今年の干支は、寅(虎)! 虎といえば、どんなイメージがありますか。アートや文学、スポーツの世界でも、虎にまつわる作品やアイテムは多々存在します。慶應義塾ミュージアム・コモンズ(通称KeMCo)で開催されている「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」は、そんな今年の干支にちなんだ「虎」づくしな展示会。絵画や詩、機械など、さまざまなジャンルの「虎」を展示。学生がつくった虎とデジタルを融合した体験型企画も同時開催しています。
虎にまつわる展示会なのに、なぜか「雷様」や「戦う武将」の絵画もある……そんな「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」をレポート!
※KeMCoオープン企画展の様子も取材させてもらっています。くわしくはコチラ
KeMCoで開催された「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」
左側手前の白い建物がKeMCo。写真奥には慶應義塾大学の東門や東京タワーが見えます。
開催場所のKeMCoは、2021年に慶應義塾大学 三田キャンパス東別館内にオープンした、慶應義塾初の博物館。この施設ができて初の新年を迎えスタートした企画が「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」です。来年以降も新春毎に、干支にちなんだ展示会の開催を予定しているそうです。来年も、要チェックですね!
5つのカテゴリーにわかれて展開
入り口から撮影。写真の右側から「道具に棲む虎」「物語に棲む虎」「装いに棲む虎」「図譜に棲む虎」。そして写真に写っていませんが入り口右側には「詩に棲む虎」のカテゴリーにわかれています。
入り口から入り、左奥から撮った展示会場。奥に見えるのが「詩に棲む虎」のエリア。
KeMCoは学生や近所の人たちが、緩やかなルールのもとに楽しめる「空き地的な場所」でありたいというコンセプトのもと生まれた施設。そのため「KeMCo新春展2022 虎の棲む空き地」という展覧会名やカテゴリー名も、空き地を意識しているそう。それぞれのカテゴリーから興味を持ったものをピックアップしてご紹介します。
〈詩に棲む虎〉
入り口すぐにある「詩に棲む虎」のエリア。右側中央にある広げられた色紙帖は「十二支歌仙歌合色紙帖」。奥のスクリーンでは、虎をモチーフにした舞踏の様子が映し出され、その下の展示ケースには、虎について書かれた土方巽「舞踏譜スクリプトシート」などが展示されています。
入り口右側にある「詩に棲む虎」エリア。この中で気になったのは「十二支歌仙歌合色紙帖」です。天神様と崇められている菅原道真が時刻の「子丑寅……」にちなんで詠んだうたとともに、十二支が描かれています。
ちなみに「十二支歌仙歌合色紙帖」は、うたを競い合う「歌合」なので、虎はウサギと競い合っているそうですよ!
擬人化した虎が描かれています。「十二支歌仙歌合色紙帖」江戸時代前期(17世紀)、慶應義塾(センチュリー赤尾コレクション)
虎の左側には、干支の並びに従い擬人化された「ウサギ」の姿。ちなみに虎の右側では、擬人化された「ウシ」がうたを詠んでいます。
虎は銀が黒くなっていて少々見えにくいのですが、よく見ると舌をペロッと出しているんです。個人的には、舌を出した虎の表情が最高にかわいくて、とても気に入りました。同時に舌を出すという行為は、虎の持つ「獰猛」「強者」とは親和性の薄いイメージ。虎の別の側面を感じた気がしました。
〈道具に棲む虎〉
「道具に棲む虎」のエリア。手前のブースが古鏡等、中央が陶器、壁側にはタイガー計算機。
道具に棲む虎のエリアには、古代から現代まで時間をワープするように「物」に棲む虎が展示されています。とくに興味をひいたのは、「四神十二支文鏡」です。
「四神十二支文鏡」 唐時代(7世紀)、慶應義塾(センチュリー赤尾コレクション)
中央にある紐を通す丸い凸部分の真下(6時の方向)に描かれているのが白虎です。今回は虎にまつわる展示会なので、白虎が正面に見えるように展示されています。ちょっと尻尾の長い猫のようにも見える白虎でした。
唐時代の鏡と一緒のエリアに、タイガー計算機が並ぶセレクトが面白い!
