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  • date:2026.1.13
  • author:山田玲子

日本の研究開発の最前線! 産総研関西センターの一般公開イベントで科学技術をたっぷり浴びてきた

産総研という機関をご存知でしょうか。正式には「国立研究開発法人産業技術総合研究所」といって、社会の発展のため科学技術の研究開発などを行う、日本最大級の公的研究機関です。東京とつくばに本部があるほか、全国12カ所に拠点があります。
2025年11月8日、大阪府にある産総研関西センターで、イベント「一般公開2025−研究、論より体験。−」が開かれました。年に一度、産総研の敷地に入って、科学技術を体験できる貴重な機会です。小学生から社会人まで、誰でも参加できるということで、理系の知識に自信はないけれど、知らない世界を覗いてみたい好奇心で、参加してきました!


手のぬくもりも燃料に。環境に優しい熱電発電

チラシを見ると、ミニ講演会や研究室見学ツアーなど、さまざまなプログラムが行われているようです。まずは、小学1年生以上が対象のミニ講演会に参加しました。

 

材料基盤研究部門の舟橋良次さんが担当するミニ講演会のタイトルは、「地球にやさしく、災害時にも!熱電発電」。タイトルにある熱電発電とはなにかというと、温度差を利用して電力を生む発電法で、熱い空気と冷たい空気、熱湯と冷水、温かい体温と冷たい金属などから、電力をつくる方法だそう。
温度差さえあれば発電できるので、たとえば、工場や焼却炉で発生するムダな熱、いわゆる「廃熱」を利用することも可能。二酸化炭素排出量の削減が期待される、環境にやさしい発電技術です。

子どもの受講者も多数。わかりやすく解説してくださいました

 

舟橋さんは、より安全・安価で安定した熱電発電の実現をめざして研究を進め、これまでに、熱電発電の実用のために必要な耐久性の高い材料や、発電モジュール(部品)などを開発してきたといいます。ミニ講演会では、災害時の炊き出しの焚き火で発生した熱エネルギーを活用する発電鍋の実演もありました。

 

講演終了後には研究体験ブースの「手のひら発電に挑戦!」にも参加しました。展示されている装置を使って、自分の体温で電気を発生させたときには、「電気ができた!」と大興奮。すっかり熱電発電のとりこになっていました。

研究体験ブースの「手のひら発電」。温かい手と冷たい金属板の温度差で、電気が発生します

 

その後、あらためて舟橋さんにお話を伺ったところ、これからの熱電発電の可能性として、農業廃棄物を焼却するときの熱の活用について教えていただきました。というのも現在、スマート農業が注目されていますが、導入には電力が必要です。そこで、野菜の葉やツル、米のもみ殻などの焼却熱を活用することで、農地での発電が可能になるのではないか、というのです。

舟橋良次さん。熱電発電の幅広い可能性について語ってくださいました

 

熱電発電を知ると、私たちの身の回りには、熱がたくさんあることに気づかされます。「この熱は何かに使えるのでは」「この熱をムダにするなんてもったいない」と、妄想は膨らむばかり。そんな人は筆者だけではないようで、イベントなどを行うと、熱電発電の活用アイデアを語りに来られる方が何人もいらっしゃるそう。
「シンプルなので想像しやすいのか、皆さんたくさんアイデアを出してくださいます」と、舟橋さん。中には実現できるものもあるかもしれないと言います。
熱電発電が、地球規模の環境課題の解決に貢献するかもしれない。そんな気持ちになるお話でした。

 

ほわんと光るタンパク質。化学発光実験に挑戦!

続いて参加したのは、モレキュラーバイオシステム研究部門の星野英人さんによる研究室見学ツアー「天然発光クラゲの緑色発光を視てみよう!!」です。ツアー名のとおり、研究室にお邪魔してのプログラムで、クラゲが光るしくみなどを教わった後、発光実験に挑戦する、というものです。

 

自然界には光る生物がたくさんいます。たとえば、ヘイケボタルやウミホタル。これらの生物は体の中に、光を放つタンパク質(ルシフェラーゼ)と光をともす化学物質(ルシフェリン)をもっています。このタンパク質と化学物質が化学反応を起こすことで、光を発するしくみになっています。
同じ光る生物でも、オワンクラゲの光り方は、ヘイケボタルたちとはちょっと異なります。
オワンクラゲは、GFP(Green Fluorescent Protein)という、緑色に光る蛍光タンパク質をもっているのです。2008年のノーベル化学賞受賞で一気に世間に知れ渡りました。GFPの特徴は、化学物質を加えなくても光るところ。外から青い光を当てることで緑色光を放ちます。実は、自然界においてオワンクラゲ自身は外から光を受けて光るのではなく、自分の中に青く光るルシフェリンと発光タンパク質をあわせもち、エネルギーを効率よく使って自らの励起(※)でGFPを緑に発光させているといいます。
※原子や分子に外からエネルギーが与えることによって、エネルギーが低い状態から高い状態へと移ること。

 

さて、星野さんは、自然界の発光クラゲのGFPを緑色に光らせる仕組みを再現する「BAF(自己励起蛍光タンパク質)」という人工タンパク質を2007年に開発。さらに、このBAFを、セルロース繊維と結合できる小さなタンパク質と融合させることで、紙などに付着することができる「BAF-C-Link」という新しいタンパク質を完成させたのです。

