のようなステンドグラス。広い空間に差し込むやわらかな光が印象的でした

 

建物に合わせて製作されたとされる椅子や棚、衝立などが現存していることにも驚きます。あたかも建築の一部として有機的に存在しているようでした。

椅子や棚が設置された一角。タイムスリップしたかのようなノスタルジックな雰囲気

仏教美術や工芸品を通して仏教と禅宗を学ぶ

建築を堪能した後は、館内展示の鑑賞へ。

突然ですが、みなさんは「仏教・禅宗とは何か」を説明できますか? お葬式やお墓参り、最近ではマインドフルネスや坐禅体験などを通じてその存在感はより増しつつも、しっかりと答えられる人は多くはないかもしれません。

 

ざっくり解説すると、仏教は紀元前5~6世紀頃にインド北部(現ネパール)で生まれたお釈迦様(=ゴータマ・シッダールタ=仏陀)により「真理を悟り、人生苦の根本問題を解決すること」を目的に説かれた教え。その後、中国に渡り、より実践的な一派として「禅(宗)」が成立します。

日本には鎌倉時代以降に伝来し、栄西や道元、隠元らによって日本三大禅宗の「臨済宗・曹洞宗・黄檗宗」が開かれました。駒澤大学はそのひとつ、曹洞宗の学林(禅僧の学問所)を源流とし、同館の展示は禅宗、特に曹洞宗の歴史と文化にフォーカスを当てた内容になっています。

曹洞宗と駒澤大学の歴史の説明パネル

 

同館は2階建てで、この日公開されていたのは1階の常設展示でした。大ホール全体を禅の象徴空間として演出した「展示室A」と、大ホールから放射状に配置された5つの「展示室B」から成る構成です。禅僧の墨蹟(ぼくせき:禅僧の記した筆跡)や絵画をはじめとする仏教美術、工芸品など幅広い展示を通じて、仏教や禅宗の歴史・文化が多面的に紹介されています。各室に掲示された説明パネルでは史実の背景や関係性などについても丁寧にわかりやすく紹介されており、筆者のような前知識のない者にも新たな「知」をもたらしてくれる内容でした。

「展示室A」内の一仏両祖と須弥壇(しゅみだん:本尊を祀る場所)

三大禅宗のひとつ、黄檗宗の宗祖・隠元が日本に広めた煎茶の茶器。隠元は中国の僧侶で、煎茶をはじめさまざまな中国文化を日本に伝えたとされています

 

道元自筆の『正法眼蔵嗣書』公開、禅寺の鳴らし物(楽器)体験も

ここからは春季特別公開で展示された『正法眼蔵嗣書(しょうぼうげんぞうししょ)』と、仏教・禅宗入門におすすめの展示をいくつかご紹介します(※2025年の春季特別公開は4月8日に終了。毎年4月と11月に公開されます)。

 

まずは、曹洞宗の宗祖・道元自筆の『正法眼蔵嗣書』から。正法眼蔵には「仏法の真髄をあまねく包蔵せる書」という意味があり、道元の思想の集大成として今日まで伝わってきたそう。後世の門人により編集され、その過程によっていくつかの構成がありますが、現在流布している95巻本(本山版)のうち第16巻にあたる「嗣書」は、1243年の道元自身による修訂本で、冒頭から末尾まで欠落のない完全本であることから極めて貴重な資料です。美しく鮮明で確かな道元の筆致を、時を経て見られることに感動します。

『正法眼蔵嗣書(しょうぼうげんぞうししょ)』

 

次は、彫塑家・桝澤清による作品「釈尊生涯のレリーフ」。もともとは駒澤大学旧本館の講堂壁面にあった仏教美術で、お釈迦様の誕生から死までが4枚のレリーフで表現されています。「二象による灌水(降誕)」「菩提樹(成道)」「法輪への礼拝(説法)」「仏塔への礼拝(涅槃)」の4場面を通じて、お釈迦様やお釈迦様が生きた時代を知ることができます。「釈尊生涯のレリーフ」については、禅文化歴史博物館の公式動画でわかりやすく紹介されているので、ぜひこちらもご覧ください。

(YouTube)資料紹介「釈尊生涯のレリーフ」

「法輪への礼拝(説法)」の場面のレリーフ

 

