大学の知の宝庫である大学図書館。貴重な専門書がそろっていたり、外観や内装にこだわりがあったり、さまざまな特徴や魅力があります。大学関係者以外でも利用できる大学図書館も多いのですが、気軽に訪れるには少しハードルが高い……と感じることも。そこで、「大学図書館のススメ」シリーズとして、ほとゼロ編集部が推しの一般利用可能な大学図書館を巡っていきます。
今回、ご紹介するのは、蔵書数約150万冊を誇る天理大学附属天理図書館(別名・やまとのふみくら)。国宝や重要文化財などを含む国内外の貴重な資料を多数所蔵していることで知られています。近代の名建築としても注目を集めていて、一歩足を踏み入れると、一昔前の映画やドラマの世界に入り込んだかのような空間が広がっていました。文学ファンも建築ファンも必見です!
100年近く前の姿を残すレトロな空間で読書を楽しむ
天理図書館があるのは奈良県天理市、JR・近鉄「天理駅」から天理大学行きのバスに乗って10分ほど。事前予約は不要で、15歳以上であれば誰でも無料で利用可能です。 ※貴重書の利用には事前申請が必要
図書館に到着してまず驚かされるのは、その重厚な外観です。中世ヨーロッパ風のモダンな建物が竣工されたのは1930年で、2023年2月に国の登録有形文化財に指定されました。建てられた当時の姿を残したまま、100年近くが経った今でも現役の図書館として使われ続けています。
入口の扉をくぐると目に入るのは、ずらりとならぶ書棚……ではなく、大理石製の立派なカウンター。天理図書館はほとんどの資料が書庫に入っている閉架式の図書館で、カウンターで閲覧したい本を出納してもらって利用します。学外者の貸出手続きには所定の保証書が必要ですが、閲覧は誰でもできます。

正面にあるのがカウンター。書庫を中心とする構造になっていて、奥の扉の向こうが書庫です ※館内は撮影禁止。今回は特別な許可を得て撮影しています

ホームページの「蔵書検索(OPAC)」や館内の「カード目録」で資料を検索して依頼します
資料を手にしたら、カウンターに向かって左側にある閲覧室へ。閲覧室の奥には、すぐに手にとれる文庫本や新書本などの開架資料も用意されています。図書館の周囲は木々に囲まれていて、窓の向こうに自然が広がる静かで落ち着いた雰囲気の中、ゆったりと読書を楽しめます。

開館当時の机が並ぶ閲覧室。大正初期の揺れガラスは、厚みが均一ではないため、外の景色がゆらゆらと揺れているように見えて不思議な感覚です
圧巻! 国内外の名品が集まる約150万冊のコレクション
建物もさることながら、やはり気になるのは何と言っても蔵書のすごさ。国宝6点、重要文化財88点を所蔵しています(2026年2月時点)。天理大学の学生数は3000名ほどで規模の大きい大学ではありませんが、どうしてこれほど貴重な資料を集めることができたのでしょうか。
事務長の森山恭二さんに素朴な疑問を投げかけてみると「国宝や重要文化財を集めようとしたわけではなく、もともと所蔵していた資料が次々と指定されていったのです」とお話しいただきました。
「天理図書館は、天理大学の前身である天理外国語学校の附属施設として、1926年に中山正善(天理教二代真柱)の構想のもと設置されました。学識が高く、無類の本好きで、東京帝国大学(現・東京大学)卒業後すぐに東京の古書店街で熱心に資料を収集しました」
そのコレクションがもとになっており、開館当初の蔵書は約26000冊。その後も資料の収集を続けていましたが、急増したのは第二次世界大戦後のことでした。
「戦後の混乱期に、旧名家が所蔵していた資料を次々と手放しました。本が売れない時代であり、貴重な資料が海外に流出してしまうことを懸念した古書店から、天理図書館に買い取り依頼が数多く寄せられたのです」
天理図書館なら適切に収集・保存してくれるはずだという信頼関係ができていたのですね。
「その通りです。それを機に、資料の種類も大幅に増えました。天理外国語学校はもともと天理教を海外に広める布教師を育成するために開校されたので、当初はキリシタンの伝道についての資料や教祖中山みきが和歌体で書かれた教えを解釈するための和歌の資料が中心でした。しかし戦後は、布教に直接関係はしなくても貴重な資料が失われることがあってはならないと、各分野にわたって国内外の資料を広く集めるようになりました」
その結果、現在の蔵書数は約150万冊に上ります。和漢書と洋書の比率は約3対1で、文科系により重点が置かれており、宗教学、東洋学、日本文学、歴史学、言語学などの貴重な文献が多くあります。一体どんな本があるのか、少し覗いてみましょう!
最も代表的な資料は宗教学に関するもので、カトリックの伝道史に関する資料などが特に充実しています。なかでも『ぎやどぺかどる』(上巻/重要文化財)をはじめ、8種10点の「きりしたん版」は、世界文化史上においても重要な文化財です。「きりしたん版」とは、16~17世紀にイエズス会が日本で出版した書物のことですが、禁教令によって多くが失われてしまい、現存するものはわずかです。