「タイガー計算機」1957年、慶應義塾ミュージアム・コモンズ
〈物語に棲む虎〉
「熊野権現縁起絵」江戸時代前期(17世紀)、三田メディアセンター(慶應義塾図書館)
「熊野権現縁起絵」の中央に出てくる人間の子供(王子様)を、獣たちが守り、子供は森の中で成長していくという物語の1シーンが描かれているそうです。
ちなみに人間の子供に花をあげている、青い装いの獣が虎。
この浮世絵の中に描かれている虎が、ポストカードにもなっています。こんな愛らしい虎なら仲良くなりたいものです。
「熊野権現縁起絵」の虎を切り抜き、ポストカードにしたもの。館内にあるので要チェック!
〈装いに棲む虎〉
「装いに棲む虎」エリア。写真右は「幼稚舎ラグビー部ユニフォーム」2000年代、個人蔵
「装いに棲む虎」エリアだというのに、なぜか雷様の姿が描かれた「雷」の掛け軸を発見。一体、どこに虎が隠れているのでしょうか。
小林清親「雷」明治時代(19世紀末–20世紀初)、慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻。小林清親の肉筆画
「黄色と黒のしま模様といえば、鬼のパンツ。鬼のパンツも、虎の毛皮からできています」と教えてくれたのは、博物館を案内してくれた慶應義塾ミュージアム・コモンズ 専任講師 松谷芙美さん。
まさかの鬼のパンツつながりとは!
「虎の毛皮は舶来物で貴重だったため、武将の太刀のさやを覆う尻鞘(しりざや)や、馬に乗るときに使う鞍の下に敷く鞍褥(くらしき)にも虎の皮は使われていました。豊臣秀吉も虎を愛用していたんです」
「小敦盛」室町時代末~江戸時代初(16–17世紀)、三田メディアセンター(慶應義塾図書館)
まさか虎から鬼のパンツや武将、秀吉に飛ぶとは思いもせず、ビックリ。正直なところ、虎の絵などが展示されている一般的な展示会と思っていたのですが、さまざまな角度から「虎」が、想像力をビシビシ刺激してくれます。
次のエリアではどんな発見があるのでしょうか?
〈図譜に棲む虎〉
「図譜に棲む虎」エリア。写真左側に孤立して設置されたケースには、コンラート・ゲスナーの『博物誌』。
最後は「図譜に棲む虎」。図譜に描かれた虎に関する資料が集められています。右側のケース内には、中国の詩経に出てくる動植物を解説した図譜が複数展示。実在する虎と、虎に似た白い珍獣「騶虞(すうぐ)」などが一緒に描かれている点が特徴的です。
左側のページが虎、右側には珍獣「騶虞」。挹芳斎国雄(画)北村四郎衛ほか(刊行)「毛詩品物図攷 獣虫魚部 五之七」天明5年(1785)刊行、個人蔵
壁側には、鎖国が終わり開国したことで英語が身近になってきたことがうかがえる、今でいうアルファベット表のようなものもありました。当時は、絵とともに英語を伝えるこのような浮世絵が、たくさん刷られたそうです。
歌川広重(三代)(筆)、福田熊次郎(版元)「英語図解 11」明治20年(1887)3月15日届、三田メディアセンター(慶應義塾図書館)ボン浮世絵コレクション
中でも興味をひいたのは、歌川芳虎の「〔英語図解(ローマ字イロハ入)〕」。獅子(左側の絵)のとなりに、うちわの絵が描かれているなど、秩序があまり感じられない並びで、見ていて飽きません。
歌川芳虎(筆)万屋孫兵衛(版元)「〔英語図解(ローマ字イロハ入〕」明治時代(19世紀後半)、三田メディアセンター(慶應義塾図書館)ボン浮世絵コレクション
ちなみに虎は、左側の絵の右下に描かれていますが、綴りが「ATIGER」となっています。その他にも、同じ絵の左上のほうに「FUR」(「毛皮」の意)と英単語が書かれた箇所に虎の皮がペロンと1枚だけ描かれています。
「大学の所蔵品から、なるべく古いものから現代のものまで、さまざまなジャンルのものを集めました。普段ならとなりに並ばないものが、横に展示されています。『ほかにも虎はいないかな?』と探してくれたら嬉しいですね」
と松谷さんが言うように、本当にいろいろな角度から虎の知識が得られて楽しい本展示でした。