最後に紹介するのは、体験コーナー「“禅博”の鳴らし物(楽器)」です。禅寺の修行で用いられる「鼓(く)」「柝(たく)」「鏧子(けいす)」「鈴(れい)」「引鏧(いんきん)」「鐃鈸(にょうはつ)」「木魚(もくぎょ)」という7種類の鳴らし物(楽器)が展示され、実際に鳴らすことができます。私語を厳しく禁じる修行中は、坐禅や読経、食事などの開始を鳴らし物によって伝えるのだそう。これだけの種類の鳴らし物に触れられる機会はそうそうありません。ぜひ同館で体験してみてください。

7種類の鳴らし物

 

お釈迦様の誕生祭「花まつり」

訪問した日は、4月8日のお釈迦様の誕生を祝う仏教行事の「花まつり」が開催されており、誕生仏像が祀られ、来館者には甘茶が提供されていました。日本では、草花で飾った花御堂(はなみどう)をつくり、誕生仏像に甘茶をかけて祝うのだとか。なぜ甘茶かというと、お釈迦様の誕生時に九頭の龍が現れ、頭から香湯(甘露の雨)を注いだという伝承に由来しているのだそうです。

花御堂と中央には誕生仏像

ほんのり独特な甘みを醸した甘茶

 

文化財としてその存在だけで時代を雄弁に物語る禅文化歴史博物館や、仏教・禅宗の歴史・文化の展示、さらに花まつりまで堪能できた今回の探訪。知識が深まると新たなことに自然と目が向く連鎖――知らないことを知る楽しさをあらためて実感しました。新緑が気持ちのいいこれからの季節、ぜひ新たな「知」と出会いに禅文化歴史博物館に出かけてみてください。

慶應義塾ミュージアム・コモンズ 新春展2025「へびの憩う空き地」をレポート!

2025年2月6日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

東京・三田の慶應義塾大学三田キャンパス東別館にある慶應義塾ミュージアム・コモンズ(通称:KeMCo)で、2月7日(金)まで開催されている「新春展2025―へびの憩う空き地」。その年の干支をテーマに、同大学の学部や諸研究所をはじめ、さまざまな部署が所管する貴重な作品・資料を展示・公開する展覧会で、2022年以来、KeMCoの新春恒例企画となり今回で4回目を迎えます。今年は「巳年」ということで、「へび」にまつわる稀覯本(きこうぼん)や屏風、鏡など47点が大集合! KeMCoの学芸員・長谷川紫穂さんと学芸員補の常深新平さんの特別ガイド付きで体験してきた新春展の模様をお届けします。

 

<2024年の新春展はこちら>
慶應義塾ミュージアム・コモンズ 新春展2024「龍の翔(かけ)る空き地」をレポート!
<2023年の新春展はこちら>
慶應義塾大学ミュージアム・コモンズの新春展「うさぎの潜む空き地」に行ってきた!

 

インタラクティブコンテンツやアート体験も!

「へびの憩う空き地」鑑賞前に気になったのが、新春展のイントロダクション的に1Fエントランスホールに展示されていた映像作品です。慶應義塾中等部・女子高等学校の学生が象形や楷書などで書いた干支の書作品を、KeMCoM(慶應義塾ミュージアム・コモンズ学生スタッフ)の制作したプロジェクションマッピングによって演出。多様な書作品だけでも見応えがありますが、手をたたくとその音に反応して演出が変わるインタラクティブコンテンツでした。

子どもから大人まで楽しめる展示でした(残念ながら、インタラクティブ要素は写真に映らず)

【うたとへび】セクションは、必見!

“へびたちの住処”と化した展示ルーム

 

それでは、「へびの憩う空き地」の展示ルームへ。【うたとへび】【動物界のへび】【恐ろしげなへび】【象徴するへび】【明治のへび】【物語のへび】【想起させるへび】【舞踏とへび】の8セクションから構成され、セクションごとにまつわる作品・資料が展示されています。注目セクションのほかに、筆者の印象に残った作品・資料をピックアップしてご紹介します。

 

まずは、注目セクションから。「本展示の目玉は、【うたとへび】セクション。中でも 屏風仕立ての『虫の歌合(うたあわせ)』は、作品の規模が大きくこれまで展示スペースの都合上、公開される機会があまりなかったため希少性の高い作品です」と常深さん。

屏風仕立ての「虫の歌合」

 