星野さんがつくったGFPのリボン模型。青色光があたり、中央が発光する様子がわかります。※星野さん提供

GFPの蛍光と生体内での化学発光について教えていただいた後は、いよいよ実験です。
机の上には、1から6の番号が記された6つの小さな丸い紙片と、液体が入った小さな容器(微量遠心チューブ)があります。
ただの紙にしか見えない丸い紙には、実は、ルシフェラーゼ-C-Link(①)と星野さんが開発した5種類のBAF-C-Link(②〜⑤)が塗られています。そして、微量遠心チューブの液体は発光を促す化学物質セレンテラジンの水溶液です。

一見、普通の白い紙に見えますが……

 

実験道具とともにタンパク質の分子模型も置かれていました。緑色の模型が、緑色に光るタンパク質GFP。
白色はオワンクラゲの発光タンパク質イクオリン(各々異なる状態)。青色は、BAFで用いられているルシフェラーゼ(その中の黄色がルシフェリンの酸化体)。赤色は珊瑚由来の赤色蛍光タンパク質(RFP)です

 

参加者は実験用ゴーグルと手袋を身につけて、スポイトで水溶液を吸い取り、丸い紙に数滴ずつ落とします。これで化学発光反応が起こって、BAF-C-Linkが光り始めるはず。

セレンテラジン水溶液をスポイトで吸い取り、紙片へ。初めての化学実験にわくわく&緊張

 

明るい研究室ではよく分かりませんでしたが、電気を消してから見ると……6つの紙が光っています! 冴えた青色や温かみのあるオレンジ色など、暗闇にほわんと光る様子に見とれてしまいました。

白い紙(写真上)にセレンテラジン水溶液を落とすと、人工タンパク質「BAF-C-Link」が、暗闇で光りかります(同下)。左端からルシフェラーゼ単体(①)、その右隣2つが異なるGFP変異体を含むBAF-C-Link(②、③)、更に右側3つは同じRFPを有するが、構成が少しずつ異なるBAF-C-Link派生体(④〜⑥)です 。 ※星野さん提供

 

ご自身が生み出したタンパク質ということもあり、「今この実験を披露できるのは、世界でここだけです」と星野さん。自分の手で化学発光反応を起こして、めったに見られない光を灯すことに、ドキドキするひとときでした。

星野英人さん。BAF-C-Linkは、科学教材やセキュリティインクなどとして活用することが期待されると教えていただきました

 

リチウムイオン電池を超えろ! 次世代電池研究

午後に参加したのは、ミニ講演会「電池の現在・過去・未来」です。こちらでは、電池技術研究部門の石田直哉さんの話を聞きしました。

1990年頃から普及し始め、今や私たちの生活に欠かせないリチウムイオン電池は、軽くてパワフルで長もちである一方で、欠点もあります。
そのひとつは、コストが高いこと。材料であるリチウムやコバルトが希少なことに由来します。また、電池の内部を満たす電解液は燃えやすい素材でできているため、安全性に課題があり、大きな衝撃を受けたりすることで、発熱・発火につながることがあるといいます。

 

世界では、そんなリチウムイオン電池に代わる新しい電池の開発が行われています。
たとえば、電池内部に電解液ではなく固体の電解質を使う「全固体リチウムイオン電池」や、リチウムを使わない「ナトリウムイオン電池」などで、いずれも、少しずつ実用化が進んでいるとか。
産総研が開発をめざすのは、それよりもさらに次世代の電池。リチウム硫黄電池、フッ化物イオン電池、カルシウムイオン電池などを研究しているそうです。

 

石田さんに個別でお話を伺ったところ、研究しているのは、マグネシウムイオン電池というもので、「仮に実用化されるとしても、ずいぶん先になると思います。研究が実を結んで製品化されるまで、だいたい10から20年。市場で評価してもらうには、さらに20年かかるでしょうか。先の長い話ですね」

元々の専門は鉱物学だったという石田直哉さん。好きな鉱物はアメジスト

 

なお、リチウムイオン電池を開発した吉野彰さんがその研究を始めたのは、1980年頃。製品になって普及したのは1990年頃で、ノーベル化学賞を受賞したのは2019年。同じように、石田さんも未来に向けて研究に取り組んでおられるわけです。

リチウムイオン電池を開発した吉野彰さんは、産総研のゼロエミッション国際共同研究センター長!

 

科学技術の可能性とおもしろさを体感できるイベント

研究体験ブースもあり、立ち寄ったところ、たくさんの人がプログラムを楽しんでいました。

筆者は、「『滴(しずく)』のサイエンス」のブースで生物の構造を活用した技術を体験し、「見えないチカラを感じろ!放射線ラボ」のブースで放射線の軌跡を目撃! 話を聞くだけでも勉強になりますが、五感を使うことで、納得と感動の度合いが大いに増すように感じます。

「『滴(しずく)』のサイエンス」のブースでは、水を弾く葉の構造を模して撥水効果を施したガラスに、水滴を落とす実験にトライ

「見えないチカラを感じろ!放射線ラボ」は大阪科学技術館が出展。実験により可視化された放射線の軌跡を見ることができました

研究体験ブースの会場も老若男女でいっぱい。研究者の人生を体験するすごろくなどもありました

 

理系の知識に自信がない状態で参加しましたが、1日たっぷり楽しむことができました。会場にいる間は、科学技術がつくり出す10年後、20年後の素敵な未来を想像して、ずっとワクワクしていたように思います。「また参加したいな」と思いながら、会場を後にしました。

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