KeMCoM Project「虎×デジタル」
本展示を楽しんだあとは、ぜひ寄ってもらいたいのが、学生ならではの斬新な視点から、文化や芸術などの新しい可能性を探求する「KeMCoM Project」として開催されている、虎とデジタルを融合した体験型企画です。本展示のとなりのフロアで開催中です。
フロアの中央にある、KeMCoM Project「みんなの書き初め」コーナー。KeMCoM(@kemcomembers)のインスタでは、学生たちがつくったフィルターがもらえます。
大きく分けて「コンテスト」と「おみくじ」、そして「書き初め」の3つが楽しめる企画です。すべてKeMCoM Projectの、所属を超えた慶應義塾の学生たち(通称KeM CoM)が集まって考えだしたものというから驚きです。
まずは入り口左側にあるエリアへ。大きなモニターには学生たちが描いた虎のイラストがふわふわと動いていました。
モニターには、学生が描いたたくさんの虎のイラストが浮かぶ。
ここでは、虎のアクリルキーで気に入ったイラストに触れると、イラストに対して「清き一票」が入れられるという、ちょっと変わったスタイルの「イラストコンテスト」が開催していました。タッチすると、自動で日集計されるそうです。このシステムも、学生たちが考えているとのこと。すごい技術です! 私も虎のイラストに1票入れさせてもらいました。
虎のアクリルキーの尻尾部分を動物のイラストにタッチするとイラストに投票できるシステム。
続いては「虎みくじ」のコーナーです。筆者もトライしてみました。虎のアクリルキーの尻尾部分で、虎のイラストをタッチすると画面が変わり、おみくじの結果がモニターに表示されます。
筆者の結果は、なんと凶!
今年初のおみくじだったのですが、まさかの凶で唖然。
イラストコンテストと同様、虎のアクリルキーでタッチすると「虎みくじ」が引けるシステム
「凶」の紙には、源俊頼朝臣の句が。
おみくじをすると、もれなく引いたくじに準じて、百人一首の句が記された紙をもらえます。凶から大吉まで各3パターンずつ、違う句が用意されているそうですよ。筆者のように、残念なおみくじを引いた人でも、気持ちが切り替えやすい句を選んでいるのだとか。ありがたいです!
最後は書き初めに挑戦! 「虎」に関する書き初めを行い、それをスキャンしてネットにアップし、気に入ったものがあれば「いいね」を押して楽しむという「虎×アナログ×デジタル」な企画。「虎」というしばりがあるだけで、書き初めの内容はどんなものでもいいそうです。
フロア奥のスクリーンには、「みんなの書き初め」に参加した人たちの作品が映し出されていました。
こちらのURLにアクセスすると、みんなの投稿が見られる画面にアクセスでき「いいね」が押せる仕組み。
日頃、虎について考えたことのない筆者にとって、虎の書き初めはけっこう難儀でしたが、できあがりはこちら。
虎を描いた書き初め。
筆者は4児の母なので、4匹の子虎くんに愛を贈っている絵となっています。気に入った作品があれば、「いいね」を押して楽しもう! という企画なので「ぜひ、清き一票を」と言いたくなる、帰宅してからも楽しめる展示会でした。
ハンコは日付け入りなので、入場記念にも。
テーブルには、日付け入りのハンコも。このハンコは、同建物の別階にあるクリエイション・スタジオ「KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)」の3Dプリンタで出力してつくられているそうです。毎日、日付を変えてつくっているので、行く都度、ちがう楽しさがあります。
ミュージアムで鑑賞する「虎」というと、屏風絵に代表される限られたイメージがほとんどでした。視野を広げると世の中にはいろいろな「虎」が潜んでいることに気づかされました。ユーモラスだったり、愛らしかったり。行って楽しめ、帰宅してからも自分の書き初めの「いいね」具合を見守れる、楽しい展示会でした。