「虫の歌合」は、絵も書も居初(いそめ)つなという人物によるものと推定されており、この人物は最古の女流絵本作家に位置づけられうるといいます。「歴史的な意味においても見応えがあります」と常深さん。江戸時代前期(17世紀後半)に名前の判明する女流絵本作家がいたことは世界的にも珍しいのだそうです。

 

この絵では、「歌合」とは、歌人が左右に分かれて和歌を詠み合い優劣を競う文学遊びで、「虫の歌合」では、歌人として擬人化された虫たちが登場し、秋の夜に歌合を行う様子が描かれています。絵をよく見てみると、人の頭上にへびや蛙が乗っています。

当時へびや蛙は「虫」に分類されていた。色遣いなどが美しい

 

「なんだかユーモラス」と思って見ていましたが、このように歌合の様子をパロディ化する動きは特に江戸時代辺りから強まったのだといいます。豊かな発想力に脱帽です。

 

上の写真は、常深さんいわく「虫たちの歌合の司会兼審判を務めるひきがえるが、へびと勝負している場面で、ひきがえるはへびに怯みながらも果敢に挑んでいる様子 」なんだとか。現代でいう、熱いMCバトルが繰り広げられているのでしょうか――。

 

他にもさまざまな擬人化した虫が描かれていて、見ているだけで本当におもしろい「虫の歌合」です。

なかなかリアルな描写。虫が苦手な方は少~し遠目からどうぞ

 

擬人化された十二支の動物たちが歌合をする様子が描かれている作品もありました。江戸時代前期の「十二支歌仙歌合色紙帖」という作品です。

十二単をまとったへび。ニョロっと頭が見えている

 

上の写真では擬人化したへびしかいませんが、子(鼠)vs丑(牛)、丑(牛)vs寅(虎)のように、次の干支にあたる動物との歌合が展開されているんだとか。

 

ちなみに、このへびをモチーフに、慶應義塾大学三田キャンパス内の喫茶店「カフェ八角塔」では新春展とのコラボレーションメニュー「歌合う巳―苺のシュークリーム」が提供されていました(会期中のみ)。シュークリームのへびが求肥の着物をまとったスイーツで、中には苺の実(=「巳/み」)が。ちょっととぼけたへびの表情がなんとも可愛らしいです。

「歌合う巳― 苺のシュークリーム」(¥700税込) 写真提供:カフェ八角塔

 

THE インパクト作品&資料3連発!

ここからは、筆者が思わず気になったインパクトある作品・資料をお届けします。まずは、【恐ろしげなへび】セクションにあった漫画『へび女』(さあ、ご存知の方は「へび女」の恐ろしい顔を思い出してください)。故・楳図かずお氏の代表作で、恐怖をテーマにし少女漫画に革新をもたらすとともに、漫画を単なる娯楽を超えた芸術にまで高めた重要な作品です。専門的な展示が続くなかで、身近な漫画が混在しているとなんだかホッとするのは筆者だけでしょうか。

 

「今回の『へび』のようにさまざまな描写のバリエーションが集まった場合、各種作品・資料においてリアルな描写やデフォルメされた描写など、さまざまな描写を楽しんで鑑賞いただけるようバランスも考えています」 と長谷川さん。『へび女』でも、どの見開きを展示するか検討が重ねられたそうです。

 

【動物界のへび】セクションで、縦40cmほどの大きさがありどっしりとした存在感で目を引いたのが、スイスの自然学者であったコンラート・ゲスナーの著書『動物誌(四足動物)』です。「1606年の制作当時、生物研究に挿絵を導入したことは画期的で、科学に対する偉大な貢献だったことが想像されます。美しい色彩は職人によって施されており、非常に資料価値の高い書物です」と常深さん。

 

同書には、実在するへびに加えて、細部が実際と異なる想像上のへびも含め多種多様なへびが描かれているんだとか。同セクションにあったイタリアの博物学者フィリッポ・ブオナンニの『博物誌』に描かれた生々しくリアルなへびの絵も見応えがありました。

『動物誌(四足動物)』

『博物誌』 1773~1782年頃に出版された

 

ラストはこちら。【象徴するへび】セクションに展示された「マランガン儀礼用装飾板」です。

マランガン儀礼用装飾板、20世紀初頭(収集)、慶應義塾大学文学部民族学考古学専攻所管

へびが自らの尾をくわえている

 

へびは古代から生命の象徴とされ、脱皮は新たな生まれ代わり、尾をくわえた姿は無限の循環を意味するといわれています。この装飾板は、どんな儀礼に使用されたのかは定かでないらしいのですが、尾をくわえたへびが周りを囲っていることに注目すると、当時の人は永遠を願うような儀式で使用したのでしょうか――。そんな想像をしながら楽しく鑑賞しました。

学生スタッフによる体験型企画にチャレンジ!

