金沢工業大学が11月6日から11月23日までグランフロント大阪で行っている『[世界を変えた書物]展』。「世界を変えた」だなんて大げさに聞こえてしまうかもしれませんが、全くそんなことはありません。本当に世界を変えた書物ばかりが並ぶのがこの展示なんです。「え!それってすごいんじゃない?」と思われた方。そうです、すごいんです!大阪では初開催となった『[世界を変えた書物]展』の魅力をご紹介いたします。
[世界を変えた書物]展の主催校である金沢工業大学。学内のライブラリーセンターに設置された「工学の曙文庫」は科学的発見や技術的発見が最初に発表された初版本を中心に収集しています。その数なんと2000点あまり!
今回はその一部である稀覯書(きこうしょ)たちが展示されています。「稀覯書」とは極めて稀にしか見ることのない本のこと。定義として、少数しか残っていないことや制作が古い物であること、書物のデザインが美しく美術品的価値を持つことなどがあげられています。美術品的価値が必要とされるのは驚きですね…。本展示は会場全体を「知の森」と設定し、書物が持つ様々な魅力をあらゆる角度から味わえるように設計されています。来場者はこの「知の森」を旅する旅人となり、先へ進んでいきます。
本をかたどった入り口をくぐると、まず圧倒されてしまいます。本、本、とにかく本がいっぱい…! ここは「知の壁」と題され、金沢工業大学の学生が作成した本棚にびっちりと雰囲気ある本が並びます。この本、イミテーションではなく全て本物だというのだから驚きです。
そしてこのエリアでは主に建築書が展示されています。「建築書はデザインに優れたものが多く、イラストも繊細で美しいものばかりなんです」と監修をつとめた竺 覚暁(ちく かくぎょう)金沢工業大学教授。確かに繊細で美しい書物が並んでいて、ずっとながめていたくなります…。
「ラテン語より俗語に翻訳された十巻の建築書」/ウィトルウィウス(コモ 1521年 初版)
「歴史的建築」/ヨーハン・ベルンハルト・フィッシャー・フォン・エルラッハ(ウィーン 1721年 初版)
そして「知の壁」を抜けると「知の森」へ。今回のメインと言えるエリアです。入ってすぐ正面に大きなオブジェが。
「物理学や化学、天文学など多岐にわたる科学の分類ですが元をたどればアリストテレスの理論から出発するのです。これは今回展示している書物がどのように繋がっているのかを表しているんです。だから中心部にはアリストテレスの『ギリシャ語による著作集』があるんです」と竺教授。科学の祖と呼ばれたアリストテレス、そんな彼の書物ももちろん展示されています!
「ギリシャ語による著作集」/アリストテレス(ヴェネチア 1495-1498年 初版)
書物を解説してくださる竺教授
この「知の森」では分野ごとに進歩の過程を見ることができます。「この発見があったから、あの発見に繋がって、今の文明に至るのか」と書籍をたどることで簡単に理解することが可能です。例えば、電流が発見され、発電機が発明され、電気を使う文明である電話が発明される…その一連の流れに沿って書物が並んでいるのです。理系に明るくないわたしにも優しい展示方法です。
展示方法にはその他にもこだわりがみられます。本の装丁もしっかり見ることができるよう鏡が貼られているのです。装丁好きとしてはたまりません…! ちなみにとても好みの装丁だったのがコレ。
「ピッチブレンドの中に含まれている新種の放射性物質について」/ピエール・キュリー、マリー・スクロドフスカ・キュリー(パリ 1898年 初版)
[世界を変えた書物]展がはじめて大阪に進出! ということで特別展示も行われ、稀覯書12冊が展示されていました。
大阪展特別出展の稀覯書
「天文機械上巻」/ヨハネス・ヘヴェリウス(ダンツィヒ 1673年 初版)
会場にある本には中に書かれた内容はもちろんのことながら、装丁や活字の美しさ、初版であるという歴史的な価値があります。中々見ることのできない稀覯書の数々…。たっぷり見ることができておなかいっぱい。でもまだまだ終わりません!
最後に待ち受けるのは「知の変容」。金沢工業大学の学生が、展示された稀覯書から受けたインスピレーションを立体作品、映像作品としてアウトプット。これがまたすごいんです。こちらもちょこっとお見せします。
「降り注ぐ文字」/小池智之さん
一文字、一文字切り取られた文字の数々。作業工程を想像するだけで気が遠くなります。「本から飛び出た文字が雨となり降る。それがまた蒸発してまた降る。知識は巡り続けることを表しています」(小池さん)
「蝶の飛翔」/越森真衣さん
約2000匹に及ぶ蝶の大群。大小4種、形も3種あるそうです。展示の際に絡まないようにするのが大変だったと話してくださいました。「書物のなかの知識を蝶に例え、知識が世界中に飛び立っていく様子を表しました」(越森さん)
「集積し、反復する記憶」/渡邉麗香さん
真っ暗なスペースに浮かぶ一冊の本。これは映像作品となっていて、本をかたどった作品に文字が集積されていきます。そして落ちていく。地面を見ると、ちゃんと文字が落ちています。残念ながら作成者である渡邉さんのお話しは聞けませんでしたが、いつまでもその場に居たくなるステキな空間でした。
「知の変容」を出ればもう旅は終わり。何度見ても楽しめる空間になってますので、また最初から旅に出るのも良いかもしれません。
科学、工業を扱った書物ではありますが、ただただ本が好きだという方やグラフィックが好きな方、誰でも楽しめる展示になっています。
時間は夜8時まで(入場は30分前まで)と、お仕事帰りでも立ち寄れますし、土日祝には竺教授が見所や書物にまつわるエピソードを紹介するミュージアムトークが行われます。
行って損はないどころか、得しかない! そんな展示でした。みなさんもぜひ[世界を変えた書物]を自分の目でご覧になってください。