※舞台の写真はリハーサルの様子
京都の秋には、全国でも類を見ない珍しい学生演劇がある。それは、同志社女子大学英語英文学科の「シェイクスピア・プロダクション」。すべて原語(16世紀の初期近代英語)で上演し、公演は今年で68年目を迎えたとか…。一週間前のリハーサル、そして当日の公演の様子から、その魅力を追ってみた。
同志社女子大学シェイクスピア・プロダクションとは?
シェイクスピア・プロダクション(通称SP)とは、1951年に第一回公演を開催し、今年で68年目を迎える歴史ある学生演劇だ。はじめは課外活動として行われていたのだが、1975年に正規の授業となり、現在まで続いている。
SPは通年で開講されている授業であるが、実は舞台上演まで2年の月日をかけて準備する。まず3年次に上演作品を一年かけて精読し、同時に原語での音声表現研究も行う。4年次に入るとキャストのオーディションを教員学生全員で行い、11月の本番に向けて舞台制作を進める。
この授業の特徴を公演本番の一週間前、ディレクターであり英語英文学科准教授の辻英子先生とSPに参加する学生さんに聞くことができた。辻先生に伺うと、「SPは一授業でありながら、おもしろい存在です。この授業を通して、英文学の知識も、英語の音声表現能力も身につきます。そして、語学学習の枠を超えてリーダーシップや連帯感といった人間形成に関わる教育も含んでいると思います」と話しており、数ある同志社女子大学の授業の中でも特別な存在であることがわかる。
「SPの授業は、学生から高い授業評価を受けています。これは4年次以降、学生が主体となって舞台を運営する、こうした学びのあり方が評価につながったと思います」SPの活動について熱く語る辻先生。
SPに参加したくて入学する受験生も!?自分たちが手がけた『冬物語』への思い。
続いて、3名の学生さんに第68回SP『冬物語』の大変だった所や見どころを語っていただいた。
赤田さん(AD:アシスタントディレクター)「今年のSPは総勢41名のうち、キャストが27名と、例年に比べて多いです。また、前半は悲劇、後半は喜劇という構成で演出にも苦労しました。ゼミや就活とSPが重なり、多忙でメンタル面が大変な時もありましたが、SPのメンバーに会うとみんなの笑顔で疲れが吹っ飛ぶんです(笑)。今は、SPの成功に向けて一直線にがんばってます!」
ADの赤田さん。SPとの出会いは、オープンキャンパスだったとか。キャストだけでなくスタッフ一人ひとりがやりがいを持って感動の涙を流しているところに心を打たれSPを受講すると決めたそう。
佐藤さん(Committee:渉外・広報)「私たちが着ているジャンパーやポスター、パンフレットの制作などを行っています。特にこのパンフレットはみんなで案を集めて業者さんと話しながら何度も直して作りました。こだわりは表紙のデザイン。舞台を見終わった後、そういうことだったんだなとわかっていただけるように制作しました」
蒲田さん(レオンティーズ役)「私の役は、シチリア王のレオンティーズです。この役は感情の起伏や変化が激しくそれを表現することがとても大変でした。前半の嫉妬、悲しみ、後半のハッピーエンド。その感情の幅をぜひ本番で見ていただきたいです」
レオンティーズ役の蒲田さん。記者会見では本番の衣装でお話しいただいた。蒲田さんの台詞量は他のキャストの3倍はあるとか。
そして本番!・・・という前に。上演作品シェイクスピア作『冬物語』について簡単におさらい。
作品前半の舞台は冬のシチリア島王宮。シチリア王レオンティーズとその妃ハーマイオニ、そして親友のボヘミア王ポリクシニーズが歓談する場面から始まる。親友と9ヶ月もの間、シチリア王宮で過ごしたポリクシニーズ。そろそろ自国のボヘミアへ帰ろうとしたところ、レオンティーズとハーマイオニに留まるように説得される。2人から熱意ある説得によりポリクシニーズが留まることに応じたのだが、突然レオンティーズの様子が豹変する。
その原因は愛妻ハーマイオニと親友ポリクシーズの不義の疑い。実はそのようなことは無いのだが、レオンティーズの心は嫉妬で覆い尽くされていく。ついには、大切な子ども、親友、そして愛する妻を失うことに。なぜ、そのようになってしまったのか・・・舞台は悲しみに包まれ幕が下りる。
劇前半の終盤。王自らの誤りを認め贖罪をするも時すでに遅し。大切な物をすべて失い、うなだれるシチリア王レオンティーズ。
後半、時(タイム)という役が唐突に16年の月日が過ぎたことを告げる。舞台は変わってボヘミア。季節は夏、前半とは打って変わって、明るく賑やかな様子も対照的。ボヘミアの王子フロリゼルは羊飼いの娘パーディタ(実は生き延びて羊飼いに育てられたレオンティーズとハーマイオニの娘)に求婚するが、身分が違いすぎるため、父ボヘミア王ポリクシニーズに反対される。そこで2人が取った行動は、なんとシチリアへ渡ることだった。
そして、シチリア王レオンティーズの前に現れた、王子フロリゼルとパーディタ。この若い幸せな二人が16年の時を経て、奇跡を起こす。
上演はすべて16世紀の英語。しかし・・・なぜだかわかりやすい!
SPの公演のもっとも大きな特徴と言えば、原語(16世紀の初期近代英語)での上演だろう。原語上演と聞くと少し難解なイメージ・・・でも、劇の決めセリフでは笑い声も。学生たちが考えた、古典英語を一般の観客にわかりやすく伝える仕掛けをお伝えしたい。
まず日本語字幕について見てみる。SPでは1993年より日本語字幕を導入した。会場では、舞台の両端にスクリーンを用意し、演技にあわせて日本語訳を投影していた。文章はすべて学生が考えており、簡潔で読みやすい言葉が使われている。演技に集中しつつ、内容理解を助ける、絶妙な分量で観劇を支えた。
客席一杯の会場。左右のスクリーンには、学生が翻訳した日本語字幕が投影される。劇中では、「ハンパないって」「ゲス不倫」「忖度」など話題の言葉がちらほら・・・。
そして、なんと言ってもキャストの迫真の演技。
レオンティーズ役の蒲田さんの他にも、美しい王妃ハーマイオニ、親友ポリクシニーズ、聡明なポーライナ、忠義を誓うカミロー、花の娘パーディタと王子フロリゼル、羊飼いの親子などなど、個性豊かなキャラクターが飽きさせる暇を与えないほど輝いていた。
愛する妻ハーマイオニの裏切りに嫉妬の心で燃えさかる様子。「Too hot! Too hot!(仲が良すぎる!なぜだ!)」レオンティーズは劇中何度も表情が変わる。
また来年も見てみたい。そう思えるほどの舞台。
同志社女子大学のシェイクスピア・プロダクションは、68年という歴史とスタッフキャストの舞台への愛が作りだした他に例のない学生演劇である。私は演劇文化、古典英文学の世界に明るくないが、とても楽しむことができた。これを読んで興味を持った方は、ぜひ来年のSPに足を運んで見てほしい。SPのキャストとスタッフはどんな人にも楽しむことができる、すばらしい舞台を用意し待ってくれているだろう。