全セクションの作品・資料を鑑賞し終えたあとは、KeMCoM(慶應義塾ミュージアム・コモンズ学生スタッフ)が企画する、デジタルを活用した体験型コンテンツの鑑賞に。オリジナルのへびのイラストから1点をセレクトしクリックすると、運勢が飛び出すという「デジタルへびみくじ2025」や、地を這うへびの目線を通じて三田キャンパス内のアートを巡る映像作品「へびの(きままな)三田キャンパスアートツアー」など楽しい企画が満載でした。

 

コンテンツの一つにあった「へびの願い事パブリックアート」に参加した筆者。参加者が抱負や願い事を書いた専用用紙を壁に貼ってつなげていくと1匹の大きなへびが完成するというものです。筆者は、「元気」と大きく書いて貼ってきました(元気があれば何でもできる!)。

「デジタルへびみくじ2025」。「中吉」、出ました!

「貼る方向は参加者にお任せ。最後にどんな形になるか楽しみです」とKeMCoMの学生さん

 

実は、昨年の「新春展」も体験した筆者。ジャンルを超えた多種多様な作品・資料が横並びに展示されていて思いもよらない出会いがある――。それこそが本展覧会の魅力だとあらためて実感するとともに、幅広く学際的な研究を行う慶應義塾だからこそ実現できる展覧会でもあると思いました。

 

KeMCoM企画のコンテンツで、今年も3Dプリンターによる御朱印風のオリジナルスタンプがあったので、記念に新春展ポストカードに押印し、KeMCoを後にしました。

KeMCo新シリーズ展示がスタート

またKeMCoでは、今年から始まった小さな展覧会シリーズ「ふとした点景」が、2Fの階段の踊り場で開催されています。「『ふとした点景』とは、展示物とそれを含む空間の景色を指しています。そこに対峙した人にとって、物事の新たな見方や思わぬ発見をもたらす機会になれば嬉しいですね」と長谷川さん。

 

展示台が一つ置かれ、現在は、現代美術家の故・岡崎和郎氏のオブジェ「招福猫」が鎮座。「招福猫」は小ぶりながらも圧倒的な存在感を放ち、そこに在るだけで吹き抜けの広い空間を引き締めているから不思議です。場所や空間全体をアートとして表現するインスタレーションを彷彿とさせる展示でしばし見入ってしまいました。年間を通して展開されるそうなので、三田方面にお出かけの際にぜひ!

自然光が差し込む階段の踊り場。天気によっても作品の見え方が変わりそう

 

南極地域観測隊の食事をクローズアップ! 東京農業大学「食と農」の博物館で実感した、食べることは生きること

2025年1月16日 / 体験レポート, 大学を楽しもう

日本から直線距離で約14,000km離れた南極大陸。日本の約37倍ある広い陸地のほとんどは厚い氷に覆われ、凍てつく世界が広がります。そんな極寒の過酷な環境で暮らす南極地域観測隊を支えてきた「食」にスポットをあてた企画展「南極飯!」が、現在、東京農業大学「食と農」の博物館で開催されています。キャッチーな展示名に好奇心をくすぐられ、大学近くにある博物館へ。本展を企画した同大学学術情報課程准教授・田留健介先生にアテンドいただきながら巡ってきました。

 

自身の“南極体験”が企画展のはじまりに

東京農業大学「食と農」の博物館は、常設展示や多様なコンセプトの企画展示、イベントなどを通じて、食と農の「今まで」「今」「これから」を発信するとともに、食と農に関する知識や情報を広く提供しています。

開催中の「南極飯!」は企画展示で、田留先生の“南極体験”がその発端だったといいます。田留先生は、2020年に第61次南極地域観測隊に抜擢され、南極のプリンセス・エリザベス基地(ベルギー)で約1ヶ月半を過ごしました。陸上生物調査隊として、氷点下の中で朝から夕方まで調査を続ける日々だったといいます。

南極地域観測隊員時の田留先生

 

