近畿大学の広告といえば、あの近大マグロを使ったユニークな展開で有名だが、実はそれだけではない。今回、注目したのは、2016年4月に新学部として開設した国際学部の広告。開設前年の告知広告は開設にかける意気込みがビジュアルから伝わってくるような熱い作品だったし、開設年から今年にかけては完全に若い世代に顔を向けた「ハッシュタグコピー」で話題をさらっている。マグロもそうだが、いつも振り切り加減が半端ではない気がする。こんな広告がどうやって生まれてくるのか。狙いはどこにあるのかを聞いてみることしにした。
今までにない新学部を売れ!
新学部である国際学部開設にあたって展開したテレビ・新聞・交通広告には、近畿大学卒業生の著名人・赤井英和さんが登場した。新たにできる学部には校舎も何もなくゼロからの出発だったため、とにかくインパクトのあるものにしたいという思いからオファーしたという。
教育内容では、ベルリッツコーポレーションと産学連携でカリキュラムを組むという新たな取り組みを導入。1学年定員500人の全員が1年間の海外留学プログラムに参加し、しかもその時期は1年の後期からと早い、それまでの常識を破った学部である。
今までにない学部を成功させる、という熱気が「いきなり世界戦や。」というメッセージから伝わってくるようだ。「国際学部の開設は、それを機に、他大学に比べて遅れていた大学全体のグローバル化を一気に推進しよう、という力の入ったプロジェクトでした」と広報担当者は言う。
その頃、広告代理店から近大にある特別企画が持ち込まれた。29年ぶりに大阪で開催される新聞大会に合わせた企画で、広告を通じて新聞の魅力をPRすることを目的に、大手新聞社5誌(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞)に、同じテーマでデザインの異なる広告を掲載するという試みだった。
しかも広告主は内容をクリエイターに任せ、当日まで一切チェックしないというのが条件。クライアントがなかなか見つからない中、ユニークな広告で定評のあった近大に白羽の矢が立ったという。
クリエイターは、電通関西支社の日下慶太氏とそのチーム。大阪・文の里商店街活性化をテーマにしたポスターで注目を集めた実績もあり、この人たちなら面白そうな広告ができそうだと、近大は提案に乗った。若手クリエイターが思い思いの国際学部広告を制作したシリーズは、また注目を集めることになった。
シリーズの中でも最も話題をさらったのは、やはりこちら
「若手広告制作者の方の面白いものを作りたいという想いと、国際学部を知ってほしいという本学の想いとがうまく重なったかたち。後々まで取材されることも多い、話題性のある広告になりました」。
広報室のみなさんは本当に掲載日に初めて目にしたそう。いくら実績のあるクリエイターだからとはいえ、任せるという思い切りはやはりすごい。
僕たちに向けたコード「♯」
2016年4月の開設後には、売り物となる留学生活をテーマに広告を展開している。“留学あるある”をテーマにビジュアルにした交通広告を打った。
“パリピ”(パーティー大好きピープル)にもまれる留学生
ホントに満腹なんです!さて英語でなんて伝える!?
コピーには、ハッシュタグのついた単語やフレーズを使った。最近こうしたコピーをよく目にするようになったが、そのはしりだったという。
「ターゲットは高校生なので、表現自体を彼らに刺さる内容にしたかったのですが、その意図はある程度伝わったようです。入学した学生に調査した結果では、ハッシュタグ付きのコピーについて『僕たちに向けて広告を打ってくれているんだとよくわかった』という感想が聞かれました」
SNSをやっていなければ、「♯」の意味もフレーズがただ並んでいる面白さもわからない。大人たちではない、自分たちのための広告メッセージだということを示す、コードの役割を果たしたというわけだ。
交通広告は、扉シールを1カ月、額面を1週間と決して長い期間の掲出ではなかった。しかし、この広告を面白いと思った高校生たちは写メに撮って拡散し、「あれ見た?」と話題にした。関西限定だったが、それ以外から入学した学生もSNSやHPを通して知っていたという。
この交通広告を打った2016年秋から、国際学部の1期生がいよいよ留学へ。広報担当者は、彼らに留学生活の様子をSNSにあげる時に、「♯すべてが勉強中」というハッシュタグを入れてほしいと依頼。
やがて、SNSをこのワードで検索すると、彼らの充実した留学生活の様子がズラっと並ぶようになった。広告で使ったのは作り込んだビジュアルだったが、検索すると出てくるのは本物の留学ライフだ。しかも、日々更新されて増えていく、ライブな息の長いキャンペーンへと成長していくことになった。
広告は話題にならないと意味がない
1期生が帰国した後の2017年秋の広告では、これまでに学生が実際にSNSに上げた写真の中からチョイスして紹介することにした。留学先の校名なども入れて、リアルさを前面にアピールした。
「留学が必修でさぼっていては卒業できないのですから、留学先で勉強するのは当たり前です。でも、せっかく海外を体験するのだから、いろんな景色を見たり、いろんな国の方々と接し、数々の文化に出会ってほしい。そんなすべてが勉強なのだ、というメッセージを『♯すべてが勉強中』に込めています」
イキイキと輝いている様子や楽しさを伝えたいと学生の写真をそのまま使っているのだが、「彼らは撮るのが上手くて、作ったように見えてしまうほどクオリティの高い写真が多いのが想定外」と広報担当者は笑う。
旅行雑誌かと思うような写真
感動がリアルに伝わってくる
とにかくめっちゃ楽しそう!
確かに、空がきれいに写りこんでいたり、人物配置が絶妙だったり。SNSは、本当に彼らの身近なメディアだということがよくわかる。広報メンバーは学部の教員のように学生と密に接触しているわけではないので、物おじせずに向こうでの暮らしを楽しんでいる学生の姿をSNSで見て、ホッとした、とも語る。
さらに、入学を考えている高校生や保護者のもっと知りたいに応えるために、留学生活を取材するクルーを仕立てて、密着動画を撮影することにした。留学前の勉強や留学への意気込み、いよいよ出発の瞬間から到着後のドキドキ、留学先での勉強やアクティビティの様子など、学生の自然な表情や正直な気持ちをとらえた動画を順次ホームページにアップしている。
♯すべてが勉強中 スペシャルサイト
「広告を打つからには話題にならないと意味がない」というのが、広告における近大の基本的な考え方。近大らしさや改革力をアピールすることが大目標で、制作においては、大学名やロゴがなくても近大の広告だとわかるものをめざしているという。自然と拡散して広告そのもの以上の効果をもたらすのは、その結果だということだろう。
今年の新年には「早慶近」という新聞全15段の大学広告を打って、「近年の中では、一番反響が大き」かったという近大。大学の広告ってこういうもの、大学の序列とはこういうもの、などという固定化された常識をぶち壊していく近大のこれからに、ますます期待がふくらむ。
新年早々度肝を抜かれました
★取材こぼればなし
お話を聞いたのは、広報室の方も引っ越してきたばかりという新館でした。ミーティングスペースはなんとすべて魚の名前!広告だけでなくこんなところにも驚きがある近大、恐るべしです。
クロマグロの部屋が一番広く、入口にはこんなサインが