『ぎやどぺかどる』(長崎日本イエズス会学林刊/慶長4(1599)年/重要文化財)。神の尊厳を述べ、善行の道を説く本として有名です
また、日本史や日本文学の資料も、古代から近代にいたるまで広く収集されています。平安時代から室町時代にかけての古写本では、『日本書紀神代巻』(国宝)、『源氏物語』(池田本/重要文化財)・(国冬本/重要文化財)などがあります。江戸時代以降は印刷本が中心になりますが、松尾芭蕉、井原西鶴、滝沢馬琴などの文学者の直筆本も少なくありません。近代では、夏目漱石をはじめ、文豪の自筆原稿を数多く所蔵しています。

『奥の細道行脚之図』(森川許六筆/元禄6年(1693)年)。この芭蕉の肖像画、見覚えがありませんか? 死後に描かれた肖像画が多い中、こちらは生前に描かれているため、最も正確なものだと考えられ、中学・高校などの教科書にも掲載されています
他に、漢籍(中国の書物)のコレクションも有名で、日本にしか現存しておらず国宝に指定されている資料も所蔵しています。珍しいところでは、地理学の資料として地球儀のコレクションが豊富にあるなど、枚挙に暇がありません。貴重な資料を利用するため、毎日国内外から多くの研究者が訪れるそうです。
貴重書などの特別な資料を閲覧するには事前の申請が必要ですが、特別本とされているのは基本的に江戸時代より前の資料で、江戸時代以降に印刷された本は申請不要で閲覧できるものが多いそうです! 2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう』をご覧になっていた方なら、“江戸のメディア王”と言われる主人公・蔦屋重三郎が出版した本を読んでみたいと思ったことがあるのではないでしょうか。試しに「蔦屋重三郎」で蔵書を検索してみると、江戸時代に刊行された本が何十冊も出てきました。ちなみに筆者は毎週欠かさず見ていたので、覚えのある(気がする)書名もちらほら……次はもっと時間のあるときに訪れて、じっくり読んでみたいです。

『狂文狂歌老萊子』(四方山人編/天明4(1784)年)。『べらぼう』でも大流行している様子が描かれていた、狂歌(しゃれや風刺を詠んだ和歌)の歌集。出版元として「耕書堂」「蔦屋重三郎」と記されています
記念展や見学ツアーも。気軽に来館できる、地域に開かれた図書館
天理図書館では、年1回、毎年10~11月頃に、テーマに合わせた所蔵資料を展示する記念展も開催しています。訪れたのは2025年の展示期間終了後でしたが、展示室もご案内いただきました。

興味深い資料が並ぶ展示室 ※記念展は有料

『三四郎』夏目漱石自筆原稿。上部に「漱石山房」とデザインされている特製の原稿用紙で、執筆当時に勤めていた朝日新聞の文字組みが19字だったため、1行が19字になっています
最後は、講演会などに使用されている講堂へ。民俗学者の柳田國男など、名だたる学者も講演されたそうです。

レトロな雰囲気の講堂
展示室や講堂がある2階は基本的に立入禁止なのですが、旅行会社のツアーなどで見学可能とのこと。毎回、大好評で天理図書館がルートに入っているツアーはいつも満員御礼。「一般の方だと、資料よりも建築を目当てに来館される方のほうが多いかもしれません」と森山さん。職員の方に丁寧に解説してもらいながら歴史ある建物を見学できるとあっては、人気が出るのも納得です。なんと、個人で訪れる際も、あらかじめ連絡をすれば、1名からでもご案内いただけるとのこと!(講堂や展示室を含めた本格的な見学については有料) ※詳しくは天理大学附属図書館HPでご確認ください
これほど貴重な資料や建物を無料公開されているだけでも驚きなのに、まさに至れり尽くせり……。天理図書館が創設された時代、図書館は現在のように無料で公開されているものではなかったそうですが、天理図書館は地域に貢献したいという理念のもと、開館当初から一般に無料で公開されていたそうです。森山さんも「たくさんの方に天理に訪れ、良さを知っていただきたいので、ぜひお気軽にご来館ください」と笑顔でおっしゃってくださいました。奈良の観光地といえば法隆寺や春日大社などの古社寺が有名ですが、ひと味違うスポットにも足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

ご案内いただいた森山さん。おすすめは閲覧室だそうです


館内の装飾も随所にこだわりがあり、見応え抜群

オリジナルグッズも販売されています。訪れた際は記念におひとついかがでしょうか。
(編集者:稲田妃美/ライター:あわむら あや)