「個人差もありますが、極寒の中では1日の消費カロリーが通常の約1.5~2倍必要になるといわれ、調査をしているだけでエネルギーがどんどん消費されます。すると、調査中にガクンと疲れて、急激に指先や体が冷え、『食べないと命に関わる』と危険を感じる場面に幾度か遭遇しました。そうした場合、すぐにチョコレートなどの甘味を口に入れて少し休憩すると血がめぐり、徐々に体温が上がっていくのがわかるんですね。食べることは、生きることに直結していると、自分の体を通して痛感しました。この経験から得た『食べることの大切さ』を、多面的なアプローチで発信する企画展をと考えたのが『南極飯!』です」と田留先生。

 

本展は南極での食事情を中心に、南極の自然などを含む7つのパートで構成されています。ここでは、筆者が気になった「南極の大自然&生きもの」と「南極飯!」パートの展示内容をピックアップしてお届けします。


南極の大自然&生きものを体感!

まずは、「南極の大自然&生きもの」パートから。雄大な南極の自然を写した巨大な写真パネルが出迎えてくれます。

迫力ある巨大パネル

 

「南極は太古の地球がそのまま残った未知の大陸。本当に美しいです」と田留先生。真っ白な氷と真っ青な空のコントラストを見ていると、原始の世界に誘われるようです。パネルの先で待っていたのは、南極の生きものたちの剥製です。思わず「かわいぃ」と声が漏れたウェッデルアザラシの子や、世界最大のペンギンであるコウテイペンギン、その次に大きいオウサマペンギンもいて、実際の大きさや色などを観察できる貴重な展示に。

ウェッデルアザラシの子の剥製

コウテイペンギンの剥製

 

本展は、「大人だけではなく子どもたちにも親しみを持ってもらえるように意識しました」と田留先生。オウサマペンギンの剥製は、南極観測船の窓から見ている気分が味わえるように展示するなど、楽しい仕掛けもありました。

氷上のペンギンを極観測船から見ることをイメージした展示

 

「南極にこんな生きものが!」と驚いたのが、地衣類です。地衣類とは、菌類と藻類が共生関係を結んでできた複合生物で、これまでに400種以上が確認されており南極の陸上生物の中で一番の種類の多さだとか。

地衣類の一種「オオロウソクゴケモドキ」

 

田留先生は地衣類を専門に研究しており、南極の内陸部にあたるセール・ロンダーネ山地で地衣類やコケ類のサンプリングを行ったそう。「岩や石の隙間に隠れるように生えているんです。南極の強風や乾燥に耐えられる場所なんでしょうね。極限環境下で生き延びるための工夫を垣間見た気がしました」と話します。他にも、全長2m近くにもなる巨大魚であるライギョダマシの剥製標本や、エビに似たナンキョクオキアミの液浸標本など、南極の海に生息する生きものにも触れられる充実した展示内容となっていました。


南極飯の「進化」と「変わらないもの」

南極でさまざまな観測を行うためには、健康維持が最も大きな課題の一つであり、同行する調理隊員の作る食事が観測隊員を支えています。企画展の「南極飯!」パートでは、1957年の第1次観測隊員が食べていたカレーやけんちん汁、生姜焼きなどを含めた50食以上の南極飯が食品サンプルでズラリと展示されていました。

 

サンプルを俯瞰して見ると、日本の家庭料理が多いことに気付きます。「非日常の南極で何ヶ月間も生活をする時、どれだけ“日常”を確保できるかが重要になります。慣れ親しんだ味は、日々精神的な安らぎを与えてくれ、翌日の観測へのモチベーションにもつながります。極限環境の南極で『ああ、食べたい』と求める味は、60年以上前から今も変わっていません」と田留先生。

第1次観測隊員が食べていた南極飯

 

そんな中、第1次観測隊員の「おどろき飯」を発見! なんと、南極に生息するオオトウゾクカモメを巨大な焼き鳥にして食べていたというのです(現在は国際的な取り決めにより、オオトウゾクカモメをはじめとする南極の野生生物を捕獲し食べることは禁止されています)。

 

オオトウゾクカモメは翼を広げると約130cmほどになり、南極大陸と周辺の島のみで繁殖するカモメです。カモメの焼き鳥…。なかなか想像しがたい味ですが、第1次観測隊員の中野征紀氏の著書『南極越冬日記』によると、「酒と砂糖、醤油タレに1日漬け込むと美味になる」とのこと。巨大な焼き鳥を再現した食品サンプルと一緒に写真を撮れるフォトスポットも設置されていました。

串の長さは約50cm。巨大な焼き鳥です

 

調理隊員が作る「変わらない味」がある一方で、昨今は食品加工の技術革新により南極に持ち込める食材も進化し、食事の幅が広がっているといいます。冷凍食品や真空パックの保存食の進歩は著しく、特に軽くて持ち運びが便利なフリーズドライ食品は多数開発されており、野外観測時の強い味方として活躍しているそうです。

食品メーカーが開発した各種フリーズドライ食品


南極で生野菜は「ぜいたく飯」

観測隊員は、越冬隊と夏隊に分かれており、越冬隊員は1 年を通して南極に滞在します。田留先生は夏隊の一員として参加されましたが、それでも滞在後半になると生野菜や果物、牛乳、卵などが恋しくなったそう。「いわゆる長期保存ができない食材は、南極では『ぜいたく飯』なんです」と田留先生。技術が進み、長期常温保存ができる牛乳や豆腐なども開発されていますが、「新鮮さ」は格別なおいしさだと教えてくれました。

キャベツの千切りや牛乳など、日常では当たり前の食材が南極では「ぜいたく飯」に

 

そうした中、農業技術の革新によって南極基地内で水耕栽培ができるようになりました。日本の観測拠点となる昭和基地では、リーフレタスやルッコラ、クレソンなど「生野菜」が栽培され、観測隊員の食事に貢献しているといいます(南極環境保護法に基づき、出発前に環境省に確認申請を行ったうえで種子等を持ち込んで栽培)。現在は、プチトマトやきゅうり、イチゴの栽培も進められているそう。さらに農業技術が進めば、南極で多彩な野菜が育つ日も夢ではないかもしれません。

昭和基地での水耕栽培の様子を再現した展示が“農大”っぽいですね

 

末来の科学を支えるのは、おいしいごはん

丁寧かつわかりやすく展示をアテンドしてくれた田留先生。観測隊員時に使用していたご自身の装備一式とともに

 

南極で起こる環境変動は地球全体に大きな影響をもたらすことから、今後の地球環境変動の予測の要だとされています。今この瞬間にも、私たち人類と地球の未来に向けて、南極では多くの観測隊員によってさまざまな観測や研究が進められています。田留先生は最後にこう話してくれました。「観測隊員の命を支えているのは、ご覧いただいたような“おいしいごはん”です。つまり、南極においては、まぎれもなく食が未来の科学を支えています」

 

食べることは、生きること――。食が未来の科学を支えている――。気軽な気持ちで鑑賞に臨んだ筆者ですが、思わぬ学びを得ることができた見応えのある企画展でした。2025年3月29日(土)まで開催しているので、ぜひ足を運んでみてください。

RANKINGー 人気記事 ー

  1. Rank1

  2. Rank2

  3. Rank3

  4. Rank4

  5. Rank5

PICKUPー 注目記事 ー

BOOKS ほとゼロ関連書籍

50歳からの大学案内 関西編

大学で学ぶ50歳以上の方たちのロングインタビューと、社会人向け教育プログラムの解説などをまとめた、おとなのための大学ガイド。

BOOKぴあで購入

楽しい大学に出会う本

大人や子どもが楽しめる首都圏の大学の施設やレストラン、教育プログラムなどを紹介したガイドブック。

Amazonで購入

関西の大学を楽しむ本

関西の大学の一般の方に向けた取り組みや、美味しい学食などを紹介したガイド本。

Amazonで購入
年齢不問! サービス満点!! - 1000%大学活用術

年齢不問! サービス満点!!
1000%大学活用術

子育て層も社会人もシルバーも、学び&遊び尽くすためのマル得ガイド。

Amazonで購入
定年進学のすすめ―第二の人生を充実させる大学利用法

定年進学のすすめ―
第二の人生を充実させる …

私は、こうして第二の人生を見つけた!体験者が語る大学の魅力。

Amazonで購入

フツーな大学生のアナタへ
- 大学生活を100倍エキサイティングにした12人のメッセージ

学生生活を楽しく充実させるには? その答えを見つけた大学生達のエールが満載。入学したら最初に読んでほしい本。

Amazonで購入
アートとデザインを楽しむ京都本 (えるまがMOOK)

アートとデザインを楽しむ
京都本by京都造形芸術大学 (エルマガMOOK)

京都の美術館・ギャラリー・寺・カフェなどのガイド本。

Amazonで購入

PAGE TOP